著者
片平 理子 松井 亜友 芦原 坦
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.303, 2007

ピリジンヌクレオチドであるNAD(P)は単に酸化・還元反応のみならず、転写やシグナル伝達に関与することが明らかになってきた。ピリジンヌクレオチドのターンオーバー(分解と再合成)は、ピリジンヌクレオチドサイクル(PDC)によりなされるが、生物種によりサイクルの構成酵素は異なる。植物では、PDCは、動物よりも多くの構成酵素からなり、さらにサイクルから派生してトリゴネリンやニコチン酸グルコシドが生産されるなど特有な代謝経路があることが推定されるが、その詳細は明らかにされていない。本研究では、植物におけるPDCの特徴を、ジャガイモ、ミヤコグサ、モヤシマメなどの植物を用い、標識化合物の代謝と関連酵素活性についての実験データと、遺伝子データベースから調べ、動物のPNCと比較した。各植物で、NAD→ニコチンアミドモノヌクレオチド→ニコチンアミドリボシド→ニコチンアミド→ニコチン酸→ニコチン酸モノヌクレオチド→ニコチン酸アデニンジヌクレオチド→NADの7酵素が関与するPNCVIIが機能しうることが示された。これ以外にも、ニコチン酸リボシドを経由するサイクルの存在も示唆された。このサイクルの中間産物であるニコチン酸の一部は、トリゴネリンやニコチン酸グルコシドに変換されるが、どちらに変換されるかは、植物種や器官により異なった。植物におけるこれらのニコチン酸抱合体の役割について考察する。
著者
吉玉 國二郎
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.S0011, 2010

多様な色調を発現しているアントシアニンについての研究は、本邦では20世紀の初頭に始まり、すでに一世紀を越えて受け継がれてきた。その中でも、花弁の多様な色調発現機構に関してはWillstatter等によって提唱されたpH説、柴田桂太による金属錯体説、それにRobinson夫妻によるco-pigment説が広く知られている。金属錯体に関しては、ツユクサから最初に単離されたコンメリニンについて林孝三を中心とした詳細な研究がなされ、近年その立体構造が解明された。その後、Co-pigmentに関しては、異分子間ではなく、同一分子内で自己会合を生じ、安定な色調を呈する色素が、1970年代キキョウやサイネリアの青紫花弁から相次いで単離された。これらの色素は、ほとんどすべてが2分子以上の芳香族有機酸によってポリアシル化されたアントシアニンであった。以後、この色素の構造と安定化機構に関してはNMRやMassで詳細に研究されている。PH説に関しては、以前は花弁搾汁を用いた研究が主であったが、今では単一細胞レベルでの測定が可能となり、花弁のpH変化がミクロのレベルで解明されている。最近、サントリーが最新のバイオ技術を駆使して作出した青バラが市場に出た。この成果は、アントシアニン研究者に将来への夢を与えてくれた。本講演では、研究の歴史を振返り、研究最前線を鳥瞰しつつ今後の研究方向について言及したい。
著者
市川 尚斉 武藤 周 篠崎 一雄 松井 南 中澤 美紀 近藤 陽一 石川 明苗 川島 美香 飯泉 治子 長谷川 由果子 関 原明 藤田 美紀
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.428, 2007

優性突然変異を引き起こすミューテーションは、遺伝子ファミリーを形成する遺伝子群のゲノム的機能解析など、遺伝子破壊型のタギング法では表現型が現れない遺伝子の機能解析に欠かせないテクニックである。我々は総合的な遺伝子の機能付加を目指して、約1万種の独立シロイヌナズナ完全長cDNAからなる標準化cDNAライブラリーをアグロバクテリアのバイナリーベクター上で作成した後、このバクテリアライブラリーをシロイヌナズナに花感染させることでシステマティックに形質付与を起こさせる方法として、Fox Hunting Systemを開発した。T1世代の植物を15,000ライン以上観察したところ、可視変異の起きた1,487ラインを単離した。そのうち本葉でうす緑色の変異を起こした115ラインに関して次世代植物の観察を行ったところ、59ライン(51%)が優性もしくは半優性にT1表現系を再現した。cDNAの再導入によって表現型が再現したラインの1つは、ペールグリーンの性質の他に花芽形成が早まり、徒長成長も示すことが判明した。遺伝子配列を解析したところ、このcDNAは未知の遺伝子で分泌たんぱく質様の構造を持つ95アミノ酸配列の小型のたんぱく質をコードしていることがわかった。この新規機能遺伝子を例にしてFOX-hunting systemの有効性を議論する。
著者
湯淺 高志 石田 さらみ 高橋 陽介
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.95, 2004

