著者
原岡 一馬
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.29-40, 1957-02-25
被引用文献数
2

以上の結果を要約すれば,〔一〕から,1知能以上の成績を上げた子も,無能以下の成績1しか上げ得なかった子も,家庭環境を一定とすれば知能と学業成績とは相当高い相関関係を示す(.7〜.8)し,学業成績は知能と環境との重相関では,ほとんど完全に近い相関係数を示す(.88〜.99)。又どちらも,知能と環境との相関はほとんどOであった(.018〜.039)。2知能以上の学業成績を上げた生徒は,知能以下の成績を上げた生徒よりも,家庭環境得点において有意に高く(田中研究所・家庭環境診断テスト使用),中でも「子供のための施設」「文化的状態」「両親の教育的関心」が特に大きな差を表わし,次に「家庭の一般的雰囲気」が重要だと云える。3オーバー・アチーバーのグループでの知能,学業成績及び家庭環境の関係と,アンダー・アチーバーのグループでのそれらの関係とでは,オーバー・アチーバー内では学業成績を上げるに環境の影響が少なく,アンダー・アチーバー内での学業成績に対する環境の影響は高かった。4叉各項目について,オーバー・アチーバーとアンダー・アチーバーとの有意な差を示すもの16を取り上げてみると,(1)同胞数について,1人子と6人以上の兄弟を持っているものは,アンダー・アチーバーの方が多かった。(2)家を引越した数はオーバー・アチーバーの方が多かった。(3)教科書以外の本が6冊以上ある家は,オーバー・アチーバーの方が多い。(4)一人当りの部屋数では.60以上がオーバー・アチーバーの方に多かった。(5)家に字引が二種類以上あるのは,オーバー・アチーバーの方が多かった。(6)家で決って子どものために雑誌を取ってもらったことのないのは,アンダー・アチーバーの方が多かった。(7)新聞を取っていない家庭は,アンダー・アチーバーが多かった。(8)両親が月に一回以上教会やお寺,お宮に参るかということについて,「時にはすることがある」というのにオーバー・アチーバーが多く,「お参りする」「全然しない」の両端は,アンダー・アチーバーの方が多かった。(9)家庭のお客様の頻度では「普通」がアンダー・アチーバーに多く,「比較的に少ない」と「比較的に、多い」との両端が(8)の場合とは丁度逆にオーバー・アチーパーに多かった。(10)家庭がいつもほがらかだと感ずるのは,アンダー・アチーバーであった。(11)お母さんの叱り方では,「全然叱らない」のが多いのはアンダー・アチーバーであった。(12)子どもが家でじゃまもの扱いにされていると全然思わないのは,オーバー・アチーバーが多かった。(13)両親とも働きに外に出ているのは,アンダー。一アチーバーが多かった。(14)両親が服装や言葉遣い等に全然注意しないのはアンダー・アチーバーが多かった。(15)子どものことについて,両親が口げんかをほとんどしないのはオーバー・アチーバーが多かった。(16)叉誕生日に何か送りものやお祝を「たいていする」のはアンダー・アチーバーに多く,「全然しない」「時にはすることがある」にはオーバー・アチーパが多かった。5以上のことから考えられることは,知能以上の学業成績を上げるには文化社会的家庭環境の影響が大であることが多くの研究結果と同様に示された。6次に推論出来ることは全体としてオーバー・アチーバーがアンダー・アチーパーより家庭環境はよいが,成就指数が高くなるに従って学業成績に及ぼす環境の影響度は少なくたって行くと云うことであり,連続的に見れば成就指数と環境との関係グラフは成就指数を横軸に,環境を縦軸に取れば,指数曲線状を描きその変化率が次第に減少すると仮定することが出来よう。7ここではオーバー・アチーパーとアンダー・アチーバーの両端を取って調べたため,その連続的傾向を見ることが出来なかったので,次に全体調査を行って上の推論を検証することとした。次に〔二〕から1 努力係数(FQ)と家庭環境得点とは正の相関(γ_<FQ・En>=302)を有すること,、(但しこの場合,その関係グラフは指数曲線状であり,相関係数は直線を仮定する故低い値となったであろう)。これに比して,学業成績はFQと高い相関(γ<FQA>=.71)を有し,知能はそれとほとんど無関係である。(γ_<FQ1>=111)2 オーバー・アチーパーがアンダー・アチーパーより一般に高い環境得点を有しているが,その関係の程度は努力係数が高くなればなる程低くなる。即ち努力係数と環境との関係は指数曲線状を描く。3 努力係数の変動の大部分は学業成績・環境・及び学業成績と知能との交互作用にあり,知能にはほとんどないのである。しかしながら,環境か努力係数の変動の中で無視されないほどの変動を有し,叉努力係数と.302の相関を有するということから,努力係数を構成するには,FQやAQのように知能と学業成績だけから作成されたイソデックスだけでは不充分ではなかろうか。そこには当然環境という要素をその重要度に応じて入れることが必要でh</abst>
著者
平山 るみ 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.186-198, 2004-06
被引用文献数
21

本研究の目的は,批判的思考の態度構造を明らかにし,それが,結論導出過程に及ぼす効果を検討することである。第1に,426名の大学生を対象に調査を行い,批判的思考態度は,「論理的思考への自覚」,「探究心」,「客観性」,「証拠の重視」の4因子からなることを明らかにし,態度尺度の信頼性,妥当性を検討した。第2に,批判的思考態度が,対立する議論を含むテキストからの結論導出プロセスにどのように関与しているのかについて,大学生85名を用いて検討した。その結果,証拠の評価段階に対する信念バイアスの存在が確認された。また,適切な結論の導出には,証拠評価段階が影響することが分かった。さらに,信念バイアスは,批判的思考態度の1つである「探究心」という態度によって回避することが可能になることが明らかにされ,この態度が信念にとらわれず適切な結論を導出するための重要な鍵となることが分かった。
著者
犬塚美輪 島田英昭 深谷達史 小野田亮介 中谷素之
