著者
木村 雅友
出版者
日本医真菌学会
雑誌
Medical Mycology Journal (ISSN:21856486)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.J127-J132, 2017 (Released:2017-11-30)
参考文献数
30
被引用文献数
2 6

副鼻腔真菌症は,真菌による粘膜浸潤の有無で浸潤性と非浸潤性に分類される.浸潤性は,病勢進行の速さにより急性浸潤性と慢性浸潤性に分類される.一方非浸潤性は,慢性非浸潤性とアレルギー性真菌性副鼻腔炎に分類される.菌球型とも呼ばれる慢性非浸潤性がわが国では大半を占め,つぎにアレルギー性真菌性副鼻腔炎で,浸潤性は急性も慢性もかなり少ない.浸潤性では,病理組織学的に粘膜内への菌糸による浸潤が認められる.さらに急性浸潤性では菌糸の血管侵襲も見られるが,慢性浸潤性では血管侵襲は少ない.非浸潤性では真菌は副鼻腔粘膜組織に浸潤していない.菌球が副鼻腔組織に接していても,その菌糸の組織内浸潤は認められない.菌球内には分生子頭やシュウ酸カルシウム結晶などが認められることがあり,原因真菌の同定に寄与する.アレルギー性真菌性副鼻腔炎は,好酸球集団が散在するアレルギー性ムチンと呼ばれる粘液が特徴的で,その中に真菌要素が少数認められる.病理組織学的観察は各病型を診断する際に重要で,特に浸潤性か非浸潤性かを鑑別するのに必須である.
著者
丸山 奈保 滝沢 登志雄 久島 達也 石橋 弘子 井上 重治 安部 茂
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第51回 日本医真菌学会総会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.135, 2007 (Released:2008-08-08)

【目的】膣カンジダ症は発症頻度の高い感染症でありながら、一部では抗真菌剤だけで解決できない場合も多い。本症にアロマセラピーとして植物精油が経験的に用いられているが、有効性を得る最適な投与法に関する研究は少ない。ここでは、膣カンジダ症マウスモデルを用いその検討を行った。【方法】実験1.C.albicans TIMM2640を、エストラジオールを投与したBALB/cマウスに接種し、翌日より植物精油を3日間連続膣内投与後、4日目に菌を回収した。一部のコントロールマウスでは、投与6時間後に膣の洗浄操作を加えた。実験2.菌接種48時間後に膣を洗浄後、ゼラニウム油及び主成分であるゲラニオールを膣内投与し、投与6、24、96時間後に菌の回収・洗浄を行った。【結果と考察】1.クロトリマゾールでは効果が認められたが、ゼラニウム油、ティートリー油などの植物精油では、生菌数の低下は認められなかった。ただし、膣洗浄により生菌数の有意な低下が認められた。2.植物精油投与96時間後にはゲラニオール1%で生菌数の有意な減少が、ゼラニウム油1%で減少傾向が見られた。すでに、ゼラニウム油及びゲラニオールはin vitroでC.albicansの菌糸形発育を阻止し、基材への付着性を低下させることを明らかにしている。以上より、これらは、膣洗浄との適切な組み合わせにより、膣カンジダ症に有効性を示しうると考えられる。
著者
吉田 稔
出版者
日本医真菌学会
雑誌
Medical Mycology Journal (ISSN:21856486)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.111-115, 2013 (Released:2013-06-11)
参考文献数
23
被引用文献数
1 3
著者
原田 聡 杉田 隆 田嶋 磨美 津福 久恵 坪井 良治 西川 朱實
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第50回 日本医真菌学会総会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.77, 2006 (Released:2006-09-12)

