著者
石橋 克彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

●はじめに: 地震の脅威を仮に地震動に限っても,原子力規制委員会による新規制基準は,原発の地震安全性の確保に関して極めて不十分である.原発の地震対策は,福島原発事故後に抜本的に再構築されるべきだったにもかかわらず,基本的に昔ながらの狭義の耐震設計とそのための「基準地震動」に矮小化されているからである.したがって,ある原発が新規制基準を満たしても(審査に合格しても),その原発の地震安全性は保証されない.しかも現在は,審査が甘く,新規制基準すら満たさずに再稼働しつつある.本発表では,新規制基準の枠内での基準地震動(以下Ss)の技術的問題点にも言及するが,より根元的に,基準地震動に替わるべき新たな想定地震動の概念を提案する.●新規制基準でのSs の問題点: 規制委員会規則第5号および「同規則の解釈」および関連審査ガイドが規定するSs と,実際に新規制基準適合性審査で承認されたSs は,年超過確率でみたとき,原発の安全目標である10-4 (炉心損傷頻度)〜10-6 (重大事故による大量放射能放出)に比べて著しく過小評価である.「震源を特定せず策定する地震動」には旧原子力安全委員会以来の方法論的欠陥があるし,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」では,活断層の長さから地震モーメントを求める式の良否など以前の問題として,一般に活断層が地下の震源断層を一意的には示さないことが根本的に重要である.なお,松田 (1975) の式が今でも使われているが,石橋 (1998) 以来指摘している問題があるし,松田 (1998) で改訂もされている.また,演者が旧安全委の耐震指針改訂の際に提案した続発大余震の考慮が新規制基準に入っていないのも問題である.●狭義の耐震設計用基準地震動から「深層防護用地震動」へ: 原発事故による放射線災害から人と環境を守るための基本的考え方は「深層防護」(安全対策の多段階設定)であり,新規制基準もそれが基本だとしている.そうであれば,原発の地震安全性を確保するための地震動は,これまでのように第1層の異常運転の予防,第2層の異常運転の制御,第3層の事故を想定範囲に収める制御(ここまでが重大事故SAの防止)における設備・機器の耐震設計のためのSs として考慮するだけでは不十分である.第4層のSAの制御と影響緩和においても当然考慮されなければならない.すなわち,1万〜100万年に1度の地震に対して特定重大事故等対処施設(免震重要棟,予備電源・注水設備,可搬型設備など)や発電所内の道路なども機能を損なわないことを,厳重に確認しなければならない.九州電力川内原発を例にとれば, 水平最大加速度 540 Gal のSs-1も,同 620 Gal のSs-2も,短周期成分だけで振動継続時間が短く,米国で重視されている累積絶対速度CAV (Cumulative Absolute Velocity;佐藤, 2015) も極めて小さい.南海トラフ巨大地震が内閣府 (2012) の想定か,それ以上の規模で起これば,川内原発における短周期から長周期までの地震動の加速度,速度,変位,継続時間が第4層の設備・施設・作業を破綻させる可能性は高い.したがって,第1層から第4層までに適用される広帯域の「深層防護用地震動」(Earthquake Ground Motion for Defense in Depth, EGMDD) とでもいうべきものを新たに想定し,それに対して各層の健全性を確認する必要がある.さらに,深層防護の第5層(SAが制御できずに放射性物質が大量放出された場合の所外での緊急対応) が,(津波と地殻変動を別としても)EGMDDによって阻害されないことが,原発の総合的な地震対策の最後の砦として必要不可欠である.●国民が納得できる「深層防護用地震動」の策定を: ある原発において人々の安全と安心が得られる地震動(Ss であれEGMDDであれ)がどのようなものであるかは,地震学・地震工学によっては答が出せず,Weinberg (1972) が述べたようにトランス・サイエンスの問題である.その決定は規制委の守備範囲を超える.理学・工学専門家による検討過程,工学的対応可能性,経営的判断,住民の要求といったものをすべて持ち寄り,全関係者の討論によって,あるレベルで合意できるか,合意できずに操業をやめるか,結論を導くべきであろう.そのような場として,例えばフランスで相当程度に機能しているCLI(Commission Locale d'Information;地域情報委員会;例えば, 菅原・城山, 2010)のような仕組みをいっそう拡充・確立することが考えられる.このような取り組みをしなければ,福島原発事故を上回るような「原発震災」の再発を防げないだろう.
著者
佐藤 達樹 千木良 雅弘 松四 雄騎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2016年4月16日に熊本県熊本地方を震源とする地震(Mw 7.0)が発生し,最大震度7を観測した.震度6強の強い揺れに見舞われた阿蘇カルデラ西部地域では,多くの斜面崩壊が発生した.テフラからなる斜面で発生した斜面崩壊は,緩傾斜斜面で発生し,また,長距離流動した.さらに,これらの崩壊のすべり面の形成された層準にはいくつかの種類があり,調査を行った崩壊地においては,風化した軽石層にすべり面を形成したもの(軽石の崩壊)が最も多く確認され,黒味を帯びた火山灰土層にすべり面を形成したもの(火山灰土の崩壊)が次いで多く,風化した火山灰層やスコリア層にすべり面を形成したものも確認された.そこで,本研究では軽石層および火山灰土層にそれぞれすべり面を形成した崩壊に着目し,これらの崩壊メカニズムを明らかにするために崩壊地の地形・地質的特徴,各層の鉱物組成および物性を検討した.​ 調査地域の基盤は玄武岩から流紋岩までさまざまな組成をもつ溶岩流や火砕岩から構成され(小野・渡辺,1985),テフラに厚く覆われている.渡辺,高田(1990)によると火山灰土(Volcanic soil)は色調によって分類可能であり,本研究では黒色を呈する黒ボク(Bl),黄褐色を呈する赤ボク(Br),そして,両火山灰土の中間の色調を示す暗褐色火山灰土(Blackish Brown Volcanic soil, BlBr)の3つに分類した.また,調査地域で最も広く分布する軽石は草千里ヶ浜軽石(Kpfa)と呼ばれ,約30000年前に草千里ヶ浜火口から噴出した(宮縁ほか,2003). 軽石層または火山灰土層にすべり面をもつテフラ斜面の崩壊には,共通してすべり面付近にハロイサイトが存在した.軽石の崩壊において最も多くすべり面が形成された軽石層は,草千里ヶ浜軽石(Kpfa)層であり,そのすべり面は風化により粘土化した層に形成された.火山灰土の崩壊においてはBlBr層に最も多くすべり面が形成され,崩壊地内にすべり面の露出する箇所には乾燥亀裂が発達しており,高含水の粘土層がすべり面となったことが分かる.さらに,火山灰土にすべり面を持つ崩壊地にはKpfaをはじめとする明瞭な軽石層が存在しなかったことから現段階では,Kpfa層がテフラ斜面の崩壊において最もすべり面形成層となりやすく,Kpfa層がない場合にBlBr層にすべり面が形成された可能性が考えられる.Kpfa層がない理由の可能性としては,もともと堆積しなかったか,堆積の後に地すべりによって取り去られたことが考えられる.堆積しなかったとすると,その理由としては斜面が急すぎたこと,あるいは軽石の給源からの供給が少なかったことが考えられる.
