著者
柿本 彩七 瀧 景子 中島 徹夫 王 冰 田中 薫 VARES Guillaume 呉 健羽 酒井 一夫 齋藤 俊行 小島 周二 月本 光俊 根井 充
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.99-110, 2008 (Released:2008-03-06)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

放射線適応応答は,予め低線量放射線(priming dose)を照射しておくことで,その後の中・高線量放射線に対する抵抗性を獲得する生体の防御的反応である。放射線適応応答は,低線量放射線が中高線量放射線とは質的に異なる影響を生体に及ぼすことを意味しており,低線量放射線のリスクを評価する上で重要な生命現象である。本研究では,ヒトリンパ芽球由来細胞AHH-1におけるHPRT遺伝子座突然変異を指標とした放射線適応応答の分子機構を解析した。まず,3GyのX線照射後のHPRT遺伝子座における突然変異頻度が0.02Gyから0.2Gyのpriming dose照射によって有意に低下することを観察した。一方,0.005Gyの事前照射では有意な適応応答が観察されなかったことから,priming doseの下限が0.005Gyと0.02Gyの間にあることが示唆された。次に,poly(ADP-ribose)polymerase 1の阻害剤である3-aminobenzamide(3AB)は染色体異常を指標とした放射線適応応答を阻害することが報告されているが,本研究では3AB存在下でも突然変異を指標とした場合に有意な適応応答が観察された。このことから,細胞の違いに原因がある可能性は排除できないものの,指標によって異なるメカニズムが機能していることが示唆された。更に,HiCEP(high coverage expression profilling)法を用いて遺伝子発現変化の網羅的解析を行った。その結果,0.02Gy照射6時間後に有意に発現変動する遺伝子17個が検出された。また,priming doseがchallenge doseに対する応答に影響している可能性を考えて,3Gy照射後3時間及び18時間における遺伝子発現を0.02Gyの事前照射をした場合と照射しない場合で比較した。その結果,3Gy照射後3時間では17個,18時間では20個の遺伝子の発現変動が観察された。遺伝子の機能検索を行った結果,MAPキナーゼを介する細胞内情報伝達関連遺伝子や酸化還元関連遺伝子等が放射線適応応答に相関して発現変動していることがわかり,放射線適応応答の一因を担う可能性が考えられた。
著者
田野井 慶太朗 斉藤 貴之 岩田 直子 大前 芳美 広瀬 農 小林 奈通子 岩田 錬 中西 友子
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.299-304, 2011 (Released:2011-08-29)
参考文献数
9
被引用文献数
6 6

著者らは,入手が困難である28Mgを製造,精製し,イネの根によるMg吸収解析を行った。純アルミニウム箔に,27Al(α,3p)28Mgの核反応を試みて28Mgを製造した。カラム精製を経た後,およそ1MBqのキャリアフリーの28Mgを得ることができた。この放射性同位元素を用いてイネの根のMg吸収速度を算出した。すなわち,0.1mM及び5.0mMのMg濃度の溶液に28Mgを加え,そこに根を15から30分間浸すことで28Mgを吸収させた後,28Mgを画像として検出した。得られた画像よりイネの根から吸収されたMg量を定量した結果,溶液が5.0mMの条件下におけるMg吸収速度は,0.1mMの場合よりも6から7倍大きいことがわかった。更に,溶液のMg濃度を0.025~10mMの9段階に設定したところ,溶液のMg濃度が低い時ほど根のMg吸収能力は高まった。以上から根は溶液のMg濃度が低い場合には,Mgを能動的に吸収する機構を有することが示された。
著者
田野井 慶太朗 橋本 健 桜井 健太 二瓶 直登 小野 勇治 中西 友子
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.317-322, 2011 (Released:2011-08-29)
参考文献数
4
被引用文献数
11 14

著者らは,2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質の麦への蓄積様式について,γ線放出核種の同定及び分布について明らかにした。5月15日のコムギについて核種分析したところ,134Csと137Csが検出され,これらを足した放射性セシウム濃度は,枯葉で約284500Bq/kgと穂の約300Bq/kgと比較して約1000倍と突出して高い値であった。次に,5月26日のコムギについて,各葉位,穂及び茎に分けて同様に測定したところ,放射性セシウム濃度は,事故当時既に展開していた葉において高く,事故後展開した葉も含め,古い葉の順に高い値であり,穂が最も低い濃度であった。これら放射性物質の分布を可視化したところ,既に展開中の葉においてスポット状に強いシグナルが観察された。これらの結果から,事故時展開していた葉で高濃度に検出される放射性物質は,放射性降下物が直接付着したものが主であることが示唆された。一方で,事故時展開していなかった葉においても,古い順に放射性セシウム濃度が高かったことから,植物体内において葉へ移行した放射性セシウムは転流(再分配)されにくいことが示唆された。
著者
三宅 定明 吉田 栄充 高橋 邦彦 飯島 正雄 浦辺 研一
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.471-475, 2010 (Released:2010-08-27)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

γ線スペクトロメトリを用いて,日本に流通している健康食品(サプリメント)73検体の放射能調査(134Cs,137Cs及び40K)を実施した。134Csは全て不検出であった。137Csは9検体から検出され(2.3~190Bq/kg),キノコやブルーベリーなど137Cs濃度が高いと考えられる原材料を使用したサプリメントは,137Cs濃度が高い傾向があることがわかった。また40Kは56検体から検出された(17.6~11600Bq/kg)。137Csが検出されたサプリメントを1年間摂取した時の成人における137Csの預託実効線量は約2.9μSvであった。
著者
中川 慎也 片岡 隆浩 迫田 晃弘 石森 有 花元 克巳 山岡 聖典
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.241-251, 2008 (Released:2008-04-25)
参考文献数
23
被引用文献数
10 15

ラドン療法の適応症には活性酸素に由来する生活習慣病が多く,その機構の更なる解明が期待されている。また,汎用性があり医学的効果が再現できるラドン吸入装置の構築は意義が大きい。このため,著者らは共同で開発したラドン吸入試作装置を用い,マウス諸臓器中の抗酸化機能の変化特性を検討した。ラドン吸入試作装置は,特殊加工したラドン線源を収納したユニットの数量,それへの送風量及び湿度などを調節することによりラドン濃度を自在に調整可能にするものである。この装置によりマウスに400Bq/m3あるいは4000Bq/m3のラドンを吸入させた。その結果,脳・肺・肝臓・腎臓において,抗酸化系酵素であるSODとカタラーゼの両活性が増加し,過酸化脂質量が減少した。この抗酸化機能の亢進により,本実験条件でのラドン吸入は活性酸素障害の抑制,すなわち,生活習慣病の予防や症状緩和に効果のある可能性が改めて示唆できた。