著者
森下 恵造 杉浦 英雄 河村 裕一
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

サブバンド間遷移光吸収が観測できる多重量子井戸を作製するためには表面平坦性、界面急峻性の良い薄膜作製法の確立が重要である。このためには原料ガス(アンモニア、トリメチルガリウム)を基板と水平に、熱対流を押さえ、原料を基板に押圧するためのガス(水素、窒素)を基板と垂直に導入する常圧ツーフロー型有機金属気成長法が最適と考えた。この方法を用いて高品質なGaNを作製することに成功した。この方法で最も大きな影響を及ぼすのは押圧ガス菅と基板の角度である。押圧ガス管の軸と基盤の角度はほぼ垂直であるが、押圧ガスが約1℃原料ガスの方向を向くように設定しなければならない。最適角度に設定すると横方向成長速度の大きい、大きく綺麗な六角錘や六角柱が積層した連続膜になる。しかし最適角度から0.05度ずれると六角錘が欠けた状態になり、0.3度ずれると連続膜とならず島状成長となり、0.7度もずれるとGaNは全く成長しなくなる。上記の結果は原料流速が45cm/s、押圧ガス流速20cm/sの場合である。最適角度は原料流速に依存し、流速が大きくなるほどより傾けなければならない。原料ノズルは基板と平行がよい。下向きになると基板中央では良い膜ができるが、下流側では成長しなくなる。上記の最適角度は原料ガスの基板上での滞在時間を大きくし、アンモニアの分解効率を高め、反応性窒素を効率よく基板に供給する配置となっている。加圧ツーフロー型有機金属気相成長法を用いて、今後短波長サブバンド間遷移発光の研究を続けていく予定である。
著者
芦田 淳
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

安全・安心・安価で環境親和性の高い全水溶液プロセスによる ZnO/Cu2O 系太陽電池の実現を目指し、両層の薄膜を作製した。ZnO はロッドなどになりやすく連続膜を得にくい問題があったが、核形成と初期成長の詳細な解析を行い、成長初期の水酸化亜鉛の生成を回避することでこれを解決した。また Cu2O では酸素源である電解液中の水酸基濃度と溶存酸素濃度を制御することでキャリアの起源となる Cu 欠損量を変化させうる可能性を見出した。
著者
森 茂生 池田 直
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では (1-x)BiFeO_3-xBaTiO_3固溶体に着目し、磁気・誘電特性および結晶構造や強誘電分域等の微細構造について調べた。その結果本物質系は、x>0.33組成で存在する立方晶構造は、立方晶構造中にナノスケールサイズで強誘電性を有する菱面体構造が存在する2相共存状態として特徴づけられるとともに、強誘電分域が微細化され、x>0.33組成では、約20~30nm程度の大きさで強誘電ドメインと強磁性ドメインが共存し、磁気誘電リラクサー物質であることが明らかとなった。
著者
川手 憲俊 玉田 尋通 稲葉 俊夫 喜田 加世子 玉田 尋通 稲葉 俊夫 喜田 加世子 パシラーナ インドニル ニシャンタ 田中 翔 芦 ゆきの
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、犬の潜在精巣の原因遺伝子・マーカー遺伝子を同定する目的で、潜在精巣に罹患した小型犬のエストロジェン受容体α遺伝子(ESR1)の一部(ESR1の3'側末端から70kbの領域の9ヵ所の多型を示す塩基)について解析し、正常例との比較を行った。その結果、ミニチュアダックスフンドとチワワの潜在精巣例の当該遺伝子領域の多型塩基は正常例と比較して顕著な差異はみられなかった。ただし、両側性潜在精巣例の同遺伝子領域の多型頻度は正常と異なっていたが、例数が少ないため、両側性例とESR1当該多型との関連性についてはさらなる検討が必要と考えられる。
著者
細見 和之
出版者
大阪府立大学
雑誌
人間科学 : 大阪府立大学紀要 (ISSN:18808387)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.3-19, 2006

Hannah Arendt und Paul Celan haben, die eine als judische Denkerin, der andere als judischer Dichter, ein schweriges Leben im 20. Jahrhundert gefuhrt, aber sie hatten keinen personlichen Kontakt. Wir fmden in Arendts Texten keine Erwahnungen von Celan und noch in Celans Texten eine von ihr. Wenn wir aber nur den Namen Heidegger dazwischen setzen, so konnen wir die Wichtigkeit ihrer Beziehung leicht erkennen. In dieser vorliegenden Arbeit mochten wir versuchen, einige zwischen Arendt und Celan laufende "Meridiane" zu bestatigen, damit wir das noch umfangreichere Thema uber die Beziehung zwischen Arendt, Heidegger und Celan behandeln konnten. Ein Meridian, auf den wir hier hinweisen, ist die Tatsache, dass beide gesagt haben, was bleibt nach Nazis Zeit, sei die Sprache (Muttersprache). Der andere Meridian ist ihr groBes Intersse an dem russisch-jiidischen Dichter Mandelstam. Der letzte ist die Tatsache, dass sie beide den Erfolg des kunstlichen Satelliten 1957 fur ein "unheimliches Ereignis" gehalten haben.
