著者
川島 眞 石崎 千明
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.3, pp.275-284, 2007-03-20 (Released:2014-12-03)

医療用保湿剤の有効性を客観的に評価するために,健康成人に作製した人工的乾燥皮膚及びアトピー性皮膚炎患者の乾燥皮膚に対する保湿剤の効果を,皮膚生理学的パラメーター(角層水分量,経表皮水分喪失量)を指標として比較検討した.人工的乾燥皮膚に対するヘパリン類似物質含有製剤(ヒルドイド®ソフト),20%尿素含有製剤(尿素製剤)及びワセリンの保湿効果を,無作為割付によるランダム化比較試験で評価した.乾燥皮膚は,前腕内側部を対象部位として,アセトン/エーテル及び水で処置し作製した.試験薬は,1日1回計3日間塗布し,経日的に角層水分量及び経表皮水分喪失量を測定し,皮膚乾燥度を視診及びマイクロスコープで観察した.その結果,ヘパリン類似物質含有製剤及び尿素製剤は,角層水分量を有意に増加させた.ヘパリン類似物質含有製剤は角層水分量において,ワセリンに比べ有意に高い効果を示し,尿素製剤に比べ乾燥状態をより早く回復させることが示唆された.また,ヘパリン類似物質含有製剤,尿素製剤及びワセリンは,経表皮水分喪失量及び皮膚乾燥度を有意に改善した.次に,アトピー性皮膚炎患者を対象としてその乾燥皮膚に対するヘパリン類似物質含有製剤の保湿効果を検討した.前腕内側部を対象部位として,ヘパリン類似物質含有製剤を1日2回計3週間塗布した.1週間毎に角層水分量及び経表皮水分喪失量を測定し,また皮膚所見を視診で観察し,痒みの程度を問診した.その結果,ヘパリン類似物質含有製剤は,角層水分量及び皮膚所見を有意に改善したが,経表皮水分喪失量及び痒みは改善しなかった.以上より,皮膚生理学的機能異常の改善を目的に使用されているヘパリン類似物質含有製剤,尿素製剤及びワセリンの乾燥皮膚に対する有効性が示され,またヘパリン類似物質含有製剤はアトピー性皮膚炎患者の乾燥皮膚に対しても有効であることが示された.
著者
大谷 真理子 大谷 道輝 野澤 茜 松元 美香 山村 喜一 小茂田 昌代 江藤 隆史
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.39-43, 2012-01-20 (Released:2014-11-13)
被引用文献数
3

塗布量および塗布回数の違いによる保湿剤の効果を客観的に評価するために,人工乾燥皮膚を用いて検討した.ヒルドイド®ローションおよびヒルドイド®ソフト軟膏を1日1回朝0.5,2および3 mg/cm2あるいは1日2回朝および夜の入浴後2 mg/cm2を14日間アセトン/エーテルおよび水で処理した前腕部の屈側の人工乾燥皮膚に塗布した.角層水分量は塗布1,2,5,6,7,8,9,12,13および14日後に経時的に測定した.塗布量による比較では,ローション・軟膏とも電導度に有意差はなかった.塗布回数による比較では,1日2回はローション・軟膏ともにほとんどの測定時点で1日1回と比較して電導度が有意に高かった.本研究により,ヒルドイド®製剤では1日1回よりも2回塗布した方がより効果的であることが示唆された.
著者
成澤 寛
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.121, no.6, pp.1039-1045, 2011-05-20 (Released:2014-11-13)

掌蹠膿疱症は,手足,特に無毛部の手掌・足蹠に限局する無菌性膿疱を多発し,病理学的にKogoj海綿状膿疱を特徴とする.原因不明であり,慢性に経過し,皮疹が分布する範囲は狭いが,QOLが損なわれる.膿疱性乾癬とも類似するが,本邦では膿疱性乾癬とは異なる独立疾患と位置付けている.Hallopeau稽留性肢端皮膚炎も指趾に限局する無菌性膿疱を形成し,一般に膿疱性乾癬の特殊型とされるが非常に稀である.両者について解説する.
著者
塩原 哲夫
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.128, no.2, pp.177-182, 2018-02-20 (Released:2018-02-20)
参考文献数
9

