著者
眞島 英壽
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

松本達郎(1913 – 2009)は約70年に渡る研究活動を通じて,日本の地球科学界を学術的・精神的に牽引した.松本の学術貢献は層序・古生物学を中心として多岐に渡るが,1977年九州大学退官後に研究領域を中生代古生物学に狭めたため,その実像が忘れ去られつつある.松本の退官前の10年間に当たる1967年~1977年にかけて,彼が担当した九大層序学講座は,日本におけるプレートテクトニクス導入,特に四万十帯への付加体論の導入に重要な役割を果たした.一方,松本の東大同級で,プレートテクトニクスに批判的な立場を取った井尻正二は,1949年に九州大学から博士号を取得している.また,東大の先輩である小林貞一の佐川造山輪廻に対して,松本は一貫して批判的な立場を取った.松本の地質哲学・思想を知ることは,戦後の日本地質学史や望ましい地球科学の方法論の理解に重要である.本講演では,松本の著作及び直接交流のあった方々からの伝聞・聞き取りに基づき,松本が日本におけるプレートテクトニクス受容に果たした役割について考察する.松本は1964年に地向斜に焦点を絞った研究を開始し,多くの研究者を組織して「地向斜堆積物の総合研究」(1967 – 1969)を行った.その成果は二つの地質学論集にまとめられている(松本,1968; 松本・勘米良, 1971).1972年には,白亜紀初頭の東アジアにおける大規模珪長質火成活動の説明という問題はあるものの,プレートテクトニクスを積極的に評価すべきであると表明した(松本, 1972).同年には勘米良亀齢・岡田博有を地向斜堆積作用国際会議(ウィンスコン州マディソン)に派遣している.1974年に九大大学院に入学した坂井卓は初めの課題として,世界の変動帯についてまとめることを指示されている.1975年から坂井,勘米良によって日南層群の研究が公表されるようになり,付加体論構築への動きが始まる.日本の造構論はStille学派の影響が大きく,ユーラシア大陸側からの営力を仮定して日本の造構進化を理解しようとする傾向が根強くある.四万十帯への付加体論の導入は,造構作用の営力源の大陸から大洋への転換というパラダイム転換でもあった.松本は対馬の現地調査(1943-44)に基づく対馬―五島断層の提唱時から,白亜紀末以降,大陸と日本が同断層によって画され異なる造構区に属すると理解していた(松本, 1969).また,北薩の屈曲,日南の綾状擾乱および四国海盆の北西縁がほぼ一直線になることを指摘すると共に,四国海盆の形成が前期~中期中新世であることを予測している(松本, 1961).このように,九州が大陸と異なる造構区に属することを理解するとともに,九州の地質構造と海洋の関係性に注目した松本の洞察力が,九大層序学講座においてプレートテクトニクスの受容がいち早く行われた原因である.九大層序講座におけるプレートテクトニクスの受容は,流行のa prioriな仮説の受容としてではなく,九州の地質の特徴を説明しうるposterioriな仮説の受容として松本を中心として行われた.以上から,松本が日本の地質学分野でのプレートテクトニクス受容の初期段階における推進力であったと結論づけることができる.
著者
山田 隆二 井上 公夫 苅谷 愛彦 光谷 拓実 土志田 正二 佐野 雅規 李 貞 中塚 武
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

赤石山地鳳凰山東麓小武川支流ドンドコ沢に大量に分布する花崗岩質の巨大な角礫群は、堆積層から採取した樹幹試料等の放射性炭素(14C)年代測定に基づいて、奈良-平安時代に発生した大規模岩屑なだれに由来し天然ダムを形成したと考えられている(苅谷, 2012, 地形, 33: 297-313)。本研究では、酸素同位体比年輪年代測定法を用いて、岩屑なだれの誘因や堆積過程の解明に迫った。年代測定用の試料は、ドンドコ沢天然ダム湖堆積物の地表下約1 mの砂泥層に含まれるヒノキ(樹幹直径約50 cm、年輪計数による推定樹齢約400年)からディスク状に切り出して採取した。切り出したディスクから木口面に平行な厚さ1 mm、幅1 cmの薄板をスライスして板のままセルロース化し、最外年輪を53年分切り出して、総合地球環境学研究所が所有する熱分解元素分析計付きの同位体比質量分析計で測定した。測定結果の経年変動パターンを木曽ヒノキの標準変動曲線と対比したところ、ヒノキはAD 883+α(αは1年以上、数年程度)以降に倒伏・枯死したと考えられる。岩屑なだれの誘因を地震による強震動であると限定した場合、同じ露頭から採取した樹幹の14C年代測定結果は809-987(CalAD, 2σ; 苅谷, 2012)であることから、既往文献(宇佐美ほか, 2013, 日本被害地震総覧599-2012, 東京大学出版会)によると誘因となる可能性のある歴史地震が4つ程度考えられる(AD 841 信濃、 AD 841伊豆、AD 878 関東諸国、AD 887 五畿七道)。一方、酸素同位体比年輪年代のレンジはAD 883+αであるため、誘因となる可能性のある歴史地震はこれらのうちAD 887 五畿七道地震に絞られる。苅谷ほか(JPGU 2014, HDS29-P01)は同じ樹幹試料より年輪幅を計測し、AD 887晩夏の枯死年代を得ており、五畿七道地震(仁和三年 = AD 887夏)に関連して枯死したと指摘したが、酸素同位体比年輪年代測定の結果はそれに矛盾しない。この研究は、平成27年度砂防学会の公募研究会の助成を受けた。
著者
白井 正明 渡辺 万葉 宇津川 喬子 林崎 涼 高橋 尚志 小尾 亮 加藤 裕真
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

