著者
吉川 信幸 井上 忠男 Converse Richard H.
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.437-444, 1986
被引用文献数
12

イチゴから分離されたラブドウイルス様粒子の3分離株(RとH, S)について,検定植物(<i>Fragaria vesca</i> UC-4, UC-5, UC-6と<i>F. virginiana</i> UC-10, UC-11, UC12)での病徴を調べたところ, R分離株は典型的なイチゴクリンクルウイルス(SCrV), HとS分離株はstrawberry latent C virus (SLCV)と考えられた。これら3分離株の感染葉とオレゴン州立大学保存のSLCV (SLCV-O分離株)感染葉の超薄切片を電顕により比較観察すると,いずれの分離株からもほぼ同じ大きさのラブドウイルス様粒子とviroplasmが検出されたが, R分離株ではウイルス様粒子とviroplasmが主に細胞質で観察されたのに対し, HとS, SLCV-O分離株では成熟粒子は主に核膜間隙に集積し,未成熟粒子とviroplasmは核内に存在していた。以上のことから,イチゴには2種類のラブドウイルス,すなわち細胞質関連型のSCrVと核関連型のSLCVが存在することが明らかになった。
著者
廣岡 卓 石井 英夫
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.80, no.100, pp.S172-S178, 2014
被引用文献数
1

病害防除において,総合的病害虫管理(IPM)の基幹になるのは薬剤防除である。薬剤防除の歴史は,1800年代に使用が開始された石灰硫黄合剤やボルドー液を端緒に,病原菌の多くの生化学的作用点を阻害し保護的作用が主体の殺菌剤,いわゆる多作用点阻害剤で始まる。1960年代になり,病原菌の特異的な部位を阻害することによって病害防除効果を発揮する特異作用点阻害剤が導入された。特異作用点阻害剤は,浸透移行性があり予防および治療効果を併せ持つことが多いことから防除適期が広く,半世紀の間に殺菌剤の主流となった(Knight et al.,1997; Morton and Staub,2008)。殺菌剤は,企業の研究開発プロセスを経て最終化され,各国の農薬登録を取得した後に初めて農業生産者に使用される。ここでは,半世紀にわたる薬剤防除の動向を述べるとともに,(i) 殺菌剤市場,(ii) 作用機構による殺菌剤の分類,(iii) 薬剤防除の実例として,日本におけるイネいもち病および薬剤防除を取巻く諸問題,欧州におけるムギ病害,ブラジルにおけるダイズ病害,(iv)日本における殺菌剤耐性問題とその対策,について考察した。
著者
児玉 基一朗 赤木 靖典 髙尾 和実 難波 栄二 山本 幹博 秋光 和也 柘植 尚志
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.207-216, 2014

地球上に存在する糸状菌の大多数は,分解者として腐生的生活を送っている。その一方で,特定の糸状菌が生物学的に大きなコストをかけて植物寄生能力を進化させてきた要因は,宿主植物というニッチを占有することの利点にある。病原糸状菌の感染様式は,栄養関係の樹立に生細胞との相互作用を必要とする活物寄生菌(biotroph)から,感染成立過程において植物細胞を激しく加害し死に至らしめる殺生菌(necrotroph)まで多岐にわたる。その他,共生菌,あるいは感染過程の少なくとも一部において生細胞との相互作用が重要であるとされる中間型の寄生菌(hemibiotroph)なども存在する。このように多種多様な寄生様式のいずれも,相互作用における進化のほぼ最終的な形態として具象化されているのか,それとも単に理想的な最終型に収斂する過程の途上に現れた一つにすぎないのか,議論の分かれるところである。
著者
岡崎 博
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.314-320, 1975
被引用文献数
1 2