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画の趣旨 論理的文章の読み書きは,教授学習の中の中心的活動の一つである。自己調整学習の研究や指導実践が数多く実施され,読解や作文を助ける方略やその指導が提案されてきた。 本シンポジウムの第一の目的は,読むことと書くことの関連性を捉え,その観点から新たな論理的文章の読み書きの指導を考えることである。読むことと書くことの研究は,別の研究領域として扱われることが多かった。しかし,両者は本来テキストによって媒介されるコミュニケーションとしてつながりを持つものと考えられる(犬塚・椿本,2014)。従来明示的でなかった読むことと書くことのつながりを意識することで,読み書きの研究・実践に新たな視点を提示したい。 第二の目的は,感情の側面を視野に入れた読み書きのプロセスを検討することにある。論理的文章の読み書きでは,動機づけ以外の情動的側面に焦点があてられることが少ないが,その一方で,情動要因の影響を示す研究も増えている。特に実践の場では学習者の情動的側面は無視できない。これらの観点を総合的に踏まえ,論理的文章の読み書きの指導について検討したい。感情と論理的文章の読み書き島田英昭 文章の読み手は感情を持つ。論理的文章を書いても,読み手の感情によっては論理的に読まれない。本シンポジウムでは,読み手の感情が文章の読みに影響することを示した,話題提供者自身の実験研究を2点紹介し,論理的文章の読み書きについて二重過程理論の観点から考える。 第1の実験研究は,読解初期の数秒間における読みのプロセスである(島田, 2016, 教育心理学研究)。実験参加者は,タイトル,挿絵,写真の有無等が操作された防災マニュアルの1ページを2秒間一瞥し,そのページをよく読んでみたいか,そのページがわかりやすそうか,の質問に答えた。その結果,タイトル,挿絵,写真の存在が,読み手の動機づけを高めることを示した。また,タイトルのような文章の構造に関わる情報の効果は,挿絵・写真のような付随的な情報の効果に比べ,より高次の認知プロセスによることが示唆された。 第2の研究は,共感と読みの関係である(Shimada, 2015, CogSci発表)。教員養成課程の学生が,「わかりやすい教育実践報告書の書き方」と題されたマニュアルを読み,内容に関するテストへの回答,主観的わかりやすさの評価等を行った。マニュアルは2つの条件で作成し,一つは書き方のマニュアルに特化した統制条件,もう一つは執筆者のエピソードや挿絵等を追加した実験条件であり,実験条件は執筆者への共感喚起を意図したものであった。その結果,実験条件は統制条件に比べ,内容テストの得点は低かったが,執筆者に対する共感,主観的わかりやすさが高かった。 これらの実験研究は,読み手が文章を読むときに,動機づけや共感等の感情が影響していることを示している。ここから,論理的文章の読み書きについて,二重過程理論の観点から考える。二重過程理論とは,人間の思考や意思決定が無意識的,直観的で素早いシステム1と,意識的,熟慮的で遅いシステム2の並列処理により行われるというモデルである。このモデルから,読み手が論理的文章を論理的に読むための条件として,(1)読み手がシステム2を働かせる動機づけを高めること,(2)読み手がシステム1の感情的偏りに気づき,論理的情報を論理的に処理すること,の2点が浮かび上がる。本シンポジウムでは,読み手のこのような特性に基づき,「論理的に読んでもらえる論理的文章」について議論する。自ら方略的に読み書く児童を育てる授業実践―小学校4年生における説明的な文章の指導―深谷達史 文章を的確に読むための知識は,文章を的確に書くためにも有用であることがある。例えば,説明的な文章が主に「問い-説明-答え」の要素からなるという知識は,説明文を読む場合のみならず書く場合にも活用可能だろう。本研究は,説明的な文章の読解と表現に共通して働く知識枠組みを「説明スキーマ」と捉え,小学校4年生1学級を対象に,説明スキーマに基づく方略使用を促す2つの説明的文章の単元の実践を行った。 実践1は1学期の5月に(単元名「動物の秘密について読んだり調べたりしよう」),実践2は2学期の10月に行われた(単元名「植物の不思議について読んだり知らせたりしよう」)。2つの実践では,単元の前半に説明スキーマを明示的に教授し,問いの文を同定するなど,説明スキーマを活用して教科書の教材を読み取らせた。単元の後半では,問い-説明-答えの要素に基づき,授業時間外に読んだ関連図書の内容を説明する文章を作成した。また,こうした単元レベルの主な手だての他,1単位時間の工夫としても,ペアやグループで読んだことや書こうとしていることを説明,質問しあう言語活動を設定し,内容の精緻化を図った。 効果検証として3つの調査を行った。事前調査は4月に,事後調査は11月(表現テストのみ12月)に実施した。第1に,質問紙調査を行った。例えば,読みと書きのコツについて自由記述を求めたところ,読み・書きの両方で,事前から事後にかけて説明スキーマに基づく記述数の向上が認められた。第2に,実際のパフォーマンスを調べるため,授業で用いたのとは別の教科書の教材をもとにテストを作成し,回答を求めた。その結果,問いの文を書きだす設問と適切な接続語を選択する設問の両方で,正答率の向上が確認された。最後に,事後のみだが,他教科(理科)の内容でも,自発的に説明スキーマに基づく表現を行えるかを調査したところ,大半(9名中8名)の児童が,問い-説明-答えの枠組みに基づいて表現できた。自己調整学習の理論では,他文脈での方略活用が目標とされることからも(Schunk & Zimmerman, 1997),論理的に読み書く力を育てる試みとして本研究には一定の意義があると思われる。意見文産出における自己効力感の役割小野田亮介 意見文とは「論題に対する主張と,主張を正当化するための理由から構成された文章」として捉えられる。主張を正当化する理由には,自分の主張を支持する「賛成論」だけでなく,主張に反する理由である「反論」とそれに対する「再反論」が含まれるため,論理的な意見文には,これらの理由が対応し,かつ一貫していることが求められる。それゆえ,意見文産出に関する研究では,学習者が独力で適切な理由選択を行い,一貫性のある文章を産出するための目標や方略の提示が行われてきた(e.g., Nussbaum & Kardash, 2005)。 ただし,理由間の一貫性を考慮した文章産出は認知的負荷の高い活動であるため,上述の介入を行ったとしても全ての学習者が目標を達成できるとは限らない。忍耐強く文章産出に取り組むためには,文章産出に対する動機づけが不可欠であり(e.g., Hidi & Boscolo, 2006),中でも「自分は上手に文章を産出できる」といった自己効力感を有することが重要だと指摘されている(e.g., Schunk & Swartz, 1993)。したがって,目標達成を促す介入を行ったとしても,そもそも学習者の意見文産出に対する自己効力感が高くなければ,介入の効果は十分には得られない可能性がある。 ところが,筆者のこれまでの研究では,意見文産出に対して高い自己効力感を有する学習者ほど,目標達成に消極的であるという逆の結果が確認されてきた(小野田,2015,読書科学)。その原因として考えられるのは,意見文産出に対する自己効力感が「自分なりの書き方への固執」と関連している可能性である。すなわち,「自分は上手に意見文を産出できる」と考えている学習者は,書き方を修正する必要性を感じにくいため,意見文産出の目標や方略を外的に与えられたとしても書き方を修正しようとしなかった可能性がある。 ここから,意見文産出指導では自己効力感がときに介入の効果を阻害することが予想される。その場合には,学習者の自己効力感を揺らしたり,一時的に低減させるような指導が必要になるのかもしれない。本発表では,これらの研究結果について紹介しつつ,説得的な意見文産出を支援するための工夫について考えていきたい。
