著者
出羽 寛
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.139-151, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
27
被引用文献数
2

北海道旭川市に隣接する当麻町において,孤立林を含むモザイク的な生息環境である農耕地域でのネズミ類の分布,種類構成,孤立林の利用形態を明らかにするために,森林域(屏風山),3つの孤立林(親山5.1ha,子山 4.1ha,窪山 0.3ha)と農耕地(水田,ビート畑,麦畑,JR 沿線草地,農道横草地,納屋·ビニールハウス)に調査区を設定,1986年6月から1988年11月まで毎月1回(12月から4月までの積雪期間を除く),記号放逐法によるネズミ類の個体数調査を行った.森林域と孤立林ではヒメネズミApodemus argenteus, エゾアカネズミ A. supeciosus ainu, エゾヤチネズミ Clethrionomys rufocanus bedfordiae の3種が主要な構成種であり,農耕地ではエゾヤチネズミ,カラフトアカネズミA. peninsulae, ドブネズミ Rattus norvegicus, ハツカネズミ Mus musculus の4種が主要構成種であった.ネズミ類による孤立林の利用形態には次の3つのタイプが認められた.a)エゾヤチネズミは孤立林を最も主要な生息場所として利用するが,同時に農耕地も普通に利用し,孤立林と農耕地の間で移動が通年見られる.b)ヒメネズミとエゾアカネズミは孤立林だけをすみ場所として利用し,農耕地は秋の移動·分散時の経路として利用した.ただし,面積が小さい場合は孤立林も秋から冬季の一時的なすみ場所として利用した.c)カラフトアカネズミ,ドブネズミ,ハツカネズミの3種は農耕地を主要なすみ場所として利用し,孤立林には主に9月から11月に侵入し,一時的なすみ場所として利用した.
著者
高田 靖司
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.123-134, 1985-02-28 (Released:2010-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

愛知県三河湾の佐久島 (171ha) と本土 (春日井市・名古屋市) の間で、野生ハツカネズミの分布と密度 (捕獲率を尺度とする) を比較した。1981年から1984年までの調査により次の事がわかった。1) 島には本種の他に, ドブネズミとジネズミが見られ, その他の野生哺乳類を欠く。2) 本土では本種の他に, アカネズミ, カヤネズミ, ハタネズミ, ジネズミ及びヒミズが見られる。3) 島のハツカネズミは森林を除いて、調べた総ての生息環境, すなわちイネ科の一年生と多年生の草地, タバコ・クワ畑及びヨシ湿地に独占して見られる。4) 本土のハツカネズミはイネ科の一年生草地にだけ優占し, ここでも他のネズミと共存している.また, 多年生草地と森林にはアカネズミが, ヨシ湿地にはカヤネズミが優占している。5) 本土の各生息環境におけるネズミ類の総密度は, 島の同じ生息環境におけるそれに等しいか, あるいはより高い.6) 他の優占的な競争種を欠く島におけるハツカネズミの密度, 繁殖, 齢構造及び食性は生息環境間で異なることが示唆された。ハツカネズミの生息地拡大と好みの分析から, その分布を決定する上で重要な要因として, 1) ネズミ共同体, 特にアカネズミやカヤネズミのような優占的な競争者, 2) 環境, 特に植生に働く人為作用が考えられた。
著者
常田 邦彦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.139-142, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1
著者
酒井 悠輔 坂本 信介 加藤 悟郎 岩本 直治郎 尾崎 良介 江藤 毅 篠原 明男 森田 哲夫 越本 知大
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.57-65, 2013 (Released:2013-08-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1