著者
王 功輝 土井 一生 釜井 俊孝 後藤 聡 千木良 雅弘
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

During the 2016 Kumamoto earthquake, numerous landslides had been triggered in Minamiaso Village. Most of the landslides originated on steep slopes, whereas some of them occurring on gentle slopes were fluidized and the displaced debris travelled long travel distance, resulting in causalities and severe damage to many houses on the downslope. In this study, we examined the geological features of these fluidized landslides occurring on gentle slopes, and performed both in-situ direct shear tests and dynamic ring shear tests on the soils taken from the sliding surface. During the tests, the samples were prepared at different initial water contents, and dynamic tests were performed by applying cyclic loadings with regular frequency and amplitude of shear stress, and also by coseismic loading referred from seismic motion recorded in a seismic station nearby. Based on these results, we finally analyzed the possible initiation and movement mechanisms of these fluidized landslides.
著者
森田 裕一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1.はじめに 前回の1986年噴火から30年経過した伊豆大島は,1990年代後半から山体の膨張が始まり,現在も続いている.長期的なマグマ蓄積により,次の噴火の準備を行っていることが明らかである.一般に,このようにマグマの蓄積が進んでいる等の情報に基づく噴火の時期の予測が極めてあいまいな長期的な予測と,噴火直前に起こる極めて多数の地震発生,大振幅の火山性微動,大きな地盤変動の観測に基づき数時間から数分後に火山噴火が切迫していることを知る直前予測は比較的容易である場合が多い.しかし,防災対策上もっとも有用な数年から数ヶ月先の噴火活動を予測する中期的な予測は容易ではない.これまでの中期的な予測は,過去の噴火前に観測された事象が順を追って起こることを追認することで行われるが,噴火に至る過程の理解なしに行えば,過去と少し異なる噴火が発生したときには全く機能しない.つまり,次回の伊豆大島の噴火で大事なことは,過去の噴火事象を踏まえつつ,新たに視点に立って噴火に至る現象を把握することが何よりも大切であろう.2.温故:過去から学ぶもの 前回1986年の伊豆大島噴火の明瞭な前兆としていくつかの観測事実が報告されている.このうち噴火前兆として最も信頼できるのは,全磁力と電気伝導度の変化,火口内の熱異常,火山性微動の観測であろう.全磁力の変化は,約4年前から始まり1989年初頭から加速した.また,同時期に山頂火口を挟む浅部で電気伝導度が大きく変化した.噴火の約3ヶ月前から山頂火口内の熱異常域の拡大が見られた.火山性微動は噴火の4ヶ月前から始まり,最初は間歇的であったが,噴火の1ヶ月前から連続微動となり,徐々に振幅が大きくなり,11月15日の噴火直前には急激に大きくなった.これらのことから考えられることは,マグマに先行してマグマ溜まりから大量の高温の揮発性成分・火山ガスが上昇し,浅部の岩盤や地下水を温めた結果が観測されたと考えられる.1986年11月15日の噴火は穏やかな噴火であり,脱ガスが進んだマグマが上昇してきたと考えられるので,このような前兆現象が観測されたことと整合する.マグマに先行する揮発性成分の捕捉は,火山噴火の中期的な予測に有力であるが,全磁力の変化,火山性微動の発生までわからないのであろうか.3.知新:過去の知識から新たな視点で見るもの 揮発性成分の上昇は,火山ガスの観測などから見つかるかもしれない.しかし,測定点の依存性が大きく,全体像をつかむには広域かつ組織的な観測が不可欠であろう.別の手法として,火山性地震活動度と地盤変動,地殻応力の関係に注目した解析がある.著者は伊豆大島のカルデラ内浅部で発生する地震活動は,揮発性成分・火山ガスの上昇を捉えられる可能性を指摘してきた.地震活動は山体膨張・収縮を作るマグマ溜まりの応力変化に極めて良い対応がある.また,2011年頃からは地盤変動に比べ相対的に地震活動度が上昇していること,2013年ころからは地震活動が潮汐との相関がみられるようになったことを明らかにしてきた(「活動的火山」のセッションで発表予定).これらはすべて地震断層面の間隙圧が上昇している可能性を示唆している.最も考えられるのは,マグマ溜まりから揮発性成分の上昇が既に始まっていることを示している可能性である.揮発性成分が噴火前に大量にマグマから放出されていたら,噴火の爆発性が弱まることが知られている.このように,揮発性成分の放出は噴火様式を予測するうえでも極めて重要である.今後,次の噴火まで,地震活動のパターン変化と今後発現するであろう全磁力変化,電気伝導度変化,火山性微動の発生との関係が明らかになれば,噴火予測の高度化に役立つであろう.
