著者
岸本 真弓 金子 弥生
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.237-250, 2005 (Released:2006-12-27)
参考文献数
18
被引用文献数
6
著者
玉那覇 彰子 向 真一郎 吉永 大夢 半田 瞳 金城 貴也 中谷 裕美子 仲地 学 金城 道男 長嶺 隆 中田 勝士 山本 以智人 亘 悠哉
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.203-209, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
10
被引用文献数
3

沖縄島北部地域(やんばる地域)を東西に横断する県道2号線および県道70号線の一部区間は,希少な動物の生息地を通過する生活道路となっており,ロードキルの発生が問題となっている.この県道を調査ルートとして,2011年5月から2017年4月までの6年間,ほぼ毎日,絶滅危惧種のケナガネズミDiplothrix legataのルートセンサスを行い,生体や死体の発見場所を記録した.6年間の調査において,ケナガネズミの生体75件,ロードキル個体47件の合計122件の目撃位置情報を取得した.その記録に基づき,ヒートマップを利用して調査ルートにおけるケナガネズミのロードキル発生のリスクを表現することで,リスクマップを作製した.また,生体とロードキル個体の発見数からロードキル率を算出し,現在設定されているケナガネズミ交通事故防止重点区間(以下,重点区間とする)におけるロードキルの発生状況を評価した.リスクマップと重点区間を照合すると,交通事故リスクの高いエリアのいくつかが,重点区間の範囲外にあることが明らかになった.また,重点区間のロードキル率は他の区間と同様のレベルであった.本研究で提示したリスクマップやケナガネズミの行動記録を活用することで,より現実の状況に即した取り組みの展開が可能になると期待される.
著者
落合 菜知香 門脇 正史 玉木 恵理香 杉山 昌典
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.209-214, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ヤマネGlirulus japonicusの野生下での食性の季節変化を明らかにするため,糞分析を行った.長野県にある筑波大学農林技術センター川上演習林内に,ヤマネ調査用に164個の巣箱を設置し,2011年5月から10月まで約10日間隔で計16回,巣箱を点検して糞を回収した.回収した糞は60%エタノールで十分にほぐし,10×10のポイントフレーム法を用いて各月にその交点1,000点上の内容物を実体顕微鏡下(40倍)で観察し,各餌項目の出現割合を月ごとに比較した.交点上の内容物は節足動物,果皮他,マツ属の花粉,その他の花粉,種子2種に分類された.春には花粉,初夏は節足動物,晩夏から秋には種子を含む果皮などの植物質の餌が多く出現し,食性が季節的に変化していることがわかった.また,どの時期も糞中に節足動物と植物質の餌項目が出現し,特に節足動物は全ての月で25%以上の割合で出現したことから,ヤマネにとって重要な餌資源だと考えられる.
著者
鈴木 千尋 佐々木 基樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.15-27, 2023 (Released:2023-02-09)
参考文献数
77

ニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax)は多くの謎を残して絶滅した.これまで,謎に包まれたニホンオオカミの生物学的特徴の解明のため,形態学的な調査や議論が数多く行われてきた.テミンク(Temminck)が1839年にニホンオオカミの命名を行って以来,約180年の間,ニホンオオカミの分類学的位置に決着がつかずにいた.2009年以降になると,ニホンオオカミの遺伝学的手法を用いた解析が着実に進み,ニホンオオカミはオオカミ(C. lupus)の亜種とすることがほぼ確定された.形態学的な研究は,ニホンオオカミの系統進化学的位置を明らかにすることはできなかったが,それらはニホンオオカミの多くの形態の特徴を明らかにしてきた.特に頭蓋の形態において,二分する前翼孔や口蓋骨水平板後縁の湾入など他のオオカミ亜種やイヌ(イヌもオオカミの亜種であるが本総説では別途分けて記載する)とは異なる部位が複数あること,さらに,ストップ(額段)が発達しないといったオオカミの特徴と,小さく扁平な鼓室胞を有するといったイヌの特徴の両方を持つことが明らかにされている.これらニホンオオカミの形態学的特徴は,これまでにニホンオオカミの同定に対して重要な役割を担ってきた.また近年,CTスキャナーや3Dスキャナーによって得られたデジタルデータを用いた三次元画像解析が,ニホンオオカミを含むオオカミやイヌの頭蓋を対象に行われている.CT画像解析によって,頭蓋内部を非破壊的に検索することができるようになり,これまで困難であった頭蓋内部構造の詳細な把握,そしてそれらの定量解析が可能となった.また,CT解析では,頭蓋形態から推定される脳の外部形態を出力することが可能であり,今後ニホンオオカミにおいて脳機能の理解にそれを役立てることができるかもしれない.さらに,これら三次元デジタルデータからは実物形態を反映した模型の作製が可能であり,これらの研究分野での利用はニホンオオカミの様々な機能を解明する機会を我々に与えてくれるであろう.今後,さらなるニホンオオカミの生物学的特徴の把握のためにも,継続的な形態学的研究が必要である.
著者
伊澤 雅子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.9, no.5, pp.219-228, 1983

ノネコの日周活動を知るため, 福岡県の離島, 相の島において, ラジオ・トラッキング法と直接観察法を用いた調査を行なった。発情したオスを除いて, ノネコは1日のうちの大部分を休息に費やした。高いアクティビティーは日没時と日の出時項にみられ, この薄明薄暮型のパターンは, 個体間でも, 季節的にもかわることはなかった。また, ノネコは, 夏にはより夜行性, 冬にはより昼行性の活動を行ない, この変化は気温と強い関係をもっていた。すなわち, 気温が高くなるにつれて, 活動時間は昼間から夜間へと移っていた。また, 雨や発情期もネコの活動に影響を与えていた。ノネコのアクティビティーのこれらの特徴とそれに影響する要因を, 他の食肉目と比較して議論した。
著者
船坂 徳子 吉岡 基 柿添 裕香 神田 幸司 白水 博
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.305-310, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
16

シャチにおける視覚器の構造を把握するため,眼球とハーダー腺の形態学的特徴を調べた.眼球は多数の眼筋に覆われており,眼球壁は角膜と強膜からなる眼球線維膜,毛様体,虹彩と脈絡膜からなる眼球血管膜,網膜からなる眼球内膜の3層によって構築されていた.網膜は,組織学的に暗所適応型の特徴を有していた.眼球内の各部位を計測し,他鯨種と比較したところ,シャチの眼球は数種のマイルカ科鯨類と同様の形態を有することがわかった.ハーダー腺は,眼球の周囲をベルト状に囲む管状腺であった.結膜円蓋や眼瞼結膜には,ハーダー腺分泌物である粘液性物質を排出するための無数の導管開口部が存在していた.以上から,シャチには効率的な集光機能を有する眼球や,それを保護するための眼粘液を分泌するハーダー腺が備わっていることが明らかとなった.
著者
岸本 真弓 金子 弥生
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.237-250, 2005-12-30
参考文献数
18
被引用文献数
5
著者
川田 伸一郎
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.119-134, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
86
被引用文献数
4

明治初年,日本の動物学は来日した外国人教師の下で,ようやく近代的な様相を帯び始めたころだった.哺乳類を専門とする研究者はまだおらず,現在の東京大学を中心とする学者たちによって世界の哺乳類に関する知見が紹介され始めた.帝国大学と東京動物学会の成立により,『動物学雑誌』の発行が開始されると,帝国大学動物学教室の飯島 魁や国立科学博物館の前身である教育博物館の波江元吉といった人物が,哺乳類に関する記事を掲載し始め,やがて20世紀を迎えると青木文一郎や阿部余四男といった昭和初期に日本の哺乳類学を形成していく人物が登場し始める.また,この間には欧米から来日した外国人たちにより,日本の哺乳類標本が海外に送られ,その地の研究者によって調査されて日本の哺乳類相に関する研究が活発化した時代でもあった.本稿は,この明治から日本で初めて哺乳類を専門とする学術団体である「日本哺乳動物学会」の1923年設立にかけて活躍した人物とその業績についてまとめ,すでに100年を経て忘れ去られようとしている哺乳類学の黎明期に起こった出来事を記録にとどめるものである.
著者
長谷川 政美
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.269-278, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
29

