著者
八代 仁 及川 秀春
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.238-241, 2016-05-20 (Released:2016-12-27)
参考文献数
4

2015年に世界遺産のひとつに指定された日本初の洋式高炉が釜石の地に作られた(橋野高炉跡)ことからもわかるように,岩手は古くから鉄の産地であった。岩手に鋳造技術が伝えられたのは今から900年以上も前,藤原清衡の時代とされている。北上川は石巻に注ぎ,海運で上方に通じていた。江戸時代からは南部藩の庇護のもとで湯釜の名品が生まれてきた。ここでは伝統を受け継ぐ南部鉄器に息づく先人の知恵を表面化学の視点から紹介したい。そしてこれらの知恵は新しい製品開発にも受け継がれている。
著者
冨田 友貴 井上 正之
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.584-587, 2017-11-20 (Released:2018-05-01)
参考文献数
15

アミノ酸やタンパク質に含まれる硫黄の検出法として,水酸化ナトリウムを加えて加熱した後,酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を加えて硫化鉛(Ⅱ)の生成による黒色を観察する方法が知られている。しかしこの方法によって硫黄が検出されるアミノ酸(残基)にメチオニンが含まれるか否かに関する教科書の記述は曖昧である。今回我々は,高濃度の水酸化ナトリウム水溶液中,30分間加熱を行う条件で上記反応の適用範囲について調べた。また新たに,固相での熱分解によってメチオニンまでをカバーする簡易な検出法を開発した。
著者
渡辺 正
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.616-619, 2017-12-20 (Released:2018-06-01)
参考文献数
4

中学・高校の理科教科書の電気化学関連箇所は,戦後70年以上も「非科学」から脱していない。その根源は,「異種電荷の引き合いが電気分解を起こす」という途方もない誤解だろう。また,複雑な現象あれこれを伴う「ボルタ電池」は,中学校理科の導入素材として適切ではなく,ダニエル電池だけ扱えばよい。
著者
後飯塚 由香里
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.348-351, 2017-07-20 (Released:2018-01-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

“目視で確認ができる”“生徒の興味関心に応じていろいろな学校で使いやすい”という意味で,色素を教材にすることは有用である。筆者は色素を官能基の種類によって分類し,性質を理解して高校化学の授業に色素を使っている。こうした色素の利用により,「有機混合物の分離」「ペーパークロマトグラフィー」「界面活性剤の分類」「コロイドの電気泳動」「イオン交換樹脂」「酸化還元」「化学発光」の単元で教材化が可能である。
著者
下井 守
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.282-285, 2006
参考文献数
8

酸素は無色透明の分子であるが,液体状態では薄い青い色を示す。また酸素は偶数の電子を持っているにもかかわらず磁石に引き寄せられる常磁性という性質をもつ。この酸素の特異的な性質は,ルイスの電子対や原子価結合法では説明ができないが,分子軌道法と分子間の相互作用により説明される。
著者
吉田 邦夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.624-627, 2003-10-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
6

加速器質量分析(AMS)法を用いると,ほんのわずかな量でも炭素14年代測定が出来る。その結果,考古遺物だけでなく,これまで年代測定が許されなかった美術工芸品についても測定が可能になり,思わぬ結果が得られることもある。美術品鑑定者を欺くことが出来ても,科学分析はその虚を暴くことになるかもしれない。逆に,鑑定眼のもろさを,白日の下にさらすこともある。奇々怪々の世界である。
著者
荻田 堯 八田 博司 鍵谷 勤
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1983, no.11, pp.1664-1669, 1983-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
7

各種トリハロメタン水溶液に室温で低圧水銀灯の紫外線を照射すると,トリハロメタンの濃度はしだいに減少し,CO, CO2, HCl, HBrなどが生成した。クロロホルム水溶液の場合にはO2が存在する必要があり,バイコールフィルターを用いると反慈は起こらない。また,本反応の物質収支から,クロロホルムの分解はつぎの反応式で表わされる酸化反応であることがわかった。他方,CHBrCl2, CHBr2Cl, CHBr3などのブロモ置換メタン類の場合にはO2が共存する必要はなぐ,反応速度はバィコールフィルターの有無によらない。また,プロモ置換体の分解速度はクロロホルムよりも非常に大きく,HCl, HBrおよびCOが生成した。これらの場合の物質収支から,プロモ置換体の反応はつぎの反応式で表わされる加水分解反応であることがわかった。
著者
野口 喜三雄 中川 良三
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化學雜誌 (ISSN:03695387)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.127-131, 1970-02-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
7
被引用文献数
4

1966年および1967年,著者らは青森県恐山温泉の温泉水16個,温泉沈殿物12個を採取し,そのヒ繋,鉛,その他の化学成分の含量を調査し,つぎの結果を得た。水のC1-含量は温度の上昇とともに増加し,SO42-の増加にしたがってPHが減少する。ヒ素およびホウ酸はCl-との蘭に正の相関が認められた。 恐山温泉を形成する始めの熱水はほぼ中性で塩化物,ヒ素,ホウ酸に富んでいる。また黄色の温泉沈殿物は雄黄(As2S3)の化学組成ならびにX線回折像を示したが,赤榿色沈殿物は鉛を含むヒ素の硫化物で,X線回折像は無定形であり,元来考えられていた鶏冠石とはまったく異なることを明らかにした。
著者
一國 雅巳
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.558-561, 1995-09-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
3