著者
上垣内 修
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1986年の伊豆大島山頂噴火から割れ目噴火に至る一連のイベントに関して、当時存在した、島内の体積歪計1点、傾斜計3点、噴火前後の水準測量結果並びに島外の体積歪計3点すべての地殻変動観測データを包括的に説明可能な地下力源モデルについて、Linde et.al.(2016)Journal of Volcanology and Geothermal Research vol.311, p.72-78に沿って報告する。なお、体積歪データは、長周期地震波応答を用いてキャリブレーションされている。ここでは、噴火イベントを山頂噴火開始から割れ目噴火開始直前までのphase 1(Nov.15-20)と、割れ目噴火に至るマグマ貫入開始以降のphase 2(Nov.21-30)のふたつの期間に分けて論じる。Phase 1噴火は1986年11月15日17:25、山頂火口から始まった。噴火に先立ち、明瞭な地震活動、短期的地殻変動は観測されておらず、十分に火道が形成されていたことを示唆する。噴火開始後は、島内の体積歪計1点、傾斜計3点のみならず、伊豆半島の体積歪計2点でも、同期した変化が20日日界頃に概ね停止するまで観測された。これらの変化をすべて説明する最適な力源モデルとして、カルデラ内北西部の地下約4kmを中心とし、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う最大張力軸に直交する鉛直面内に傾斜角70°の軸を持つ、アスペクト比1:0.3、長軸の長さ2.25kmの回転楕円体のマグマ溜まりの減圧が推定された。同楕円体の長軸の延長線と地表との交点は山頂火口と概ね一致している。この形状であれば、噴火前にカルデラ縁から火口付近まで繰り返し行われた水準測量で、火口付近がカルデラ縁に対して相対的に沈降していた観測事実を、同マグマ溜まりの増圧によって説明可能である。本噴火で特記すべきは、これら地殻変動観測と並行して、火口がマグマにより埋められる過程が時系列として詳細に記録されたことである。火口内の地形は既知であるので、地表に噴出したマグマ量と、地殻変動データ解析から推定されるマグマ溜まりの体積変化との直接比較が可能な希有な事例と言える。前者は後者よりも大きく、その差は同マグマ溜まりへの、さらに深い(30km程度か)マグマ溜まりからの充填が、地表への噴出と同時進行で起きていたと解釈できる。なお、近年の伊豆大島島内の体積歪、GNSS、光波測距等の地殻変動観測により、長期的な島の膨張と、それに重なる短期的な膨張・収縮が観測されており、それら変化を説明する球対称力源が、気象研究所により本研究の回転楕円体ソースとほぼ同じ場所に推定されている。これらの関係について、今後の気象研究所の解析が期待される。Phase 2Phase 1の後約1日半の静穏期を挟んで、11月21日16:15からカルデラ内で割れ目噴火が開始し、その約1時間後には山麓からの割れ目噴火に拡大した。最初の割れ目噴火の約2時間前、島内の体積歪データが顕著な変化を示しはじめ、その直後から島を北西~南東方向に縦断するトレンドの顕著な地震活動が始まった。同体積歪変化は最初は縮みで始まり、約10分で変化の極性が伸びに反転している(これが後述のダイク下端の深さに拘束を与える)。そこからは一気に伸びが加速し、その日の深夜までに伸び量が100μstrainを超えてピークを迎えた後、再度極性を反転させて、表面現象が概ね終息した23日を過ぎても、月末まで緩やかな縮みが継続した。この変化と同期して、島外の3点の体積歪計でも顕著な変化が記録された。これら地殻変動変化と、地表の割れ目火口列の分布(この直下のダイクの上端は地表に達したと考えられる)、地震活動の震源分布、噴火前後で実施された島内水準測量で明らかとなった隆起・沈降空間分布(これはPhase 1の影響も含む:ゼロ変化線の離れ具合が主要ダイク上端の深さを拘束)を概ね説明する力源モデルとして、2枚(細かく言うと4枚)の長さの異なる北西~南東走向の平行ダイクの開口と、カルデラ下約10kmに中心を置く最大張力軸方向に潰れた回転楕円体の減圧が推定された。これらの間には、地表への噴出量を差し引いたうえでの質量保存も考慮されている。筆者は、1986年の伊豆大島噴火当時、気象庁入庁3年目で体積歪計の維持管理・データ解析の任にあり、同年11月21日の割れ目噴火の約2時間前から、執務室に置かれた打点記録計に島内の体積歪計が今まで見たこともないような変化を記録するのを、島からのTV中継とともにリアルタイムで見ていた。このイベントで、火山噴火予測への地殻変動観測の重要性を痛感した次第である。現在伊豆大島には当時よりはるかに多数の地殻変動観測点が設けられており、迫り来る次の噴火に向けて、その時の教訓を必ずや活かしたいと考える。
著者
吉本 充宏 藤井 敏嗣 新堀 賢志 金野 慎 中田 節也 井口 正人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

富士山周辺の市町村では、火山防災行政担当者は2〜3年で異動する。これらの担当者は、異動当初の数日の引き継ぎのみで、基礎的な知識等については、火山防災パンフレットや短時間の講演会を聴講するのみである。そのため、知識の伝達や対策の継続性がしばしば滞ることがある。これまでも研修会や図上訓練などを実施することにより、火山防災担当者のスキルを向上させる試みは数多く行われているが、効果が上がっていない場合も多い。図上訓練の効果を上げるには、さまざまな個々の火山や火山防災特有の知識を必要とするが、それらを簡単に提供できる仕組みもない。本研究では、行政担当者が、継続的に知識を取得し、共通課題を共有し、地元の火山噴火に的確に対応できる人材育成を目指した研修プログラムを構築することを目的とする。関係機関へのヒアリングを基に研修プログラム案を作成し、平成29年1月に試験的に研修会を実施した。プログラムの内容は火山噴火や災害の基礎知識、実際の噴火災害対応に関する知識、現行の富士山火山広域避難計画を学び、それらを振り返るための演習(図上訓練)で、実施時間は半日、他の業務と連携して行えるように富士山火山防災会議協議会山梨県コアグループ会議に合わせて開催した。研修会の運営はNPO法人火山防災機構に依頼し、研修会には、オブザーバーを含め50名が参加した。演習としては、「噴火警戒レベルに応じて実施する対策」と題してワールドカフェ形式の図上訓練を行い、最後に全体討論会として班毎の発表と講評、アンケートを実施した。 アンケートの結果、総じて定期的な火山防災研修を望む声が多く、年に1~2回程度実施し、2回の場合は担当者が新規に入れ替わる4月と秋頃に各1回程度、火山防災協議会開催時と同時期に行うのが望ましいとの情報が得られた。開催時間は演習100分程度を含め半日程度が望ましく、内容としては今回実施した内容に加えて「火山防災情報」や「住民等への広報」等の内容が必要とされる。運営面では、別途予算の確保は必要となるが、持続的に実施する場合においては担当者が変わらない民間事業者等の支援を受けることも有効だと考えられる。 本研究は、東京大学地震研究所と京都大学防災研究所の拠点間連携共同研究によって行われたものである。
著者
中川 和之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2015年8月15日、桜島南岳直下に約200万立方メートルのマグマが貫入し、気象庁が噴火警戒レベルを4に上げた。当時は、現象面としては、なにも起きていなかったが、鹿児島市長は、レベル4の段階で一部の地域に避難勧告を出すとともに、一大イベントだった花火大会の中止を決めた。その判断根拠となったのは、気象庁が資料提供した傾斜計のグラフだった。日頃、専門家からマグマの移動を示す傾斜計の変化について説明を受けていた市長が、そのデータの変化の様子から、「最悪、集団移転も考える事態まで想像」し、決断をした。結果的に噴火せず、観光関係者からは非難された。噴火に至る以前の危機的な状況を、関係者がどのように判断して対応をしたのか、当日の朝から、市長や鹿児島市の防災担当者、研究者、気象庁関係者らのヒヤリングを元に、報告する。
著者
稲松 知美 高田 陽一郎 鷺谷 威 西村 卓也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月11日、Mw9.0の東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震と呼ぶ)が発生した。歪集中帯や活断層のM9クラスの地震に対する応答を、密に配置されたGPSの観測データを用いて調べた例はほとんどなく、東北沖地震が初めての機会である。本発表では、新潟神戸歪集中帯(Sagiya et al., 2000)の一部である跡津川断層周辺について、東北沖地震前・地震時・地震後の地殻変動をGPSデータから計算し、互いに比較した結果を報告する。解析には国土地理院のGEONETに加えて、大学が設置した観測点も用いた。地震前については時系列解析により年周・半年周変動を除去し、定常速度場を求めた。地震後については2014年11月25日から2016年7月2日を切り出し、地震前と同じ手法で定常速度場を求めた。地震時については2011年3月5日~10日および2011年3月12日~17日それぞれ5日間の座標平均を計算し、それらの差から変位を求めた。これらの変位・速度からShen et al (1996)の手法を用いて歪速度場(地震時変動については歪場)を求めた。東北沖地震前後の歪速度場と地震時の歪場は空間パターンが全く異なるものとなった。地震時の歪は弾性歪であり、その空間変化は弾性歪の不均質に起因する。従って、これと異なる地震前・地震後の歪は非弾性歪であると結論づけられる。一方、対象地域全体としては東北沖地震前と地震後で歪速度のパターンは良く似ている。このことは、非弾性歪(粘性流動など)が絶対差応力によって駆動されることにより説明できる。すなわち、長い時間スケールのプレート間相互作用により蓄積された絶対応力は東北沖地震に伴う応力変化よりもはるかに大きいために、地震前と地震後で歪速度が大きく変化しなかったと考えられる。この成果は、新潟地域について同様の解析を行った先行研究(Meneses-Gutierrez and Sagiya, 2016)と調和的である。東北沖地震前後の歪速度場の特長としては、跡津川断層両端の火山地帯と跡津川断層上で歪速度が大きくなっていることが挙げられる。前者では高温による粘性流動、後者では断層深部の断層すべりの進行が期待される。つまり、跡津川断層の周囲では場所によって異なるメカニズムの非弾性歪が進行していると考えられる。また、詳しくみると東北沖地震前後で、飛騨山脈南部や御嶽山の東側などで局地的に歪速度のセンスが逆転していることが分かった。これらの地域では地下の温度が高いことが知られており、また群発地震も頻発しているため、歪速度の時間変化は火山性の地殻変動に起因している可能性もある。今回得られた結果には東北沖地震の余効変動の効果が含まれているため、地震前後の非弾性歪速度を定量的に比較できていない。東北沖地震の断層モデルを用いてこの効果を取り除く予定である。
