著者
江村 正一 早川 大輔 陳 華岳 正村 静子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.45-50, 2003 (Released:2008-06-11)
参考文献数
30
被引用文献数
3 3

新生子および成獣ライオン Panthera leo の舌表面を肉眼的および走査型電子顕微鏡で観察した.ライオンの舌の先端は円く,舌背側面には糸状乳頭,茸状乳頭および有郭乳頭が観察され,舌尖の腹側面の一部にも糸状乳頭が見られた.糸状乳頭は舌表面全域に見られ,舌尖の周辺部の糸状乳頭はそれ以外の場所の糸状乳頭に比し小型であった.また,糸状乳頭は舌の場所により異なる形態を示した.新生子の糸状乳頭は形態的に未発達で,その先端部が浅く陥凹しており,突起状を示さなかった.茸状乳頭は,糸状乳頭の間に散在して見られ,その分布は舌体に比し舌尖周辺部において密であった.有郭乳頭は舌体と舌根との境界領域に観察された.さらに,糸状乳頭の発育は茸状乳頭および有郭乳頭に比し遅かった.なお,葉状乳頭はいずれのステージでも観察されなかった.
著者
池田 啓
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.9, no.5, pp.229-236, 1983-09-25 (Released:2010-08-25)
参考文献数
17
被引用文献数
2

ホンドタヌキ, Nyctereutes procyonoides viverrinus TEMMINCK, の仔の成長過程と育児行動について, 飼育下において観察をおこなった。仔は30日令で離乳した。30日から80日令にかけ, 仔の行動様式は急速に発達した。80日から仔は親から徐々に独立し, 150日令で親と同じ体重となった。仔が80日令に達するまで, 雄親は雌親と同様に育児に大きく関与していた。
著者
浅田 正彦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.243-255, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
49
被引用文献数
7

個体群動態において,爆発的な個体数増加や分布拡大が発生する前段階として,個体数や分布が限られている時期を遅滞相(Lag-phase)という.千葉県におけるニホンジカ(Cervus nippon)とアライグマ(Procyon lotor)の捕獲記録における性比の時空間的変動に基づいて遅滞相の存在について考察し,千葉県印西市アライグマ防除事業の分析から低密度下での捕獲方法について検討した.両種において分布前線部や捕獲によって低密度となった地域ではオス比が高くなっており,アリー効果が発現している遅滞相にあると考えられた.このことから,根絶や地域的排除に至る前段階となる地域的な個体数管理手法として,捕獲個体のオス比などから推定できる「遅滞相の実現と維持」を管理目標にする「遅滞相管理Lag-phase management」を提案した.
著者
徳吉 美国 岡 奈理子 亘 悠哉
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.237-241, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
22

イエネコFelis silvestris catusによる在来種の捕食は生物多様性保全における大きな問題である.特に島嶼における鳥類への影響は大きいとされるが,いまだ日本における報告は限られている.伊豆諸島御蔵島において,絶滅危惧種鳥類であるアカコッコTurdus celaenopsの生体1羽を咥えたイエネコを,森林内に設置した自動撮影カメラで初めて記録したので報告する.撮影日は2018年7月24日であり,アカコッコを咥えたイエネコの静止画と,このアカコッコがイエネコに咥えられながら嘴を開閉させる動画が撮影された.これらの映像から判断し,イエネコが他の要因で死んだアカコッコを咥えていたのではなく,イエネコ自身が捕獲したと考えられた.捕獲されたアカコッコは巣立ち前後の雛の特徴を有するため,撮影直前にイエネコがアカコッコの巣内雛もしくは移動能力の低い巣立ち雛を襲ったものと考えられた.アカコッコ以外にもオオミズナギドリCalonectris leucomelasを咥えて運ぶ映像も撮影され,イエネコによる在来鳥類への捕獲リスクの存在が示唆された.今後は,映像記録の蓄積や糞分析などにより,島の在来鳥類へのイエネコの捕殺や捕食の実態の把握が必要である.御蔵島を含め,アカコッコの分布地域には放し飼いや野生化したイエネコが生息している.これらの地域で捕食リスクを低減するために,イエネコの適正飼養や効果的な捕獲対策が求められる.
著者
安田 雅俊
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.195-206, 2007 (Released:2008-01-31)
参考文献数
62
被引用文献数
4

