著者
谷 冬彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.265-273, 2001-09-30
被引用文献数
2

本研究の目的は, Erikson理論に基づいて, 第V段階における同一性の感覚を測定する多次元自我同一性尺度(MEIS)を新たに作成し, 青年期における同一性の感覚の構造を検討することである。Eriksonの記述に基づき, 「自己斉一性・連続性」「対自的同一性」「対他的同一性」「心理社会的同一性」の4つの下位概念が設定された。20項目からなるMEISを大学生390名(18-22歳)に施行し, 因子分析を行ったところ, 4つの下位概念に完全に対応する4因子が得られた。α係数, 再検査信頼係数, 2時点での因子分析における因子負荷量の一致性係数などの結果から, 高い信頼性が確認された。また, EPSIとの関連から併存的妥当性が確認され, 自尊心尺度, 充実感尺度, 基本的信頼感尺度との関連から構成概念的妥当性(収束的・弁別的妥当性)が確認された。また, 年齢が高くなるほどMEIS得点が高くなるという結果から, 発達的観点からの構成概念的妥当性も確認された。このように信頼性・妥当性の高い多次元自我同一性尺度(MEIS)が作成され, 青年期における同一性の感覚は4次元からなる構造であることが示唆された。
著者
宇佐美 慧
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.163-175, 2010-06-30
被引用文献数
1 7

小論文試験や面接試験,パフォーマンステストなどに基づく能力評価には,採点者ごとの評価点の甘さ辛さやその散らばりの程度,日間変動といった採点者側のバイアス,および受験者への期待効果,採点の順序効果,文字の美醜効果などの受験者側のバイアス要因の双方が影響することが知られている。本論文ではMuraki(1992)の一般化部分採点モデルを応用して,能力評価データにおけるこれら2種類のバイアス要因の影響を同時に評価するための多値型項目反応モデルを提案した。また,母数の推定については,MCMC法(Markov Chain Monte Carlo method)に基づくアルゴリズムを利用し,その導出も行った。シミュレーション実験における母数の推定値の収束結果から推定方法の妥当性を確認し,さらに高校生が回答した実際の小論文評価データ(受験者303名,採点者4名)を用いて,本論文で提案した多値型項目反応モデルの適用例を示した。
著者
澤田 匡人
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.185-195, 2005-06-30
被引用文献数
1

本研究の目的は, 妬み感情を構成する感情語の分類を通じて, その構造を明らかにすることであった。研究1では, 児童・生徒92名を対象とした面接調査を実施し, 172事例の妬み喚起場面を収集した。事例ごとの12語からなる妬み感情語リストへの評定に基づいた数量化III類を行って解析した結果, 妬み感情は2つの軸によって3群に分かれることが示された。研究2では, 児童・生徒535名に対して質問紙調査を実施し, 8つの領域に関する仮想場面について, 12の感情語を感じる程度を評定させた。因子分析の結果, 妬み感情は「敵対感情」「苦痛感情」「欠乏感情」の3因子構造であることが確認された。また, 分散分析の結果, (1)敵対感情の得点は, 能力に関連した領域に限り, 女子よりも男子の方が高く, (2)苦痛感情と欠乏感情の得点は, 学年が上がるのに伴って増加する傾向にあることが明らかとなった。このことは, 加齢と領域の性質が妬み感情の喚起に寄与していることを示唆するものである。
著者
垣花 真一郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.241-251, 2005-06-30

清音文字の呼称と濁音文字の呼称の間には, 弁別素性[voice]の価が負から正へ変化するという関係がある。濁音文字習得に際し, 子どもがこの有声化の関係を利用しているかが3つの研究により検証された。研究1では, 4-5歳の濁音文字初学者が, 有声化の基底事例として清音文字-濁音文字の呼称(例か(ka)→が(ga))を提示された場合に, 与えられた清音文字の呼称(例た(ta))から, 対応する未知の濁音文字(だ(da))の呼称を推測できるかが検証された。その結果, 半数近くの者にこれが可能であることが示された。研究2では, 4歳児の濁音文字習得の中後期群に対して, 非文字の清音文字-濁音文字対を目標事例とする類推課題(例X(pa)→X゛(ba))を実施し, 9割程度の者に非文字の濁音文字呼称の推測が可能であることが示された。研究3では4-5歳の濁音習得途上の子どもの読字検査データを分析し, [voice]の関係に違反した"ば行"の習得が他の濁音文字に比べて困難であることが示された。3つの研究から, 子どもは濁音文字の呼称を単純な対連合ではなく, 既習の清音文字-濁音文字の関係を基にした類推によって習得していることが示唆された。
著者
小塩真司 茂垣まどか 岡田涼 並川努 脇田貴文
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

