著者
加藤 司
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.81-100, 2014 (Released:2015-12-31)
参考文献数
34
被引用文献数
1

近年、地域商業と流通政策との関係について、すぐれた研究が相次いで公表されている。そうした研究を通じて、日本では地域商業に対して振興政策とまちづくりが一体となった日本独自の流通政策が展開されてきたことは共通の理解が得られているといえる。とはいえ、この「独自性」とは何か、少なくとも国際比較の視点から議論が行われてきたわけではない。流通システムや流通政策の展開は、経済の成長段階を同じくする国において共通点が見られる一方で、各国独自の展開を示している。なぜ、共通点と相違点が生まれるのか。本稿では、まず各国の環境を経済的、社会的要因に分け、マーケティングとの相互作用を分析しようとした Bertels の議論と、各国の経済成長は文化的・社会的要因によって独自の展開を行うことを明らかにした Rostow の議論を検討した。その上で、流通システムと流通政策は、経済、文化・社会的環境要因と一体のものとして形成されるという視点から、日本の流通システムと地域商業に対する流通政策の展開過程を跡付けた。韓国や中国など東アジアの国々も、日本における流通の近代化政策を後追いしているという意味で共通性を持つが、地域コミュニティの担い手という役割を根拠にした振興政策を展開しているわけではない。それはなぜなのか、国際比較によって日本の流通政策の独自性を相対化し、説明する枠組みを構築しようとした。
著者
李 炅泰
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.51-73, 2014

公式スポンサーとアンブッシャーによるスポンサーシップ、ならびにコーズ・リレーテッド・マーケティング(CRM)が消費者反応に及ぼす影響について、スポーツ・アイデンティフィケーション(SID)の視点から分析した。スノーボール・サンプリング方法でデータ(n=897)を集め有効回答(n=722)を分析したところ、支援企業が公式スポンサーかアンブッシャーかはスポンサーシップの効果に有意な影響を与えなかった。一方、スポンサーシップと CRM を並行して行うと、消費者反応が有意に好ましくなることがわかった。さらに、スポンサーシップと CRM の効果は、消費者の内面的要因である SID(消費者個々人が知覚するスポーツの重要性)に影響されていた。例えば、SID 水準の高い消費者ほど、スポンサーシップ、ならびにスポンサーシップと CRM の並行について好意的な反応を示した。しかし、CRM 遂行による消費者反応の好転は、高 SID消費者より低 SID 消費者の方で著しくみられた。論文の終盤では、分析結果を踏まえて理論的・実務的インプリケーションが提示される。
著者
豊島 襄
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.79-100, 2002

経営やマーケティングの研究者の問でも、研究の「方法論」の問題は避けて通られがちであるという。しかし、経営やマーケティング研究に実務へのインプリケーションを求め続けてきた筆者30年の実務経験の中で絶えず感じてきた不満の根本原因を辿ると、それらが拠って立つ方法論の問題に行き着く。具体的にはその不満は、「実証主義」が無批判的にメインパラダイムになっているというところにあり、それが依拠する「存在論と認識論」にあるように思われる。<BR>この筆者の問題意識に応える研究が、幸い、近年アカデミズムの世界でもなされ始めた。日本では、石井淳蔵『マーケティングの神話』 (1993) や、沼上幹『行為の経営学』 (2000) であり、アメリカではK.J.ガーゲン『もう一つの社会心理学』 (1998) などである。それらは、それぞれマーケティング、経営学 (組織論) 、社会心理学と直接の研究領域は異なるが、大きく自然科学とは違う「社会科学」の方法論として捉えれば、同じ土俵で議論できる。<BR>それら先行研究のレビューを通じて、ひとまず、一般的な社会科学の「存在論と認識論」を問い、続けてマーケティング研究という社会科学の一分野において、「実証主義的アプローチ」の位置づけの見直しと「解釈主義 (学) 的アプローチ」の必要性についての議論を行なう。<BR>マーケティング研究のみならず実務においても、過去の理解や未来に向かう意思決定において「解釈」と「読み」が欠かせないことを主張する。
著者
岸谷 和広
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.33-52, 2016
被引用文献数
1

