著者
太田 敬子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、非ムスリム統治法や統治制度の正当性を巡るムスリム知識人の議論、具体的にはナジュラーンのキリスト教徒の法的処遇に関する議論を分析した。その結果、異教徒統治制度の整備・発展には、異教徒統治理論の確立が不可欠であったこと、その理論は9~10世紀に輩出した法学書・歴史書・ハディース集における様々な議論を基礎として発展し、またその時代の政治・社会情勢に大きく影響されていたことを実証的に確認した。
著者
寺岡 隆 真弓 麻実子 中川 正宣 瀧川 哲夫
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

実験ゲーム研究における「因人のジレンマ」とよばれている心理学的事態は、いわゆる個人合理性と集団合理性に関する社会動機間の葛藤を示す典型的事態である。こ事態が何回も繰り返される場面では、この事態に参加するふたりのプレイヤーの選択は、しばしば最適解でない共貧状態に陥ってしまうことが多いが、この状態から共栄状態へ脱出するにはどうしたらよいかという問題がこの領域におけるひとつの主題になっている。本研究は、この主題を統制者が選択する反応系列によって相手側に協力反応を選択せざるを得ないようにする方略に関する視点と相手側に事態を規定している利得構造をいかに把握させるかという事態認知と情報統制とに関する視点に焦点をあてたものである。前者は「TITーFORーTAT」とよばれる方略,後者は申請者によって提起された「合成的分解型ゲーム」というパラダイムを基盤とする。本研究の目的は、これらのパラダイムが共栄状熊の実現に有効になり得るかということを実験的に検討することにある。本報告書は2部から成り、第1部はTIT-FOR-TAT方略に関する3系列の実験的研究,第2部は合成的分解型ゲームに関する2系列の実験的研究の成果を述べたものである。第1部における実験研究では、1)TIT-FOR-TAT方略には種々の型があり目的によって最適方略が異なること、2)利得和最大化のためには、可能ならば同時TIT-FOR-TAT方略が最適であること、3)利得差最大化にためには、当実験条件下では倍返しTIT-FOR-TATが最適であったこと、4)報復の遅延は効果を減ずること、などの結果が得られた。第2部における実験研究では、1)合成的分解型ゲームは理論的に標準的分解ゲームより効果があるにしても、そのままでは大きな効果を示さなかったこと、2)情報の統制効果は大で、相手に統制者の利得条件を示さない場合や相互の利得を示さない場合はとくに顕著であることなどの結果を得た。
著者
平本 健太 小島 廣光 岩田 智 谷口 勇仁 岡田 美弥子 坂川 裕司 相原 基大 宇田 忠司 横山 恵子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究によって解明された戦略的協働を通じた価値創造は,21世紀の社会の課題に挑むための方法の1つである.この戦略的協働は,今日,世界中で急速に増加しつつあり,多元的な社会的価値の創造に対して大きな潜在力を秘めている.3年間の研究プロジェクトの結果,戦略的協働を通じた価値創造に関する7つの協働プロジェクトの詳細な事例研究を通じて,戦略的協働の本質が明らかにされた.われわれの研究成果は,18の命題として提示されている.これら18命題は,(1)参加者の特定化と協働の設定に関する命題,(2)アジェンダの設定を解決策の特定化に関する命題,(3)組織のやる気と活動に関する命題,(4)協働の決定・正当化と協働の展開に関する命題の4つに区分されて整理された.本研究の意義は,大きく次の3点である.第1に,戦略的協働を通じた価値創造を分析するための理論的枠組である協働の窓モデルが導出された.第2に,戦略的協働を通じた価値創造の実態が正確に解明された.第3に,戦略的協働を通じた価値創造に関する実践的指針が提示された.
著者
上田 哲男 中垣 俊之 中垣 俊之 高木 清二 西浦 廉政 小林 亮 上田 哲男 高橋 健吾
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