飼育下でアカネズミ(Apodemus speciosus)の自然交配による繁殖を誘導できる飼育交配手法を検討した.巣穴環境を擬似的に再現することで繁殖が誘導できるとの作業仮説のもと,ケージ内の床敷きを覆うように板を設置した中蓋あり飼育ケージを考案した.季節的な環境要因の影響を考慮するため,自然環境温度・自然光周期条件である半野外飼育施設において中蓋あり条件と中蓋なし条件で交配実験を行った.さらに環境条件が一定の室内飼育施設においても中蓋あり条件で交配実験を行った.その結果,半野外飼育施設の中蓋なし条件で雌個体の妊娠が確認されたのは11個体中1個体で1例のみだったのに対し,同施設での中蓋あり条件では9個体中4個体で6例の繁殖が誘導された.さらに室内飼育施設での中蓋あり条件では10個体中4個体で12例の繁殖が誘導でき,繁殖したペアの多くが複数回の繁殖を行った.半野外飼育施設の結果から,飼育ケージに中蓋を設置し疑似巣穴環境を再現することで,飼育下においてアカネズミの繁殖が誘導できることが示唆された.さらに繁殖の誘導が困難とされてきた室内飼育条件においても,繁殖に適した物理環境条件下であれば中蓋を用いることで繁殖を誘導できることが明らかとなった.これらのことから,飼育下における本種の繁殖誘導には飼育ケージに中蓋を設置するという簡便な手法が有効であると考えられる.
著者
山本 さつき 鈴木 馨 松浦 友紀子 伊吾田 宏正 日野 貴文 高橋 裕史 東谷 宗光 池田 敬 吉田 剛司 鈴木 正嗣 梶 光一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.321-329, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
35

銃器捕殺の勢子による追い込み狙撃法(n=4),大型囲いワナ(銃)(n=6),出会いがしらに狙撃するストーキング(n=9),シャープシューティング(n=14),および麻酔薬を用いた不動化捕獲の移動式囲いワナのアルパインキャプチャー(n=14),大型囲いワナ(麻)(n=8),待ち伏せ狙撃するフリーレンジ(n=10)を用いてニホンジカ(Cervus nippon)を捕獲した.肉体的ストレスの指標として測定したクレアチンキナーゼは,追い込み狙撃法(2,057±1,178 IU/L)がシャープシューティング以外の全ての捕獲方法より,また交感神経興奮の影響を反映するアドレナリン,ノルアドレナリンは,追い込み狙撃法(アドレナリン:16.500±4.655 ng/ml,ノルアドレナリン:20.375±8.097 ng/ml)が他の全ての捕獲方法より有意に高かった(P<0.05).精神的ストレスの指標として測定したコルチゾルは,囲いワナ(アルパインキャプチャー:2.63±1.90 mg/dl),大型囲いワナ(銃:1.38±0.50 mg/dl)および大型囲いワナ(麻:3.10±1.79 mg/dl)が他の捕獲方法より高い傾向が見られたが,これらは全てGaspar-Lópezほか(2010)により報告されたアカシカ(Cervus elaphus)の正常変動範囲内(1.30~6.49 mg/dl)であった.以上の結果から,追い込み狙撃法は身体的負荷が大きいこと,囲いワナは他の方法に比較して著しいストレス反応を伴う捕獲方法ではないことが明らかになった.よって,大量捕獲が可能な囲いワナで生息密度を低下させることは,アニマルウェルフェアに配慮した適切な個体数管理の手法になりうると考えられた.
著者
古屋 義男
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.39-43, 1976-11-30 (Released:2010-08-25)
参考文献数
4

The otters (presumed as Amblonyx cinerea) were observed nineteen times during the period from November 1974 to February 1975 in Padas bay, Sabah, Malaysia. All of these nineteen observations were done in daytime and at eleven out of them they formed a group consisting of 4 to 8 otters. And thier food habit, vocal sounds and other behaviors that we observed are reported.
著者
辻 大和 高槻 成紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.221-235, 2008 (Released:2009-01-06)
参考文献数
117
被引用文献数
4

哺乳類の食性の長期研究の動向を探るために,BiosisとGoogle Scholerを用いて文献検索を行い,93の文献から99の事例を収集した.食性評価の期間には2年から16年とばらつきがあった.食性の長期研究事例には分類群ごとにばらつきがあり,食肉目(Carnivora)と霊長目(Primates)で多く,齧歯目(Rodentia)と翼手目(Chiroptera)で少なかった.食性の長期研究事例は時代とともに増加する傾向があった.多くの事例では食性評価に糞分析を用いていたが,特定の分類群に特徴的な分析手法がみられた.80%以上の事例で食性の年次変動がみられたが,多くの事例では食物環境の定量的な評価を行っておらず,さらに個体群パラメータへの影響を評価した事例はごくわずかだった.動物の食性の長期変化の把握は動物の基礎生態の理解に貢献するだけではなく,種子散布や採食に付随する行動などの派生的な研究,ひいては保全戦略の策定などにも貢献すると思われる.
著者
小林 亜由美 神崎 伸夫 片岡 友美 田村 典子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.13-24, 2009 (Released:2009-07-16)
参考文献数
36