問 題 小塩他(教心研, 2014)はRosenbergの自尊感情平均値に対して時間横断的メタ分析を行い,調査年が近年になるほど自尊感情が低下傾向にあることを示した。本研究はその後数年間に発表された文献も加え,同様の傾向がその後も継続しているのかどうかを検討する。方 法 文献の選定とデータの抽出 小塩他(2014)で分析された,1980年から2013年3月までに発行された和雑誌に加え,CiNiiおよびJ-STAGEで2017年までに発行された論文を対象にRosenbergの自尊感情を用いた論文の検索を行った。収集された論文について,次に該当する論文を除外した:平均値やサンプルサイズの報告がない研究,使用項目が極端に少ない研究,尺度の件法を報告していない研究,日本人以外をサンプルとした研究,事例研究,小学生以下を対象とした研究,複数の年齢段階を分割していない研究。最終的に選定された論文数は169,研究数(平均値の数)は342,合計サンプルサイズは66,408名であった。 コーディング 調査年の報告がある場合にはその年を調査年とした。報告された調査年の平均値が3.15年であったため,報告がない場合には報告年から3年を引いた値を調査年とした。調査年による曲線関係も検討するため,調査年を中心化し,2乗項を作成した。年齢段階は中高生,大学生,成人,高齢期とし,中高生を基準としてダミー変数とした。翻訳の種類は,山本他(214研究),星野(40研究),桜井(23研究),その他(65研究)であった。その他を基準としダミー変数とした。自尊感情尺度は5件法に合わせる形で変換した。研究数は4件法が77研究,5件法が234研究,6件法が5研究,7件法が26研究であった。5件法を基準とし,4件法と6件法以上をダミー変数とした。また各年齢段階と調査年の交互作用項を設定した。結果と考察 自尊感情平均値を従属変数とした重回帰分析を行ったところ次の結果が得られた(Table 1)。(1)中高生や大学生よりも成人,高齢期の平均値が高い,(2)山本他・櫻井の翻訳の平均値が高い,(3)5件法に対し4件法と6件法以上の平均値は高い,(4)調査年に従って平均値は低下傾向にある,(5)高齢期のみ傾向が異なる可能性がある。なお年齢別に分析を行ったところ,高齢期の調査年の影響は認められなかった。調査年・年齢段階と自尊感情平均値との関係をFigure 1に示す。
著者
伊藤 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.p1-11, 1978-03
被引用文献数
5

本研究は,性質としての性役割が4つの評価次元-個人的評価・社会的評価・男性役割期待・女性役割期待-においてどのように評価されているかを明らかにするとともに,その役割観の違いには,どのような要因が関与しているかを検討することを目的とした。そのため,20代~50代の既婚男女約800名が調査対象として選定された。また,性役割測定のためのスケールが考案され,それは因子分析によって抽出された3つの役割要素(Masculinity, Humanity, Femininity)から構成されている。結果は以下のようにまとめられる。 1) 個人的評価においても社会的評価においても,女性役割より男性役割にはるかに高い価値が付与されており,男性役割の「優位性」が確認された。しかし,両評価次元のいずれにおいても,Humanityに最も高い価値が付与されるという事実を見逃すことは出来ない。 2) 男性役割期待は社会的望ましさと一致するが,女性役割期待は社会的望ましさとは一致しない,あるいはそれとは独立した形での期待が存在する。 3) 男性役割期待,女性役割期待のいずれにおいても,性別による役割期待の分化が明瞭になされている。しかし,性に規定された役割のみが期待されているわけではなく,男性にも女性にもHumanityという要素が多く望まれている。 4) 女性の側における自己の価値意識と周囲からの役割期待の不一致は,多くの役割葛藤を生んでいることを示唆している。 5) Masculinity, Humanity, Femininityという性役割における3つの要素の関係(三角形仮説)は,M型,H型,F型の役割観を持つ個人間の関係にも妥当であることが確認された。 6) 3型の各々,の役割観を持つ者の特徴として,F型の者は対人的価値指向が,M型の者は社会的価値指向が,H型の者は個人内価値指向が強い。 7) 男性および女性の役割観を大きく規定する要因群は,学歴・職業などのデモグラフィックな要因,役割形態に関する要因,および自己の価値観を反映する要因であった。
著者
内田 伸子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.p211-222, 1982-09