RSGはジベレリン(GA)内生量調節に関与しているbZIP型転写因子である。RSGと相互作用するタンパク質の一つは14-3-3タンパク質であり、14-3-3タンパク質はRSGの細胞内局在を制御していた。14-3-3タンパク質は主にリン酸化されたセリン残基を認識して結合し、標的タンパク質の機能を制御している。RSGの114番目のセリン残基が14-3-3タンパク質との相互作用に必須であり、そのセリン残基のリン酸化にCa<SUP>2+</SUP>依存性プロテインキナーゼ(CDPK)が関与していることを前回の学会で報告した(2003年度日本植物生理学会年会)。<br> 本大会ではRSGとCDPKの<I>in vivo</I>における相互作用に関する解析を報告する。我々は <I>in vivo</I> 相互作用解析のためアグロインフィルタレーション法により <I>Nicotiana benthamiana</I> 葉身に発現プラスミドを導入する一過的発現系を用いた。GST融合RSGを一過的に発現させ抗GST抗体で免疫沈降を行い、沈降物中のCDPK活性を組み換えGST-RSGを基質にした<I>in-gel </I>キナーゼアッセイにより調べた。その結果GST-RSGと共沈した画分にRSGのSer114残基をリン酸化するCDPK活性が検出され、RSGとCDPKの <I>in vivo</I> における結合が示された。またリン酸化RSGと同様にCDPK自身も14-3-3タンパク質と結合することを見出した。
著者
大島 良美 四方 雅仁 大坪 憲弘 光田 展隆 高木 優
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.416, 2010

地上部の表皮細胞表面を覆っているクチクラ層は、主に脂質性のクチンポリマーとワックスからなり、水分の損失を防ぐとともに、病原菌や昆虫に対する防御の役割を果す。ワックスは長鎖脂肪酸、アルコール、ケトンなどの混合物で、成長段階や環境変化によって多くの生合成遺伝子が制御されている。これまでに、シロイヌナズナのAP2/ERFファミリー転写因子WAX INDUCER1(WIN1)がクチン及びワックス合成を正に制御することが知られているが、その他の制御因子は明らかになっていない。本研究では、CRES-T法の適用によりワックスが減少して器官が接着する表現型を示す転写因子を探索し、MYB転写因子を同定した。この転写因子をWAX REGULATOR1(WAR1)と名付けた。WAR1キメラリプレッサー(WAR1-SRDX)発現植物の茎表面をSEMで観察したところ、エピクチクラワックスの結晶が減少していた。さらに、マイクロアレイ実験によるWIN1-SRDX発現植物とのトランスクリプトーム比較において、高い相関がみられた。以上の結果より、WAR1はWIN1同様にワックス生合成を制御していることが示唆された。現在、WAR1、WIN1と機能重複している転写因子についても解析を進めている。
著者
名川 信吾 澤 進一郎 岩本 訓知 加藤 友彦 佐藤 修正 田畑 哲之 福田 裕穂
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第47回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.291, 2006 (Released:2006-12-27)

幹細胞の分化・維持に働く分子機構について明らかにするために、茎頂分裂組織 ( SAM ) 及び維管束幹細胞である前形成層をモデル系とし、SAM 及び前形成層関連遺伝子を複数同定してきた。今回はそれらの遺伝子のうち、葉酸代謝に関わる GGH 遺伝子の機能解析について報告する。GGH タンパク質は葉酸のグルタミン酸鎖切断能を持つことが明らかとなっている。GGH 遺伝子の過剰発現時には子葉の融合、ロゼット葉形成の遅延、茎頂分裂領域の縮小といったメリステム活性の低下を示唆する異常な表現型が観察された。一方、シロイヌナズナゲノム中に三つ存在する GGH 遺伝子全ての発現抑制植物体では、葉身における異所的な分裂組織形成、花器官数の増加、小花柄における苞葉の形成というメリステム活性の上昇を示唆する典型的な表現型が観察された。また、葉酸生合成阻害剤添加により根の伸長阻害や茎頂分裂領域の縮小が導かれ、その効果は多グルタミン酸鎖型葉酸の添加により回復した。一方、単グルタミン酸鎖型葉酸添加によっては回復することが出来なかった。さらに、培養細胞の管状要素への分化誘導時において、多グルタミン酸鎖型葉酸は阻害的に働くのに対し、単グルタミン酸鎖型葉酸は阻害効果を持たなかった。これらの結果は、多グルタミン酸鎖型葉酸が幹細胞の未分化状態の維持に必須であることを示唆しており、これをもとに分化段階に応じた GGH の役割について考察する。
著者
中西 華代 堀 菜七子 山篠 貴史 水野 猛
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.425, 2011

