著者
奥山 加蘭
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.96, 2020 (Released:2020-12-01)

過去の災害状況を復元することは,その地域で同じような災害が発生した際に有益な情報とすることができる.そこで本研究では1944年に発生した東南海地震が諏訪地域でどのような被害をもたらしたのか復元し,諏訪地域内での被害差の要因を地形と関連づけて考察していく.調査方法はまず諏訪地域の地形分類を行い,文献資料と,地震体験者へのヒヤリングから被害データを収集する.データは気象庁の震度階級関連解説表に基づいて震度に直し,GISを用いて分析をする.被害状況を分析すると段丘や扇状地では比較的に被害が小さく,埋め立て地,自然堤防,後背湿地等では震度6程度の大きな被害が明らかになった.
著者
宋 苑瑞
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100169, 2017 (Released:2017-10-26)

近年韓国で最も懸念されている環境問題は大気汚染である.毎年春先に中国大陸からの黄砂の影響で,視界が悪くなることはしばしばあったが,現在は季節に関係なく視界が悪くなる日が増えている.大気汚染により,外出を控え,洗濯物を外で干せなくなるなど,日常の生活が制限されるようになり,PM2.5などの大気汚染物質が注目されるようになった. 韓国では1960年代からの高度成長期を経て工業化が進んできた.一部の製造業の工場は日本と同様に海外へ移転したが,製鉄・精油など大規模の重化学工業は,現在でも国内の主要産業の一つである.大気汚染の主要な発生源は産業施設から排出される汚染物質と車からの排気ガスである.このような状況において,韓国の国立環境科学院は1999年から120余の関連企業から約300項目の資料を収集し,大気汚染物質の排出量を算定している.2011年から新しい項目としてPM2.5の測定を開始した.現在韓国内のPM2.5を含む大気汚染物質の測定所は322箇所あり(首都圏には143箇所),毎時間のデータをオンラインで配信している.韓国の主要大気汚染物質の排出量の推移を図1に示す.汚染物質のうち最も高い割合を占めているのは窒素化合物(NOX)で,近年再び増加傾向にある.その排出源のうちの道路移動汚染源は前年度比約8%増加,非道路移動汚染源(建設装備及び航空運航便数)は前年度比約18%増加した.次に多いのは揮発性有機化合物(VOC)であるが,エネルギー産業での燃焼量が前年度比約10%減少し,生産工程からの排出が約4%増加したことから,全体では前年度比約1%減少した. 韓国における車の登録台数は2017年6月現在約2200万台で,近年も毎年3%前後で増加している(韓国国土交通部,2017).韓国のディーゼル車の割合は全体の42%を超えている.特に,近年は燃費の割安さからディーゼル車が人気を集め,ディーゼル車が急増していて,現在登録されているディーゼル車の54%が自家用車である.ディーゼル車はガソリン車より数倍も多く窒素化合物(NOX)を排出することから,世界的には排気基準を厳しく制限され,出荷台数や占有率も減少傾向にあるが,それとは異なる状況である.2014年に排出されたNOXの排出量113.6万トンのうち,最も高い割合を占める排出源は道路移動汚染源で,36.1万トンが排出された. 韓国の大気汚染物質について排出地域別に見ると,首都圏と発電所,製鐵製鋼,燃焼施設など大型施設が位置する忠清南道,全羅南道,慶尚北道の一部地域で汚染物質の排出量が大きかった. 2014年の韓国のPM2.5の排出量は6.3万トンで,主な排出源は製造業における燃焼と非道路移動汚染源で,年間排出量はそれぞれ3万トンと1.4万トンに至る.韓国のPM2.5の大気環境基準は1日平均で50 μg/m3, 年平均で25 μg/m3で,日本(1日平均35 μg/m3と,年平均15 μg/m3)と中国(1日平均75 μg/m3,年平均35 μg/m3)の中間値を取っている.しかし,この基準値はWHOの指針基準やアメリカあの年平均基準値より2倍以上高い基準値であり,大気汚染を減らすための今後のさらなる努力と改善が必要である.    参考文献 韓国国土交通部(2017),車の登録資料統計. 韓国国立環境科学院(2015),2013年全国の大気汚染物質の排出量,133p.
