著者
小島 康夫 工藤 弘
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

北海道に生育する植物一特に樹木を中心として、そのアレロパシー作用の有無を検討した。この研究では主にアレロパシー効果を種子発芽と幼杯軸の伸長に対する阻害作用に基づいて評価を行った。北海道における樹木では、グイマツ、シンジュ、ヒバ、サトウカエデ、ナナカマド、ホオノキ、ハリエンジュに強いアレロパシー活性が認められ、次いでクルミ科4種(オニグルミ、ヒメグルミ、サワグルミ、クログルミ)、カツラ、トドマツ、ミズナラにある程度の活性が認められた。草本では、クマイザサ、ラワンブキ、ミジバショウに強いアレロパシー活性が認められたこれらのうち、ナナカマド、クルミ、シンジュ、ササ、フキについて、アレロパシー活性の季節的変動、組織部位(例えば葉と茎と根など)による変動、活性成分と思われる物質の検索について、さらに詳しく検討を行った。ササについては、多年生のために季節的な変動は少なく、通年にわたりアレロパシー活性が認められた。ササの新芽には活性が認められない。部位の比較では、葉、茎に関して極性の高いフラクション(酢酸エチル可溶部やエタノール可溶部)に強い活性が認められ、根ではエタノール可溶フラクションとともに、極性の低いヘキサン可溶部でも強い活性を示した。フキでは秋に採取した根に活性が示され、ヘキサン可溶部からアレロパシー物質含むフラクションを特定することができた。ナナマカドでは、果実とともに葉にも強い活性が認められた。特に秋に強い活性が示されている。同様に、ミズナラでも秋に強い活性が示され、根、樹皮、根ともに活性があることを示した。一方、シンジュでは、秋よりも春から夏にかけて強い活性が示され、特に根に活性成分が多く含まれることが示唆された。
著者
権 錫永
出版者
北海道大学
雑誌
北海道大学文学研究科紀要 (ISSN:13460277)
巻号頁・発行日
vol.126, pp.37-60, 2008-11-28
著者
日置 幸介 齋藤 昭則
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

地震や火山噴火に伴う電離圏擾乱はドップラー観測などによって以前から知られていたが、我が国の稠密GPS観測網であるGEONETによって電離圏全電子数(TEC)として手軽かつ高時間空間分解能で観測できるようになり、多くの知見が得られた。その一つが2003年9月26日の十勝沖地震に伴う電離圏擾乱で、震源から上方に伝搬してきた音波が、電子の運動と地球磁場の相互作用であるローレンツ力を受けて生じる擾乱伝搬の方位依存性が明らかになった。また正確な伝搬速度が初めて求められ、この擾乱が地表を伝わるレーリー波や大気の内部重力波ではなく、音波によるものであることが明快に示された。これらの知見を基礎に、スマトラ地震による電離圏擾乱から震源過程を推定するという世界初の試みを行った。その結果地震計では捕らえられないゆっくりしたすべりがアンダマン諸島下の断層で生じたことを見出した。その論文は米国の専門誌JGRで出版された。また2004年9月1日の浅間山の噴火に伴う電離圏擾乱が確認された。これは火山噴火に伴う電離圏擾乱の初めてのGPSによる観測である。アメリカの炭坑でエネルギー既知の発破を行った際に生じた電離圏擾乱が過去に報告されているが、それとの比較により2004年浅間山噴火のエネルギーを推定することができた。この研究は米国の速報誌GRLに掲載された。さらに太陽面爆発現象に伴って生じる電離圏全電子数の突発的上昇のGPSによる観測結果をまとめたものを測地学会誌で報告した。今年度は、2006年1月に種子島から打ち上げられたH-IIAロケットの排気ガスの影響による電離圏の局地的消失現象をGEONETで観測した結果およびそのモデルをEPS誌に発表した。電離圏の穴は電波天文学に応用可能であるだけでなく、GPS-TEC法による穴の探査は地球に衝突する彗星の発見にも応用できる将来性のある技術である。また地震学会の広報誌である「なゐふる」に地震時電離圏擾乱の解説文を掲載して、その普及に努めた。
著者
大矢 繁夫
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.1-9, 2008-12-11