避陰反応は植物の光応答系において最も特徴的な現象の一つであり、近接する植物の陰に入った植物は著しく背丈が徒長する。こうした避陰反応は遠赤色光が重要な光シグナルとなりフィトクロム(主にphyB)を介した光情報伝達系により制御されていることが明らかになっている。我々はミヤコグサの光シグナル伝達系の解析をする過程でミヤコグサに特に顕著な避陰反応を見いだしたので報告する。避陰反応には背丈の徒長に加え、早咲き、腋芽からの分岐の抑制などがある。シロイヌナズナでは腋芽からの分岐抑制現象はあまり顕著ではなくほとんど解析されていない。我々はミヤコグサを遠赤色光に富んだ光条件下で生育させ避陰反応を誘導すると腋芽からの分岐が極端に阻害され、白色光条件下で生育させた植物体と全く異なる形態を示すことを見いだした。このことはミヤコグサが「光シグナルによる避陰反応の誘導」と「ストリゴラクトンによる分岐制御」とのリンクを解析する上で格好の材料であることを示している。以上のような背景をもとに、今回は次の点を中心に報告する。(i)ミヤコグサにおける避陰反応としての腋芽分岐制御の詳細な現象の記述。(ii)トウモロコシの分岐制御因子<I>teosinte branched 1</I> (<I>tb1</I>)のミヤコグサオルソログの機能解析。(iii)シロイヌナズナで研究の進んでいる分岐制御MAX経路に相当するミヤコグサ遺伝子群の同定と解析。
著者
藤田 直子 吉田 真由美 斎藤 かほり 宮尾 安藝雄 廣近 洋彦 中村 保典
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.110, 2005

イネのスターチシンターゼ(SS)には10種類ものアイソザイムが存在する。このうち、機能が解明されているのはアミロース合成に関わるGBSSI、我々がTos17ノックアウトイネから変異体を単離したSSIおよびインディカ米、ジャポニカ米のアミロペクチンの構造比較から明らかになったSSIIaのみである。トウモロコシでは登熟胚乳中の最も活性が高いSSはSSIとSSIIIである。SSIIIの変異体である<I>dull-1</I>が古くから知られていたが、イネにおいてはトウモロコシの<I>dull-1</I>に相当する変異体が見つかっておらず、その機能は解明されていない。我々は、イネSSI変異体の単離に引き続き、同じノックアウト集団(約4万系統)からSSIIIa変異体を選抜し、その解析を行った。<br> 得られたSSIIIa変異体は、Tos17がエキソン1に挿入されたものであった。登熟胚乳の可溶性画分のNative-PAGE/SS活性染色を行うと、SSIバンドに加えて非常に移動度の遅い部分にバンドが検出される。SSIIIa変異体ではこのバンドが完全に欠失していたことから、これがイネにおけるSSIIIaバンドであることがわかった。SSIIIa変異体の胚乳アミロペクチンは、野生型に比べて、DP6-8, 17-18, 31-70が低下し、DP10-15, 20-29が増加していた。イネにおけるSSIIIaの機能について、議論する。
著者
沼田 光紗 下嶋 美恵 都築 朋 木下 俊則 太田 啓之
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第52回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0713, 2011 (Released:2011-12-02)