コロジオン膜被覆スライドガラス上に<i>Fusarium oxysporum</i> f. <i>raphani</i>の厚膜胞子懸濁液を滴下してその発芽率を調べた。厚膜胞子はpH4.0&sim;7.0の範囲では90%前後の高い発芽率を示した。厚膜胞子は,塩類溶液中の密度が2&times;10<sup>4</sup>個/ml以下のときは90%以上の発芽率を示したが,9&times;10<sup>5</sup>個/ml以上になると発芽率は1%以下に低下した。厚膜胞子の密度が高いときに生じる発芽率の低下は塩類溶液にグルコースを添加すると回復し,その添加効果は0.1mM以上であらわれた。<br>気相の酸素濃度が5%以下になると,塩類溶液中における厚膜胞子の発芽は減少しはじめた。この酸素の影響は培地にグルコースを添加すると緩和された。しかし気相を窒素で完全に置換すると,厚膜胞子の発芽率は培地中のグルコースの有無にかかわらず著しく低下した。<br><i>Fusarium oxysporum</i> f. <i>raphani</i>の菌糸懸濁液を入れたペトリ皿の気相で厚膜胞子の発芽試験を行うとき,発芽培地として塩類溶液を用いると,発芽は著しく阻害された。一方,この発芽阻害はグルコースを添加した塩類溶液を用いると認められず,飢餓培養した菌糸を用いると増大し,菌糸懸濁液にグルコースを添加すると消失した。<br>以上の結果をもとに<i>Fusarium oxysporum</i> f. <i>raphani</i>の菌糸が産生する揮発性物質,およびそれらの産生におよぼす炭素源の濃度について論じた。
著者
挟間 渉 森田 鈴美 加藤 徳弘
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.p243-248, 1993-06
被引用文献数
2

キュウリの代表的なブルームレス台木として使用されている'スーパー雲竜'と, 従来から使用されブルームの発生が多い台木の'新土佐1号'を供試して, 褐斑病の発病推移を比較検討した。この結果, 褐斑病の発生は, ブルームレス台木への接ぎ木により著しく増加する傾向が認められた。この傾向は特にビニールハウス栽培において顕著であった。台木の違いによる葉中無機成分含有率を比較したところ, 必須元素の含有率に差異は認められなかったが, ブルームレス台木接ぎ木区のキュウリ葉ではケイ酸含有量がきわめて少なかった。さらに, ケイ酸無施用で栽培したキュウリは, ブルームレス台木栽培の場合と同様, 褐斑病に対する侵入阻止および病斑拡大阻止作用が低下する傾向が認められた。これらの結果から, ブルームレス台木への接ぎ木キュウリにおけるケイ酸の吸収阻害と褐斑病に対する病害抵抗性の低下との関連が示唆された。
著者
吉田 克志 大口 富三
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.76-82, 1999-02-25
参考文献数
18

ダイコン,アブラナおよびブロッコリーの子葉に熱処理を行い,病原性の異なる<i>P. parasitica</i> Pers. ex Fr.のダイコン(<i>Rs</i>),アブラナ(<i>Bc</i>),ブロッコリー(<i>Bo</i>)およびナズナ(<i>Cb</i>)分離菌4種類の分離菌を交差接種した。子葉に47.5&sim;50&deg;Cで30秒間熱処理を行って非親和性菌を接種した場合,アブラナ科蔬菜の3分離菌ではわずかながら,分生子形成が認められたが,Cb菌では分生子形成は認められなかった。感染部位の蛍光顕微鏡観察により,アブラナ科蔬菜の3分離菌を非親和性菌として接種した熱処理子葉では吸器形成細胞死や吸器の被覆化など植物の抵抗反応が顕著に抑制されていた。一方,<i>Cb</i>菌接種の場合には,熱誘導性の感受性は接種48時間に失われ,顕著な抵抗反応の回復が観察された。以上の結果から,<i>Rs</i>菌,<i>Bc</i>菌および<i>Bo</i>菌と<i>Cb</i>菌に対する植物の抵抗反応に著しい差異があることが確認され,これらの分離菌の病原性の差異が明らかになった。また,べと病菌の感染には植物の抵抗反応の抑制が必要であり,これは吸器の形成および発育によって制御されると考えられる。
著者
吉田 克志 大口 富三
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.315-322, 1998-08-25
参考文献数
22
被引用文献数
1