商業銀行は、その本質的機能である信用創造によって、資産と負債の両側を同時に膨張させる。そのとき、やがて劣化が必然であるような資産も抱え込む。このことは避けられない。資産劣化は事後に判明するからである。劣化が必然的な資産とは、バブル的に価格上昇した資産やそれを担保にした貸出し等である。銀行の信用創造は、どこまで厳格な資産審査をできるかにもよるが、上のことを避けられない。信用創造は、銀行資産の「架空」化をもたらさざるをえない、という認識である。以上の認識を前提に、本論文では、まずドイツの銀行の信用創造能力の高まりを追った。銀行の信用創造能力を高めるのは、現金取引の縮減であり、それをもたらすキャッシュレス・ペイメントの進展である。まずこの状況を追った。次いで、ドイツの銀行は高められた信用創造能力によって、「架空」資産をいかに抱え込んだかを把握しようとした。銀行は「架空」資産の抱え込みに慎重でありうるとしても、それを完全には回避しえない。そうであるならば、金融当局は、そのことをどのように認識し、対応しようとするのか、最後にこの問題を検討した。
著者
中村 孝司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

リンパ節へ優れた移行性を示す微小サイズの脂質ナノ粒子、リンパ節内のT細胞へ効率的に取り込まれる微小サイズ負電荷脂質ナノ粒子、抑制性樹状細胞の抑制性遺伝子IDO1をノックダウン可能なsiRNA搭載脂質ナノ粒子、免疫細胞への毒性を軽減する戦略に関する知見を得ることができた。特に、マイクロ流路デバイスを用いて調製した脂質ナノ粒子によるリンパ節デリバリーに関する成果は世界初である。これらの成果は、リンパ節を標的とした脂質ナノ粒子によるがん免疫療法の開発に有用な知見を与える。
著者
有川 二郎 杉山 和良 高島 郁夫 森松 組子 王 華 CLARENCE Peters WANG Hua CLARENCE Pet 宋 干 李 徳新 ANTTI Vaheri BO Niklasson 網 康至 伊勢川 裕二 五十嵐 章
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

1. 研究分担者、杉山和良らは中国、北京市と西安市近郊で野生げっ歯類の捕獲調査を実施し、2地区より100例のげっ歯類が得られ抗体および抗原の分布を明らかにした。2. 中国側研究分担者、李徳新を3カ月間、日本側研究機関に招聘し、得られた材料の解析を行い、中国由来2株のウイルスの遺伝子配列が一部決定され、日本側流行株よりもむしろ韓国由来株に近縁であることが明らかになった。3. 研究代表者、有川二郎と研究分担者、森松組子は米国側研究分担者、Petersを訪問し、世界各地での本ウイルス流行状況と遺伝的解析方法についての最新情報を得た。4. 研究分担者、Vaheri(フィンランド)をわが国に招聘し、北欧地域調査と北欧由来およびアジア由来ウイルスの相互比較の可能性について情報交換と将来計画を検討した。5. 研究代表者有川と研究分担者、高島は、英国、オーストリアおよびスロバキア側研究分担者の所属研究機関を訪問し、欧州におけるハンタウイルス感染症流行地域拡大に関する情報を得た。病原性の高い血清型(Dobrava型)である可能性についても情報を得た。6. 研究分担者、森松、苅和は英国側研究分担者の研究所を訪問し、遺伝子再集合ウイルス作製法ならびにReverse genetics法に関する最新の情報を得た。7. 研究代表者、有川および研究分担者、森松、高島、苅和は、韓国側研究分担者、李鎬汪の研究所を訪問し韓国流行株との比較解析に関する情報収集を行った。8. 中国側研究分担者(王 華)をわが国に招聘し、中国の人と動物由来ウイルスの遺伝子の相互関係の解析を実施中である。現在までに約50株の遺伝子の増幅に成功した。9. 中国側研究分担者(陳 化新)をわが国に招聘し、中国の野生げっ歯類の生態とハンタウイルス流行との関係について情報収集を行った。
著者
田辺 一夫
出版者
北海道大学
巻号頁・発行日
1999-12-24