著者
山本 裕子 池田 由紀 松尾 ミヨ子 大鳥 富美代 林田 麗 土居 洋子
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

2型糖尿病と診断された患者の特徴を明らかにし、診断後3年以内の早期患者を対象とした学習支援プログラムについて検討した。その結果、糖尿病の受けとめに特徴がみられ、積極的受けとめと消極的受けとめがあり、受けとめがその後の自己管理に影響することが示唆された。学習支援プログラムは、患者が気持ちを表出しやすいように、グループアプローチをとりいれたが、早期の患者では糖尿病による経験が浅いことや、外来受診患者を対象としたためメンバーの関係を築きにくく、グループアプローチ機能の活用は困難であった。
著者
向坂 保雄
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、超徹泣子の計測に静電分級器(DMA)と凝縮核計数器(CNC)もしくはエレクトロメータ(EM)を用いて、ナノメータサイズのエアロゾル粒子およびイオンクラスターの動力学的挙動について研究を行い、次の成果を得た。初年度では、DMAによって超微粒子を分級するときにおこる電気移動度のシフトについて理論的・実験的検討を行い、(1)異なる粒子径をもつ粒子のブラウン拡散による混合効果、および(2)帯電泣子によって発生する空間電界の存在によってシフトが生じることを明らかにした。またその結果、(1)平均粒径よりも小さい粒子は真の粒子径よりも小さく測定される、(2)平均粒径よりも大きい粒子は真の粒径より大きく測定される、(3)粒子個数濃度が高い方が電気移動度のシフトは大きくなる、(4)低い個数濃度の場合でもブラウン拡散の影響によって電気移動度のシフトはおこる、(S)電気移動度のシフトは一段目のDMAについてのみ重要で、二段目のDMAでは無視できることを指摘した。次年度では、初年度の研究成果に基づき、タンデムDMAシステムを用いてモビリティシフトを考慮した正確な粒子径を求めることにより、ナノメータサイズ粒子のワイヤスクリーンと層流円管内の透過特性について検討を行い、(1)粒子の電荷は透過特性に影響を及ぼさない、(2)Cheng-YehとGormley-Kennedyの既存の理論はStokesーEinsteinの式で粒径換算した2nmまで良く一致する、(3)金属表面での跳ね返りはなく、金属表面に衝突した粒子はすべて沈着することを明らかにした。さらに、両極拡散荷電効率について実験的検討を行い、粒径が3nm以上では、イオンの電気移動度については実測値、質量については既往の文献値を用いることによりFuchsの理論とよく一致するが、3nm以下では理論より小さい値になることを明らかにした。
著者
北浦 賢一
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

高張力鋼HT590材で製作された平滑ならびに環状切り欠き(応力集中係数Kt=1.7、2.4、3.2)を有する丸棒試験片に対して主に低サイクル疲労には落重式衝撃引っ張り疲労試験機を用い、中サイクル疲労には回転式衝撃引っ張り疲労試験機を用いて試験を行い次の結果を待た。1)低サイクル領域では平滑材、切り欠き打=1.7の破壊形式は断面収縮型の疲労破壊を示す。2)断面収縮型の疲労破壊を示す残留ひずみの挙軌は応力の大きさによらずクリープ初期領域、残留ひずみの増加量Δε_c(=dε/dN)がほぼ一定のクリープ安定領域およびクリープ加速領域の3段楷に分けることができる。また塑性ひずみ速度Δε_cはΔε_c/Tの値である。ここで、Tは最大応力持続時間である。3)Δε_cと衝撃応力δの間には次の関係がある。δ/δn=S・(Δε_c/ε_f)^β (a)ここに、S、βは試験片形状によって定まる定数4)Δε_cと衝撃引っ張り疲労寿命N_fの間には次の関係がある。(Δε_c/ε_f)・N_f^m=C (b)ここに、m、Cは材料定数5)破断繰り返し数N_fが5000回以上の場合の形式は平滑材および切り欠き材ともにすべてクラック型の疲労破壊である。6)落盤式疲労試験と回転式疲労試験の衝撃疲労強度は次式により表わすことができる。δ(N_f・T)^n=D (c)ここに、n、Dは試験片形状によって定まる定数
著者