【はじめに】皮膚常在真菌であるMalasseziaはアトピー性皮膚炎の増悪因子である。本菌は細胞外にリパーゼを分泌することにより皮脂を分解しそれを自らの栄養源としている。この度は、アトピー性皮膚炎の標準的治療薬であるステロイドおよびタクロリムスがMalasseziaの分泌性リパーゼ産生および遺伝子発現に及ぼす影響について検討した【材料および方法】菌株:アトピー性皮膚炎患者皮膚の主要構成菌種であるM. globosaおよびM. restrictaの臨床分離株を用いた。リパーゼ遺伝子変動:degenerate PCRによりリパーゼ遺伝子をクローン化し、各種薬剤存在下での遺伝子発現変動をreal-time PCRを用いて調べた。分泌性リパーゼ産生:各種薬剤存在下でpNPP法によりリパーゼ活性を測定した。【結果および考察】臨床濃度に相当するステロイド存在下では、リパーゼ遺伝子の発現およびタンパク産生の抑制が認められた。一方、タクロリムスは、臨床濃度の約1/60以下で遺伝子発現およびタンパク産生の亢進が認められた。しかしながら、タクロリムスは臨床濃度ではMalasseziaに対して殺菌的に働くので、リパーゼ活性の亢進は臨床上問題にならないと考えられる。【会員外共同研究者】内田夕貴、斉藤美沙

2 0 0 0 OA KOH直接鏡検

著者
畑 康樹
出版者
日本医真菌学会
雑誌
Medical Mycology Journal (ISSN:21856486)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.7-9, 2013 (Released:2013-03-08)
参考文献数
6
著者
仲 弥
出版者
日本医真菌学会
雑誌
Medical Mycology Journal (ISSN:21856486)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.225-231, 2012 (Released:2012-12-15)
参考文献数
37
被引用文献数
2 1
著者
Takashi Toyoshima Ken-ichi Ishibashi Daisuke Yamanaka Yoshiyuki Adachi Naohito Ohno
出版者
日本医真菌学会
雑誌
Medical Mycology Journal (ISSN:21856486)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.E39-E44, 2017 (Released:2017-02-28)
参考文献数
27
被引用文献数
2

Aspergillus species are ubiquitous in the environment and Aspergillus fumigatus can cause life-threatening infections in immunocompromised patients. β-1,3-/1,6-glucan is a major fungal cell wall polysaccharide that has various biological effects on the infected host, but little is known about the influence of β-glucan on the fungus itself. In a previous study, we demonstrated that the cell wall β-glucan content could be increased in Aspergillus spp. by addition of β-glucan to the culture medium. In this study, we investigated the influence of β-glucan on the susceptibility of A. fumigatus to antifungal agents. A. fumigatus was cultured in the presence or absence of β-glucan for antifungal susceptibility testing based on changes of the growth rate and morphology. Susceptibility to micafungin, a β-glucan synthase inhibitor, was about 10-fold lower when β-glucan was added to the culture medium. On the other hand, susceptibility to amphotericin B and voriconazole was similar in either the presence or absence of β-glucan. These results strongly suggest that β-glucan has an important physiological role in Aspergillus spp.
著者
樽本 憲人 金城 雄樹 北野 尚樹 渋谷 和俊 前﨑 繁文 宮﨑 義継
出版者
日本医真菌学会
雑誌
Medical Mycology Journal (ISSN:21856486)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.J115-J122, 2014 (Released:2014-09-18)
参考文献数
68

