著者
川野邊 渉
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.56-59, 2007-02-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
2

我が国2例目の壁画古墳として知られるキトラ古墳では,壁画取り外し作業が行われている。我が国において初めての試みには装こう技術を初めとする伝統的な技術・材料と共に多くの新しい技術や材料が用いられている。本稿では,これらの技術材料がなぜ文化財保存に用いられたのか,基本的な考え方といくつかの例をあげて解説する。
著者
渡辺 正
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.92-95, 2012-03-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
9

中学生にもなれば「なぜ?」を知りたくなるのに,中高校の化学(理科)が「なぜ?」を欠くため,生徒は興味を失っていくのだろう。暮らしにも大学にも無縁な用語や概念,ときにはウソの説明をひたすら「覚えろ」だから,国民の科学リテラシーも向上せず,大学に入った若者は苦労(ないし脱落)する。先進国に類のない「指導要領+検定」が,日本を世界の孤児にした。孤児状態を脱するには,国際標準の高校化学をもとにしたカリキュラム刷新が望ましい。最短の道は大学入試の改革だろう。
著者
近江谷 克裕
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.372-375, 2016-08-20 (Released:2017-02-01)
参考文献数
12

ホタルの光に代表される生物発光は基質ルシフェリンの酸化に伴う化学反応の光である。酵素ルシフェラーゼによって効率よく光が生み出されることから冷光ともいわれる。未解明な生物発光の仕組みもあるが,8つのルシフェリンの構造が明らかとなり,それらの酸化反応を触媒するルシフェラーゼも明らかになりつつある。一方,生物発光はATPの定量化や細胞内の遺伝子発現の解析等,生命科学を支える重要な光である。
著者
山縣 厚
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.292-295, 2011-06-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
5

ベンゼンは,合成繊維,合成時樹脂等の化学工業の基礎原料として,重要な役割を担っている。ベンゼンの生産は,古くは石炭の乾留により得られていたが,化学工業の発展により,現在では原油から得られるナフサ留分を原料として,大部分が生産されている。また,ベンゼンは毒性があるため,その製造工程においては取り扱いに十分注意することが必要である。ベンゼンの製造方法と,製造工場における排出量削減の取り組みについて紹介する。
著者
大江 修造 横山 公彦 中村 正一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.313-316, 1969-01-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
8
被引用文献数
8

イソプロピルアルコール(IPA)と水とは共沸混合物を形成し,その共沸点は69.0mol%であるので通常の蒸留によっては,69.0mol%以上にIPAを濃縮することは不可能である。したがって,純度の高いIPAを得るために,ベンゼン等をエントレーナとした共沸蒸留法が現今では採用されている。一方,アルコール類の水溶液に塩,例えば塩化カルシウム等を添加すると,共沸点が消滅することが報告されている。よって塩を添加剤として蒸留を行なえば,やはり純度の高いアルコールが得られるはずである。本報では,この点に着目し,IPA-水系に塩化カルシウムを添加し,まずその気液平衡関係を測定し,そのデータにもとづいて単蒸留によりIPAと水との分離濃縮を試みた。Othmer型平衡蒸留器により,塩化カルシウムをIPA水溶液1000gに対し,0.4,0.8,1.2,2.0,3.2,4.8molの割合で添加し,さらに飽和に溶解させた,おのおのの場合にっき気液平衡関係を大気圧下で測定した。その結果,共沸点は消滅し,塩飽和の場合は,IPA約1~63mol%の液相組成範囲で2液相を形成し,そのとき,91.3mol%のIPA蒸気を発生する。重量でIPA1に対して水1の溶液に塩化カルシウムを42.8%添加し,大気圧下で単蒸留を行なったところ,留出液の純度は96.3wt%,回収率は99.5%であった。
著者
三村 均 山岸 功 秋葉 健一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.3, pp.621-627, 1989-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
13
被引用文献数
4 13

放射能高汚染水中のCsとSrの処理処分法を確立するため, 各種ゼオライトを充填したカラムについてCsとSrの漏出特性を検討した。CsとSrの漏出におよぼす流速(SV)の影響は大きく SV25 で良好なS字形の漏出曲線が得られた。Csにおいては, いずれのゼオライトでもほぼ対称で良好な漏出曲線が得られた。一方, チャバザイトとモルデナイトのカラムからの Sr の漏出では, 流出液中の Sr 濃度が一時的に初期濃度を超え, 漏出比 C/C0が1以上となる“濃縮現象”が観察された。これらゼオライトに対するCsの選択性が高いため, いったん吸着した Sr が Cs により脱着され溶離したためである。濃縮現象は交換吸着が犬きく低下する要因となる。Csに選択性の高いチャバザイト(C)とモルデナイト(M), Srに選択性のあるXとAゼオライトを用いて, これらを混合した混合ゼオライトの漏出特性をその混合比を変えて調べた。CsとSrの漏出が開始するまでの貫流交換容量をくらべると, C/X=1/3の混合系でもっとも高く, 一括除去の混合系として有効である。混合系の全交換容量は加成性が成立ち, 単独ゼオライトの値から容易に推定できる。
著者
堀池 喜八郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.334-337, 1998-06-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
10