湿室ペトリ皿中のアブラナ科蔬菜子葉にダイコン,アブラナ,ブロッコリーおよびナズナから分離した<i>P. parasitica</i>を交差接種し,感染部位を組織化学的に観察することにより,その病原性を調査した。各分離菌は宿主植物と同属同種の植物上で盛んに分生子を形成したが(親和性),他種の子葉では分生子形成が認められなかった(非親和性)。交差接種を行った子葉感染部位をアルカリアニリンブルー蛍光観察法により調査すると非親和性の場合には,宿主の抵抗反応として,付着器形成以降の組織への侵入阻害,パピラによる吸器形成の阻害,シースによる吸器被覆化および吸器が形成された宿主細胞の壊死が観察され,べと病菌の生育は接種後48時間以内に停止した。これらの結果,べと病菌は段階的に発現する植物の抵抗反応をすべて抑制した場合に分生子形成に至ることが示唆された。また,Cb菌では供試したすべての植物種の子葉で他の分離菌に比較して強い抵抗反応が観察され,特に,パピラによって吸器形成が阻害される場合が多かった。RsおよびCb菌感染部位を組織化学的染色法を用いて観察したところ,吸器にはシースおよび吸器頸部にカロースの反応が認められた。パピラにはカロース,ポリフェノールの顕著な蓄積が認められたが,自家蛍光は弱く,また,べと病菌感染部位の宿主細胞壁の木化は観察されなかった。
著者
宮川 経邦
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.224-230, 1980
被引用文献数
27

ガラス室内の条件下で,接木接種によって<i>Citrus</i>および近縁植物におけるリクビン(アジア系グリーニング病)の病徴を観察した。<br> <i>Citrus</i>および<i>Fortunella</i>属幼実生または接木苗におけるリクビンの典型的な病徴は,成葉における発病初期の不規則な葉脈に沿った黄斑,さらに罹病度の進展にともなう黄化葉,ならびに節間短縮による小葉化,矮化症状の発現であった。これらの病徴は28~32Cの好適条件下においては接木接種後2~3カ月目から現われた。<br> 供試したカンキツ品種のなかで,ポンカンおよびオーランドタンゼロの病徴がとくに顕著で検定植物としての利用価値が高い。ついでスイートオレンジ,ウンシュウミカン,シークワシャーなどであった。サワーオレンジ,グレープフルーツ,セクストンタンゼロなどのCTV-SY反応型品種はリクビンによっても黄化,矮化症状を現わすが, CTV-SYによる病徴がより顕著に現われることから,被検試料にCTV-SYが保毒されるときは検定植物としては不適当である。<br> カラタチは外見上無病徴か,まれに軽い黄化葉を現わしたが,これらの実生苗にポンカン,スイートナレンジなどの感受性品種を接木すれば顕著なリクビンの病徴を現わした。ミカンキジラミの好適な宿主植物であるゲツキツは接木接種によって外見上感受性を示さなかった。
著者
Arwiyanto Triwidodo 坂田 完三 後藤 正夫 露無 慎二 瀧川 雄一
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.288-294, 1994
被引用文献数
2 5

ストレリチア(<i>Strelirtzia reginae</i> Banks)から分離された青枯病菌の非病原性菌株(Str-10 op型)を接種したトマトの根系から,非接種対照植物の根系よりも多量のトマチンが検出された。茎の組織内ではこのようなトマチン濃度の上昇は見られなかった。Str-10 op型の接種源濃度を10<sup>8</sup>から10<sup>9</sup>cfu/mlに増加すると,接種5日後における根部組織内のトマチン含量は113&mu;g/g根から152&mu;g/g根まで増加した。接種9日後にはトマチン含量は450&mu;g/g根まで増加した。この濃度は青枯病菌の病原性菌株の増殖を<i>in vitro</i>で抑制するのに十分な濃度であった。トマチンによる青枯病菌の発育抑制は静菌的であった。一方,Str-10 op菌株の培養ろ液及び加熱死菌で処理したトマト根部ではトマチン濃度の増大は見られなかった。
著者
松尾 卓見 宮川 守 斎藤 英毅
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.860-864, 1986
被引用文献数
8