著者
岩崎 亘典 小野原 彩香 安達 はるか 野村 英樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.133, 2023 (Released:2023-04-06)

2022年度より高等学校で必修となった地理総合では,地理情報システムの活用が一つの柱であり,教科書では地理院地図やひなたGIS等が紹介されているが。しかしこれらのツールでは,投影法や統計情報活用にあたり,独自データを用いた実習が困難である。また,新型コロナ感染マップや人流マップのように,データサイエンスでの地理学の重要性も高まっている。本発表では,地理総合でのGIS利用促進と地理分野でのデータサイエンス活用のための,Pythonを使用した地理学習コンテンツについて報告する。 実習のための環境は,ブラウザ上でPythonのプログラムの入力,実行が可能なGoogle Colaboratory(以下,Colab)を用いた。学習コンテンツの内容は,地理総合の教科書を参考とし,以下のリストの内容を予定している。 ・Pythonを用いた地図作成および投影法 ・APIを用いた統計情報の取得と得階級区分図の作成 ・気象メッシュとグラフの重ね合わせ地図・防災のための地形図の3D表示作成したコンテンツは,CQ出版社が発刊するインターフェイス誌上で連載記事として公表している。2022年3月までに3回目の記事までが公表される予定である。 紙媒体で発行する特性を活かし,コードや作成した地図に解説を加え,理解しやすいように努めた。コードを変更することで図法の違い等を実習できることがPythonの利点である。また,コードで地図を扱うため再現性を高い点が,データサイエンス的視点から有効である。本コンテンツは,学校教育に活用してもらいたい観点から,教員は電子版を無償入手可能である。ご興味のある方は,お問い合わせ頂きたい。
著者
後藤 寛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.155, 2019 (Released:2019-09-24)

Ⅰ 目的地域市場の特性を店舗の立地分布を通して読み解く試みの一環としてほとんどがナショナルブランドであるファッションブランドショップの立地と集積に注目する。現在のファッション市場では年齢層を基本としつつライフステージを組み合わせた顧客セグメントを想定し、それぞれにターゲットを絞ったブランド展開がされている。それを踏まえてショップ群の立地と対象とされる顧客層の居住地分布を比較することにより最終的には同じ趣味関心をもつ群の実態を捉えようとするものである。Ⅱ 対象とデータ大規模小売店舗の各企業系列は都市システムに対して各々不完全なカバーしかしないが、業態をひとつのシステムと解釈することで各ナショナルブランドの動向、立地選択の全体像の理解が可能となる。平成30年5月~7月にかけて主要アパレルメーカーのサイトの店舗リストをもとに作成した婦人ファッションショップ370ブランド14859店(ラグジュアリーブランド数53,1628店,百貨店系アパレル99,4637店,SC系228,8594店)を用いる。ここでは規模・品揃えの差は捨象してショップの有無で論じる。Ⅲ 分析販路として百貨店向けとSC/モール向け、顧客セグメントとしてヤング向け,キャリア、ファミリー,ミセスと大別されるサブマーケットごとのショップは大規模小売店舗の立地に制約されて出店するが、その立地状況の分析から、たとえばすそ野の狭いヤング向けショップは上位都市都心部への極端な集中を示して購買のための広域移動の存在を伺わせ、逆に百貨店を販路とするミセス向けはマクロには全国に均等に立地しミクロには百貨店の立地に依って各都市都心にみられるなどの特徴が指摘できる。だが百貨店の撤退後そのまま空白地帯になる例などをみても消費者分布すべてを均等にカバーするものではない。このような特性も踏まえた店舗の成立条件、それらの集積する消費の場面にみられる都市の体系を明らかにすることを目指している。
著者
丹羽 孝仁 西本 太 高橋 眞一 横山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.279-290, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究は,ルアンパバーン県HB村の事例分析によって,ラオスの農村地域における人口動態の特徴を農村間人口移動の側面から明らかにした.その結果,農村における人口の変化には,次の3点の農村間人口移動が影響を及ぼしていることが分かった.①移住促進政策や結婚移動などの農村間移動を背景とする社会増減と移動後の自然増減の双方が大きく影響している.②農村間移動において移住先での生計の可能性を最大化できるように,新たな農地の獲得可能性や,従前の居住地にある農地へのアクセシビリティ,血縁・地縁のネットワークの有無が検討されている.③農村間移動が活発な背景には,移動前後で農業を主体とする生業に大きな変化がなく,生計を維持できる可能性が高いことがあげられる.ただし,利用可能な低地水田は限られており,米を十分に獲得することが難しい場合には,出稼ぎによる現金獲得が目指されている.
