著者
金野 俊太郎 大河内 博 黒島 碩人 勝見 尚也 緒方 裕子 片岡 淳 岸本 彩 岩本 康弘 反町 篤行 床次 眞司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2012 年より積雪期を除き 1 ヶ月もしくは 2 ヶ月毎(2015 年以降)に,浪江町南津島の山林でスギと落葉広葉樹の生葉,落葉,表層土壌,底砂の放射性Cs濃度を調査した.福島市-浪江町間の走行サーベイでは,除染により空間線量率は急速に減衰したが,未除染の山林では物理的減衰と同程度であった.2014 年以降,落葉広葉樹林では林床(落葉と表層土壌)で放射性Csは物理減衰以上に減少していないが,スギ林では生葉と落葉で減少し,表層土壌に蓄積した.2014 年までスギ落葉中放射性Csは降水による溶脱が顕著であった.2013 年春季には放射性Csはスギ林よりも広葉樹林で表層土壌から深層に移行していたが,2015 年冬季にはスギ林で深層への移行率が上回った.小川では放射性Csは小粒径の底砂に蓄積しており,一部は浮遊砂として流出するが,表層土壌に対する比は広葉樹林で2013 年:0.54,2015 年:0.29,スギ林で 2013 年:1.4,2016 年:0.31 と下がっており,森林に保持されていることが分かった.しかし,春季にはスギ雄花の輸送による放射性Csの生活圏への流出が懸念された.
著者
本間 雄亮 濱本 昌一郎 小暮 敏博 西村 拓
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

The accident at the Fukushima Daiichi nuclear power plant occurred in 2011, resulting in contamination of agricultural fields by radioactive substances such as 137Cs (RCs). Potassium (K) fertilization is typically considered as an effective countermeasure for reducing RCs uptake by plants. However, in case of a pasture, K fertilizer application results in increase in pasture K concentration, causing a metabolic disease for cattle known as grass tetany. Therefore, in the grassland polluted by RCs, alternative countermeasures for reducing RCs uptake are required. In this study, we investigated the effect of adsorbent applications on the RCs behavior in grassland soil.Soil samples were taken from a grassland polluted by RCs at the surface layer (from 0 to 5cm) in Fukushima prefecture. Zeolite and weathered biotite were selected as adsorbents. The soil was adjusted to different water contents (0.86, 1.2) and the adsorbents were added at 0.5, 2.5, 5g per 50g dried soil. Incubation was conducted in constant temperature (20℃) room. Incubation duration was 7, 28 and 112 days. After that, 1M ammonium acetate with soil: solution ratio of 1:4 (dried soil: solution) was added and shaken for 6 hours. Suspension was filtered by 0.45 μm membrane filter. Cs concentration (exchangeable Cs, Ex-Cs) in the filtrates were measured by a Ge semiconductor detector.With increasing adsorbents added to the samples, the concentration of Ex-Cs decreased where more decrease in Ex-Cs was observed for the sample at higher water content. Zeolite decreased concentration of Ex-Cs more than weathered biotite in same soil: solution ratio.This research was supported by grants from the Project of the NARO Bio-oriented Technology Research Advancement Institution (the special scheme project on regional developing strategy).
著者
大澤 和敏 西村 拓 溝口 勝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月の東日本大震災の影響で発生した福島第一原子力発電所の事故により,大量の放射性物質が飛散し土壌などに吸着した.中でも放射性セシウム137(137Cs)は半減期が約30年と長く,土壌中の粘土鉱物や有機物に吸着しやすい性質を持っている.土壌に吸着したCsは河川に流出,湖沼や海洋に輸送されると考えられる.事故周辺地域では健康被害や農林水産物に長期にわたる影響が出ることが懸念されるため,流域におけるCsの動態をモニタリングすることは必須である.既往の研究では,河川水の懸濁物質(SS)濃度とCs濃度の関係性が確認されているが,懸濁態,溶存態等の輸送形態や経年的な流出量の変化に着目した研究は少ない.そこで本研究では,Csの土壌沈着量が異なる福島県飯舘村の2河川を対象とした現地観測を実施し,流域からのCsの輸送形態や流出量の経年変化について考察することを目的とした.福島県飯舘村の北部に位置する真野川,南部に位置する比曽川を対象流域とした(Figure 1).帰還困難区域を含んでいる比曽川流域では,土壌へのCs沈着量が真野川流域より大きい.両地点に各種計測機器を設置し,雨量,水位,流速,濁度の連続測定と採水を行った(Figure 2).観測期間は2013年6月~2016年12月である.降雨時に採水した約1Lの試料は目開き0.42mmのふるいを通過する試料としない試料に分け,それぞれ孔径1μmのガラス繊維濾紙で吸引濾過し,SS濃度およびCs濃度(降雨時懸濁態)を測定した.なお,一部の試料は2mm,0.42mm,0.072mmのふるいを用い,粒度別に分けて測定した.また,無降雨時に約20Lの採水を行い,ガラス繊維濾紙で吸引濾過し,SS濃度およびCs濃度(無降雨時懸濁態)を測定した.さらに,降雨時と無降雨時の採水試料の濾液を蒸発乾固させ,Cs濃度(降雨時溶存態,無降雨時溶存態)を測定した.降雨時の懸濁態試料における137Cs線量の粒径別割合をFigure 3に示した.粘土やシルトなど粒径の小さいものほど137Cs線量が高く,粘土,シルト,細砂成分で約70%以上を占めた.比曽川および真野川における粒径0.42mm以下のSS濃度の関係をFigure 4に示した.土壌へのCs沈着量が大きい比曽川の方が近似直線の傾きが大きかった.また,近似直線の傾きを比較すると,2013年~2016年の間で明確に減少している.このことから,SSに吸着している137Csは年々減少しており,減少率は3年間で79%以上と物理的半減期に基づいた3年間の減少率6.7%と比較し,非常に大きかった.これは雨水に流されやすい細粒成分や有機物に吸着した137Csから選択的に流出したことによると考えられる.137Cs流出量を算出した結果をTable 1に示した.降雨時懸濁態での流出割合は,どの年も両河川で95%以上と最大であった.一方,無降雨時の137Cs流出量は微少となった.また,降雨時,無降雨時それぞれで懸濁態の割合より溶存態の割合が小さかった.各流域における4年間の総137Cs流出量は比曽川で6.9 kBq/m2,真野川で2.1 kBq/m2であり,土壌沈着量の平均値(比曽川:1017 kBq/m2,真野川:421 kBq/m2)と比較すると非常に微少であった.以上のことから,放射性セシウムの流出は,降雨時懸濁態の流出成分が大部分を占めており,細粒成分や有機物に吸着して流出する割合が高いことが分かった.土壌の沈着量に対してCs流出量は微少であり流域内にほとんどが残存している状況下で,Cs流出量は自然崩壊による減少よりも著しく減少した.これは雨水に流されやすい細粒成分や有機物に吸着したCsから選択的に流出したことによると推察される.
著者
恩田 裕一 谷口 圭輔 脇山 義史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

