著者
河内 紀浩 中村 泰之 渡邉 環樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.73-77, 2018

<p>沖縄県の宮古諸島に導入されたニホンイタチ<i>Mustela itatsi</i>の糞より,同諸島固有の絶滅危惧種ミヤコカナヘビ<i>Takydromus toyamai</i>の骨及び体の一部を検出した.この結果は,同地域に生息する希少な固有種が国内外来種であるニホンイタチに捕食されていることを直接的に示す初めての証拠であり,ミヤコカナヘビの深刻な個体数減少の原因についての議論に一石を投じるものである.</p>
著者
阿部 永
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.55-66, 2010 (Released:2010-07-23)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本州中部においてコウベモグラMogera woguraがアズマモグラM. imaizumiiと競合し,分布を置換しながら前進している8地域においてトンネルのサイズ調査を行い,2009年時における前者のおよその分布先端を確定した.特に1959年に分布先端を確定してあった長野県内2河川流域のうち,木曽川上流においては上松付近において50年間に最大4.1 kmの分布拡大が認められた.他方,天竜川上流の支流小野川流域では最大2.4 km,本流域では最大16 kmの分布拡大が認められた.石川県金沢平野におけるコウベモグラの分布先端は,1998年における最初の調査以後の11年間に大きな変化はなかった.富士川流域では最上流部にある甲府盆地の下流約16 kmの峡谷に分布先端があった.静岡県・神奈川県にまたがる地域では,両県を分け南北に連なる山脈がコウベモグラの東進を妨げる障壁になっていることが明らかになった.
著者
大泰司 紀之 戸尾 〓明彦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-11, 1974-02-28 (Released:2010-08-25)
参考文献数
19

1.シカの袋角による体温調節作用をしらべる目的で, 袋角をもつニホンジカの環境温を0℃から33℃のあいだで変化させ, 袋角および体表各部位の皮膚温変動をしらべた。2.袋角の皮膚温は環境温の変化に追従して反応し, 5℃から36.5℃のあいだで変動した。管部や耳の皮膚温も環境温の上昇に対して鋭敏な反応を示したが, 特に袋角では顕著であり, 環境温の上昇と同時に環境温よりも急な勾配で上昇した。また, 環境温の下降時には, 袋角の皮膚温は急激な下降を示した。3.0℃の水に袋角を入れると, 袋角の皮膚温は2.5~9℃となり, 振幅1~3℃, 周期10~20分のhunting temperature reactionを示した。4.袋角に分布する脈管の走行についてしらべた結果, 袋角の血流は海綿静脈洞に連絡する経路をもつ。5.上記の結果から, 袋角には熱放散による体温調節作用, とりわけ脳温調節作用のあることが推定される。6.この袋角の体温調節作用は, 春および夏期における雄ジカの個体維持に重要な役割を果していると考察することができる。この考察は, シカ類の発展が寒冷地適応にもとづくとする仮定と矛盾しないものであり, その仮定を補強するものと考えられる。
著者
宮尾 嶽雄 両角 徹郎 両角 源美 毛利 孝之
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.29-32, 1968

The authors collected small mammals on Sado Island which lies in the Japan Sea about 32 km off Niigata and is situated on the northern coast of Central Honshu, the main island of Japan. Collecting was carried out during August 2-5, 1966, using snap traps.<BR>At Marutsuburi (alt. 120 m), we took the specimens listed below. The vegetation of this area was a mixed forest consisting chiefly of <I>Cryptomeria</I> and <I>Quercus. Apodemus speciosus sadoensis</I>, _??_11, _??_4<BR>At Mt. Myoken (alt. 1, 000 m), we took the specimens listed below. The vegetation of this area was shrubs consisting chiefly of <I>Acer</I>.<BR><I>Apodemus speciosus sadoensis</I>, _??_11, _??_9<BR><I>Apodemus argenteus</I>, _??_6, _??_6<BR><I>Microtus montebelli brevicorpus</I>, _??_<BR>Frequency distribution tables of body weight of <I>Apodemus</I> are shown in Tables 1 and 3. Average tail length, hind foot length and testicle size of each species are shown in Table 2. No pregnant females were collected.<BR>We noted that the island form, <I>Apodemus speciosus sadoensis</I>, was larger in body sizes than the mainland form, <I>A. s. speciosus</I>.
著者
船越 公威 長岡 研太 竹山 光平 犬童 まどか
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.245-256, 2009 (Released:2010-01-14)
参考文献数
38
被引用文献数
6

