著者
坂本 信子
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.29-31, 1986-02-15

はじめに 当院は,昭和大学の付属病院として,昭和50年に設立され,同時にリハビリテーション(以下リハと略す)部門が,理学療法(以下PTと略す)室のみで発足した。作業療法(以下OTと略す)室は,昭和54年に,身障OTの認可施設として開設され,以来6年が経過している。現在OTRは2名,RPTは11名,事務職員2名である。リハ部門全体は,中央診療システムをとっており,整形外科の教授が,理学診療科長を兼任している。 OTが対象とする患者層は,年齢,疾患共に多様であるが,近年,中枢神経疾患々者の占める比率及び絶対数が増加している。その原因としては,脳外科・神経内科病棟の増床,救命救急センターの開設,整形外科での脊椎手術数の増加等があり,また,発症後,ごく早期にリハ処方が出されるようになってきている。中枢神経疾患は,もとより,全身的アプローチを要求される疾患であるが,OTとしては,早期から個々の患者に即した生活・動作パターン(筋トーヌスの調整や失行・失認の改善等を目的とする)を,考慮していかなければならない。これは,OT部門発足当初に比べ,よりImpairmentレベルの仕事がふえた事を意味している。 このように,OTの内容が,量的・質的に変化してきている訳であるが,OTの存在と役割は,必ずしも院内の認知・理解を得ているとはいい難く,OTR自身も,病院内で,いくばくかの異和感を捨てきれずにいる。 本来的に,OT部門の管理・運営方法論が,病院という機構内での,OTの位置関係を離れては存在しえない以上,医療の大きな枠組の中でOTをとらえる事は,不可欠である。 近年,リハ医学では,QOLということが,盛んに言われ始めている。しかし,現実には,リハ部門に対する主治医の関心は,専ら人間の動物的機能の面にとどまっている場合が多い。それは,リハの概念自体が,既存の医療構造の中で矮小化されている事を示しているのではなかろうか。加えて,OTが,患者の応用動作,即ち,より社会的な側面に働きかける職種である為,OTに対する理解を得ることは,一層困難である。当院のリハ部門には,リハドクターや,直接指導してくれる内科医師が居ないという特殊性もあるが,院内で,OTが,確固とした位置を築き得ていない事が,スムーズな業務遂行を妨げている。 そのような,悪循環を打開する為には,OTR自身が,状況に流されることなく,地道な実践を種み重ねていくことが根本であるが,医学部カリキュラムの問題等,OT協会のSocial Actionにも期待したい。 以上,管理・運営をめぐる諸条件について述べた。次に,当院の現状を,項目毎に報告する。
著者
時武 治雄
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.3-12, 1986-02-15

はじめに 大阪府立中宮病院が設立されて60年を迎えようとしている。人間でいうなら還暦の年にあたるわけだが,その間作業療法については,シモンのもとで学んだ長山による作業療法の展開や,院外保護の実践が行なわれている。 そうした折の昭和14年に,当院に隣接する枚方火薬庫の大爆発がおきたが,当時実践されていた作業療法の効果によって患者は機敏に行動し,無事故による避難ができたという逸話も残っている。 第二次大戦が激しくなるにつれ,食糧難のために多くの患者が死亡していったという悲しい記録も残されている。終戦後もこうした状態が続いていたが,当院にも,昭和30年代に入って,向精神薬を使用するようになり,少しずつ開放化のきざしがうかがえるようになってきた。昭和35年にはレクリエーション係が設置され専任のスタッフが配置された。昭和36年には,同意入院を取扱うことになった。 一方作業療法については,男子作業は農耕園芸の種目に新しく二部作業とよぶ軽作業を加え,女子作業も和裁・洋裁・手芸の種目に新しく二部作業とよぶ軽作業を加えている。 こうして,作業療法,レクリエーション療法の広がりがあって昭和43年に,旧病棟2,032m2(2階建)が作業療法棟として改造され,レクリエーション療法には社会療法棟(体育館)が新設され,この両者を合わせて名称も活動療法科として誕生した。 今回,協会機関誌編集委員会から執筆依頼があった。当院における作業療法のささやかな経験を実務的に報告することによって,多少なりとも役立つことができるのであればと考え,あえて昭和43年から現在までを,作業療法の分野に限って報告したい。そして御批判をいただきたいと考える。
著者
竹田 徳則 近藤 克則 平井 寛 村田 千代栄
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.55-65, 2007-02-15