著者
大対香奈子 田中善大 庭山和貴 月本彈# 小泉令三
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画趣旨大対香奈子 この20年間で教育に関わる行政や法制度はめまぐるしく変化し,特に最近の動向としてはインクルーシブ教育,合理的配慮,予防的支援,チーム学校というキーワードが特徴的である(石隈, 2017)。これまでの,発達障がいや不登校といった支援を必要とする児童生徒に個別に支援を行うという考え方から,全ての児童生徒を対象とした予防的観点からのアプローチ,そして教員と専門家がチームとして取り組むという支援体制が強く求められるようになってきている。 このような社会的要請に応じるための一つの学校支援のあり方として,スクールワイドのポジティブな行動支援(School-wide Positive Behavior Support; SW-PBSまたはSchool-wide Positive Behavioral Interventions and Supports; SW-PBIS)がある。SW-PBSはアメリカではすでに25,000校以上で導入されており,問題行動の減少,学力や授業参加行動の向上,学校風土の改善等の効果があることが実証されている。近年,日本においてもSW-PBSが注目され,少しずつではあるがその導入が進められている。本シンポジウムでは,日本におけるSW-PBSの実践例を話題提供者から紹介していただき,日本において導入する上での課題について議論をしたい。また,その普及における導入の忠実性をどのように保ち,効果のエビデンスをどう示していくかということについても検討していきたい。指定討論者には社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning; SEL)の導入実践の日本における第一人者である小泉令三先生にお越しいただき,SELの導入を進めてこられた経験から指定討論をしていただく。小学校のSW-PBSにおける第1層支援の効果検討月本 彈 近年SW-PBSは,日本において導入が進められつつあるが,依然効果検討がほとんどなされていない。また,日本に導入する際に必要となる人材やコストや課題なども明らかでない。 話題提供では,徳島県の公立小学校へ導入したSW-PBSの全学級・全児童を対象とした第1層支援の実践について紹介する。本実践では,応用行動分析学の専門家が,研修や助言を行った。対象校の教職員は,コーディネーターを中心とし,学校目標マトリックス図を作成し,その中の優先度が高い行動目標について,行動指導計画を作成し,それに従って児童に対して行動目標の指導が行われた。具体的には,きまりを守るための行動(授業に必要なものを準備するなど), 自分と友達を大事にするための行動(あったか言葉を使うなど),すてきな言葉をつかう(あいさつをするなど)の3つに関わる行動が指導された。 行動の指導の方法は,主に教職員による教示,モデリングとロールプレイ,賞賛やグラフフィードバックによる強化であった。本実践の効果について,行動指標(指導された行動に関する行動変容の記録)と評価尺度のデータ(日本語版School Liking and Avoidance Questionnaire(SLAQ)と日本語版Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ)を修正したもの)から検討した。さらに,教職員への今回の取り組みについての重要性や負担感,成果などを尋ねるアンケートから,社会的妥当性を検討するとともに,管理職へ今回の取り組みに関する付加的な予算の使い道などをアンケートで尋ねることでSW-PBSを導入する際に必要な人材やコストと課題についても検討する。中学校の学年ワイドのPBISが生徒指導件数に及ぼす効果―日本の学校教育現場におけるデータに基づく意思決定システムの可能性―庭山和貴 SW-PBISの要素として,子どもの行動に対するポジティブな行動支援の“実践”,それを実施する教職員の行動を支援するための“システム”,そしてこれらが上手く機能しているかどうかを確認・改善するための“データ”に基づく意思決定,が挙げられる (Horner & Sugai, 2015)。これらの要素のうち,日本の学校教育現場への普及を考えた際に最も導入困難なのは“データ”である。米国では,Office Discipline Referral (ODR) と呼ばれる問題行動の記録が,SW-PBISの効果指標として広く使われており,どの子どもにより集中的な支援が必要なのか,どの場面・時間帯の問題行動を重点的に予防すべきか,などの意思決定のために活用されている。 日本の教育現場においても,特に中学校・高校では生徒指導の記録(生徒指導担当教諭に報告するレベルの問題行動の記録)を記述的に残している場合がある。米国のODRを参考にして,このような生徒指導の記録を,教育現場におけるより良い意思決定や,支援の効果検証に活用可能な形にすることは可能である。 本話題提供では,関西圏の公立中学校において,学年規模のPBISを実施し,その効果検証に生徒指導の記録を用いた実践研究について紹介する。介入の効果指標として,記述的に残されていた生徒指導の記録を,ODRの記録フォーマットを参考に,件数として把握できる形に整えた。そして,この生徒指導件数を各月の授業日数で割り,一日当たりの生徒指導件数の月毎の推移をグラフ化した。介入として,庭山・松見(2016)をもとに,生徒の望ましい行動を担任教師らが積極的に言語賞賛する取り組みを実施した。さらに生徒指導担当教諭が,担任教師らの取り組みが持続しやすいように教師支援を行った。その結果,担任教師らの授業中の言語賞賛回数が増え,子ども達の望ましい行動が増加した。そして,問題行動は相対的に減少したことが,生徒指導件数の減少により確かめられた。本話題提供では,この実践研究の過程において,生徒指導件数の記録がどのように支援の継続や改善の意思決定のために活用されたのかについて述べ,日本の教育現場におけるデータに基づく意思決定システムの可能性について検討する。小学校における学級を基礎としたSW-PBSの展開田中善大 学級は,日本の学校における基礎的な単位であり,児童生徒への支援を考える上で重要なものである。