著者
石黒 二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.98-106, 1971-06-30

この研究は中学生のOA.A,UAが,課題定位と自我定位の2種の動機づけ教示のもとで,言語材料の記憶にどのような差異をもたらすかを確かめるためになされたものである。なおこの場合実験者が被験者と知りあい関係にある教師であるか否かによって起こると考えられる動機づけ教示の効果の違いとも関連させて検討がなされた。はじめに立てた作業仮説は一部を除き,次のようにほぼ立証された。(1)動機づけの強さに関する被験者の自己評定および復習の有無に関する自己報告の結果を総合すると,教師の実験者による自我定位的動機づけ教示のもとで,自我包含的構えをとる被験者がもっとも多くなる。教師でない実験者による自我定位,教師の実験者による課題定位の順でこれに続き,教師でない実験者による課題定位のときにもっとも低い動機づけとなる。またOAはUAよりも学習後の復習の習慣においてまさる傾向がある。しかし実験事態における動機づけの強さでは,自己評定に関するかぎり,教師でない実験者による自我定位の場合を除き,OAとUAの間に有意な差がみられない。(2)いずれの動機づけ教示のもとにおいても,学習直後の再生成績はOAがもっともよく,A,UAの順でこれに続いている。この傾向は24時間後の把持検査の成績においても変わらない。(3)いずれの実験者のもとにおいても,学習と把持の成績は,課題定位のそれよりも自我定位のそれの方がまさる。しかしその差はOAよりもAとUAにおいて顕著である。(4)いずれの成就値群においても,課題定位と自我定位の間の再生成績の差は,教師の実験者のときよリも,教師でない実験者のときにより大きくなる。すべての教示条件におけるOA群,および教師でない実験者による自我定位の各群において,把持量の有意な減少が認められなかった。OA群は正答率が高くて成功感を伴ないやすいこと,教師でない実験者による自我定位では,教師の実験者による自我定位ほどに緊張が過度にならないことなどがその原因と推定された。また教師の実験者による自我定位のA,UA両群において把持量の減少があったことは,過度の緊張により,再生禁止の回復がおくれたためと解釈された。UAがOAよりも,実験者が教師か否かによって再生成績に受ける影響が大きいであろうという推測は,確証を得るに至らなかった。
著者
樽木 靖夫 石隈 利紀
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.101-111, 2006-03-30
被引用文献数
1

本研究は,中学生の学級集団づくりに活用される文化祭での学級劇において,彼らの小集団の体験の効果について検討した。主な結果は次の通りである。1)文化祭での学級劇における小集団の体験において,小集団の発展を高く認識した生徒は,そうでない生徒よりも自己活動の認知(自主性,協力,運営),他者との相互理解を高めた。2)文化祭での学級劇における小集団の体験において,担任教師の葛藤解決への援助介入は小集団の発展を促進し,生徒の自己活動の認知,他者との相互理解に影響した。3)文化祭での学級劇における小集団の体験において,同じ目標を目指しながら異なった活動をする「分業的協力」を高く認識した生徒は,そうでない生徒よりも学級集団への理解を高めた。
著者
中川 惠正 守屋 孝子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.81-91, 2002-03-31
被引用文献数
2

本研究は,小学校5年生を対象にして,2つの教授法,即ち,(1)モニタリング自己評価訓練法(問題解決の方略,スキルの利用の意義づけを教授の中に含め,その方略の実行過程でのモニタリング,評価やエラー修正等の自己統制の訓練をし,さらに自己の解決方法を他者に説明する訓練をした後,到達度と実行過程を自己評価する方法)と(2)到達度自己評価訓練法を比較し,国語の単元学習を促進する要因を検討した。その結果,MS群は各ポストテストのいずれにおいても,CRS群に比べて学習遂行が優れており,また内発的動機づけもCRS群に比べて高かった。
著者
村上 宣寛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.183-191, 1980-09-30
被引用文献数
2

