著者
金 玄辰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.82-89, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

本稿では,日本との比較の観点からイギリス,オーストラリア,韓国,香港における地理カリキュラムを分析した.その結果,1)概念・主題中心の地理カリキュラムの構成が主流であること,2)学習方法においては地理的探究に基づく学習,ならびに地理的技能としてのICT活用を強調していること,3)価値・態度においては,持続可能な社会を形成するために市民的資質の育成を目指していること,という3点を地理教育の世界的動向として挙げることができた.
著者
志村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-2, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
1
著者
石崎 研二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.747-768, 1992-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51

本稿は,立地-配分モデルを用いてクリスタラー中心地理論における供給原理の定式化を試みるものである.クリスタラー中心地理論では, (a) すべての消費者がすべての財を入手しうる, (b) 財は中心地によって包括的に保有されるという2つの制約条件,および財の到達範囲の概念を鍵として中心地システムが構築される.こうした特性は,立地-配分モデルにおけるカバー問題としての性格を有している.そこで本稿では,供給原理を集合カバー問題として定義し,理論の仮定を便宜的に満たした仮想地域にモデルを適用した.その結果,階層を下位から上位へと構築する方法では,モデルは供給原理に基づく中心地システムを正しく導出するものの,逆の構築方法では異なるシステムを導いた.ゆえに後者の方法については,さらに,最適な階層構造の形成を加味した配置原理の解釈が必要となることが,両構築方法の結果の比較より示唆される.
著者
野中 健一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.34-47, 2013 (Released:2013-04-19)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究は,長期・多人数の滞在型現地調査に対する地理学的な学術成果を,いかにして村・村民に還元するのか,ラオスでの村落調査で実践した写真集制作と展示施設の制作事例について報告する.そして,それらの提示する村の暮らしを研究者や外来者との対話のプラットフォームとして活用することにより,住民の知識の価値を共感でもって見出し,村人自身の再認識に役立てることに地理学知を活用することを提案する.
著者
松本 博之 森本 泉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-14, 2013 (Released:2013-04-19)
参考文献数
30
被引用文献数
1

今日われわれのフィールドワークという営みには調査による地域貢献の課題がつきまとっている.フィールドが海外になると,地域貢献は容易に達成できるものではない.われわれ地理学者が地域的差異の究明を研究目的に掲げているように,海外でのフィールドワークの成果を還元しようとすれば,地域社会の特性に応じて社会文化的な差異を越えなければならないからである.そこには,科学者の形づくる知の性質,還元を計る空間的な内実とスケール,還元を意識する研究者の立ち位置など,克服しなければならない数多の問題点がある.本稿は,それらの問題点の基本的な側面に検討をくわえ,望ましい知の還元への方途を模索する試みである.
著者
池 俊介 杜 国慶 白坂 蕃 張 貴民
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.208-222, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
15

中国の雲南省では,1990年代後半から農村地域における観光地化が著しく進んだ.しかし,外部資本により観光施設が建設され,観光地化が地域住民の所得向上や地域社会の発展に寄与していない事例も存在するため,地域住民による内発的で自律的な観光施設の運営を実現し,観光収入が農民の所得水準の向上に着実に結びつくような経営を行ってゆくことが大きな課題となっている.本稿では,納西族の農民により観光乗馬施設の自律的な共同経営が行われている雲南省北西部の拉市海周辺地域を対象として,その形成プロセスと共同経営の実態について調査した.その結果,平等な収益分配,投票によるリーダーの選出など,きわめて民主的な観光乗馬施設の運営が行われ,地元住民の所得向上にも貢献していることが明らかとなった.
著者
茅根 創 吉川 虎雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.18-36, 1986-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
17

海成段丘の形成過程を考察したり,それらを利用して地殻変動や海水準変動を論ずる場合には,現成の海岸地形に関する知見にもとついて,海成段丘を構成する諸地形要素の成因や意義などを明確にしておくことが重要である.このような視点から筆者らは,房総半島南東岸において,現成ならびに完新世に離水した浸食海岸地形の比較研究を行なつた. その結果,まず, (1) 現成の浸食海岸地形はベンチー小崖-海食台という-連の地形からなる地形系であり, (2) 汀線高度はベンチによって示されることを明らかにした。次に,房総半島南端に近い千倉町南部において,4群の離水したベンチ群一小崖一海食台系を認定し, (3) これまで汀線アングルと考えられていた小崖基部の傾斜変換線は,必ずしも旧汀線に対応しないこと, (4) これらの離水したベンチ群一小崖一海食台系は,4回の海食台まであらわれる3~6mの隆起と,それらの間に2~3回ずつはさまれたベンチだけが離水した1~2mの隆起との累積によつて形成されたことを明らかにした.