著者
白濱 吉起 宮下 由香里 吾妻 崇 東郷 徹宏 亀高 正男 鈴木 悠爾
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日奈久断層帯は上益城郡益城町木山付近を北端とし,八代海南部に至る長さ約81 kmの断層帯である.日奈久断層帯は過去の活動時期から高野―白旗区間,日奈久区間,八代海区間に分けられる(地震調査研究推進本部 2013).2016年4月熊本地震に伴い,高野―白旗区間の北部から約6 kmの範囲に右横ずれによる地表地震断層が出現した(Shirahama et al., 2016).日奈久断層帯の将来の活動を知る必要があるが,これまでの調査では最新活動や活動間隔といった活動履歴の詳細はよくわかっていない.我々は,九州大学からの委託業務「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」の一環として,日奈久断層帯の活動履歴をより詳細に明らかにすることを目的に,熊本県甲佐町白旗山出地区と宇城市小川町南部田地区の二か所においてトレンチ調査を実施した.本発表では特に山出地区において掘削されたトレンチ(山出トレンチ)が示す日奈久断層帯高野―白旗区間の活動履歴を紹介する.南部田地区の調査結果については東郷ほか(JpGU 2017)を参照されたい.山出トレンチの掘削地点は日奈久断層帯高野―白旗区間中央部に位置し,熊本地震に伴って出現した地表地震断層の南端に当たる.本地点における地震直後の調査では,付近の水田に東上がりの傾動変形とNE-SW方向に杉型雁行配列した開口亀裂が水田の畝に確認された.地震断層に直交するように長さ14m,幅10m,深さ4mのトレンチを掘削したところ,壁面に明瞭な断層と地層の変形が確認された.主要な断層は北面に2条,南面に4条見られ,それらはすべて東から南東傾斜で,ほぼ直立した東上がりの逆断層の様相を呈していた.地層は断層付近で東から西へたわみ下がるとともに,断層を境に上下の食い違いが生じていた.また,壁面には複数枚の腐植質シルト層が見られ,下位の層準ほど断層沿いの変位量が大きく,変位の累積が確認された.トレンチ内で見られる最下部の腐植質シルト層の14C年代は約15 kaを示しており,それ以降の複数回の活動による変形が示唆される.発表では本トレンチが示す日奈久断層帯高野-白旗区間の活動履歴を報告し,他区間の活動履歴との関係について議論する.
著者
竹村 恵二 別府―万年山断層帯(大分平野―由布院断層帯東部) 調査観測研究グループ
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

<はじめに>文部科学省の活断層帯の重点的な調査観測として、2014年度(平成26年度)から3年間の計画で、別府―万年山断層帯(大分平野―由布院断層帯東部)の調査観測を実施した。本研究では既存の調査結果を基礎として、ボーリング調査、トレンチ調査、海域音波探査、自然地震観測、人工地震探査、電磁気探査、重力探査、水位変動観測、アレイ微動観測、等を行った。これらの調査観測の成果に基づいて、活断層の基本的な特性である位置や活動履歴、平均変位速度等を断層帯全体で陸域・海域・伏在平野域において包括的に評価することにより、活断層の基本情報の高度化、さらに自然地震探査や電磁気探査によって地震発生層の媒質の不均質性を探り、既往の地下構造観測情報と比較しながら、浅部構造観測調査も含め震源断層形状の高度化を試みている。また本対象断層帯に位置し、当該断層が活動した場合に大きな揺れに見舞われる可能性が高い大分平野および別府扇状地等の地下構造モデルの高度化を図るとともに、その地下構造モデルと震源断層モデルに基づいた強震動予測を行う」ことを目的とした。26年度調査に関しては、竹村ほか(2015)により、27年度調査に関しては、竹村ほか(2016)により、地球惑星科学連合大会で報告した。26年度報告・27年度報告は文部科学省ホームページに掲載されているので、参照されたい。<28年度の調査>研究グループは、京都大学理学研究科・九州大学理学研究院・産業技術総合研究所を主体として関連研究者からなる。3つのサブテーマに区分し、研究を遂行した。サブテーマ1:活断層の活動区間を正確に把握するための詳細位置・形状等の調査と断層活動履歴や平均変位速度の解明のための調査観測。サブテーマ2:断層帯の三次元的形状・断層帯周辺の地殻構造の解明のための調査観測。サブテーマ3:地下構造モデルの高度化及び強震動シミュレーションによる断層帯周辺における強震動予測の高度化のための研究。28年度実施した下記の項目のうち、主にサブ1およびサブ2の結果について報告する。<サブテーマ1>平成28年度は、既存の地形・地質情報・歴史資料の収集・整理を継続・実施した。陸域では、空中写真判読・地表踏査により、海域では、海底地形調査および音波探査の解析作業を継続し、位置や分布を明らかにした。湾内での堆積物採取を実施し、地震時イベント堆積物の分析・解析を実施した。大分平野では、ボーリングデータ等の既存の資料を用いた解析を進め、群列ボーリング掘削調査等を行った。<サブテーマ2>自然地震観測結果や電磁気探査に基づいて、断層帯及び周辺の地殻上部の不均質構造を明らかにするとともに、平野部で人工地震探査を実施した。また、重力探査・地下水調査等やボーリング等のデータ解析から、平野基盤形状の推定と断層との関係の調査を行った。小断層解析等も用いて、本地域の応力の時間的推移をシミュレーションも含めて推定する。これらの調査を踏まえて、震源断層形状及び地殻構造の解明を進めた。<サブテーマ3>28年度は地震波干渉法による速度構造推定のための連続微動観測や、大分県内の震度観測点における微動観測および大分平野における臨時強震観測を実施し、深部および浅部地下構造モデルを作成・評価した。震源モデルについては,他サブテーマの成果を用いて断層形状を設定し,動力学的シミュレーションにより破壊過程を検討した。構築した地下構造モデルを用いて、強震動シミュレーションを実施し、想定される強震動を求めた。講演では、主にサブ1およびサブ2の結果について報告する。
著者
近藤 久雄 岩切 一宏 谷 広太 佐竹 健治
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

The 2016 Kumamoto earthquake (Mj 7.3; Japan Meteorological Agency magnitude) caused devastating damages and more than 180 casualties. It occurred in an active fault zone and surface ruptures appeared mostly along the previously mapped active faults (The Headquarters for Earthquake Research Promotion-HERP, 2016). The source fault was a part of the Futagawa fault zone that has been evaluated for long-term forecast of destructive earthquake occurrence in Japan (HERP, 2002; 2013). The Mj 7.3 earthquake was the first case, after the 1995 Kobe earthquake, that characteristic earthquake with surface rupture occurred on the major active fault zone evaluated by HERP. It coincides with the past estimation of the average occurrence interval of 10-20 years of an earthquake on those active faults in Japan (Secretariat of HERP, 2001). Meanwhile, the occurrence of large (Mj≥6.8) earthquakes on minor active faults has been more frequent in recent years. Under these circumstances, we re-examined the frequency and probabilities of large (Mj≥6.8) earthquakes on active faults in the last 125 years. In order to classify the damaging earthquakes on active faults, we used the catalogue of damaging earthquakes in Japan (Usami et al., 2013) and previously evaluated reports by HERP.In total, 28 large (Mj≥6.8) damaging crustal earthquakes occurred in the last 125 years, and 22 of them (80 %) are related with mapped active faults, and 6 (20 %) are not. The 22 earthquakes in 125 years yield the average recurrence interval of 5.7 years. Using the individual recurrence intervals, 