静岡平野から駿河湾に注ぐ安倍川の源流域には,大規模崩壊地である大谷崩れが存在する.大谷崩れ周辺は過去幾度も大規模な崩壊を繰り返し,18世紀初頭の宝永東海地震の際の大崩壊では,崩壊土砂が土石流となって大谷川と安倍川上流の谷を埋めたとされる(例えば,土屋,2000).町田(1959)は,大谷崩れ起源の崩壊堆積物量の見積もり値を1.2×108 m3 と推定すると共に,崩壊堆積物に関連する地形を河成段丘発達史の視点から解釈している.安倍川本流において大きな落差をもつ赤水の滝については,安倍川が土石流堆積物を下刻しつつ形成した,崩壊による土砂で谷が埋まり尾根筋からの越流により滝が形成された,などの記述が見られるが,いずれも十分な根拠を示しているとは言い難い.赤水の滝周辺の「土石流」堆積物と基盤の古第三系頁岩の分布を調査すると,赤水の滝は実際には土石流堆積物上を流れ下っておらず,基盤岩上を流れ下っていること,土石流堆積物の分布は赤水の滝のすぐ上流から東側を通り,滝のすぐ下流で再び現在の安倍川に合流することは容易に見てとれる.さらに赤水の滝周辺の土石流堆積物露頭において,土石流堆積物の礫の配列から堆積物形成時の古流向を推定した.赤水の滝の下流側(南側)では,土石流堆積物は安倍川左岸の赤水の滝展望台周辺に比較的良く露出する.礫のインブリケーションから古流向は概ね西への流れであったと解釈される.また長軸は古流向にほぼ平行であり,転動とは別のプロセスにより礫が運搬されていたことを示す.岩相としては礫支持であり,一般的な土石流堆積物(基質支持)と比べて礫の濃度が高いが,基質には泥分も多く含まれており,土石流の一種として差し支えないと思われる.一方赤水の滝上流側では植生が繁茂し,巨礫の直下にかろうじて露出している中礫のインブリケーションから推定される古流向は概ね東への流れを示した.以上より,赤水の滝は大谷崩れの崩壊に端を発した土石流堆積物によって安倍川の谷が埋められた際に,水流が元々の尾根を越流し,蛇行した谷をショートカットして流れ落ちることにより形成され,現在も基盤の頁岩を下刻しつつある,と考えるのが妥当であると結論づけられる.
著者
二村 徳宏 戎崎 俊一 丸山 茂徳
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

We found that a significant positive broad component of iridium in a pelagic deep sea sediment core (886C) around an iridium peak by asteroid impact corresponds at the K-Pg boundary. The 886C is core sample was taken by the Ocean Drilling Program (ODP) in the central portion of the North Pacific. This site has been in Pelagic from the End-Cretaceous periods. The accumulation rate is 0.5 m Myr-1. Kyte et al., (1995) measured iridium density in the 886C core of 0.75-72.2 m which corresponds of 〜80 Ma from the present. In this data, there is one sharp peak around 65.5 m correspond at K-Pg boundary. In addition, we found that there are broad components across 〜20 m above the back ground which have some sharp peak component. The Ir value of the broad component which is about dozen times of back ground. This broad component is difficult to be explained by the materials on the surface of the Earth, and requires the contribution from the iridium-rich extraterrestrial materials, such as CI chondrite. And it is difficult to explain the broad component by diffusion and bioturbation of an iridium peak by asteroid impact. Platinum-group-element such as Pt, Re and Ir are redistributed by changes in sedimentary redox condition. However such change can probably account for many of small -2. The climate cooling in the End-Cretaceous period is also suggested by the variations of stable isotope rations in oxygen and strontium (Brian and Huber, 1990; Barrera and Savin, 1999; Li and Keller, 1998). Any photosynthetic plants had heavy damaged, and loss of biodiversity began to the top of food chain.The mass extinction at K-Pg boundary, which is widely thought to be caused by an impact of an asteroid (e. g., Schulte et al., 2010). However, a complete extinction of level of family by asteroid impact seems rather difficult. First, a severe environment turn-over would finish few years after impact, the solid particles and sulphate launched by the asteroid impact was settled down for only few month (troposphere) to few years (stratosphere) and negative radiative forcing became negligible after a few years from the impact (Pierazzo, 2001).The number of individuals would recover completely after the environmental catastrophe was over, if a few percent of individuals of one species survived.Second, in spite of there were similar impacts without catastrophic on the Earth, for example, Alamo, Woodleigh, and Popigai crater, there are no evidences of association for extinction. However, because the encounter with the dark cloud perturbs the orbit of asteroid or comet by its gravitational potential and may lead an asteroid or comet shower, the asteroid impact at K-Pg may be one of the consequences of the dark cloud. For a certainly, only an asteroid impact cannot involve mass extinction, however may be role cruncher. The multiple impact and volcanism in a short period of time (Keller, 2005) may have been caused by encounter the dark nebula and atte
著者
千秋 博紀 黒澤 耕介 岡本 尚也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

A shooting star is caused by an entry of a cosmic dust particle into the planetary atmosphere. The light from the shooting star composed of thermal emission and emission lines from the gas in from of the dust particle and the vapor from the dust particle. It means that the physical and chemical condition of the dust particle can be estimated from a photometric and/or spectroscopic observations. However a shooting star is a sporadic and un-controled event, and thus the relation between the physical and chemical condition and the resulting spectroscopic observation is estimated by empirical equations.We are constructing a laboratory experimental system to simulate shooting stars by using a two-stage light gas gun at Planetary Exploration Research Center (PERC), Chiba Instiute of Technology, Japan. This gun shoots a projectile with size of 2 mm into a observational chamber filled with gas. The light from the projectile is observed by high-speed camera with 1 Mfps and its spectrum is taken by spectrometer simultaneously.We carried out a series of experiments using the system with a variety of projectile composition. The specific spectra relating to the projectile component were confirmed as a function of the location from the projectile (during head-neck-tail structure). We will give the experimental results and discuss the chemical and physical status of shooting star.
著者
五十嵐 康人 北 和之 牧 輝弥 竹中 千里 木名瀬 健 足立 光司 梶野 瑞王 関山 剛 財前 祐二 石塚 正秀 二宮 和彦 大河内 博 反町 篤行
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