カンジダ属は,院内の血流感染症の原因菌の中でも頻度が高く,全身性カンジダ症が致死的な転帰をたどることもまれではない.カンジダ感染症に対する宿主の生体防御反応においては,感染早期の自然免疫においては好中球などの食細胞が,獲得免疫においてはCD4T細胞が重要な役割を示す.近年,自然免疫応答にも関与するリンパ球であるNKT細胞が,さまざまな微生物の感染症における免疫応答に関与することが示唆されているが,カンジダ感染におけるNKT細胞の関与については明らかではない.私たちは,全身性カンジダ症のマウスモデルにおけるNKT細胞の役割について確認した.まず,NKT細胞欠損マウスであるJα 18KOマウスを用いて解析を行ったが,その役割は限定的であった.一方で,糖脂質を投与してNKT細胞を活性化させたところ,生存期間が著明に短縮し,腎臓内菌数が有意に増加していた.加えて,末梢血および骨髄中の好中球数が減少していた.さらに,IFNγ KOマウスでは,NKT細胞活性化によるカンジダ感染の増悪がほぼ消失した.また,腸管内常在性の細菌とカンジダ属を共感染させたところ,カンジダ単独感染群と比較して,真菌排除が低下し,この感染増悪には細菌感染により誘導されたIFNγ が重要であることが明らかになった.以上の結果より,細菌との共感染などによって過剰にIFNγ が産生される状況では,全身性カンジダ症が増悪する可能性が示唆された.
著者
呂 耀卿
出版者
日本医真菌学会
雑誌
真菌と真菌症 (ISSN:05830516)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.24-31, 1987 (Released:2009-12-21)
著者
古賀 哲也
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.151-154, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
14
被引用文献数
5 4

Infections with dermatophytes are generally confined to the keratinized stratum corneum. This superficial site of infection may protect the infecting dermatophytes from direct contact with some of the effector cells of the immune system; therefore, the immune system has developed a special subsystem in the skin to eliminate them.The innate immunity and acquired immunity (delayed-type hypersensitivity response) are both required for cutaneous immune surveillance against dermatophytes in the skin.Epidermal keratinocytes not only have an important structural role in forming a physical barrier to dermatophytes but also are important functionally in mediating cutaneous immune reactions. These cells can secrete proinflammatory cytokines, chemokines, and anti-microbial peptides in response to dermatophytes. The T cell-mediated delayed-type hypersensitivity response to dermatophyte antigens may play a central role in both pathogenesis of the typical skin lesions and an acquired, relative resistance that affords partial immunity to the host. However, the exact form of effector T cell immunity and the cellular and molecular mechanisms which eliminate dermatophytes from the skin are poorly understood. The literature on the immunology against dermatophyte infection is reviewed in this paper.
著者
新見 京子 新見 昌一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.57-66, 2009-04-30
参考文献数
79
被引用文献数
2 5

真菌の細胞壁骨格多糖 &beta; &ndash; 1,3 &ndash; グルカンの合成を阻害するエキノキャンディン(キャディン)系抗真菌薬は,<I>Candida</I>や<I>Aspergillus</I>に対して高い抗菌活性を示し,ヒトに対する副作用も少ないことから深在性真菌症の治療における重要な選択肢となっている.アゾール薬に比べて耐性菌出現の問題は少なく,発売から数年を経ても低感受性菌分離の報告は欧米を中心に散見されるに過ぎない.しかし,その報告例は徐々に増加している.低感受性株のほとんどは<I>C. albicans</I>であるが,<I>C. glabrata</I>,<I>C. krusei</I>,<I>C. tropicalis</I>でも見られ,これらの株はキャンディンに対する感受性が100倍近く低下し,膜画分中の &beta; &ndash; 1,3 &ndash; グルカン合成酵素もキャンディン耐性を示す.耐性との強い関係が示唆されているのは,この酵素の触媒サブユニットをコードする遺伝子<I>FKS</I>のエキノキャンディン耐性領域(Ech<SUP>R</SUP>)と呼ばれる部分のアミノ酸置換である.しかし,アミノ酸置換がどのように耐性とかかわっているか,詳細は不明である.一方,キャンディンは真菌のストレス応答を惹起し,それにかかわるネットワーク特にcell wall integrity伝達経路と呼ばれるシグナル経路が働くことによって,薬剤に対して寛容の状態となる.真菌の細胞壁合成酵素はヒトにはないタンパクであり,有望な薬剤の標的分子である.今後より幅広い抗菌スペクトルをもつ細胞壁合成阻害薬を開発するには,耐性機構の解明と標的分子の構造解析が必要であろう.
著者
深澤 万左友
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.229-231, 2005
被引用文献数
3

