著者
本庄 加代子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.94-103, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
14

本稿はユニクロのブランド・イメージとそのブランドマネジメントのプロセスを辿る事例研究である。同社は,創業当初からグローバル化を強く意識し,創業30周年目には,確たるグローバルブランドへと成長した。そして今衣服の概念を超え,LifeWearという新しい「服」市場をも創造しつづける。本事例は同ブランドの15年間の事業活動とCIやBIを軸とした情報発信,その結果がどのようにブランド・イメージを形成したのかを追跡し,ブランド価値を発展させるための要諦の導出を試みる。
著者
本條 晴一郎
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.31-39, 2020-03-04 (Released:2020-03-04)
参考文献数
24

先進的なニーズを認識し,ニーズの解決による便益を期待するリードユーザーは,製品の開発や普及,顧客開発など,様々な観点から注目を集めている。一方でリードユーザーについての定量的な研究は,特定の製品領域で行われてきた。本研究では,サーベイの枠組みで定量的な実証研究を行うことで,リードユーザーの一般的な特徴を見出すことを目指した。その結果,リードユーザーネスが製品領域に限定されずに消費者イノベーションの発生に帰結すること,幅広い他者に対して情報を探索するネットワーキング行動が先進性に正の,高便益期待に負の影響を与える先行要因となっていることが示された。製品領域に限定されない結果を得たこと,および,先行要因を行動レベルで捉えたことにより,リードユーザーに対する理解が,注目に見合うものに近づいたといえる。
著者
福田 怜生
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.173-184, 2015-03-31 (Released:2020-05-26)
参考文献数
50
被引用文献数
1

移入とは,消費者が広告や小説に没頭した状態を指す。本稿では,まず広告への移入が説得効果に及ぼす影響を検討するため,移入が生じる条件や,移入が影響を及ぼすメカニズムに着目した研究を考察した。その結果,移入が(1)物語形式の広告だけでなく,様々な形式の広告において生じること,(2)広告評価などの態度や,行動意図にポジティブな影響を及ぼし,説得効果を高めること,(3)広告の説得効果にポジティブな影響を及ぼすメカニズムとして,批判的思考の抑制とポジティブ感情の生起があることが示された。次に,移入した消費者の広告処理過程を明らかにするため,移入の構成要素としての注意,想像,共感を個別に検討した研究を考察した。その結果,(1)注意が批判的思考の抑制に関係すること,(2)想像が広告評価及び行動意図に関係すること,(3)共感がポジティブ感情の生起に関係することが示された。これら考察によって,注意,想像,共感に関する知見を,一連の移入研究に結びつけることが可能になると考えられる。
著者
奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.120-137, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1

近年ドラッグストアの市場拡大が顕著である。活発なM&A(企業の合併・買収),食品の取り扱いに見られる品揃えの強化,調剤薬局市場の取り込み,PB商品開発,ロイヤルティプログラムの充実,消費者のワンストップショッピングニーズへの迅速な対応で,高齢者や幅広い女性顧客層を他業界から取り込んでいる。そのような中,自社のリブランディングとリージョナルマーケティング,積極的なインバウンドニーズの取り込み,AI, IT活用によって独自の顧客基盤運営と新規事業開発で全国から注目を集める北海道を基盤とするドラッグストア(株)サッポロドラッグストアー(以下,サツドラ)の取材を行った。本ケーススタディにより小売業における新しいビジネスモデル構築とマーケティング戦略において以下5点の示唆が見出された。1)地域循環型顧客関係管理プラットフォーム構築の重要性,2)地域小売業がリージョナルマーケティングにおいて果たすべき役割,3)販売チャネル「場」の新しい価値創造,4)Customer Engagement構築の重要性,5)地域コミュニティ・マーケットにおけるCollaborative Consumption(共創消費)構築の可能性
著者
犬塚 篤
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.23-30, 2020-03-04 (Released:2020-03-04)
参考文献数
29

顧客志向と販売志向が,異なった客観的な業績指標(客単価,販売客数)に対しそれぞれどのように作用するかを,個人・集団効果の両面から検証した。国内アパレルチェーンの391店舗に勤務する1,572名の大量サンプルを用いた検証の結果,2つの志向はそれぞれ異なった業績への効果を有することが明らかになった。すなわち,客単価に対しては顧客志向のみが寄与し,販売志向による有意な効果は認められない。反対に,販売客数に対しては販売志向が影響を与えていたが,顧客志向の寄与は特に確認できなかった。さらに,販売志向については集団効果が認められたものの個人効果はほとんどなく,反対に顧客志向は集団効果よりも個人効果の方が強かった。これらの事実から,2つの志向が業績に影響を及ぼすメカニズムは同一とはいえないことが示された。
著者
朴 宰佑 外川 拓
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.20-34, 2019-03-29 (Released:2019-03-29)
参考文献数
91
被引用文献数
1

