著者
佐藤 悠
出版者
山梨大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

基音とその整数倍の周波数からなる倍音(ハーモニクス)から構成される複雑音を楽音という。楽音においては構成音の周波数に相当する複数の音の高さ(tone height,ピッチ)ではなく基音周波数に相当する単一のピッチが認知される。また2倍の周波数のピッチは同じ音名の音であるという感覚が生じる(tone chroma)。このピッチ感覚の音響手がかりとしては周波数情報であるスペクトルキューと時間波形の繰り返しであるテンポラルキューであることが心理物理実験から提唱されている。しかし音響手がかりの情報処理を行う大脳皮質での神経機構は現在まったく不明である。本研究では覚醒ネコの大脳皮質高次聴覚野において単一神経活動を記録し、ハーモニクス構造を持つ複合楽音刺激にたいする反応を調べた。心理物理実験と適合する神経細胞はごくわずか(数ユニット)ではあるが大脳皮質高次聴覚野において発見された。大脳皮質高次聴覚野からのトップダウンアプローチは現時点においてまだ実験継続中である。さらに研究の途中において大脳皮質一次聴覚野においてピッチに反応するニューロンが豊富に存在することが明らかとなった。豊富に存在する一次聴覚野ニューロンの反応を優先的に調べた。結果は論文として発表予定である(Cereb Cortex, in press)。すなわちピッチに反応する一次聴覚野ニューロンは純音でのベスト周波数に一致する基音周波数とそのオクターブ下の周波数に感受性を持つ。しかし同じようなスペクトル帯域の雑音には反応しない。基音への周波数同調性は抑制性周波数応答野が非選択性のハーモニクスにのみ存在し選択性ハーモニクスには存在しないことに起因する。一次聴覚野は雑音と楽音の区別、および楽音の音程認知に重要な役割をすることが明らかとなった。
著者
小谷 信司 鈴木 良弥 渡辺 寛望
出版者
山梨大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

発話が不可能で両手両足の自由がきかない重複肢体不自由者に対して、視線を利用したコミュニケーション実現を目指している。過去の研究において、短い語彙入力の場合、有効性が認められたが、長い文章入力の場合で、誤入力が生じると、極端に効率が悪くなることが判明した。そこで、静的属性(知識・経験)、基本属性(時間・空間的情報)、動的属性(周囲・人物情報)を組み合わせて、その状況に応じた予測変換を実現することを目指した。シミュレーション実験と健常者による実験において良好な結果が得られた。現在、支援学校に協力してもらい生徒と一緒に取組を行い、その有効性を検証中である。
著者
榊原 禎宏 大和 真希子
出版者
山梨大学
雑誌
教育実践学研究 : 山梨大学教育学部附属教育実践研究指導センター研究紀要 (ISSN:13454161)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.43-56, 2001

本論文は,教育学領域での教員研修が持つべき条件についての提案とその根拠を授業者,観察者,受講者の3つの角度から提示している。つまり,1.研修では,受講者に多くの気づき,振り返りをもたらすコミュニケーション・チャンネル,対話を促す課題とメディアを用意すること,2.授業者は,受講者がすでに持つ経験や論理を引き出し,それを相対化させる促進者として位置づくこと,またこのための進行役・演技者としての準備,資質・能力が必要なこと,3.受講者にコミュニケーション・スキルを改善する必要性に気づかせ,学校でもリフレクションの機会,そして教師自らが学び,発案する機会をもつように方向づけること,4.そして,授業者は説教や啓蒙としては教えないが,受講者に異なる認識枠を示し,既存の枠組みを疑う材料を提供する,また彼らに問い,困惑,さらに楽しませ,そして表現,提案させる等の点で,すぐれて意図的な教育行為を担うことが重要なこと,を指摘している。
著者
中国 昭彦 堀 哲夫
出版者
山梨大学
雑誌
教育実践学研究 : 山梨大学教育学部附属教育実践研究指導センター研究紀要 (ISSN:13454161)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-19, 2010

2008 年学習指導要領が改訂され,思考力や表現力等,児童生徒の資質・能力の育成が改訂のポイントのひとつとなっている。中教審答申では,特別活動や総合の学習の時間において体験活動を充実させることで,資質・能力の育成をすることが強く求められている。これまで特別活動や総合的な学習の時間において,資質・能力を育成するために一枚の用紙のみを用いたOPP(One Page Portfolio) シートを活用した研究は,ほとんど提案されていない。そこで,本研究では児童が生きる力を身につけていくために,総合的な学習の時間「私たちの祇園祭を伝えよう」の単元において,資質・能力を育成するための手立てとしてOPP シートを活用した授業づくりに取り組んできた。その結果,本研究を通してOPP シートを活用することにより,資質・能力の育成や体験活動の充実が効果的に図れることを児童の記述内容から確かめることができた。
著者
秋山 麻実
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の成果は、以下の二点に集約される。第一に、本研究では、19世紀を中心に多数出版された宗教小冊子で扱われる死のテーマについて、その構造を明らかにした。そこには、忍苦と信仰、幸福な死を描くと同時に、残された者の喪の作業とグリーフ・ケアという側面も含まれていた。第二に本研究は、そうした小冊子が生まれてきた系譜について明らかにした。これは17世紀宗教改革後に著された多くの宗教書との関連において捉えられるべきであり、そうした大人のための宗教書と、子どものための本との内容的な一致点と相違点を明らかにした。
著者
久本 雅嗣
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

