著者
齋藤 佑樹 長山 洋史 友利 幸之介 菊池 恵美子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.299-308, 2017-06-15

要旨:本研究では,ADOCが作業療法面接に与える影響について検証した.ADOCは作業療法士とクライエントが協業的に面接評価を行い,作業療法目標を立案・共有するための面接ツールである.Webアンケート調査で,5名の予備調査インタビューから得た3つのカテゴリー(①セラピストの知識・技術,②セラピストの自信,③クライエントの状態)を基に,全34問の質問紙にて調査した.ADOCの使用経験者188名の回答を分析した結果,作業療法初心者には作業に焦点を当てた実践を追求したいと思う動機的側面にプラスに作用し,経験者では認知症や失語症など意思疎通が困難なクライエントと意味のある作業を共有する自信がついたとの回答が多いことが明らかとなった.
著者
野口 卓也 港 美雪
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.124-133, 2012-04-15

要旨:地域で暮らす精神障害を有した人を対象に,作業に焦点を当てたニーズ調査を実施した.対象者は,主観的に幸せな人生を実現するために,一日の時間の使い方と作業選択のコントロールへのニーズを抱き,作業に従事しながら様々な意味を求め,その意味を達成しようと工夫しながら生活していた.また,その体験を通じ,自己の状況に気付き,問題解決などのためにすべきことを理解し,学ぶ過程があり,自身の幸せな人生像を徐々に見出すことを可能にしていた.対象者が意味を実現する作業従事を通じて,幸せにつながる作業像を具体化し,その実現に必要なニーズを見出しながら作業療法士が介入することへの重要性が示唆された.
著者
嶋田 隆一 石井 良和 ボンジェ ペイター 塩路 理恵子
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.581-590, 2021-10-15

要旨:作業療法士(以下,OTR)とクライエント(以下,CL)が,治療関係構築時の経験をどう意味づけているかを理解するために解釈学的現象学による質的研究を行った.回復期病棟入院中のCLとOTR 3組に参与観察と面接を実施した.その結果,治療関係構築の意味づけとして,CLでは6つ,OTRでは5つのテーマが明らかになった.OTRとCLの間には,関係構築のための関わり,経験の共有を通したOTRとCLの関わり,関係の帰結に向けての関わりがあると示唆された.治療関係構築についてOTRは〈思いを汲み取ろうという態度〉と意味づけており,CLは〈改善の兆候の実感〉や〈いまの自分を知ってくれている存在〉と意味づけていた.
著者
平賀 勇貴 久野 真矢 平川 善之 許山 勝弘
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.327-333, 2017-06-15

要旨:人工膝関節置換術(以下,TKA)後の痛みにより破局的思考や不安,抑うつ傾向を認め,自己効力感が低下した事例に対する作業療法を経験した.カナダ作業遂行測定(以下,COPM)によって挙がった散歩に焦点をあて,活動の自己管理能力を促すために「疼痛をコントロールして散歩ができるようになる」ことを目的として,活動日記を実施した.事例は,活動日記を通して散歩に対する達成感から,自己効力感が向上し,活動量に対する自己管理能力を獲得した.また,COPMにおいて散歩は遂行度2から8,満足度2から8へと向上した.本事例を通して,TKA後患者に対する活動日記を取り入れた作業療法実践の有用性が示された
著者
中村 友美 山根 寛 山田 純栄
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.359-370, 2016-08-15

要旨:昨今の精神科医療の改革に伴う作業療法プログラムの整備状況と課題を明らかにするため,協力の得られた32施設にプログラムに関する質問紙調査を行った.精神科病床100床未満の公的総合病院では急性期プログラムが整備されていたが,100床以上の民間精神科病院では慢性期対象の大集団プログラムが中心で,急性期や退院促進プログラムが不足し,半数以上は全体でのリハビリテーション検討体制がなかった.プログラムの問題は約8割の作業療法士が認識し,プログラム整備が困難な要因には民間病院の収益性や診療報酬の問題が共通し,施設の構造や体制,作業療法士の認識や技能,他職種との連携に関する問題も相互に関係していることが示唆された.
著者
小川 真寛 澤田 辰徳 三木 有香里 林 依子 真下 高明
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.149-158, 2016-04-15

要旨:本研究の目的は回復期リハビリテーション病棟入院中の患者の能力から退院後の公共交通機関利用の可否を予測することにある.退院後の電車およびバス利用の有無を調べ,その有無で分けた2群間で入退院時の能力を比較した.ロジスティック回帰分析の結果,電車利用の予測に選択された入院時の因子は年齢とFIMの運動項目の合計スコアであった.バス利用の予測に選択された入院時の因子は年齢とFunctional Balance Scale(以下,FBS)であった.退院時の能力は電車およびバス両方でFBSのみが選択された.この知見を利用し公共交通機関の利用可能性がある対象者を早期より見定め,適切な外出手段が獲得されるようにアプローチする必要がある.
著者
諸星 成美 京極 真
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.273-280, 2021-06-15

要旨:本研究は,身体障害を有する地域在住高齢者の作業的挑戦の特性をクラス分類し,作業参加,抑うつ,人格特性との関連性を検証した.データ収集は,調査用紙を用いて対象者から回答を得た.分析は,記述統計量の算出,潜在クラス分析,多項ロジスティック回帰分析を実施した.結果,作業的挑戦には,肯定的な作業的挑戦,危うい作業的挑戦,否定的な作業的挑戦の3つの特性があることがわかった.そして,肯定的な作業的挑戦に影響を与える因子には,生産的活動やセルフ・ケアへの作業参加,抑うつの身体症状やポジティブ感情,協調性や勤勉性の人格特性があった.本研究により,作業的挑戦への介入のための解釈可能性が広がると考えられる.
著者
青山 克実 豊嶋 明日美 小林 暉尚
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.96-102, 2019-02-15