著者らは, 福島第一原発事故の放射能汚染による大気環境影響評価のため, 福島県内の汚染地域に設置された観測地点で放射性セシウムの大気への再飛散を研究してきた。その結果, 1) 都市部での観測結果と異なり, 典型的な里山である観測点では,特に夏季に放射性Csの大気中濃度が上昇し(Fig. 1),2)これを担う粒子は, 見た目や光学顕微鏡像からダストと思われたが, 意外にもその大部分が実は生物由来であること(Fig. 2)を見出した。真菌類が放射性Csをカリウムと誤認し濃縮する事実を考慮すると, 再飛散を支える実体として胞子が想定できる。仮に真菌胞子のみが137Csを運ぶとして, 胞子一個当たりの137Cs量を幾つかの仮定下で推定すると, 5×10-10-3×10-7 Bq/個となり, 森林から胞子が9×103-5×105個/m2/秒飛散する必要がある。この値は,Sesartic & Dallafior (2011) Table 2のForestの最大値387個/m2/秒よりも1~3桁も大きい。しかし実際, 今夏の予備観測で,バイオエアロゾル個数濃度は5-8×105個/m3に達することが確認され, 我が国の森林から予想以上のバイオエアロゾルの飛散が起きていることがわかった。さらに上記仮定に基づくと, 大気中137Cs濃度は2.5×10-4-0.15 Bq/m3となり, 現実の放射性Csの再飛散と凡そ辻褄が合う。これらから, 夏季におけるバイオエアロゾルによる放射性Csの再飛散を真剣に考慮すべきことがわかってきた。
著者
河村 聡人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

The result of a test particle simulation will be presented and discussed as a possible interpretation on Interstellar Boundary EXplorer (IBEX) observations of InterStellar Medium (ISM) Oxygen. Due to the physical characteristics of Oxygen atom, neutral Oxygen had interacted with Hydrogen-dominated Heliosphere before they were observed by IBEX, and such Oxygen may contain some information of Heliospheric structure within its flux distribution over the sky. In order to understand this observation, we must classify the particles based on their histories of interactions with Heliosphere. We provide a unique classification on the test particles which makes the simulation result provide an insight on the IBEX observations.
著者
野津 翔太 野村 英子 石本 大貴 本田 充彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

原始惑星系円盤(以下、"円盤")は、⽐較的単純な分⼦種(e.g., H2O, CO, CO2, HCN)から複雑な有機物(COMs)まで様々な分⼦種を含む。最近ではSpitzer宇宙望遠鏡や、地上の⼤型望遠鏡(e.g., VLT, Keck)による⾚外線分光観測などで、⽐較的単純な分⼦種の様々な輝線が検出され始めている (e.g., Pontoppidan et al. 2010a&b, Mandell et al. 2012)。円盤はほぼケプラー速度で回転しているため、円盤から放射される輝線はドップラーシフトを受け広がっている。この輝線のプロファイル形状の解析から、輝線放射領域の中⼼星からの距離の情報が得られる。これまで我々は、円盤の化学反応ネットワーク計算と放射輸送計算の⼿法を⽤いて、H2O輝線プロファイルの観測から円盤内のH2O分布、特にH2Oスノーラインを同定する可能性を調べてきた。その結果、アインシュタインA係数が⼩さく、励起温度が⾼いH2O輝線を⽤いた⾼分散分光観測を実施する事で、H2Oスノーラインの位置を同定できる可能性が⽰されている(Notsu etal. 2016a, ApJ submitted & 2016b in prep.)。ここで円盤内では凝結温度の違いにより、分⼦種ごとにスノーラインの位置は異なると考えられる。その為、円盤ガス・ダスト中のC/O⽐は、中⼼星からの距離に応じて変化すると考えられる。例えばH2Oスノーラインの外側では、多くの酸素がH2Oの形でダスト表⾯に凍結する⼀⽅、炭素の多くはCOなどの形で円盤ガス中に留まるので、ガス中でC/O⽐が⼤きくなる。また、近年系外惑星⼤気のC/O⽐が測定され始めているが(e.g., Madhusudhan et al. 2014)、円盤と惑星⼤気のC/O⽐を⽐較する事で、惑星形成理論に制限を加えられる事が⽰唆されている(e.g., Oberg et al.2011)。そこで我々は、これまでの化学反応計算を発展させ、円盤ガス・ダスト中のC/O⽐や、⽐較的単純かつ主要な分⼦種(e.g., H2O, CO, CO2, HCN) の組成分布を調べている。同時に放射輸送計算も進め、C/O⽐などを同定するのに適した輝線の調査を進めている。その結果、同じ分⼦種のアインシュタインA係数(放射係数)や励起温度が異なる輝線を使う事で、円盤内の異なる領域のC/O⽐に制限を加えられる事が分かってきた。例えばHCNの場合、3μm帯の輝線では円盤外側、14μm帯の輝線では円盤内側の構造に迫る事が可能である。これは14μm帯の輝線の⽅が3μm帯の輝線と⽐べ、ダストの吸収係数が⼩さく励起温度が低いため、円盤内側のHCNガスが豊富な領域を追う事が出来るからである。本発表ではまずT-Tauri円盤の場合の解析結果を中⼼に報告し、将来の近-中間⾚外線の分光観測 (e.g., TMT/MICHI, SPICA) との関係についても議論する。また時間の許す範囲で、Herbig Ae星の場合の解析結果の報告と議論も⾏う。
著者
清水 祥伽 中西 正男 佐野 貴司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