4.6+/-3.7 years is obtained for all large (Mj≥6.8) damaging earthquakes and 6.0+/-5.5 years for those on active faults. These estimates clearly show shorter recurrence intervals than the previous estimation made in 2001. We also examined the frequency distribution of recurrence intervals of all the large (Mj≥6.8) damaging earthquakes. The distribution shows a bimodal distribution consisting of two groups: one <6 years and another >8 years. The average recurrence interval of the former group is 2.9+/-1.5 years, which is extremely short in comparison with the average recurrence interval in the last 125 years. The longest interval in the latter group is 17 years between the 1978 Izu-Oshima-Kinkai earthquake and the 1995 Kobe earthquake. It is thus apparent that the occurrence of the Mj≥6.8 damaging earthquakes exhibits the temporal clustering and long quiescence periods.Under the assumption of Poisson process, we then calculated the earthquake probability within the next 5, 10 and 30 years for entire Japan. We obtained 72%, 92%, 100% probabilities for all Mj≥6.8 damaging earthquakes, and 62%, 86%, 99.7% for active fault earthquakes, respectively. Assuming the present day is within a clustering period, the probability increases up to 68-97% within the next 5 years. We further investigated the temporal clustering and the timing of mega-thrust earthquakes along the subduction zones. In northeastern Japan, 5 active fault earthquakes occurred within 5 years before and after the 2011 Tohoku earthquake. In southwestern Japan, 3 active fault earthquakes occurred within 5 years before and after the 1944 Tonankai and 1946 Nankai earthquakes. These frequencies are comparable with the average recurrence interval of 2.9+-1.5 years for the above-mentioned <6 years group. This result is in accord with the previously known idea that inland crustal earthquakes increase before and after the occurrence of mega-thrust earthquakes along the subduction zones, although the above probability is computed with the assumption of Poisson process, hence it is time-independent. We can reasonably expect the occurrence of a few active fault earthquakes before the upcoming Nankai earthquake, probably 3 to 5 active fault earthquakes. To forecast them more accurately, the earthquake probability based on the BPT model for individual active faults and time-dependent seismic hazard assessment are necessary.
著者
山本 揚二朗 高橋 努 石原 靖 尾鼻 浩一郎 三浦 誠一 小平 秀一 金田 義行
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

The Ryukyu Trench is a plate convergence zone whose total length of about 1,300 km, and its northern end borders on the western end of the Nankai Trough. Due to the subduction of Philippine Sea plate in northwest direction, active seismicity was observed in the forearc region of Ryukyu arc. In addition, occurrence of large earthquakes was well known; for example, 1911 off-Amami (M8.0), 1923 near Tanegashima (M7.1), and 1774 Yaeyama (M7.4) earthquakes. On the other hand, both detection capacity and location accuracy of earthquakes in this region were not enough to discuss the detailed seismicity pattern and plate geometry, since the seismic network is limited on sparse-distributed islands. To know the seismicity, lithospheric structures and plate geometry, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC) launched a series of seismic observations and active-source seismic surveys at the Ryukyu arc from 2013, as a part of research project funded by Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, Japan.In FY2016, we have conducted a passive source observation in the northern Ryukyu forearc region. We have deployed 47 seismic stations including 43 ocean bottom seismographs (OBS) and 4 onshore stations. All OBSs are equipped with short period (4.5 Hz) geophones. Onshore stations are deployed at Tanegashima (two stations), Nakanoshima, and Akuseki-Jima, composed of broadband and/or 2 Hz seismometers. The average separation of seismic network is about 30 km, and covered the area of 250 km and 160 km in trench parallel and normal directions, respectively. The observation period of OBS is about 4 months, from September to December 2016. From the continuous seismic record, we have detected more than three-times the number of events identified from Japan Meteorological Agency (JMA) catalogue. We also confirmed that almost all our seismic stations recorded the seismic signal when the JMA magnitude of event located within our network is larger than 2.5. In this presentation, we will show the preliminary result of hypocenter relocation analysis.