福島原発事故後5年間のモニタリングによって,福島河川中の放射性セシウム濃度は激減した。本発表では,その低下要因および濃度がチェルノブイリより1桁低いことをを紹介する。また,除染の効果についても算定したのでその結果も報告する。
著者
福田 美保 山崎 慎之介 青野 辰雄 石丸 隆 神田 穣太
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

After the accident at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station (FDNPS) happened in March 2011, large amounts of radionuclides including radiocaesium also released from the FDNPS into the terrestrial and marine environments. In marine environment, parts of particulate radiocaesium have transported in seawater and accumulated to seafloor. Then, radiocaesium in sediment have partly re-suspended as particulate form and re-eluted as dissolved form due to several factors such as bottom current and deformation. The characters of seafloor topography are more different in the area off the coast of northern and southern part of Fukushima Prefecture, dividing areas at the Onahama port (Mogi and Iwabuchi, 1961). Because the wave bases in fine and stormy weather are about 20 and 80 m, respectively (Saito et al., 1989), it seems that the area of shallower than 100 m is also affected by erosion and re-sedimentation near seafloor with ocean wave degree. Thus, it is necessary to elucidate interaction for radiocaesium between sediment and seawater close to seafloor with more stations in order to guess radiocaesium activity variation at long times. For example, in the case of collected bottom-layer water with the Conductivity-Temperature-Depth (CTD) system, it is very difficult to collect seawater close to sediment because it is careful not to touch CTD system seafloor. This study was aimed at elucidating the relationship for radioacesium activity concentration between sediment and trapped water on sediment collected using Multiple Corer, which is considered as overlying water.Sediment samples were collected using a Multiple Corer during UM14-04 cruise in May 2014 at three stations: I01 (37°14’N, 141°07’E, water depth:60 m), I02 (37°14’N, 141°13’E, water depth:120 m) and C (36°55’N, 141°20’E, water depth:190 m).Overlying waters were collected using tube for 2 hours later from collected sediment. In laboratory, collected sediment sample are dried and overlying water samples were filtered through a 0.2-μm pore size filter and was concentrated by the ammonium phosphomolybdate (AMP) method (Aoyama and Hirose, 2008). The radiocaesium activity concentrations in each sediment and overlying water samples were measured by gamma-ray spectrometry using a high-purity Ge-detector and corrected to sampling date.In overlying water, the dissolved 137Cs activity concentrations (mBq/l) were 3.1-16 and the activity at I01, I02 and C in order from the higher. In the surface-layer sediments (core depth 0-3cm), the activity concentrations (Bq/kg-dry) were 8.4-286 and the high activities at I01 and I02 have characters of relatively high percentage for silt to clay particle compared to those at C. At I02 and C, the activity in overlying water were same value compared those in bottom-layer of seawater, which collected above water depth 10 m from seafloor. On the other hand, the activity in overlying water at I01 was five time higher than those in bottom water. The calculated Kd’ (L/kg) of apparent distribution coefficient using 137Cs activity concentrations in surface-layer sediment and overlying water were 8.8×102-1.5×104 and within rages of recommended Kd value of 2.0×103 for caesium by IAEA TRS422.This work was partially supported by Grants-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas, the Ministry of Education Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), Japan (nos. 24110004, 24110005) and Research and Development to Radiological Sciences in Fukushima Prefecture.
著者
加藤 弘亮 恩田 裕一 Saidin Zul 山口 敏朗
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

本研究では、福島第一原子力発電所事故後4年間にわたって、森林樹冠に捕捉された放射性セシウムの林床への移行状況の観測を実施してきた。スギ人工林の2林分(31年生壮齢林及び18年生若齢林)とコナラ・アカマツからなる広葉樹混交林を対象として、樹冠通過雨、樹幹流、落葉等に含まれる放射性セシウム濃度を測定した。また、サーベイメータと可搬型ゲルマニウムガンマ線検出器を用いて、林内の異なる高度における放射性セシウムの計数率と空間線量率の測定を行った。調査対象森林において、林内の空間線量率は、樹種や林齢によって異なる特徴的な垂直分布を示した。また、林内空間線量率はいずれの森林においても時間とともに指数関数的な低下傾向を示したが、測定高度や樹種によって異なる低下速度を示した。樹冠(およそ10 m高)の空間線量率は物理減衰速度よりも早く低下したが、林床(1 m高)の空間線量率は調査森林によって異なる低下傾向を示した。本研究の観測結果から、林内空間線量率は樹種や林齢による樹冠から林床への放射性セシウム移行状況の違いを反映して空間的・時間的に異なる時間変化を示すことが示唆された。また、林内空間線量率の低減は、原発事故後4年間(平成23年~26年)とその後の2年間(平成26年~27年)で異なる傾向が認められた。このことから、林内空間線量率の長期変化傾向を予測するためには、林内の放射性セシウムの移行メカニズムと空間分布の時間変化を解明することが必要であることを示した。
著者
新里 忠史 佐々木 祥人 三田地 勝昭
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