応神ライズ海山群はシャツキーライズと天皇海山列の間に位置する海山群である。シャツキーライズはプルームヘッドによる多量の噴火によって148 Ma以降に形成されたと考えられている(Nakanishi et al., 1999)。シャツキーライズには3つの高まり(海台)、南からタム山塊、オリ山塊、シルショフ山塊が存在する。深海掘削試料の放射性年代から、タム山塊は144 Ma頃、オリ山塊は 134 Ma頃、シルショフ山塊は128 Ma頃に形成されたとされている(Geldmacher et al., 2014; Heaton and Koppers, 2014)。応神ライズ海山群周辺のプレートの年代は134 – 125 Maである(Nakanishi et al., 1999)が、その地形的特徴や形成時期についてはわかっていない。応神ライズ海山群は、シャツキーライズの主活動期の後しばらくしてから起こった火成活動で形成されたという仮説が提案されている(Sano, 2014)。応神ライズ海山群とシャツキーライズの形成の関係性が明らかになれば、マントルプルーム活動の変遷、特に主活動期の後の火成活動を理解することにつながる。2014 年7月に研究船「かいれい」による海底地形,重力,地磁気の地球物理学観測およびドレッジによる岩石採集が応神ライズ海山群において行われた(KR14-07航海)。本発表では、重力および海底地形の解析から明らかになった、応神ライズ海山群周辺の海洋地殻構造について報告する。使用したデータは、KR14-07航海で得られたマルチビームデータとSager et al. (1999)で作成された海底地形グリッドデータ、Sandwell and Smith (2009)で作成された衛星高度計観測から作成されたフリーエア重力異常データである。これらを用いて、地殻の厚さ及びアイソスタシーの状態、弾性層厚を求めた。海洋地殻の厚さはKuo and Forsyth (1988)の方法を用いてもとめた。また、アイソスタシー及び弾性層厚は海底地形とフリーエア重力異常に関するadmittance解析(McKenzie and Bowin, 1976)から求めた。解析結果から応神ライズ海山群の平均的地殻の厚さは12km程度であることが判明した。これは平均的な海洋地殻の6kmと比べ2倍も厚い。また、弾性層厚は2.6 kmであり、エアリータイプのアイソスタシーが成り立っていることが分かった。これらの解析結果から、応神ライズ海山群の形成年代は、周辺の海洋プレートの年代とほぼ同じであることが明らかになった。すなわち、応神ライズ海山群の形成時期は134 – 125 Maであると推定される。このことから、シルショフ海台形成と同年代にオージンライズ海山群が形成されたと考えられる。
著者
西山 忠男
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

This is a union session jointed with AGU.The theme of this session is”Geosciences and society: What is the role of geoscientists? Do we really need geoscientists? And if so how to suggest vocations among the young generations?"We anticipate that this special session will be particularly stimulating, as it will provide useful comparisons of a single situation in two countries with different educational and societal contexts.List of moderator and panelists with affiliation and specialtyModerator: Prof. Asahiko Taira (JAMTEC) geology and marine geosciencePanelists :1. Prof. Haruo Hayashi (National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention) social psychology, psychology for disaster prevention, human behavior on the disaster2. Prof. Muneo Hori ( Earthquake Research Institute, The University of Tokyo) earthquake engineering, computational mechanics, simulation of social science3. Prof. Toshio Yamagata (JAMSTEC) meteorology, ocean physics, earth fluid mechanics4. Prof. Satoko Ooki (Keio University) seismology, earthquake disaster, disaster prevention education5. Prof. Stephen P. Obrochta (Akita University) paleoceanography, paleoclimate, stratigraphy
著者
渡辺 学 米澤 千夏 潤 園田 真人 大木 直弥 富井 政信 島田
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

PALSAR-2 (Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar 2), L-band SAR on-board Advanced Land Observing Satellite-2 (ALOS-2), data were used to detect disaster areas caused by the 2016 Kumamoto earthquake.1. Coherence change technique with coherence filter [1] was used to detect damaged urban areas.2. Alpha angle [2] and HH-VV coherence [3] change techniques were used to detect landslide areas.The coherence change technique with coherence filter identifies candidates of severely damaged urban areas located along a fault, which induces the earthquake. The detected damaged areas are Mashiro town, Koyo area in Minamiaso village, which incudes Aso campus of Tokai university, Aso Ohashi bridge, and some of landside areas.Some landslides occurred in a forest area before the disasters were detected by using the alpha angle and HH-VV coherence change techniques. But miss-identification were often observed. Additional forest mask was produced from the image taken before the disaster, and tested to reduce the miss-identification. It is confirmed that the forest mask works well to reduce the miss-identification of landslide area.[1] M. Watanabe, R. Natsuaki, H. Nagai, T. Motohka, T. Tadono, M. Ohki, R. B. Thapa, C. Yonezawa, M. Shimada, S. Suzuki, Damaged area detection caused by 2015 Nepal earthquake with coherence difference obtained by PALSAR-2 three observations, JpGU 2015, May 24-28, 2015, Makuhari Messe/Chiba[2] Pi-SAR-L2 observation of the landslide caused by Typhoon Wipha on Izu Oshima Island, M. Watanabe, R. B. Thapa, M. Shimada, Remote Sensing, 8(4), 282, 2016[3] M. Shimada, M. Watanabe, N. Kawano, M. Ohki, T. Motooka, W. Wada, Detecting mountainous landslides by SAR polarimetry: A comparative study using Pi-SAR-L2 and X band SARs. Trans. Jpn. Soc. Aeronaut. Space Sci., Aerosp. Technol. Jpn. 2014, 12, 9–15.
著者
辻村 優志 川方 裕則 福山 英一 山下 太 徐 世慶 溝口 一生 滝沢 茂 平野 史朗
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