著者
高橋 眞一 横山 智 西本 太 丹羽 孝仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.264-278, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ラオス中部に位置する天水田稲作農村において,年率2%を超える長期の人口増加と村びとの生業の対応との関連を世代別に明らかにした.1920年代後半に開村した村の第1世代から第4世代まで,生業の要である水田取得が人口増加とともに開田から,相続,そして購入へと変化した.人口増加による土地の余力がなくなってきた第3世代から他の農村への移動が増加した.さらに人口増加が続いた第4世代になってタイへの出稼ぎ専業層の出現によって,人口増加による水田の不足は軽減された.この村における人口増加への対応は,農業生産性の向上,都市への移動ではなく,ラオス中部の水田拡大を背景とした農村間人口移動の加速とタイ出稼ぎの増加であった.そして近年の家族計画普及による人口増加の終焉は,この地域の農村の生業の方向を変えていくであろう.
著者
安倍 啓貴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.187, 2021 (Released:2021-03-29)

1.はじめに 日本には様々な局地風が存在するが, 六甲おろしはその中でも有名な局地風の一つである。六甲おろしは, 神戸市の六甲山地から吹き下ろす比較的強い北風である。その発生機構について, 近畿地方を通過した前線や低気圧に伴う冷気が六甲山地の北西に滞留したのち溢れ出すことで発生するということがわかっている(猪野ら,2008)。また, 六甲おろしが吹走する天気図のパターンについては, 冬型の気圧配置となる時, あるいは寒冷前線の通過時に多いことがわかっている(日下ら,2007)。 以上のことから, 六甲おろしの発生機構や天気図のパターンについては, ある程度の知見が得られている。しかし,六甲おろしの実態についての科学的な解析は進められていない。また,六甲おろしの吹走の傾向を複数地点で比較した研究はほとんどない。 そこで, 本研究では六甲おろしの実態を系統的に調査し,六甲おろしの風速や吹走頻度の地域差を明らかにすることを目的とする。2.方法(1)使用データと解析対象期間 神戸市環境常時監視システムの測定局の六甲山(図1中M.R), ポートタワー(Pt), 灘(Na), 灘浜(Nh), 東灘(En), 六甲アイランド(Ri), 港島(Mi), 兵庫南部(Hs), 南五葉(Sg)の、風向および風速の1時間データを使用した。なお,南五葉(Sg)は六甲山地より北側にある観測地点であり,六甲おろしの風速が六甲山地より南側で大きくなっていることを確認するためにデータを使用した。また, 2014年4月〜2019年3月を解析対象期間とした。(2)六甲おろしの定義 本研究では猪野ら(2008)および安倍(2017)をもとに, 風速が8.5m/s以上でかつ風向が西北西〜北である風を六甲おろしと定義した。(3)解析対象期間の抽出と解析手法 六甲おろしの定義に該当する日を,解析対象期間から抽出した。なお六甲おろしが1時間でも吹走した日を六甲おろし吹走日とした。抽出できた六甲おろし吹走日計989日を解析対象日とした。その後,観測地点毎に六甲おろしの風速や吹走頻度を比較した。六甲おろしの風速については、最大風速および平均風速についての風況マップを作成した。3.結果と考察 表2に観測地点ごとの六甲おろしの吹走日数を示す。Naは吹走日数が5年間で78日であるのに対して,Miは5年間で0日という結果になった。したがって,六甲おろしの吹走頻度は神戸市の中で大きな地域差があることが明らかになった。 六甲おろしの強さについて,図2-aは最大風速の分布に言及する。山頂付近に観測地点があるM.RやPtは,標高が高いため風速が大きい。一方で,標高にその他の観測地点と大きな差がないNaでも最大風速は15.1m/s-18.0m/sと,値が大きかった。そして山の麓から離れるにしたがって,次第に風速が小さくなっていくことが示された。 図2-bは平均風速の分布である。最大風速の分布と同様,M.RやPtは標高が高いため風速が大きく,Naではその他の観測地点と比べて風速が比較的大きい。最大風速の分布と同様,山の麓からの距離が長くなるにつれて,六甲おろしの風速は小さくなっていることが示された。しかし,EnとNaについては,山の麓からの距離はほぼ等しい。それにもかかわらず風速に差があるのは,観測地点の北側斜面における谷筋の有無が関係している可能性が考えられる。