アトピー性皮膚炎(AD)は皮膚のバリア機能異常により生ずるとの仮説が一般的である.しかし角層水分量の多くは安静時に皮溝から排出される基礎発汗によりもたらされることを考えると,発汗障害はADにおける皮膚の乾燥の最大要因である可能性がある.本稿では,如何にADの病態は発汗障害に伴って進展していくかを,我々のデータを元に概説する.とくにADの治療を考える上で,外用剤の発汗に対する影響についての認識は必須である.
著者
衛藤 光
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.599-605, 2012-03-20 (Released:2014-11-13)

爪に現れる変化には皮膚疾患による限局性のものと,全身性疾患による多くの爪に生じるものがある.代表的な全身性疾患による爪の変化には,爪甲剥離症;甲状腺機能亢進症,白い爪;腎障害・肝障害・炎症性腸炎,黄色い爪;気管支拡張症,黒い爪・爪甲色素線条;アジソン病・抗がん剤,赤い爪;先天性心疾患・多血症・薬剤性,匙状爪;貧血,ヒポクラテスの爪;肺癌・炎症性腸炎・HIV感染症,爪甲萎縮症;扁平苔癬・アミロイドーシス,爪囲紅斑・爪上皮延長・爪上皮出血点;膠原病,爪甲脆弱化を伴う爪囲炎;分子標的薬(EGFRI)がある(表).
著者
藤井 のり子 斎藤 万寿吉 坪井 良治
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.1245-1250, 2013-06-20 (Released:2014-10-30)

2012年12月20日から2013年2月4日の47日間に,当科で経験した風疹患者22名について,臨床症状,検査所見を検討し報告した.男性20名,女性2名.男性は20~44歳,女性は24歳,35歳であった.全例に発熱を認め,38°C以上は8名(36%)いた.播種性紅斑丘疹型の皮疹を全例で認め,20名(91%)に融合傾向がみられた.耳後部または顎下リンパ節腫脹は19名(86%)にあり,結膜充血は全例にみられた.成人風疹は小児例と異なり,臨床症状が重症であると思われた.全例で風疹IgM抗体を測定し陽性であった.初診時のIgM抗体が陰性であってもその後の再検査で陽性となった者が7名おり,症状出現初期ではIgM抗体は陽性となりにくく,およそ3日目から陽性率が上がると考えられた.詳細な問診から,市内にあるパチンコ店A店を風疹発症の2~3週間以内に利用した人が14名おり,閉鎖空間である店内での感染拡大が推測された.わが国では風疹ワクチン接種率の低い世代がおり,特に26~34歳男子の感受性者が多く,今回の罹患者もこの世代に集中していた.風疹は,2012年の中ごろから首都圏や関西で大流行しており,2013年2月現在,収束の兆しは認めておらず,今後の増加が懸念される.
著者
日本皮膚科学会疥癬診療ガイドライン策定委員会 石井 則久 浅井 俊弥 朝比奈 昭彦 石河 晃 今村 英一 加藤 豊範 金澤 伸雄 久保田 由美子 黒須 一見 幸野 健 小茂田 昌代 関根 万里 田中 勝 谷口 裕子 常深 祐一郎 夏秋 優 廣田 孝司 牧上 久仁子 松田 知子 吉住 順子 四津 里英 和田 康夫
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.125, no.11, pp.2023-2048, 2015-10-20 (Released:2015-10-22)
参考文献数
185

