著者
原口 悟 上木 賢太 桑谷 立 吉田 健太 モハメド 美香 堀内 俊介 岩森 光
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2017年のJpGU-AGU(原口ほか,2017)で、日本国内出版文献に掲載されている地球化学データのコンパイルを行うデータベース「DODAI」を報告した。前回報告以降もデータ収集を継続し、2017年末までに224論文5818サンプルの化学データをコンパイルした。今回、これらのデータ収集を通して明らかになった、「フォーマットの統一」に関連する問題点を以下に3点報告する。1つ目は、化学組成の分析に当たって、多くの「分析装置」による様々な「分析手法」が用いられていることである。主要元素は、1970年代までは「湿式分析」が主流であったが、1980年代に入って「XRF」が急速に広まった。この過程で、従来鉄はFe2+ (FeO)とFe3+ (Fe2O3)を分けて分析されていたのが、全FeOまたはFe2O3に一本化する分析に移行した。現在でも全岩化学組成のFe2+とFe3+を分けて分析する手法は湿式分析だけであり、主要元素をXRFで分析していても、Fe2+だけを湿式分析で分析することが行われている。このような鉄の分析のバリエーションが地球化学データベースに含まれていることには注意を要する。2つ目は、分析される微量元素の組み合わせが分析機関により様々なことである。微量元素の分析は、現在ではXRFの他、ICP-MS等の質量分析装置を用いた方法、INAA等の放射化分析等が使われている。XRFは分析が簡便であるため、多くの機関で主要元素とともに分析が行われているが、分析元素の選択が機関・目的により様々である。ICP-MS, INAAは高精度の分析が可能で、多くの微量元素を網羅的に分析することが可能であるが、全ての元素をカバーする分析を恒常的に実施する例が少なく、データ数が少ない。このため、データベースを利用した多変量解析に用いる元素の組み合わせによっては、解析に使用できるサンプル数が激減することがありうる。3つ目は、研究が行われた時期、および研究者が専門とする分野によって地質の解釈が変化することである。例えば、四万十帯に代表される「付加体」の地質構造は、「付加体地質学」の導入により、形成過程の理解が急速に進んだが、個々の岩体の記載は、付加体地質学導入以前の研究に基づくものと、付加体地質学に基づいた新たな解釈によるものがあり、現在でも両者が混用されている。また、付加体中の海洋プレート起源の火山岩は、弱変成作用を受けているため、「緑色岩」とも呼ばれるが、研究者によって「火山岩」「変成岩」と見方が異なっている。シームレス地質図統一凡例(産総研,2015)のように,これらの見方を統一する試みもあるが,依然としてこのような様々な「解釈の違い」が地球化学データに含まれることはコンパイルを行う上での注意点である。本報告では、これらの「フォーマットの不統一」に関係する地球化学データベースが含む問題を取り上げるとともに、不統一の解消を図る方法について考えたい。
著者
Badri Bhakta Shrestha Yusuke Yamazaki Daisuke Kuribayashi Akira Hasegawa Hisaya Sawano Yoshio Tokunaga
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

The Chao Phraya River basin is the largest river basin of Thailand and it is located in the tropical monsoon climate region with basin area of 160,000 km2. The Chao Phraya delta is a major rice production area and often experiences large flood events, which may result in widespread rice-crops damage, as most recently recorded in 2011 and 2006 floods. The flood damage is also expected to increase more in future. It is thus necessary to assess flood damage to agriculture areas for future floods considering climate change impact for implementing effective preventive measures. This study focused on assessment of future flood damage to agricultural sector (rice crops) under climate change in the Chao Phraya River basin. Flood hazard characteristics such as flood depth and flood duration were computed using rainfall runoff inundation model (RRI Model). Flood damage to rice crops was defined as a function of flood depth, duration and growth stage of rice plants. For the assessment, satellite based data such as HydroSHEDS (SRTM) topographical and global land cover data were used. First, assessment of flood damage to agriculture sector was conducted for 2011 flood. The flood damage curves developed by ICHARM were applied to assess the flood damage to rice-crops, and the comparison results between calculated damage and reported damage for 2011 flood were reasonably agreeable. The calculated results of rice crop using ICHARM's damage curves were also compared with the damage estimated using flood damage curve developed by MRCS (Mekong River Commission Secretariat). Then, flood damage assessment was conducted for both present climate (1979-2003) and future climate (2075-2099) conditions using MRI-AGCM3.2S precipitation dataset. Frequency analysis was conducted using rainfall volume to identify flood hazard intensity for 50- and 100-year return period under present climate and future climate conditions, and flood damage was assessed for both return period cases with different rainfall patterns chosen from each climate scenario. The results obtained from the damage assessment were compared for worst cases and found that economical loss in agriculture sector due to flood can increase in the future by 15 % and 16 %, in the case of 50-year flood and 100-year flood, respectively. The agricultural damage areas can increase in the future by 13 % in the both flood scale cases. The results of the flood damage assessment in this study can be useful to implement flood mitigation actions for climate change adaptation.
著者
Lucile Bruhat Paul Segall
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Most geodetic inversions of surface deformation rates consider the depth distribution of interseismic fault slip-rate to be time invariant. However, some numerical simulations show down-dip penetration of dynamic rupture into regions with velocity-strengthening friction, with subsequent up-dip propagation of the locked-to-creeping transition. These models are particularly attractive to investigate the discrepancy between geodetically- and seismically-derived locking depths.Recently, Bruhat & Segall (GJI, 2017) developed a new method to characterize interseismic slip rates, that allows slip to penetrate up dip into the locked region. This simple model considers deep interseismic slip as a crack loaded at constant slip rate at the down-dip end. It provides analytical expressions for stress drop within the crack, slip, and slip rate along the fault. These expressions make use of an expansion of the slip distribution in Chebyshev polynomials, with a constraint that the crack-tip stress be non-singular. The simplicity of the method enables Monte Carlo inversions for physical characteristics of the fault interface, establishing a first step to bridge purely kinematic inversions to physics-based numerical simulations of earthquake cycles.This study extends this new class of solution to strike-slip fault environment. Unlike Bruhat & Segall (2017) which considered creep propagation in a fully elastic medium, we include here the long-term deformation due to viscoelastic flow in the lower crust and upper mantle. The surface predictions greatly change when including potential viscoelastic deformation and cumulative effect of previous earthquake cycles. We employ this model to investigate the long-term rates along the Carrizo Plain section of the San Andreas fault. This study reviews possible models, elastic and viscoelastic, for fitting horizontal surface rates. We improve the model presented in Bruhat & Segall (2017) to account for the coupling between creep and viscoelastic flow. Using this updated approach, we show that surface rates across the Carrizo Plain section of the San Andreas fault might be explained by slow vertical propagation of deep interseismic creep.
著者
西 勇樹 伴 雅雄 及川 輝樹 山﨑 誠子
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