<p>本稿の目的は、ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)上でのコミュニケーションに関する双方向性(双方向コミュニケーション、ユーザーコントロール、反応性)とSNSがユーザーに提供する価値、SNSに対するユーザーのロイヤルティとの関係を検討することである。同時に、それぞれの関係に対するSNSの技術的・社会的特性(プラットフォーム)の影響(モデレート分析)を検討する。プラットフォームとして、フェイスブックとツイッターを取りあげ、それぞれのユーザーに対してインターネットによる質問紙調査を行い、共分散構造分析を用いて分析した。その結果は、1)それぞれのプラットフォームにおいて、双方向性と反応性は、社会価値と情報価値それぞれに対して正の影響を与えていたのに対して、ユーザーコントロールは、情報価値に対して負の影響を与えていた。2)プラットフォームの効果として、フェイスブックユーザーはツイッターユーザーよりも情報価値が与えるサイトロイヤルティへの影響が大きいのに対して、ツイッターユーザーはフェイスブックユーザーよりも社会価値が与えるサイトロイヤルティへの影響が大きいことがわかった。その結果を受けて理論的そして実践的含意を論じ、本研究の問題点と将来の研究の方向性を示した。</p>
著者
松井 剛
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-14, 2004 (Released:2011-05-20)
参考文献数
19

本論文の目的は、1990年代半ば以降、「癒し」を訴求する製品やサービスを、様々な業界に属する多数の企業が提供した理由を明らかにすることにある。このプロセスを明らかにするために、本論文では、「癒し」関連の新聞記事 (1,162件) を活用して、企業行動とこれに対するマスコミの解釈を詳細に分析した。このブームが生じた理由として通常、「癒し」ニーズの増大が理由として挙げられるが、本論文が注目するのは「癒し」の認知的制度化が組織フィールドにおいて成立したことである。つまり、「癒し」訴求製品がヒットし、多数の模倣者が出現することによって、この種の製品を提供することの正統性が高められたのである。
著者
安藤 和代
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.65-85, 2015 (Released:2016-02-29)
参考文献数
83

近年、企業はターゲット層に向けて大量のサンプル配布や試用イベントを行ったり、記者発表会と並行してアルファ・ブロガー向け商品説明会を開催したりしている。商品を提供することで消費者の認知や商品理解を高めることに加え、対面あるいはソーシャルメディアを用いて使用後の感想が広まることを期待してのことである。クチコミマーケティングを実践する企業の関心は、潜在顧客である情報受信者の態度や行動に対してプラス影響を及ぼすことにある。したがって、クチコミ研究の多くは受信者に及ぶ影響に焦点をあてたもので、発信者におよぶ影響には注意が払われてこなかった。そこで本研究では、クチコミマーケティングで目指されるポジティブなクチコミを語る行為が、発信者の評価や行動や記憶に与える影響を明らかにすることを目的とする。口述・記述することで理解(センス・メイキング)が進み、既存の知識や経験で解釈が可能になると、対象の新奇性や驚きが薄れ、発信者の対象に対する評価やクチコミ意向は時間の経過の中で低下する(仮説 1・2)。またクチコミの骨格に沿った情報が限定的に処理されるため、記憶される内容は正確だが限定的である(仮説 3・4)といった仮説を設定し、実験データを用いて検証したところ、仮説は支持された。顧客維持の観点から、発信者に及ぶ影響を考慮したマーケティング計画の策定が重要であることが示された。
著者
安藤 和代
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.65-85, 2015

近年、企業はターゲット層に向けて大量のサンプル配布や試用イベントを行ったり、記者発表会と並行してアルファ・ブロガー向け商品説明会を開催したりしている。商品を提供することで消費者の認知や商品理解を高めることに加え、対面あるいはソーシャルメディアを用いて使用後の感想が広まることを期待してのことである。クチコミマーケティングを実践する企業の関心は、潜在顧客である情報受信者の態度や行動に対してプラス影響を及ぼすことにある。したがって、クチコミ研究の多くは受信者に及ぶ影響に焦点をあてたもので、発信者におよぶ影響には注意が払われてこなかった。そこで本研究では、クチコミマーケティングで目指されるポジティブなクチコミを語る行為が、発信者の評価や行動や記憶に与える影響を明らかにすることを目的とする。口述・記述することで理解(センス・メイキング)が進み、既存の知識や経験で解釈が可能になると、対象の新奇性や驚きが薄れ、発信者の対象に対する評価やクチコミ意向は時間の経過の中で低下する(仮説 1・2)。またクチコミの骨格に沿った情報が限定的に処理されるため、記憶される内容は正確だが限定的である(仮説 3・4)といった仮説を設定し、実験データを用いて検証したところ、仮説は支持された。顧客維持の観点から、発信者に及ぶ影響を考慮したマーケティング計画の策定が重要であることが示された。
著者
竹内 真登 猪狩 良介
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.17-32, 2022 (Released:2022-03-10)
参考文献数
63