細胞のエネルギー代謝の中心的役割を担うものは, アデノシン三リン酸(ATP)というリボヌクレオチドである。ATPのリン酸基転移反応の自由エネルギー変化は細胞内条件下では負で, 比較的大きく, このΔGを用いて, 細胞は生体物質の合成・能動輸送・細胞運動・シグナルの変換など, いろいろな仕事をして生きている。ATPは「高エネルギー」リン酸化合物と呼ばれ, その供給の停止は死を意味する。
著者
出川 哲朗
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.296-297, 2016-06-20 (Released:2016-12-27)
参考文献数
4

曜変天目は世界に3碗しか現存せず,そのすべてが,国宝に指定されている。宋時代に建窯で焼成されたもので,南宋の宮廷でも使われ,日本には室町時代にもたらされ,徳川将軍家にも伝えられた。この曜変天目の釉上に丸い斑文があり,その周囲が青く光り輝くのを特徴としている。この青く見える部分は固有色ではなく,構造色と考えられ,現在その解明が進められている。
著者
朽津 耕三 田中 充
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.636-640, 1998-10-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
10
被引用文献数
1

アボガドロ定数は, 19世紀後半からマクロの物理現象に現れる分子の大きさと単位時間の衝突回数などを用いて推定された。定量的な測定はおもに20世紀に入ってから行われ, 1910年代に, ファラデー定数と電子の電荷の比などに基づいて, およそ6.0×10^<23>mol^<-1>であることがわかった。1940年代には3桁目まで, 最近では6桁目まで正確な数値が得られている。現在の値はおもにケイ素単結晶の格子定数・密度・モル質量の測定に基づくもので, 国際協力のもとにさらに測定の信頼度を向上させる努力が続けられている。もし将来8桁目まで信頼のおける測定値が得られたら, キログラムの国際標準は原子質量で定義され, kg原器は博物館に移される日が来るかも知れない。
著者
荘司 隆一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.316-317, 2017-07-20 (Released:2018-01-01)

昨年3月に,「高大接続システム改革会議」の最終報告が出された。その中で大学入学者選抜改革としていくつかの提言がなされ,「高等学校基礎学力テスト」および「大学入学希望者基礎学力テスト」(現在のセンター試験に代わるもの)の実施が示された。これは高大一体となった大規模な教育改革についての提言であり,今年度の化学教育フォーラムは,そこに焦点を当てて開催された。
著者
佐藤 一男
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.354-357, 2011

本稿は,日立市において小学生と中学生の理数学力向上のために企業OBたちが展開しているボランティア活動の報告である。NPO法人日立理科クラブが誕生するまでには多くの困難があったが,産官学が一体になってこれを進めてきた。日立市および教育委員会の真剣な対応と学校現場の理解,そして日立製作所の強い支援と在住する企業OBたちの豊富な人材があってこの計画が順調に立ち上がりつつあり,「モノづくりと実験」を基本とするこの教育支援は効果をあげつつある。科学創造立国・日本を堅持するためにも,知識と経験のある企業OBのさらなる活躍に期待したい。
著者
鈴木 誠
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.107-110, 2011
参考文献数
4

フィンランドで大学に進学する場合は,まず日本の大学入試センター試験に該当するフィンランド大学入学資格試験(Matriculation Examination)に合格しなければならない。その後一定期間の兵役を体験し,一定の学資を貯めた後各大学が行う個別試験を経て,希望する大学に入学する。大学の学費は無償であり,医・教育学部の人気は高い。試験科目は多岐に渡り,高等学校で履修すべき到達度を測定する卒業試験の意味合いも兼ねている。心理学や哲学など日本の大学入試センター試験には見られないものも多い。特に語学については3科目必修となる。これは,フィンランドが国家戦略として目指す多言語活用能力(plurilingualism)育成に基づくものである。試験時間は,基本的には1教科当たり6時間にも及び,受験者に考えさせる論述問題がほとんどである。これらのことは,フィンランドがどのような人材を育成しようとしているかを明確に示すと同時に,日本の大学入試に対して多くの知見を提供するものである。