学術雑誌論文
著者
栗原 慎二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.243-253, 2006-06-30
被引用文献数
1

本研究は,摂食障害で不登校に陥った女子高校生に対して教員が支援チームを作って関わり,無事卒業していった事例を通じて,学校教育相談における教員によるカウンセリングやチーム支援のあり方について検討することを目的とした。本事例の検討を通じてチーム支援の有効性が確認されるとともに,以下の点が示唆された。(1)学校や教員の特性を生かしたチーム支援の有効性と可能性(2)学校カウンセリング独自の目標設定と方法選択の重要性(3)コアチームのメンバー構成の重要性,(4)学校における秘密保持のガイドライン作成の必要性。
著者
越中 康治
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.479-490, 2005-12

本研究では, 挑発的攻撃, 報復的攻撃, 制裁としての攻撃の各タイプの攻撃行動に関する幼児の認知を比較検討した。4, 5歳の幼児を対象として, 主人公が他児に対して各攻撃行動を示す場面を紙芝居で提示し, (1)主人公が示した攻撃行動の善悪判断, (2)攻撃行動を示した主人公を受容できるかの判断, (3)幼児が日常, 主人公と同様の攻撃行動をするかの報告を求めた。結果として, (1)幼児は挑発的攻撃は明らかに悪いことであると判断するものの, 報復的攻撃及び制裁としての攻撃に関しては善悪判断が分かれており, 全体として良いとも悪いともいえないという判断を示した。また, (2)幼児は挑発的攻撃を示す主人公を明らかに拒否していたが, 報復的攻撃及び制裁としての攻撃を示した主人公とは一緒に遊んでもよいと判断した。さらに, (3)挑発的攻撃及び報復的攻撃に関して, ほとんどの幼児は日常示すことはないと回答したものの, 制裁としての攻撃に関しては示すと回答した者も少なからずいた。本研究から, 報復的公正に関する理解は4, 5歳児にも認められることが明らかとなった。幼児が報復や制裁のための攻撃を正当化する可能性が示唆された。
著者
田村 節子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.168-181, 2002

学校生活において子ども達は,学習面,心理・社会面,進路面,健康面にわたる多様な援助ニーズをもっている。スクールカウンセラーが,子ども達の援助ニーズに応えるためには,学校心理学に基づく心理教育的援助サービスの理論体系(石隈,1999)が多くの示唆を与える。本稿では,学校心理学を枠組みとしてスクールカウンセラーが実践したコア援助チームの事例を取り上げ,心理教育的援助サービスについて考察した。コア援助チームとは"教師・保護者・コーディネーター(スクールカウンセラーなど)が核になり,他の援助資源を活用しながら定期的に援助する心理教育的援助サービスの形態(田村,1998)"である。コア援助チームでは,それぞれの異なった専門性や役割を生がしながら子どもの状況について検討し,今後の援助について話し合い,援助資源を生かして援助を行う。コア援助チームで行ったコーディネーションや相互コンサルテーションは有効であることが示唆された。さらに,援助資源の把握,アセスメント,援助の立案などのために作成した援助チームシート・援助資源チェックシートも有用であることが示された。
著者
木村 晴
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.115-126, 2004-06-30