SW-PBSでは,学校全体(第1層)から小集団(第2層),個人(第3層)へと階層的で連続的な支援を実施する。学級という単位はどの層の支援にも関連するため,SW-PBSの実践において重要なものとなる。 SW-PBSにおいておける学校規模での1層支援は,日本においても学級単位(Class-wide: CW)であれば多くの実践が効果的に実施されている。学級において効果が確認されたポジティブな行動支援の方法を学校全体で共有し,実施すればSW-PBSにおける1層支援となる。また,必要な児童に対しては,学級集団に対する介入と合わせて,より個別的な支援を実施している場合も多い。これは学級単位での多層支援であり,1層支援と同様に効果的なものを学校全体で共有することで効果的にSW-PBSを進めることができる。 話題提供では,SW-PBSの導入校(話題提供1と同様の学校)の4年生2学級において実施した学級単位の介入及びその後実施された学校規模の取り組みについて紹介する。学級単位での介入では,多層支援として,学級全体に対する介入とより個別的な介入を実施し,その効果を確認した。学級全体の介入で対象とした行動は,学校全体で作成した学校目標マトリックス図をもとに決定した(「おへそを向けて話を聞く」「うなずきながら話を聞く」など)。介入では,学級単位のSSTの実施,適切行動を引き出す声掛け及び適切行動に対する言語称賛,集団随伴性に基づく介入などを実施した。また,学級全体に対する介入に加えて一部の児童に対してはより個別的な支援を実施した。教員による行動観察の結果から,学級介入の効果(適切行動の増加)が確認された。効果が確認された学級(CW)に対する介入は,より簡易な形に変更して学校全体(SW)でも実施された。話題提供では,これらの実践の報告から,学級を基礎としたSW-PBSの展開について検討する。小学校のSW-PBSの導入による教師の行動変化大対香奈子 実践の忠実性とは,その実践が理論的モデルやマニュアルに沿って意図されたように実践された程度と定義され(Schulte, Easton, & Parker, 2009),忠実性の高いSW-PBSほど効果的であることは様々な成果のデータから示されている(Horner et al., 2009; Kelm & McIntosh, 2012)。つまり,しかるべき手続きがどの程度忠実に実践されているかということが,高い効果を生むかどうかを左右するのである。SW-PBSは学校規模での実践であるため,その実践者は全教師である。 SW-PBSでは,問題行動に注目するのではなく,より適応的な行動を児童生徒に明確に呈示し,教え,その行動が見られた時には承認するという手続きが重要な要素として含まれる。したがって,教師が児童生徒の望ましい行動を効果的に賞賛したり承認したりすることが大きなポイントとなる。教師の賞賛は,適切な行動や学業従事行動を増加させるという実証研究は数多くあるが(Chalk & Bizo, 2004; 庭山・松見, 2016),SW-PBSの導入により実際に教師の賞賛行動が増えるのかについて検討したものはほとんど見当たらない。 そこで,本話題提供では,大阪府の公立小学校へのSW-PBSの導入により,教師の児童に対する賞賛および叱責の回数がどのように変化したのかという実践例のデータを示しながら,SW-PBSの導入が教師のどのような行動変化を生むのかについて,検討したい。また,SW-PBSの効果につながるような教師の行動変化を生むためには,どのような導入の手続きが必要と考えられるかについても議論し,今後の日本におけるSW-PBSの普及と効果的な導入のために,教師や校内のリーダー的役割を果たす教師への研修に含めるべき内容や必要な導入の手続きについて検討する。また,SW-PBSのゴールとしては関係するすべての人のQOLを高めることであるため,SW-PBSの導入により起こった教師の行動変化が,児童生徒や教師自身のQOLの向上にどのようにつながり得るのかについても今後の展望として検討したい。
著者
石津 憲一郎 安保 英勇
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.442-453, 2009-12-30
被引用文献数
7 8

過剰適応はいわゆる「よい子」に特徴的な自己抑制的な性格特性からなる「内的側面」と,他者志向的で適応方略とみなせる「外的側面」から構成されている。これまでこの2つの高次因子は並列的に捉えられてきたが,内的側面は具体的な行動を生起させる要因として想定することができる。そこで本研究では,幼少時の気質と養育者の態度を含め,因子間の関連性を再検討することを第1の目的とし,過剰適応の観点を含めた包括的な学校適応のモデルの構築を第2の目的とした。1,025組の中学生とその母親を対象にした調査の結果,養育態度や気質から影響を受けた「内的側面」によって「外的側面」が生起するモデルの適合度が相対的に高いことが示された。また,過剰適応の内的側面である「自己不全感」や「自己抑制」が「友人適応」や「勉強適応」に負の影響を与える一方で,「自己不全感」や「自己抑制」が過剰適応の外的側面に繋がった場合には,外的側面はそれらの適応を支えるべく作用していたが,抑うつ傾向には影響を与えていなかった。個人が過剰適応することで社会文化的には適応していく可能性があるが,心理身体レベルでの適応とは乖離がなされていくことが想定される。
著者
佐々木 万丈
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.69-80, 2001
被引用文献数
3

本研究の目的は, 中学生の体育学習における能力的不適応経験時のコーピング形態を測定できる尺度を開発することであった。まず, 男女中学生827名に対するコーピング記述の因子分析結果に基づいて3下位尺度・26項目 (ストラテジー追求, 回避的認知・行動, 内面安定) の中学生用体育学習ストレスコーピング尺度 (SCS・PE) が作成された。次に, クローンバックのα係数とテストー再テスト法によって信頼性が, 構成概念的妥当性, 基準関連妥当性, 交差妥当性および弁別力の検討によって妥当性の検証がそれぞれ行われ, いずれも満足できる結果が得られた。以上によりSCS-PEはコーピング尺度として信頼性と妥当性を有することが確かめられた。さらにSCS-PEの5段階評価基準が設定され, 尺度としての有用性と今後の課題が討論された。まず, SCS-PEは生徒のコーピング状況を予測・査定でき, また, 体育嫌いや運動嫌いになることを認知的側面から予防する資料を提供できるという点で有用であることが指摘された。次に, 今後の課題として, 実践場面との関連からも信頼性と妥当性の検討が行われなければならないことが指摘された。
