著者
野上 道男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.6, pp.427-449, 2021-11-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
3

伊能忠敬は間縄で測った測線距離を方位によって南北成分と東西成分に分解し,成分ごとに加算して,折れ線となる導線の節点の座標値を次々に求めた.座標値は大図縮尺(1/36,000)の値が用いられ,緯度差1度=28.2里は101.52寸となる.星測点では導線測量による南北座標値は星測緯度の座標値で補正された.補正率(補正量/南北距離)によって,星測点付近の導線の南北・東西位置も滑らかになるように補正された.このようにして得られた座標値をそのまま正距直交座標系の紙面にプロットして大図の導線が描かれた.中図(1/216,000)では6で除した座標値を得て,同じように正距直交座標系の平面にプロットされた.
著者
杉浦 芳夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.313-347, 2021-09-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
89
被引用文献数
2

『南ドイツの中心地』を世に問うた翌年の1934年夏,Christallerはアルブレヒト・ペンク財団の支援によって北欧4カ国の研究調査旅行に赴いた.帰国後にまとめられた旅行報告書からは,彼がこの旅行を通して,新たに農村集落に関するテーマへ関心を広げ,集落配置計画論への指向性を育んだことがわかった.そして,これらの経験は,独自の農村集落形態分類を踏まえたドイツ農村自治体再編研究(1937年)や,ナチ・ドイツ編入東部地域における中心集落再配置の計画論的応用研究(1940・1941年)につながっていくものであった.また,報告書から窺える,北欧の都市ネットワークを理解するのに際しての歴史的な視点と,フィンランドとソ連との間での国境問題といった地政学的な課題への関心は,国家学・歴史地理学者のベルリン大学教授Walther VogelがChristallerを自らの「ドイツ帝国歴史アトラス」作製プロジェクトに共同研究者として招き入れる際の好判断材料となった.
著者
近藤 祐磨
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.291-312, 2021-09-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
49
被引用文献数
4

本稿は,基礎自治体の範囲を越えた3つの市民・住民団体が,身近な海岸林を保全する複数の住民団体を包摂したネットワークを各々形成した過程と意義を,環境運動における空間スケール戦略に着目して検討した.その結果,ネットワーク形成を主導する団体は,行政と協調的・補完的な関係ではあるが,同時に行政に対する不満を抱き,活動地域・内容の拡大や,逆に特定地域に限定した活動の集約化といった戦略によって,行政の政策に影響を与えうる独自性を発揮していた.一方で,ネットワークに参加する住民団体は,ネットワーク形成を主導する団体との利害や従前の関係性を考慮して,ネットワークへの関わり方を戦略的に選択していた.本事例からは,ローカルの内部でもさらにスケールが重層化してスケール戦略が展開される実態が浮き彫りとなり,環境運動・環境ガバナンスの研究において,ミクロレベルでのスケールの変容にも着目する重要性が示された.
著者
佐藤 浩 小村 慶太朗 宇根 寛 中埜 貴元 八木 浩司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.250-264, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
37
被引用文献数
1

阿蘇外輪山北西域における的石牧場I断層の上下の断層変位の累積性を,トレンチ調査から明らかにした.本断層周辺では,2016年熊本地震の余震活動は顕著でない.本断層の断層崖は,人工衛星(ALOS-2)データから判明した,本地震に誘発された受動的な上下変位と重複し,その変位は最大で15cmと見積もられている.本地震に伴う変位の明瞭な痕跡はトレンチ壁面では認められなかったが,3,430-2,890 cal BPと2,810 calBP以降に最大50cm変位した複数のイベントが累積的に生じた可能性がある.この断層崖は,固有地震のイベントまたは周辺の断層運動に誘発された受動的なイベントの繰り返しによって形成されたものと考えられる.固有地震だけでなく受動的な上下変位も断層崖の形成に寄与しているとすれば,断層崖が固有地震の繰り返しで形成されたことを前提とする固有地震の再来周期の見積もりにも影響を与えると考えられる.キーワード: 2016(平成28)年熊本地震,トレンチ調査,的石牧場I断層,ALOS-2,受動的な変位+
著者
大呂 興平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.211-233, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
4

沖縄離島部の数少ない有望な農業部門として期待される肉用牛繁殖部門は,2000年代後半以降,停滞している.本稿では,多良間島における各農家の追跡調査を通じて,2000年以降の農家経営と肉用牛繁殖経営の技術的特徴の変化を分析することで,肉用牛繁殖経営群の動態を明らかにした.多良間島では農家の世代交代とともに,サトウキビと肉用牛の小規模経営を組み合わせた労働多投的な精農層が大量引退し,また,経験的技術に支えられた放牧主体の大規模経営も消滅した.これらに代わり,子牛価格の上昇を背景に,粗飼料生産を委託した労働節約的な小規模経営,近代的な施設を装備した中規模経営,採草主体の大規模経営が成立している.特に中規模経営は一般の農家にも単独で生計を立てることを可能にし,継続的な技術蓄積や再投資を誘発している.肉用牛繁殖経営は多良間島の壮年層の幅広い受け皿となっており,今後は産業の規模を維持ないし成長させる可能性が高い.
著者
佐藤 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.17-34, 2021-01-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
37

大都市圏の基礎自治体における地方税の徴収率と財政状況を分析した結果,大都市圏の自治体における財政は景気による変動を受けやすく,地方税の滞納が発生した場合の影響が大きくなることが明らかになった.そこで,計量的な手法を用いて地方税の徴収率と貧困問題に関係する指標を比較し,規定要因と空間パターンを検討した.分析の結果,①地方税の徴収率が低い自治体は平均年収や完全失業率などの貧困問題に関わりのある指標と有意な関係性があり,GWR(地理的加重回帰分析)により60%程度の説明力が認められた.それゆえに,都市内部構造における社会的地位に関する知見に対応した形でセクター状に徴収率の低い地域が現れている.②ローカルMoran統計量の分析を通して,有意に低徴収率が空間的に連続する地域(クール・スポット)が検出された.さらに,GWRの分析により徴収率を規定する要因には地域差があることが示唆される,という2点が明らかになった.
著者
山田 周二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.443-463, 2020-11-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
18

本研究は,約30 mメッシュのDEMを用いて,北緯60度~南緯60度のすべての陸地にある山頂を抽出した.半径1 kmの円内の中心点が,その円内で最も標高が高い場合に,その中心点を山頂と定義し,その円内の起伏と平均傾斜を計測した.その結果,起伏が1,500 m以上で平均傾斜が45°以上と,きわめて険しい山頂のほとんどは,ヒマラヤ山脈に分布しており,それに次いで険しい,起伏が500 m以上で平均傾斜が35°以上の山頂は,アルプス・ヒマラヤ地域および環太平洋地域,中央アジア,アフリカ大地溝帯といった地殻変動や火山活動が活発な地域に分布することがあきらかになった.また,起伏が500 m以上で平均傾斜が35°未満の山頂は,上記の地域に加えて,大陸縁に分布すること,そして,起伏が500 m未満で平均傾斜が35°以上の山頂は,東アジア南部の塔状カルストに限られること,があきらかになった.