Phosphatidate phosphohydrolase 1/2 (PAH1/2)はphosphatidic acid (PA)を脱リン酸化しdiacylglycerolを生成する可溶性型のホスファチジン酸ホスファターゼであり、脂質の代謝において重要な役割を果たしている。pah1pah2二重変異体では、phosphatidylcholine、phosphatidylethanolamine、PAといったリン脂質が増加する (Nakamura et al. 2009 PNAS)。PAは脂質代謝において中心的な役割を果たす代謝中間体であり、高等植物ではストレス応答にかかわるabscisic acid(ABA)のシグナル伝達物質としても重要であることが知られている。 そこで本研究ではPAH欠損変異体を用いて、ABAに関与する様々なストレス応答の解析を行った。その結果、pah1pah2ではABA濃度依存的に、野生株に比べ著しく発芽率が低下し、少なくとも発芽においてpah1pah2はABA高感受性であることが明らかになった。しかしその一方で、ABA感受性について葉の気孔開口阻害についても調べたが、pah1pah2と野生株では差が見られなかった。したがって、ABAシグナル伝達を介したストレス応答におけるPAHの役割は、種子発芽時と葉の気孔閉鎖においては異なることが示唆された。
著者
加藤 彰 上ノ原 和也 橋本 隆
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第46回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.856, 2005-03-24 (Released:2006-01-11)

キノリン酸はニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)生合成系の中間産物である。動物やカビはキノリン酸をL-トリプトファンから合成し、大腸菌などの細菌類ではL-アスパラギン酸から合成する。アラビドプシスはゲノム上に大腸菌型経路のアスパラギン酸酸化酵素(AO)とキノリン酸合成酵素(QS)の予想遺伝子を持ち、動物型経路の遺伝子を持たない。また、アラビドプシスのAOとQS遺伝子はそれぞれの大腸菌欠損株の生育を相補した。従って、アラビドプシスなどの高等植物はキノリン酸を大腸菌と同じ経路で生合成すると考えられる。細胞内のキノリン酸合成の場を明らかにするために、AOとQSのC末端にそれぞれGFPタグを融合させた酵素をアラビドプシス植物体で発現させてその局在性を調べた。GFP融合酵素を発現させることにより、AOとQSのT-DNA挿入変異株の致死性を相補できた。形質転換株のGFP蛍光は葉緑体に認められたので、キノリン酸の生合成は葉緑体内で進行すると考えられる。
著者
川原 愛子 高橋 秀典 井上 康則
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.771, 2005

中性培地(pH6)で育てたレタス芽生えを酸性培地(pH4)に移すと根毛形成を行なう。この根毛形成には、細胞長軸に対して垂直に配向していた表皮細胞の表層微小管(CMT)の配列が崩壊することが必須である。CMT配向のランダム化はオーキシンにより引き起こされ、エチレンはオーキシンの効果を増強させる。本研究では、表皮細胞のアクチンフィラメント(MF)が根毛形成にどう関与しているのか調べた。<br>pH4培地にサイトカラシンBまたはジャスプラキノライドを添加してMFの重合、脱重合を阻害すると根毛形成は抑制された。この時の根毛形成阻害はIAAまたはエチレン前駆体ACCを添加しても回復しなかった。また、pH6でMFの重合、脱重合を阻害すると根毛形成は阻害されたが、CMTランダム化は引き起こされた。このCMTランダム化はオーキシン拮抗阻害剤PCIBまたはエチレン生合成阻害剤AVGを添加しても阻害されなかった。さらに、pH6培地にコルヒチンを添加し、CMTを脱重合させると根毛形成は誘導されたが、ここにPCIBまたはAVGを添加すると根毛形成は抑制された。AVGによる根毛形成阻害はIAA添加により回復したが、PCIBによる阻害はACC添加では回復しなかった。<br>以上のことから、低pHによる根毛形成には、MFの重合・脱重合、CMTの垂直配向の崩壊、オーキシンが必要だとわかった。
著者
藤 泰子 金 鍾明 栗原 志夫 松井 章浩 石田 順子 田中 真帆 諸沢 妙子 川嶋 真貴子 豊田 哲郎 横山 茂之 篠崎 一雄 関 原明
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.422, 2009