黄瀬 浩一 岩村 雅一 馬場口 登
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

あたかも物体そのものにハイパーリンクが張られているように,カメラで物体を撮影(クリック)すると,その物体の関連情報が取得できたり,また撮影した画像を介してその物体の関連情報を登録できれば,高齢者や障害者にも優しい実世界指向インタフェースが実現できる.本研究では,100万枚の平面物体,55個の小型立体物,関東および関西の歴史的な建物,および2万ページの文書を対象として,大規模高速認識・検索技術を構築することにより,この目的を実現した.
著者
橋本 喜代太 竹内 和広
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

図版を含む提示資料付き英語プレゼンテーションは学術・産業ともにニーズが高いが、教育手法の開発は遅れている。本研究では学習者プレゼンテーションのコーパス構築により、定量的な分析を可能にし、ピア学習者評価なども含めて学習者分析を行って、学習者の困難点、誤りの相関について分析を行なった。そのうえで、困難点等を効果的に解決するための教材、オンライン支援ツールを開発し、それを利用する教育手法を開発し、その効果を確認した。
著者
大橋 万紀
出版者
大阪府立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度には、光反応を用いることで温和な条件下で炭素-炭素結合を形成できる、実用的な新しい炭素官能基導入法を開発した。本年度は、この反応の一般性についての指針を得ることを目的として、活性メチレン化合物、および電子受容性芳香族化合物の存在下における電子供与性不飽和化合物の光極性付加反応、およびphoto-NOCAS型三成分カップリング反応について検討し、以下の知見を得た。(1)光極性付加反応を用いることにより、種々の活性メチレン化合物を、電子豊富アルケンを用いて選択的にモノアルキル化することができる。(2)上記(1)で述べた反応を分子内で行うことにより、シクロアルカン誘導体が合成できる。(3)Photo-NOCAS型三成分カップリング反応を用いることにより、種々の活性メチレン化合物に対し、さらに複雑な置換基を一段階で導入できる。この反応では、高価な有機金属触媒や極低温、禁水、脱酸素などの反応条件を用いずに芳香族ニトリルのアリールーシアノ間の結合を活性化し、カップリング反応を進行させることができるため、合成化学的な応用が期待される。(4)上記(3)で述べた反応では、脱離したシアン化物イオンが連鎖的に作用しうる。このため、触媒量のシアン化物イオンを用いると、アリールーシアノ間の結合への共役ジエンの形式的挿入反応が進行する。この他、光誘起電子移動反応におけるマグネシウム塩の添加効果について総合的な検討を行い、同塩は一電子移動、およびそれによって生じたラジカルイオン対の解離を促進しているものと推定した。この成果は、高効率で実用的な光反応の開発へ向け、指針を与えるものと期待される。
著者
松浦 義昌 清水 教永 眞来 省二 浜口 雅行 坪内 伸司 田中 良晴
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、身体障害者個々の疾患レベルに適した運動処方の実際について、3年間の継続運動が身体障害者にどのような影響をもたらすのかについて検討した。対象者は、骨形成不全、頸髄損傷、脳性麻痺の障害を有する3名の身体障害者で、年齢は35歳〜43歳の範囲である。1週間から10日に一度の頻度で、それぞれの疾患に適した運動処方を3年間継続して行った。運動処方実施中は、心拍数、酸素摂取量、主観的運動強度(RPE)、脳酸素飽和度(StO2)及びヘモグロビン量(Hb量)を連続記録し、運動前後には血圧、血中乳酸及び内省報告を記録した。いずれの被検者についても、運動処方3年目に心拍数-酸素摂取量の高い相関関係が認められた。心拍数とRPEの関係についても心拍数-酸素摂取量の関係同様に、運動処方3年目に高い相関関係が認められた。StO2及びHb量については、運動前安静時、運動中及び運動後のいずれの状態においても顕著な変化は認められなかった。運動前後の血圧は、運動後に拡張期、収縮期ともに高くなる傾向が認められた。血中乳酸は、運動前に比べ運動後におよそ4〜5mmol/mlの増加が認められた。運動後の内省報告では、いずれの対象者についても気持ちが良い等の報告を受けた。以上のことから、身体障害者における3年間の運動処方は、健常者の場合とは一部異なるものの身体障害者の生理心理に種々な影響を与え運動の習慣化という生活習慣の改善および呼吸循環器系機能の改善の可能性を示した。よって本研究で用いた運動処方は、身体障害者の生活習慣病予防やより積極的な健康生活の向上のための有益な処方の一つであると考えられる。