コテングコウモリMurina ussuriensisの枯葉(アカメガシワMallotus japonicus)トラップのねぐら利用とそのトラップ法の有効性について検証した.また,その利用結果から本種の繁殖生態について調査した.さらに,トラップ利用個体を用いて発信機装着による個体追跡を試みた.主要な調査地は鹿児島県霧島市の霧島神宮周辺と宮崎県都城市の御池周辺の照葉樹林である.地域や季節を通じた捕獲率は6~19%であったが,地域や季節によって大きく変化し,10月の霧島林と御池林では36%の高率であった.非繁殖期では雄の捕獲が大半を占めていたが,7月中旬には雌が頻繁に捕獲された.捕獲した個体から,南九州では出産が6月初旬で,広島県産よりも約1ヶ月早まることが示唆された.複数の成獣雌と幼獣からなる哺育集団が形成され,離乳期は7月中旬で幼獣はその頃から独立していた.また,交尾は10月がピークであると予想された.雄や非繁殖期の雌は単独でねぐらを利用するがねぐら間の距離が短いことから,ねぐら場所に対して単独的である一方,行動域は重複していた.トラップ法とテレメトリ法による個体追跡から,ねぐらは頻繁に替えられ,個体によっては比較的狭い範囲を移動していた.また,秋季には枯死倒木内をねぐらに利用していた.コテングコウモリの繁殖生態や社会構造を知る上でアカメガシワトラップ法の有効性が実証された.
著者
川田 伸一郎 安田 雅俊
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.257-264, 2012 (Released:2013-02-06)
参考文献数
15
被引用文献数
1

The Hainan mole, Mogera hainana Thomas, 1910, was recorded to be collected by “a native employed by Mr. Alan Owston” in the original description of the species. We noticed the specimen tag of the holotype was printed and handwritten in Japanese characters. The same tag was attached to another specimen of this species deposited at the Forestory and Forest Products Research Institute (Tsukuba, Ibaraki, Japan). Those specimens were both collected in November, 1906; therefore, the Hainan mole was collected by a Japanese person who visited Hainan Island in this period. We searched for the same form of specimen tags, and found many among bird specimens from Hainan Island at the Yamashina Ornithological Institute (Abiko, Chiba, Japan). In this period, Zensaku Katsumata collected the birds in Hainan Isl. and sent them to the Lord of Lionel Walter Rothschild in England. We estimated the type series of the Hainan mole was also collected by Z. Katsumata, who was a collector employed by a merchant A. Owston, and he sent it to L. W. Rothschild in UK. L. W. Rothschild communicated with the Natural History Museum and his name was dedicated to 18 mammalian species by researchers of this museum. It is possible to consider that Rothschild’s mammalian collection was presented to the Natural History Museum and examined by mammal researchers. Although Zensaku Katsumata was an obscure person in mammalogy, we discuss his contribution to the dawn of natural history in Japan.
著者
渡邊 啓文 船越 公威
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.323-328, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
33

大分県南東部の隧道内天井は,2013年~2017年の春~夏季の調査でテングコウモリMurina hilgendorfiとノレンコウモリMyotis bombinusの活動期のねぐらとして利用されていた.テングコウモリは5月~6月に10頭前後の個体が密集した集団を形成していた.この群塊は妊娠後期から末期に入った雌の集団であり,九州では初めての発見である.群塊体表の温度は単独個体よりも高く高体温を保持しており,胎児の成長促進に寄与していることが示唆された.テングコウモリは妊娠末期に移動して,他所で出産・哺育すると考えられる.
著者
永里 歩美 船越 公威
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.181-186, 2010 (Released:2011-01-26)
参考文献数
10

ニホンテンMartes melampus の換毛を引き起こす要因および毛色の地理的変異を解明するため,毛色の季節的な変化について九州南部における自動撮影装置を用いた野外調査と飼育下での観察をあわせて行った.その結果,野外,飼育下ともに冬毛への換毛が11月から,夏毛への換毛が4月から始まっていた.飼育下での観察結果から,冬毛への換毛は,室温が28°Cから16°Cに下降し,昼時間が11.5時間から10.5時間と短縮する時期に起こった.夏毛への換毛は,室温が18°Cから25°Cに上昇し,昼時間が12.5時間から13.5時間と長くなる時期に起こった.換毛の進行過程は,夏毛への換毛と冬毛への換毛が逆向きに進んだ.冬毛の鮮やかさは低緯度のものほど薄れ,九州南部のものでは吻部や眼の周囲が周年を通じて黒かった.
著者
小寺 祐二 神崎 伸夫 石川 尚人 皆川 晶子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.279-287, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
43
被引用文献数
5