著者
楠城 一嘉 吉田 明夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

各マグニチュードの地震発生頻度を、横軸にマグニチュード(M)、縦軸に頻度の対数をとってプロットすると、十分に検知できているマグニチュードの範囲で、地震頻度分布は直線で良く近似できる。グーテンベルグ-リヒターの法則として知られているこの分布式で、直線の傾きの値(b値)は、地震発生域の差応力の大きさと相関がみられることが知られており、一般に、断層のアスペリティのような応力の集中しているところではb値は小さく、一方、差応力が小さいところ、例えば、間隙水圧が大きなところ等では、b値は大きい。こうした経験的知識を基に、2011年東北地方太平洋沖地震の震源域のb値の空間分布の変化を調べたTormann et al. (2015)は、2013年以降、b値の空間分布が、ほぼ震源域全体に渡って東北地方太平洋沖地震発生前のb値の分布に戻っているという結果を得たことから、東北地方太平洋沖地震の震源域の応力場は、わずか数年で地震発生前の状況に回復したとみなし、このことから、巨大地震は特徴的な再来周期を持たず、時間的にランダムに発生すると結論している。これは本当だろうか?もし、彼らの結果、及びその推論が正しければ、これまで文部科学省の地震調査委員会が進めてきた地震発生の長期予測の考え方を根本的に見直す必要が生じることになる。 我々は、こうした問題意識を持って、東北地方太平洋沖海域におけるb値の時間的変化を詳細に解析した。Tormann et al. (2015)の解析方法と基本的には同じだが、プレート境界での地震と上盤の地震を分けたこと、地震活動度の空間分布の時間的な変化について考慮したことなど、いくつかの点で、手法に改善を加えた。 我々の解析で得た主要な結果は以下の通りである。2011年東北地方太平洋沖地震で大きくすべった領域では、b値は地震直前の小さな値(Nanjo et al., 2012)に戻っていない。牡鹿半島沖合の想定宮城県沖地震の震源域付近でもM9地震の前にb値が次第に小さくなっていた。三陸北部沖合の海域ではb値の小さい状態が継続しており、しかも最近、低b値域の範囲が西側に広がってきている様子が見える。この低b値域の北部は1994年三陸はるか沖地震の破壊開始域と重なるが、南部は過去の大地震の破壊域と重ならない。総じて、我々の結果では、Tormann et al. (2015)が主張するように震源域全体でb値は東北地方太平洋沖地震前の状況に戻ったとは言えない。また、三陸北部沖合の低b値域では、近い将来における大地震発生の可能性も考慮して注意深く推移を見守っていく必要があると考える。
著者
福島 洋 遠田 晋次 三浦 哲
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
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2017-03-10

On 28 December 2016, an M∼6 normal fault earthquake occurred in the northern part of Ibaraki prefecture in Kanto region, Japan (hereafter called event B). This event was observed by the Japanese ALOS-2 satellite equipped with PALSAR-2, an L-band synthetic aperture radar (SAR). Interferometric SAR (InSAR) processing indicates clear displacement discontinuity line, directing approximately NW-SE. The amount of discontinuity is ∼30cm in the line-of-sight (LOS) direction (approximately from East with incidence angle of 36 degrees). A preliminary inversion found a dip angle of 42 degrees with fault slip confined in the upper-most 5km in the crust.The region has experienced swarm-like normal faulting activities after the occurrence of the 11 March 2011 Mw9.0 Tohoku-oki earthquake including an Mw6.6 event composed of complex ruptures on multiple faults (e.g., Fukushima et al., 2013, BSSA). One of such events was an M~6 event on 19 March 2011 (hereafter called event A).We performed InSAR analysis also for the event A using the data acquired by the ALOS satellite equipped with PALSAR radar. After removing the displacements caused by the Tohoku-oki earthquake, we obtained a remarkably similar displacement pattern for the event A as compared with the event B. Specifically, the locations of displacement discontinuity lines were almost identical, and the amount of displacement discontinuity was up to ∼45cm for the event A and ∼30cm for the event B. The displacement patters were similar, both indicating southwestward normal faulting on a NW-SE striking fault, suggesting that the same fault ruptured. The slight larger displacement for event A indicates that this event was associated with slightly larger slip on the fault at least close to the ground. The InSAR data for the event A presumably includes the displacements associated with an Mj 5.7 event, which should be taken into account for further comparison.Our result indicates that the same M~6 fault can re-rupture in a very short time interval of 5.8 years. Two interpretations are possible as to the mechanism of the extremely early recurrence: 1) rapid loading of the fault occurred after the event A, possibly associated with the postseismic deformation due to the 2011 Tohoku-oki earthquake, and 2) stress level on the fault remained high after the event A, enabling further slip on the fault, without significant loading.
著者
勝俣 啓
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
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2017-03-10

1990年から2014年までに発生したMw8.0以上,100km以浅の地震は,global CMTカタログでは23個存在するが,本研究では,それら23個の地震に先行して地震活動の長期静穏化があったかどうかを調べた.地震活動の時間変化を調べるためにISCの震源カタログを用いて,1964年1月1日から各地震の本震までに発生した深さ60km以浅,実体波マグニチュード(mb)5.0以上の地震を解析した.Zhuang et al. (2002)が開発したStochastic declustering法を用いてデクラスター処理した後,ZMAP法を使用して地震活動度の変化を詳細に調べた.その結果,23個の地震の内,mb5.0以上の地震がほとんどない領域に発生した4個を除く19個の全てにおいて,継続時間が10年程度以上の長期静穏化が見つかった.