赤ワインは熟成すると色が紫色から赤、レンガ色になり、味もスムースでマイルドになる。瓶内での熟成による赤ワインの成分の変動を観測するため、製造直後の赤ワインとその1年後に超高速液体クロマトグラフィー-飛行時間型質量分析装置で測定を行い、多変量解析を行った。その結果、ピラノアントシアニンやピラノアントシアニン重合体が熟成した赤ワインの熟成に貢献していることがわかった。
著者
小泉 修一 藤下 加代子 柴田 圭輔 大久 保聡子
出版者
山梨大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ミクログリアは傷害神経細胞から漏出するATPをATPセンサー(P2Y12)で感知し、傷害部位へ遊走する。このとき、傷害部位からeat-me signal "UDP"が放出されると、ミクログリアはこれを貪食センサー(P2Y6)で感知し、傷害細胞や断片を貪食により脳内から除去する。ミクログリアは、遊走性から貪食性へミクログリアのATP センサーの変化を伴ったモーダルシフトすることにより、脳内環境の維持を行っていた。
著者
金丸 学 古屋 義博 渡邊 恒子
出版者
山梨大学
雑誌
教育実践学研究 : 山梨大学教育学部附属教育実践研究指導センター研究紀要 (ISSN:13454161)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.23-32, 2001

学校で児童達は,授業環境との相互作用の中で学習を進める。知的障害養護学校に在籍する児童の実態は多様である。教師が予測しない行為を児童が授業の中で示すことがある。この原因を児童に帰属させず,「授業への参加を促すためのアフォーダンスを教師が授業環境に適切に配置できなかった」という視点を我々は持つことにした。この視点から授業(全6回)を計画・実施し,分析した。結果,教師が配置したアフォーダンスと児童が知覚したアフォーダンスとはしばしば一致しないこと,各児童が知覚するアフォーダンスはそれぞれ異なる可能性が高いこと,それらの不一致は教師の工夫により小さくできることなどを確かめた。以上より,知的障害養護学校においてより良い授業づくりをするための一助として,アフォーダンスという理論的枠組みから検討する意義を認めた。
著者
内田 裕之
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

純水素を高効率に大量製造可能な高温水蒸気電解(SOEC)、これを逆作動したSOFC発電用の高性能・高耐久性電極を研究開発し、以下の主な成果を得た。1)噴霧プラズマ合成法により、電子ーイオン混合導電性サマリアドープセリア(SDC)またはガドリニアドープセリア(GDC)粒子にNiやNi-Co合金ナノ粒子触媒を高分散することに成功した。2)固体電解質のイオン導電率が高いほどNi-Co/SDC水素極の性能が向上することを見出した。3)(Sr_<1-x> Ce_x) MnO_<3±δ>を合成し、SOFC酸素極として良好に作動することを見出した
著者
伊藤 孝恵
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

