著者
長南 浩人
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.417-426, 2001
被引用文献数
2 2

本研究は, ろう学校高等部の生徒35人を被験者として日本手話・中間型手話・日本語対応手話の構造の違いが手話表現の理解に与える影響を, 被験者の手話能力と日本語能力という2つの要因から検討したものである。理解テストは, 被験者が, 日本手話, 中間型手話, 日本語対応手話を見て, それぞれと意味的に等価な絵をワークシートから選択するという方法で行われた。その結果, 手話能力と日本語能力が共に高いGG群は, 理解テストにおいて日本手話, 日本語対応手話のどちらでも高い得点を示し, 手話能力が高く日本語能力が低いGP群は, 日本手話でのみ高い得点を示し, 手話能力が低く日本語能力が高いPG群は, 日本語対応手話でのみ高い得点を示し, 手話能力と日本語能力が共に低いPP群は, いずれの手話表現でも低い得点を示したというものであった。このことから, ろう学校高等部の生徒が理解しやすい手話の種類には個人差があることが分かった。また, 中間型手話はどの被験者にとっても理解が難しい表現方法であることが分かった。
著者
益岡都萌 長谷川達矢# 西山めぐみ 寺澤孝文
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

目 的 学校現場で一般的に用いられる定期テスト等では,学校内や学級内の平均値と比較して成績が低い子どもは,自身の学力について否定的なフィードバックを得やすい。そのため,学習の成果を実感することが難しく,学習意欲も低いと考えられる。一方,マイクロステップ計測法(寺澤,2016)は,日々の学習の蓄積による微細な変化を描き出すことが可能であり,成績が低い子どもであっても,学習により成績が向上する様子を示したフィードバックを得ることができる。本研究では,特に学習意欲が低い子どもに焦点を当て,マイクロステップ計測法を用いて,学習成果が蓄積していく様子をフィードバックすることで,学習意欲の向上がみられるかについて検討することを目的とした。方 法対象者 小学5年生132名が参加した。実施期間 2017年5月~2018年3月。刺激 教材として,e-learningによる漢字の読みの学習ドリルが用いられた。寺澤(2007)の基準表を基に,小学校で学習する漢字を含む語句リストをスケジューリングし,9つの難易度で構成される学習セットを作成し,最も難易度の高い学習セット(レベル9)の語句から学習を開始した。夏休み明け頃から,子どもがレベル6~9の中から難易度を選択できるようにした。尺度 学習意欲の測定のために,学芸大式学習意欲検査(簡易版)(下山・林ら,1983)から自主的学習態度・達成志向・反持続性の3つの尺度を用いた。手続き 協力校と相談の上,上記実施期間に渡り漢字の読みの学習ドリルを実施した。実施に際しては保護者から同意を得た。学習ドリルは,呈示された語句についての理解度を4段階で自己評定する学習が4日間と,客観テストの日が1日の計5日間の学習が1つの学習単位期間としてスケジューリングされた。ドリルの最後に学習意欲についての質問項目が挿入され,3単位期間ごとに繰り返し測定された。また,実施期間中に,子どもに対して,自身の学習ドリルにおける自己評定値の推移をグラフで示した冊子を配布し,個別に学習成果のフィードバックを行った。2017年5月下旬に学習開始時の学習意欲の測定が行われた。フィードバックはおよそ1ヵ月に1回のタイミングで行われた。また,教師に対してフィードバックの内容を参考に,特に成績が低いが上昇傾向を示している子どもに対して褒める指導を行うよう依頼した。結果と考察 ここでは自主的学習態度の得点についてのみ報告する。分析には4回目のフィードバック後までのデータを用いた。学習開始時の得点が全体の平均値-1SD未満の値を示す子どもを低位群とし,それ以外の子どもを中・高位群とした。欠損値のあるデータを分析から除外し,低位群は10名,中・高位群は51名であった。各群における自主的学習態度得点のフィードバック回数ごとの平均値をFigure 1に示した。 低位群及び中・高位群と,学習開始時を含むフィードバック回数の2要因の分散分析を行ったところ,交互作用が有意であった(F(3.31, 195.23)=8.19, p<.001)。単純主効果の検定を行ったところ,低位群においてフィードバックの回数ごとの得点間に有意差が認められ(F(2.2, 19.8)=5.84, p<.01),学習開始時と4回目のフィードバック後の間及び2回目と4回目のフィードバック後の間に得点の有意な上昇が認められた。以上の結果から,学習意欲が低い子どもであっても,自身の学習が蓄積していく様子を示したフィードバックを受けることで,学習成果を実感することができ,学習意欲が向上したと考えられる。主要引用文献寺澤 孝文(2016). 教育ビッグデータから有意義な情報を見いだす方法―認知心理学の知見をベースにした行動予測 教育システム情報学会誌,33,67-83.
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.240-252, 2001-06-30