巨大なアメーバ様細胞である真正粘菌変形体の特徴を活用し、細胞に秘められたる計算の能力を引き出す実験を行うと共に、その計算アルゴリズムを細胞内非線形化学ダイナミクスに基づいた数理モデルを構築し、解析・シミュレーションした。(1)粘菌による最短経路探索問題(スタイナー問題、迷路問題)の解法:粘菌を迷路内に一面に這わせ、2点(出入り口)に餌を置く。粘菌は餌に集まりながら迷路内に管を形成するが、迷路内の最短コースを管でつなぐ(迷路問題を解いた)。粘菌を限られた領域内で一様に広がらせて、何箇所かに餌を置き、領域内部での管パターンの形成を見る。2点の場合、最短コースで結ぶ管が、3点の場合、中央で分岐したパターンが、4点の場合、2箇所で3つに分岐するパターンというスタイナーのミニマム・ツリーが形成された。(2)粘菌における最適ネットワーク(最短性、断線補償性、連絡効率)設計問題:粘菌の一部を忌避刺激である光で照射し管形成をみた。粘菌は危険領域を短くし、丁度光が屈折(フェルマーの定理)するように、管を作った。このように管パターン形成には環境情報をも組み入れられている。複数個に餌を置くと、最短性のみならず、一箇所で断線しても全体としてつながって一体性を維持する(断線補償性)という複数の要請下で管形成をすることがわかった。(3)管構造の数学的表現と粘菌の移動の数学的表現:振動する化学反応を振動子とし、これらが結合して集団運動する数理モデルを構築した。全体の原形質が保存されるという条件、粘菌の粘弾性が場所により異なるという条件を入れることで、粘菌の現実に合うような運動を再現することができた。(4)アルゴリズム:管は、流れが激しいとよりよく形成され、逆に流れが弱いと管は小さくなっていく。この管形成の順応性を要素ダイナミクスとして取り入れ、グローバルな管ネットワーク形成の数理モデルを構築した。迷路問題、スタイナー問題、フェルマー問題等実験結果のダイナミクスまでもシミュレートできた。
著者
中島 孝一
出版者
北海道大学
雑誌
哲学 (ISSN:02872560)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.右63-右77, 2005-07-17

In this paper I characterize the method of Wittgenstein's later philosophy as "quasinatural historical consideration" and sketch its important aspects. What is essential to his way of dealing with philosophical problems is to invent imaginary language games in order to compare them with the facts of our real language games. These imaginary language games are invented by modifying various facts of "natural history" of existing language games. They make our own particular ways of understanding our language visible and enable us to survey (übersehen) its grammar. From this perspective we will be able to interpret Wittgenstein's later writings on diverse subjects consistently and properly.
著者
千葉 惠
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

『魂論』二巻の「魂」の定義に用いられる「力能(dunamis)」そして「完成(entelecheia)」の概念を、その対となる「実働(energeia)」の概念とともに明確に理解するに至った。従来「可能態」と「現実態(energeia =entelecheia)」等と訳されてきたが、これでは精密な議論の展開を正確に理解できない。アリストテレスはロゴスとエルゴンという二つの視点から魂を把握した。ロゴスにおいて事物の一性を開示する「力能」と「完成」の対により「魂」の定義「力能において生命を持つ自然的物体の第一の完成」が提示される。エルゴンは今ここにおいて捉えられる。二巻は従来と異なる翻訳である。
著者
佐々木 憲介
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.105-125, 2001-12-11