はじめに 蔵王火山は、東北日本火山フロントに位置する活火山で、2013年頃から噴火の前兆的現象が多数観測されている。蔵王火山の最新期は約3.5万年前の馬の背カルデラの形成に始まり、約2千年前に最新の山体である五色岳が活動を開始した。我々は、五色岳形成開始前後の噴出物を対象として、地質学的・岩石学的研究を進め、その結果、噴出物の地質ユニットは、五色岳形成に先行する溶岩ユニット(振子滝溶岩、五色岳南方溶岩及び火砕岩類)と形成開始後の火砕岩ユニット(五色岳南部火砕岩類、五色岳東部火砕岩類)に細分されること、全ての岩石は苦鉄質・珪長質マグマの混合によって形成されたこと、一方で、両端成分マグマの特徴、マグマ溜まりの構造、および滞留時間1年未満と5年以上を示す珪長質マグマ由来の直方輝石の割合が、溶岩ユニットと火砕岩ユニットでやや異なっていることが明らかになった。 上記の火砕岩ユニットの両火砕岩類は、後者が前者を不整合に覆っており、形成時期がやや異なる可能性がある。また、五色岳南部火砕岩類には計3本の火砕岩脈が認められる。今回は、五色岳南部火砕岩類で見られる火砕岩脈の特徴と形成過程を明らかにすると共に、五色岳南部火砕岩類の岩石学的特徴を、前後の地質ユニット(溶岩ユニット、五色岳東部火砕岩類)と比較し、マグマ溜まりの時間変遷の検討をより詳細に行った。五色岳南部火砕岩類、特に火砕岩脈について 五色岳南部火砕岩類は五色岳の南東部に分布する。噴出物は主に成層構造の発達した火砕サージ堆積物からなる。全層厚は約12mである。火砕サージ堆積物を切る計3本の火砕岩脈(以下、火砕岩脈を順に1~3と称す)が認められる。その最上部は浸食されている。火砕岩脈1~3の高さは約12m、7m、7m、幅(最下部)は4m、2m、8m、幅(最上部)は16m、5m、8m、走向はN50°E、N70°E、N15°Eである。何れもほぼ垂直方向に貫入しており、火砕岩脈1、2は下部から上部に向かって幅が広がる形状を成す。火砕岩脈3の幅はほぼ一定である。火砕岩脈は褐色~青灰色の火山灰支持の凝灰角礫岩からなる。本質岩片は細かい冷却クラックを持つ火山弾とそれらが破砕されたと考えられる径5cm~10cm程度の火山礫、径10cm程度の少量のスコリアからなる。加えて、径5~10cm程度の類質岩片を少量含む。岩片の多くが冷却クラックをもつ本質物であり、破砕されたものも多いことからマグマ水蒸気爆発によるものと推定される。なお、火砕サージ堆積物と岩脈の境界は明瞭であり、境界付近の火砕サージ堆積物は赤褐色に酸化している。火砕岩脈1を代表として、内部構造について詳細に検討した。その結果、弱い成層構造が認められ、多くの火山岩塊は概ね水平方向に伸長しており、少なくとも一部はフォールバックした可能性が高い。また、火山岩塊の含有割合に不均一性が認められる。特に、岩脈の両端から10~20cmにおいては大きな火山岩塊が認められない。これは岩脈の境界付近で効率的に破砕が進行したためと思われる。岩石学的特徴の比較検討 五色岳南部火砕岩類(火砕岩脈の本質岩片も含む)の岩石学的特徴について、前後の地質ユニットと比較検討を行った。いずれの岩石も単斜輝石直方輝石安山岩からなり、全岩化学組成は、概ね一連の組成トレンドに乗る。しかし、溶岩ユニット、五色岳南部火砕岩類、五色岳東部火砕岩類の組成変化トレンドは、TiO2-SiO2図上で、この順に高TiO2量側にシフトし、Cr-SiO2図上では低Cr量側にシフトしている。これらの特徴は、溶岩ユニットから五色岳東部火砕岩類にかけて、苦鉄質端成分マグマの組成が変化したことを示唆する。また、どの地質ユニットでも直方輝石斑晶のリム(Mg# = 69)から内側~100μmの部分でなだらかな逆累帯構造をもつreverse-zoned タイプ と、リムから内側~50μmの部分でMg-rich zone(Mg# = ~75)を持つMg-rich-rim タイプが認められるが、溶岩ユニットではreverse-zoned タイプが多く、五色岳東部火砕岩類ではMg-rich-rim タイプが多いのに対して、五色岳南部火砕岩類ではその両方がある程度認められる。また、直方輝石の滞留時間について、溶岩ユニット中の多くのものは5年以上で、五色岳東部火砕岩類の多くのものは1年未満のであるのに対して、五色岳南部火砕岩類はその両方が認められる。 以上の検討結果から、五色岳南部火砕岩類は溶岩ユニットと五色岳東部火砕岩類の中間的な岩石学的特徴を持つことが明らかとなった。reverse-zonedタイプの多い溶岩ユニットでは混合マグマは発達し、Mg-rich-rim タイプの多い五色岳東部火砕岩類では混合マグマは未発達であったと考えられるため、その両方のタイプをある程度含む五色岳南部火砕岩類は上下の地質ユニットと比べて、中間的な混合マグマの発達度合いであったと考えられる。すなわち、五色岳南部火砕岩類は、溶岩ユニットから五色岳東部火砕岩類に移る転換時期であったと考えられる。
著者
池永 有弥 前野 深 安田 敦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

伊豆大島では, 1777年から15年間にわたり安永噴火と呼ばれる大規模な噴火が発生し, 溶岩の流出と数億トンにのぼるスコリアおよび火山灰の噴出が起きた(小山・早川, 1996). 地質調査や歴史記録の解析(Nakamura, 1964; 一色, 1984; 津久井ほか, 2009)によって, 噴火はスコリアの放出(基底スコリア)から始まり, 溶岩を流出させた後, 数年間の火山灰期を経て噴火が終息したと考えられている. このように噴火の大枠は明らかになっているが, 溶岩は様々な方向に複数回流出しており, 基底スコリアも広範囲に分布しているため, 噴火様式および推移と堆積物との対応については未解明な部分が多い. 基底スコリアについては, 層準により粒子の特徴に違いがあることが本研究でわかってきた.伊豆大島において, 安永噴火の降下火砕堆積物および溶岩の観察を行った. その結果, 基底スコリア層が大きく下部の斜長石斑晶に乏しい層(Unit A)と, 上部の斜長石斑晶に富む層(Unit B)の2層に分けられることがわかった. さらにUnit Aのスコリア(Aスコリア)は島の西側を除く広範囲に堆積している一方で, Unit Bのスコリア(Bスコリア)は島の東側の狭い範囲にのみ堆積していることがわかった. このことから, 層準によって噴煙の特徴が異なっていた可能性が高く, 複数の方向へ流下した溶岩と基底スコリアの前後関係を理解する上で, 溶岩に接する基底スコリアの斜長石斑晶量が鍵となることがわかった.次にA・Bの各スコリア, および溶岩について全岩組成分析を行ったところ, 分析値がNakano and Yamamoto(1991)などで示されている斜長石濃集トレンドに乗り, Bスコリアが最も高いAl2O3量を示した. 溶岩のAl2O3量は最も低く, AスコリアについてはBスコリアと溶岩の間の値になった. ただしAスコリアのうち最下部のものについては, Al2O3量がUnit Aの他の層準のスコリアよりもさらに低く, 溶岩に近い値を取るという特徴がある. 伊豆大島の山頂火口から噴出するマグマは, マグマだまり内での斜長石の浮上・濃集により斜長石に富むという考えがあり(荒牧・藤井, 1988), この説に基づけば噴火初期に斜長石に富むマグマが噴出することが予想される. しかし安永噴火の基底スコリアは山頂火口から噴出したと考えられているにもかかわらず, 露頭観察および岩石学的分析から, 噴火初期には斜長石に乏しいマグマが噴出し, その後斜長石に富むマグマが噴出した.EPMAを用いて斜長石の分析を行ったところ, 基底スコリアに含まれる斜長石斑晶のコア組成については, Aスコリアに比べてBスコリアのAn値が有意に高くなる傾向が見られた. 溶岩についてはAスコリアに近い値となった. また溶岩およびAスコリアの石基にのみ斜長石微結晶が多く含まれるが, Aスコリアの中には石基に微結晶をほとんど含まない粒子も多くある.このように安永噴火の噴出物は層序毎に特徴がかなり異なることが明らかになったが, 単一のマグマだまり内での斜長石濃集のみでマグマプロセスを説明できるかどうかや, マグマ上昇プロセスがユニットにより異なる可能性など, 噴出物の特徴に違いが生じる原因の解明については今後の課題である.
著者
西原 歩 巽 好幸 鈴木 桂子 金子 克哉 木村 純一 常 青 日向 宏伸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