著者
奥野 隆史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.8, pp.431-451, 2001-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
52

F. K. Schaeferの例外主義論文の発表以来,今日までに半世紀を経ている.その間, 1960年代前半の既存の統計手法の利用に始まり,その後地理学固有の概念・手法の重視が叫ばれ,それに伴い立地論のモデル展開や空間行動の計量分析などが盛んとなり,そのアブ面一チが集計的なものから非集計的なものへと変化していった・1970年代後半以後・際立った変革が技術と方法の両面に現れてきた.主なものはGISの発達とロにカルモデルの構築である.GISの計量地理学分析への結合は必ずしも十分ではないが,分析法のコンピュータプログラム化の遅れとともに,それの未開発部分の多さにもその原因がある.近年における分析法の開発の主点は,前代の空間プロセスのグローバル面のモデル化から,それのローカル性に焦点を当てたモデル化に移行されっっある.この移行は,地域個性の計量的解明を目指すとともに,空間的非定常性問題の解決を意図する動きといえる.それに関して, (1) 点パターンや空間的自己相関などの伝統的問題に対するローカル分析, (2) 空間的拡張法,空間的適応フィルタ法,多水準モデル法,地理的加重回帰法など多変量的問題状況に対するローカル分析について論評する.またこれらの分析と深く関わる可修正地域単位,実験的推測,地理的加重モデルなどの新しい研究動向にっいても言及する.
著者
池谷 和信
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100210, 2017 (Released:2017-10-26)

1.はじめに これまで家畜(家禽を含める)の生産や流通を対象にした地理学的研究では、乾燥地域・高山地域・極北地域の牧畜や日本や欧米の畜産業を対象にした文化地理・経済地理的研究が多かった(池谷2006ほか多数)。その一方で、熱帯アジア地域の村では稲作や焼畑農業が生業の中心であり、家畜飼育についての体系的な研究は行われていない。そこで、本報告では、熱帯アジアにおける家畜生産と流通に関するこれまでの研究動向を整理することがねらいである。ここでは、熱帯アジアとは、日本の琉球列島から東南アジアの大陸部・島嶼部、および南アジアにかけての湿潤地域を対象の中心としてみなしている。また、対象となる家畜は、牛、水牛、豚、ヤギ、羊、鶏、アヒル、ミツバチなどである。筆者は、過去数年間のあいだ、バングラデシュのベンガルデルタの豚の遊牧やタイやベトナムでの鶏飼育などの現地調査を重ねてきたが、ここでは、熱帯アジアの家畜生産と流通に関する既存の研究論文を対象にする。 2.結果 これまで、日本語において熱帯アジアの家畜生産と流通の研究は多くはない。 パキスタンは中里、インドでは中里、篠田(2015)、渡辺、バングラデシュは池谷、タイは高井、増野、中井、ラオスは高井、中辻、インドネシアは黒澤、中国は野林、菅、西谷、台湾は野林、琉球列島は高田・池谷(2017)、黒澤、長濱などの事例研究が挙げられる。 まず、家畜生産については、個々の家畜や民族集団(カム、モン、ミエンほか)ごとの放牧や舎飼いなどの家畜飼養の方法、放牧地利用(慣行権ほか)、餌利用、生殖技術、社会関係(牛飼いカースト)など、家畜流通については家畜市場での取引状況、大都市の肉屋での販売、犠牲祭にかかわる家畜の消費などが注目されてきた。これらは、集落単位でのミクロな研究事例が多く、国家の家畜振興政策と家畜飼育とのかかわり、村の生産地と大都市の消費地とのつながり方の研究はあまり活発ではない。 家畜生産と流通を対象にしては、歴史地理的研究も多くはないが、現状分析には欠かせない視点である。熱帯アジアにおける個々の集落が、どのように歴史的に地域や国家のなかに結合してきたか否かの解明が必要である。筆者が研究をしているバングラデシュの豚飼育については、グローバルな動向(欧米からの豚の導入、遊牧から舎飼いへの移行など)にどうして結合していかないのかも課題として残されている。 3.考察 世界的な視野でみると、熱帯アジアの家畜(ゾウやミタンほか)は、世界のなかで最も種類が多く、遊牧、移牧、舎飼いなど飼養形態も多様である。また、家畜はイスラーム教の犠牲祭とのつながりも深く、現在でもヒンズー教の牛など宗教とのかかわりを無視することはできない。つまり、家畜生産と流通の研究には、経済、文化、歴史的視点を統合することが必要である。現在、ますます国境を越えての家畜にかかわる大企業の活動を無視することはできない。熱帯アジアにおける各地域での大企業と小規模農家とのかかわり方など、世界経済の動向や肉食需要の拡大などをみすえながら考察する。