文脈効果は実験や調査の選択でしばしば確認されるが,最近の研究から実際の購買環境ではほぼ観測されない可能性がある。こうした状況下で,選択型コンジョイントなどのマーケティングリサーチを行う場合,その回答には文脈効果に起因するバイアスが生じることを意味する。本研究では,魅力効果,妥協効果,類似性効果を考慮した選択型コンジョイントの分析手法と既存手法を比較するが,3属性以上のコンジョイントデザインでの対処方法の提案,画像あり/なし条件による文脈効果の生起の変化と実購買予測への影響を議論する。結果から,画像あり/なし条件のいずれでも魅力効果が特に生じることを把握した。画像なし条件で,魅力効果がより強く生じること,文脈効果を考慮した手法を用いるほうが実購買の予測力が高いことを例証した。
著者
藤原 一肇 守口 剛
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1-15, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
113
被引用文献数
2

本研究の目的は,ラグジュアリー・ブランドの多次元的価値(名声/エリート主義/独創性/洗練性/情趣)が購買意図を形成するメカニズムに対する,財の観察可能性(他者の視線に晒される可能性)の影響を解明することである。検証の結果,相対的に「情趣」は観察可能性の高い財,「名声」は観察可能性の低い財において,購買意図の形成に顕著な正の影響を与えることが明らかになった。そして,観察可能性の高低に関係なく,総じて「独創性」が顕著な正の影響を与え,「エリート主義」が顕著な負の影響を与えることなどが明らかになった。
著者
中川 正悦郎
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.41-50, 2021 (Released:2021-09-29)
参考文献数
53

本稿の目的は,動画配信サブスクリプションサービスを対象に,コンテンツの知覚多様性が同サービスに対する消費者のロイヤルティを高めることに寄与するかを検証することである。検証にあたり日本における主な動画配信サービスの利用者を対象に調査を行った。分析の結果,コンテンツの知覚多様性は,サービスの知覚された有用性および知覚された楽しさを介して,ロイヤルティに正の影響を及ぼすことが確認された。ただし,知覚された有用性および知覚された楽しさがロイヤルティに及ぼす影響は,知覚された使用容易性によって調整されることも確認された。この結果は,知覚された使用容易性の高まりに伴い,ロイヤルティ形成において重要な先行要因が知覚された有用性という功利的ベネフィットから知覚された楽しさという快楽的ベネフィットへとシフトするものと解釈できる。
著者
福田 怜生
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.19-30, 2022 (Released:2022-09-03)
参考文献数
61

本研究では,ソーシャルネットワークサービスの普及により重要性が増しているバイラル・マーケティングを背景として,物語広告が推奨意図に及ぼす影響に対する感情的BCと計算的BCの調整効果を検討した。60秒の動画広告を材料とした実験の結果,感情的BCは物語広告が推奨意図に及ぼす影響を強化する一方で,計算的BCはその影響を弱化することが示された。またこのような調整効果が生じるメカニズムをより具体的に検討するため,物語に入り込んだ状態である「移入」を媒介変数とした調整媒介分析の結果,物語広告が移入に及ぼす影響,移入が推奨意図に及ぼす影響に対しても各BCは同様の調整効果を有する傾向があった。ただし,移入が推奨意図に及ぼす影響に対する感情的BCの調整効果のみ認められなかった。これらの結果から,オンライン上で物語広告を露出すべき初期ターゲットについて議論された。
著者
大平 修司 薗部 靖史 スタニスロスキー スミレ
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.61-89, 2015 (Released:2016-05-31)
参考文献数
61
被引用文献数
3 2