著者
引間 和人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

【はじめに】 2016年12月28日21:38に茨城県北部でM6.3の地震が発生した.この地震の震源域では,2011年東北地方太平洋沖地震の直後から,それ以前には殆ど発生していなかった正断層型の地震を主とする地震活動が活発化し,2011年3月19日にはM6.1の地震が発生している.合成開口レーダによる解析では2016年と2011年の地震の地殻変動はほぼ同じ領域で確認されており(国土地理院,2017),それらの観測によれば, 5.7年程度の間隔で同規模の地震が繰り返し発生したことになる. また,震源域に位置するKiK-net観測点(IBRH13, 高萩)では両地震とも1G程度の強震動が観測されており,断層近傍の地震動レベルを考えるためにも貴重な記録である.そこで2016年の地震と合わせて2011年の地震の震源過程解析を行い,これらについての考察を行った.【解析条件】 震源インバージョン解析には震源域を取り囲むK-NET, KiK-netの観測記録を使用した.2016年と2011年の地震の解析で同じ観測点を使用することを基本とし,震央距離が50km程度以内で観測点分布や地盤条件を考慮して16観測点を選定した.震源インバージョン解析に先立ち,震源域で発生した小規模地震(2012年2月19日, M5.2)の観測記録で観測点毎に水平成層構造モデルのチューニングを行った.震源インバージョン解析には,観測された加速度波形に0.05~0.8Hzをフラットレベルとするバンドパスフィルタをかけた後に積分した速度波形を用いた. 断層面を設定する際の基準となる震源諸元は,JMA一元化検測値をデータとしてDouble Difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)により再決定した値を用いた.断層面はF-netによるメカニズム解を初期値として,余震分布との比較や観測波形の再現性を確認しながら設定した.インバージョンはマルチタイムウィンドウ法(Yoshida et al.(1996),引間(2012))により行い,その際の小断層サイズは1km×1kmとした.【解析結果:2016年の地震】 解析の際の断層面は余震発生域を覆うようにやや広めに設定し,最終的には,走向:164°,傾斜:50°,長さ×幅は17km×12kmとした.震源深さは10.3kmである.インバージョン解析により,地震モーメントはM0=9.7e17 Nm(Mw 5.9),最大すべり量は0.7m程度の正断層成分を主とする結果が得られた.破壊は震源から主に北方向の浅部に進展し,破壊開始点から6~7km程度離れたところで最大のすべりを生じたと推定された.【解析結果:2011年の地震】 断層面は余震分布を参考に破壊開始点から主に南に向かって設定し,走向:141°,傾斜:40°,長さ×幅は15km×11kmとした.震源深さは5.9kmである.インバージョン解析の結果,地震モーメントはM0=7.0e17 Nm(Mw 5.8),最大すべり量が0.6m程度の正断層成分を主とするすべり分布が推定された.震源付近に最大すべりが推定された,大すべり域は北方向に数km程度の範囲に広がっている.震源よりも南側のすべり量はあまり大きく無い結果であった.【考察】 2016年の地震の震央位置は2011年の地震より7kmほど南に位置している.しかし,インバージョン結果では2016年の地震は北に向かって進展したことが示され,一方で2011年の地震は震源付近で大きなすべりを生じたと推定されるため,2つの地震の大すべり域はかなり近接している結果となった.但し,断層面の走向・傾斜は異なり,設定上は両者の断層面は同一では無い.さらに,両者のすべり分布の比較からは,最大すべりを生じた位置は近接しているものの,2016年と2011年の大すべり域は平面的にも殆ど重ならないことが確認された.以上のことから,両者の主要なすべり域は異なっていたと推定される. これらの地震で大振幅の地震動が観測されたIBRH13(高萩)観測点は,両者の大すべり域のごく近傍に位置している.特に,2011年の地震ではIBRH13の直下で相対的に大きなすべり量が推定された.IBRH13の地表地震計では2011年の地震で1084gal,2016年の地震で887galの最大加速度(3成分合成,NIED強震観測網のHPより)が観測されているが,観測点直下でのすべりが大きかった2011年の地震でより大きな強震動を生じたものと考えられる.<謝辞:解析には,防災科学技術研究所K-NET, KiK-netの観測記録,F-netメカニズム解,JMA一元化検測値等を使用させて頂きました.>
著者
Weigang Peng Lifei Zhang Tingting Shen
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

Subduction zones play a significant role in regulating the carbon fluxes in solid earth by carrying shallow carbonated oceanic rocks into the deep mantle. Carbonated serpentinite / serpentinized mantle peridotite (ophicarbonate), in spite of not a very crucial part of the global carbon budget compared with the two others (carbonated sediments and carbonated basaltic oceanic crust) owing to its limited volume proportion, show great potential for CO2 capture and storage (CCS). Ophicarbonates, in southwestern Tianshan (China) HP-UHP metamorphic belt, could be divided into two different types based on their inside carbonate phases (such as magnesite and dolomite). Field occurrence, petrography, major and trace element concentrations, carbonate C and O isotopic compositions and whole-rock Sr isotopic studies indicate distinct origins of the two types of ophicarbonates: (a) CO2-bearing seawater hydrothermal alteration (S-ophimagnesite) and (b) high pressure COH-Ca fluids metasomatism (M-ophidolomite). High pressure COH fluids, produced by decarbonation reactions and (or) carbonate dissolution of subducted S-ophimagnesite during their peak metamorphic temperature (530~590℃), transfer upwards into the subduction channel and induce the blueschist-facies overprint in eclogites with the release of Ca. Then, the combined COH-Ca fluids in fluid channel, in turn, metasomatize slab - interface mantle rocks to form the M-ophidolomites and thermodynamic phase equilibrium modeling defines the pressure at 18.5~23.5kbar. This implies high pressure CO2 sequestration in serpentinite could prevent the CO2-bearing fluids from directly transporting upwards into the mantle wedge.In addition, the occurrence of through-going chrysotile + magnesite veins in serpentinites indicates that carbonic fluids could be mobilized at relatively low P and T conditions as well and the end product of metasomatism by these carbonic fluids is called listvenite, which refers to the fully carbonated serpentinite. Isotopic compositions (C, O and Sr) indicate that CO2-bearing fluids responsible for the formation of listvenite may originate from the previous S-ophimagnesite and M-ophidolomite during their retrograde exhumation. We infer that the formation of listvenite (P≈5kbar ,T≈350℃) are closely related to the process of a second serpentinization with rodingization (P=4~8.5kbar ,T=200-410℃) in southwestern Tianshan (China) based on the compilation of previous researches and our field observation, demonstrating that carbonate dissolution could occur not only at high pressure but also at a low pressure and temperature condition during the exhumation of the subduted slab.We stress that the content of initial carbon uptake in oceanic altered peridotite determined only by analogy of carbon content in exhumated ophicarbonates could be underestimated, because decarbonation and (or) carbonate dissolution exist extensively in ophicarbonates, even at low P and T conditions.