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題に対処するために能動的に制御された過程でもある。心配研究の主要な課題は, 心配がなぜ制御困難性になるのかを説明することである。本論文では, 先行研究を, (1)心配の背後の自動的処理過程を制御困難性のメカニズムとして重視する流れと, (2)心配の能動性そのものの中に制御困難性の要因を見いだそうとする流れ, の2つに分けたうえで, (2)に重点を置いて概観する。(2)の立場からの研究の課題は, さらに, a.心配の機能や目標を明らかにするという大局的なものと, b.そのような機能や目標を実現するための方略を明らかにするという微視的なものとに区分される。本論文では特にb.のような微視的な視点に立った研究の必要性を提唱する。
著者
丸野 俊一 高木 和子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.18-26, 1979-03-30
被引用文献数
6

本研究は,基本的な物語のシェマがどの年齢段階でどの程度できあがっているのか,また認知的枠組形成のための先行オーガナイザー情報が後続する物語の理解・記憶にどのような効果をもたらすのかを検討するために企画された。被験者は平均年齢6才2か月の保育園児42名と9才2か月の小学3年生42名である。刺激材料としては,33文からなり,7つの事象を含んでいる「ぐるんぱのようちえん」という短い物語が用いられた(TABLE1)。被験者は各年齢とも無作為に,順序提示群,ランダム提示群,統制群の3条件にふりわけられた。順序提示群とは,7つの事象を絵にしたものを先行オーガナイザー情報として物語の展開通りに被験者に提示される群である。ランダム群とは7つの絵画情報がランダムに提示される群であり,統制群とは,絵画情報が与えられない群である。 実験は3つの部分から成っている: (a)絵画的先行オーガナイザーによる枠組形成と物語の提示のセッション,(b)理解テストおよび事象の自由再生テストを含む直後テスト,(c)事象の自由再生のみを3目後に行う遅延テスト。(a)においては枠組形成後,"これから象さんの話をします。後でどんな話であったか私に話せるようによくおぼえて下さい」という教示のもとで物語が話された。主な結果は次のとおりである。 (1) 展開部,終末部および因果関係の叙述での6才児の得点は9才児の得点とほぼ同じであったが,9才児は6才児よりも開始部の理解がすぐれていた(FIG. 1)。 (2) 事象の初頭と新近性部位での再生率は中間部位の再生率よりも高いという系列位置の主効果が有意であった。さらに直後再生における初頭と新近性部位における再生率(それぞれ.97と.95)は,遅延再生における再生率(それぞれ.95と.93)と非常に類似していた(FIG. 2)。 (3) 9才児は6才児よりも事象の継続的順序性をよりよく再生した(TABLE4)。 (4) 直後テストにおける順序提示群での順序性把握の得点は,ランダム提示群や統制群よりも優れていたが,遅延テストでの3群間の成績には差異はみられなかった(FIG. 4)。
著者
室山 晴美 堀野 緑
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.298-307, 1991

The purpose of this study was to examine the factors affecting the losers' task cognition and the person cognition in a competitive situation. Two factors, the patterns of loss and winners' feedbacks to losers, were examined. The 2 x 2 experimental conditions were set. For the patterns of loss condition, winning a straight victory and winning a losing game were contained, and a positive and a negative feedbacks were contained for winners' feedbacks to losers. The subjects were 44 female university and graduate students participating in the othello game, in pairs. One of the pairs being an experimental assistant, subjects lost two games in all of three games. After each game was over, the manipulation of winners' feedback was done and then subjects were asked their evaluation about the task and the opponent in a questionnaire. The main results were as follows: 1) The pattern of loss affected both the task cognition and the person cognition as a partner of the game. 2) The winner's feedback affected the formation of the cognition for the partner's personal attraction and attitude.
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.452-463, 2010-12-30
被引用文献数
4