For inland earthquakes such as the 2007 Noto Hanto earthquake (Doi and Kawakata, 2013) and the 2008 Iwate-Miyagi earthquake (Doi and Kawakata, 2012), foreshocks were reported to occur in the vicinity of main shock hypocenter. Moreover, for interplate earthquakes such as the 2011 off the Pacific coast of Tohoku earthquake (Kato, et al., 2012) and 2014 Iquique earthquake in Chile (Yagi et al., 2014), migration of foreshocks toward the main shock hypocenter was detected in one month before the main shock. In order to understand the generation mechanism of foreshocks, it is important to investigate under what environments foreshocks occur.Since 2012, stick-slip experiments have been carried out using a large-scale biaxial friction apparatus at NIED (e.g., Fukuyama et al., 2014). Based on the experimental result that foreshocks were detected only in the later period of each run, Kawakata et al. (2014) suggested that the foreshocks occur only after the generation of gouge. In this study, we carried out a series of stick-slip experiments with and without pre-existing gouge along a fault plane to confirm if fault gouge affects the foreshock activity. When foreshocks are detected, we estimate the hypocenter locations of foreshocks.We used two rectangular metagabbro blocks to make the simulated fault plane, whose dimension was 1500 mm long and 500 mm wide. The experiments were conducted under normal stress of 1.33 MPa and loading speed of 0.01 mm/s up to approximate slip amount of 8 mm. During each experiment, we continuously measured elastic waves to detect foreshocks. The sensor distribution is shown in the figure below. Gouge materials were prepared naturally during preceding experiments whose sliding speed was as high as 1 mm/s.To roughly detect foreshock activity, we calculated cumulative amplitude of continuous waveform data every 0.01 seconds. During an experiment without pre-existing gouge materials (LB13-004), a few foreshocks were detected. On the other hand, during an experiment with pre-existing gouge materials (LB13-007), much more foreshocks were detected. Then we estimated hypocenters of foreshocks for a stick-slip event (event 44) in LB13-007. Although the initial phases of the main shock were contaminated due to the coda wave signals of preceding foreshocks, the hypocenter of the main shock was roughly estimated near the right end of the fault plane. Foreshocks began to occur in the left half of the fault plane, but most of later foreshocks occurred near the right end.Therefore, we confirmed that foreshock activity was high when gouge materials were present along a fault plane, and found a similar hypocenter migration of foreshocks toward the main shock hypocenter, which was reported for interplate earthquakes.In the future, we shall examine the data obtained from other experiments to confirm if the aforementioned features are common.Acknowledgments: This work was supported by NIED research project “Development of monitoring and forecasting technology for crustal activity” and JSPS KAKENHI Grant Number 23340131.
著者
豊本 大 川方 裕則 平野 史朗 土井 一生
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Recently, small foreshocks have been frequently detected using a cross-correlation technique (e.g., Bouchon et al., 2011, Science). For inland earthquakes, foreshocks whose hypocenters were estimated to be adjacent to the mainshock hypocenter were detected from several tens of minutes before the main shock occurrence (Doi and Kawakata, 2012, GRL; 2013, EPS). Toyomoto et al. (2015, SSJ) tried to detect foreshocks of an M 5.4 earthquake in central Nagano prefecture on June 30, 2011, in a similar manner to Doi and Kawakata (2013). Using the continuous waveforms of the vertical component at N.MWDH (Hi-net) station (the epicentral distance of the mainshock is 4.5 km), they newly detected 14 foreshocks with a cross-correlation criterion of 0.6, in addition to 27 foreshocks listed in the JMA (Japan Meteorological Agency) unified hypocenter catalogs. To efficiently detect small foreshocks for other inland earthquakes, it is necessary to design how to set the cross-correlation detection criterion for foreshock detection.In this study, we carried out foreshocks detection of the same earthquake in the same method as Toyomoto et al. (2015, SSJ) using the waveform record of N.MNYH (Hi-net) station (epicentral distance of main shock is 5.3km). In this case, the maximum correlation coefficients during one minute tended to be higher than those for records at N.MWDH station, and the result of detection strongly depends on a threshold employed in a cross-correlation method. This indicates that we should not use a universal threshold independent of data. One of alternative way is to use the standard deviation of cross-correlation coefficients. Then, we made a histogram of the cross-correlation coefficients of 1-day data. The histogram of N.MWDH data is Gaussian and the cross-correlation coefficients obey a normal distribution with the average of zero. Although the histogram of N.MNYH data is not Gaussian, so the cross-correlation coefficients have a large-deviation. In such a case, a criterion depending on the standard deviation is inadequate.Acknowledgments:We used continuous waveform records of NIED high-sensitivity seismograph network in Japan (Hi-net) and the JMA unified hypocenter catalogs.
著者
米田 直明 川方 裕則 平野 史朗
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

It has been reported that the b-value decreases prior to large earthquakes in nature (e.g., Imoto, 1991) and failure of a rok sample in laboratories (e.g., Scholz, 1968) . To discuss a temporal variation of the b-value, a sufficient number of earthquakes is required. In general, calculation of b-value prior to large earthquakes requires long-term data because seismic activity is not always high at that term. In other words, the temporal resolution of b-value variation before a large earthquake is usually low. Therefore, sufficiently high seismic activity before the large earthquake is required to evaluate the b-value variation precisely.For example, two major earthquakes occurred in northern Tochigi Prefecture: Mj6.3 in 2013 and Mj5.1 in 2014. The two events followed the increase of seismic events. One possible cause of this increase is the Mw9.0 Tohoku earthquake in 2011 (e.g., Aketagawa, 2011).In this study, we try to detect the temporal variation of the b-value in northern Tochigi Prefecture where a large number of earthquakes could be observed in a short period prior to the two major events. First, to increase the temporal resolution, we calculate the b-value for a circular region with 20km radius from the epicenter of the Mj6.3 event; the result is shown in Figure A. While the b-value was greater than 1.0 and stable before March 2011, it dramatically decreased to ~0.6 after the occurrence of the Tohoku earthquake in 2011 and recovered to around 1.0 almost within one year. After that, it decreased to ~0.7 again following the Mj6.3 event in 2013 and recovered to ~1.0 within a small period. Although it decreased to ~0.75 again following the Mj5.1 event in 2014, it did not recover but continued, at least, one year. Regarding these different variations in each sequence, we considered the seismic activity in northern Tochigi precisely. We consider regions 1, 2, and 3. The region 1 is located south of the source region of the Mj6.3 event and includes an active fault. The regions 2 and 3 include the source areas of the Mj6.3 and Mj5.1 events, respectively. The temporal variation of b-value for each region is shown in Figure B, C, and D. In region 1, constant seismic activity has continued for the whole term and the b-value was stable and greater than 1.0. The b-values are also stable but ~1.0 in region 2 and ~0.75 in region 3. On the basis of these results, we found that the temporal variation of the b-value of the entire region is affected by the temporarily activated one of the three regions. However, in regions 2 and 3, the numbers of events to calculate the b-value precisely are insufficient despite their activation. So we found that we cannot detect temporal variation of the b-value prior to the major events. This finding tells us that we need to consider the target region carefully when we research the temporal variation of the b-value.AcknowledgmentsIn this study, we used the JMA unified hypocenter catalogue.
著者
植村 美優 川方 裕則 平野 史朗
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