はじめに東京電力福島第一原子力発電所事故に由来する放射性物質のうち,Cs-137は半減期が約30年と長く,今後長期にわたり分布状況をモニタリングし,その影響を注視していく必要がある.福島県の約7割を占める森林域については,住居等の近隣の森林や森林内で日常的に人が立ち入る場所での除染等とともに,森林整備と放射性物質対策の総合的な取組みが進められている[1].本論では,山地森林におけるCs-137の流出特性に林床状況が及ぼす影響について,福島県の阿武隈山地に分布するアカマツ-コナラ林での調査結果を報告する. 調査地と手法森林域に降下した放射性セシウムは,降雨を起点とする林内雨や樹幹流及びリターフォールにより林床へ移動し,林床から土壌流出及び表面流に伴い林外へ移動すると考えられる.土壌流出によるCs-137流出は表面流の100倍程度[2]であり,前者に伴う流出がより重要と考えられる.本論では,土壌流出の最初の段階である降雨による土壌粒子の飛散(雨滴侵食)を対象として,斜面下方への放射性セシウム流出量と林床状況の関連を考察する.観測領域は阿武隈山地に分布するアカマツ-コナラ林の西向き斜面であり,面積は約10 m四方である.観測領域にアカマツはなく,平均樹高8 mのミズナラを主体とした落葉広葉樹が分布する.観測領域の斜面上部は下草が繁茂し落葉落枝等のリターが堆積する.斜面下部は,下草が除去されリターの堆積した北側及びリターが除去され裸地状態の南側に分けられる.斜面の傾斜は27~28度の範囲にある.林床状況が異なる以上の3領域において,雨滴侵食で飛散する土壌粒子を回収するためのスプラッシュカップを各領域に5台ずつ設置し,約1ヶ月間の観測を実施した.スプラッシュカップは直径30 cmあり,カップ内側の中央に林床表面が露出した直径10 cmの孔(内部孔)があけられている.内部孔の林床に雨滴があたり土壌粒子が飛散すると,内部孔を円形に取り囲み配置された高さ10 cmのトレイに土壌粒子が回収される.回収トレイは,内部の仕切り板により斜面上方と下方へ飛散する土壌粒子を取り分けられる.スプラッシュカップ外側の林床から土壌粒子が混入することを防ぐため,同カップの周囲約1 m四方に麻布を敷く対策を施した.落葉落枝等のリターによる林床の被覆率は,スプラッシュカップの内部孔における林床表面で計測した.土壌粒子の粒径はレーザー回折式粒径分布測定器により測定した.同カップで回収した土壌は105℃で24時間の乾燥後,Cs-137濃度を測定した.Cs-137流出量は,スプラッシュカップ内部孔の面積,斜面下方へ移動した土壌の重量とCs-137濃度から算出した.Cs-137流出率は,観測領域の近傍における深度20 cmまでの土壌試料の分析値から単位面積あたりのCs-137蓄積量を算出し,その蓄積量に対するCs-137流出量の百分率とした. 結果各観測領域における落葉落枝等のリターによる被覆率は,斜面上部で95.4%,斜面下部の北側で48.2%,斜面下部の南側で5.1%であった.これに伴い1 m2あたりの斜面下方への土壌移動量も異なり,斜面上部で8.5 g,斜面下部の北側で11.3 g,斜面下部の南側で21.2 gであった.移動土壌の粒径分布は,観測領域における林床0-1 cmの土壌粒子と比較し,淘汰が非常に悪くほぼ対称の歪度を示し,粒径に依存した選択的な土壌粒子の移動は確認できなかった.また,土壌のCs-137濃度から求めた1 m2あたりのCs-137流出量は,斜面上部で523 Bq,斜面下部の北側で295 Bq,斜面下部の南側で710 Bqとなった.ここで,斜面上部と斜面下部における1m2あたりのCs-137蓄積量(上部33 kBq,下部101 kBq)との比較からCs-137流出率を算出すると,下草が繁茂しリターが堆積する斜面上部では0.5%,下草がなくリターの堆積した斜面下部の北側で0.9%,下草とリターがなく裸地状態である斜面下部の南側では2.1%となった.以上の結果は,林床の被覆状況が森林域の放射性セシウム流出に関して重要な環境条件であることを示している.また,林床の下草や落葉落枝等のリター除去を行うような森林域での除染活動においては,除染後に下草が繁茂し落葉落枝等が堆積するような環境整備を合わせて実施することが,放射性セシウム移動抑制対策につながることを示すと考えられる. [1]環境省,森林の除染等について.http://josen.env.go.jp/about/efforts/forest.html[2]Niizato et al., 2016, J. Environ. Radiact. 161, 11-21.
著者
津旨 大輔 坪野 考樹 三角 和弘 立田 穣 青山 道夫 広瀬 勝巳
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

A series of accidents at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant (1F NPP) following the earthquake and tsunami of 11 March 2011 resulted in the release of radioactive materials to the ocean by two major pathways, direct release from the accident site and atmospheric deposition. Additional release pathways by river input and runoff from 1F NPP site with precipitation and were also effective for coastal zone in the specific periods before starting direct release on March 26 2011. The activities attributable to the direct release were observed adjacent to the 1F NPP site. The sea side impermeable wall was closed at 26 October 2015. We estimated the direct release rate of 137Cs, 90Sr and 3H for more than four-and-a-half years after the accident by the Regional Ocean Model System (ROMS).Direct release rate of 137Cs were estimated by comparing simulated results and measured activities adjacent to the 1F NPP site (adjacent to 5,6 discharge and south discharge). Direct release rate of 137Cs was estimated to be 2.2 x 1014 Bq/day and decreased exponentially with time to be 3.9 x109 Bq/day by 26 October 2015. Estimated direct release rate have exponentially decreased with constant rate since 4 November 2011. Apparent half-life of direct release rate was estimated to be 346 days. The estimated total amounts of directly released 137Cs was 3.6±0.7 PBq from 26 March 2011 to 26 October 2015. Simulated 137Cs activities attributable to direct release were in good agreement with observed activities, a result that implies the estimated direct release rate was reasonable. Simulated 137Cs activity affected off coast in the Fukushima prefecture.90Sr/137Cs activity ratio of stagnant water was 0.05 in the basement of the 1F NPP reactor 2 turbine building on 27 March 2011. Direct release rate of 90Sr was estimated to be 1.1 x 1013 Bq/day from 26 March to 6 April 2011 using the activity ratio in stagnant water because the stagnant water released to the ocean in this period (Tsumune et al., 2012). And the temporal change of direct release rate was estimated by the measured 90Sr activity adjacent to 1F NPP. Directly release rate decreased exponentially to 3.9 x 1010 Bq/day by 30 April 2011. The direct release rate was constant and decreased exponentially from 27 June to 16 December 2013. And the direct release rate was 2.9 x 109 Bq/day by 26 October 2015. The estimated total amounts of directly released 90Sr was 208 ± 42 TBq.3H/137Cs activity ratio of stagnant water was 8.7 x 10-3 in the basement of the 1F NPP reactor 2 turbine building on 27 March 2011. Directly release rate of 3H was estimated to be 1.9 x 1012 Bq/day from 26 March to 6 April 2011 and decreased exponentially by 16 April 2011. The rate was decreased exponentially with constant rate by 26 October 2015. The direct release rate was estimated to be 7.7 x 109 Bq/day at 26 October 2015. The estimated total amounts of directly released 3H was 131 ± 26 TBq.
著者
森 也寸志 林 匡紘 稲生 栄子 登尾 浩助
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