本研究の目的は,混合研究法を用いて,東日本大震災後の日本で,消費を通じて社会的課題の解決を図るソーシャル・コンシューマーの意思決定プロセスを明らかにすることにある。具体的には,まずアンケート調査に基づき,寄付などの実施というシビック・アクションと寄付つき商品などの購入というソーシャル・コンサンプションによる過去の社会的課題解決行動を変数として,消費者を 3 つのクラスタに分ける。次にクラスタごとのデモグラフィクスにおける特徴を比較する。さらに行動統制を有効性評価と入手可能性評価に置き換えた計画的行動理論モデルを用いて,クラスタごとの寄付つき商品の意思決定プロセスの違いを検討する。最後にインタビュー調査と現実の事例に基づいて,分析結果のマーケティング戦略への示唆を検討する。分析では,定量分析と定性分析による混合研究法を用いた。まず上記モデルを用いて,アンケート調査によって得られたデータの全サンプルを対象とした共分散構造分析を実施した。その結果,主観的規範のみ,統計的に有意とならなかったが,行動に対する態度と有効性評価,入手可能性評価は意図に影響を与える点が明らかとなった。次に過去の社会的課題解決行動を用いて,クラスタ分析を実施し,サンプルを現在のソーシャル・コンシューマー層と潜在的ソーシャル・コンシューマー層,無関心層に分け,χ2検定と残差分析,分散分析を実施したところ,クラスタ間のデモグラフィック変数に差が認められた。さらに多母集団同時分析を実施し,クラスタ間で意思決定プロセスが異なる点が明らかとなった。最後にグループインタビューの結果と現実の事例を用いて,本研究の分析結果から得られた寄付つき商品のマーケティング戦略への示唆を議論した。
著者
栗木 契
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1-2, pp.29-43, 2007 (Released:2011-08-16)
参考文献数
80
被引用文献数
1

本稿の目的は、マーケティング・リサーチの対象、目的、焦点を再考し、質的リサーチの位置づけを見直すことである。そのために、本稿では、社会科学の領域で提唱されてきた3つの代表的なリサーチ・プログラムの構想 (論理実証主義、批判合理主義、構築主義) をとりあげ、マーケティング・リサーチの対象や目的により適しているのはどの構想であるか、そしてこれらの構想の違いによって、リサーチ・プログラムにおける質的リサーチの位置づけがどのように変化するかを検討する。その結論として、本稿では、 (1) マーケティング・リサーチは、「局所的秩序」を対象としたリサーチとなること、 (2) したがってマーケティング・リサーチの目的は、「規則や秩序の局所性の反省」と「規則や秩序の予測・再現可能性の向上」という2つの課題を達成することとなり、 (そのためには、「偶有性の解明」と「行為の連鎖がおりなす、循環する関係の把握」に適した質的、) サーチを積極的に活用するべきであることを主張する。なお、以下はその前編である。
著者
栗木 契
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.1-18, 2008 (Released:2011-05-20)

本稿の目的は、マーケティング・リサーチの対象、目的、焦点を再考し、質的リサーチの位置づけを見直すことである。そのために、本稿では、社会科学の領域で提唱されてきた3つの代表的なリサーチ・プログラムの構想 (論理実証主義、批判合理主義、構築主義) をとりあげ、マーケティング・リサーチの対象や目的により適しているのはどの構想であるか、そしてこれらの構想の違いによって、リサーチ・プログラムにおける質的リサーチの位置づけがどのように変化するかを検討する。その結論として、本稿では、 (1) マーケティング・リサーチは、「局所的秩序」を対象としたリサーチとなること、 (2) したがってマーケティング・リサーチの目的は、「規則や秩序の局所性の反省」と「規則や秩序の予測・再現可能性の向上」という2つの課題を達成することとなり、 (3) そのためには、「偶有性の解明」と「行為の連鎖がおりなす、循環する関係の把握」に適した質的リサーチを積極的に活用するべきであることを主張する。なお、以下はその後編である。
著者
日高 優一郎 加藤 亜紀美
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.51-57, 2021 (Released:2021-09-29)
参考文献数
56

本研究は,消費者行動におけるモノの処分(Disposition)が自己構築に果たす役割を検討する上でのアプローチと課題を検討する。モノの処分は,消費者行動研究において消費者行動の一部と位置づけられながら,その数は長年限定的なものに留まってきた。しかし近年,所有者の自己構築との関連のもとモノの処分の役割を問う研究の蓄積が進みつつある。本研究は,所有者の自己構築とモノの処分の関係を明らかにしてきた既存研究を整理し,今後の研究の方向性を示す。取得や所有の局面で付与された過去の意味の清算という役割に加え,処分の意思決定過程を儀礼と捉えてその過程の中での新たな自己構築の様相に照射する研究や,その作用を長期的に考察する研究の重要性を示す。
著者
水野 由多加
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.39-57, 2000 (Released:2011-08-16)
参考文献数
53
被引用文献数
1