On the basis of experimental studies (e.g. Yoshimitsu et al., 2009 and Lockner et al., 1977), it has been expected that seismic velocity decreases prior to earthquakes. To detect temporal variation in the velocity, stable monitoring of the velocity for a long time is required. Seismic interferometry using micro-tremors is one of the potential techniques which enable us to detect such variation if seismic stations are densely located. With a seismic interferometry technique, some researchers have tried to detect the velocity variation before and after an earthquake using seismograms of a station pair whose interval was longer than ~20 km, but remarkable variation preceding target earthquakes have never been reported. If we can use seismograms of a station pair with a shorter interval, we might be able to detect the variation. In this study, we chose the 2014 Nagano Kamishiro Fault Earthquake (Mj 6.7) as a target, whose source fault (Kamishiro fault) is located between two NIED Hi-net seismic stations (N.HBAH and N.HKKH). The interval of these stations is about 7.3km.At first, we investigated how frequency contents of micro-tremors depend on time, such as day or night, weekday or weekend. After checking, we confirmed that seismograms on Saturday night are the best for our analysis. After applying one-bit normalization, we divided continuous seismograms into one-minute seismograms. Then, we calculated the cross-correlation function of each one-minute seismograms pair of two stations, and stacked all cross-correlation functions for a period of six hours, on Saturday night. Finally, we obtained stacked cross-correlation from 2011 to 2015.We found obvious and pulse-like phases around -2s, from which we estimate apparent seismic velocity ~3.5km/s. Further, we found the increase and decrease in velocity during two years before the earthquake. However, the variation of average velocity is as large as 10%, and we cannot find any corresponding phase in positive time. Moreover, we could not find any coseismic variation. It is suggested that distribution of the micro-tremor sources is anisotropic and asymmetric in space and unstable in time even though we focused only on November and December for every year. Consequently, if we try to detect the structure variation around a seismic source fault, we should confirm that the spatio-temporal distribution of the micro-tremors source does not change.Acknowledgments: We used continuous waveform records of NIED high-sensitivity seismograph network in Japan (Hi-net).
著者
若松 修平 川方 裕則 平野 史朗
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

火山性地震には多くの種類が存在する。しかしながらその分類方法は統一されておらず、研究者や火山によって分類方法や基準は異なっている。火山性地震のどの部分に着目して分類するかは筆者によって様々であるし、また同じ名称で分類していても、分類の基準となる値が違うこともある(西村・井口,2006)。以上のように、文献によって火山性地震の分類基準・名称が異なると、混乱を招く。西村・井口(2006)は、「このような基準のずれや分類項目の複雑さは、火山性地震や微動の研究を分かりづらくしている理由の一つである」と述べている。したがって、火山性地震の分類方法を統一することは重要であると言える。そのためには、火山性地震の連続波形データから、十分な量の火山性地震を抽出する必要がある。 しかしながら、火山に設置された地震計には、火山性地震による揺れ以外にも、人の生活に起因する揺れが観測される可能性がある。そのため、火山性地震とそれ以外の揺れを分け、火山性地震のみを抽出するためには、データ毎に火山性地震かそれ以外のことに起因する揺れかということを判断し、火山性地震以外の揺れをノイズとして取り除いていく、という作業が必要となる。これらの作業を行うためには、火山性地震が検出できるよう、火山活動が活発となっている時期がある火山を研究対象とする必要がある。また人の生活に起因するノイズについて解析することで、それらのノイズの強さや周波数を推定でき、火山活動が活発な時期でも人の生活に起因するノイズを発見・除去しやすくなると考えられるため、火山活動が活発ではない時期もある火山が望ましい。 以上の点から、本研究では、2015年4月~9月に火山活動が活発化した箱根火山を研究対象とし、気象庁が公開している二ノ平観測点上下成分の連続波形記録を用いて、火山性地震ではないと思われる揺れを検出・除去できるよう試みた。 二ノ平観測点のデータには、観測点の近くにある彫刻の森駅を発着している電車の波形が記録されていた。以上のことは、彫刻の森駅に電車が発着していた時間と、揺れが発生していた時間で同じであったことから推定できた。 これら電車の発着による揺れの検出について、電車の波形のテンプレートを複数選出し、これらテンプレートと観測波形で似ている部分を検出することを試みた。具体的にはまず、2015年3月29日午前5時~午前9時までの間に発着した20回分の電車による波形を54個に分けたものをテンプレートとした。これらのテンプレートのエンベロープを計算して位相情報をなくした後、時間窓1秒、ずれ0.2秒で移動平均を計算することでスムージングを行なった。これらの処理を観測波形全体にも施し、テンプレートと観測エンベロープ相関をとった。この相関を用いて、電車波形を検出する方法について検討した。 以上の処理を2015年3月29日のデータに適用したところ、合計で116回あった電車による揺れのうち、112回は検出できた。また、24時間のうち、約300秒は電車が来ていない時間帯にも関わらず電車による揺れとして検出された。これらの処理を火山活動が活発化していた時期に適用することで、火山性地震を検出しやすくなることが期待される。また、以上の処理を2015年6月29日のデータに適用したところ、電車が彫刻の森駅に発着している時間にも関わらず、電車波形として検出されなかった部分があった。これらの部分には、火山性の地震波と思われるシグナルが卓越していた。これは、火山性地震の検出という本研究の目的とてらして、成功したといえる。謝辞:本研究にあたり、気象庁火山観測網のデータを使用させていただいた。
著者
南里 翔平 鈴木 毅彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