要旨:本研究の目的は,作業療法による認知症予防の手がかりを得ることである.対象は,65歳以上の地域在住高齢者で5年後にも要介護状態になかった健康寿命保持群2,110名と認知症で要介護状態となった230名である.5年間認知症にならずに健康寿命を保持している状態を予測するオッズ比を求めた.その結果,例えば趣味「あり」(オッズ比:2.27),主観的健康感「よい」(2.00),うつ「なし」(1.91),IADL「自立」(2.56)などが,健診「受診」(1.71),歩行「30分以上」(1.54)のオッズ比よりも大きかった.健康行動よりも,心理・社会面の望ましい状態を保持することが認知症予防には重要である可能性が示された.
著者
今井 忠則 齋藤 さわ子
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.42-51, 2011-02-15

要旨:意味ある作業が健康に及ぼす影響についての根拠となる研究は少ない.本研究の目的は,意味ある作業の参加状況が健康関連QOLに及ぼす影響を明らかにすることである.茨城県の地域中高年者470名を対象に6ヵ月間の追跡調査を実施し398名を分析対象とした.意味ある作業の参加状況の測定は,自記式作業遂行指標(SOPI)を,健康関連QOLはSF-36v2を使用した.性・年齢・社会経済的要因を調整変数とした重回帰分析の結果,意味ある作業の参加状況の改善は健康関連QOL(特に精神的側面)に肯定的な影響があった.本研究は世界的にも少ない大規模集団の縦断研究であり,作業と健康に関する疫学的エビデンスの構築に貢献する.
著者
三木 恵美 清水 一 岡村 仁
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.48-59, 2009-02-15

要旨:末期がん患者のQOL向上を目指した作業療法実践が報告されているが,その効果を包括的に測り得る評価尺度が明確ではないために,介入効果に関する研究は十分に行われていない.そこで,作業療法士が患者のどのような変化を効果として捉えているかを明らかにするため,半構成的面接を行い質的に分析した.その結果,患者の変化として7カテゴリ,家族の変化として3カテゴリ,人的環境の変化として2カテゴリが得られ,カテゴリは相互作用により患者の生活に良循環を起こすと考えられた.得られたカテゴリは作業療法士がアウトカムとして認識したものであり,末期がん患者に対する作業療法の効果を計る指標として利用できると考えられた.
著者
田中 啓規 寺岡 睦 佐伯 昌彦
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.436-444, 2016-08-15

要旨:作業に根ざした実践2.0(Occupation-Based Practice 2.0;以下,OBP 2.0)は,クライエントの作業機能障害の種類を評価し改善しつつ,クライエントを取り巻く環境で生じる信念対立に対処していく方法論である.本報告では,子育てに困難さを抱える脳性麻痺のあるクライエントの母親に対して,OBP 2.0を用いた評価と介入を実施し,発達領域の作業療法におけるOBP 2.0の臨床有用可能性を考察した.その結果,子育てに重要な役割を持っていた母親に対する作業機能障害の種類と信念対立への評価と介入が,適応的な子育ての形成に有用であった.脳性麻痺のあるクライエントの母親に対してOBP 2.0を用いた評価と介入を実施し,良好な結果を得たので報告する.
著者
寺岡 睦 京極 真
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.249-258, 2014-06-15

要旨:本論では,作業に根ざした実践(occupation-based practice;以下,OBP)の新理論であるOBP 2.0の理論と実践を示した.従来のOBPは作業機能障害の解決に取り組むが,信念対立によって制約される限界があった.本論で示すOBP 2.0は,作業機能障害の種類と信念対立解明アプローチを理論統合し,ひとつの理論で2種類の問題に対応できるように構築した.また本論では臨床実践におけるOBP 2.0のモデル提示を行った.OBP 2.0は,作業療法の新理論として有益であると考えられた.
著者
田中 千都 四本 かやの 田中 究 橋本 健志
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.189-197, 2015-04-15