東日本大震災によって,福島第一原子力発電所から放射性物質が漏れ・拡散が起こった。事故から数年経った現在では,環境中に放出された放射性物質が土壌中を降下し,根から植物に吸収される事が危惧されている。土壌に降下した放射性セシウムは粘土鉱物に強く吸着されているが,有機物含量の多い土壌では,粘土鉱物を多く含む土壌に比べて放射性セシウムとの吸着が弱く,植物へ吸収されやすいと考えられる。根群域にある放射性セシウムは農作物に吸収される可能性があるため,もし,迅速に根群域を超えて下方に浸透させ,鉱物層に吸着させられるのであれば有利である。そこで,本研究では有機質土壌であるピートモスを植栽とするブルーベリーを対象とし,ポットでの放射性セシウムの移動実験を行った。特に,下方浸透に効果があるとわかってきた疑似間隙構造である人工マクロポアを使って表層に存在する放射性セシウムを根群域下まで輸送する可能性を検証した。ポットの底から黒ボク土5cm,ピートモス10cm,汚染土壌(1925 Bq/kg)5cmを詰めたものを6個準備し,「無施肥区・人工マクロポアなし」,「無施肥区・人工マクロポアあり」,「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアなし」,「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアあり」,「塩化カリウム施肥区・人工マクロポアなし」,「塩化カリウム施肥区・人工マクロポアあり」とした。土壌に吸着した放射性セシウムを溶出させることを目的に硫酸アンモニウム(15g/ポット)を,また,ブルーベリーによる放射性セシウムの吸収抑制を目的に塩化カリウム(30g/ポット)施肥した。毎日0.76L/dayの灌水をおこない,実験開始から1年4ヶ月後に実験を終了とし,ポットを分解し,放射性セシウムを計測した。「無施肥区・人工マクロポアなし」「無施肥区・人工マクロポアあり」では放射性セシウムは汚染土層から僅かに下方に移動した。人工マクロポアの周辺でも放射性セシウムの移動は5-10cm層までであり,人工マクロポア周辺と周辺以外での深度別放射能濃度の分布の違いはみられなかった。「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアなし」では,わずかに下方移動が見られたが,一方でブルーベリーの葉から放射能が検出され,下方に移動した放射性セシウムがブルーベリーに吸収された可能性が考えられた。「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアあり」では5-7.5cm層での放射能濃度が1000Bq/kgを超えており,無施肥区や「硫安区・人工マクロポアなし」に比べて高い値となっている。また,0-5cm層よりも5-7.5cm層のほうが放射能濃度が高い値となっており,人工マクロポアの効果によって放射性セシウムの下方移動が促進されたと考えられる。ただし,同様に植物体から放射能が検出された.また,人工マクロポア周辺の結果を見ると10-15cm層で200Bq/kg を超え,15-20cm層でも87.2Bq/kg放射性セシウムが検出された。他の区に比べて高い放射能濃度が下層で計測されており,すなわち,人工マクロポア周辺では下方浸透促進効果が大きいと判断できる。硫酸アンモニウムの施肥だけでは下方浸透促進効果がみられなかったが,人工マクロポアと組み合わせることで下方促進効果が大きくなったと考えられる。なお,塩化カリウム施肥は移動にはあまり効果がなかったが,植物体から放射性セシウムの検出はなく,植物体への吸収抑制をすることがわかった。ここから放射性セシウムの効果的な移動には,溶出・移動・吸収抑制のプロセスが必要であると推察できる。しかし,根群域下(黒ボク土層)への移動はあまりみられず,今後は硫酸アンモニウムと塩化カリウムを同時施用して,より効果的な移動と吸収抑制を同時に行うことを検討していきたい。
著者
神林 翔太 張 勁 成田 尚史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

陸域から海洋への放射性セシウム(Cs)の供給源として河川水以外に海底地下水湧出(Submarine Groundwater Discharge: SGD)の存在が指摘されている。しかし,採取が容易な河川水に対し,SGDは一般的に目に見えない現象であるため試料採取が困難であり、これまで定量的な評価が行われていなかった。本研究では,汽水湖「松川浦」で収集した海底堆積物中の間隙水の化学分析を通じてSGDを含めた陸域から沿岸域への放射性Csの流入量を見積もることを目的とした。間隙水及び同地点の直上水に含まれる137Cs濃度はそれぞれ1,398 mBq/L, 117.7 mBq/Lであった。この結果は,海底堆積物から間隙水中に有意な量の放射性Csが溶脱していることを示している。また,フィックの法則を用いてフラックスの計算を行った結果,堆積物表層から直上水へ11.3 mBq/cm2/hの137Csの逸出が起きる事が推定された。さらに,本研究で得られた堆積物-間隙水間の分配比と松川浦の表層堆積物に含まれる137Cs濃度の平均値を用いて湖水中に逸出される137Cs フラックスを見積もると0. 08 GBq/dayと推定され,松川浦に供給される137Csの大部分を占めていることが明らかになった。本研究の結果から,沿岸海域には海水が海底下に潜り,堆積物間隙水の逸出という形で再び海洋へと流出する再循環水(Recycled Submarine Groundwater Discharge: RSGD)によって多量の放射性Csが供給されており,今後,沿岸海域や外洋における放射性Csの評価に供給源としてSGDを把握する重要性が示唆された。
著者
前原 裕之 野津 湧太 野津 翔太 行方 宏介 本田 敏志 石井 貴子 野上 大作 柴田 一成
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