著者
清原 文代 田邉 鉄 浦山 あゆみ
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

音声などマルチメディアを含む、モジュール式中国語電子教材を開発・試用し、有効性を確認した。こうした教材を、教員が誰でも簡単に利用・作成できるように、語彙集などのリソースや、作成上のTips等をまとめ、その利用方法を学会等で紹介した。全ての研究成果は原則としてWebで公開した。本研究によって設備や教員のスキルに依存しないでe-Learningを導入する可能性を示すことができた。
著者
中瀬 勲
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学紀要 農学 生物学 (ISSN:03663353)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.67-104, 1981-03-31
被引用文献数
2

従来から行われてきた広域スケールでの都市および地域計画,そして緑地計画等の計画に際して,計画のための単位の検討が十分に行われていなかったことが,各地域での全体景観(Total Landscape)形成上,多くの問題を提起している。これは,各地域の保有する諸条件のは握のあいまいさ,あるいは各地域の特性認識の欠除に起因していると思われる。ここに,地域の特性に対応した計画単位の提案,およびそれらの計画単位を用いた地域特性評価を,計画学的に支持される手法で導くことの重要性が指摘できる。このような観点から,本論文では「広域緑地計画における流域を基礎にした計画単位の提案と,それらの計画単位を応用した各地域が保有するポテンシャルの計測および評価を,計画学的に導く方法論の確立とその計画的意義に焦点を合せ考察を行った。さらに,緑地計画・景観計画・風致計画の基礎になる土地利用構造のは握を,流域を構成する下位スケールの計画単位と考えられるメッシュを用いて行い,前述の流域を計画単位として用いた方法論と併せて,全体景観形成への計画的方法論の展開についての考察を行ったものである。」以下,本論文で考察した主な内容をとりまとめると次の如くである。(1)計画に関与する諸単位については,行政区域(市町村)・メッシュ・特定施設の利用圏的な単位・その他の目的別単位をあげることができる。これらの諸単位は,あらゆるスケールの計画対象地域における自然的現象・社会的現象のは握を客観的に導くに際して,各々の長所および短所を有している。(2)諸計画単位は地域特性に対応して各々の有効性を発揮するが,流域は行政区域(市町村)の集合であるとみなせる場合が多く,計画単位の集合の仕方としては,メッシュが流域および行政区域を構成し,さらに行政区域が流域を構成する場合のあることが明らかとなった。すなわち,流域を行政区域の境界線を利用した地域計画スケールでの新たな計画単位として位置づけられることの可能性を示した。(3)また,流域は土地利用的にも地表流に関しても地形的にも,流域内で比較的完結した状況を呈していること,さらに自然的災害に関しても原因および結果が流域内では握可能なことを通じて,流域の計画単位としての有効性を指摘した。(4)次に,流域を計画単位として取り上げて,地域の開発および保全ポテンシャルの設定を試みる一方,メッシュを計画単位として土地利用が安定して存在する領域の設定を計画的に導くことを目的とした。そして,自然的条件からの検討では,流域を計画単位として取り上げ,スケールに対応して流域を単位流域および分割流域といった新たな概念に基づいて計画単位としての意義づけを試みた。なお,単位流域は1級および2級河川の流域であると定義し,分割流域は単位流域内の河道分岐に対応して単位流域を細分化した単位であると定義した。