真核生物における遺伝子発現制御およびヘテロクロマチン形成には,ヒストンおよびDNAの化学修飾やsiRNAを介したエピジェネティックな機構が関与している.シロイヌナズナにおけるsiRNAを介したエピジェネティックな遺伝子抑制には, siRNA合成に関わる<I>RDR2</I>遺伝子, siRNAを介したDNAメチル化に関わる<I>DRM1, DRM2, CMT3</I>遺伝子, およびヒストン脱アセチル化酵素をコードする<I>HDA6</I>遺伝子が機能すると考えられている. <br>我々は, タイリングアレイを用いたゲノムワイドな発現解析により, <I>hda6</I>変異体において特異的に発現上昇が認められる遺伝子群を同定した. それら遺伝子群は, データベース上に公開されているsiRNAおよびDNAメチル化のマッピング領域と高度に重複していた. 一方, <I>rdr2</I>および<I>ddc</I>変異体(<I>drm1,drm2,cmt3</I>三重変異体)を用いた発現解析の結果から, <I>RDR2</I>や<I>DDC</I>により制御される遺伝子群は, 予想に反して<I>HDA6</I>遺伝子による制御領域とは殆ど一致しないことが明らかとなった. 以上のことから, <I>HDA6</I>による遺伝子抑制は, <I>RDR2</I>や<I>DDC</I>経路に依存しない機構であることが示唆された.
著者
藤 泰子 金 鍾明 松井 章浩 栗原 志夫 諸澤 妙子 石田 順子 田中 真帆 遠藤 高帆 角谷 徹仁 豊田 哲郎 木村 宏 横山 茂之 篠崎 一雄 関 原明
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.375, 2011

シロイヌナズナのヒストン脱アセチル化酵素HDA6は、RNA依存性DNAメチル化を介したヘテロクロマチン制御因子として同定されている。我々が行った全ゲノム発現解析の結果から、HDA6とDNAメチル化酵素MET1は、ヘテロクロマチン領域を主とした共通の遺伝子を抑制することが示された。また<I>hda6</I>機能欠損により、これら領域ではヒストンアセチル化の上昇など、エピジェネティックなクロマチン状態の推移が認められた。一方、同領域にはRDR2依存的な24nt siRNAが多数マップされるにもかかわらず、その転写活性は<I>rdr2</I>変異では殆ど影響を受けなかった。HDA6標的領域では周辺のDNAメチル化状態に呼応した2つのCGメチル化状態が観察された。周辺のDNAメチル化領域から孤立している場合では、<I>hda6</I>機能欠損により標的領域のCGメチル化は完全に消失していた。一方、DNAメチル化が隣接する場合には、CGメチル化が残留していた。また、これら両領域ではCGメチル化の状態に関わらず、CHGおよびCHHメチル化はともに消失し、転写が再活性化されていた。さらに、HDA6は周囲のDNAメチル化領域には結合せず、その標的領域にのみ結合していることが確認された。これらの結果から、HDA6はRNA依存性DNAメチル化経路に殆ど依存せず、MET1と協調して領域特異的なヘテロクロマチン抑制に機能することが示唆された。
著者
高梨 秀樹 有村 慎一 堤 伸浩
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第48回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.749, 2007 (Released:2007-12-13)

高等植物のミトコンドリアゲノムはサイズが大きく、またその内部の多数のリピート配列間での組み換えによって、様々なサイズの環状構造DNA分子が生じると考えられている。しかしこれらのDNA分子種の構造については、環状構造の他に線状、分枝状といった多様な様式で存在しているという報告もある。また塩基配列決定から予想される分子種が本当に実在するのかどうか、どのような分子種がどのような比で存在するのかなどはいまだ詳細が不明であり、高等植物ミトコンドリアゲノムの真の構造は明らかになっていないといえる。 本研究では、シロイヌナズナミトコンドリアゲノムを構成するDNA分子種の構造・サイズに焦点を当て解析を行った。シロイヌナズナ植物体からPercoll密度勾配遠心法を用いてミトコンドリアを精製し、スライドガラス上でミトコンドリアを破裂させ内部に含まれるDNAを展開させた後、YOYO-1によってDNAを染色した。サイズ既知の複数のBACクローンを同様にYOYO-1で染色しkbp-μm間の検量線を作成し、これを用いておおよそのミトコンドリアDNAのサイズ(kbp)を推定した。その結果、シロイヌナズナミトコンドリアゲノム中には様々なサイズの環状・線状DNAが観察され、興味深いことにシロイヌナズナミトコンドリアゲノム(367kbp)の二倍近いサイズの環状DNAも存在することがわかった。
著者
稲田 秀俊 伊藤 利章 長尾 学 藤川 清三 荒川 圭太
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.381, 2005

