- 著者
-
藤島 清太郎
- 出版者
- 一般社団法人 日本救急医学会
- 雑誌
- 日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.10, pp.819-827, 2010-10-15 (Released:2010-12-04)
- 参考文献数
- 40
急性肺損傷(ALI),急性呼吸促迫(窮迫)症候群(ARDS)は,種々の原因や基礎疾患に続発して急性に発症し,その原因が心不全,腎不全,血管内水分過剰のみでは説明できない肺水腫の総称である。病理学的にはびまん性肺胞障害(DAD)を呈し,病態生理学的には,肺胞領域を中心とした好中球主体の急性炎症と,肺胞上皮細胞,血管内皮細胞の傷害,および肺微小血管透過性の亢進を認める。本症候群の診断においては,Bernardらによるアメリカ胸部疾患学会とヨーロッパ集中治療医学会の合意会議(American European Consensus Conference; AECC)の定義が標準的であるが,その他にもMurrayらの拡大定義などが用いられる。これらの臨床的診断基準は比較的簡便で,とくにAECCのものは診断感度が高いが,特異度は十分に高くなく,類似病態の除外に留意を要する。すなわち,静水圧性肺水腫,各種呼吸器感染症,好酸球性肺炎(AEP),びまん性肺胞出血(DAH),特発性器質化肺炎(COP, BOOP),剥離性間質性肺炎(DIP),過敏性肺臓炎(HP),膠原病肺,リンパ脈管筋腫症(LAM),肺血栓塞栓症(PE),悪性腫瘍,急性拒絶反応,薬剤性肺障害などとの鑑別が必要である。鑑別診断を行う上で肺生検が最も正確と思われるが,現実的な選択枝とはなり難く,これに代わる実用的な検査手段として気管支肺胞洗浄(BAL)が重要である。ALI/ARDSの基礎・原因傷病としては,直接傷害として有毒物質の吸入,細菌性肺炎などの重症呼吸器感染症,誤嚥性肺炎,脂肪塞栓症候群(FES),肺挫傷など,また間接障害として敗血症を含む重症感染症など様々なものがある。したがって,これらに続発して発症するALI/ARDSの病態も多様であり,基礎・原因傷病ごとに最適な治療法が異なる可能性がある。