破局的カルデラ形成噴火を生じる膨大な珪長質マグマの起源を理解するために,3万年前に生じた姶良火砕噴火で噴出した入戸火砕流中に含まれる本質岩片の地球化学的・岩石学的特徴を考察した.流紋岩質の白色軽石及び暗色軽石に含まれる斜長石斑晶のコア組成は~An85と~An40にピークを持つバイモーダルな分布を示すことに対して,安山岩質スコリアの斜長石斑晶は~An80にピークを持つユニモーダルな分布を示す.高An(An#=70-90)と低An(An#=30-50)斜長石コアのストロンチウム同位体比は,それぞれ87Sr/86Sr=0.7068±0.0008,0.7059±0.0002である.これらの測定結果は,姶良火砕噴火で噴出した膨大な量の流紋岩質マグマは,高An斜長石の起源である安山岩質マグマと低An斜長石の起源である珪長質マグマの混合によって生じたことを示唆する.苦鉄質マグマからわずかに分化してできた考えられる安山岩質マグマから晶出した斜長石のSr同位体比は,中新世の花崗岩や四万十累層の堆積岩など,高いSr同位体比をもつ上部地殻の岩石を同化したトレンドを持つ.このことは,安山岩質マグマと珪長質マグマの混合が上部地殻浅部で生じたことを示唆する.また,流紋岩質マグマは基盤岩より斜長石中のSr同位体比が低く,基盤岩との同化をほぼ生じていない安山岩質マグマ(英文にあわせてみました)と似たような組成を持つ.このことは,珪長質マグマと苦鉄質マグマは,姶良カルデラ深部の下部地殻のような同一の起源物質から生じているとして説明できる.
著者
古川 竜太 高田 亮 Nasution A. Taufiqurrohman R.
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

リンジャニ火山はインドネシア, ロンボク島北半分に配列する第四紀成層火山体群の中心にあり,山頂西部にある径6x8kmのカルデラは13世紀の破局的噴火で形成された(Nasution et al., 2003; 高田ほか, 2003,Nasution et al., 2010; Lavigne et al.,2013). カルデラ形成に先立って, およそ2万年前から1万年前にかけてリンジャニ火山が標高3726m, 総体積100km3の成層火山体を建設した. およそ5000年前からは爆発的噴火を間欠的に起こし, 13世紀の破局的噴火に至った. カルデラ形成噴火の推移は噴火堆積物から6フェイズに区分できる. 各フェイズ間に顕著な時間間隙を示す証拠は見つかっていない. フェイズ1の小規模な水蒸気噴火のあと,フェイズ2ではプリニー式噴火によって発泡の良い軽石を主体とする降下火砕物を西側の広い範囲に堆積させた. フェイズ2末期では粒径が細かくなり, 異質岩片が増加する. フェイズでは火砕流が発生し, 北麓で層厚10m以上の無層理塊状の軽石流堆積物を分布させた. 南西麓や遠方の地域には成層した火山灰流堆積物が広く分布する. 層厚数cm?50cmまで層厚が変化し, 地形的凹地では厚く堆積し, 下位の降下軽石層を削り込むことがある. 推定噴出源から50km近く離れた南西地域や, 海を隔てたギリ諸島にも堆積していることは, 高い噴煙柱から崩壊した希薄な火砕流堆積物であることを示唆する. フェイズ4はふたたびプリニー式噴火となる.降下軽石堆積物は級化構造の繰り返しと細粒火山灰が挟在することから, フェイズ2に比べてプリニー式噴煙が不安定であったことを示唆する. フェイズ5では, ふたたび火砕流が発生し, 厚い無層理の軽石流堆積物が山麓を30km以上の範囲を覆って海岸線に到達した. 火砕流堆積物には花崗閃緑岩など地表に露出しない岩石が含まれる.フェイズ6ではプリニー式噴火が発生したが, フェイズ2と4に比べると規模は小さい. 噴火に関与したマグマはSiO2=62.5-66wt.%, Na2O+K2O=7.5-8.7wt.%の粗面安山岩から粗面岩質である.フェイズ3から4にかけてより珪長質な軽石が増加する.フェイズ4のプリニー式噴煙が不安定で, フェイズ5で大規模な火道の浸食が起こったことを考慮すると, フェイズ4から大幅な火道の拡大あるいは新たな火道形成によって, それまで噴出していなかったマグマが吸い出された可能性がある. フェイズ6のプリニー式噴火は崩壊したカルデラ床によって閉塞された細い火道から起こったと考えると説明可能である. 南極およびグリーンランドの氷床試料では西暦1258?1259年相当の層準に硫酸酸性の強いスパイクがあることが以前から指摘されていた(Palais et al., 1992など).氷床試料から抽出した火山ガラス片の主成分化学組成はこれまでメキシコのエルチチョン火山に対比されていたが,リンジャニカルデラ形成噴火の火山ガラス組成は,両極地方の火山ガラス組成により近い.よってリンジャニカルデラの形成は1258?1259年頃である可能性がある.Lavigne et al., (2013) は同様の手法で噴火を対比して,噴火時期は古文書から1257年とした.両極地方の硫酸堆積量から計算されたSO2放出量は200メガトンであり(Langway et al., 1988),最近千年間で最大である.リンジャニカルデラ形成噴火が地球規模の気候変化に影響を与えた可能性が大きい.
著者
野田 朱美 宮内 崇裕 佐藤 利典 松浦 充宏
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