要旨:強迫性障害の中でも重度の強迫性緩慢は,薬物療法や行動療法が十分な治療効果を示さず,社会的孤立や著しい生活機能の低下につながると言われている.症例は強迫性緩慢が著しくADLに長時間を要し言語的コミュニケーションが困難な若年女性であった.機能的自立度の改善を目的とし,生活に困難をもたらしているADLと対人面の具体的な活動に焦点化し能動性の改善を図る作業療法を行った結果,強迫性緩慢は軽減しADLと対人面は改善した.また,その後5年のフォローアップ期間も症状再燃することなく機能は保たれ地域生活を送っている.以上から,重度強迫性緩慢の患者には遂行困難な活動に対して能動性の改善を図る作業療法が有用であると示唆された.
著者
新宮 尚人 落合 美穂 河合 桃子 竹辺 雅美 安藤 晶仁
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.253-261, 2003-06-15

要旨:長期入院患者に対して,社会復帰プログラムの特徴を取り入れた,オープングループの教育セッションを試みた.そしてその役割は,①社会復帰へ向けて必要な技術を学ぶ前段階として,入院生活での対人トラブルを回避したり,病気についての理解や障害とうまく付き合う方法を見つけていくきっかけとなる,②オープングループという場の構造は,患者ニーズの把握と相互理解の場として機能している,③他職種との連携により,患者のトータルな問題評価とそれに基づいた効果的なリハビリテーションを展開できる可能性を含んでいる,という3点にあるように思われた.
著者
日比野 慶子
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.282-289, 1992-08-15

要旨:25歳で発病し,3年5ヵ月の入院を経て退院した精神分裂病の症例に,2年2カ月余り作業療法を実施した.激しく多彩な強迫症状のために他者とのトラブルが絶えず,どこにも居場所のない症例であったが,現在は退院してデイ・ケア通所が続いている. 作業療法の経過の中で,症例とOTRの患者—治療者関係,すなわち対象関係の発展がみられ,それをMahler, M.の分離—個体化理論を治療仮説として考察した.また,症例にとっての活動の意義も考察した. 作業療法の原点は“活動を媒介とする患者—治療者関係の確立にある.”ということを改めて考えさせる症例であった.
著者
木村 由貴 竹林 崇 徳田 和宏 海瀬 一也 藤田 敏晃
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.423-429, 2017-08-15

要旨:脳卒中患者は脳卒中によって上下肢の麻痺が生じる.特に上肢麻痺は脳卒中患者のQOLを低下させる.複数の研究者は,分枝粥腫病(Branch Atheromatous Desease;以下,BAD)の上肢の機能予後は,通常の脳卒中に比べ,不良と報告している.今回,我々は入院後2日の間に麻痺の悪化を認めた中等度の上肢麻痺を呈したBAD患者を担当した.急性期から,上肢麻痺に対して対象者の意味のある作業を用いた課題指向型アプローチを提供した結果,上肢機能は臨床上意味のある最小変化を超える改善を認めた.本事例報告では,経過と結果について,BADの梗塞の深さ,梗塞層の大きさ,さらには発症当初の身体機能を用いた予後予測に関する考察を加えて報告する.
著者
工藤 梨紗 沼田 士嗣 村田 和香
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.473-480, 2015-08-15

要旨:養護老人ホームへの入所によって役割を喪失し,身体機能およびADLの低下が認められた脳出血後遺症をもつ70歳代女性に,本人が重要と感じている作業に従事することを支援した.提供された作業の成功体験を基に,その他の作業へも挑戦し役割を獲得することで,介助を受ける生活から積極的な生活を送るといった習慣の変化が生じた.この背景には,入院している「夫への報告」という意味のある作業が大きな影響を与えていた.作業療法の経過を振り返り,回数制限のある外来作業療法において,役割を獲得し習慣変化に影響を与える,意味のある作業への支援の重要性を考察した.
著者
今井 忠則
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.611-620, 2016-12-15