Recent space-based observations (e.g., Kepler mission) enable us to investigate the nature of “superflares” on solar-type stars (G-type main sequence stars). The bolometric energy of superflares ranges from 1033 erg to 1036 erg which is 10-104 times larger than that released by a typical X10 class solar flare. Most of the stars with superflares show large-amplitude photometric variations associated with the stellar rotation which suggest that the stars with superflares have large starspots. Spectroscopic studies of superflare stars revealed that the chromospheric activity correlates with the amplitude of brightness variations.We analyze the correlation between starspots and superflares on solar-type stars using the data from the Kepler mission. Our analysis shows that the fraction of the stars showing superflares decreases as the rotation period increases and as the amplitude of photometric variations, which is thought to correlate with the area of starspots, decreases. We found that the fraction of superflare stars among the stars with large starspots also decreases as the rotation period increases. This suggests that some of the slowly-rotating stars with large starspots show a much lower flare activity than the superflare stars with the same spot area and rotation period.Assuming simple relations between spot area and life time and between spot temperature and photospheric temperature, we compared the size distribution of large starspots with the area of >104 MSH (micro solar hemispheres; 1 MSH=3x1016 cm2) on slowly-rotating solar-type stars with that of sunspot groups. The size distribution of starspots shows the power-law distribution and that of larger sunspots lies on the same power-law line. The size distribution of spots from the Kepler data suggests that the average appearance frequency of the starspots with the area of >3x104 MSH on the solar-type stars with the rotation period similar to that of the Sun is once in a few hundred years.We also found that the frequency-energy distributions for flares originating from spots with different sizes are the same for solar-type stars with superflares and the Sun. These results suggest that the magnetic activity on solar-type stars with superflares and that on the Sun is caused by the same physical processes.
著者
野津 翔太 野村 英子 Walsh Catherine Eistrup Christian
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

原始惑星系円盤(以下、‘円盤’) 内では凍結温度の違いにより、分子種(e.g., H2O, CO, HCN, CO2)ごとにスノーラインの位置は異なると考えられる。その為、円盤ガス・ダスト中のC/O比は、中心星からの距離に応じて変化すると考えられる。例えばH2Oスノーラインの外側では、多くの酸素がH2Oの形でダスト表面に凍結する一方、炭素の多くはCOなどの形で円盤ガス中に留まるので、ガス中でC/O比が大きくなる。また、近年太陽系外ガス惑星大気のC/O比が見積もられ始めているが、観測されたホットジュピターの中にはC/O~1 のガス大気を持ち、円盤外側での形成・大気獲得を示唆するものも存在する (e.g, Madhusudhan et al. 2011)。この様に円盤と惑星大気のC/O比を比較する事で、惑星大気獲得・移動の過程に制限を加えられる事が検討されている (e.g., Oberg et al. 2011, Eistrup et al. 2016)。これまで我々は、円盤の化学反応ネットワーク計算と放射輸送計算の手法を用いて、円盤内のスノーライン位置とC/O 比の分布や、それらを同定するのに適した分子輝線(赤外線~サブミリ波)の調査を進めてきた (e.g., Notsu et al. 2016, ApJ, 827, 113; 2017, ApJ, 836, 118)。今回我々は、まずGuillot et al. (2010, A&A, 520, A27) の手法を用いて、中心星からの照射で決まる系外ガス惑星大気の放射平衡な物理構造を計算した。その上で、系外惑星大気の化学構造と惑星形成環境の関係を探るべく、中心星からの距離、およびC, O, Nの元素組成比などを様々に変えた場合について、系外ガス惑星大気の化学平衡計算を行っている。その結果、大気温度が減少するとCH4の組成が増加する傾向が見えた。また同様の大気物理構造の場合でも、C/O比が太陽の値に比べて高くなると、大気下部でCH4, HCN などの組成が増加する事などが見えてきた。講演では、現状の計算結果を紹介した上で、観測で得られた系外ガス惑星大気の化学構造との関連についても簡単に議論する予定である。
著者
渡辺 満久
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1.はじめに下北半島北西部においては、南へ傾動するような地殻変動が進んでおり、MIS 5eの旧汀線高度は大間岬付近では約60m、約10km南方の佐井周辺では約20mまで低下している(渡辺ほか、2012、活断層研究、No.36)。このような高度変化は、四国の室戸岬に見られるものに匹敵し、日本では最大級のものである。また、大間岬周辺には、間欠的隆起が起こっていることを示す隆起ベンチも認められ、その高度も北ほど高い。このような地殻変動をもたらす原因として、大間の北方海域から下北半島北西部の地下へと連続する、低角度の活断層の活動が想定されている(渡辺ほか、2012)。大間原子力発電所は、このような地殻変動が進行している地域の北端部(最も隆起が大きい地域)において建設が進められようとしている。発表者らが上記の事実を指摘するまで、事業者(電源開発)と当時の評価組織は、異常な隆起現象を認識していなかった。現在、事実関係は概ね認めてはいるが、その原因は定常的で緩慢な隆起運動であり、地震性隆起を否定している。しかし、過去80年間の水準点測量結果によれば、そのような地殻変動は進行していないことが明らかにされている(渡辺ほか、2012)。本発表では、大間原子力発電所の敷地内には、多数の「将来活動する可能性のある断層等」が存在することを報告する。現地調査には、平成25~27年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)の一部を使用した。2.将来活動する可能性のある断層等大間原子力発電所建設敷地には、MIS 5eとMIS 5cに形成された海成段丘面が分布している。これらの段丘堆積物の基盤を成すのは、後期中新統の易国間層である。易国間層中には、S-10断層・S-11断層・cf-1断層などが確認でき、後期更新統の海成段丘堆積物を変形させている。S-10断層は、電源開発がシームS-10と呼んでいるものであるが、これに沿って変位が生じていることは明らかであり、ここではS-10断層と呼ぶ。S-10断層は、易国間層中の層面すべり断層であり、MIS 5cの段丘堆積物を切断して(変形させて)いる。複数の活動履歴が読める可能性がある。 S-11断層は、S-10断層と同様に、電源開発がシームS-11と呼んでいる断層である。S-11断層も、易国間層中の層面すべり断層であり、MIS 5cの段丘堆積物を切断して(変形させて)いる。電源開発は、変位が生じていることは認めているものの、それらは岩盤の強風化部の変状であるとしている。ただし、そのメカニズムは不明である。cf-1断層は、易国間層を切断する断層である。MIS 5c以降には活動していないことは確認されているが、MIS 5e~MIS 5cの間の活動の有無は確認されていない。また、cf-1断層は、上述のS-10断層を切断している。なお、電源開発の図面では、易国間層上部を切断するcf-1断層が、上部層と下部層の境界で突然消滅するように描かれている。その他、易国間層を切断する、E29断層・E33断層などがあり、MIS 5eの段丘堆積物を切断して(変形させて)いる。3.地盤の安定性上記したように、大間原子力発電所敷地内には、多数の「将来活動する可能性のある断層等」が存在している。S-10は、原子炉予定地の直下、10~20mの位置にある。いくつかの施設は、S-11やE-29などの断層を掘削して建設するように見える。コントロール建屋は,cf-1断層の直上にある。このような不安定な地盤に原子力施設を建設することは合理的であるとは思えない。原子力施設は、理学的に健全な土地を選び、工学的に安全に建設すべきである。なお、電源開発の図によれば、断層の上盤を除去すれば施設への影響を取り除ける、という考えが読み取れる。本当にそれでよいのだろうか?
著者
野津 翔太 野村 英子 本田 充彦 廣田 朋也 秋山 永治 Walsh Catherine Millar T.J.
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