著者
仙田 裕子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.383-400, 1993-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
5 5

高齢者の生活の質を理解するためには,生活空間の把握が不可欠であると考え,本稿では余暇的活動を行なう際に取り結ぶ社会関係の空間的範囲(「関係空間」と称す)に焦点を当て,調査を行なった.調査地域には今後高齢化の進展が予想されている東京大都市圏の郊外地域(横浜市戸塚区秋葉町)を選定した.調査は,「関係空間」の広がりと属性との対応に関するアンケート調査と,ライフヒストリーとの対応に関するインテンシブな聞き取り調査の2段階に分けて行ない,その結果以下のことが判明した. (1)高齢者の「関係空間」の広がりは,高齢以前の生活空間によって規定されるが,身近な地域については高齢以後に形成される関係に規定される. (2)職住の空間的な分離や人口の流動性の高さといった郊外地域の特性は,加齢に伴った「関係空間」の変化を余儀なくする.高齢者はそうした空間的な変化に対しても適応する必要が生じている.
著者
岩月 健吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.84, 2021 (Released:2021-09-27)

1.研究の背景および目的 かつて日本では,野外で採集したクモ同士を闘わせて勝敗を決める遊び(クモ相撲)が,沿岸の地域を中心に全国的に見られた(図1).クモ相撲は,第二次世界大戦後の経済成長に伴う社会・自然環境の変化を背景に多くの地域で消滅してしまった(川名・斎藤 1985).しかし,関東・近畿・四国・九州の一部地域では,クモ相撲が行事化し,組織的な運営のもとで現在も存続している. 本研究の目的は,現代におけるクモ相撲行事の存続要因を,行事の担い手(行事の運営者・参加者)に注目して明らかにすることである.民俗学における従来のクモ相撲研究では,遊びの分布やクモに関する方言,使用するクモの種類,遊びの形式に注目して,その地域差や類似性等が論じられてきた.しかし,行事化したクモ相撲を対象に,その存続の仕組みを明らかにする試みは少ない. 2.調査の対象および方法 本研究では,鹿児島県姶良市加治木町の年中行事「姶良市加治木町くも合戦大会」を事例として取り上げる(図2).地元で「加治木のくも合戦」の呼称で親しまれる本大会は,1996年に文化庁により,「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択された.本研究では,「姶良市加治木町くも合戦保存会」役員や姶良市役所加治木総合支所加治木地域振興課職員,大会参加者を対象に,聞き取り調査を実施した.調査は主に,2015年,2018年,2019年の大会開催日(6月第3日曜日)に実施した. 3.結果 2011年〜2019年の大会参加者は,105人〜153人で推移している.全体に占める姶良市内からの参加者の割合は,2014年の45.7 %を除くと,53.6 %〜64.5 %で推移しており,本大会が地元住民によって支えられていることがわかる.また,県外からの参加者も,大会を活気づけ,試合を迫力あるものにする重要な存在である. 本大会の参加者の特徴として,他の参加者と家族・親族の関係にある者が多いことが挙げられる.例えば,2019年の参加者のうち,他の参加者と家族・親族の関係にある者は全体の64.5 %を占めている.何年も続けて大会に参加する者も多く,2019年の参加者のうち,2018年の大会にも参加した者の割合は66.1 %であった.このうち69.5 %は家族・親族の関係にあり,家族・親族での参加が大会参加者数の維持に大きく貢献しているといえる.こうした集団は,交際・結婚を機に新たに誕生したり,人数を拡大したりする.また,分裂してライバル関係になることもある. クモの採集場所は他人には秘密にされるが,家族・親族内では共有され,共に採集・飼育を行うことで知識・技術が継承される.子どもも幼い頃からクモに触れ,一担い手へと成長していく.しかし,中学生になると忙しくなり,継続できなくなるという課題がある. 本発表では,大会参加者の他に,運営者についても言及する. 文献川名 興・斎藤慎一郎 1985.『クモの合戦—虫の民俗誌』未来社.