房総半島南端部には沼Ⅰ~Ⅳ面と呼ばれる完新世海成段丘が発達している.このうち最低位の沼Ⅳ面は1703年元禄地震の際に離水した浅海底地形(波食棚から海食台付近)であることが知られており,元禄段丘面とも呼ばれる(松田ほか, 1974).この元禄段丘面と高位の沼Ⅰ~Ⅲ面の高度分布パターンが良く似ていることから,従来,沼Ⅰ~Ⅲ面も昔の元禄型地震によって離水したと考えられてきた(Matsuda et al., 1978; Shimazaki & Nakata, 1980; 宍倉, 2003).しかし,プレート境界地震の場合,地震時にすべった領域(震源域)はやがて再固着するが,それ以外のプレート境界では地震間を通じて非地震性すべりが進行するため,地震時の隆起・沈降パターンは時間と共に徐々に失われていき,最終的に残るのはプレートの定常沈み込みによる変動だけである(Matsu'ura & Sato, 1989).従って,沼Ⅰ~Ⅲ面の形成は元禄型地震の発生とは関係なく,その成因は太平洋プレートとフィリピン海プレートの沈み込みによる房総半島南端部の定常的な隆起運動と完新世の海水準変動に帰すべきものである(松浦・野田,日本地震学会2014年度秋季大会講演予稿集,D11-03).こうした考えの妥当性を検証するため,本研究では,波浪による浸食と堆積,地盤隆起,及び海水準変動を考慮した海岸地形形成モデルを構築し,房総半島南部の完新世海成段丘発達の数値シミュレーションを行った.海岸地形の形成過程は概念的に次のような式で記述される:標高変化=-浸食+堆積+地盤隆起-海面上昇.海岸での海-陸相互作用のモデル化に際しては,浸食レートは波浪エネルギーの散逸レートに比例し(Anderson et al., 1999),浸食によって生産された浮遊物質の堆積レートは岸から遠ざかるにつれて指数関数的に減少していくとした.また,房総半島完新世海成段丘の発達シミュレーションでは,地震性の間欠的な隆起運動は考慮せず,プレートの沈み込みに起因する定常的な隆起運動(Hashimoto et al., 2004)のみを考慮し,酸素同位体比記録に基づく平均海面高度の時系列データ(Siddall et al., 2003)を3次スプライン関数の重ね合わせでフィッティングした海水準変動曲線を用いた.海食崖と海食台は海水準変動曲線の変曲点(山と谷)付近で発達する.1万年前から現在までの海水準変動曲線には7つの変曲点(4つの山と3つの谷)があるため,7つの海成段丘が形成される.しかし,隆起速度が遅いと,形成された段丘の殆どは現海面下に沈んでしまい観測されない.隆起速度が早い場合でも,古い段丘と新しい段丘の重なり合いや逆転が生じ,段丘面の形成年代と現在の高度の対応関係は単純ではない.このことは,房総半島南部の完新世離水海岸地形の詳細な調査に基づいて,既に指摘されている(遠藤・宮内,日本活断層学会2011年度秋季大会講演予稿集,P-06).今回のシミュレーションでは,隆起速度を3~4mm/yrとすると沼Ⅰ~Ⅳ面に相当する明瞭な段丘面が発達することが分かった.但し,その場合でも,古い段丘と新しい段丘の重なり合いや逆転が生じているため,最高位の段丘面の形成年代が最も古いわけではないことに注意する必要がある.
著者
松永 康生 神田 径 高倉 伸一 小山 崇夫 小川 康雄 関 香織 鈴木 惇史 齋藤 全史郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

草津白根山は長野県と群馬県の境に位置する、標高2000mほどの活火山である。山頂に位置する湯釜は強酸性の湖水を有し、その地下では度々活発な地震活動が観測されている。また、本白根山麓には草津温泉や万代鉱温泉などの湧出量の豊富な源泉が存在することから、山体の地下には熱水系が発達しているものと考えられている。地球化学的な研究によれば山頂部の噴気や湯釜湖水、また山腹の幾つかの温泉は、気液分離した貯留層由来である一方、本白根山麓の草津温泉や万代鉱温泉などは、より初生的なマグマ性流体がこの貯留層を経由せずに天水と希釈され噴出したものと解釈されている(Ohba et al., 2000)。白根山を東西に横断する測線にて行われたAMT法による調査では、深さ3~4kmまでの比抵抗構造が明らかにされ、山体の西側に厚さ最大1kmほどの低比抵抗体が見つかった。これは変質した第三紀火山岩であると解釈されている。地球化学的な調査と合わせるとこの変質帯が不透水層として働くことで、山腹の温泉と山麓の温泉のそれぞれの経路を分け、混合を妨げていると考えられた(Nurhasan et al., 2006)。また、万代鉱周辺で行われたAMT法による調査では、源泉より地下へと広がる低比抵抗体が確認され、こちらは流体の供給路と解釈されている(神田ほか, 2014)。このように源泉ごとの生成過程の違いや、地下浅部の構造はある程度は分かっているものの、より詳細な深部の構造については未だによく分かっていない。そのため今回は表層への熱水の供給経路やその供給源、さらには草津白根山の火山活動全体の駆動源であるマグマ溜りの位置を明らかにすることを目的とした広域帯MT観測を本白根山において行った。調査は山体西側の万座温泉から本白根山頂を経て万代鉱温泉に至る東西約10kmの測線上の計12点において広帯域MT観測を行った。得られたデータのうち三次元性の強いデータを除去し、Ogawa and Uchida(1996)によるコードを用いて2次元インバージョンを行った。このようにして得られた比抵抗構造の特徴として、①山頂から西側の万座温泉地下へと細長く伸びる長さ数キロほどの低比抵抗体②東斜面の表層付近に広がる低比抵抗体③東斜面深部に見られる高比抵抗の大きなブロックの存在があげられる。②については、前述のAMT法観測(Nurhasan et al., 2006)により推定された変質した第三紀火山岩であると考えられる。この低比抵抗体の下部には深部へと続く高比抵抗ブロック(③)が見られる。ただし、観測データのうち特に長周期側で得られたデータは人工ノイズ源の影響を受けている可能性もあり、このような構造が実際に存在するかはよりデータを精査し検討する必要がある。ポスターでは、これまでに得られている結果について発表する。
著者
松尾 良子 中川 光弘
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

ニセコ火山群は,南西北海道火山地域の北端に位置する東西25km,南北15kmにおよび,10以上の成層火山や溶岩ドームからなる第四紀火山群である.これまでのニセコ火山群の地質学的研究は,広川・村山(1955)による図幅調査に始まり,大場(1960)や NEDO(1986,1987)により行われている.これらの結果からその噴火活動は約160万年前には開始し,西から東へと新しい火山体を形成しながら現在まで活動が継続していることが明らかになった.地形や噴気活動の有無から,イワオヌプリ火山は,ニセコ火山群の中でも最も新しい火山体とされる.奥野(2003)によって,イワオヌプリ起源と考えられるテフラが見出され,その年代として約6000年前の14C年代値が報告された.しかしながら,奥野(2003)では測定された14C年代値についての信頼度は低いことを指摘しており,またその噴火の様式や給源火口については明らかにされていない.そこで我々は,ニセコ火山の特に完新世の噴火活動履歴と様式を明らかにすることを目的として,地質学的研究を進めている. これまではイワオヌプリとニトヌプリの両方が,ニセコ火山群では最も新しい山体として捉えられることが多かった.イワオヌプリ火山及びニトヌプリ火山を構成する岩石は,斑晶として斜長石,単斜輝石,斜方輝石および磁鉄鉱を含む安山岩である.これに加えてイワオヌプリ火山の岩石は斑晶として角閃石を含まないが,ニトヌプリ火山の多くの岩石は角閃石斑晶を含む.また,全岩化学組成では,両火山はハーカー図上で多くの元素でそれぞれ別の組成変化を示していることで区別できる.両者の噴出中心の位置的違い,被覆関係および岩石学的性質から,両者は独立した火山として考えるべきである.よって本研究では,ニトヌプリ火山活動後に活動したイワオヌプリ火山のみを,ニセコ火山の最新の活動期として取り扱う. イワオヌプリ火山(標高1,116m)は,ニセコ火山群東部に位置し,ニトヌプリ火山活動後,その東側に形成された比高約350m,基底直径約2kmで,火砕丘や複数の溶岩ドームおよび溶岩から構成される火山である.火山体の西側には,直径約800mのイワオヌプリ大火口火砕丘があり,その頂部には直径約1kmのイワオヌプリ大火口が開口している.その火口内部には小イワオヌプリと呼ばれる小型の溶岩ドームが形成されており,それを覆って,大イワオヌプリと呼ばれる山体が形成されている.下部の溶岩ドームと山頂部から東側にかけての複数枚の溶岩から形成されている.さらに,五色温泉火口などの複数の小火口が火山体全域に認められる.イワオヌプリ火山については,被覆関係と噴火様式,噴出中心の違いから,①イワオヌプリ大火口火砕岩類②小イワオヌプリ溶岩ドーム③大イワオヌプリ下部溶岩ドーム④大イワオヌプリ上部溶岩類⑤イワオヌプリ水蒸気噴火火砕岩類の5つのユニットに区分できる. 最初の活動である,イワオヌプリ大火口火砕岩類を形成した活動は,まず水蒸気噴火から始まり,その後はマグマ噴火に移行し爆発的噴火により噴煙柱を形成し,その過程で断続的に火砕流が発生した.この噴火に伴うテフラが奥野(2003)で見出したNsIw-1テフラである.このテフラは東方から西方に向かって層厚および構成物の粒径が増大し,イワオヌプリ大火口火砕丘に対比できる.今回新たに試料を採取し,火砕流中の炭化木片からは9480 cal. yBP,テフラ直下の土壌からは10910 cal.yBPの14C年代が得られた.よってイワオヌプリ火山の活動開始は約9500年前であることが明らかになった.その後は,溶岩ドームの形成や溶岩流出を繰り返し山体が成長した.これらの山体には多くの爆裂火口が形成されており,水蒸気噴火やマグマ水蒸気噴火なども並行して頻発したと考えられる.確認された最後のマグマ噴火は,山頂部から大イワオヌプリ上部溶岩類の流出であるが,水蒸気噴火はその後も発生している可能性が高い.実際に五色温泉近くでの爆発角礫岩層の年代としてmodernという炭素年代測定結果が得られた.今回の調査では最初期の活動年代は明らかにできたが,その後の噴火史についてまだ十分な議論はできない.しかし,9500年前の噴火後の山体の成長と,多数の新しい爆裂火口の存在を考えると,イワオヌプリ火山は完新世を通じて活動した,活動度の高い火山の可能性が高い.
著者
三反畑 修 綿田 辰吾 佐竹 健治 深尾 良夫 杉岡 裕子 伊藤 亜妃 塩原 肇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