経済学における理論派と歴史派との論争といえば、オーストリア学派の創始者C.メンガーとドイツ歴史学派の総帥G.シュモラーとの間に起こった「方法論争」が有名であるが、実は類似の性格をもった論争が、攻守所を変えて、イギリスでも行われていた。ジョン・ケルズ・イングラム(John Kells Ingram, 1823-1907)は、イギリスにおける方法論争の重要な一翼を担った人物であり、オーギュスト・コントの観点から古典派経済学を批判した人物であった。イングラムは、歴史的方法が理論的方法に取って代わらなければならないと主張し、その歴史的方法によって、歴史の一般的法則を探究しようとした。イングラムはまた、経済学史に関する該博な知識に基づいて、歴史学派運動の経済学史上の意義を明らかにしようとした。つまり、もともと統一されていた社会諸科学の研究から、経済学がいったん部分学として分化し、それが再び統合されるべき時期にきていること、政治的束縛から産業活動を解放した経済的自由主義が、自由な活動ゆえの弊害を生み出し、それを解決するための社会改良が必要な時期にきていること、これらの事情を背景として歴史学派が成長してきたというのである。さらに、歴史学派運動の現在の中心地はドイツであるが、ドイツ歴史学派に先立ってコントとリチャード・ジョーンズとが歴史学派の観点を提示していたとし、イギリス歴史学派の運動もドイツの亜流ではないということを強調した。
著者
鹿又 伸夫 与謝野 有紀 平田 暢 野宮 大志郎 織田 輝哉 稲葉 昭英 太郎丸 博 高瀬 武典
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1.異なる分野の調査データに適用するという研究目的については、歴史社会学、社会運動論、組織社会学、社会心理、社会行動などにかかわるデータの分析を行った。具体的には、農民暴動、ボランティア団体、社会的属性と意識、援助行動、携帯電話への不快感、出産意向などの分析をおこない、ブール代数アプローチが多様な分野およびテーマに応用可能であることを示した。2.調査方法の異なるデータへ適用するという研究目的については、事例データのみでなく、歴史的資料データ、既存データのメタ分析、クロス表データ、ヴィネット調査データ、手紙データなど多様な調査データへの応用方法を提示し、ブール代数アプローチを様々な調査データへ応用可能にした。3.理論の定式化および理論比較への適用という研究目的については、演繹的に理論モデルを構築する手法によって、役割概念を理論的に再定式化する成果が得られた。そこでは、役割の階統性・可視性による役割構造分析という、役割理論にたいする新たな分析を提示した。4.数理モデルとして拡張するという研究目的については、論理演算の明示化、確率モデルとの比較、真理表データの2値化基準の検討などを行い、数理モデルとして拡張していくための基礎的検討を行った。これらでは、データの多様性の欠如や、矛盾のある行などの方法論的問題にたいする対処策を提示した。以上のように本研究では、方法論的な基礎的検討(上記4.)、発展的応用方法の開発(上記2.および3.)、そして実質的研究への応用(上記1.)を行った。とくに実質的研究へ応用にかんしては、意識や行動における主観的論理や主観的状況定義にブール代数分析が有効であることがわかった。
著者
須戸 和男
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:4516265)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.29-60, 2007-12-06

今日における経済のグローバル化は,財・サービスのクロスボーダーな取引の増大,高度な情報通信技術の発達により,巨額な国際金融取引・資本取引が可能になったことに伴い,アメリカの多国籍企業や大企業の国際的租税回避行為が増加してきた。 一方,1970年代以降の景気後退に直面したアメリカ連邦政府は,これに対応するため,従来の租税優遇措置を拡大し,さらに多くの新たな租税優遇措置を導入した。租税優遇措置の目的は国内経済の活性化を図り, 国内産業の国際的競争力を高める経済政策であったが, この政策目的を逸脱する租税優遇措置の濫用行為が急増してきた。国際的租税回避行為の増加と租税優遇措置の濫用行為の増加は, 連邦政府の税収減少をもたらし, 巨額な財政赤字を生み出す結果となった。 本稿は,このような国際的租税回避行為および租税優遇措置の濫用行為に対する政府の対抗措置とその効果とその測定について検討すると共に, 租税回避行為を防止するためのあり方について考察を試みるものである。
著者
片倉 賢 ELKHATEEB A.M. ELKHATEEB A.M
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