ニンニクの鱗茎腐敗による地上部枯死(病名:乾腐病)を起因する <i>Fusarium oxysporum</i>の分化型を知るためにユリ科に関係ある既知分化型のf. sp. <i>cepae</i>(タマネギ), f. sp. <i>tulipae</i>(チューリップ), f. sp. <i>asparagi</i>(アスパラガス), f. sp. <i>lilii</i>(ユリ), f. sp. <i>allii</i>(ラッキョウ)との相互接種検討を行った。ニンニク菌(長野県産)はニンニクに対し鱗茎付傷接種・ポット土壌接種とも明瞭な病原性を示したが,他の供試分化型菌は病原性を示さなかった。なおニンニク菌は上記ユリ科植物やグラジオラス,スイセンほか14植物に対して病原性を示さなかった。以上の結果からニンニク菌に対し<i>Fusarium oxysporum</i> Schl. f. sp. <i>garlic</i>なる新分化型名を与えたいと思う。
著者
岩波 徹 小泉 銘册 家城 洋之
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.642-650, 1993
被引用文献数
2 9

温州萎縮ウイルス(SDV)とその近縁ウイルスについて, 6分離株(S-58, MIE-88, Ci-968, LB-1, Az-1, NI-1)のカンキツ,草本植物での症状,外被タンパク質の血清学的性状および電気泳動度を比較した。カンキツおよび草本植物上の反応より, S-58とMIE-88, Ci-968, NI-1はそれぞれ典型的なSDV,カンキツモザイクウイルス(CiMV),ネーブル斑葉モザイクウイルス(NIMV)と考えられた。LB-1とAz-1は既報のものとはやや病原性が異なっていた。S-58とCi-968に対するポリクローナル抗体を用いて,直接二重ELISA (DAS-ELISA), electro-blot immunoassayおよびSDS-ポリアクリルアミド電気泳動 (SDS-PAGE)を行った。DAS-ELISAの結果, S-58とMIE-88, Ci-968とLB-1はそれぞれS-58抗体, Ci-968抗体に強く反応したが, Az-1とNI-1は両方の抗体に反応しなかった。SDS-PAGEの結果, S-58とMIE-88では約42Kと22K, Ci-968, LB-1, Az-1では約42Kと23K, NI-1では約42Kと22.5Kのそれぞれ2本のバンドが検出された。Electro-blot immunoassayによる分析では, S-58抗体はS-58とMIE-88の約42Kのバンドと強く反応し, Ci-968抗体はCi-968, LB-1, Az-1の約42Kのバンドと強く, S-58とMIE-88のそれとやや弱く反応した。NI-1の約42Kのバンドは両方の抗体と反応しなかった。また,いずれの分離株の場合でも,約22~23Kのバンドの反応は,どちらの抗体に対しても極めて弱かった。以上の結果から,供試分離株はSDVグループ(S-58, MIE-88), CiMVグループ(Ci-968, LB-1, Az-1), NIMV (NI-1)グループに分けられたが,これらを1ウイルスの系統,または別のウイルスとする為には,更に他の性状の比較が必要であると考えられる。
著者
大木 理
出版者
日本植物病理學會
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.3-11, 2001 (Released:2011-12-19)
著者
景山 幸二 宇井 格生
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.148-152, 1983
被引用文献数
2 7

北海道立北見農業試験場の連・輪作試験圃場でインゲンおよびダイズの連作障害に関係するとされる<i>P. myriotylum</i>と未同定の<i>Pythium</i> sp. (<i>Pythium</i>sp. A)とについてそれらの宿主範囲および分布を検討した。<i>P. myriotylum</i>は,輪作区に栽培されるエンバク,テンサイ,ジャガイモ,コムギ,アカクローバのうちテンサイのみに強い病原性を示し,マメ科作物ではエンドウ,アズキ,ダイズ,インゲンに強い病原性を示したが,品種によりその程度は異なった。<i>Pythium</i> sp. Aは,テンサイに対し,またマメ科作物ではエンドウ2品種,ダイズ1品種,インゲン3品種に強い病原性を示した。網走支庁管内19か所および帯広1か所から生育の劣ったインゲンを採取し,根から<i>Pythium</i>属菌を分離したところ,1か所から,<i>P.myriotylum</i>, 7か所から<i>Pythium</i> sp. Aが得られた。<br>北見農業試験場の連・輪作試験圃場5区,網走支庁管内17か所,伊達1か所,帯広1か所の各種作物の畑地より土壌を採取し,ライムギ苗を用いて間接分離を行った。その結果,<i>P. myriotylum</i>はいずれの土壌からも分離されず,<i>Pythium</i> sp. Aは3か所から分離された。以上の結果から,<i>P. myriotylum</i>と<i>Pythium</i> sp. Aは宿主範囲および分布ともに狭い種と認められる。
著者
宇杉 富雄 中野 正明 新海 昭 林 隆治
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.512-521, 1991
被引用文献数
2 15

