著者
葉 倩 王韋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1.&nbsp;はじめに<br> オーストラリアでは近年人口増加が著しい。1996年から2011年の15年間に、人口は21.9%(1830万人から2230万人)増加し、同期間、外国生まれ人口は、41.6%(430万人から600万人)増加している。そのなかでも中国系人口は、15年間に3倍の人口に増え、これはインド(4倍増)に次ぐ増加率である。2012年における中国生まれは,イギリス、ニュージーランド生まれに次ぎ3番目に多く,移民人口の6.5%を占めている。近年の中国生まれ人口の特徴としては、若い世代が増加していることであり、これは留学生と若年層の熟練労働者の移民が増加していることに由来している。本研究では、近年における中国系移民増加による中国系の社会空間構造の変化について、首都キャンベラを事例に考察する。<br><br>2. 中国系移民の多様性<br><br> オーストラリアにおける中国系移民の歴史は19世紀半ばのゴールドラッシュの時期にまで遡る。白豪主義の影響で人口が激減するが1970年代以降増加に転じた。1970年以降増加した中国系移民の多くは香港および広東省出身であったが、近年増加しているのは中国(大陸)出身者である。中国系移民は、広東語を話す香港あるいは広東省出身者と北京語を話す中国大陸出身者におおむね分類され、これら2つのエスニックグループは出身時期が異なるため、居住地も異なる傾向がある。またそれぞれのグループ社会的属性も異なり、中国系コミュニティは重層化しつつある。<br><br>3. キャンベラにおける中国系住民の社会空間構造<br><br> 首都キャンベラは政治機能にきわめて特化した都市であり、官庁や行政機関、各国大使館がキャピタル・ヒルに集積し、またオーストラリア国立大学が立地している。こうした都市機能を背景に、住民は公務員と学生が圧倒的に多く、その特徴は移民の人口構成にもみられる。住民の民族別人口構成についてみると、2011年センサスでは、他の州都において外国生まれの上位3位は、1位イギリス、2位ニュージーランドあるいはインド、3位中国であるのに対し、キャンベラでは1位イギリス(外国生まれの17.6%)、2位中国(同8.3%)、3位インド(6.7%)となっており、他都市とは異なる特徴を持つ。中国系移民は、2006年人口から1.8倍(44,000人から80,000人)に増加しており、こうした状況は中国系住民の居住分布にも反映されている。すなわち、近年開発された北部郊外(Gungahlin)地区に中国系住民が急増しており、市中心部に多く居住する中国系オールドカマーとの居住分化の傾向が顕われ始めている。本報告では、キャンベラの中国系住民の社会空間構造の重層化の様相を探究する。<br>
著者
吉川 虎雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.552-564, 1971
被引用文献数
3

大地震の際におこった地殻変動の調査から生れた山崎直方先生の変動地形観は,その後の研究に大きな影響を与え,変動地形の研究はわが国の地形研究における一つの大きな柱として発展した.先生の変動地形観は,その後の研究によって改められるべき点も生じてきたが,基本的には正しいことが明らかになってきた.わが国における変動地形の研究は,現在ようやく山崎先生の意図しておられた段階に到達し,最近いちじるしい進展のみられる固体地球科学との連契を一層深めて,新しい段階に入るべき時期を迎えている.<br> 本稿では,変動地形について山崎先生が抱いておられた見解の中で,とくに現在の地殻変動と地形発達に関与した過去の地殻変動との関係についてのその後の研究の進展をのべ,地形構造の研究において今後とるべき一つの方向を論じた.
著者
新井 教之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p>サモアの地理教育の特色について,サモアの社会科,地理のシラバスや教科書をもとに分析を行った。サモアの地理教育はニュージーランドやオーストラリアの影響を受けていること,地球温暖化の対応など理科的な要素も強い特徴があった。</p>
著者
齋藤 仁 内山 庄一郎 小花和 宏之 早川 裕弌
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.347-359, 2016-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
30
被引用文献数
2 4

近年,小型の無人航空機とSfM多視点ステレオ写真測量により解像度1m以下の高精細な空中写真と地形データの取得が可能になり,地理学の分野においてもそれらの利用が急速に進んでいる.本研究の目的は,これらの技術を表層崩壊地の地形解析に応用し,詳細な表層崩壊地の空間分布と土砂生産量を明らかにすることである.対象地域は,2012年7月九州北部豪雨に伴い多数の表層崩壊が発生した阿蘇カルデラ壁の妻子ヶ鼻地域と,中央火口丘の仙酔峡地域である.結果,空間解像度0.04mのオルソ画像,および0.10mと0.16mのDigital Surface Modelsが得られた.妻子ヶ鼻地域と仙酔峡地域における土砂生産量は,それぞれ4.84×105m3/km2と1.22×105m3/km2であった.これらの値は過去に報告された同地域の表層崩壊事例の土砂生産量よりも10倍程度大きい値であり,阿蘇火山の草地斜面における1回の豪雨に伴う潜在的な土砂生産量を示すと考えられる.
著者
網島 聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.303-328, 2016-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
48

産業集積を維持・発展させる上で,ローカルで伝統的な制度・慣習がつねに有効に作用するとは限らない.本稿は明治から大正期に同業者間の紛争を経験した大阪の材木業同業者町を事例に,伝統的な制度・慣習が地域における同業者間の調整機能を阻害した要因について論じる.江戸期以来培われてきた材木流通に関する制度・慣習は,明治以降も材木業者間の関係を細かく規定していく.しかし,こうした制度・慣習の新たな法的根拠になった同業組合の規定は,材木取引の実態から乖離していた.明治後期からの流通経路の変化と材木流通の制度・慣習に対する改善要求の高まりによって,この乖離は表面化し,大阪における材木業者間の利害対立を調整する機能は機能不全に陥った.調整機能が不全に陥った要因として,同業組合のフォーマルな制度が同業者の実際の利害関係に即していないこと,材木流通の制度・慣習が非常に閉鎖的であったことの2点が指摘できる.
著者
澤田 康徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.107-117, 2016-05-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
19

本研究では,関東地方における対流性降水の発現頻度とその経年変化の地域性を明らかにし,風系との関連を検討した.アメダスの毎時資料(1980~2009年7, 8月)に基づき対流性降水を抽出し,各年における対象領域全体の発現頻度に対する各地点の降水発現率を算出した.対流性降水発現率の経年変化型は,大きく三つに類型化され,I型は北部山岳地域,II型は北部山岳地域の山麓域,III型は南関東の平野域にまとまって分布する.I型とIII型の対流性降水発現率の経年変化には有意な負の相関関係が認められ,I型で対流性降水発現率が高い(低い)年は海風の内陸への進入が明瞭(不明瞭)である.また,III型地域で対流性降水強度の経年変化が明瞭でない一方,その他の要因を含む降水全般の降水強度は増大傾向にある.これらの結果は,降水発現頻度や強度に関する経年変化を,従前活発に議論された南関東より大きな空間スケールからとらえ直すことの必要性を示唆している.