粘土はなぜ固まるか。これは簡単にみえるが, 意外と難しい問題である。水で練った粘土を固めたものが日乾煉瓦である。この煉瓦は水にあうと崩れる弱い建築材料である。粘土にいろいろな物質を添加して乾燥し, これを水に浸して崩れる過程を観察することで, 添加剤の効果を調べる実験を提案した。この結果から粘土が固まる性質の謎を解くカギを探し出すことができる。粘土の固結はグローバルな土壌の環境問題とも直結している。この簡単な実験が地球環境を考える糸口となっている。
著者
鎌田 康昌
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.130-133, 2009-03-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

ホログラムの色彩は光の回折によるもので,化学的プロセスによる発光発色とは異なる。再生が白色光の場合,ホログラムの表面構造あるいは立体的(厚み方向の)構造,屈折率分布を加工することによって,各波長成分による回折角度の違いが生じ,色彩が生じる。つまり,顔料や染料を用いず,照明する光から独自の色彩を得ることができる。
著者
丑田 公規
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.228-231, 2017-05-20 (Released:2017-11-01)
参考文献数
13

大量発生し,厄介者とされているクラゲを有効活用する解決策は,繰り返し話題になっているが,実情はそれほど容易な問題ではない。生物としてのクラゲの習性と,それを取り巻く社会状況は曲解され,それはメディアの取り上げ方によって拡大している。著者は新規な糖タンパク質であるクニウムチンをクラゲ体内に発見した経験をもつが,今のところその抽出が有効対策になるとは考えていない。またクラゲだけでなくムチンという化学物質については,一般人のみならず専門家の間にも誤った情報や呼称が広がっている。そこで,一般の化学教育に携わっている方に正確な情報をていねいにお伝えするため本稿を執筆することにした。
著者
吉原 賢二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.4-7, 2018-01-20 (Released:2019-01-01)
参考文献数
8

ニッポニウムは小川正孝が1908年に発見を報告した元素名である。一時世界的に評価されたが追試が成功せず,周期表から消え去り,幻の元素のように思われていた。しかし,その後1990年代から東北大学の後輩教授である吉原による現代化学的再検討によって,ニッポニウムの実体は75番元素レニウムと判明した。小川の生涯にわたる研究への熱き情熱,その最期の悲劇,吉原に注がれたセレンディピティー(幸運な偶然)などまことにドラマティックというほかない。化学史上も化学教育上も興味深いものである。
著者
阿部 文一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.562-565, 2009-12-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

電気化学がイオンの存在や挙動を徐々に明らかにして行った。水溶液中ではイオンは水和しており,水溶液の電気伝導率と溶液中のイオンの移動に密接に関係している。中和反応の進み方と伝導率および酸塩基滴定などについて実際の測定を念頭に置いて解説する。
著者
寺沢 充夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.840-843, 2002-12-20 (Released:2017-07-11)

空気中ではマイナスイオンとプラスイオンが同時に存在している。生体の中でもマイナスイオンとプラスイオンが生体イオンとして存在し, これをイオンバランスと呼んでいる。これらのイオンの違いや発生量の違いが生体に及ぼす効果に影響を与えている。ラットをコントロールグループ(イオン環境にしない通常の状態)とマイナスイオン環境にしたグループ, プラスイオン環境にしたグループそれぞれ5匹ずつ3群に分け, イオン環境にさらす。コントロールを基準とした場合, プラスイオン環境では多量のピルビン酸が発生し, それを分解するために多量のチアミン(ビタミンの種類ではビタミンB_1と呼ばれる)が消費される。その時, 多量のチアミンが血液によって肝臓から中枢に運ばれる。その結果, 肝臓に含まれるチアミン濃度は低くなった。マイナスイオン環境では乳酸の発生を抑え, チアミンの消耗を少なくし, 生体に良い効果をもたらしていることが示唆された。
著者
平澤 佑啓 東原 和成
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.524-525, 2017-10-20 (Released:2018-04-01)
参考文献数
3

匂いの感覚は,鼻腔内の嗅覚受容体を匂い物質が刺激することにより生じる。ヒトは約400種類の嗅覚受容体を持ち,それらを無数に存在する匂い物質が様々なパターンで活性化させるので,我々は膨大な種類の匂いを区別して感じることができる。また,嗅覚受容体には遺伝子のタイプが多数存在し,その差異が匂いの感受性の個人差を生み出していると近年明らかにされた。
著者
佐治水 弘尚
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.404-407, 2013-08-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
10

水素の安定同位体である重水素(D)で標識された化合物は,安定で長期間の保存に耐えるとともに生体構成成分の構造解析や反応メカニズムの解明に利用できるため,様々な研究分野における有用性が指摘されている。分子内の水素を重水素で置き換えると,原子の質量が変化するため物理的,化学的変化(同位体効果)が生じる。これを利用して薬物の体内動態追跡,食品中残留農薬や環境中の内分泌撹乱物質等の微量定量分析,タンパク質やペプチド等の高次構造解析や,光ファイバーなど様々な機能性物質の材料として利用されている。重水素標識化合物は,入手可能な低分子量の重水素標識された原料から時間,労力,コストをかけて全合成的に合成する方法が一般的であったが,最近になって,水素-重水素(H-D)交換反応を利用して目的化合物に直接重水素を導入する方法が開発されている。本編では,「重水素源はどこにあり,どのように調達するのか」について簡単に説明した後,「重水素をどのようにして目的化合物に導入するのか」といった課題に焦点を当てて,特に「炭素-水素(C-H)」結合を「炭素-重水素(C-D)」に変換する方法について概説する。