汁液接種によりサツマイモから3種のひも状ウイルスが分離された。M分離株は<i>Ipomoea</i> spp., <i>Nicotiana tabacum, Datura stramonium, Chenopodium quinoa, C. amaranticolor</i>に,Mo分離株は<i>Ipomoea</i> spp., <i>C. quinoa</i>および<i>C. amaranticolor</i>に,C分離株は<i>Ipomoea</i> spp.にのみ感染した。M, MoおよびCの希釈限界はそれぞれ,1,000&sim;10,000倍,1,000&sim;10,000倍および100&sim;1,000倍であり,保存限界は1日以内であった。また,不活化温度はそれぞれ50&sim;60&deg;C, 60&sim;70&deg;Cおよび70&sim;80&deg;Cであった。M, Moのウイルス粒子はそれぞれ750&sim;810nm, 850&sim;880nmに,Cは710&sim;760nmと1,430&sim;1,510nmに分布した。ウイルス粒子の幅はいずれもおよそ13nmであった。Mは容易にモモアカアブラムシによって伝搬されたが,MoおよびCは伝搬されなかった。SSEM-PAGによりMと台湾で発生するsweet potato latent virus (SPLV)抗血清との間に,Moとsweet potato feathery mottle virus russet crack strain (SPFMV-RC)との間に血清関係が認められた。しかし,3分離株の間には血清関係は認められなかった。以上の結果から,MおよびMoはそれぞれSPLV(サツマイモ潜在ウイルス)およびSPFMV(サツマイモ斑紋モザイクウイルス)の1系統と考えられた。Cはサツマイモでは未記載のウイルスであり,これをサツマイモシンプトムレスウイルス(SPSV)と命名したい。
著者
柘植 尚志 西村 正暘 大村 智 甲元 啓介 尾谷 浩
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.277-284, 1985

宿主特異的毒素を生成する<i>Alternaria alternata</i>群植物病原菌の病原性発現および分生胞子発芽時の毒素生成に及ぼす化学物質の効果について検討した。ナシ黒斑病菌分生胞子懸濁液に,抗生物質セルレニンまたはメチオニンをそれぞれ20ppm, 100ppm以上の濃度で添加すると,胞子の発芽,付着器形成などは殆んど影響されなかったが,胞子発芽時の宿主特異的毒素(AK-毒素)の生成・放出は著しく抑制された。また二十世紀ナシ葉に対する病原性の低下が観察された。さらに,これらの化学物質は,リンゴ斑点落葉病菌のAM-毒素生成およびイチゴ黒斑病菌のAF-毒素生成も阻害し,両菌の病原性低下を引き起こした。また,KH<sub>2</sub>PO<sub>4</sub>, NH<sub>4</sub>Cl,酵母エキスおよびシステインも,ナシ黒斑病菌の胞子発芽にはほとんど影響することなく胞子発芽時のAK-毒素生成能力および病原性を阻害した。しかし,これらの化学物質の効果は,セルレニンやメチオニンほど顕著ではなく,比較的高濃度処理によって,阻害効果が認められた。以上の結果から,<i>Alternaria alterrata</i>群病原菌の分生胞子懸濁液に,ある種の化学物質を添加することにより,胞子発芽時の宿主特異的毒素生成が阻害され,その結果,病原性の低下が引き起こされるものと考えられ,本群菌の病原性発現における胞子発芽時の宿主特異的毒素の重要性が示唆された。
著者
田口 義広 百町 満朗 杖田 浩二 川根 太
出版者
日本植物病理學會
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.94-101, 2003 (Released:2011-12-19)