著者
古川 郁将 本田 陸人 湖平 元彌 藤井 悠野 西村 江梨花 東元 太誠 岩満 春樹 丸山 璃花 前田 稜河
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-06

1.はじめに市街地では、夜になっても星を綺麗に見ることができない。この光害に関心を持ち、研究を始めた。現在は市販のスカイクォリティーメーターで、夜空の明るさを数値化している。この観測値を気象条件や環境指標のデータと比較し、夜空の明るさに大きく影響していると分かった。2012年には、「北九州1/5万等光度曲線地図」(図1)を製作し、夜空の明るさを可視化した。光害とは、人工の光の環境への悪影響である(図2)。特に、街などの地表の光がエアロゾルによって散乱・反射され、夜空が明るくなる現象を研究をしている。今回、明るい暗いという曖昧な表現しかない光害を数値化するための"光害公式"を考えた。2.夜空の明るさと経時変化率「等光度曲線地図」製作の際には、1日に150ヵ所以上観測することもあり、各地点で観測した時間が異なる。そこで経時変化率を用いて、観測値を21時基準に補正した。図3は、北九州市内7ヵ所で観測した結果である。時間毎に夜空が暗くなっている。この経時変化率は、最小二乗法を用いて算出した。図4、5は19時から4時までの自動車の交通量および、マンションの点灯率である。どちらも時間の経過で減少している。このように、経時変化率は人間の活動に大きく影響される。3.光害の数値化3-1.光害公式の作成2008年に発足させた「夜空の明るさ全国ネットワーク」のデータを見ると、観測地毎に経時変化率に特徴があった。つまり、経時変化率で光害を数値化できるかもしれない。岩手県のひろのまきば天文台は光害が小さいため経時変化率は0.002と非常に小さい(図6)。逆に、三重県の津高校のように、市街地に位置し光害が大きい場所では、経時変化率が0.05と大きくなっていた(図7)。このように光害の大小は、経時変化率で表せることが分かった。そこで、経時変化率を中心に、次の光害公式を考えた。光害指数(Light Pollution Index of Sky)は、人口密度[P]、経時変化率[r]、夜空の明るさ[b]の3つを要素として、光害を数値化しており、光害指数が大きいと、光害の影響が大きいことを示す。単位は[人/(k㎡・h)]となり、人間の活動量の変化によって起こる光害を数値化した指数だといえる。人口密度が増えると、消費電力量が増えるため光害指数は大きくなる。夜空の明るさは明るくなると値が小さくなり、光害指数に反比例する。なお、人口密度を要素としたのは、新宿区のように夜まで人間の活動が盛んな場所では、経時変化が小さくなるためである。3-2.人口密度(P)と住宅率(h)人口密度は、観測地点を中心とした半径2km圏内で算出した。2012年の研究より特定の強い光源は最大2km先まで影響するためである。さらに、圏内に居住区でない部分が含まれる場合、それらを除いた部分の割合(住宅率:h)を用いて人口補正をした。住宅率は雲量の指標を参考に、有効面積内の非居住部分を目視で確認する。図8は補正後の人口密度と光害指数を比較したものである。人口密度の増加に比例してLPI-Sが大きくなっている。このように補正をしたことで、地域性をより明確に表現したものとなった。3-3.LPI-Sの実用性についてこの式が現状の光害を適切に数値化できるのかを考察するため、北九州市内各地での観測を行った。さらに、全国ネットワークの参加校へアンケートを行い、その地域特有の光害の様子について調査を行った。北九州市熊本は、観測地付近に北九州市民球場がある。そのナイター照明の影響で経時変化率が大きくなり、新宿よりも大きいLPI-S=156.4だった。人口密度だけで表せない光害を、経時変化率で表現できた。一方で、天文台はどちらも値がほぼ0であり、明確に光害を表現できた。4.おわりに 曖昧な指標である光害を、経時変化率を中心に公式化、数値化した。また、全国ネットワークへのアンケートから、LPI-Sで適切に光害の大きさを表現できるかを確認した。以前に光害をモデル化した研究はあるが、美しい星空を見るための、「暗い夜空」を数値化したものである。私たちの「明るくなった夜空」を表現した光害指数(LPI-S)は、これまでになかった。黄砂や雪など、様々な要因で夜空の明るさの地域性が生まれる。しかし、光害指数に地域性がどう表れるのかを詳細に調査するには、より多くのデータが必要だ。今後も観測を続け、全国のデータを集めていきたい。5.謝辞全国ネットワーク参加団体のデータ提供に感謝します。星空公団の小野間さんには、多大なご協力を頂きました。ありがとうございました。6.参考文献(一部)・東筑紫学園高等学校・照曜館中学校理科部(2013); 第22回「星空の街・あおぞらの街」全国大会環境大臣賞受賞記念 77pp.・環境省(2000), 地域照明環境計画策定マニュアル 2p.・J.Bortle(2001);The Bortle Dark-Sky Scale, Issue of Sky & Telescope,126p.~129p.
著者
茂木 耕作 米山 邦夫 勝俣 昌己 安藤 健太朗 長谷川 拓也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

Drastic deepening of the barrier layer off the western coast of Sumatra(4°S, 102°E, 800 m depth) due to the MJO passage observed duringDecember 2015 is investigated. The Research Vessel Mirai observationcaptured the drastic increase of isothermal depth from 20 m to 100 mfor only 4 days due to the westerly burst (5-9 m/s) associated withthe MJO. While, the mixed layer was deepened from 10 m to 40 m becauseof the strong stratification of the salinity in the ocean surfacelayer. As a result, the barrier layer depth was deepened from 10 m to80 m. This drastic deepening of the barrier layer was associated withthe increase of turbulent energy dissipation rate. Because the currentspeed in the surface layer off the western coast of Sumatra was veryslower (less than 20 cm/s) than that over the open ocean (more than 50cm/s), the vertical mixing due to the westerly burst could be a mainfactor for the barrier layer deepening.
著者
Mwaura Jelvas 梅澤 有 中村 隆志 Kamau Joseph
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

The sources of anthropogenic nutrients and its spatial extent in three fringing reefs with differing human population gradients in Kenya were investigated using stable isotopes approaches. Nutrient concentrations and nitrate δ15N in seepage water clearly indicated that population density in the catchment and tourism along the coast contributed greatly to the extent of nutrient loading through the groundwater to adjacent reefs in Kenya. Although water column nutrient analyses did not show any significant difference among the 3 studied reefs, the chemical contents (i.e., δ15N and N contents) in the macroalgae and complementary use of seagrasses and sedimentary organic matter clearly indicated the different nutrient regime among the sites in higher special resolution. Higher δ15N and N contents in macrophytes showed terrestrial nutrients affected primary producers at onshore areas in Nyali and Mombasa reefs, but were mitigated by offshore water intrusion especially at Nyali. On the offshore reef flat, where the same species of macroalgae were not available, complementary use of δ15N in sedimentary organic matter suggested input of nutrients originated from the urban city of Mombasa. If population increases in future, nutrient conditions in shallower pristine reef, Vipingo, may be dramatically degraded due to its stagnant reef structure. This study represent the first assessment of the Kenyan coast that integrates water column nutrients and macrophyte δ15N analyses, showing direct evidence of the use of terrestrial nutrients by macrophyte and providing basic information for surveying the link between anthropogenic enrichment and ecosystem degradation including macroalgae proliferation in nearshore reefs.