我々は、酸性雪が越冬性植物に及ぼす影響を調べるため、冬小麦(<I>Triticum aestivum</I> L. cv. Chihokukomugi)緑葉の組織切片を用いて酸性条件下で耐凍性試験を行い、酸性雪ストレスによる越冬性植物の傷害発生機構の解析を進めてきた。これまでに冬小麦の緑葉を硫酸溶液(pH 2.0)の存在下で細胞外凍結させると融解後の生存率が著しく低下することを明らかにした。本研究では、気温の寒暖差の大きい初冬や初春に酸性融雪水中で植物が凍結融解される影響を見積もるため、冬小麦緑葉の切片を純水または硫酸溶液の存在下で平衡凍結融解を繰り返し行った。すると、硫酸溶液共存下では凍結融解を繰り返す度毎に緑葉の生存率は徐々に低下し、純水で処理したものに比べてより生存率が低下した。次に、冬小麦緑葉組織の凍結融解過程のどの段階で酸性化すると生存率が低下するかを調べるために、硫酸溶液を添加する時期を植氷前、融解時、融解後にそれぞれ設定して耐凍性試験を行い、緑葉組織の生存率への影響について評価した。その結果、細胞外凍結した冬小麦の緑葉組織では、融解時に酸性物質が存在することが傷害発生を助長させる要因となりうることが予想された。
著者
石田 さらみ 湯淺 高志 高橋 陽介
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第46回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.032, 2005-03-24 (Released:2006-01-11)

RSGはジベレリン(GA)内生量調節に関与するbZIP型転写活性化因子である。植物体においてその機能を阻害するとGA内生量が著しく低下し矮化形質を示す。これまでの解析により、1)真核生物に広く保存された制御因子、14-3-3タンパク質とリン酸化された114番目のセリン残基(S114)を介して相互作用すること、2)14-3-3タンパク質はRSGと結合するとRSGの核局在を阻害すること、3)RSGは14-3-3により細胞質に静的に拘束されているのではなく、核-細胞質間を高速にシャトルしていること、4)GA欠乏によりRSGは核に輸送され、GA刺激により核外に排出されること、5)この過程にタンパク質の分解は伴わないこと等を明らかとしてきた。GA刺激を受容しても14-3-3タンパク質と結合できない変異体RSGは核外に排出されないことから、GAによるRSGの細胞内局在変化には14-3-3タンパク質が関与することが示唆されている。この結果から、GA刺激によりRSGのS114のリン酸化状態が変化すると推測された。これを実証するため、S114がリン酸化されたRSGを特異的に認識する抗体を作成した。この抗体は、非リン酸化RSGとは交差しない。この抗体を使った解析の結果、GA内生量上昇により核外へ輸送される過程において、RSGのS114のリン酸化が経時的に亢進することが明らかとなった。
著者
池澤 信博 Nguyen Don Gopfert Jens Ro Dae-Kyun
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.252, 2011

セスキテルペンラクトン (STL) はキク科植物に主に見られる二次代謝産物である。多くのSTLは生理学的、薬理学的な重要性を持つにも関わらず、それらの生合成に関する知見は乏しい。我々はSTL生合成研究の第一歩として、最も単純な構造を持つSTLであり、多様なSTLの前駆体であると考えられているcostunolideを対象として研究を行った。<br> Costunolideはセスキテルペノイドの共通前駆体であるファルネシル二リン酸(FPP)からgermacrene Aとgermacrene A acid (GAA) を経由して生合成される。これまでに、FPPからGAAに至る生合成酵素遺伝子の単離はなされている一方で、GAAからcostunolideへのラクトン環形成に関わるP450遺伝子は未同定であった。我々はヒマワリのトライコームESTライブラリーからGAAを基質とする新規P450遺伝子を単離すると共に、そのホモログとしてレタスから、目的とするcostunolide合成酵素遺伝子の単離に成功した。更に、costunolide生合成系をFPP高生産酵母中で再構成する事により、costunolideの酵母中におけるde novo合成に成功した。また、ヒマワリの新規P450とレタスのcostunolide合成酵素遺伝子の反応産物の構造からSTLのラクトン環形成についての新たな知見が得られた。
著者
吉本 光希 花岡 秀樹 野田 健司 佐藤 修正 加藤 友彦 田畑 哲之 大隅 良典
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.712, 2003