リポソーマルアムホテリシンB(AmBisome&trade;)は,現在でも深在性真菌症治療の"gold standard"とされているアムホテリシンB(AMPH-B)の抗真菌活性を維持しつつ副作用を低減させたDDS(Drug Delivery System)製剤である.母剤のAMPH-Bは,アスペルギルス,カンジダなど幅広い抗真菌スペクトラムを有し,殺菌的に作用する.その作用機作はAMPH-Bが真菌細胞膜のエルゴステロールに吸着し,細胞膜の透過性を高め細胞質成分を漏出させることである.一方,AMPH-Bはヒト細胞膜のコレステロールへの親和性が低く真菌細胞ほど強い影響を与えないが,この選択毒性は完全でないため臨床では重篤な腎毒性等が発現し,その使用には十分な注意が必要である.<br>本剤は単層リポソーム構造を有し,投与後も血流中にほとんどフリーのAMPH-Bを放出することなく感染組織にリポソームのまま運ばれ効果を示す.AMPH-B既存製剤(ファンギゾン&trade;)と同様の<i>in vitro</i>抗真菌活性ならびに動物実験での<i>in vivo</i>効果を示し,海外臨床試験でも同様の高い治療効果が認められている.それと同時に,リポソーム化に伴う薬物動態特性の改善や動物細胞への傷害性や反応性の著しい低減によって,毒性の軽減,特に腎臓に対する副作用や投与時における発熱,さむけ/悪寒などの頻度および程度が軽減された.
著者
新見 京子 新見 昌一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.057-066, 2009 (Released:2009-05-11)
参考文献数
80
被引用文献数
5 5

真菌の細胞壁骨格多糖 β – 1,3 – グルカンの合成を阻害するエキノキャンディン(キャディン)系抗真菌薬は,CandidaやAspergillusに対して高い抗菌活性を示し,ヒトに対する副作用も少ないことから深在性真菌症の治療における重要な選択肢となっている.アゾール薬に比べて耐性菌出現の問題は少なく,発売から数年を経ても低感受性菌分離の報告は欧米を中心に散見されるに過ぎない.しかし,その報告例は徐々に増加している.低感受性株のほとんどはC. albicansであるが,C. glabrata,C. krusei,C. tropicalisでも見られ,これらの株はキャンディンに対する感受性が100倍近く低下し,膜画分中の β – 1,3 – グルカン合成酵素もキャンディン耐性を示す.耐性との強い関係が示唆されているのは,この酵素の触媒サブユニットをコードする遺伝子FKSのエキノキャンディン耐性領域(EchR)と呼ばれる部分のアミノ酸置換である.しかし,アミノ酸置換がどのように耐性とかかわっているか,詳細は不明である.一方,キャンディンは真菌のストレス応答を惹起し,それにかかわるネットワーク特にcell wall integrity伝達経路と呼ばれるシグナル経路が働くことによって,薬剤に対して寛容の状態となる.真菌の細胞壁合成酵素はヒトにはないタンパクであり,有望な薬剤の標的分子である.今後より幅広い抗菌スペクトルをもつ細胞壁合成阻害薬を開発するには,耐性機構の解明と標的分子の構造解析が必要であろう.
著者
望月 隆
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.14, 2005