近年,送電線の高電圧化・大型化にともない,その計画・設計・運用に際しては,環境問題に対する充分な配慮が必要となってきている。交流送電線の電線からはコロナ放電が発生することがあるが,この放電に起因する環境問題にコロナ騒音がある。コロナ騒音には約500Hzから20kHz程度までの可聴周波数成分を有する不規則性の騒音成分(ランダム騒音)と電源周波数とその偶数倍の周波数の純音成分とがある。この純音成分のうち,通常,電源周波数の2倍の周波数成分(日本の西地域では120Hz,東地域では100Hz)の騒音レベルが大きく,これをコロナハム音という。このコロナ騒音はUHV交流送電線の電線設計における支配要因とされ,とくにその対環境設計においては極めて重要な要因である。ランダム騒音に関しては,早くから国内外において注目され,その性質は詳細に解明されているが,コロナハム音についての研究成果は散見される程度である。このようにコロナハム音に関する研究成果が少ないのは,定在波の形成,電線表面状態や気象条件等の影響による大幅な発生量の変動のために,その取り扱いが難しかったためと考えられる。しかしながら,コロナハム音は,(1)純音であるため,地表面や建物による反射により空間的に定在波を形成し,騒音レベルが位置によって大きく変わること,(2)自然界にはあまりない音質であること等から人に感知されやすく,環境問題としては,むしろ,ランダム騒音よりも重要度が高い。このため,送電線沿線の環境保全を図るためには送電線下のコロナハム音レベルを的確に予測し,その環境影響を評価した上で電線設計に反映させることが肝要である。このような要請に応えるため,本研究ではコロナハム音に関し,以下の項目について理論的実験的検討を行ってきた。すなわち,(1)発生状況,(2)音場分布,(3)騒音レベル予測法,(4)低減対策である。まず,コロナハム音の発生状況について,UHVコロナケージならびに実規模試験線等により実験的検討を行った。これより,コロナハム音の発生状況について考察を加え,次の諸点を明らかにした。(1)発生量は導体方式,電圧,ならびに降雨強度等の気象条件に大きく影響される。(2)電線表面のエージングの進行によって発生量は大幅に低減するが,風騒音対策用のスパイラル線の取り付けば発生量を大幅に増大させる 次に・コロナハム音の音場分布について実験的解析を行った。まず,平地における音場分布の空間的な統計的性質について調べた。コロナハム音は送電線下に複雑な定在波を形成する。したがって,線下のコロナハム音を評価するには音場分布の空間的な統計的性質を把握することが重要である。実規模試験線によるコロナハム音レベルの測定結果から得られる統計的分布とランダムウォークモデル(各相から発生するコロナハム音はランダムに加算されるとするモデル)によるシミュレーション結果はよく一致し,コロナハム音レベルの統計的分布についてはこのモデルが適用できることを明らかにした。このランダムウォークモデルによって,送電線の任意の相数(音源数)における場合のコロナハム音レベルの統計的分布の予測も可能となった。また,コロナハム音の音場分布に対する谷間の影響について調べた。送電線が谷越えをするような場合には,谷を形成する斜面がコロナハム音を反射し,谷間に音が‘篭る’ような現象があることを,代表的な谷間地形であるV字谷ならびにU字谷(中央部に平坦地あり)の模型による実験から初めて明らかにした。V字谷を形成する斜面部の斜面角に対する平均的な音圧レベルの上昇率は0.1dB/度であり,U字谷の場合には平坦地の幅にもよるが斜面部の斜面角が約30度を超えると音が篭ることが分かった。さらに,音場分布をシミュレートするためのアルゴリズムを新たに開発した。本手法によりV字谷ならびにU平谷の場合について音場分布を求めた。シミュレーション結果と実験結果とを比較すると,斜面角に対する音圧レベルの変化や音圧レベルの上昇値などにつき,よい一致が得られた。これらの解析結果をもとに,コロナハム音の予測法を開発した。送電線下のコロナハム音レベルは,時間的にも空間的にも変動する。したがって,送電線下のコロナハム音レベルを評価するには‘時空間平均値(時空間にわたる平均値)’を用いることが実際的である。降雨時に発生するコロナハム音について,UHVコロナケージと実規模試験線による試験データから,この時空間平均値を計算する予測法を新たに開発した。本予測法は導体方式,送電電圧,降雨強度,ならびにスパイラル線の有無を考慮できる比較的簡単な実験式からなり,送電線の電線設計において容易に使用でき,実用的であることが特徴である。本研究の結果を総合することにより,コロナハム音と風騒音の協調低減対策を考案した。実規模試験線による長期連続試験から,各相電線の素導体配列の非対称化と添線の付加によりコロナハム音を低減できることを実証し,あわせてこれらが実際の送電線に適用できることを明らかにした。以上,本研究の成果により,(1)これまで不明であったコロナハム音の諸特性が明らかとなった。(2)実用性の高いコロナハム音レベルの予測が可能となった。(3)コロナハム音の低減対策の実用性を実規模試験により確認した。これらの成果は,すでにわが国初のUHV送電線の設計に活用されている。また,将来の新設送電線の計画・設計・運用に際し有用であると考える。
著者
岩佐 奈々子
出版者
北海道大学
巻号頁・発行日
2019-03-25