本研究では,高校生の英語学習を対象として,予習時に使用される学習方略と,授業中に使用される学習方略の関係について検討を行った。まず,予備調査を実施し,予習時の学習方略,授業中の学習方略に関する質問紙尺度を作成した。因子分析の結果,予習方略については「準備・下調べ方略」,「推測方略」,「振り返り方略」,「援助要請」の4因子,授業内方略については「要点・疑問点把握方略」,「メモ方略」,「受動的方略」の3因子が抽出された。高校生1,148名に本調査を実施し,パス解析を用いて英語学習動機,予習方略,授業内方略の関係モデルの構築を行った結果,予習時の準備・下調べ方略は授業中の要点・疑問点把握方略やメモ方略と正の関連を持つことが示された。また,予習時の推測方略は授業中の要点・疑問点把握方略と正の関連,受動的な方略と負の関連を持つことが示された。また,予習方略と授業内方略の間に直接のパスを想定しないモデルよりも,そのようなパスを想定したモデルの方がデータに対して高い適合度を示したことから,予習方略と授業内方略の間には,学習者の動機づけによって説明できない直接の関係が存在する可能性が示唆された。
著者
東山 薫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.359-369, 2007-09-30

本研究では,Wellman & Liu (2004)の主張する多面的な"心の理論"の発達が,日本の子どもにおいても同じように見られるかを追試すると共に,誤答した子どもの説明を分析することによって,より詳細に日本の子どもにおける"心の理論"の発達を検討することにした。すなわち,誤信念課題において指摘されてきたような通過率の遅れがこの尺度でも見られるか否か,日本の子どもがWellmanらの結果と同じ順序で段階的に心の理解が進むか否か,誤答分析によって"心の理論"課題を誤る原因を明らかにすること,を目的とした。3〜6歳の子ども120名にWellmanらの多面的な"心の理論"課題を実施したところ,Wellmanらと同様に年齢と共に段1皆的な発達が見られたが,誤信念課題において従来指摘されてきたように,多面的な概念を含む"心の理論"課題においても,日本の子どもは通過率が低かった。誤答の説明を分析すると,4,5歳児の3割近くが信念課題をどのように考えたかうまく説明できない場合と,理解できていない場合とが含まれていると考えられた。最後に,Wellmanらの課題の可能性と今後の課題について論じた。
著者
岡本 直子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.199-208, 1999-06-30

本研究の目的は, 1)親密な他者の存在と成功恐怖との関係, 2)成功恐怖の性質における性差, 3)性役割観すなわち, 男女が自分の性別に対する社会の期待をいかに認知しているかという「役割期待の認知」や, 成功者にどの様な性役割像を抱くかという「成功者イメージ」と, 成功恐怖の出現との関係, の3点を検討することである。大学生を対象に, I)性・対人関係の違いによる成功恐怖の出現の仕方を調べるための, 刺激文を与えそれに関する質問に自由記述で回答させる投影法的方法の課題, 2)役割期待尺度, 3)成功者に対するイメージ尺度, の3つからなる質問紙を配布し, 302名(男性149名, 女性153名)から有効なデータが得られた。データの分析結果から, 男性は競争場面において, 親友や恋人など,自分と親密な相手を負かして成功した場合に成功恐怖が高くなること, 一方, 女性は恋人を負かす場合に成功恐怖が高まることがうかがわれた。また, 女性が, 成功は女性としての伝統的なあり方に反するものであると感じる場合に成功恐怖を抱く傾向にあるのに対し, 男性は, 「失敗の恐れ」をもつ場合に成功に対して逃げ腰になる, というような, 男性と女性との成功恐怖の性質の違いが示された。また, 女性は, これまでの研究で男性的であるとされていた活動的な特性をもつことを望ましくないと評価すればするほど, 成功恐怖を抱きやすいことがうかがわれた。一方男性は, 望ましい男性的役割とはかけ離れたイメージを成功者に抱く場合に成功恐怖を抱きやすいことが示唆された。
著者
やまだ ようこ
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.146-161, 2000
被引用文献数
7