要旨:意味のある作業への従事(作業参加)は健康・well-beingにとって重要であるが,その関係性を疫学的に実証した研究は少ない.本研究では作業参加が生きがいに及ぼす影響を明らかにすることを目的に,健康な地域中高年者456名(男性121名,女性335名,平均年齢63.8歳,範囲50〜85歳)を対象に1年間の追跡調査を実施した.作業参加,生きがい,基本属性・社会経済的要因を調査し重回帰分析を行った結果,作業参加が生きがいに肯定的な影響(β=0.35,p<0.001)を及ぼし,1年間では余暇活動,生産的活動,セルフ・ケアの3領域全てで同程度の影響があることが明らかとなった.本研究結果は健康増進・予防的作業療法の基礎的・疫学的根拠の一つとなる.
著者
平澤 勉 野際 陽子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.536-546, 2013-12-15

要旨:本研究の目的は,うつ病患者に対する作業療法の気分改善効果や不快な思考低減効果と,入院期間の関係を検討することである.対象者は精神科病院に入院中のうつ病患者105名.入院日数90日以内の回復期群と91日以上の慢性期群に分け,作業療法前後の気分および不快な思考体験とその反応を比較し,満足度との関係を分析した.気分と不快な思考の改善効果は回復期群でより良好であり,対象者の満足度に影響を与えていた.入院うつ病患者に対する作業療法において,ポジティブな気分を促す活動,集中をもたらし不快な思考を低減できるような活動の有効性が示唆された.
著者
原田 祐輔 長谷川 利夫
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.324-336, 2014-08-15

要旨:仕事のストレス要因とストレス反応の関連性を明らかにすることはストレス対処に寄与すると言われているが,作業療法分野において,働く領域ごとにストレス要因やストレス反応を比較した研究は見られない.本研究では,訪問リハビリテーションに従事する作業療法士(以下,訪問OTR)・病院に勤務する作業療法士(以下,病院OTR)を対象とした仕事のストレス要因,ストレス反応に関する実態調査を行った.結果として,訪問OTRは,病院OTRと比較するとストレスは低く,メンタルヘルスは良好であるということが示唆された.また,両群共にストレス反応に最も影響するストレス要因として「やりがい・適性」が抽出された.
著者
水野 高昌 鈴木 久義 奥原 孝幸 上原 栄一郎 山口 芳文
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.273-283, 2011-06-15

要旨:作業療法士が行っている感情労働に焦点をあて,作業療法士の業務において求められている感情労働の構成概念を明確にすることを目的に研究を行った.医療施設および福祉施設に従事する100名を選択し調査対象とした.調査方法は郵送によるアンケート調査で無記名の自記式とし,回収されたデータはBerelson Bの内容分析によって分析した.分析の結果,対象者への感情労働は9カテゴリーが抽出された.対象者への感情労働として抽出されたカテゴリーは,先行研究に類似したものと「プログラムの工夫」など作業療法士独自のものも見られ,本研究によって作業療法士が感情労働を行っていることが示唆された.
著者
石川 哲也 野々垣 学
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.307-314, 2012-06-15

要旨:本研究の目的はミラーセラピーが脳卒中患者の麻痺手に対する主観的認識の強度と質に及ぼす影響を調べることとした.対象は発症から2ヵ月以上経過した脳卒中患者3例.方法は通常の訓練に加え1日30分のミラーセラピーを6週間実施した.アウトカムの測定は上肢機能にFugl-Meyer Assessment,麻痺手に対する主観的認識の強度にVisual Analog Scaleを用い主観的認識の質は対象者の語りを聴取した.結果,上肢機能は1例で改善を認めた.また麻痺手の主観的認識は全例で強度の向上と,質の良性変化を認めた.3例の共通点と相違点から,ミラーセラピーは麻痺手に対する主観的認識の強度と質の改善に有効な方法である可能性が示唆された.
著者
塩津 裕康
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.344-350, 2019-06-15

要旨:本報告の目的は,限られた介入頻度でも,Cognitive Orientation to daily Occupational Performance(以下,CO-OP)を用いた介入の有用性を示すことである.方法は,2事例の事例報告で,介入はそれぞれ2回(約1ヵ月に1回)であり,その前後を比較した.結果は,CO-OPを用いることで,粗大運動および微細運動スキルどちらの課題でも,スキルを獲得することができた.さらに,最小限の介入頻度で,スキルの獲得およびスキルの般化,転移を導く可能性が示唆された.結論として,CO-OPの適応児の選定に検討の必要性はあるが,認知戦略を発見および使用できる子どもに対しては,有効である可能性が示された.