2007年9月に国連で採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言 (The United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples) 」(以下UNDRIP)は、世界の先住民族の人々に、人権や権利の享受、生活の向上、慣習、文化、伝統、教育などに関する国際的な指針をもたらした。しかし、先住民族の多くが、先住民族社会の一員でありながら、同時に国民でもあるために、帰属する主流社会の歴史的、政治的、社会的な影響を受け続け、様々な困難な状況の中に置かれている。また、先住民族の人々が住む社会は、先住民族社会と主流社会という二つの社会が重なる二重性が存在し、不可視化されている。そのために、その関係性から生じる社会的な課題にも二重性が内包されており、たとえ課題解決が試みられたとしても、その解決方法は社会の制度下で模索されるために、その解決策や結果に主流社会の世界観や価値観が反映されてしまい、先住民族の世界観や価値観が置き去りにされ、根本的な解決につながらないことが多い。日本の先住民族であるアイヌ民族の人々の場合、海外の先住民族の人々と同様に社会的な二重性が存在し、その二重性が不可視化されている。本研究では、この社会的二重性から生じるアイヌの人々の心理的二重性の形成過程を考察し、アイヌの人々の心理的二重性からの解放につながる学習を、フレイレが示す課題提起教育の「意識化」を用いて新しい課題提起学習として考えることにする。その学習活動をシミュレーション&ゲーミングというゲーム学習で開発し、その学習実践から、新しい課題提起学習における学習機能とその意義についての検討を行う。
著者
樋渡 雅人
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.3-26, 2010-09-10

本稿は,日本の伝統的な村落社会を特徴付ける「自治村落」概念との比較の視座から,ウズベキスタンにおける地縁共同体「マハッラ」の特徴を考察したものる「自治村落」の場合と同様に,ウズベキスタンのマハッラ,とくに自治的機構としての「マハッラ委員会」の性格は,上部権力の統治や介入の歴史的経緯によって強く規定されてきた。一方で,現在のマハッラ委員会の「公権力」的な権限や諸機能は,法的枠組みや上部権力の権威に依拠する側面はあるものの,同時に,そこに居住する諸個人の活動によって日々再生産されているという側面がある。本稿では,こうした村落内部の組織化の過程にも着目しつつ,現在のマハッラの性格を検討する。前半において,「自治村落論」の骨子や,マハッラの歴史的,政治的背景を概観する。後半において,アンディジャン州のマハッラの具体事例を扱い,マハッラの組織的構造を検討する。とくに,住民間の共同関係(血縁,講,その他の社会的紐帯)に注目し,マハッラ委員会の存立基盤としての共同関係の役割を,主体間の重層的な関係性に基づくネットワーク・モデルの構造パラメータの推計を通して把握する。