著者
鈴木 有美 木野 和代
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.487-497, 2008-12-30
被引用文献数
17

本研究の目的は,共感性の多次元的アプローチに従い,他者の心理状態に対する認知と情動の反応傾向をそれぞれ他者指向性-自己指向性という視点から弁別的に測定しうる多次元共感性尺度(MES)を作成し,その信頼性と妥当性を検証することであった。先行研究における概念定義の議論および既存尺度の構成を概観し,「他者指向的反応」「自己指向的反応」「被影響性」「視点取得」「想像性」の5つの下位概念を設定した。これらを測定する項目を作成し,質問紙調査を実施した。大学生871名から得られた回答について因子分析を行った結果,5つの下位概念に対応する5因子が得られた。α係数,I-T相関係数,再検査信頼性係数などの結果から信頼性を検討した。また,既存の共感性尺度および共感性との関連が予想される概念を測定する尺度との相関から妥当性を検討した。今後,自我発達との関連など認知・情動反応傾向の指向性を規定している要因の検討を進めることが,共感性に関する応用研究において有益と考えられる。
著者
佐田 吉隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.138-144, 2000-06-30
被引用文献数
3

本研究の目的は, 朗読による精神面での積極的休息が知覚-運動学習に及ぼす効果を検討することであった。テスト試行10試行間それぞれの, 1分間の休憩中における3つの技法の回復促進効果が比較された。3つの技法は次のようなものであった。(a)積極的休息(筋)群は, 回転板追跡学習(右手)の休止期間にタッピング(左手)に従事した。(b)積極的休息(心)群は, 実験とは無関係の書物を朗読した。(c)消極的休息群は, できるだけ体を動かさず実験に関する思索をしないように休憩した。その結果, 休憩中に朗読することが最も効果的な回復技法であった。朗読群の被験者は, 技能習得試行において, 他の2つの技法よりも接触時間で有意に優れていた。休憩中に朗読することはまた, フリッカー値の上昇をもたらした。しかし, 統計的には認められなかった。覚醒水準の上昇の可能性が考察された。
著者
瀬戸 瑠夏
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.174-187, 2006-06-30

2001年度以降,公立中学校へのスクールカウンセラー(以下,SC)全校配置が決定された。これに対応して,学校コミュニティに根ざした活動のあり方について,より詳細に検討していく必要がある。本研究では,学校組織全体を援助する方略の一つであるオープンルームに焦点を当て,その活動の場としての面接室(スクールカウンセリングルーム;以下,ルーム)が,どのような機能構造を有しているのかを検討した。方法として公立中学校でのフィールドワークを行い,質問紙調査(研究1)・観察調査(研究2)・面接調査(研究3)を通して,生徒の視点からルームの機能構造を探った。その結果,「開かれた異空間」「私的な異空間」から成る重層的二空間構造を見出した。さらに,研究1〜3によって深めた仮説的知見に基づき,11の機能カテゴリーを重層的二空間モデルとして再構成した。これにより,オープンルーム活動を通して問題解決が可能であることが示唆され,「スクールカウンセリングにおいて特徴的な,個人面接とも日常生活とも異なる中間領域」としての意義が明らかになった。
著者
竹内 朋香 犬上 牧 石原 金由 福田 一彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.294-304, 2000-09
被引用文献数
1

不眠, 不充分な睡眠や付随する疲労は, 行動問題や情動障害に関連し, 二次的な学業問題, 集中力欠如, 成績悪化などに結びつく。そこで本研究では, 睡眠問題発現の予防学的側面をふまえ第1に, 睡眠習慣調査の因子分析により大学生の睡眠生活パタンを総合的に把握する尺度を構成した。第2に, 尺度得点のクラスター分析により睡眠習慣を分類し, 大学生の睡眠衛生上の潜在的問題点を検討した。因子分析により睡眠に関する3尺度-位相関連(朝型・夜型と規則・不規則関連9項目), 質関連(熟眠度関連6項目), 量関連(睡眠の長さと傾眠性関連6項目)-を抽出し, 通学など社会的要因との関連を示唆した。分類した6群のうち4群は, 睡眠不足, 睡眠状態誤認, 睡眠相後退など睡眠障害と共通点を示し, 時間的拘束の緩い大学生活から規則的な就業態勢への移行時に睡眠問題が生じる危険性を示唆した。また本研究のような調査票による, 医学的見地からみた健常範囲内での睡眠習慣類型化の可能性を示唆した。分類結果に性差を認め, 短時間睡眠で高傾眠群, 睡眠の質が悪いが朝型, 規則的で平均睡眠量の群で女子の, 夜型, 不規則, 睡眠過多な群, 夜型, 不規則で睡眠の質が悪い群では男子の割合が高かった。従来の知見をふまえ生物学的要因の関与を推測した。
著者
郡司菜津美 岡部大介# 大内里紗 松嶋秀明 有元典文
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

企画趣旨 本シンポジウムでは,学校インターンシップに着目し,状況論から見える2つの「思い込み」について議論してみたい。 学校インターンシップとは,「教員養成系の学部や学科を中心に,教職課程の学生に,学校現場において教育活動や校務,部活動などに関する支援や補助業務(文部科学省,2015)」のことであり,教員免許取得に必須である「教育実習」とは異なる位置付けで導入されはじめている。文部科学省は,この学校インターンシップの導入により,「理論と実践の往還による実践的指導力の基礎の育成」が達成されることを期待しているが,その学びを確実なものとするためには,十分な環境整備が必要であることも強調している。実際に,学生を受け入れる学校の確保,学生への事前・事後指導,学校側のニーズを把握する情報提供機会の確保といった環境整備のためには,教育委員会と学校,及び大学が十分に連携する必要があるだろう。 しかし,実態として,学生・現場教員・大学教員が連携するためのシステムは未だ十分に構築されているとは言い難く,学生が「理論と実践を往還する」ための十分な取り組みがなされていない現状がある(麻生,2016)。本シンポジウムでは,こうした現状を打開する一つの手立てとして,2つの「思い込み」に着目してみたい。2つの「思い込み」とは⑴学校インターンシップは「インターン個人が学習する機会」であり,⑵指導者が「その場で指導するもの」であるといったものである。