Here, we present our new guideline for the diagnosis and treatment of scabies which we, the executive committee convened by the Japanese Dermatological Association, developed to ensure proper diagnosis and treatment of scabies in Japan. Approval of phenothrin topical use under the National Health Insurance in August 2014 has contributed to this action. Permethrin, a topical anti-scabietic medication belonging to the same pyrethroid group as phenothrin, is already in use worldwide. For making proper diagnosis of scabies, following three points should be taken into consideration: clinical findings, detection of the mite(s) (Sarcoptes scabiei var. hominis), and epidemiological findings. The diagnosis is confirmed when the mites or their eggs are identified by microscopy or by dermoscopy. As we now have a choice of phenothrin, the first line therapy for classical scabies is either topical phenothrin lotion or oral ivermectin. Second line for topical treatment is sulfur-containing ointments, crotamiton cream, or benzyl benzoate lotion. Gamma-BHC ointment is no more provided for clinical use. If the patient is immunosuppressed, the treatment option is still the same, but he or she should be followed up closely. If the symptoms persist, diagnosis and treatment must be reassessed. For hyperkeratotic (crusted) scabies and nail scabies, removal of thick scabs, cutting of nails, and occlusive dressing are required along with topical and/or oral treatments. It is important to apply topical anti-scabietic lotion/cream/ointment below the neck for classical scabies or to the whole body for hyperkeratotic scabies, including the hands, fingers and genitals. For children and elderlies, it is recommended to apply treatment to the whole body even in classical scabies. The dosage for ivermectin is a single oral administration of approximately 200 μg/kg body weight. It should be taken on an empty stomach with water. Administration of a second dose should be considered at one-week with new lesions and/or with detection of mites. Safety and effectiveness of combined treatment with topical and oral medications are not yet confirmed. Further assessment is needed. Taking preventative measures is as important as treating those infected. It is essential to educate patients and healthcare workers and conduct epidemiological studies to prevent further spread of the disease through effectively utilizing available resources including manpower, finance, logistics, and time. (Jpn J Dermatol 125: 2023-, 2015)
著者
川島 眞 沼野 香世子 石崎 千明
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.6, pp.969-977, 2007-05-20 (Released:2014-12-03)
被引用文献数
2

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)患者の乾燥皮膚における医療用保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤,尿素製剤及びワセリン)の有用性を評価するために,角層水分量,経表皮水分喪失量(TEWL),皮膚所見及び痒みの程度を指標として,ランダム化比較試験を実施した.ADの炎症が鎮静化した乾燥症状を主体とする左右前腕屈側部を対象とし,試験薬を1日2回3週間塗布し,その後1週間は観察期間とし,対象部位にはいかなる処置も行わなかった.その結果,全ての保湿剤において外用期間中は角層水分量の有意な増加が認められた.なかでもヘパリン類似物質含有製剤群は,尿素製剤及びワセリン群に比べ,より高い角層水分量を示し,観察期間においてもその効果は持続した.皮膚所見及び痒みも,全ての保湿剤で有意な改善が見られたが,TEWLは改善しなかった.以上より,今回試験した保湿剤は,いずれもAD患者の皮膚生理学的機能異常を改善することが確認され,さらに,ヘパリン類似物質含有製剤は尿素製剤及びワセリンよりも優れた保湿効果を有することが示された.
著者
上出 良一
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.1165-1170, 2010-05-20 (Released:2014-11-28)
被引用文献数
1

光線過敏症を発現する薬剤は時代と共に変遷する.古くからサルファ剤,フェノチアジン系向精神薬,チアジド系降圧利尿薬,スルフォニル尿素系経口糖尿病薬,グリセオフルビンなどが知られていた.その後,ピロキシカムやアンピロキシカムによるものが多発し,最近ではニューキノロン系抗菌薬によるものが記憶に新しい.ケトプロフェン外用薬による光アレルギー性接触皮膚炎も多発している.ごく最近,血圧降下薬の合剤中のヒドロクロロチアジドによる例が増えており,また,新発売の肺線維症治療薬であるピルフェニドンは半数以上で光線過敏症が生じる.
著者
福永 淳
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.127, no.8, pp.1745-1750, 2017