富士山北斜面の標高2,100~2,300 mの亜高山帯針葉樹林において,ニホンリスを捕獲し,テレメトリー法によって植生環境の選択性を調査した.コメツガ優占林,カラマツ優占林,シラビソ/オオシラビソ優占林,ゴヨウマツ分布域,林縁,開放地の6区分の植生環境の中で,ゴヨウマツ分布域が選択的に利用される傾向があった.しかし,針葉樹の種子が利用できない春には,カラマツ優占林やシラビソ/オオシラビソ優占林も選択的に利用する個体があった.コメツガ優占林,林縁,開放地は忌避される傾向があった.これらの針葉樹のうち,1個の球果あたりのエネルギー量がもっとも多いのはオオシラビソで,次がゴヨウマツであった.カラマツ,コメツガは球果サイズが小さく,エネルギー量は少なかった.ゴヨウマツの球果サイズには同一の木の中で変異があり,ニホンリスはより大きな球果を選択的に利用することが明らかになった.球果サイズとその中に含まれる種子数には正の相関があるため,ニホンリスはより多くのエネルギーを効率的に得るために球果選択を行っていると考えられる.
著者
山本 輝正 佐藤 顕義 勝田 節子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.277-280, 2008 (Released:2009-01-06)
参考文献数
26

長野県飯田市上村北又渡の森林内において2007年8月にコウモリ類の捕獲調査を行ない,コヤマコウモリNyctalus furvusとクビワコウモリEptesicus japonensisを捕獲した.長野県において,コヤマコウモリは初記録であり,クビワコウモリは4例目の記録となる.コヤマコウモリの当歳獣が8月上旬に捕獲されたことは,本種の出産・哺育場所の存在を示唆するはじめての事例となる.また,コヤマコウモリの飛翔直前の音声(精査音)がFM型であることが明らかとなった.
著者
船越 公威 大沢 夕志 大沢 啓子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.29-34, 2006 (Released:2007-06-26)
参考文献数
6
被引用文献数
2

オリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusについて, 沖縄島周辺島嶼での1994~2005年にわたる直接観察, 食痕・ペリットの有無および聞き取り調査によって, 古宇利島, 伊江島, 水納島, 伊計島, 宮城島, 平安座島, 浜比嘉島, 津堅島および久高島に生息することを確認した. 与論島のオオコウモリに関して, 入手された標本・資料の検討結果からオリイオオコウモリと同定し, 与論島が本亜種の新分布地として追加された. さらに同島では詳細な生態的調査も行い, 2004年9月と2005年2月に少なくとも5頭の生息を確認した. 特に夏~秋季には親子も見られた. 食物としては, 春季にはアコウFicus superbaやモモタマナTerminalia catappaの果実, 夏~秋季にはシマグワMorus australisやフクギGarcinia subellipticaの果実, 冬季にはガジュマルF. microcarpaやアコウの果実が利用されていた. 以上の観察結果からオリイオオコウモリは, 個体数が少ないながらも, 一年を通して与論島に定住し繁殖しているものと考えられる.
著者
船越 公威 大沢 夕志 大沢 啓子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.179-184, 2012 (Released:2013-02-06)
参考文献数
16

これまで沖永良部島においてはオオコウモリの分布記載がなく,また生息についても断片的な情報しか得られておらず,生息の有無を確定することができなかった.しかし,住民への聞き取りおよび記録写真等で2003年3月にオリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusの生息が判明した.また,2011年6月に本種の成獣雄個体が捕獲された.同年10月と12月,2012年1月に本種が目撃された.加えて,2012年2月における精査で,少なくとも4頭の生息を確認し,この時期の食物としてギョボクCrataeva religiosa,オオバイヌビワFicus septica,モモタマナTerminalia catappaおよびアコウFicus superbaの果実が利用されていた.以上の観察結果等から,オリイオオコウモリは沖永良部島において個体数は極めて少ないものの,1年を通じて他の島への季節的な移動もなく定住しうると考えられた.