<I>Trichophyton</I> (<I>T.</I>) <I>tonsurans</I> 感染症は 1990 年初頭から北アメリカ各地、スエーデン、韓国、ドイツなどの格闘技愛好者の間に流行している。本邦においては 2001 年から培養で本菌によることが確認された集団発生例が報告されたが、おそらく 1995 年頃以前から当初レスリング部員、その後柔道部員の間で集団発生が始まっていたと考えられる。昨年の本学会においては、本症の発生状況を明らかにするためにシンポジウムが行われ、本症が高等学校、大学などの柔道、レスリング競技者を中心にすでに全国的に蔓延していること、当初強豪校を中心としていた感染の範囲が拡大していること、家族への二次感染例があること、一般への拡散はいまだ確認されていないことなどが明らかになった。したがって、今後は効果的な治療、予防策の提案が急務と考えられる。現在のところ本症の診断、治療のガイドラインとしては「柔道選手の皮膚真菌症 ブラシ検査・治療・予防のガイドライン」(比留間政太郎他 編集室なるにあ 2003 年 9 月)、ならびに「<I>Trichophyton tonsurans</I> 感染症の診断・治療・予防のガイドライン2004」(<I>T. tonsurans</I> 感染症対策委員会編 順天堂大学医学部皮膚科学教室 2004 年 6 月)が提示されている。今回は一高等学校柔道部を対象としたヘアブラシによるサンプリングを通じて、ヘアブラシ法を行うタイミング、特に乱取りを含む稽古の前後でのヘアブラシ法の所見の変化、そして稽古直前の抗真菌剤外用のヘアブラシ法への影響についてのデータを添えつつ、ガイドラインの紹介を行う。(共同研究者:田邉 洋、河崎昌子、安澤数史、若狭麻子、石崎康子)
著者
澤崎 博次 信太 隆夫 池本 秀雄 米田 良蔵 工藤 禎 田村 静夫
出版者
日本医真菌学会
雑誌
真菌と真菌症 (ISSN:05830516)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.91-131, 1979

肺アスペルギルス症に就ては過去数回にわたりシンポジウムが持たれている. 今回のパネルディスカッションは従来触れていなかつた点を補い, 臨床に重きをおき, 関連する基礎的な面も検討した.<br>演者は肺アスペルギルス症の臨床に経験の深い方々ばかりである.<br>先づ全国的な剖検例の調査から見てアスペルギルス症は逐年増加の傾向にあることが確認された.<br>(1) 臨床像の現況 (a) 最近見られる様になつたアレルギー性気管支肺アスペルギルス症の診断基準, IgEの高値, central bronchiectasis, 栓子, 気管支発作誘発反応などの詳細に触れた. (b) 菌球型については結核に続発することが多いので結核病院の患者を対象とする調査で入院患者の2%前後の出現で, 非定型的な菌球例も多く, レ線像の変化も多彩であり, 結核空洞の他に硬化病巣部位からも菌球が発生する. また人工気胸, 胸膜炎, 肺切除術後に発生するものが多い. 危険な予後は少いが喀血死がある. (c) 肺炎型は殆んど剖検例で, 白血病などに合併するものが多い. 発病に白血球数の低下が関係する. 抗真菌剤で延命効果が期待出来るので早期診断の立場から菌の発見が重要である.<br>(2) 診断 Ouchterlony 法による血清沈降反応 (寒天ゲル内二重拡散法), 補体結合反応, counterimmuno electrophoresis, 間接 (受身) 赤血球凝集反応等を菌球例の多数例に行い, 高率な陽性成績を得ているので診断法として有用である. 諸種抗原の比較検討も行われた.<br>(3) 菌球型等の免疫能菌球型の細胞性ないし体液性免疫能の程度を検索すると, T細胞の機能低下があり, 体液性では免疫グロブリン値は全例として正常か若干増加の傾向にある. 対照とした結核症でもやや似た傾向が見られた. 基礎疾患として一番多い造血器腫瘍などではT細胞比率のみならず機能の著しい低下もあり, 二次感染の成立に極めて有利な条件となつているのが判明した.<br>(4) 治療及び予後巨大菌球例に対してカテーテルによる5-FCの空洞内注入療法の成功例と, 内科治療に抵抗した多発菌球例に対する空洞切開術の成功例が示された.<br>(5) 病理切除肺について, 菌球よりは空洞壁ないしは周囲肺組織に注意を払つて検索を進めた. 空洞の中枢部は軟骨を有する比較的太い気管支であり, 末梢は肋膜に接する, 即ち空洞はかなり大きい肺実質の欠損である. また空洞の側壁と末梢にも気管支が開口していて気管支の壊死, 化膿性炎が変化の主体である. 内腔にはしばしば真菌が存在する. 稀に気管支内腔に真菌を容れた閉塞性肉芽腫性病変が見られる. 次いでアレルギー性気管支肺アスペルギルス症例の理解に役立つ mucoid impaction の症例が紹介された. 中枢部気管支の拡張とその内容たる少数のアスペルギルスが示された.<br>最後にまとめとして次の想定が提出された. 菌球型の発生には一次性と云わず, 結核症に続発する二次性と云わず, 免疫能その他の抵抗性の低下につけ込んで感染が成立し, アレルギー反応としてI型ないしはIII型, IV型の反応が起り, 中枢部気管支の壁が破壊され, 病変は肺実質に波及し, 比較的広範囲の欠損, 空洞となり, 菌糸は中枢部から発育増大をおこして空洞内を充たす. 一方肺組織の反応はIII型ないしはIV型の形をとるのではないか. 空洞性病変に続発するものもこれに準ずるものであろう. 造血臓器疾患に続発する「ア」症は全くカテゴリーの違う無反応性のものと考えるべきではないか. いづれもいくつかの事実の総合の上に組み立てられた仮説であるが, 今後はその細目を検討して行くべき筋合のものであろう.
著者
時松 一成
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.26, 2007