<p>コリン性蕁麻疹は運動や緊張などの発汗刺激に伴い発症する刺激誘発型の蕁麻疹である.日中の活動時を中心に,発汗に伴いそう痒やチクチクとした刺激感を伴った小型の点状の膨疹,紅斑が出現する.まれにアナフィラキシーや血管性浮腫などの重篤な症状を呈することもある.コリン性蕁麻疹にはその病因,臨床的特徴からいくつかのサブタイプがあることが知られてきている.コリン性蕁麻疹の病因には,ヒスタミン・アセチルコリン・汗アレルギー・血清因子・発汗異常などが関与し,各サブタイプによって病因は異なると推定されている.発汗低下を合併する減汗性コリン性蕁麻疹はAcquired idiopathic generalized anhidrosis(AIGA)と同一スペクトラムの疾患であり,治療法が他のサブタイプと大きく異なるために鑑別診断が重要である.コリン性蕁麻疹類似の皮疹を呈するその他の疾患についても解説する.</p>
著者
森戸 浩明
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.1339-1344, 2017-05-20 (Released:2017-05-22)
参考文献数
18

39歳,女性.右大腿部をイトグモ(Loxosceles rufescens)に咬まれた.受傷後約6時間より局所の疼痛,発熱および全身の紅斑が出現し,受傷後約20時間で“red, white, and blue sign”がみられた.第30病日に長径約10 cmの最大潰瘍になったが,受傷後約4カ月には小潰瘍をのこして瘢痕上皮化した.イトグモは壊死性皮膚病変の原因となり,日本にも生息していることが知られている.自験例は,イトグモの確認と同定ができたイトグモ咬症(loxoscelism)の本邦第1例目である.
著者
江川 清文
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.124, no.14, pp.3149-3156, 2014-12-20 (Released:2014-12-25)
参考文献数
43

粘膜型HPV感染症は性感染症の一つであるが,病因・病態論的多様性と共に不顕性感染の多いことが分かり,無症候性キャリアーの問題が出て来ている.したがって粘膜型HPV感染症は,顕性病変である尖圭コンジローマやボーエン様丘疹症等“clinical infections”の他に,通常では病変を認めない“subclinical infections”や“latent infections”を念頭に考える必要がある.本稿では,粘膜型HPV感染症の多様性,診断・治療面でのトピックスや性感染症としての最近の動向と問題について述べた.
著者
細矢 光亮
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.124, no.10, pp.1913-1917, 2014-09-20 (Released:2014-09-25)
参考文献数
6

エンテロウイルス感染症の症状は,非特異的発熱が最も多く,時に手足口病,ヘルパンギーナ,発疹症,無菌性髄膜炎,急性出血性結膜炎などの特異的病態を呈する.まれに,脳炎・脳症,ポリオ様麻痺性疾患,心筋炎・心膜炎,流行性筋痛症,肝炎などを呈することもある.臨床像とウイルス血清型に関連性があり,手足口病とコクサッキーウイルスA16やエンテロウイルス71,ヘルパンギーナとコクサッキーウイルスA群,脳幹脳炎とエンテロウイルス71,心筋炎とコクサッキーウイルスB群などである.
著者
飯島 茂子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9, pp.1847-1854, 2011-08-20 (Released:2014-11-13)

尋常性痤瘡には遺伝素因,皮脂分泌の亢進,男性ホルモンなどの内分泌的因子,毛漏斗部の角化異常,Propionibacterium ancesなどによる細菌学的素因,炎症反応などが関連して発症する.その結果,毛包内に角質・皮脂が充満した面皰が形成され,細菌性リパーゼ・菌体外酵素・活性酸素などによる炎症性の紅色丘疹,膿疱が出現する.治療にはこれらの病態生理を理解した上での戦略が必要である.その他の痤瘡性疾患や鑑別すべき疾患についても言及した.
著者
常深 祐一郎 五十嵐 敦之 佐伯 秀久 宮地 良樹 川島 眞
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.131, no.6, pp.1511-1524, 2021-05-20 (Released:2021-05-20)
参考文献数
23

皮脂欠乏症に対する認識とその治療実態を把握するために,皮膚科,小児科を始め複数の診療科の医師1,088名にアンケートを実施した.その結果,臨床現場では,皮膚科医に限らず広い領域の診療科の医師は,多くの疾患や状態が皮脂欠乏症をきたしうることを認識しており,その皮脂欠乏症は治療が必要で,医療用保湿剤が重要であると考えている.一方で多くの医師は軽症の場合には医療費も意識してセルフメディケーションを活用することや,美容目的には処方しないようにしているなど,保険診療の枠組みも意識していることが明らかになった.