ヒトや家畜のトリパノソーマ症は発展途上国で蔓延している原虫性疾患であるが、予防・治療薬の開発が進んでいないNeglected Tropical Diseases(NTD、顧みなれない熱帯病)である。申請者らは、安全で安価な治療薬の開発を目的として、薬用植物から天然の抗寄生虫活性物質を含む植物の探索を行った。その結果、ニガキ科の薬用植物であるBrucea javanicaに含まれるクアシノイド類が強力な抗トリパノソーマ原虫(Trypanosoma evansi)活性をもっていること、およびクアシノイドの構造と活性とに相関があることを明らかにしてきた。平成23年度は、クアシノイド類が原虫のどの器官を標的としているかを明らかにするためにbruceine類の安定同位体ラベル誘導体の合成を試みた。すなわち、重水素ラベル無水酢酸を用いて重水素ラベルbruceine Aとbruceine Cのアセチル誘導体を合成した(Elkhateeb et al, 2012)。これをトリパノソーマ原虫に作用させ、安定同位体顕微鏡システムを用いて観察した。その結果、解像度は薬剤のターゲット器官を認識できる程度であったが、蓄積した同位体ラベル化合物の検出にはいたらなかった。安定同位体ラベル誘導体の標識部位がアセチル基のメチル基のみであったことが原因と考えられたため、今後は安定同位体ラベル部位を増やし検出感度をあげることが必要である。
著者
山岸 みどり
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、高大連携の期待と現実のズレに注目し、日本における高大連携の事例を収集し、質的および数量的分析を行った。成功事例の特徴、実施体制やプログラム内容の実態などの分析結果から、「高大連携」を促進する要因と阻外する要因を明確にすることができた。日本の高大連携活動の大半は、高校と大学が対等に共通の問題の解決に取り組む「共働」ではなく、それぞれの必要に基づく「協力」関係であることが明らかになった。高大連携活動についての組織間関係論的な視点からの考察は、今後の日本の高大連携を有効に機能させるための組織・運営や環境条件など明らかにするために重要であることが示唆された。
著者
姉崎 洋一 木村 純 光本 滋 千葉 悦子 浅野 かおる 長澤 成次 町井 輝久 町井 輝久 石山 貴士
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、世紀の時代転換期において、大学が迫られている知識基21盤型社会への主体的対応、さらには研究・教育・社会貢献のありようについての比較調査研究である。とくに、日中韓の東アジアにおいて大学のガバナンス、マネジメントにおいて、どのようなリーダーシップとパートナーシップがとられようとしているかについて、実証的動態分析を行った。今後の方略についての貴重な実践的知見が得られたといえる。
著者
橘 治国
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

北国においては、降雪や積雪の汚染とその自然環境への影響が深刻な社会問題となりつつある。雨と同様に、大気を降下する雪(降雪)にも大気中の微量な有害物質が混入し、さらに地上に積もった雪(積雪)には人間活動によって廃棄されるゴミをはじめさまざまな有害物質が混入し、汚染はさらに進行する。このような汚染した雪は、春先に一度に溶けて、水や土壌環境に影響を及ぼすことになる。実際、雪の汚染による山地湖沼・小河川の富栄養化や都市近郊水域での有機汚濁や微量金属汚染が観察されている。本研究は、上記の認識のもと、水域環境の汚染制御あるいは水資源としての降雪利用という立場から、降雪と積雪の汚染の実態と汚染機構、そして汚染物質の融雪水への輸送(流出)機構を明らかにすることを目的とした。さらに、積雪の汚染制御方法についても検討を試みたものである。結果として、積雪は、大気経由のほか、道路粉塵や生活関連の廃棄物が多量に混入して著しく汚染していること、これらの汚染物質は主に固形物質からなり、これには有機物質、栄養塩そして重金属元素がかなりの濃度で含まれ、環境への影響を無視できない範囲にあることがわかった。汚染機構の特徴として、積雪はそのトラップ機能によって汚染物質が高濃度になること、局所的には道路粉塵の飛散の影響が大きいが、広域的な微細粉塵の拡散による影響も大きいことがわかった。また家庭系の廃棄物の積雪への投棄を無視できないことがわかった。このような汚染した降雪や積雪の融解による水系汚染制御に関しては、汚染物質発生源での発生量削減の努力のほか、除雪対策が密接に関連していることがわかった。汚染雪の分別除雪と処理、雪捨て場での汚染物質の流出防止対策などが望まれる。研究はまだ緒についたばかりである。個々の汚染物質の挙動と環境影響、発生源防止対策の具体化、除雪の効果的な方法などをについて継続して調査する必要がある。