原始惑星系円盤(以後、"円盤")において、中心星近傍では高温のためH2Oはダスト表面から脱離し気体となるが、遠方では低温のためダスト表面に凍結する。この境界がH2Oスノーラインであり、ダストの合体成長で惑星を作る際、H2Oスノーラインの内側では地球型の岩石惑星が形成される。一方外側ではダストの総量が増加する。このため重力で周りのガスを大量に集める事が可能となり、木星型のガス惑星が形成される (Hayashi et al. 1981, 1985)。そのためH2Oスノーラインを観測的に同定する事は、微惑星・惑星形成過程や、地球上の水の起源を考える上で重要である。太陽質量程度の前主系列星(T Tauri星)周りの円盤の場合、円盤赤道面におけるH2Oスノーラインは、中心星から数auの位置に存在する。しかし、撮像観測によってこの様な円盤のH2Oスノーラインを検出する事は、空間分解能が足りない為に困難である。一方で円盤はほぼケプラー回転している為、円盤から放射される輝線はドップラーシフトを受け広がっている。この輝線のプロファイル形状の解析から、輝線放射領域の中⼼星からの距離の情報が得られる。そこで本研究(Notsu et al. 2016, 2017)では、数値計算の結果に基づき、H2O輝線プロファイルの観測から円盤内のH2O分布、特にH2Oスノーラインを同定する方法を提案する。具体的にはまず円盤の化学反応ネットワーク計算を行い、H2Oの存在量とその分布を調べた。この際、中心星にT Tauri星 (Tstar~4,000K, Mstar~0.5Msun) とHerbig Ae星 (Tstar~10,000K, Mstar~2.5Msun) を考えた2つの円盤物理構造モデルを用いた。するとH2Oスノーラインの内側の円盤赤道面付近だけでなく、円盤外側の上層部高温領域や光解離領域でもH2Oガスの存在量が多い事が分かった。またその計算結果を元に、円盤から放出されるH2O輝線のプロファイルを多数の輝線について計算した。その結果、アインシュタインA係数(放射係数)が小さく(~10−6−10−3 s−1)、エネルギーが比較的高い(~1000K) 輝線のプロファイルを高分散分光観測で調べる事で、H2Oスノーラインを同定できる可能性がある事が分かった。そして、この様な特徴を持つH2O輝線が、中間赤外線からサブミリ波までの幅広い波長帯に多数存在し、その強度は波長が短い程大きい事が分かった。更に、Herbig Ae円盤の方がT Tauri円盤に比べ中心星の温度が高くH2Oスノーラインの位置が中心星から遠い事から、スノーラインを同定しうるH2O輝線の強度が大きくなる事が分かった。本発表ではこれらの解析結果を紹介した上で、今後のALMA観測でのH2Oスノーラインの同定可能性について議論を行う。また、最近新たにALMA band 5 領域のH2O輝線の計算も行っており、その結果も併せて紹介する予定である。参考文献:Notsu, S., et al. 2016, ApJ, 827, 113 Notsu, S., et al. 2017, ApJ, 836, 118
著者
山崎 新太郎 片岡 香子 長橋 良隆
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

沿岸域や浅水域では過去に大地震に伴う数百から数千m2以上の大規模な崩壊や地すべりが発生している.これは水で飽和した地質が大地震により液状化したり破壊されたりすることにより強度を失うことで発生するものと考えられる.しかし,近年の大地震により大規模に沿岸域が崩壊・喪失した事例や,その痕跡として浅水域に地すべり地形が確認されたものは,液状化の発生事例数やその範囲に比べると明らかに小さい.沿岸域や浅水域における大規模崩壊や地すべりの発生には,加えてさらに特異な条件が必要であることが示唆される.沿岸域には人口が集中し,もし沿岸―浅海域における大規模崩壊の条件を理解することができれば,特に地震時の危険性に注意を払うべき場所が明確になるだろう.本講演でとりあげる福島県・猪苗代湖では,その沿岸に地すべりの地形であることを示す馬蹄形滑落崖と,それから伸びた舌状地形が複数認められる.この状況の存在は猪苗代湖が前述のような大規模崩壊を発生させやすい特異な条件を備えていることを強く示唆し,それを地質学的かつ地盤工学的に詳しく検討すれば,前述した地すべりの発生条件の解明に繋がるものと思われる.筆者らは,2015年と2016年の2カ年に渡って3.5 kHzサブボトムプロファイラによる音響地質構造探査を,のべ120 kmに渡って猪苗代湖全域を網羅するように実施した.この音響地質構造データと,2012年に福島大学が猪苗代湖湖心部で湖成堆積物を貫通するように採取した約28m長のコア(INW2012コア)との対比を行った.その結果,湖底における斜面の安定性と地すべりについて特に得られた知見を以下に3つ列挙する.1)猪苗代湖の湖心より南部の水域において湖形成以降の湖底堆積物の全体の音響地質断面画像が得られた.同水域の底質は全域に渡って一貫した成層構造であり,層内に水平に連続して認められた強反射層の一部はINW2012コアに認められた広域テフラ層準と一致していた.また,湖底堆積物底面には湖形成以前の砂礫層と位置する反射が認められた.この湖心から南部の水域では湖成層が安定的に堆積してきたものと思われる.一方で湖の北部では湖底最表層での音響の減衰が大きいため下方の構造を認識できなかった.おそらく,北部では磐梯山の火山活動及び長瀬川の流入による砂礫成分の流入が活発であるため最表層での音波の反射と減衰が大きいと思われる.従って北部に認められる大規模な地すべり地形は粗粒の堆積物の下位に存在すると思われる.2)得られた音響地質断面画像では,ほぼ全てに渡って,無構造な堆積物であることを示す音響的透明相が頻繁に認められた.これらは猪苗代湖の湖成層内では,流体またはガスの噴出がこれまでに複数繰り返されてきたことを示唆し,湖成層がこれまでに複数の地震の影響を受けてきたことを示すと考えられる.特にその密度は湖心部で約13 m下から湖成層底部までの区間で高い.この深度は浅間火山起源のAs-Kテフラ層準(18, 100年前;廣瀬ほか2014)より1 m下である.この深度は約2万年前に相当し,この時期に猪苗代湖の周辺で大地震が発生した可能性がある.3)猪苗代湖南部を起源とする長さ2.8 km,最大厚さ約25 mの大規模な湖底地すべりを示す地質構造が発見された.この地すべりは前述のAs-Kの約1 m下に存在し,この湖底地すべりの主たる運動は,塊状移動体の滑動によるものである.地すべりは0.8度の傾斜を持つすべり面で発生し,下方末端には約1 kmに渡って複数のスラストと褶曲を伴って衝突変形している様子が観察できた.この地すべりは音響探査により地層の変形構造とすべり面が追跡できた貴重な例であり,今後,この地すべり体を直接掘削し,その地質と構造および材料的な地震に対する反応性の面から分析すれば,沿岸域や浅海域で崩壊・地すべりが発生する条件の解明に迫れるものと思われる.<文献>廣瀬孝太郎・長橋良隆・中澤なおみ(2014)福島県猪苗代湖の湖底堆積物コア(INW2012)の岩相層序と年代.第四紀研究,日本第四紀学会,157-173.
著者
加納 靖之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