深在性トリコスポロン症は、<I>Trichosporon asahii</I>によって起こる重篤な日和見感染症であるが確立された診断法や治療法はない。また、<I>T. asahii</I>は夏型過敏性肺炎の原因真菌でもありシックハウス症候群の一つとしても注目されている。同一の菌種が一方では重篤な感染症を引き起こし、もう一方ではアレルギー反応を惹起するという興味深い真菌であるが、その要因には生体と真菌の接触の結果生じる真菌の形態や形質変化と、生体側の免疫応答の変化が関与していることを我々は明らかにしてきた。生体との接触でおきる最も大きな変化は、グルクロノキシロマンナン抗原量の増加であり、この結果、<I>Trichosporon</I>は生体からの免疫能を回避し、生体環境に順応して潜伏し、宿主の免疫能が低下すると播種性感染症へと進展するこが予想される。<BR>このセミナーでは、環境に常在する真菌が、ヒトとのかかわり合いの結果、どのように変化して、様々な病態、すなわち、過敏性肺炎や日和見感染症を発現するのか、そのメカニズムについて解説し、さらに、最近の全国の疫学調査の結果から明らかになってきている、本症の発症に地域性はあるのか、新しい抗真菌薬が開発された今日、以前と比べ本症の死亡率は改善されたのか、以前から問題とされているブレイクスルー感染症があるのか、血清β―グルカン値が上昇するのか、<I>Trichosporon</I>の薬剤感受性に変化が生じているのか、など、臨床上の重要な問題点にも迫る。
著者
時松 一成 門田 淳一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.155-159, 2006-07-31
参考文献数
20
被引用文献数
1

2002年に発売開始されたミカファンギンや2005年に発売開始されたボリコナゾールは, アスペルギルス属に対して抗真菌活性を有する薬剤である. 欧米における大規模臨床試験の結果, ボリコナゾールは, アムホテリシンBに比べ, 侵襲性肺アスペルギルス症に対し優れた有効性を有し, ミカファンギンと同じキャンディン系抗真菌薬であるカプソファンギンは, 好中球減少期における発熱に対し有効性を示した.<br>このように, 今後, ますますアスペルギルス症に対する治療薬剤の選択肢は増加し, その治療方法も大きく変化すると予想される一方, 薬剤選択の多様性から生じる臨床現場の混乱を避けるため, 新たな標準的治療法の確立が望まれる.<br>本稿では, 新規抗真菌薬をめぐる問題として, non-<i>fumigatus Aspergillus</i> の中でも最近増加が懸念されている<i>Aspergillus terreus</i> 感染症に対する新規抗真菌薬の有用性と, 新規抗真菌薬使用下に発生するブレイクスルー感染について記述した.