IK-1080の菌濃度を1.0×10(8)cfu/mlとした懸濁液1.0mlを、トマト果実の着果促進を目的としたホルモン処理と同時に花弁に散布すると、花弁における灰色かび病の発生は著しく抑制された。散布直後の花弁におけるIK-1080の菌量は1.9×10(7)cfu/mgだったが、処理後の花弁の菌量は7.9×10(9)cfu/gとなり約400倍増加していた。無処理区の花弁上にはBotrytis属菌を含む10種類以上の糸状菌が認められたが、IK-1080を散布した花弁では5種類に減少し、Botrytis属菌は出現しなかった。このように菌相の単純化が認められた。トマト栽培では受粉に訪花昆虫のマルハナバチがよく用いられている。そこで、マルハナバチに、灰色かび病菌に拮抗的なIK-1080を運ばせることで花弁の灰色かび病が防除できるかを検討した。はじめに媒介用のアダプターを4種類試作した。箱型のアダプターは出巣したマルハナバチが帰巣しなくなった。箱内に1本の紐を渡した型と円筒の中にパフを敷いた型のアタプターは、帰巣しても巣に入りたがらない行動が認められ、花粉球の落下も多かった。一方、出入口分離型はマルハナバチの出巣個体数が1時間当たり12頭と多く、時間当たりの帰巣率も77.8%と高かった。また、マルハナバチの運んできた花粉球の落下が最も少なく、果実の着果率も96~98%と高かった。この出入口分離型のアダプターを用いるとマルハナバチの身体に1頭当たり6.0×10(4)cfuのIK-1080が付着していた。マルハナバチにIK-1080を運搬させると、訪花20日後の花弁の菌量は10(6)~10(7)cfu/mgと増加した。また、灰色かび病の発生は著しく抑制された。マルハナバチにIK-1080を運搬した花弁でも、ホルモンと同時処理の時と同じようにBotrytis属菌の出現は認められなかった。本法は著しく省力的で、アダプターに入れるIK-1080の量は1回当たり(7日間分)3gと少なかった。
著者
鈴木 啓史 黒田 克利 貴田 健一 松澤 章彦 高垣 真喜一
出版者
日本植物病理學會
巻号頁・発行日
vol.77, pp.1-6, 2011 (Released:2012-12-03)

2002~2006年の5年間に、三重県内のトマト・ナス生産ハウスより977菌株の灰色かび病菌を分離し、アニリノピリミジン系殺菌剤であるメパニピリムに対する感受性を検討した。FGAペーパーディスク法では、974菌株のMIC値が3ppm以下であったが、2005年に1ヶ所から分離した3菌株(M0517、M0518、M0520菌株)のMIC値は3ppmより高かった。これらの菌株について接種試験を行ったところ、100ppmでも防除効果の低下が認められ、その程度がヨーロッパで分離された耐性菌と同様であったことから、メパニピリム耐性菌であることが確認された。アニリノピリミジン系薬剤耐性菌は、ヨーロッパの灰色かび病菌で報告されているが、日本では初報告となる。メパニピリム耐性菌を接種した防除効果試験において、メパニピリム水和剤散布は高い防除効果を示したが、無処理区に比べ耐性菌密度が高まる傾向であった。
著者
土佐 幸雄 中馬 いづみ
出版者
日本植物病理學會
巻号頁・発行日
vol.80, pp.32-39, 2014 (Released:2015-03-30)
著者
富岡 啓介 森 充隆 佐藤 豊三
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.620-623, 1999-12-25
参考文献数
9
被引用文献数
2

1999年3月,香川県の施設で栽培中のラナンキュラス(ハナキンポウゲ;Ranunculus asiaticus L.)に灰色かび病の典型的な症状を呈する病害が確認された。葉,茎および花に,初め水浸状の不整形病斑が現れ,病斑はしだいに褐変・乾燥しながら拡大・癒合し,それら器官が腐敗して株全体が早期枯死に至る。病斑上には肺&sim;灰褐色のビロード病の菌体が観察され,その出現は多湿条件で促進された。この菌体では典型的なBotrytis属菌の分生子柄と分生子がみられ,本菌を主にその形態的特徴からB. cinerea Person:Friesと同定した。本菌分離菌株の分生子を健全宿主に接種した結果,原病徴が再現されるとともに接種菌が再分離され,同菌の病原性が確認された。本病はすでに記録のあるラナンキュラス灰色かび病と思われた。しかし,病徴とともに病原菌の同定根拠および病原性に関する報告がない。本研究はその科学的根拠を示すものである。