この論文では, 最近のライフストーリー研究を展望し, 特に生涯発達心理学の観点から, 理論的・方法的問題を論じる。第1に, 「物語」は「2つ以上の出来事をむすびつけて筋立てる行為」と定義される。人生の物語とは, 意味づける行為であり, 人生経験の組織化である。第2に, 人生の物語は, 静態的構造ではなく, 物語の語り手と聴き手によって共同生成されるダイナミックなプロセスとしてとらえられる。特に, 物語の「語り直し」は, 人生に新しい意味を生成する行為として重要だと考えられる。私たちは, 過去の出来事を変えることはできないが, 物語を語り直すことによって, 過去の出来事を再構成することが可能になるからである。第3に, 「物語としての自己」の概念は, アイデンティティやジェネラティヴィティ(生成世代性)の概念と関連づけられる。人生の物語を語ることは, 現世代から, 次の世代や未来世代へのコミュニケーションの重要な道具となる。
著者
道田 泰司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.193-205, 2011
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 大学での半期の授業の中でさまざまな形で質問に触れる経験をすることが, 質問に対する態度や質問を考える力に効果を及ぼすかどうかを検討することであった。授業では毎回, グループで質問を作ること, 個人で質問書を書くことに加え, 半期に1回グループで発表させることで, 質問することが必要となる場面を作った。授業初回と学期の最後に, 質問に対する態度の自己評定と, 文章を読んで質問を出す課題を行った。2年度に渡る実践の両方において, 学期末の調査で質問に対する態度が全般的に向上しており, 質問量も増加していた。質問量の増加は, 事実を問う質問や意図不明の質問によるものではなく, 高次の質問の増加である可能性が示唆された。その変化がどのように生じたのかを知るために, 質問量と質問態度それぞれについて, 事前テストでの成績によって学生を4群に分けて事後テスト結果を検討した。その結果, 事前テスト上位群以外の学生の質問量および質問態度が向上していることが示された。以上の結果より, さまざまな形で質問に触れる経験をさせた本実践の効果が示された。
著者
辻 和子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.43-47, 1973-03-31

要約本研究は中学生を対象とするカウンセリングにおいて,治療者の態度がどのように治療に影響を及ぼすかを研究したものである。中学生を対象にしたのは,中学生がプレイセラピーからカウンセリングに移った過渡期にあたり,プレイセラピー的な面を多く残し,大人のカウンセリングと比べると異質な面があると思われたからである。治療者の態度は,治療者の「関心の無条件性」,「関心のレベル」,「自分を知られることへの抵抗のなさ」,「共感的理解」,「自己一致」に分けられた。これらの要因に対する治療者自身あ認知とクライエントの認知が,本研究のために作成された質問紙で測定された。その結果,本研究の中学生のカウンセリングにおいては,治療者の「関心の無条件性」が最も治療効果と関係が深かった。これは,治療者が無条件的な関心をもっているとき,中学生のクライエントは脅威を感じずにどんな種類のことも自由に表現でき,それが治療効果に影響を及ぼすためと思われる。一方,この要因は治療者の熟練度とは関係がなく,例えば価値観だとか1お互いの好き嫌いといった,訓練によって得られないような種類のものと考えられる。したがって,どのような治療者がどのようなクライエントに無条件的になれるかを考えることは意味があるであろう。more expertな治療者はless expertな治療者よりもクライエントをより共感的に理解することがわかった。これは「共感的理解」が「関心の無条件性」とは逆に,治療者が訓練によって獲得しやすいものであることを示すと思われる。
著者
水間 玲子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.43-53, 2003-03
被引用文献数
1

自己嫌悪感にはその体験から自己形成に向かう可能性があると指摘される。本研究では,自己嫌悪感を体験する場面において,否定的な自己の変容を積極的に志向する態度を"変容志向"とし,それと他の変数との関係について検討した。変容志向は日頃の自己内省によって可能となること,未来イメージが肯定的なことと関連すること,同時に,それによって自己嫌悪感にとらわれる可能性もあること,また,日常の自己嫌悪感体験頻度によっても促進されること,を仮説として設けた。質問紙調査を行い,それらについて検討した。調査対象は大学生・大学院生255名(男子128名,女子127名)であった。その結果,自己嫌悪感場面における変容志向は,普段から自己内省の程度が低い者においては他よりも低いこと,未来イメージが肯定的である場合にも高くなっていることが明らかにされた。また,自己嫌悪感体験頻度が高い者において変容志向の程度も高くなっていたが,変容志向によって自己嫌悪感へのとらわれの程度が高まるわけではないようであった。
著者
馬場 安希 菅原 健介
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.267-274, 2000-09
被引用文献数
7