これらの学校インターンシップに関する思い込みは,学校インターンシップという「インターンの学習のための制度」が前提となったカメラワークによって現前してしまうものであり,状況的学習論は個人から状況へとカメラをズームアウトすることにその特徴がある。本シンポジウムでは,2人の話題提供者から,それぞれの「思い込み」についての知見を提供していただき,今後の学校インターンシップのあり方について再考していきたい。本シンポジウムでは話題提供・指定討論の後,参加型のワークショップ形式でフロアとの対話を深めていきたいと考えている。話題提供学校インターンシップは「インターン個人が学習する機会」なのか?大内里紗(横浜国立大学大学院) 横浜国立大学大学院のカリキュラムには,「教育インターン」という必修科目が設けられている。今回は筆者の「教育インターン」における実践について紹介することで,学校インターンシップでは誰が・どのように・学習するのか,ということについて議論していきたい。 本実践は,非行・いじめ・校内暴力・学級崩壊などの問題を持つ課題集中校である公立中学校で行った。生徒指導上の問題を持つ男子生徒2名(P, Q)に対し,中学校教員と大学チームが連携して支援を行った。実践では,P, Qにとって必要な教材や人材といった支援・指導は何かを,かれら当事者2名と教員,大学の支援チームが共に話し合うオープン・ダイアログ形式(Seikkula and Olson, 2003)を採用した。この支援実践は「中・大連携学習環境デザイン研究」と名付けられ,中学校と大学チームの共同研究いう形式でP, Qも研究者の一員として始められた。2016年5月までに6回の実践を行い,うち3回が面接を,3回が学習支援を中心とした実践であった。 本シンポジウムでは第6回の実践における支援とその後の中学校教員と大学チームの対応を事例として,学校インターンシップが誰にとっての,どのような学習の場であるのか,を検討する。第6回はP, Qが中学3年生になって初めての,面接を中心とした実践であった。実践ではP, Qにまず学習,生活面それぞれにおいて「今困っていること」について尋ねた。志望高校についての意思表明とそのために必要な勉強への言及があったその後,「部活のルールが納得できないでいる」という話題が始まった。昨年,彼らが2年生の時に顧問によって作られた10のルールが,今年に入ってから25に増えたという。そのルールには挨拶や荷物の整理整頓といったかれらにとっても了解可能な内容のほかに,部活を続ける条件としての成績,関心意欲に対する評価の下限が設定されているのだという。他の生徒に比べて学力が低いという認識のある彼らには,これは「自分たちの力でどうにもならないルール」だと思え,納得できないと主張した。「筋が通らないことだ」,と彼らは大学チームにその憤りを伝えた。大学チームはかれらの前で意見交換をした。いわく,二人の不満は理にかなっているように思える。これを教員に伝えた方が良いだろうか。そして二人に先生たちに伝えても良いかを問うた。「むしろそうしてほしい」と二人は支援を求め,大学チームは彼らの意見を中学校教員に伝えた。その結果,中学教員と大学チームからなる支援委員会で,今後このことを切り口に,指導・支援の質について検討していくことになった。 以上のエピソードから,「教育インターン」をただ単に,インターンが現場の実践を体験的に学ぶ場としてだけ観察することはできない。大学チームと生徒と中学校教員も,一方通行的に影響を与える関係ではない。「オープンに対話する」という意思疎通の回路を開いておくことで,互いに互いが影響しあい,知り合い,そのことで学習し合うような,弁証法的で集合的な学習の場を組織していると観察することもできるだろう。有元(2016)は学校インターンシップを「社会的な相互行為と,そのことに起因する人と組織と制度の発達のきっかけ」と表現している。立場によってさまざまに観察可能な変化が同時に生起し,進行し続ける多面的な現実の中で,大学院生個人の学習としての「教育インターン」はそのとらえのほんの一部であり,「教育インターン」から始まる支援者・生徒・学校の相互作用そのものを,大きな集合体の発達と捉えてみることに意味があるのではないだろうか。なぜなら,このような相互作用において,誰が作用の主体というのでもなく,どこにも正解はなく,ただ今より未来の自分たち,という「より良さ」に向けた参与者の共同的な相互作用があるだけなのだから。指導者は「その場で指導可能」なのか?郡司菜津美(国士舘大学) 教員養成課程の大学教員として,学生を教育現場に送り出す際の不安は非常に大きい。「きちんと教師として振る舞えるのか」「児童生徒に対して適切な指導ができるのか」「現場教員と上手くコミュニケーションが取れるのか」といったようなことは,考え出したらきりがない。大学教員は,教育実習や学校インターンシップの際に「事前・事後指導」,研究授業等で「教育実習生の指導」をすることが求められるが,それらの指導は,あくまでも「教師としての学び方」の指導でしかない。児童生徒とのやりとりは決まった形式があるわけではなく,その指導方法が1対1対応ではないため,教師として自律的に振る舞うことができるような「学び方を学ばせる」ことしかできない。これは学校インターン・教育実習を受け入れる先の指導教員にも言えることだろう。非常にもどかしいが,その指導は間接的で,しかも遠い未来に教員になった時を想定したものでしかない。それはまるで,現場教員が児童生徒を指導する際のもどかしさと似ているだろう。学校を卒業した後,自律的な人間として振る舞えるようになることを期待はしているが,その未来に,教員がそばで付き添っていることはできないし,ましてやその場に居合わせて指導することはできない。小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の教員も,学校インターンシップや教育実習に学生を送り出す大学教員も,こうした同じようなもどかしさを感じながら,指導者として,指導をせざるをえないのが現実だ。 本シンポジウムでは,こうした指導者のもどかしさを皆で共有し,指導者が「その場で指導するもの」といった思い込みを捉え直してみたい。具体的には,事前・事後指導のあり方,インターンや実習生を送り出す・受け入れる側のあり方,発展的に,教師は「その場で指導可能なのか」といった問いに皆で答えてみたい。
著者
秋田 喜代美 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.462-469, 1993-12-30
被引用文献数
1 3