もともと広告倫理はその広告の実施がなされた地域の文化や時代によってその判断基準が変化する。したがって、文化に密着し、様々な新たな実践がなされる分野で、理論的なアプローチだけではこの研究課題は解題しにくい、と考えられる。倫理の研究は、価値から離れた客観的実証的なアプローチには馴染まない規範的な面もある。しかしながら、この30年程の間にかつては倫理的に認識されなかった問題 (例えば、人権と差別の関係イシュー、など広告された商品・サービスの購入が前提となっていない倫理問題) が次々と立ち現れてきていることを、倫理課題の地平が拡大した、と認識し考察を深めることは可能である。具体的には、広告倫理性は広告物レベルで表現された内容の公正さ (虚偽、誤導など) に関する領域のこととして論じられることが多かったが、昨今の倫理の論点は、社会的ステレオタイプの助長等広告の社会的結果という社会レベル、領域に論点が広がる。
著者
小林 哲
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-12, 2018 (Released:2018-03-31)
参考文献数
31
被引用文献数
2

医療や教育サービスにおいて,サービス終了時に便益を享受することができず,その後しばらくして便益がもたらされることがしばしば存在する。このような現象は便益遅延性と呼ばれており,顧客満足の評価や顧客参加の在り様に大きな影響をもたらすことが指摘されている。しかし,このサービスにおける便益遅延性は,私たちにひとつの理論的な問題を提起する。便益遅延性がサービスの基本特性である生産と消費の同時性(不可分性)に反するというのがそれである。もし,サービスにおいて生産と消費が同時になされるのであれば,消費すなわち便益の享受が遅延することはない。一方,医療やサービスにおいて便益が本当に遅延するのであれば,それはサービスの基本特性である生産と消費の同時性に反することになり,この種の医療や教育は“サービスではない”とみなすこともできる。そこで,本稿では,サービスの基本特性に立ち返り,便益遅延性の発生メカニズムを探ることで,このような矛盾が生じる理由を明らかにし,サービス・マネジメントの新たな可能性について考察する。結論を先に述べるならば,医療や教育サービスにおける便益遅延性は,サービス・デリバリー(生産)と便益の享受(消費)との間に顧客資源が介在することによって生じる。さらに言えば,便益遅延性は,このような顧客資源介在型サービスの特徴のひとつに過ぎない。したがって,医療や教育サービスの成果を高めるには,便益遅延性のみならず,それをもたらす顧客資源介在型サービスの特徴を理解しマネジメントする必要がある。
著者
西川 みな美
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.1-15, 2021 (Released:2021-12-24)
参考文献数
70

本論の目的は,同業態競合店舗の多い市場に出店する「競争的出店」,自社店舗の多い市場に出店する「ドミナント出店」という対照的な2種の出店行動に注目し,チェーン小売企業がいずれの戦略を採用するのか,なぜその選択が同業態企業間で異なるのかを,理論的・実証的に説明することである。そこで,延期-投機モデルに依拠して,チェーン小売企業の出店行動は企業固有の在庫調整能力に依存するという理論仮説を導出し,GMSチェーン13社204店舗を対象に実証分析を行った。その結果,①在庫調整能力の低い企業は,競争的出店を避け,ドミナント出店を選択する一方で,②在庫調整能力の高い企業の出店行動は,企業の規模と収益性に条件づけられており,③規模が小さい高回転型企業は競争的出店を避ける一方で,収益性が高い高回転型企業はドミナント出店を避ける傾向を持つことが見出された。
著者
山岡 隆志
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-20, 2020 (Released:2020-03-12)
参考文献数
95
被引用文献数
1

文献レビューより導いた下位概念を用い,他の要素との相関を検討した先行研究はあるが,カスタマー・アドボカシー志向の中心概念の構成要素を入念に探求したものは,これまでなかった。そこで本研究において,その中心概念の構成要素を抽出し,様々な企業カテゴリーに適用可能な汎用性の高い尺度を開発する。先行研究とインタビュー調査から得られたデータを基に行った質的調査から,構成要素の抽出と整理を行った。事前調査を行った後,不変性の確認を行うため時期とサンプルを分けて2度の本調査を実施した。その結果,様々な企業カテゴリー間で使用できる汎用性と頑健性を兼ね備えた,5因子15項目で測定できる尺度を開発した。