歴史地震の研究において,ある地震の有無(実在・非実在)や発生日時の認定は,もっとも基本的な作業といえる.しかしながら,文書の作成時から現代にいたる伝来(特に書写)の過程や,現代における解読や解釈などの各場面において,日時の取り違えが発生しうる.ここでは,規模が比較的小さい地震もふくめ,日時の取り違えのある地震を取りあげ,修正案を提示する.日時の取り違えは,次のような場合に発生すると考えられる.(1)史料そのものが違っている場合,(2)自治体史などの編集時に間違えた場合,(3)史料集の編集時に間違えた場合.(1)の史料そのものが違っている場合に該当するのは,天保二年の会津の地震である.これについては,史料が1点だけの場合,間違いの可能性に気づくことは困難である.史料の記述そのものに矛盾がないかを丁寧に検討することにより,あるいは,同じ日に複数の史料があれば,相互に矛盾がないかを検討することにより,間違いをみつけることができる可能性がある.(2)の自治体史などの編集時に間違えた場合に該当するのは,飛越地震の際の『天保一五年(弘化元年)御林山内取調箇所附帳』の扱いである.これは(1)と同様に記事そのものから間違いに気づくことは難しい.しかしながら,原史料にもどって検討できれば,記述を訂正することができ,それにより地震についての正しい情報を得られる可能性がある.(3)の史料集の編集時に間違えた場合には,宝永地震についての『南牟婁郡誌』の記事,享保の『月堂見聞集』の京都の地震,享和の畿内・名古屋の地震,文政の中部・近畿の地震,天保の佐賀の地震,善光寺地震の際の越後高田の記事が該当する.日記の省略部分を補う際に生じた年月日の取り違えが多い.本文はきちんと解読できており,場合によっては,史料集の他の部分に同文で収録されているにもかかわらず.編集の際に,いわば勘違いにより別の日付のところに入ってしまったものもあると考えられる.日付に関しては,干支でかかれることも多く,年月日との対応を確認することで間違いを防ぐことができるだろう.年月日の取り違えによって,単に発生年月日が間違って認定されるだけでなく,場合によっては実在する地震が複製されて,実在しない地震として認定されてしまうことがある.『月堂見聞集』に書かれた複数の地震や1847年2月15日の越後高田の被害のような例である.これらの間違いを放置すると,地震活動度を過大評価してしまう可能性がある.特に,無被害の中小地震もふくめた有感地震の活動度を検討するような場合,結果に大きく影響する可能性がある.
著者
岩渕 弘信 岡村 凜太郎 Sebastian Schmidt
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

Estimation of cloud properties such as the cloud optical thickness and effective droplet radius is usually based on the independent pixel approximation (IPA) assuming a plane-parallel, homogeneous cloud for each pixel of a satellite image. Prior studies have pointed out that horizontal and vertical inhomogeneities produce significant errors in the retrieved cloud properties. The observed reflectance at each pixel is influenced by the spatial arrangement of cloud water in adjacent pixels, which necessitates the consideration of the adjacent cloud effects when estimating the cloud properties at a target pixel. We study the feasibility of a multi-spectral, multi-pixel approach to estimate the cloud optical thickness and effective droplet radius using a deep neural network (DNN), which is a kind of machine-learning technique and has capabilities of multi-variable estimation, automatic characterization of data, and non-linear approximation. A Monte Carlo three-dimensional radiative transfer model is used to simulate the reflectances with a resolution of 280 m for large eddy simulation cloud fields in cases of boundary layer clouds. Two retrieval methods are constructed: 1) DNN-2r that correct IPA retrievals using the reflectances (from 3D simulations) at 0.86 and 2.13 µm and 2) DNN-4w that uses the so-called convolution layer and directly retrieve cloud properties from the reflectances at 0.86, 1.64, 2.13 and 3.75 µm. Both DNNs efficiently derive the spatial distribution of cloud properties at about 6×6 pixels all at once from reflectances at multiple pixels. Both DNNs outperform the IPA-based retrieval in estimating cloud optical thickness and effective droplet radius more accurately. The DNN-4w can robustly estimate cloud properties even for optically thick clouds, and the use of a convolution layer in the DNN seems adequate to represent three-dimensional radiative transfer effects.
著者
片岡 章雅 塚越 崇 百瀬 宗武 永井 洋 武藤 恭之 デュルモンド コーネリス ポール アドリアーナ 深川 美里 芝居 宏 花輪 知幸 村川 幸史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