優れたデザインは,企業が競争優位を獲得するうえで重要な要因の1つになっている。先行研究では,機能性や象徴性など,消費者の製品評価においてデザインが果たす役割が明らかにされているが,いずれの研究においても共通して重要性が指摘されているのは「審美性」である。本稿では,心理学および消費者行動研究の包括的なレビューを行い,消費者がどのようなデザインに対して審美性を知覚するのかについて議論を行った。具体的には,色,形状,水平配置,垂直配置といった要素が審美性知覚に及ぼす影響について,既存の研究知見を整理し,体系化を図った。こうした考察は,研究知見の体系的把握を可能にするだけでなく,デザインに携わるマーケターにも有益な実務的示唆をもたらすと考えられる。
著者
小野 譲司 酒井 麻衣子 神田 晴彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.6-18, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
26

サービス分野におけるカスタマイゼーションは,従来は人間が行っていたサービス活動をテクノロジーに代替する動きが進みつつある。人間による柔軟性とテクノロジーによる標準化のバランスをどう取るかは,現代のサービス設計における重要な課題である。本研究では,人間によるサービスとテクノロジーベースのサービスの経験が,顧客のサービス品質評価に与える影響について実証研究を行った。その結果,どちらのサービス経験を選択するかによって,顧客期待が品質評価に与える影響と,接客サービスが品質評価に与える影響が異なること,顧客の経験値の違いによって効果が異なることも明らかになった。最後にサービス・カスタマイゼーションに関する実務的示唆と今後の課題を示した。
著者
中村 世名
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.97-105, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
37

伝統的にマーケティング研究は競争を回避すべき対象と見なしてきた。しかし,激しく,素早い競争行動によって特徴づけられる今日の環境を踏まえると,競争が不回避であるという前提のもと,競合企業との競争に勝ち続けるために必要な要因を探究する新たなマーケティング研究が求められるであろう。本論は,そのような研究を「競争志向型のマーケティング戦略研究」と呼称し,競争志向型のマーケティング戦略研究が依拠すべきフレームワークを検討した。分野横断的なレビューの結果,オーストリア経済学をルーツとする競争ダイナミクス・ビューが競争志向型のマーケティング戦略論の依拠するフレームワークとしてふさわしいことが特定化された。また,今後の研究の方向性として,競争ダイナミクス・ビューの知見に(1)顧客との関係性,(2)流通業者との関係性,(3)ポートフォリオの視点を加えた研究を行うことによって,新たな示唆を提供できることが指摘された。
著者
結城 祥
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.66-76, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
26

わが国のアパレル業界においては,需要不確実性と在庫リスクを吸収すべく,期中生産・期中企画(シーズン中の追加的な発注・企画)が推進されている。果たして,こうした取り組みは不良在庫の削減に寄与しているのであろうか。この問いに実証的な回答を与えることが,本論の目的である。アパレル・メーカーから得られたサーベイ・データを分析した結果,①期中生産は不良在庫の削減に貢献すること,②期中企画は,小売段階を外部化した状況でそれを実施すると不良在庫が増大し,小売段階の一部あるいは全てを統合している場合でも在庫削減効果を持たないことが見出された。期中企画を実施する際には,小売段階をどの程度コントロール可能か,追加企画製品の生産・発注量の意思決定精度を高水準に保つ能力が備わっているか,という点に留意する必要がある。
著者
小野 雅琴 清水 亮輔
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.68-78, 2018-09-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
28

制御焦点理論は本来,促進焦点を有する個人はポジティブな結果を重視した判断を行う一方で,予防焦点を有する個人はネガティブな結果を重視した判断を行うというテーゼを提唱する理論であるが,拡張の結果として,促進焦点を有する個人は感情的に結果を判断しようとする一方で,予防焦点を有する個人は認知的に結果を判断しようとするというテーゼも提唱されている。このテーゼを援用することによって,本論は,口コミ発信者に対する妬みが口コミ受信者による推奨製品の忌避に帰着すると説く最新の口コミ研究の主張を部分的に反駁し,促進焦点を有する個人はそうである一方で,予防焦点を有する個人はむしろ推奨製品を採用する傾向にあると主張する。消費者実験を行って収集されたデータを用いてANOVAを行ってテストしたところ,仮説は首尾よく支持された。
著者
岩本 明憲
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
pp.2020.001, (Released:2019-12-25)
参考文献数
38

本研究の一義的な目的は,価格戦略理論の一画を成す価格変更に関連して,既存研究の問題点を整理・指摘したうえで,短期の値上げ及び値下げに加えて,その延長線上に実現する長期の高価格戦略及び低価格戦略を全般的な価格変更戦略として包括し,これらの多様な価格引き上げと引き下げを識別・整序する包括的な理論的フレームワークを提示することである。この目的を果たすべく,まずは価格変更に関する既存研究をレビューすることで本研究の射程がこれまでの価格変更研究をベースとしながらも,それを拡張・発展させる内容であることを確認する。次にプロスペクト理論を用いて,短期と中期の価格変更を識別し,長期かつより高次の価格変更戦略として,高価格戦略と低価格戦略を位置づける。それを踏まえて,留保価格と販売価格の差異,そして価格変更のためのコスト及びそれらの変化に着目し,四つの短期・中期の価格変更及び長期的に実現する八つの高/低価格戦略を分類・識別する理論モデルとそれに該当する事例を提示する。
著者
小野 晃典
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.6-19, 2019-03-29 (Released:2019-03-29)
参考文献数
22
被引用文献数
2