群馬県中部に位置する赤城山は周囲約25 kmに及ぶ大型の成層火山である.守屋(1968)はこの発達史をはじめて体系的にまとめた.その中で約4.4万年前に噴出した赤城鹿沼テフラ(Ag-KP;青木ほか,2008)の上位に足尾帯由来のチャートや頁岩からなる降下火砕物があることを報告し,これを水沼石質降下火砕岩層(CLP)とした.本研究では守屋(1968)ほかで詳細に明らかにされてこなかった,CLPの分布,層序,構成岩種,噴出量,噴火様式,前後の噴火史を明らかにすることを目的とした.赤城山東麓の桐生市黒保根町下田沢を流れる清水用水沿いの露頭(赤城山山頂から南東約10 km)では,下位から榛名八崎テフラ(Hr-HP),Ag-KP,CLP,赤城小沼(この)石質降下テフラ(Ag-KLP)がそれぞれ観察できる.この地点におけるCLPは岩相から4つの噴火ユニットに分けることができ,下位から1L,2P,3P,4Lとした.このうち1L,4Lは足尾帯由来と考えられる堆積岩・火成岩(たとえばドレライトなど)の亜角礫が主体である.1Lは平均粒径13 mmの火山豆石を含む単層と,その上位に堆積する平均粒径32 mmの亜角礫層からなる.このことから1Lはマグマ水蒸気爆発の堆積物であると考えられる.2Pは発泡の悪い黄色軽石火山礫からなる.この軽石火山礫の火山ガラス部の主成分化学組成は,下位のAg-KP中のそれらとは明らかに異なり,SiO2の重量%がAg-KPのそれよりも高いことがわかった.このことから,この軽石はAg-KPの噴火以後,赤城山のマグマだまり内部で結晶分化作用が進行した結果生成されたマグマに由来するものであると考えられる.守屋(1968)はCLPを水蒸気噴火の堆積物としたが,本研究では2Pの存在からこれをマグマ噴火であると考えた.また,2Pは給源から東方に約50 km離れた日光市や鹿沼市など広域に分布していることが確認されたので,プリニー式の噴火であった可能性が高い.3Pは2P中の軽石と同じ組成を持つ軽石と,堆積岩の亜角礫層との互層からなることから,このユニットに関しても2Pに引き続くプリニー式のマグマ噴火であったと考えられる.4Lは層厚9 cmの細粒火山礫層と,その上位に堆積する亜角礫層とからなることから,マグマ水蒸気噴火の堆積物である可能性が考えられる.CLPは赤城山の類質物や異質物からなる堆積岩主体の堆積物であると考えられてきたが,以上のようにマグマ噴火による本質軽石を伴うことがわかったので,新たに赤城清水石質テフラ(Ag-SLT)の名称を用いることを提案する.Ag-SLTは総噴出量約6 km3に達する.この値はVEI=5に相当し,富士山の宝永噴火(1707年)に匹敵するレベルのプリニー式噴火である.鈴木(1990)はAg-KPの主体をなす降下軽石堆積物直上に降下火山灰を認めたが,それを覆うCLPまで含めて一連の噴火による堆積物と解釈した.本研究では清水用水の露頭においてAg-KPの降下軽石堆積物直上の降下火山灰層をAg-KP(a) とあらためて定義し,灰噴火に由来すると解釈した.またこれと区別するため,従来の赤城鹿沼テフラ(Ag-KP)と呼ばれている降下軽石堆積物をAg-KP(p) と再定義した.ところでAg-KP(a)/ Ag-SLT(1L)境界付近を詳しく観察すると,有機物に富み,層理が不明瞭で,淘汰が悪い層厚12 cmの地層が存在する.このことから,Ag-KP(a)/ Ag-SLT(1L)間にはロームが存在すると考えられる.つまり,Ag-KP(p) のプリニー式噴火後は引き続きAg-KP(a)の灰噴火が発生したが,Ag-SLTの噴火までには,わずかではあるが噴火の休止期があった可能性が示唆される.引用文献青木ほか(2008)第四紀研究,47,391-407.守屋(1968)前橋営林局,p64.鈴木(1990)地学雑誌,99,60-74.
著者
山本 哲
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象観測で用いられる「百葉箱」の語源については、日本で作られた語であること、中国語の「百葉」あるいは「百葉窓」に由来することなどが推定されていた(塩田1996、山口 2006)。当時の気象当局の文献を調べた結果、”Stevenson’s Box for thermometer”(図)の態様を表す”double louvre boarded box”という英語表現を直訳した「(ステイーブンソン形)二重百葉窓箱」が縮めて呼ばれるようになったものと推察された。百葉箱の日本への導入経緯についても考察する。 図(左)新型の温度計設置用の箱についてのThomas Stevensonの報告中の挿絵。2列のよろい板(double row of louvre boards)が特徴とされている。(右)10種類以上の温度計台(Thermometer Stand)を紹介した雑誌連載記事に掲載された”Stevenson’s Thermometer Stand”の挿絵。この絵は広く使われ、日本で最初に編集された「気象観測法」(1886)にも同一のものが掲載された。 参考文献塩田正平. 百葉箱の呼び名について. 気象. 1996, vol. 40, no. 7, p. 7–11.山口隆子. 日本における百葉箱の歴史と現状について. 天気. 2006, vol. 53, no. 4, p. 265–275.
著者
谷川 亘 浦本 豪一郎 内山 庄一郎 折中 新 山品 匡史 岡本 桂典 原 忠
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

