著者
佐藤 美香子 五十嶺 伸二 境田 康二 金沢 剛 水嶋 知也 後藤 眞里亜 花上 和生 比留間 孝弘
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.39-42, 2010-01-01 (Released:2010-07-30)
参考文献数
13
被引用文献数
1

劇症分娩型A群レンサ球菌感染症は,経過が特に急激であり,母子ともに不幸な転帰をたどることが多い。妊娠早期における本症の1救命例を経験したので報告する。患者は34歳女性。嘔気,下腹部痛を主訴に他院より紹介となった。来院後,排尿時に妊娠15週前後の胎児を娩出した。直ちに子宮内容除去術を施行したが,術後数時間で敗血症性ショック,多臓器不全となり集中治療を開始した。膣培養よりA群レンサ球菌が検出され,劇症分娩型A群レンサ球菌感染症と診断し,アンピシリン,クリンダマイシンの投与を開始した。第38病日には合併症なく退院となった。本症の報告例はほとんどが妊娠後期であり,救命例は少ない。今回救命できた要因としては,妊娠週数が早く,結果的に感染巣の除去となる子宮内容除去が迅速に施行されたことと,早期から集中治療が行われたことが考えられる。産科領域における敗血症では,経過が急激である本症も考慮する必要がある。
著者
射場 敏明 和田 英夫
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.177-184, 2012-04-01 (Released:2012-10-01)
参考文献数
37

ICUにおける静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism, VTE)予防を目的とした抗凝固療法は,海外では標準治療とされている。しかし本邦では,未だ十分に普及しているとはいえない。普及を妨げている要因の一つは,使用される未分画ヘパリンやワルファリンの出血リスクや調節性の問題であるが,現在はこれらの欠点を改善した薬剤が開発されている。低分子量ヘパリンであるエノキサパリンと活性化凝固第X因子(Xa)阻害薬であるフォンダパリヌクスは,ともに血中濃度が安定し個体差が少なく,半減期が長いために1~2回/dayの皮下投与が可能である。しかし半減期が長い点については,一旦出血した場合には対応に苦慮することにもなる。これらのアンチトロンビンを介する間接的Xa阻害に加えて,直接Xaを阻害する新薬の開発が精力的に進められており,これまでのところ良好な成績が報告されている。これらの新薬を加えて,ICUにおけるVTE予防は新時代を迎えようとしている。
著者
中村 勝己
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.497-502, 2008-10-01 (Released:2009-04-20)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

1999年に都立広尾病院の点滴への消毒液混入事件,横浜市立大学附属病院の患者取り違え事件が起こって以降,現在に至るまで,医療裁判にとってこの10年は激動の10年であった。そして,医療の崩壊が顕在化してきた10年でもあった。この10年を医療裁判という観点から振り返る。そして,医療の不確実性の理解が,今後10年間の医師・患者関係のキーワードになっていくように思われる。
著者
朱 祐珍 小尾口 邦彦 福井 道彦 新里 泰一 阪口 雅洋 板垣 成彦 稲見 直子 藤原 大輔
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.47-50, 2013-01-01 (Released:2013-04-23)
参考文献数
11

症例は66歳,女性。2型糖尿病でメトホルミン内服中であった。酒石酸ゾルピデムの大量内服後に乳酸アシドーシスを発症しICU入室となった。入室後,輸液などによるアシドーシス補正中に胸痛を訴えた。超音波検査で心尖部の収縮低下を認め,たこつぼ心筋症が疑われた。第4病日には壁運動異常は著明に改善し,たこつぼ心筋症と診断した。経過良好で第9病日にICU退室となった。メトホルミンによる乳酸アシドーシスは,稀だが致死的な合併症である。本症例においては酒石酸ゾルピデムの大量内服による低酸素状態がメトホルミンによる乳酸アシドーシスを発症する契機の一つとなった可能性が考えられた。また,アシドーシスによる身体的ストレスや自殺企図にまで至った精神的ストレスによって,たこつぼ心筋症を続発したと考えられる。
著者
小竹 良文
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.11-16, 2012-01-01 (Released:2012-07-10)
参考文献数
20

人工呼吸器関連肺炎の病態には,気管チューブ周囲からのマイクロアスピレーションおよび気管チューブ表面のバイオフィルム形成が深く関与している。人工呼吸器関連肺炎を予防するための手段として,定期的なカフ圧の調節,声門下吸引などの手段がガイドラインなどにも取り上げられている。さらに,カフ素材および形状の変更,気管チューブ表面の抗菌薬コーティングなどの有用性が報告され,実際に臨床使用が可能になりつつある。
著者
日本集中治療医学会JRC蘇生ガイドライン2015 ALS部門作業部会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.151-183, 2017-03-01 (Released:2017-03-16)
被引用文献数
3