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出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.907-910,916_1, 1996-11-01 (Released:2008-12-25)
著者
呉羽 正昭
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2007年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.123, 2007 (Released:2007-11-16)

1.はじめに 日本におけるスキーの本格的移入は1911年のことである。当初,スキーは登山の手段やスポーツ競技として捉えられていた。しかしその後,レクリエーションとしてのスキー,いわゆるゲレンデスキーが発達し,1950年頃には本格的なスキー場開発が開始された。この当時は温泉地におけるスキー場開発が主体であったが,その後,農村や非居住空間へとスキー場開発が拡大した。 1980年代初頭から1990年代初頭にかけては,リゾート開発ブームとも連動し,スキー場開発は急激に大規模化した。輸送能力の高い索道が設置され,洋風レストラン・ホテルも整備された。ゲレンデでは,地形改変,人工降雪機や雪上車の導入によって快適な滑走コースがつくられた。また少積雪地域への開発もなされた。多分野からなる大都市からの資本が,こうした大量の開発に対して資本投下を行った。当時のスキー人口の急激な増加も,開発を進行させる基盤となった。 しかし,1993年頃以降,スキー人口は急激な減少を示すようになった。同時に,新規のスキー場開発は著しく減少し,また既存スキー場においても,施設の更新などがほとんど行われなくなった。さらに,スキー場の経営会社の倒産,それに伴う経営変更,スキー場自体の休業や廃業が目立ってきている。本研究では,現在の日本のスキー場に関するこうした諸問題について明らかにするとともに,空間的な側面から考察を加えたい。 分析に用いた資料は,国土交通省(旧運輸省)が監修する『鉄道要覧』(年刊)と,朝日新聞,日本経済新聞などの新聞記事である。さらに,業界誌なども参考にした。 2.スキー場開発の停滞 2003年までに,日本では約680か所のスキー場が開発されてきた。しかし,1994年以降に新規開発されたスキー場数は50以下である。これは,1980年から1993年に,230か所あまりのスキー場が誕生した事実と対照的である。また,既存のスキー場においても,1994年以降,新規にスキーリフトを設置し,拡大がなされた例はほとんどない。このように,近年の日本では,スキー場開発の停滞が顕著にみられるのである。この傾向は,主としてスキー人口の減少に基づいていると考えられる。『レジャー白書』によると,日本のスキー人口は,1993年に約1,800万人とピークを迎えたものの,現在ではその半数程度に減少している。スキーリフトの輸送人員の推移をみても,減少が著しい。その結果,スキー場経営に大きな問題が生じてきた。 3.スキー場経営の主体変更 スキー場経営の主体は索道事業であるが,スキー客数が減少した結果,日本のほとんどのスキー場では経営悪化に陥っている。バブル期の多額投資もこれに大きく影響している。こうした傾向下,1997年頃以降は,第3セクター形態の経営会社から大都市資本が撤退する例が目立っている。さらに,索道事業者の倒産もみられるようになってきた。北海道のトマム,福島県のアルツ磐梯,群馬県の川場などはその典型例である。これらの結果,索道事業者の変更が頻繁になされている。その形態はさまざまであるが,代表的なものとしては,第1に,一部の企業が問題あるスキーリゾートを複数買収し,経営する例が増えている。これには,「東急」グループ,北海道に拠点をおく「加森観光」,軽井沢に拠点のある「星野リゾート」などが該当する。第2に,外資系の投資会社によるスキー場買収が増えつつある。第3に,スキー場の再生を専門に行うコンサルタントが経営に参入するようになった。第4に,スキー場の存続を要望する市町村や住民団体による運営も存在する。こうしたスキー場経営の主体変更は,日本の全スキー場の半数程度でみられる現象である。 4.スキー場の閉鎖 スキー場の経営悪化は,その休業や閉鎖にまで至る場合もあり,2007年では,その数は100か所を超えている。とくに,小規模スキー場の廃業が目立っている。たとえば,北海道では市町村がスキー場開発をする場合が多かったが,現在までに20か所近くが廃業されている。いずれの場合も,スキー場経営による赤字が,緊迫する市町村財政を圧迫した結果である。また,西武鉄道系の開発会社「コクド」は,これまでの経営方針の変更を余儀なくされ,2007/08シーズンには同社のグループが経営する複数のスキー場の廃業がすでに決まっている。 本報告では,現在のスキー場に関するこうした諸問題を整理するとともに,それらの地域的傾向に注目し,さらには今後の展望も含めて紹介する。
著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.17, 2010 (Released:2010-11-22)