九州において絶滅のおそれのある樹上性リス類(ニホンリス,ニホンモモンガ,およびムササビ)3種について,江戸時代中期以降の各種資料(論文や報告,鳥獣関係統計,毛皮取引の記録等)をとりまとめ,生息記録と利用の変遷,および現在おかれている状況を種ごとに記述した.また,国,九州本土7県,および日本哺乳類学会のレッドデータブックにおける3種の取り扱いを比較した.九州において,(1)ニホンリスは狩猟による捕獲等の記録はあるものの,過去100年間以上,標本を伴った確実な生息情報がないこと,(2)ニホンモモンガは過去50年間の生息情報が極めて限られていること,および(3)近年ムササビの分布域が縮小してきていることが明らかとなった.これらの種の分布域の縮小に関連してきたと推察される要因として,戦後の拡大造林による天然林ハビタットの減少,樹洞や餌資源の減少,先史時代から続いてきた狩猟圧等を列挙した.今後の課題は,第一にニホンリスとニホンモモンガの残された個体群の探索であり,第二にそれぞれの種の分布域の縮小に,どの要因が,いつ,どれほど寄与したのかを解明することである.九州の絶滅のおそれのある樹上性リス類の保全は,県単位で対処できる課題ではなく,地方レベルで対処すべき課題であり,九州地方版のレッドデータブックの作成が考慮されるべきである.信頼性のある生息情報の収集に努め,残された個体群ごとに適切な保全策を講じるために,国の行政機関による強いイニシアチブの発揮が望まれる.
著者
大場 孝裕
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.335-340, 2020

<p>ニホンジカ捕獲強化の政策に伴い,わなによる捕獲数が増え,捕獲に占める割合も大きくなっている.わなの種類ごとの捕獲数はほとんど集計されていないが,箱わなや囲いわなに比べて安価で,1人で設置できる足くくりわなの使用が多いと推測される.捕獲具ごとの捕獲数の集計は,今後の課題である.足くくりわなによる捕獲は,ワイヤーロープで足を締め付ける.動物がわなに掛かってから,殺処分や放獣するまでの経過時間が長いことも多く,個体の損傷,ストレスが多い,アニマルウェルフェア上問題のある捕獲方法である.また,足くくりわなは,獣道に隠して設置し,荷重により作動するため,ニホンジカ以外の動物,特に大型哺乳類のクマ類,ニホンカモシカ,イノシシの意図しない錯誤捕獲を避けられない.実態把握のため,錯誤捕獲の報告を求めても,少なくとも処罰の対象となる条件が明確化されないと,正確な報告は期待できない.足くくりわな捕獲に伴う損傷とストレスの軽減,錯誤捕獲回避のための技術的改良に加え,足くくりわなに依存しないニホンジカ個体数管理技術の開発が必要である.</p>
著者
木場 有紀 坂口 実香 村岡 里香 小櫃 剛人 谷田 創
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.207-215, 2009 (Released:2010-01-14)
参考文献数
40
被引用文献数
9

広島県島嶼部に位置する呉市蒲刈町上蒲刈島を調査地とし,2003年7月から2006年11月の間に捕獲された268個体のイノシシSus scrofaの胃内容物を用いた食性調査を行った.胃内容物の肉眼観察では,植物質として,柑橘類,カキノキ,サツマイモ,イネ,トウモロコシなどの農作物,堅果,木本,草本,種子などの自生植物がみとめられた.動物質では,多足類,昆虫類,軟体動物類,腹足類,甲殻類,爬虫類,鳥類,哺乳類が出現した.胃内容物に堅果が多く出現した年には柑橘類が少なく,堅果が少なかった年には柑橘類が多くなる傾向がみられた.7月から12月までに捕獲された個体の胃内容物の平均水分含量は73.3%であったが,捕獲月による変動が認められ,7・8月に捕獲された個体では,他の月に比べて水分含量が高かった.また,胃内容物乾物中の平均粗タンパク質含量は約18%であり,これは家畜ブタが通常摂食している飼料よりも高い可能性が示唆された.7月と8月に捕獲されたイノシシの胃では,他の時期に比べてNDFの割合が高く,NFCの割合が低かった.イノシシの胃内容物中に尿素やアンモニアが検出されたことは,イノシシの胃内にウレアーゼ活性のある乳酸桿菌が生息している可能性を示唆するものであった.
著者
渡辺 義昭 渡辺 恵 村上 隆広
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.79-84, 2019 (Released:2019-08-23)
参考文献数
20