本論文では現代女性の痩身化の実態に注目し, 痩身願望を「自己の体重を減少させたり, 体型をスリム化しようとする欲求であり, 絶食, 薬物, エステなど様々なダイエット行動を動機づける心理的要因」と定義した。痩身は「幸福獲得の手段」として位置づけられているとする立場から, 痩身願望の強さを測定する尺度を構成するとともに, 痩身願望が体型への損得意識を媒介に規定されるモデルを検討した。青年期女子に質問紙による調査を行い, 痩身願望尺度の一次元構造を確かめ, ダイエット行動や摂食行動との関連について検討し, 尺度の信頼性, 妥当性が確認された。また, 体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と, 痩身願望との関連性を検討した結果, 「賞賛獲得欲求」「女性役割受容」「自尊感情」「ストレス感」などに関連があることが示された。そこで, これらの関連を検討したところ, 痩せれば今より良いことがあるという「痩身のメリット感」が痩身願望に直接影響し, それ以外の変数はこのメリット感を媒介して痩身願望に影響することが明らかになり, 痩身願望は3つのルートによって高められると考えられた。第1は, 肥満から痩身願望に直接至るルートである。第2は, 自己顕示欲求から生じる痩身願望で, 賞賛獲得欲求と女性役割受容が痩身によるメリット感を経由して痩身願望と関連しており, 痩身が顕示性を満足させるための手段となっていることが示唆された。第3は, 自己不全感から発するルートである。自尊感情の低さと空虚感があいまったとき, そうした不全感の原因を体型に帰属し, 今の体型のせいで幸せになれないといった「現体型のデメリット感」を生じ, さらにメリット感を経由して痩身願望に至ることが示された。これらの結果から, 痩身願望が「女性的魅力のアピール」や「自己不全感からの脱却」を目的として高まるのではないかと考えられた。
著者
濱口 佳和 藤原 健志
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.59-75, 2016
被引用文献数
6

本研究は, 高校生用の自記式能動的・反応的攻撃性尺度の作成, 能動的・反応的攻撃性と身体的攻撃・関係性攻撃との関連, 能動的・反応的攻撃性類型の心理・行動的特徴を明らかにすることを目的として行われた。高校1~3年生2,010名に対して, 中学生対象に開発された自記式能動的・反応的攻撃性尺度を実施し, 探索的因子分析を実施したところ, 中学生同様の6因子が得られた。検証的因子分析の結果, 仲間支配欲求, 攻撃有能感, 攻撃肯定評価, 欲求固執からなる能動的攻撃性と報復意図と怒りからなる反応的攻撃性の斜交2因子モデルが高い適合度を示した。6下位尺度については, 攻撃肯定評価でやや低いものの, 全体として高い信頼性が得られ, 情動的共感尺度や他の攻撃性尺度等との相関により併存的妥当性が実証された。重回帰分析の結果, 性別と能動的・反応的攻撃性によって, 身体的攻撃の約40%, 関係性攻撃の約30%が説明されることが明らかにされた。クラスター分析の結果, 能動的攻撃性・反応的攻撃性共に高い群, 反応的攻撃性のみが高い群の2種類の攻撃性の高い群が発見され, Crapanzanoの重篤モデルを支持する結果が得られた。
著者
浅野 志津子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.141-151, 2002-06-30
被引用文献数
6

生涯学習に参加し続けるためには,学習に意欲的に取り組む「積極的関与」のみならず,長期的に学習を続けようとする「継続意志」も必要となる。研究1では,これら2つがどのような要因によって促進されるのかを学習動機を中心に検討する。放送大学と一般大学学生等計879名に質問紙調査を行い,「積極的関与」「継続意志」「学習動機(5尺度)」の各尺度を構成した。「積極的関与」「継続意志」は,放送大学学生が一般大学学生よりも高く,生涯学習参加における重要な側面であることが示唆された。重回帰分析の結果,「積極的関与」を強化する主な学習動機は「特定課題志向」であり,「継続意志」に関しては「自己向上志向」と「特定課題志向」であった。研究2では,これらの学習動機がどのように生涯学習を促進するようになったのかその過程を検討するために高齢の放送大学学生13名に面接を行った。その結果,「自己向上志向」の学習動機は青少年期の学習不充足感に端を発し,仕事上の挑戦,すぐれた人との比較を経て強められ「継続意志」につながり,「特定課題志向」は青少年期の学校または仕事外で課題に取り組む経験を経て,現在の課題に対する「積極的関与」を高めている傾向が示唆された。