2015年5月2日に鳥島の近海で発生したM5.7の地震は,震央から約100km北方の八丈島では60cmの津波が観測されるなど,地震の規模から想定されたよりも大きな津波を引き起こした「津波地震」であったと言える.Global CMT解の震源は,伊豆・小笠原海溝に沿った火山体である須美寿カルデラ付近の地下浅部に定まっている.この地域では規模・震源メカニズムの類した地震が,1984年,1996年,2006年に観測され,同様に津波を発生させている(Satake and Gusman, 2015, SSJ).1984年の地震に関して,Satake and Kanamori (1991, JGR) は長波近似を用いた津波伝播シミュレーションにより,円形の隆起の津波波源モデルを提案した.震源メカニズムは地下浅部でマグマ貫入に伴う水圧破砕(Kanamori et al., 1993)や,カルデラの環状断層(Ekström, 1994, EPSL)の火山活動に伴うCLVD型の地震モデルが推定されている.2015年の鳥島地震による津波は,海洋研究開発機構が設置した10の海底水圧計から成る観測点アレーによって観測された.水圧計アレーでの観測波形は,波束の到達時間が長周期ほど遅くなる分散波としての特徴を示しており,特に位相波面の到来方向が観測点と震源を結ぶ方向から,低周波の位相波面ほど大きく外れるという特異な傾向が確認された(深尾ほか,本大会).本研究では,津波を分散性の線形重力波として扱い,周波数ごとの位相波面およびエネルギー波束の波線追跡をおこなった.まず,線形重力波の理論式と平滑化した水深データを用いて,各周波数での二次元位相速度場・群速度場を反復計算により帰納的に計算した.位相速度・群速度の両速度場を用いることで,周波数ごとの位相波面およびエネルギー波束の伝播時間の測定が可能になる.そして,球面上の地震波表面波の波線方程式(Sobel and Seggern, 1978, BSSA; Jobert and Jobert, 1983, GRLなど)と同様な方程式について数値積分を行い,須美寿カルデラを波源とする各周波数の波線を追跡した.周波数に依存する波線追跡の結果,低周波の波ほど水深の影響を受けて波線が大きく曲がる様子が確認された.特に,波源から北東へ射出した波線が北側に大きく曲がり,周波数が低いほど波面の進行方向が変化する傾向が見られた.この結果は,水圧計アレーに入射する位相波面の到来方向が周波数に依存して変化するという観測結果と調和的である.また,波線追跡に基づくエネルギー波束(群速度)の到達時間は,水圧計アレーの各周波数帯における波束の最大振幅の到達時間によく一致した.さらに,周波数帯によらず波源の北方向で波線が集中する様子が確認された.この結果は,北側の広い方向に放射された波が地形変化による速度勾配によりエネルギーが集中することで,八丈島での振幅が大きくなった可能性を示唆している.本手法による周波数に依存する波線追跡により,長波近似がよく成り立つ長周期の波動だけでなく,分散効果により後続波として到達する高周波の波についても同様に波線を追跡し,津波伝播の特徴をより詳細まで捉えることができる.例えば,周波数帯ごとの津波の伝播経路上の特徴的な地形が波形に与える影響を考察することや,高周波の後続波を含むエネルギー波束の到達時間を,少ない計算量で推定することが可能になる.
著者
馬場 俊孝 岡田 泰樹 芦 寿一郎 金松 敏也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

南海トラフなどの沈み込み帯では海溝型地震が繰り返し発生する.過去の事象の解明は将来の予測に直結するが,近代的な地震津波観測が始まったのはおよそ100年前であり,それよりも古い地震については史料や地質調査に頼らざるを得ない.徳島県には「震潮記」という史料が存在する.これには1512年永正地震,1605年慶長地震,1707年宝永地震,1854安政南海地震の徳島県宍喰地域の被災状況が記録されている.宍喰は四国の南東部にある海岸沿いの集落であり津波による被害が甚大である.特に1512年永正地震では津波により3700人あまりが死亡したと震潮記にあり,大津波の発生を推察させる.ところが1605年慶長地震,1707年宝永地震,1854安政南海地震の記録は震潮記以外にも多数の記録が存在し,それらの津波は西南日本の太平洋沿岸部を広く襲ったと解釈できるが,1512年永正地震に関する史料は震潮記を除いて存在せずこの地震の真偽は定かではない.本研究では1512年永正津波が局所的な津波であったと仮定してその波源について考察する.局所的な津波の例としては,たとえば1998年のパプアニューギニア地震津波のような海底地すべりによる津波が挙げられる.海底地形図を用いて海底地形を調査し,宍喰の南東約24km沖合の水深約800mの海底に幅約6km,高さ約400mの滑落崖を確認した.さらに学術研究船「白鳳丸」KH-16-5次航海において無人探査機NSSの深海曳航式サブボトムプロファイラを用いて調査したところ,比較的最近起こったとみられる地すべりの詳細な内部構造が捉えられ,それによる地層の垂直変位は約50mであった.これらの情報を基に海底地すべりをモデル化しWatts et al.(2005)の式を用いて津波の初期水位を求めた.ここで地すべり土塊の移動量は不明であるため,地すべり土塊の移動量を800mから3000mまで変更させて複数回計算を行った.津波シミュレーションでは非線形浅水波式を差分法で解いた.ネスティング手法を用いて宍喰地域の空間分解能を向上させた.宍喰地域の陸上地形データは現況の地形から堤防など人工構造物を取り除くとともに,古地形図などを用いて可能な限り当時の地形に近づけた.津波解析の結果,地すべり移動量1400m~2400mで震潮記に記載された宍喰の浸水状況を再現できることがわかった.この場合の宍喰での最大津波高は6m~9mで,一方対岸の紀伊半島沿岸では最大で津波高3mとなった.
著者
藤井 麻緒 堀 利栄 大藤 弘明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