国際結婚夫婦のコミュニケーション態度に関する質問紙調査を、国際結婚夫婦並びに日本人同士夫婦に対し実施した。その目的は、日本における国際結婚夫婦のコミュニケーションに対する認識の特徴、特に外国人妻の認識の特徴を明らかにし、これに家族社会学の見地を加え、国際結婚夫婦における「多言語共生」「対等で互いの違いを認め合う夫婦間コミュニケーション」を目指すことにある。具体的には、国際結婚夫婦のコミュニケーション態度に対する認識の特徴を、日本人同士の夫婦と比して明らかにし、コミュニケーション態度とコミュニケーションに対する印象・情動との関連性を探る。質問紙は、日本語版のほか、英語版、中国語版、韓国語版、ポルトガル語版、スペイン語版、タイ語版を作成し、対象者が回答しやすいよう配慮した。質問紙は、山梨県を中心にその周辺の市で配布した。回収されたデータは、入力・集計した。今後、分析を進め、論文としてまとめる予定である。
著者
茅 暁陽 高橋 成雄 小俣 昌樹 吉田 典正 豊浦 正広
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ユーザの情動を感知する情動センシング、情動をコンピュータ内で認知・利用する情動アナリシス、情動に適応する画像や映像を合成する情動適応型イメージシンセシスの各フェーズからなる閉じた処理ループを構成することにより、人間中心の情報ネットワークシステムの重要な基盤技術としての新しい CG技術-affective rendering の確立を目的として、感情価と覚せい度で構成される 2 次元情動モデルを使用し、各種視覚要素が情動に与える影響の調査、生体情報より2次元情動空間における状態の推定および情動を特定な状態に誘導する視覚アニメーションの設計と提示技術を開発した。
著者
鈴木 良弥
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,新聞記事を対象とした自動要約に注目し,高精度な複数記事の要約をおこなうための第一歩として,(1)大規模コーパスから話題テンプレートを作成し,その話題テンプレートを利用して新聞記事から注目する記事の続報記事を高精度で抽出する.抽出した続報記事を話題クラスタごとに分類する(2)話題クラスタごとの要約を行い,クラスタ間のつながりを考慮し,続報記事全体の要約を行う。ことを目的とし,研究を行った.(1)では話題テンプレートや機械学習(Support Vector Machines)を用いて続報記事を抽出する手法を提案した.提案手法を用いて大規模コーパス(Topic Detection and Trackingのコーパスや毎日新聞コーパス)から続報記事を抽出する実験を行い,本手法が続報記事を高精度で抽出できることを示した(論文4,5).(2)に関しては,具体的にはクラスタ内の要約のために,クラスタに集められた文中の類似単語を検出する必要があることがわかり,類似名詞の抽出を行った(論文3,4).類似名詞の抽出のためにHindleの手法とLinの手法を比較し,日本語文書に対してはLinの手法がHindleの手法より勝っていることを示した.またLinの手法を日本語記事に適応させた類似名詞抽出手法を提案した.また,抽出された類似単語と記事のタイトルを利用して重要文抽出を行った(論文1,2).Linの手法を基に(論文3,4)で提案した手法を用いて記事のタイトル中の単語の類似単語を本文中より抽出し,重要文抽出に利用した.毎日新聞の記事とNTCIR2の重要文抽出タスクの解答を利用して重要文抽出実験を行い,本研究で抽出した類似単語の情報が重要文抽出に有用であることを示した.
著者
市川 温
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、流域管理による水防災政策の実現可能性を検証するとともに、効果的・効率的で持続可能な水防災政策とその実現方策を探ることである。本研究で対象とした、大阪地域、東京地域では、流域管理の一つの方策である土地利用規制・建築規制が水防災対策として一定程度の適用性を有していることが明らかとなった。その一方で、これらの規制は、所得の低い世帯に対して相対的に大きな負担を強いることも明らかとなった。
著者
勢田 二郎 角田 有紀 内田 洋子
出版者
山梨大学
雑誌
山梨大学総合情報処理センター研究報告 (ISSN:13439588)
巻号頁・発行日
vol.2, 1998

浴衣の製作方法の詳細を画像と文字により構成し、HTML言語で作成した。このホ-ムペ-ジを用いて、学生に実習させ、教育方法の効果をSD法で評価した。結果は、従来の授業方法よりやや良いというイメ-ジが得られた。このような学習形態は、実技教育に有効と考えた。
著者
張本 鉄雄
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は二ビーム励起およびアイドラ光の最適化制御による光パラメトリックチャープパルス増幅の超広帯域化と安定化の新しい方式を考案し、ペタワット(1PW=10^<15>W)・サイクル(数フェムト秒)パルスレーザー光の発生を目的とした。研究成果として、スペクトルバンド幅400nmを超えるレーザーパルスの増幅を実現した。また、光パラメトリックチャープパルス増幅に関する簡易な光学設計法を開発した。
著者
長谷川 直哉
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

CSRは企業行動に対する予防的措置機能を持つことによって、はじめて本来の意義が機能する。CSRの予防的機能を担保するものがSRI(社会的責任投資)である。SRIの本質は、企業行動の収益至上主義的側面を抑制し、環境や社会との共生的側面との調和を促すものである。SRIが市場メカニズムにビルトインされることは、投資家が市民に代わって企業行動に対するサステイナブル・ガバナンス機能を持つことを意味する。環境金融の視点は、企業が主体となるCSRから投資家の社会的責任(ISR)へと中心命題が移行しつつある。
著者
矢野 浩司
出版者
山梨大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

パルスパワー発生装置への応用にむけて、静電誘導型半導体素子の動作究明を半導体デバイスシミュレーションにより行った。まず現在の半導体シミュレー夕をパルスパワー応答解析用にバージョンアップした。そしてこのシミュレータを用い、静電誘導デバイスのターンオン過程を検討した。パルスパワー応用で半導体素子を用いる場合、100nsec以下の高速ターンオン性能が必要である。シミュレーションの結果、静電誘導半導体素子のターンオン動作は、空乏層幅の急速な減少によるチャネル形成により行われ、このチャネル開放時間は1nsec以下であることがシミュレーションから明らかになった。この時間はMOS構造素子のMOSゲート充電時間やGTOサイリスタにおけるベース層キャリア蓄積時間よりも2桁以上も小さい。実際静電誘導素子がオンする為に要する時間は、チャネル開放時間に素子活性領域にキャリアを蓄積させる為の時間を加算した時間となるが、この時間を比較しても静電誘導素子は従来のGTOサイリスタよりも1桁以上速いことがわかった。即ち静電誘導半導体素子は、パルスパワー用半導体スイッチとして有用であることが予測できた。今後は、静電誘導半導体素子のトータルのターンオン時間を改善する設計手法を明らかにしていく予定である。具体的には主にゲート構造の改良、キャリア寿命制御の最適化に着眼し研究を行っていく。また、周辺回路要素の静電誘導半導体素子のターンオン動作への影響の検討にも対処出来るように、半導体シミュレータをヴァージョンアップしていく。