オートファジー(自食作用)とは、栄養飢餓等に伴い細胞質成分が液胞に輸送される分解システムである。我々は酵母において、Apg8タンパク質のC末端がApg4プロテアーゼにより切断された後、ユビキチン化に類似した反応により脂質修飾されること、そして、このApg8脂質修飾反応がオートファジー進行を担う分子機構の鍵になることを見いだしている。<br> シロイヌナズナにはAPG8, APG4オーソログ(AtAPG8, AtAPG4)が存在し、その詳細が明らかになっていない植物のオートファジーにおいても同様の役割を担っていることが予想される。全9種のAtAPG8および全2種のAtAPG4はシロイヌナズナのほとんどの器官で発現しており、窒素飢餓条件下で発現がさらに誘導された。また、酵母ではオートファジーの進行に伴いApg8は液胞内に移行することが知られている。そこで、GFP-AtAPG8融合タンパク質を発現させた形質転換植物を作製し、様々な組織での蛍光顕微鏡観察を行なった。GFP融合タンパク質は細胞質中のドット状構造や液胞内への局在が観察された。現在、栄養条件下から窒素飢餓条件下に移したときのGFP融合タンパク質の挙動の変化を観察している。また、2種のAtAPG4のT-DNA挿入株をそれぞれ取得し、その二重変異株におけるAtAPG8の挙動について解析中であり、その結果についても合わせて報告する。
著者
田島 直幸 藤原 誠 佐藤 直樹
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.410, 2010

細胞あたりの葉緑体数は葉緑体の分裂頻度と細胞分裂に伴った葉緑体の分配によって決まり、ほぼ一定に維持されているが、葉緑体の分配機構は詳しく分かっていない。ヒメツリガネゴケ(<I>Physcomitrella patens</I>)の原糸体は先端成長または枝分かれにより成長する。先端分裂時には43~55%、平均して47%の葉緑体が頂端側の細胞に分配される。分配率の内訳を調べると、細胞分裂時の葉緑体の大きさと関連しており、葉緑体分配率が低い細胞では基部側の葉緑体が先端側と同じくらいの大きさであるのに対して、葉緑体分配率が高い細胞では基部側の葉緑体は成熟した葉緑体と同じ大きさであった。大きな葉緑体は基部側に集まり、小さな葉緑体は先端側に集まるという可能性を連続観察により検討した。その結果、細胞内での葉緑体の相対的な位置関係はほとんど変化しないことが分かった。また、細胞分裂後2時間位から次の細胞分裂までの約10時間後までの間、核と葉緑体の相対的な位置関係は大きく変化しないことが分かった。これらのことから、葉緑体は細胞分裂後の早い時期に次の細胞分裂で先端側と基部側のどちらに分配されるかが既に決まっていると推定された。
著者
渡辺 明夫 百目木 幸枝 軸丸 裕介 笠原 博幸 神谷 勇治 佐藤 奈美子 高橋 秀和 櫻井 健二 赤木 宏守
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第52回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0053, 2011 (Released:2011-12-02)

多くの植物種では頂芽の成長が優先され側芽の成長が抑えられる頂芽優勢と呼ばれる機構が働き、全体の草型が制御される。私たちは主茎や側枝が長期間伸長を続け、最終的に鳥の巣のような姿となるシロイヌナズナ変異体を見いだした。解析の結果、この独特の草姿は、全ての枝の茎が頂芽優勢による抑制をのがれ長期間伸長を続けることに主な原因があり、一枝当りの分枝数は極端には増加していないことが分かった。頂芽優勢を免れて全ての茎が伸長を続ける表現型は単一の劣性変異に起因していたため、この原因変異をnoah (no apical dominance in branch hierarchy)と名付け、noah変異体の特異な草姿形成機構の解明を試みた。 主茎や側枝の伸長を詳細に調べた結果、WTの茎では茎頂から約1.5 cmほど下部を中心に幅広い領域が伸長していたのに対し、noah変異体の茎では茎頂から約0.5 cm以内の狭い領域のみが伸長していた。茎の細胞伸長が茎中を極性輸送されるオーキシンにより引き起こされると考えると、上記の結果は変異体の茎中のオーキシン分布が著しく変化していることを意味していた。そこでオーキシン濃度を詳細に測定した結果、変異体の茎のオーキシン分布はWTのものと著しく異なっていた。このため、noah変異体では茎中のオーキシンの極性輸送が著しく撹乱されていることが推察された。