原始惑星系円盤内において合体成長中のダストのサイズを観測的に測定することは惑星形成の理解を進める上で重要である。我々は、従来とは全く独立な手法として、ミリ波偏光観測によるダストサイズ制限を理論的に提案した。これは、ダストの熱放射が別のダストによって再び散乱されることによっておこる偏光が、輻射場の異方性のために観測されることを利用する。我々は、実際にALMA望遠鏡を用いて原始惑星系円盤 HD 142527 を観測し、後期段階の原始惑星系円盤からのミリ波における偏光を初めて検出した。更に、偏光ベクトルの向きから、我々が提唱した散乱偏光の証拠を捉えることに成功した。このことから、ダストの最大サイズは150ミクロン程度であることがわかった。この一連の研究は惑星形成過程におけるダスト成長に対する制限が飛躍的に向上することを示唆しており、今後のALMA偏光観測による惑星形成研究の更なる盛り上がりが期待される。
著者
齊藤 雅典 岩渕 弘信 Yang Ping Tang Guanglin King Michael Sekiguchi Miho
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

Microphysical properties and ice particle morphology of cirrus clouds are important for estimating the radiative forcing associated with these clouds. Many satellite measurements allow us to estimate the cloud optical thickness (COT) and cloud-particle effective radius (CER) of cirrus clouds over the globe via multiple retrieval methods such as the bi-spectral method using visible and near-infrared cloud reflectivities, the split-window method using thermal infrared brightness temperatures and the unconstrained method using lidar signals. However, comparisons among these retrievals exhibit discrepancies in some cases due to particular error sources for each method. In addition, methods to infer ice particle morphology of clouds from satellite measurements are quite limited. To tackle these current problems, we develop an optimal estimation based algorithm to infer cirrus COT, CER, plate fraction including horizontally oriented plates (HOPs) and the degree of surface roughness from the Cloud Aerosol Lidar with Orthogonal Polarization (CALIOP) and the Infrared Imaging Radiometer (IIR) on the Cloud Aerosol Lidar and Infrared Pathfinder Satellite Observation (CALIPSO) platform. A simple but realistic ice particle model is used, and the bulk optical properties are computed using state-of-the-art light-scattering computational capabilities. A rigorous estimation of the uncertainties related to the surface properties, atmospheric gases and cloud heterogeneity is performed. A one-month global analysis for April 2007 with a focus on HOPs shows that the HOP fraction has significant temperature dependence and therefore latitudinal variation. Ice particles containing many HOPs have small lidar ratio due to strong backscattering. The lidar ratio of cirrus clouds has a negative correlation with the temperature where the cloud temperature is warmer than −40℃, for which the median HOP fraction is larger than 0.01%.
著者
島崎 邦彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

或る経過を辿ることから、日本の原子力発電と地球科学界との関係についての討議材料を提供したい。筆者は2014年9月に原子力規制委員を退任した後、震源の規模を表す地震モーメントと断層面の形状、すなわち長さや面積との関係(以下では、その例示として入倉・三宅(2001)式をあげ、(ア)式とよぶ)について調査を行った。国交省による日本海の「最大クラス」の津波(日本海における大規模地震に関する調査検討会, 2014)が、武村(1998)式ではなく(ア)式を用いて決められたからである。原子力発電所の基準津波の設定には通常、武村式が用いられるので、なぜ(ア)式なのかという疑問を抱いた。最大の問題は、これらの経験式が地震後に得られたパラメター間の関係を示しているにも関わらず、地震発生前の地震モーメント推定に使われていることである。また、西日本に多い垂直な断層では、断層面積から(ア)式によって地震モーメントを推定すると、他の式と比べて小さな値となる。地震発生前に得られるパラメターを用いた場合には、過小評価となることがわかった(島崎, 科学, 86(7), 0653, 2016)。2015年のJpGUでこれらの結果の一部を筆者が発表したところ、大飯原子力発電所3, 4号機運転差止請求の控訴審で原告側がその結果を引用し、(ア)式を用いたため基準地震動が過小評価されていると主張した。これに対し、被告側は断層の捉え方が全く異なるもので、主張は不適切であるとした。議論の対象となっている断層はFO-A〜FO-B〜熊川断層と呼ばれ、国交省の「最大」津波の断層モデルF53に対応する。断層F53の地震モーメントが過小となっているという筆者の2015JpGUの結論は、大飯原発の基準地震動の断層モデルにも適用される。2016年6月2日筆者はこの旨、陳述書を裁判所に送った。この報道により原子力規制委員長らは筆者との面談を求め、その結果、6月20日の規制委員会で(ア)式からの地震モーメント推定をせずに、大飯原発の強震動再計算を行うこととなった。7月13日の規制委員会で再計算結果が示され、基準地震動の範囲に収まっているとし、この問題は打ち切られた。筆者が検討したところ、提示された資料には計算結果を担保すべき比較対象が含まれていないこと、不確かさの考慮がされていないことなどの不備があり、これらを考慮すると基準地震動を超える結果が予想され、これを公表した。二度目の面談後、規制委は20日、27日の委員会で検討し、再計算は無理なパラメター設定で行われたとして事実上取り消し、もとのままで問題ないとした。2016年10月の地震学会では熊本地震の断層パラメターについて多くの講演が行われた。地震発生前に震源断層を推定することは困難であり、地震本部の強震動予測手法で「レシピ」の(ア)、すなわち地震前に推定された震源断層面積から(ア)式により地震モーメントを推定すると過小評価になるが、「レシピ」(イ)、すなわち断層長から松田(1975)式で地震モーメントを推定する方が実際に近い値となることを纐纈(2016, 地震学会S15-06)は示した。大飯原発では、基準地震動設定のために行われた詳細な調査結果に基づいたとして「レシピ」(ア)を用いている。地震本部では6月10日に公表した強震動予測手法(「レシピ」)について検討が行われ、12月9日に次のような修正が公表された。「レシピ」(イ)の説明が、「地表の活断層の情報をもとに簡便化した方法で震源断層を推定する場合」から「長期評価された地表の活断層長さ等から地震規模を設定し震源断層モデルを設定する場合」へ、「レシピ」(ア)の説明が、「過去の地震記録などに基づく震源断層を用いる場合や詳細な調査結果に基づき震源断層を推定する場合」から「過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源モデルを設定する場合」へ。『週刊東洋経済』(2017.1.21)によると、規制庁の岩田順一安全規制管理官付管理官補佐は「誤解を持たれないように補足が加わっただけで、中身はほとんど変わっていない」ととらえている。