(5)分割流域設定の指標となる河道の分布は,広域スケールでは,国土地理院発行の1/50,000の地形図,準広域スケールでは大阪府作成の1/30,000の河川図,流域スケールでは大阪府作成の1/2,5000の地形図より求めた。(6)広域スケールでは,単位流域・分割流域毎の,流域形状特性・土地利用特性の検討を通じて単位流域相互間および分割流域相互間の相対的比較を行った。最終的には,広域緑地計画を意図した環境の全体計画の立場からの検討を流域の保有する諸特性,すなわち1)流域形状特性よりの流域の保全性2)山林の保全性3)田畑の保全性4)市街地の保全性を通じて考察した。(7)準広域スケールでは,流域群にわたる開発および保全ポテンシャルの検討を,流域内での土地利用と主尾根の分布に着目して検討した。そして,単位流域の境界である尾根を主尾根と定義し,この主尾根が地域景観構成上の重要な要因であることが認識された。(8)また,土地利用構造に関しては,単位流域内では土地利用が山林・田畑・市街地へと変化しながら等高線に直交する方向で連続して分布している。このことから,この現象を「縦方向の土地利用の連続性」であると定義した。一方,市街地・山林は等高線に平行する方向で連続して分布している。この現象を「横方向の土地利用の連続性」と定義した。(9)これらの考察を通じて,市街地の拡大のあり方,自然的土地利用としての山林および田畑の存在の仕方に関する有効な計画的示唆を得た。また,単位流域は上位スケールでの計画策定上の計画単位として有効であり,分割流域は下位スケールの計画単位として有効であることが認められた。流域スケールの検討では1つの単位流域をケースに取り上げて,植生・土壌・地形条件を基礎指標に,地域緑地計画を意図した開発および保全ポテンシャルの設定を行った。植生は植生自然度を参考に5つに類型化し,土壌は生産力に対応して5つに類型化した。この結果を通して,開発および保全ポテンシャルモデルの作成を行い,地域の開発あるいは管理のための有効な計画的示唆を得ることができた。(10)社会的条件からの検討では,基本的には1/2分割経緯度メッシュを計画単位に取り上げて,社会生態的条件による土地利用安定城の設定を目的としている。ここで用いたデータは1)起伏量2)駅からの距離3)道路率3)時間距離5)道路への近接性6)山林7)田畑8)市街地9)農地転用である。なお,各々のデータは表2-4に示す如く各メッシュ毎に求めたものである。(11)土地利用変化方向は,一般に可逆的な変化方向と非可逆的な変化方向としては握できる。つまり,可逆的な土地利用の変化とは,自然的土地利用としての山林・畑・田の相互間での土地利用変化を意味し,非可逆的な土地利用変化とは,自然的土地利用から都市的土地利用としての市街地・工場地等への土地利用の変化を意味している。この非可逆的な土地利用変化が,今日の景観の画一化の原因となっていることが考察できる(図2-8)。(12)このような土地利用変化方向の可逆性・非可逆性に加えて土地の起伏の程度から,景観の変化プロセスと土地利用変化についての考察を試みた(図2-9)。この結果,都市的土地利用の拡大がさらに進行すると,今まで都市的土地利用と自然的土地利用のの間に存在していた動的平衡状態の維持が不可能になると推察でき,次に述べる土地利用毎の安定域・適応域・最適域の設定を計画的に行うことの重要性が認識できた。(13)土地利用の存在状況を計画的には握する場合の概念に,安定・適応・最適が考えられる。これら諸概念は,現況の土地利用を自然的土地利用と都市的土地利用のダイナミクスとしては握することである。以上の諸概念に基づいて土地の持つ社会生態的条件を媒体にして,各々の土地利用の安定域・適応域・最適域の各領域設定が可能となる。このことを通じて,都市的土地利用と自然的土地利用の共存,あるいは各々の土地利用の安定的存在のための計画的方策の基礎が得られる。(14)そして,土地利用の安定域については,昭和41年および昭和48年の土地利用の分布の仕方と土地の起伏量を指標に検討を行った。その結果,以下のことがわかった。1)"山林"は起伏量9以上で安定し,起伏量7以上でもやや安定する。2)"田"は起伏量0から6の間で安定する可能性が高い。