日本の観光は近年,物見遊山,団体客,発地型,一過性,通過型などを特徴とする形態から,体験・交流,個人客・小グループ,着地型,持続性,滞在型などを特徴とする形態へと変化してきた。これらの新しい観光は,「見る」「食べる」といった従来からの目的に加え,「体験する」「学ぶ」「癒す」「追体験する」という目的も顕在化している。このうち,「追体験する」ことを主目的とする旅行形態として,小説や映画,テレビ番組,歌,漫画,アニメなど,メディアを介して記録・伝送・鑑賞される映像や画像,音楽,文章などのコンテンツに関わる場所を訪ねるコンテンツ・ツーリズムが盛んになりつつある。本発表では,コンテンツ・ツーリズムの一つとしてアニメキャラクターを活用した観光をとりあげ,鳥取県境港市と同北栄町を事例に,自治体や地元企業,市民・NPOなどの関係機関が観光地づくりにどのように関わっているかという点を中心に報告する。すなわち,2つの事例について,アニメキャラクターを活用した観光まちづくりの実態を報告するものである。 アニメキャラクターを活用した観光まちづくりは,コンテンツの種類および地域との関わりという2つの視点から,いくつかのパターンに分類できる。コンテンツの種類からみると,アニメは商業系アニメ,芸術系アニメ,自生系アニメの3つに分類できる。また,地域との関わりからみると,題材型,ゆかり型,機会型の3つに分類できる。 鳥取県境港市は,漫画家・水木しげる氏が育った地であることに着目して,水木氏の代表作品である「ゲゲゲの鬼太郎」を活用した観光まちづくりを推進している。1992年から商店街(水木しげるロード)に「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪などのブロンズ像を設置したほか,鬼太郎列車の運行(1993年~),水木しげる記念館の運営(2003年~),各種イベントの実施などにより,水木しげるロードへの入込客数は1994年の約28万人から2008年には約172万人へと大幅に増加した。取組みの中心的役割を果たしたのは,当初は境港市役所であった。その後,商店街にブロンズ像が設置され,集客効果が実感できるようになると,鬼太郎音頭保存会(1996年),水木しげるロード振興会(1998年)など市民活動団体が組織されたほか,境港市観光協会や境港商工会議所も妖怪そっくりコンテストや境港妖怪検定,妖怪川柳コンテストなどユニークなイベントを主催した。また,水木作品(漫画およびその原画)の著作権を保有する水木プロダクションが,水木氏ゆかりの境港市のまちづくりに協力的であったことも,市内の各主体による取組みを後押しした。例えば,水木プロダクションはブロンズ像や記念館展示物のキュレイションを担当したほか,市内事業者が関連グッズを開発する際の著作権使用料を減免するなどした。 鳥取県北栄町は,「名探偵コナン」の原作者・青山剛昌氏が同町出身であることに着目し,1999年から「名探偵コナンに会える町」づくりを推進している。具体的に,1999年にJR由良駅と国道9号を結ぶ県道を「コナン通り」と命名し,7体のブロンズ像を設置したほか,2007年に青山氏の作品や仕事ぶりなどを紹介する「青山剛昌ふるさと館」を整備した。同記念館の入館者数は年間約64,000人(2008年)である。北栄町の取組みは,旧大栄町商工会が提案した「コナンの里」構想をきっかけに,旧大栄町役場が地域振興券に名探偵コナンをデザインしたことに始まる。その後も旧大栄町(2005年から北栄町)が名探偵コナンを冠したイベントを開催したり,観光プロモーションを展開したりした。活動が進展するに従い,町民の活動に対する認知度と参加意欲が高まり,2000年にはコナングッズを販売する「コナン探偵社」が町民有志によって設立された。北栄町では,町役場が漫画の著作権者である小学館プロダクションとの交渉を担当している。小学館プロダクションは,作品のイメージ保持と適切な著作権管理の観点から,著作物使用協議を慎重に行うほか,ふるさと館での展示方法や接客方法について北栄町役場に対してきめ細かく指導している。しかし,こうした慎重な協議ときめ細かな指導は,北栄町にとって時間的・精神的な負担,迅速な観光プロモーションへの障害となっている面があることも否めない。