The purpose of this study was to clarify developmental changes of the conceptions (evaluations and meanings) and feelings about book-reading, and to examine relations between conceptions, feelings and behavior frequency. Five hundred and six children of 3rd, 5th, and 8th grades answered the questionnaire about reading. Three major findings were as follows. First, all children shared the same evaluation that reading was a good activity. Second, three meanings of reading were identified: an exogenous meaning of "getting praise and good grades" (PRAISE), a cognitive endogenous meaning of "having a fantasy world and getting knowledge" (FANTASY), and a physiological endogenous meaning of "refreshing and killing time" (REFRESHING). Older children evaluated the cognitive endogenous meaning of FANTASY more and the exogenous meaning of PRAISE less. Third, positive feelings were predicted from 3 variables: grade, evaluation and FANTASY meaning. Behavior frequency was predicted from 3 variables: grade, positive feelings and the REFRESHING meaning.
著者
工藤 与志文
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.41-50, 1997-03

College students numbering 206 were examined on their beliefs of the movement of sunflowers, and 112 students who had the false belief participated also in the experiment. The subjects were asked to read the science text which explained the facts that contradicted their beliefs in the following three conditions : (a) the photosynthetic rule was instructed, and the contradictory facts were referred to as examples of the rule ; (b) the photosynthetic rule was instructed, but the facts were referred independently from the rule ; and (c) only the facts were presented. The subjects were then put to some reading comprehension tests. The frequencies in the occurrence of belief-dependent misreading (BDM) on the tests were analysed. The following results were obtained : (1) There were less BDMs in the condition of the rule and example than in the other two conditions ; (2) there were no less BDMs in the condition of the rule and facts than in the condition of the facts only. There findings suggested that the instruction in the relation of the rule and example was useful in order to avoid BDM.
著者
柏木 恵子 永久 ひさ子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.170-179, 1999-06-30
被引用文献数
8

子どもの価値は普遍・絶対のものではなく, 社会経済的状況と密接に関連している。近年の人口動態的変化-人口革命は, 女性における母親役割の縮小と生きがいの変化をもたらし, 子どもをもつことは女性の選択のひとつである状況を現出させた。子どもは"授かる"ものから"つくる"ものとなった中, 子どもの価値の変化も予想される。本研究は, 母親がなぜ子を産むかその考慮理由を検討し, 子どもの価値を明らかにするとともに, 世代, 子ども数, さらに個人化志向との関連を検討することによって, 子どもの価値の変化の様相の解明を期した。結果は, 子どもの精神的価値として社会的価値, 情緒的価値, 自分のための価値が分離され, さらに子ども・子育てに関連する条件依存, 子育て支援の因子も抽出された。子どもの価値はいずれも世代を超えて高く評価されているが, より若い世代, 有職, 子ども数の少ない層では, その価値が低下する傾向と条件依存傾向の増大が認められた。家族のなかに私的な心理的空間を求める傾向-個人化志向は, 世代を超えて強く認められたが, 若い世代, 有職, 子ども数の少ない層でより強まる傾向が認められ, さらに, 子どもを産むことへの消極的態度と関連していることも示唆された。この結果は, 人口革命と女性のライフコースと心理との必然的関連, また子産みや子育てに関わる家族および社会規範との関連で論じられた。
著者
林美都子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