3)"畑"は起伏量3から7の間で安定する。4)"市街地"は起伏量0の地域で安定している。さらに,土地利用の安定域の検討を表2-4に示す土地利用生態支持要因のデータ,現況土地利用のデータ,および農地転用のデータを用いて行った。結果は表2-5に示す如くであり,以下の諸点が考察できた。1)"山林"は起伏量が8以上,道路率がメッシュ当り5.0%以下,都心からの時間距離が60分以上の地域で安定している。2)"市街地"は起伏量が6以下,道路率がメッシュ当り0.1%から10.0%,都心からの時間距離が60分以内で安定している。(15)前述の表2-4に示すデータを用いて主成分分析を行った。その結果,「山林の分布に関する主成分」および「田畑の分布に関する主成分」を得ることができた。すなわち,「山林の分布に関する主成分」の高得点域(1.0以上)が山林の安定域,「田畑の分布に関する主成分」の高得点域(1.0以上)が田畑の適応域となる。田畑の分布域に関して適応域の概念で示しているのは,現在田畑が分布している領域も,将来は市街地化される可能性を有していると考えたからである。(16)土地利用変化についての検討は,農地転用のデータと土地利用現況のデータを用いて行った。これは農地転用のされ方を通じて,農地の将来の在り方に対する基礎的な方向性を得ることを目的としている。ここでは確率プロセスの1つであるマルコフ吸収連鎖を適用して検討を行い,農地規模には関係なく農地が転用されていく方向性が認識できた。このことから,農地を生産緑地として維持すべき地域,あるいは市街地化すべき地域といった地域区分を計画的に設定することの重要性が認識できた。(17)以上で得られた新たな計画単位としての流域の有効性,および土地利用毎の安定域・適応域・最適域の考察結果に基づいて,地域の保有する自然的ポテンシャル・社会的ポテンシャルを考慮に入れた緑地計画・景観計画・風致計画に関する計画論の展開を行った。ここでの考察は流域を計画単位として,これを単位流域と定義してみた。そして,単位流域という考え方は,広域スケールでの計画では定量的データの取り扱いに適しており,地域スケールの計画では定量的データに加えて定性的データの取り扱いにも適していることがわかった。また,単位流域の境界としての主尾根を構成する分割流域群は,地域の環境管理上のフレームとして重要な役割を担うと同時に,地域の全体景観の保全あるいは全体景観の構成上,重要な計画的位置を占めることが知られた。(18)さらに,土壌および植生のデータを基礎にして,地域の開発および保全ポテンシャルモデルの作成を試みた。このモデルは,土壌と植生との総合化を試みたものである。このモデルを通じて設定された地域区分をオーバーレイすることにより,さらに詳細な地域の保有する開発および保全ポテンシャルのは握が可能になる。このような観点からの開発および保全ポテンシャルを導く方法論および結果は,緑地計画のみならず各種の計画を展開するに際して,高い有効性が期待できる。(19)土地利用の安定域・適応域設定のための方法論を図3-2に示す。この方法論は,現在市街地化が進行しつつある地域を対象にして考慮したものであるが,他の地域特性の異るケースにも応用が可能なものであろう。(20)以上のように本論文は,緑地計画・景観計画・風致計画等の諸計画において,比較的広域スケールの計画への適用を目的としたものであるが,特に計画単位の明確化および地域の保有する諸現象の分析・統合のシステムを計画学的に導く方法論の開発に目的の重点がおかれたものである。この方法論より導かれた計画単位は,地域の開発および保全に関して有効な計画上のフレームを形成するものである。また,土地利用の安定域・適応域の概念は,これまでの土地利用計画に不足していた理論的側面を明確化する点で意義がある。さらに,これらの計画単位および土地利用の安定域・適応域の概念に基づいて,地域特性の明確なは握が可能になり,全体景観構成への計画的アプローチの1つとして確立されたら幸いである。
著者
大野 勝利
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大學經濟研究 (ISSN:04516184)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.99-112, 2006-06