放散虫とは、オパール(SiO₂+nH2O)やSrSO₄からなる鉱物質の内殻を持つ海洋性動物プランクトンのことである。現生の放散虫類はオパールの殻をもつコロダリア目、ナセラリア目、スプメラリア目、SrSO₄から成る骨格をもつアカンタリア目、そしてタクソポディア目の5目に分類されている。本研究では、放散虫の内骨格形成過程の観察のため、黒潮表層海域の放散虫を採取し室内における飼育実験を実施した。殻の成長観察については、蛍光試薬を用いオパールの付加成長部位を発光させる手法(Ogane et al., 2010)を用いた。その結果、従来SiO₂成分が含まれていないと考えられてきたアカンタリア目の生体骨格にも Siが含有される可能性が示されたのでそれについて発表する。検討に用いた現生放散虫は、黒潮海域であり放散虫が多種生息する高知県柏島近海にて採取した。プランクトン採集は2015年の7月12日、11月30日、2016年1月11日の全3回行い、採取した放散虫を目別に数個体ずつピックアップし、専用の飼育装置に入れて飼育を行った。飼育の際、水温を常に27℃に保ち、12時間LEDライトの照射、消灯を相互に行なった。飼育装置にて24時間静置した後、HCK-123蛍光試薬を投薬し、24時間~30時間経ったものをスライドに封入した。蛍光試薬を入れてから生体内に試薬が取り込まれその部分を蛍光発光させる事で、SiO₂を含む骨格の付加成長が起きた部分と生体内でのSi元素分布を知ることができる。作成したスライドは愛媛大学理学部設置の共焦点レーザースキャン顕微鏡(Carl Zeiss LSM510)を用いて観察した。スライドには波長488nmのArレーザー光を照射し、HCK-123蛍光試薬投薬後の蛍光発光を観察した。また、Siの含有についての真偽を検討するため、さらにアカンタリア骨格のFE-SEMおよびWDS分析を行った。採集した放散虫類の内、今回は4個体のアカンタリア目の結果について報告する。蛍光試薬投薬後Acanthometra muelleri (個体番号:20150712A-1)、Amphilonche complanata (個体番号:20151130A-1)は24時間飼育、Acanthostaurus conacanthus (個体番号:20160111A-1)、Acanthometron pellucidum (個体番号:20160111A-2)は30時間飼育し、スライドに封入した。各個体を共焦点レーザースキャン顕微鏡にて観察したところ、Acanthometra muelleriは表層の骨針と中央部、Amphilonche complanataは骨針の根元と中央の一部、Acanthostaurus conacanthusは骨針の根元の表層部、Acanthometron pellucidumは折れた骨針と新しく成長中の骨針の一部にSiO₂の付加が確認できた。更に、アカンタリア目Amphilonche complanataの異なる個体でFE-SEMおよびWDS分析を行った。アカンタリア目の主成分はSrSO₄なので、今回はSr、S、Oと、今回注目しているSiについて元素マッピング分析を行った。主成分であるSr、S、Oは骨格全体に広く含まれていたが、その中に部分的にSiの分布も確認できた。殻周辺の付着物以外でSiの反応が確認できた箇所を拡大して分析したところ、骨針の先端表層部分に集中してSiが含まれていることが確認できた。以上の蛍光試薬を用いた飼育実験結果および生体骨格の元素マッピング分析により、従来骨格にSiO₂を含まないと考えられてきたアカンタリア目は、生きている状態においては部分的にSiO₂を含有する事が示された。またそれは、殻の成長活発な部位において顕著で、アカンタリア目の骨格形成においてSiO₂成分が重要な役割を果たす事を示唆している。
著者
山元 孝広
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

島根県西部の大山火山は,約1Maから活動を開始したアダカイト質の複成火山である.噴火履歴の大枠は津久井(1984)により明らかにされているものの,その定量化にまでは至っていない.特に,大山火山では約5万年前に国内で最大規模のプリニー式噴火である大山倉吉降下火砕物が噴出したが,この噴火が大山火山の長期的な火山活動の中でどのように起きたものかまでは理解されていなかった.そこで大山火山の過去約20万年間の噴火履歴の見直しと放射性炭素年代測定,マグマ噴出量の再計測を行い,新たに積算マグマ噴出量階段図を作成した.噴火履歴の見直しで重要な点は,津久井(1984)の弥山火砕流が,本質物の化学組成の異なる北麓の清水原火砕流と西〜南西麓の桝水原火砕流に分けられることである.前者からは18,960-18,740 calBC,後者からは26,570-26,280 calBCの暦年代が得られた.分布と岩質から,前者は三鈷峰溶岩ドーム起源,後者は弥山溶岩ドーム起源と判断され,大山火山の最新期噴火は約2万年前の三鈷峰溶岩ドームの形成であることが明らかとなった.大山火山起源のテフラについても等層厚線図を書き直し,Legros (2000)法で噴出量を計測し直した.従来値よりも噴出量が大幅に大きくなったものは計測し直した約8万年前の大山生竹降下火砕物で,その最小体積は2 km3DREである.更新した階段図からは,大山火山では約10万年前から噴出率が高い状態が続いていたことを示しており,大山倉吉噴火は大山火山のこの時期の活動の中で特異的に大きいわけではない.
著者
辻 宏道 畑中 雄樹 佐藤 雄大 古屋 智秋 鈴木 啓 村松 弘規 犬飼 孝明 三木原 香乃 高松 直史 中久喜 智一 藤原 智 今給黎 哲郎 飛田 幹男 矢来 博司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