本研究は,島根県石見地方で捕獲されたイノシシ(Sus scrofa)の胃内容物を分析し,食性の季節的変化を明らかにすることを目的とした.調査では,1998年4月から1999年3月の間に島根県浜田市を中心に捕獲されたイノシシ294個体より胃内容物を採取し,ポイント枠法による食性分析を実施し,各食物項目の占有率および出現頻度を季節別(第I期:5,6月,第II期:7~9月,第III期:10~12月,第IV期:1~3月)に算出した.その結果,植物質の占有率および出現頻度は季節によらず高い値を示した.動物質の占有率でも季節的変化は確認されなかったが,最高値を示した第II期でも4.3%と低い値であった.植物質の部位別占有率については果実・種子を除く全ての部位で季節的変化が確認され,第II期は同化部,その他の季節は地下部を採食する傾向が確認された.また,地下部の内訳について見ると,第I期はタケ類(57.9%),第III期・第IV期は塊茎(それぞれ43.3%,21.3%)の占有率が高くなった.同化部は第II期の主要な食物となっており,その多くが双子葉植物で占有率は27.6%を示した.果実・種子の占有率については,堅果類が第III期・第IV期に20.0,20.4%と高い値を示し,水稲と果実は第II期にそれぞれ6.8,3.6%を示した.その他植物質の多くは繊維質であり,第I期は主にタケ類,第II期は双子葉植物,第III期・第IV期は塊茎から由来するものであった.調査個体群では第II期を除き植物質地下部が良質で重要な食糧資源になっていた可能性が示された.
著者
松元 光春 西中川 駿 大塚 閏一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.41-53, 1984-03-25 (Released:2010-08-25)
参考文献数
21

島嶼型個体群であるツシマジカ, マゲシカおよびヤクシカの頭蓋を形態計測学的に比較検討した。1.ツシマジカ雄の頭蓋は4才でほぼ成獣の大きさに達するが, 長さの要素より幅の要素の成長が早かった。2.頭蓋の大きさはツシマジカが最も大きく, 次いでマゲシカ, ヤクシカの順で, 頭蓋基底長に対する各計測項目の指数より, 頭蓋幅はマゲシカで最大でヤクシカで最小であり, ツシマジカは鼻部の長さが短かった。3.雄は雌より著しく大きく, また, 雄の顔結節下縁はW字形を, 雌のそれはU字形を呈していた。4.cline分析から, ツシマジカおよびマゲシカの頭蓋基底全長はタイリクジカ群とニホンジカのclineの中間に, マゲシカの鼻骨長はニホンジカのclineより大きい位置にあったが, ヤクシカの頭蓋基底全長, ツシマジカおよびヤクシカの鼻骨長はニホンジカのclineに含まれていた。5.主成分分析により三群間の区分が明確にされたが, ツシマジカーマゲシカ間よりマゲシカーヤクシカ間の差異が大であった。
著者
池田 敬 松本 悠貴 内田 健太 小林 峻 渋谷 未央 水口 大輔 東城 義則
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.91-97, 2017

<p>日本哺乳類学会2016年度大会において,著者らは若手研究者や学生の学識的な交流の場を提供することを目的とした自由集会を開催し,本集会の効果や同年代での交流の必要性を調べるアンケート調査を実施した.本集会への参加者は約50名にのぼり,学部生から社会人まで幅広い構成となった.アンケート結果では,参加者は学生(学部・修士・博士・研究生)が最も多く,全体の75%を占めた.また,アンケート回答者の88%が集会の内容に満足したと回答し,回答者全員が哺乳類学会において同年代との交流や同年代の哺乳類研究,就職状況等に関する企画が必要であると回答していた.他の学会と比較し,哺乳類学会は若手研究者や学生間での交流が限られているため,これらの年代を対象とした企画は人材育成の場や研究発展の場として貢献すると考えられる.その一方で,アンケート結果は参加者の所属や所属地域による偏りがあり,参加者の専門は多岐にわたっていることから,若手研究者や学生の全体的な意見を反映していない可能性がある.そのため,幅広くアンケートを実施し,学会に所属する多くの若手研究者や学生のニーズを汲み取った学会運営が望まれる.</p>
著者
中本 敦 木田 浩司 森光 亮太 小林 秀司 岸本 壽男
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.107-115, 2013 (Released:2013-08-13)
参考文献数
45

岡山県全域を対象とした小型哺乳類の捕獲調査を2010年10月~2011年12月にかけて実施した.齧歯目6種,トガリネズミ型目2種の計130個体が捕獲された.小型哺乳類の8種すべてで生息密度が非常に低かった.アカネズミApodemus speciosusの捕獲数が最も多く,捕獲場所も県内全域の様々な環境に及んだ.これに対してアカネズミ以外の種では,植生や標高などの生息環境に選択性が見られた.アカネズミの生息密度に最も大きな影響を与えたのはハビタットタイプではなく,年2回の繁殖による個体数の増加であった.岡山県では何らかの理由で小型哺乳類の生息密度が非常に低くなっていると思われるが,特にこれまで普通種と思われていたヒメネズミA. argenteusとハタネズミMicrotus montebelliの生息数の減少が懸念された.他県においても普通種を含めた小型哺乳類の生息密度の再評価が必要な時期に来ていると思われる.