目的 学習心理学の主要理論の一つである条件づけ理論は,教育心理学や臨床心理学等は勿論のこと,今日では行動分析学や行動経済学などにも応用され多岐に渡って展開されている。心理学を学ぶ者であれば必ず理解すべき理論の一つであるといえよう。しかし2009年度に行われた林の調査(林,2013より)によると,学習心理学を受講した学生の73%が条件づけ理論を難しいと感じている。当該理論はパブロフの犬やスキナーの鳩のように動物実験を通じて発展してきた。教科書等の座学のみでは難しいのは当たり前と言える。実際に動物実験を行うことで理解が促進されよう。 しかし,動物実験を行うためには,被験体の購入や飼育,実験場所,実験用具の整備など,多大な資金や時間,手間などの問題をクリアする必要がある。そこで本研究では,山本・獅々見(1994)が提案した実験室外におけるキンギョのオペラント条件づけ手続きを踏まえ,より扱いやすく安価に入手しやすいであろう被験体としてヒメダカを取り上げ,実験室外において,大学生にオペラント条件づけの動物実験を行わせることとし,実験過程においてどのような問題が生じるか検討し,より良い動物実験教材を開発することを目的とした。方法実験参加者 心理学を専攻する大学2年生21名。被験体 実験室で誕生,育成され,実験経験のないヒメダカ7匹(生後11ヶ月)。実験水槽 175×105×105mmの市販のプラスチック水槽。水以外は何も入れなかった。無条件性強化子 イトミミズを原料とする市販のメダカのエサ1~3粒程度。必要に応じて,細かく砕いて用いた。輪 市販の直径1mmの銀色の針金を用いて,直径5cmの輪を作成した。実験手続き 学生3名を1グループとしてヒメダカ1匹を与え,以下のような手順でオペラント条件づけを行うよう求めた。 まず,輪くぐり慣らし訓練を行わせた。5cmの輪を20分間水槽に入れっぱなしにし,被験体が輪をくぐるたびに無条件性強化子を与え,輪をくぐる回数と時間を手元に控えさせた。 次に輪くぐり学習訓練として,輪を水中に挿入後,被験体が輪をくぐったら輪を取り出し強化子を与えさせた。くぐるまでの時間を測定し,これを1試行に3回繰り返すよう指示した。5分以上くぐらないときには一旦輪を引き上げてやり直し,2回連続した場合は日を改めることとした。慣らし訓練も学習訓練もビデオで撮影するよう求めた。結果結果の処理 2日連続して3回の平均輪くぐり時間が20秒以内なら輪くぐり学習訓練クリアと教示したが,条件を満たした班は1班のみであった。そこで40秒以内としたところ,4班はクリア,3班がクリア出来ていなかった。クリアまでの試行数は,6,9,10,37であった。37試行班を除いた3班をクリア群,残り3班を非クリア群として,両群の分析を行った。問題行動の生起頻度 輪くぐり学習訓練開始から5日分について各班75回分すなわち各群計225回分を対象に録画ビデオで観察された問題行動の生起頻度をカウントして分析し,表1にまとめた。直接確率計算を行ったところ,非クリア群は実験中であっても友人と話続けていたり(騒音),メダカの怯えや警戒の様子とは関係なしに輪を出し入れしたり実験を開始したりする(状態無視)などの問題行動がクリア群より多く見られた。考察 クリア条件を緩める必要はあったが,約半分の班はメダカのオペラント条件づけに成功し,本研究の手続きで大学生に心理学的動物実験を体験させることは十分可能であると示された。言語的コミュニケーションの通用しない動物実験を通して,非クリア群の示した問題行動に着目して動物の扱い方を学ぶことは,ヒトを対象とした実験や調査を行う際にも有用であろうと思われる。
著者
成瀬智仁
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

1.問題と目的 場面緘黙児(以下緘黙児)は他人への迷惑や教室での活動を妨害することもなく,ひっそりと声を出さずにいるために注目されず,問題視されることは少ない。彼らは非社会的傾向を持っているため症状が進行して集団に同調できなかったり,不登校などの症状を示し始めたときに教員達はその問題への対応に苦慮することになる。緘黙の症状にはさまざまな要因がかかわっており,改善への対応は発話だけでなく感情や行動などに長期的にかかわっていくことが必要である(河井 2004,成瀬 2007)。本研究では緘黙児の症状について分析し,小学校教員の指導援助の課題を検討する。2.方 法 ①調査時期と手続き:2012年7月~12月,A市公立小学校24校の教員(教諭,講師)に対して質問紙配布による依頼,後日回収,有効回収率61.7% ②調査協力者:335名(女性231名,男性104名)平均年齢40.1歳(SD=13.10,内訳:20代96名,30代94名,40代26名,50代以上119名) ③調査内容:緘黙についての知識4項目,緘黙児の担当経験項目16項目,基本的特性:性別・年齢。3.結 果 ①担任教諭239クラスの内,緘黙児が在籍しているのは36クラス(15.1%),わからないは7クラス(2.9%)だった。緘黙児担任経験のある教員は158名(46.9%)であり,担任経験のない教員は154名(45.7%),わからない25名(7.4%)だった。教員年代別の緘黙児担任経験は20代(26.8%),30代(38.9%),40代(38.9%)に対し50代(66.7%)や60代(71.4%)であり教員経験が長いほど緘黙児にかかわる割合が高かった(F(8, 337)=39.859, p<.01)。緘黙児担任経験教員より回答されたのは166ケースであり,女子105名(63.3%),男子61名(36.7%)だった。 ②緘黙児童のケースについて緘黙の特徴に関する12項目(5件法)をもとに主成分分析をした結果,「動作表現」と「言語表現」の2成分が取り出された(表1)。また,主成分得点をもとにクラスター分析をした結果,ほとんど話さない「緘黙タイプ」,動かない「緘動タイプ」,話も行動も控えめな「消極タイプ」,少し話せて行動は出来る「寡黙タイプ」の4類型に分けることが出来た(表2,図1)。学年別では高学年ほど緘動タイプが多くなっていた(χ2(5)=11.084, p<.05)。 ③学年別の緘黙症状は高学年ほど「表情」,「交友関係」,「教師との目線」などで現れ,低学年との間に有意差が見られた。「学習の理解」や「文章表現」でも高学年は低評価の傾向が見られた。緘黙症状の変化については「教員との視線」を合わすことが出来るほど(χ2(12)=23.582, p<.05),また,「動作のぎこちなさ」がない児童ほど(χ2(12)=21.201, p<.05)改善されていた。4.考 察 児童の緘黙症状によって4タイプの緘黙類型が見いだされた。また,学年進行により緘黙症状が改善する場合と,より悪化するケースがあり,緘黙児童に対する指導援助にはその児童に合わせた指導の必要性が示唆された。今後は緘黙児童への具体的な教育援助の方法を検討していくことが課題である。