要旨:今回,筆者らは生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を用いて,統合失調症の40代男性(以下,A氏)の地域生活移行支援を経験した.MTDLPの補助ツールとして,運動技能とプロセス技能評価(AMPS)を用いた.我々は,多職種連携支援をマネジメントし,A氏が退院後に必要で大切な食事の準備に焦点をあてた介入や,退院後の再発予防に対する心理教育などを行った.その結果,生活に対する有能性や認知機能障害が改善し,地域生活にスムーズにつながった.MTDLPは,統合失調症者の地域生活移行支援として有用なマネジメントツールだと考えられた.
著者
岡本 幸 井上 桂子
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.44-54, 2007-02-15

要旨:個人作業療法実施により統合失調症長期入院患者の社会生活障害が改善するかを,精神科リハビリテーション行動評価尺度(Rehab)を用いて検討した.対象者は統合失調症による長期入院患者36名であった.個人作業療法はカナダ作業遂行測定(COPM)により対象者個々と一緒に計画を立て,週1回,5ヵ月間実施した.この介入の前後にRehabを用いて社会生活障害を評価した.その結果,Rehabの「全般的行動合計点」,中項目では「社会的活動性」,「セルフケア」,「社会生活の技能」が有意に改善した.個人作業療法は,統合失調症長期入院患者の社会生活障害の改善に効果的であることが示唆された.
著者
真下 いずみ 田中 和宏 橋本 健志
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.372-379, 2020-06-15

要旨:4年間自閉的生活を送っていた重症統合失調症患者に,生活行為向上マネジメント(MTDLP)を用い,患者の希望する生活行為である「働くこと」を支援した.作業療法士が,就労継続支援B型事業所内(以下,事業所)に出向いて認知機能,精神症状,身体機能を評価した.多職種連携プランを立案し,事業所職員と協働した結果,患者は通所に至った.また介入前後で機能の全体的評定,社会機能評価尺度,WHO/QOL 26の得点が向上した.以上から,重症度によらず患者が希望する生活行為を遂行することが,社会機能と主観的QOLの向上をもたらすと考えられた.作業療法士が地域に出向いて患者が希望する生活行為に介入することの有用性が示された.
著者
岩野 健蔵 小林 正義
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.403-409, 2018-08-15

要旨:本研究の目的は,統合失調症長期入院患者の認知機能障害を,外来(デイケア)患者との比較によって明らかにすることである.入院群(n=33)は外来群(n=30)より,年齢,累積入院期間,服薬量,簡易版陽性・陰性症状評価尺度(Brief PANSS)の妄想が有意に高く,機能の全体的評定尺度(GAF)と統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(BACS)の言語性記憶,ワーキングメモリ,運動機能,注意と処理速度,遂行機能,総合点が有意に低かった.入院群の認知機能障害には,長期入院や慢性経過を背景とする全般的な心理社会的機能の低下や抗精神病薬服用量などが,関連している可能性が推測された.
著者
能登 真一 毛利 史子 網本 和 杉本 諭 二木 淑子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.126-133, 1999-04

半側空間無視症例に対し,右手使用の木琴を用いた訓練を考察し,訓練効果をシングルケースデザインで検討した.木琴療法は180度回転させて設置した木琴を演奏するものである.ABAB法を用いて訓練効果を検討した結果,ベース期と介入期,除去期と再介入期の間に半側空間無視の成績の有為な改善を認めた.半側空間無視の改善は,左方向への音階の探索により左方向への運動意図が高まったことと,音楽の利用により右半球が活性化されたためと考えられた.
著者
向 文緒 美和 千尋 鈴木 國文
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.537-544, 2003-12-15

要旨:精神科作業療法の課題を明らかにすることを目的に,愛知県内の精神科作業療法に従事する作業療法士の問題意識と作業療法の実態について調査を行った.調査票回収後,問題意識のカテゴリ化を行い群分けをして,作業療法の実態比較を行った.治療性より収益性が求められることを問題にあげる施設とあげない施設の作業療法士一人あたりの取り扱い患者数に有意差は認められなかった.一方,プログラム構成には有意差が認められた.また,作業療法士が参加しないプログラムを有する率も,問題意識の違いにより異なる傾向がみられた.治療性より収益性が求められるという問題の背景に,プログラムのあり方に関する問題があることが示唆された.
著者
星野 藍子 鈴木 國文
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.646-656, 2009-12-15

要旨:実際の企業で就労の体験をしてみるという「就労体験プログラム」において,対象患者のプログラムに作業療法士が付き添い,統合失調症患者の仕事場面における特徴や問題点を記述した.その内容を2段階にカテゴリー化し,考察を深め,就労支援における新たな視点の持ち方を提案した.その結果,支援は3つの視点,①要素的機能の障害として捉えられる問題点,②自分の行為をチェックする機能が含まれる問題点,③患者と社会との関係を考慮に入れることにおける問題点に分けられた.従来の支援では,②や③の視点が取り上げられることは少ないが,要素機能に対する支援と共に,これら2つの視点は極めて重要な視点であることが示唆された.