近年のDNA塩基配列解析は,真獣類の系統関係についてさまざまなことを明らかにしてきた.そのなかでの大きな発見の1つが,真獣類は系統的にはアフリカ獣類,異節類,北方獣類という3大グループに分類できるということである.このことは,真獣類の初期進化に大陸移動による超大陸の分断が関わっていることを示唆する.しかし,超大陸の分断だけで,3大グループの間の分岐を単純に説明することはできない.これには,DNA塩基配列解析の第2の大きな成果である分岐年代推定の問題が関わっている.進化の過程でDNAの塩基置換が蓄積する速度は,さまざまな要因によって変動するので,文字通りの分子時計は成り立たない.しかし,分子進化速度の変動を考慮に入れて分岐年代を推定する方法が整備されてきた.そのような方法により,真獣類の3大グループの間の分岐は,超大陸の分断よりも新しいという証拠が集まりつつある.このことは,超大陸が分裂した後も,地質学的な時間スケールでは,大陸間で海を越えた漂着などによって生物相の交流が続いたことを示唆する.こうして真獣類の進化は,大陸移動に伴う超大陸の分断と,幸運に恵まれてはじめて成功する海を越えた漂着という2つの要因が絡み合って進んできたことが明らかになってきたのである.DNA塩基配列解析の第3の大きな成果は,現生生物のゲノム情報から祖先の生活史形質や形態形質などを推定できることであろう.本稿では,2017年に吴らが開発したゲノム情報から祖先形質を推定するための統計手法を解説し,それを真獣類の生活史形質の進化の問題に適用して得られた結果もあわせて紹介する.
著者
清田 雅史 米崎 史郎 香山 薫 馬場 徳寿
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.71-78, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
12

オットセイ(キタオットセイ,Callorhinus ursinus)の科学調査や漂着,混獲個体の適切な処置の際に必要とされる捕獲と取り扱いの方法を,陸上と海上に分けて解説する.陸上では,雌獣や小型の雄獣(体重70 kg未満)であれば,絞め縄のついた棒か大型のタモ網を用いて捕獲し,保定具を用いて物理的に不動化することができるが,大型の成獣雄の取り扱いには,化学的不動化法を用いざるを得ない.捕獲と保定の間は絶えず呼吸状態を確認することが大切である.また,繁殖島上でオットセイは密集した社会的な集団を形成するため,捕獲に際して上陸集団への撹乱を最小にし,動物と作業者の安全を確保し得る接近,捕獲,保定の方法を選ばなければならない.処置後の捕獲個体が他個体との社会的関係を維持できるよう,元の状態に安全に戻すことも重要である.一方海上では,摂餌域で流し刺網を使った生け捕りが可能である.日本国内ではオットセイの捕獲と所持は国内法により規制されており,調査のための捕獲を行うには,政府の許可を得る必要がある.
著者
清田 雅史 米崎 史郎 香山 薫 古田 彰 中島 将行
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.255-263, 2008 (Released:2009-01-06)
参考文献数
24
被引用文献数
1

伊豆三津シーパラダイスにおいて飼育され1988年から2005年までに死亡した,ラッコ22個体の外部形態の計測値を解析した.年齢と体長から推定した成長式は,雄が雌より速く成長して大型になる傾向を示し,体サイズの性的二型が確認された.飼育下における雌雄の成長速度は,自然界の良好な栄養条件において記録された値と同等以上であった.体各部位の体長に対する相対成長に一般線形モデルをあてはめ,相対成長のパターンと雌雄差をモデル選択により分析した.雄には優成長を示す部位はなく,体の大型化以外に二次性徴は認められなかった.一般に頭,口,前肢は劣成長を示し,後肢や尾部は等成長を示した.頭部や前肢の相対成長パターンは,本種の早成性仔獣の水中生活への適応に関係している可能性が考えられる.
著者
玉木 恵理香 杉山 昌典 門脇 正史
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.15-22, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
24
被引用文献数
2