成人心拍再開後の集中治療および予後評価における改訂の要点(学会担当分)を示す。心拍再開後の集中治療【呼吸管理】酸素化に関して,低酸素症の回避を推奨し,高酸素症の回避を提案する。また,心拍再開(return of spontaneous circulation, ROSC)後,動脈血酸素飽和度または動脈血酸素分圧が確実に測定されるまでは100%吸入酸素濃度の使用を提案する。PaCO2に関してバンドル治療の一部としてPaCO2を生理的な正常範囲内に維持することを提案する。【循環管理】バンドル治療の一部として循環管理の目標(例:平均血圧,収縮期血圧)設定を考慮することを提案する。【体温管理療法】ROSC後に刺激に反応がない場合は,体温管理療法の施行を推奨/提案し,体温管理療法を行わないことには反対する。体温管理療法は,初期ECG(electrocardiogram)波形が電気ショック適応の院外心停止に対しては推奨し,初期ECG波形が電気ショック非適応の院外心停止および全ての初期ECG波形の院内心停止に対しては提案する。体温管理療法施行時には,32~36℃の間で目標体温を設定し,その温度で一定に維持することを推奨する。体温管理療法を施行する場合は,維持期間を少なくとも24時間とすることを提案する。ROSC直後,急速な大量冷却輸液による病院前冷却をルーチンには行わないことを推奨する。体温管理療法終了後も昏睡状態が遷延している場合は発熱を防止し治療することを提案する。【てんかん発作の管理】てんかん発作の予防をルーチンには行わないことを提案する。てんかん発作の治療を推奨する。【血糖管理】標準的血糖管理プロトコルを変更せず適応することを提案する。 予後評価【低体温による体温管理療法が施行されたROSC後昏睡患者の予後評価】ROSC後72時間以前に臨床所見のみで予後を評価しないよう提案する。鎮静や筋弛緩の残存が疑われる場合は,臨床所見を継続して観察することを提案する。 それにより予後評価の偽陽性を最小化することができる。単一の検査または所見のみを信用することなく,多元的な検査(臨床所見,神経生理学的な手法,イメージング,あるいは血液マーカー)を,予後評価のため使用することを提案する。予後不良を評価するには,ROSCから少なくとも72時間以後において,両側対光反射消失,もしくは両側の瞳孔および角膜反射消失を使用することを推奨する。予後不良を評価するためにROSCから少なくとも72時間後に計測された短潜時体性感覚誘発電位(short latency somatosensory evoked potential, SSEP)のN20波の両側消失を使用することを推奨する。予後不良を評価するために,BIS(bispectral index)の使用を避けるように推奨する。【体温管理療法を施行していないROSC後昏睡患者の予後評価】ROSC後72時間以降における対光反射消失を予後不良の評価に用いることを推奨する。ROSC後から72時間以内でのSSEP N20波の両側消失を,予後不良の評価に用いることを推奨する。
著者
日本集中治療医学会社会保険対策委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.431-434, 2013-07-01 (Released:2013-08-09)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

日本集中治療医学会社会保険対策委員会は,診断群分類に基づく診療報酬支払制度における関連データを用いてICUの収入と原価を算出比較し,現在の診療報酬制度の下では基本的に原価割れ状態にあることを明らかにしてきた。今回,生命維持装置(人工呼吸器,血液浄化装置)の使用の有無ならびにICU在室日数に着目して比較検討した。その結果,本邦では特定集中治療室入室患者の約9割が7日以内に退室し,在室日数が長いほど支出超過が増大すると共に,生命維持装置を用いた診療の有無がICU収支の原価割れに大きく影響していることが判明した。今後は本邦における特定集中治療室の層別化に加え,診療プロセスの視点を含めたより適正な診療報酬体系を構築する必要がある。
著者
竹田 雅彦 中田 孝明 織田 成人
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.5-11, 2019-01-01 (Released:2019-01-01)
参考文献数
49

サイトメガロウイルス(cytomegalovirus, CMV)感染は,免疫不全患者だけではなく正常免疫能を持つ重症患者にも発生し,人工呼吸管理期間,ICU滞在期間,入院期間の長期化や不良な生命転帰と関連する。近年,正常免疫能の重症患者に対するCMV感染予防の有効性を問うRCTが行われるなど,活発な研究が行われている注目の研究領域である。現時点では,正常免疫能の重症患者に対する抗ウイルス薬の予防投与は,CMV再活性化が抑制されるが死亡率などの転帰の改善を認めず,抗ウイルス薬は副作用も多いことから,推奨されるに至っていない。また近年,造血機能障害や腎毒性などの副作用が少ない新規抗ウイルス薬の研究報告がなされている。今後,集中治療領域におけるCMV感染に関する多くの知見の発表が予測されるため,集中治療領域におけるCMV感染に関し注目していく必要がある。
著者
日本集中治療医学会危機管理委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.119-125, 2011-01-01 (Released:2011-07-20)
参考文献数
2
被引用文献数
1 2

各施設の集中治療室における災害に対する対応について,調査を行った(2009年8月時点)。その結果,以下の点が明らかとなった。(1)停電,水,ガスなどのライフラインの備えは,多くの施設で取られている。(2)地震などに備えた医療機器の固定設置,蘇生用具の準備もなされている。(3)災害時の指揮命令系統は,ほとんどの施設でマニュアル化されている。しかし,周知徹底されているかは不明である。(4)ICUに特化したマニュアルを作成している施設は少なく,また,災害訓練を行っている施設は半分に満たない。(5)インフルエンザ・パンデミックなどの危機的感染症に対しては,今後,対策を練るべく議論する必要があると思われた。