企業は,自社製品を物理的に擬人化することによって,消費者とのリレーションシップを強化することを目論むことがある。このとき,「製品の顔」に相当する部分は,擬人化製品にとって,パーソナリティ評価を左右する最も重要な部分である。このことに関する既存研究は,怒った目(vs. 笑った目)と笑った口(vs. 怒った口)の組合せが,最も選好される自動車の「顔」のデザインであると主張した。それに対して本研究は,4種類の目(怒った目,笑った目,四角い目,丸い目)と3種類の口(笑った口,怒った口,真っ直ぐの口)のデザイン,および,製品と自己(現実自己/理想自己)のイメージ適合を考慮に入れて分析を行う。その結果,12種類の擬人化製品は各々,固有の製品イメージと結びついており,それらと理想自己イメージとの適合度の高い消費者に選好されるということが見いだされた。このことは,選好度の高い唯一の「製品の顔」は存在せず,それゆえ,多様なニーズに合わせた「顔」にカスタマイズできる生産システムの構築を考慮に入れるべきことを含意している。
著者
山口 信夫
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.66-85, 2019-01-17 (Released:2019-01-17)
参考文献数
21

本稿の目的は,愛媛県松山市三津地区の衰退商業地を事例にして,ワークライフバランス事業者のビジネスモデルに関する仮説的論点を抽出することにある。三津地区において,近年微増しつつあるワークライフバランス事業者は,不動産価格の下落をチャンスととらえ,内装のセルフビルドにより固定費を抑えると同時に,高付加価値商品の提供により収入曲線の傾きを増大させることで,自らのビジネスの損益分岐点を引き下げることに成功している。三津地区においては,人口減少や住民高齢化により,周辺住民の購買力が低下しているため,単なる地域密着のビジネスでは店舗経営が成り立たない。むしろ,高付加価値商品を提供することで,関与度の高い消費者を広範囲から集客することに成功している。上記のようなビジネスモデルは,衰退商業地で収益をあげるための知恵として理解できる。また,衰退商業地は,上記のような商店主を呼び込むポテンシャルを有している。
著者
小川 亮
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.47-62, 2019-03-29 (Released:2019-03-29)
参考文献数
42

本研究は製品開発プロセスの初期段階においてデザインを活用することの有効性を検証する。開発初期段階のコンセプトテストにおいて,接触可能なデザインを活用することで情報の具体性が増加しその結果,消費者からの改良アイデアが出やすくなることについて2つの視点から仮説を構築し実証分析を行った。1つは提示する情報が具体的であるほど,製品の改良アイデアが出やすいという解釈レベル理論に基づく仮説であり,もう1つは実際に製品を触れさせるという提示方法を用いることで,製品の意味概念の活性化が行われるため,改良アイデアが出やすいというハプティック知覚研究に基づく仮説である。富士里和製紙の製品開発プロセスにおいて実際に使用されたトイレットペーパーの提示物を用いて会場調査を行い,コンセプトテストにおいて文字で提示する場合と平面デザイン及び接触可能な立体デザインで提示する場合の改良アイデアの出やすさにおける差を検証した。その結果,文字情報のみを提示した場合と接触できる立体デザインを提示した場合では後者の方が具体性が高く,意味概念の活性化が行われ,改良アイデアが出やすいことに有意に差が見られた。
著者
吉岡(小林) 徹
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.21-37, 2018
被引用文献数
3

<p>デザイナーが商品開発の上流工程から関わること,とくに,デザイナーが他の職能組織の活動に積極的に関与していくことは,製品・サービスのイノベーションの実現につながるのだろうか。本研究は,デザイナーによる他の職能組織の活動への関与の一つとして,技術開発への関与が,技術開発の質を高め,かつ,製品の質を高めているのかを,市場で成功を収めた事例の分析と,国際的なデザイン賞受賞製品90製品の調査により検証した。その結果,デザイナーの技術開発の関与は,①新たな要素技術を着想し,新規な製品コンセプトを実現する,②技術的課題を設定するか,技術開発チーム内での共有を促し,技術者の開発効率を高める,③他組織の技術を橋渡しし,新たな技術を生み出す,のいずれかの形で高い質の技術を生み,かつ,製品自体の質を高めていたことが確認できた。これらはデザイナー固有の寄与とまでは断言できないが,デザイナーの強みが生きた機能組織間連携の効果であると考えられる。</p>
著者
石原 武政
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.6-16, 2019-01-17 (Released:2019-01-17)
参考文献数
19

小売業の地域貢献に多くの注目が集まっている。それは決して小売業の「本来的業務と無関係な余計な業務」ではない。むしろ,店舗型の小売業が本来的のもっていた外部性への正当な評価にほかならない。かつては外部性への配慮は本業と不可分に結びついていたが,チェーン店の登場によってその両者が分離した。外部からの規制はそれを新たな規範として形成するための1つのステップであった。チェーン型の小売業も多くの地域貢献活動に取り組んでいるが,企業単独ではなく,地域の小売業と共に「まちづくり」に取り組むことが強く求められている。