不快な思考の抑制を試みるとかえって関連する思考の侵入が増加し,不快感情が高まる抑制の逆説的効果が報告されている。本研究では,日常的な事象の抑制が侵入思考,感情,認知評価に及ぼす影響を検討した。また,このような逆説的効果を低減するために,抑制時に他に注意を集める代替思考方略の有用性を検討した。研究1では,過去の苛立った出来事を抑制する際に,代替思考を持たない単純抑制群は,かえって関連する思考を増加させていたが,代替思考を持つ他3つの群では,そのような思考の増加は見られなかった。研究2では,落ち込んだ出来事の抑制において,異なる内容の代替思考による効果の違いと,抑制後の思考増加(リバウンド効果)の有無について検討した。ポジティブな代替思考を与えられた群では,単純抑制群に比べて,抑制中の思考数や主観的侵入思考頻度が低減していた。しかし,ネガティブな代替思考を与えられた群では,低減が見られなかった。また,ネガティブな代替思考を与えられた群では,単純抑制群と同程度に高い不快感情を報告していた。代替思考を用いた全ての群において,抑制後のリバウンド効果は示されず,代替思考の使用に伴う弊害は見られなかった。よって,代替思考は逆説的効果を防ぎ効果的な抑制を促すが,その思考内容に注意を払う必要があると考えられた。
著者
三木 安正 波多野 誼余夫 久原 恵子 井上 早苗 江口 恵子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-11, 1964-03

以上のべたように,われわれは双生児の対人関係の発達をさまざまな面から検討してきた。その主な結果は,以下の点に要約されよう。(1)親との関係双生児は,対の相手を持っているという特殊な条件のために,一般児と比較した時に,親との関係において差があるのではないか,すなわち,双生児は相手に対して依存的であるために,親からの独立は一般児におけるほど抵抗がなく,早くすすむのではないか,あるいは反対に,相互に依存的であることは親に対しても依存傾向が汎化し,一般児より親からの独立がおくれるのではないかという予想をもっていたのであるが,これらは,いずれも否定され,双生児と一般児の間に有意な差がほとんど認められなかった。これに対しては,母親に対する依存は対の相手に対するそれとは,質的に異なったものではないかという理由が考えられる。(2)友だちとの関係双生児の対の相手が,親友の役割りを果たしてしまうことから,双生児の友だち関係は一般児の場合に比べ発表しにくいのではないか,という予想をもっていた。結果は予想どおりで,双生児は友だちに依存することが少なく,かつまた友だちそのものを求めることが弱いようであった。相手に強く依存しているときにはとくにこの傾向が著しい。(3)双生児の自主的傾向.双生児の対の相手の存在が双生児の自主的僚向の発達を妨げてしまうことがあるのではないか,という予想も,ほぼ支持された。すたわち,一般児にくらべ双生児,しかも相手とのむすびつきが強い双生児ほど,自分で決める回数が少なく,他人の決定に従うことが多いことが見出された。第I報(三木安正ほか,1963)にも述べたように,われわれは対人関係の発達は,依存から自立へとすすむという従来の考え方に加えて,その過程として,依存性の発達をとおしての自立ということを考えてきたわけである。すなわち,人間は,赤ん坊時代の,まったく依存している状態から,成長するにつれて自立性を獲得していくのであるが,それは,依存傾向がしだいに禁止されるというのではなく,依存のしかたに変化がおきて依存の質が変っていくというプロセスをたどっていくものと考えているのである。従来,自立性は自分の意志を貫きとおせること,自分ひとりでものごとを処理できること,ひとりでいられること,などというその最終的な現象面が強調されてきた(たとえばHeathers,1955)。そのために,ひとりでおくことや依存を禁止することが自立性の確立のために有益である,と考えられていたようである。けれどもわれわれは,自立性とはいろいろなものに、じょうずに依存し,しっかりした依存構造のうえにたった自己の確立であるという見方が必要であり,かつまたこのような見方こそが,教育の場において有効であると考えている。すなわち,特定の対象への中心化から脱して,さまざまなものに依存しているという状態が自立性の発達する可能性を与えると考えているわけである。この点に関連して,今回の研究により示唆されたことを次に述べよう。