市街地内の林で,フクロウ(Strix uralensis)によるタイリクモモンガ(Pteromys volans)捕食の状況と個体群に与える影響を調査した.2008年から2017年の毎冬期に調査地内で163個のペリットを採集した.解析した150個のペリットのうち,2調査期ではそれぞれ21個体,23個体のタイリクモモンガが出現した.調査期間中のフクロウの観察率は最大26.9%,最小0%で,年による変動がみられ,タイリクモモンガの巣穴利用樹木数にも最大25本,最小6本と年変動がみられた.フクロウ観察率の高い年の翌年にタイリクモモンガの巣穴利用樹木数が減少した年があった.また,フクロウによるタイリクモモンガ捕食圧が低下したと考えられる翌年にタイリクモモンガの巣穴利用樹木数が増加したケースもみられた.これらの結果は,フクロウの捕食がタイリクモモンガ個体群に影響している可能性を示唆する.
著者
近藤 憲久 河合 久仁子 村野 紀雄
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.39-45, 2011-06-30
参考文献数
23
被引用文献数
1

札幌市手稲区(43&deg;07&prime;N,141&deg;11&prime;E)で2007年11月9日に拾得されたコウモリは,クロオオアブラコウモリと同定され,日本において8番目,札幌においては4番目の報告となった.日本でこれまで報告されているクロオオアブラコウモリ標本と本拾得個体の頭骨を精査した結果,これまで指摘されてきたように,上顎第二前臼歯が消失傾向にあることが明確となった.また,キタクビワコウモリとクロオオアブラコウモリを比較すると,上顎犬歯咬頭後稜の向きおよび下顎犬歯の高さと第四前臼歯の高さの比率が種識別に有効であることがわかった.<br>

3 0 0 0 OA 書評

出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.111-113, 2015-06-30 (Released:2015-07-04)
著者
城ケ原 貴道 小倉 剛 佐々木 健志 嵩原 建二 川島 由次
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.29-37, 2003-06-30
被引用文献数
6 3

沖縄島北部やんばる地域におけるノネコ(Felis catus)および集落におけるネコの食性と在来種への影響を把握するために,糞分析による食性調査を実施した.その結果,ノネコおよびネコの餌動物は多くの分類群にわたっていた.林道においてノネコは,昆虫,哺乳類,鳥類および爬虫類を主要な餌資源としていることが推察され,集落においては,人工物および昆虫が主な餌資源となっていることが推察された.ノネコの餌動物には多くの在来の希少動物が含まれており,沖縄島固有種で国指定特別天然記念物であるノグチゲラ(Sapheopipo noguchii)をはじめ8種の希少種がノネコの糞より検出された.やんばる地域に生息するノネコおよび集落に生息しているネコは,沖縄島の生態系において陸棲動物のほとんどを捕食できる高次捕食者として位置づけられると考えられた.今後,やんばる地域の生態系を維持するためには,ノネコの排除が必要であり,さらに供給源としての飼いネコの遺棄を防ぐ県民への啓蒙普及活動が不可欠である.
著者
山田 文雄 石井 信夫 池田 透 常田 邦彦 深澤 圭太 橋本 琢磨 諸澤 崇裕 阿部 愼太郎 石川 拓哉 阿部 豪 村上 興正
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.265-287, 2012 (Released:2013-02-06)
被引用文献数
2

政府の府省が進める各種事業の透明化と無駄遣いの防止をねらいとする「行政事業レビュー」において,2012年度に環境省の「特定外来生物防除等推進事業」が「抜本的改善」という厳しい評価を受けた.この事業レビューでは,おもにフイリマングースHerpestes auropunctatus(特定外来生物法ではジャワマングースH. javanicusの和名と学名を使用)やアライグマProcyon lotorの防除事業が取り上げられた.日本哺乳類学会はこの評価結果について,外来生物対策の基本的考え方や事業の成果についての誤解も含まれているとし,この判定の再考と外来生物対策の一層の推進を求める要望書を提出した.本稿では,環境省行政事業レビューの仕組みと今回の結果について報告し,根絶を目標とするマングース防除事業の考え方と実施状況,また,広域分布外来生物の代表としてアライグマを例に対策のあるべき姿を紹介した.さらに,学会が提出した要望書の作成経過と要点について説明し,最後に,行政事業レビューでの指摘事項に対して,効果的かつ効率的な外来哺乳類対策に関する7つの論点整理を行った.これらの要望書や日本哺乳類学会2012年度大会の自由集会における議論及び本報告によって,われわれの意見を表明し,今後の動向を注視するとともに,今後の外来種対策事業や研究のより一層の充実を期待したい.