音象徴の研究には2つの流れがあり,1つはSapir (1929)に始まる,特定の母音と大きい-小さいの次元の関連性を追求する分析的なものであり,もう1つはTsuru & Fries (1933)に始まる,未知の外国語の意味を音のみから推定させる総合的なものであった。本研究の目的は音象徴仮説の起源をプラトンのテアイテトス(201E-202C)にもとめ,多変量解析を用いて日本語の擬音語・擬態語の音素成分を抽出し,それとSD法,連想語法による意味の成分との関連を明らかにするもので,上の2つの流れを統合するものであった。 刺激語はTABLE 1に示した65の擬音語・擬態語であり,それらの言葉から延べ300人の被験者によって,SD評定,名詞の連想語,動詞の連想語がもとめられた。成分の抽出には主因子法,ゼオマックス回転が用いられた。なお,言葉×言葉の類似度行列作成にあたって,分析Iでは言葉に含まれる音をもとにした一致度係数,分析IIでは9つのSD尺度よりもとめた市街模型のdの線型変換したもの,分析IIIでは6803語の名詞の反応語をもとにした一致度係数,分析IVでは6245語の動詞の反応語をもとにした一致度係数を用いた。分析Vの目的は以上の4分析で抽出した成分の関係を調べるもので,Johnson (1967)のMax法が用いられた。 分析Iの結果はTABLE 2に示した。成分I-1は/n/と/r/,I-2は/r/と/o/,I-3は/a/と/k/,I-4は促音,I-5は/o/,I-6は/a/,I-7は/i/,I-8は/p/,I-9は/u/,I-10は/b/,I-11は/k/,I-12は/t/に関連していた。分析IIの結果はTABLE 3に示した。成分II-1はマイナスの評価,II-2,II-4はダイナミズム,II-3は疲労,に関連していた。分析IIIの結果はTABLE 4に示した。成分III-1は音もしくは聴覚,III-2は歩行,III-3は水,III-4は表情,III-5は不安,III-6は液体,III-7は焦りに関連していた。分析IVの結果はTABLE 5に示した。成分IV-1は活動性,IV-2は不安,IV-3は表情,IV-4は音もしくは運動,IV-5はマイナスの評価もしくは疲労,IV-6は液体,IV-7は歩行,IV-8は落着きのなさに関連していた。分析Vの結果はTABLE 6とFIG. 1に示した。音素成分と意味成分の関係として,I-5 (/o/)とIV-8(落着きのなさ),I-7 (/i/)とIII-7(焦り),I-10 (/b/)とIII-6(液体)が最も頑健なものであった。さらに,I-8 (/p/)とII-2(活動性),I-9 (/u/)とIII-5(不安)及びIII-6(液体),I-12 (/t/)とIII-2(歩行)及びIV-8(落着きのなさ)も有意な相関があった。 日本語の擬音語・擬態語の限定のもとで,音象徴の仮説が確かめられた。/o/が落着きのなさを,/i/が焦りを,/b/が液体を象徴するという発見は新しいものでありその他にも多くの関係があった。また,SD法によってもたらされた成分は狭い意味の領域しかもたらさず,意味の多くの側面を調べるには不十分であり,擬音語と擬態語の区別は見出されなかった。
著者
松原 達哉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.18-28, 1959-12-30

乗法九九学習を成功させるためには,児童の心身の発達および経験内容から考察して,何才何か月ごろから開始するのが,最も適当であるかを研究すること。さらに,算数学習のレディネスに影響を与える要因についての分析的研究をすることの2つを目的とした。実験方法は,アメリカの「算数の学年配当7人委員会」の方法を改善し,4つの実験群を設けた。この各実験群に,第1基礎テスト,第2基礎テスト,予備テスト,終末テスト,把持テスト,知能検査,配慮実験,ゲス・フー・チストその他の調査を実施した。被験者は,大,中都市,農村の8小学校2年,3年生1,046名を対象に22名の教師が,同一指導案によって指導した。本実験の基準に従って整理した結果では,乗法九九学習の指導開始は,8才1か月(2年2学期)から行なっても可能であることが実証された。現在,8才7か月(3年1学期)から開始しているが,さらに,6か月早めても,わが園児童の場合は,可能であると考られる。これは,アメリカのC.Washburneらの実験に比べ,2才1か月早い。また,算数学習のレディネスの要因としては,(1)算数学習に必要な知能,(2)四反応の速さ,(3)視聴覚および視聴覚器官の障害の有無,(4)健康,栄養,疲労の条件,(5)家庭的背景,(6)情緒の安定性,(7)根気の強さ,(8)自主性,(9)数の視聴覚記憶,(10)語の視聴覚記憶,(11)算数に対する興味,(12)算数的経験などが重要なものであることが実証された。
著者
金 徳龍
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.205-212, 1990-06-30

This is a psychological study of "linguistic interference" between Korean and Japanese found among students attending a korean school. This study examined the degrees of linguistic "independence" and "dependence" between the two languages by "color-naming test". The results were as follows : (1) Either of the two languages became a predominant language ; (2) The degree of linguistic interference between the two languages was not considered high ; (3) A relatively stronger influence was given on linguistic interference in bilingualism when the second language began to be learned rather than by the length of its study.
著者
落合 良行
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.332-336, 1983-12-30
被引用文献数
7
著者
小松 孝至
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.481-490, 2000-12-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,幼児の幼稚園での経験に関する母子の日常的な会話の特徴を,母親が会話に見出す意義,母親から子どもへの働きかけ,および両者の関連から検討することである。質問紙を用いて,幼稚園児(3歳児クラス〜5歳児クラス)の母親581名から,会話に対する母親の意義付け(「情報収集」「教育・援助」「経験の共有」の3内容で合算),会話における母親から子どもへの働きかけ(質問する,なぐさめる他)などについて回答を得た。母親の会話への意義付けは全体的に高かったが,その中でも,3歳児の母親は5歳児の母親に比べ「情報収集」の意義付けを重視しているなどの差がみられた。また,特に長子と母親の会話において,質問やアドバイスといった母親からの働きかけが多く行われることも示唆された。さらに,会話への意義付けは,それと内容上関連を持つ働きかけとの間で正の相関を示した。これらの結果から,園と家庭の接点において,幼稚園での経験に関する会話が母親にとっての意味を付与され,実践されていることが示された。