高知県内各地では、歴史南海地震の被害の様子が文字として刻まれた石碑が建てられている。宝永地震(1707年)から昭和南海地震(1946年)までの南海地震に関連した石碑が多く残されており、現在文献で確認できるだけで約25体ある。特に高知県内の地震津波碑は安政東海地震・安政南海地震(1854年)に関連した石碑が多い。地震津浪碑は供養・慰霊碑としての位置付けだけでなく、歴史資料としての価値も高い。しかし、雨風と植生による風化が進行し、石碑が傷み、解読不能な文字も見受けられる。また、高知県内の石碑は個人や寺社などが所有者であることが多いため、その保全は所有者に委ねられている。そのため、将来発生する南海地震をはじめとした自然災害により地震津浪碑喪失の危惧も否めない。そこで、本プロジェクトでは地震津浪碑から得られる歴史南海地震の情報を後世へと継承し、防災教育の教材として活用を促進するために、三次元デジタルイメージ化による地震碑の保存、および地震津浪碑と地図情報をリンクさせたウェブブラウザ上での情報提供を行う。石碑の研究といえば、これまで主に刻まれている碑文内容の解読に重点が置かれてきた。しかし、石碑の価値はそれだけでなく、石碑の岩石物理化学的な特徴(鉱物組成・色・帯磁率など)と形状も石碑が製作された当時の文化とその背景を示唆する情報を含んでいる可能性が高い。そのため本プロジェクトでは、石碑の三次元デジタル画像の構築および、石碑の岩石物理化学的なデータの測定を行い、これらの情報をウェブ上に掲載することを計画する。三次元デジタル画像の構築は、既存のソフトAgisoft社製Photoscanを使用して行っている。また画像構築に必要な写真撮影はRICOH社製のGRを用いた。3D画像を閲覧する方法として①ウェブでの閲覧、および②ウェブサイトから各々のPCへの転送、を検討している。石碑の三次元デジタル画像は、彫られた文字を明瞭に表示させるためにはメッシュ化した面の数を多くする必要がある。しかし、面数が多くなるとデータ容量が大きくなるためブラウザ表示に負担がかかる。そこで①の方法として、WebGL描写の3Dモデルをブラウザ上で表示・シェアできるプラットフォーム[Sketchfab (https://sketchfab.com/)]を採用している。また②の方法として、転送データ形式は3D-PDFとし、3D-PDF対応のソフトウェアで閲覧する方法を採用している。石碑の色測定は分光測色計(KONICA MINOLTA社製 CM-700d)を用いて、帯磁率測定はTerraplus社製のKT-10 S/Cを用いている。本発表では現在までのプロジェクトの進行状況およびこれまで得られた結果を報告する。
著者
三島 賢二 角野 浩史 山田 崇人 家城 斉 長倉 直樹 音野 瑛俊
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

3He/4He ratios in terrestrial samples vary more than three orders of magnitude, because primordial helium with 3He/4He of (1.4–4.6) x 10–4 has been diluted by addition of radiogenic 4He produced by decay of U- and Th-series elements in different degrees depending on 3He/(U+Th) ratio of each reservoir. This feature makes 3He/4He ratio a powerful tracer in geochemistry and cosmochemistry. Though atmospheric helium with 3He/4He ratio of 1.4 x 10–6 is used to calibrate 3He/4He measurement with a noble gas mass spectrometer, relatively low concentration and 3He/4He ratio of the atmospheric helium cause many difficulties to use it as a working standard for daily measurements. Thus noble gas laboratories often use their own working standards prepared from a natural gas sample with high 3He/4He ratio or by mixing of isotopically pure 3He and 4He. "He Standard of Japan" (HESJ) is one of the latter originally prepared by four noble gas laboratories in Japan [1] and now distributed worldwide as an interlaboratory standard [1,2]. However, 3He/4He ratio of HESJ was determined by comparison with that of atmospheric helium, i.e., absolute 3He/4He ratio has not been determined yet and the accuracy of the value still rely on the early determinations of absolute 3He/4He ratio of atmospheric helium [3].As long as 3He/4He ratio is used to compare relative contributions of primordial and radiogenic in each geochemical reservoir, absolute 3He/4He value of atmospheric helium or HESJ is less important. However, it is a critical issue in some applications of helium isotopes, such as tritium-3He dating and an experimental project to measure the neutron lifetime with total uncertainty of 1 sec (0.1%) using pulsed neutron source at J-PARC [4].A neutron decays into a proton, an electron, and an anti-neutrino with a lifetime of 880.3 ± 1.1 sec [5]. The lifetime is an important constant in the Big Bang nucleosynthesis (BBN) that controls amounts of primordial elements in our universe. In this experiment, the incident neutron flux is measured by counting 3He(n,p)3H reaction in a time projection chamber detector filled with 3He, 4He and CO2. To determine neutron lifetime with uncertainty less than 0.1%, 3He number density in the detector must be accurately known with even smaller uncertainty. As a part of this experiment, we are developing a gas handling system to control 3He number density with uncertainty of 0.1%. The 3He gas is mixed with research grade He in a vessel with measuring pressures of these gases precisely using a calibrated piezoresistive transducer.We fabricated control samples of known 3He/4He ratio using the gas handling system and measured the ratio using a sector type single focusing noble gas mass spectrometer with double collector system [6] at Dept. of Basic Sci., the Univ. of Tokyo by referring to HESJ. The results will contribute to determine the absolute 3He/4He value of HESJ, and that of atmospheric helium also [6].[1] J. Matsuda et al., Geochem. J. 36, 191 (2002).[2] Y. Sano, T. Tokutake, and N. Takahata, Anal. Sci. 24, 521 (2008).[3] Y. Sano, B. Marty and P. Burnard, “The Noble Gases as Geochemical Tracers”, Chapter 2. “Noble gases in the atmosphere”, Springer (2013).[4] Y. Arimoto, et al, Nucl. Inst. Meth. Phys. Res. A 799, 187–196, (2015).[5] K.A. Olive et al. (Particle Data Group), Chin. Phys. C, 38, 090001 (2014) and 2015 update.[6] H. Sumino et al., J. Mass Spectrom. Soc. Jpn. 49, 61 (2001).