本研究では,耐久性があると考えられる塩化ビニル樹脂性パイプと木材を組合せた塩化ビニル樹脂製のヤマネGlirulus japonicus用の巣箱(以下,塩ビ管巣箱と略する)を考案した.本巣箱は市販の鳥類用木製巣箱キット(以下,木製巣箱と略する)よりも短時間で製作が可能であった(塩ビ7分/個, 木製20分/個).この巣箱の有効性を検証するため,2009年に長野県にある筑波大学八ケ岳演習林と川上演習林の2箇所に塩ビ管巣箱と木製巣箱を各100個設置して,ヤマネと他の動物による巣箱利用を比較した.2010年には鳥類のみ補足調査した.ヤマネによる平均巣箱利用率は塩ビ管巣箱(1.85±2.91%,平均値±SD)と木製巣箱(1.56±3.45%)間で差がなかったが,ヒメネズミによる平均巣箱利用率は塩ビ管巣箱(0.12±0.85%)の方が木製巣箱(1.84±5.03%)より小さかった(川上演習林のデータのみ示す).鳥類による巣箱利用率も塩ビ管巣箱(3%)の方が木製巣箱(19%)より小さかった.塩ビ管巣箱は製作時間が短いだけでなく,ヤマネ以外の動物の利用が少ない点で森林生態系に与える影響が少ないので,ヤマネの調査に有効と考えられる.
著者
澤田 聖人 阿部 晴恵
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.215-218, 2023 (Released:2023-08-03)
参考文献数
15

2022年5月11日に佐渡島南西部においてジムグリEuprepiophis conspicillatusの胃内容物からサドトガリネズミSorex shinto sadonisが3個体確認された.本発見は,分布情報をはじめとする生態的な知見が不足している本亜種の新たな生息地を示す重要な報告となった.尚,ジムグリの胃内容物としてトガリネズミ類が発見されたのも初であった.発見場所である佐渡南西部は,先行研究においてその生息が確認されていた大佐渡山地(佐渡北部の山地帯)や小佐渡山地(佐渡南部の山地帯)北東部よりも標高が低い地域であり,植生も大佐渡山地や小佐渡山地北東部の冷温帯林とは異なり,コナラQuercus serrataやヤブツバキCamellia japonicaの優占する温暖な二次林であった.本発見により,サドトガリネズミは300 m程度の二次林でも十分に生息可能であることが示唆された.さらに,今回,齢構成の異なる複数個体が確認されたことから,繁殖可能個体数がその地域に生息していることを示す貴重なデータも同時に得ることができた.
著者
谷岡 仁
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.167-177, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
24
被引用文献数
3

コテングコウモリMurina ussuriensisのねぐら利用が確認されている麻製の模擬枯葉を,2015年4月下旬から2015年11月下旬にかけて四国剣山山地の森林内に設置して利用状況を調査した.模擬枯葉は,林床近く(低位置)と樹冠部近く(高位置)に複数設置した.その結果,妊娠から出産哺育期にあたる4月下旬から6月下旬にかけては,複数メスによる単一模擬枯葉の利用が毎回観察され,6月には幼獣を含む哺育集団が高位置の模擬枯葉で確認された.集団内の成獣や幼獣の数は毎回変化し,利用された模擬枯葉もほぼ毎回異なった.一方,7月から11月下旬にかけてのメスによる模擬枯葉利用は稀で,すべて単独での利用だった.オスの模擬枯葉利用は調査期間を通して稀で,すべて単独での利用だった.コテングコウモリの出産哺育集団が人工のねぐらを利用した報告はこれまでなく,容易に製作できる模擬枯葉は観察が難しい本種の哺育生態を研究する道具の一つとして有用と考えられる.