著者
山本 晴彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.160, 2019 (Released:2019-03-30)

1.近世における気象観測1874年にフランス人司祭のクロード・シャルル・ダレが記した『Histoire de L'Eglise de Coree』の序論を翻訳した『朝鮮事情(朝鮮教会史序論)』には「Climat」(気候)に関する記述が見られる。「(前略)北緯35度以北では、宣教師たちは温度が零下15℃以下に下がることを経験しなかった。しかし、北緯37度30分あるいは北緯38度以北ではしばしば零下25℃以下に下るのを経験した。(後略)」と記されおり、温度計を用いた簡易な気温観測が宣教師により行われていたことがわかる。ロシア公使シー・ウエーバーは、1887年4月から京城(ソウル)で毎日9時、15時、21時の気温、雨量、積雪、風向、風力、雷電、霧、雹、露等の観測を行っていた。さらに1889年4月からは晴雨計を用いて気圧の観測も開始しており、本格的な気象観測であったことがわかる。この3年半の観測記録はサンクトペテルブルクにあるロシア中央気象台の台長であったウイルドが発刊した気象年報にも掲載されている。海関では、朝鮮政府に雇われたドイツ人外交官メレンドルフが、ヨーロッパ人を中心に職員を雇用し、仁川では1883年6月、元山では同年10月、釜山でも同年11月に海関を開設して気象観測を実施している。また、日本領事館(釜山、仁川、元山、鎮南浦、平壌)においても気象観測が行われ、1881年からの漢城(京城、現在のソウル)の気象観測記録「朝鮮国漢城日本公使館気候経験録」については、大阪大学名誉教授の小林茂氏が紹介している。なお、朝鮮王朝の時代に実施された「測雨器」による雨量観測については省略する。2.臨時観測所の創設と朝鮮統監府観測所・韓国政府への移管日露戦争における軍事ならびに航路保護の目的で、1904年3月に勅令第60号を発令して臨時気象観測所(第一~第五、技手15人)を開設し、中央気象台に臨時観測課を設けて和田雄治技師が課長に就き、朝鮮での臨時観測所の開設業務を任せられた。和田は朝鮮に派遣され、位置の選定、庁舎の借入等の検討に当たり、自ら初代所長に就任した。第三臨時観測所の仁川は、事務開始が1904年4月6日で、日本居留地第四十一号 民家を借入使用し、用地買収計画を待たずに気象観測が開始している。仁川の第三臨時観測所は翌年1月1日、鷹烽峴山頂に新庁舎が完成し、移転している。1907年4月には『朝鮮統監府観測所官制』により文部省の中央気象台(臨時観測課)の所管から朝鮮統監府に移管され、仁川の第三臨時観測所を朝鮮統監府観測所に改称し、釜山、木浦、龍巌浦、元山、城津の臨時観測所を支所とする本所・5支所の体制へと改編された。しかし、翌1908年3月には『朝鮮統監府観測所官制』が廃止され、4月より韓国政府が勅令第十八号『観測所官制』を発令し、農商工部告示第六号により観測所及同附属測候所の位置・名称を定めた。これにより、韓国政府は1907年に開設した農商工部所管の京城・平壌・大邱の測候観測所、そして朝鮮統監府観測所の本所・支所を韓国政府に移管させ、仁川の観測所を本所とし、釜山・元山・京城・平壌・大邱・木浦・城津・龍巌浦の8か所の測候所を管轄する体制が韓国政府により構築された。だが、実質的には中央気象台から派遣された和田所長以下の技手によって気象業務が実施されていた。3.朝鮮総督府観測所の創設2年後の1910年8月には韓国併合に関する条約(日韓併合条約)により韓国が日本に併合される。9月には勅令第三百六十号『朝鮮総督府通信官署官制』が発布され、観測所は通信局所管となり、再び中央気象台の気象観測ネットワークに組み込まれ、外地(台湾・朝鮮・満洲・関東州・樺太)での気象業務が展開していくこととなる。