1.背景 国土地理院はGPS等の測位衛星(GNSS)の電波を受信する「電子基準点」を全国約1,300箇所に設置し、そのデータを利用して測量や地殻変動監視を行うとともに、そのデータを公開して測量・測位、防災分野等での活用を推進している。GPSはL1帯(1.57542 GHz)及びL2帯(1.2276 GHz)の信号を送信しているが、近年、準天頂衛星や次世代GPSはL5帯(1.17645 GHz)の信号も送信しており、最新型のGNSS受信機及びアンテナは、従来よりも広い周波数帯に対応した設計となっている。 一方、携帯電話サービスでは、LTEと呼ばれる次世代高速通信サービスが全国で開始されており、この中には1.5 GHz付近の電波を利用するものも含まれる。 2.現象 電子基準点「函館」で、2013年5月から観測される衛星の信号強度(SN比)が低下するとともに、データを解析して得られる電子基準点の高さに、見かけ上の変動(振幅:最大約5 cm、周期:2~3週間)が生じた。現地測量により実際の変動でないことは確認されたが、原因の究明には至らず、当該基準点は公共測量で利用できないように措置した。 その後も、電子基準点「焼津A」で、2014年3月からSN比の低下及び見かけ上の上下変動(振幅:最大約2 cm、周期:2ヶ月)が確認されるなど、2016年2月現在、同様な現象が「函館」以外に13点でも発生している(電子基準点名:「焼津A」、「大阪」、「神奈川川崎」、「石垣2」、「御殿場」、「足立」、「越谷」、「新富」、「大宮」、「楠」、「八郷」、「厚岸」、「指宿」)。いずれも水平変動はなく、上下変動も比較的小さいため、通常の公共測量では利用できるが、GNSS測量による標高の測量を行う場合は利用できない。 地殻変動の研究を行う場合、これらの電子基準点の「日々の座標値」や関連する基線に現れる周期的な上下変動は、実際の変動ではないことに注意が必要である。 3.仮説 これらの電子基準点に共通するのは、1)マルチGNSSに対応した同一機種の受信機及びチョークリング・アンテナを利用していること、2)周辺(概ね1 km以内)に携帯電話基地局があり、SN比の低下が始まった日に1.5 GHz付近の電波を利用するLTEサービスが開始されていることである。このため、GPSのL1帯の隣接周波数帯にあるLTE信号が、従来より広い帯域に感度を持つアンテナに混入し、アンテナや受信機のアンプが飽和する等によりSN比が低下しているとの仮説が成り立つ。しかし、そのデータを基線解析すると上下方向だけに周期的な変動が現れるメカニズムはよくわからない。 4.当面の対応 メーカー提供のL1帯隣接周波数帯の1.5 GHz信号を除去するフィルターをアンテナと受信機間に挿入して、「函館」及び「焼津A」で観測したところ、SN比は現象の発生前には戻らないものの改善が見られ、見かけ上の上下変動は大きく低減した。また、5~10 dBのアッテネータ(減衰器)の挿入によっても、ほぼ同様な効果が見られることを確認している。今後、減衰量の最適値を決定し、見かけ上の上下変動が発生している電子基準点にアッテネータを挿入することを検討している。
著者
種子 彰
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

A Wegenrが大陸の南北アメリカのとアフリカの沿岸プロフィールが一致することから,大陸移動仮説を提唱して,古生物学や地質の連続性を根拠に証明しようとした.今では海洋底拡大仮説やマントル熱対流仮説や大西洋中央海嶺の発見やトランスフォーム断層の発見や地磁気の反転と海底テープレコーダー仮説など実証的な観測でプレートテクトニクスがほぼ定説となっている.しかし,ウェゲナーが示せなかった大陸移動の駆動力はプレートテクトニクスでもまだ謎のままである.ウェゲナーが指摘していた,70%を占める深海洋底(-5km)の形成起源やプレート境界の起源,プレートテクトニクスの起源を探究する努力が忘れられていた.弧状列島と海盆の起源も謎のままである. この全てを統一的に解明できる新パラダイムが望まれていた.それはアブダクションによるマルチインパクト仮説であり,地球物理学と太陽系惑星学から"地球と月のミッシングリンクの解明"で述べられた.それによると,このプレートテクトニクスの起源の他に,月の形成や深海洋底の起源,コアの偏芯や木星大赤飯の起源や水星や冥王星の起源,更には小惑星帯の起源や分化した隕石の起源も統一的に解明できる新パラダイムの提案である.アブダクションは,ある仮説による結論が複数の現状を説明できれば出来るほどその仮説の正しさが保証されるという考え方である.発想の大転換であり創造的推論と呼ばれており,物理的意味がある仮説で,アイデアが正しければ,飛躍的な進歩が得られる. 太陽系の誕生から約40億年前まで経過してCERRAが木星摂動により軌道変形し木星と太陽の張力で断裂した時,CERRAと地球は分化凝固していた. 本仮説では複数マントル破片がほぼ同じ軌道を巡りの廻り巡り間欠的に衝突することが,度重なる生物種大絶滅の原因であり,マントルを剥ぎアイソスタシーにより5km 深さの海の起源となった.アイソスタシーにより衝突マントル欠損部にダーウィンの隆起が起きたとき,周囲の地殻が剥離したプレートが凹型にへこんで,その境界亀裂が弧状列島を形成した.太平洋を中心とした弧状列島やテーチス海の形成時のジャワ島等,弧状列島の外側に連なる海溝弧はプレートが弧状列島の下に潜り込みを示しています.プレート境界は複数のマントル断裂片が地球へ衝突した時の亀裂に起因している.本仮説では,地球が自転している為,衝突により欠けたマントルがアイソスタシーで凸になった時,慣性モーメントが不均一(アンバランス)になった地球では,慣性モーメントを最小にする駆動力が発生する. 一つの仮説だけで,全ての謎を統一した進化として説明できる事は,アブダクションの成果である.
著者
青木 久 岸野 浩大 早川 裕弌 前門 晃
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

津波石とは,津波により陸上に打ち上げられた岩塊のことである.先行研究によると,宮古島や石垣島をはじめとする琉球列島南部の島々には,過去の複数の津波によって石灰岩からなる巨礫,すなわち津波石が打ち上げられていることが報告されている.本研究では,津波によって陸上に打ち上げられた津波石のうち,海崖を乗り越えて海岸段丘上に定置している津波石に焦点をあてて野外調査を行い,過去に琉球列島南部,宮古諸島と八重山諸島に襲来した津波営力の違いについて考察を行うことを目的とする.本研究では,宮古諸島に属する宮古島・下地島,八重山諸島に属する石垣島・黒島の4島を調査対象地域として選び,宮古島東平安名崎海岸,下地島西海岸,石垣島大浜・真栄里海岸,黒島南海岸において,津波石の調査が実施された.これらの海岸では琉球石灰岩からなる海崖をもつ海岸段丘が発達し,段丘上や崖の基部,サンゴ礁上に大小様々な津波石が分布する.各海岸の背後には,岩塊が供給されうる丘陵などの高台が存在しないため,段丘上の岩塊は津波によって崖を乗り越えた可能性が高いと判断し,本研究では3 m以上の長径をもつ巨礫を津波石とみなした.津波石の重量(W)と海崖の高さ(H)に関する以下のような調査・分析を行った. Wを求めるため,津波石の体積(V)と密度(ρ)の推定を行った(W=ρgV,gは重力加速度). Vは津波石の長径と中径と短径の計測および高精細地形測量(TLSおよびSfM測量)による3D解析を併用し求められた.ρは弾性波速度の計測値から推定された.Hはレーザー距離計を用いて計測された.津波石は,宮古島ではH=17 mの段丘上に14個,下地島ではH=10 mの段丘上に1個,石垣島ではH=3 mの段丘上に4個,黒島ではH=3~4 mの段丘上に6個,計25個が確認された.段丘上の津波石が津波によって崖下から運搬されたと仮定すると,W・Hは津波石の鉛直方向の移動にかかった仕事を示すことから,津波石を崖上に運搬するのに必要な津波営力(運動エネルギー)の指標となる.さらに各島のW・Hの最大値は,各島における過去最大の津波を示すと考え,それらの値を比較してみると,その大小関係は下地島≧宮古島>石垣島>黒島となった.この結果は,過去に宮古諸島に八重山諸島よりも大きな津波が襲来したことを示唆し,石垣島周辺で最も大きい津波が襲来したとされる1771年の明和津波とは異なっている.
著者
安藤 雅孝 生田 領野
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

フィリピン海プレートの北西域端では、琉球海溝に沿って沈み込み、台湾東海岸では衝突する。この地域で、我々が最近実施した津波堆積物の調査、海底地殻変動観測に基づき、琉球海溝南西部の巨大地震のテクトニクスについて議論する。1.宮古島・石垣島沖での巨大津波本地域では、過去数千年にわたり、巨大な津波が繰り返し発生したことが知られている。我々が行った石垣島での津波堆積物の調査から、過去2000年にわたり、ほぼ600年に一回の割合で巨大津波が発生したことを明らかになった(Ando et al. 2017)。これらの地震のうち、最新の1771年八重山地震の際には、石垣島沿岸では地割れが生じ、揺れは震度V弱(またはそれ以上)に達したことも判明した。この地震による、400km離れた沖縄本島での震度は、IVと推定されおり(宇佐美 2010)、1771年地震は“津波地震”ではなく、通常の地震である可能性が高い。1771年地震の東側でも、別の巨大津波がそれ以前に発生したことが知られている。下島(宮古島市)には、日本で最大の津波石(帯石)が打ち上げられており、珊瑚のC14年代測定から、11世紀以降、1771年以前に、巨大津波によるものと推定される。このような結果を総合すると、琉球海溝南西域沿いには、長さ250kmを超える巨大地震発生域があると考えられる。Nakamura(2009)のプレート境界面上の逆断層地震モデルを採用すると、プレートの地震性カップリング率は20%程度と低くなる。2.琉球海溝の後退と伸張歪み場GPS観測によると、沖縄諸島は4–6cm/yの速度で南〜南東に向かって移動する。この変動は琉球海溝が南東に後退するために生じるもので、先島諸島は1–3x10-8/yの伸張歪み場にある。この伸びに応じて、背弧の沖縄トラフでは、マグマの貫入が起きるものと考えれる。2013年4月には与那国島の北50kmの沖縄トラフ内で、2日間にわたりマグマが貫入したと推定された(Ando et al., 2015)。2013年7月から9月の間に、その地点から西100kmで、マグマ貫入が生じたと、海底地殻変動観測から推定されている(香味・他、2017)。琉球海溝南西域では、海溝が後退しつつ、プレート沈み込みに伴う歪み応力を蓄積し、巨大地震を発生させるものと考えられる。カップリング率の低い伸帳応力場でも、巨大地震が繰り返し発生しうることは注目される。3.海底地殻変動観測結果2014年に、波照間島(西表島の南)の南60kmに、海底地殻変動観測点が設置され、観測が継続されている。この結果から、観測点が西表島に対し南に移動していることが明らかになった。ただし、観測期間は2年間と短く、結果の信頼性はまだ低い。海溝付近でも伸張場であることを確かめるには、さらに3年間の観測が必要である。一方、台湾東海岸には、琉球海溝から沈み込むプレート間カップリングの検証を目的として、3カ所に海底地殻変動観測点が設置された。その内の一つの宜蘭沖の観測点の2012年〜2016年の地殻変動観測結果が明らかにされた(香味・他、2017)。それによると、速度ベクトルは、南向きに4cm/y、東向きに8cm/yで、60km西の陸域の変動と調和的である。ただし、観測点が海溝から離れ過ぎているため、プレート間カップリングの有無を検証するに至っていない。さらに、海溝に近い他の2地点での観測を継続する必要があろう。今後、波照間沖、台湾沖での海底地殻変動から、この地域の巨大地震の準備過程が、解明されよう。4.まとめ琉球海溝南西域の巨大地震発生のメカニズム解明には、波照間島沖の地殻変動観測を継続し、かつ台湾東海岸に海溝に近い海底地殻変動観測を継続して行う必要がある。
著者
伊藤 好孝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月の福島第一原発事故によって環境に放出された放射能・放射線について、政府、自治体、企業、研究者、一般市民に至る様々な人々により多種多様な測定が行われている。これらの一部はデータベースとして整理され一般公開されているものもある。しかし大部分の測定データは存在すら知られていないものも多い。これらのデータのメタデータ情報を収集してデータベース化し、測定量、測定日時、地点などからデータの所在を検索できる「福島第一原発事故に関わる放射能・放射線測定メタデータ検索システム」を開発した。このシステムによってデータの相互利用が強化されると共に、データ自身の恒久アーカイブ化への端緒が開かれると期待される。本講演では、本メタデータ検索システムの内容と今後の展開について報告する。
著者
帰山 秀樹
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

福島第一原子力発電所事故による放射性セシウム(134Csおよび137Cs)の環境放出により北太平洋全域の表層の放射性セシウム濃度が上昇した。水産研究・教育機構では2011年3月より水産物の緊急モニタリング調査を開始、それ以降海洋生態系を構成する様々な生物群、環境試料における放射性セシウム濃度の把握と、放射性セシウムの海洋生態系内における挙動を解析してきた。本研究では、海洋生態系における放射性セシウムの挙動を把握する際の最も基礎となる情報である、溶存態放射性セシウムの北太平洋における拡散状況を採水調査の結果に基づき報告する。調査は漁業調査船による資源調査航海などの機会を活用し、バケツによる表層海水の採取や採水器を用いた鉛直多層採水により得た海水20L試料を対象とした。その他、福島県沿岸では漁船を用いた用船調査、福島県水産試験場の協力による小名浜地先の汲み上げ海水などを採取している。海水試料はリンモリブデン酸アンモニウム共沈法を適用し、ゲルマニウム半導体検器によるガンマ線測定に基づき放射性セシウム濃度を求めた。北太平洋の広域拡散状況の把握という観点では144˚E、155˚Eおよび175.5˚Eにおける南北側線を設け、2011年7月、10月、2012年7月、2013年7月に表面海水採水による観測を実施しており、黒潮続流の北側における東方への拡散状況を把握している。また2012年9月の鉛直断面観測により、黒潮続流の南方においては亜熱帯モード水に補足された放射性セシウムを確認した。事故当時に減衰補正した134Csの総量は4.2±1.1 PBqと試算され、北太平洋全域における福島第一原発事故由来の134Cs放出量の22〜28%が亜熱帯モード水に存在すると推定された。亜熱帯モード水の輸送先である日本南方の亜熱帯海域に着目し、放射性セシウムの経年変化を137Csの水深0〜500mの水柱積算値で見ると2012年の3600 Bq m-2から2015年の1500 Bq m-2まで減少していることが明らかとなった。冬季の鉛直混合により亜熱帯モード水の一部は表層水塊へ表出し、移流・拡散により福島第一原発事故由来の放射性セシウムは希釈されたと推察される。一方、福島第一原子力発電所近傍海域として小名浜地先における汲み上げ海水を週一回の頻度で採水し放射性セシウム濃度の時系列変動を解析している。小名浜地先における溶存態放射性セシウム濃度は基本的に緩やかな減少傾向を示すものの、夏季および冬季にスパイク状に濃度の上昇が認められる。特に冬季、爆弾低気圧が福島県沖合を北上した時期に顕著な放射性セシウム濃度の上昇が認められた。2013年12月から2014年2月の期間には福島第一原子力発電所と小名浜の中間に位置する四倉沖で物理観測を実施しており、その際の流速データは、四倉沖で強い南向きの流れが継続した時期と、小名浜地先で放射性セシウム濃度が上昇した時期が一致することを示している。すなわち福島第一原子力発電所近傍の海水が強い南下流により小名浜地先近傍まで希釈をされずに移流したと推察される。このように福島第一原子力発電所近傍海域における溶存態放射性セシウムの分布は時空間的に変動が大きく、今後も引き続きモニタリング調査が必要である。