著者
阿部 史朗
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.447-454, 1987

帝切吸入麻酔法における換気条件と吸入02濃度の児への影響について検討した.研究方法:1)妊娠37~42週の全身的合併症のない妊婦62名に対して,40名は吸入麻酔下(G群)で,20名は腰椎麻酔下(C群)で選択的帝切を施行した.2)全例に術前輸液,術前側臥位,LUDD法を施行した,3)G群の麻酔は笑気・酸素・ハローセン(0.5%)で維持し,換気回数(14回/分または18回/分)と吸入02濃度(50%または66%)の組合ぜにより,さらに4群にわけた.4)C群の麻酔は0,3%dibucaineにより,マスクで100%0_2を投与した.5)ABMにより血圧・脈拍,EMG,EEG,NMT,EtC0_2を監視中記録した.6)児娩出時に母体動脈血(MA),膀帯動9静脈血(UA。UV)を採取し,P02,PC02,pH,B.E.を測定した.成績:1)G群・C群ともに麻酔前および児娩出時において血圧の有意な変動は認められなかった.2)G群のEtCO_2,UVPCO_2およびMAPCO_2は互いに正の相関関係にあった.3)換気回数が増すほどMAPCO_2は低下する傾向にあるが,MAPCO_2が23mmHg以下になってもUVPCO_2およびUVPO_2にadvers effectは認められなかった.4)吸入O_2濃度が高くなるほどMAPO_2は上昇した.またMAPO_2とUVPO_2との相関係数は有意とはいえないが正となった.以上より,1)術前輸液,術前側臥位,LUDD法は帝切麻酔時における血圧低下への対策として有用である.2)麻酔中の生体情報を多角的に監視する上でABMは有用であり,とくにEtCO_2は母体および児のPCO_2をprospectiveにモニターするうえで有用である.3)帝切吸入麻酔法での換気回数と吸入O_2濃度については,やや過換気とし,かつ吸入O_2濃度を高濃度に維持することが児にとって安全である.
著者
柳沼 つとむ 岡村 隆 宮田 礼輔 高橋 稔 竹内 亨 西井 修 小林 拓郎 泉 陸一
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.354-358, 1984
被引用文献数
1

陣痛中および分娩時における種々のストレスに対する母体の反応としての交感神経,副腎髄質機能と副腎皮質機能の光進状態を知るために,尿中のアドレナリンとノルアドレナリン濃度と血清中のコーチゾル濃度の経時的変化を調べた.アドレナリンは,陣痛発来前の妊娠38~41週の6.53±0.75(SE)μg/lから陣痛発来後の入院時と入院後4時間までは著明な変化はないが,子宮口8~10cm開大時と胎児,胎盤娩出直後には,夫々54.72±16.37と78.16±15.36μg/lと有意に上昇し(p<0.005),娩出の翌朝には24.14±6.66μg/lと著しく低下した(p<0,025),ノルアドレナリンの陣痛発来前の濃度は89.13±9.43μg/lであり,アドレナリン程著明な上昇ではたいが,子宮口8~10cm開大時と娩出直後に高値を示し(夫々198.25±35.18と215.83±34.76μg/l,p<0,005),アドレナリンと反対に娩出の翌朝もたお高値に留った(212.77±44.51μg/l).血清コーチゾル濃度は,陣痛発来前の52.02±6.11μg/dlから,陣痛発来後の入院時そして胎児,胎盤娩出直後(175.62±11.19μg/dl,p<0.005)と次第に上昇し,娩出の翌朝には46.84±3.88μg/dlと元の濃度に戻った.尿中のカテコールアミン濃度のこれらの経時的変化は,血漿中のこれらの濃度の経時的変化(文献)より遅れて現われるが,その傾向は極めて類似している.従って陣痛,分娩中に尿中のカテコールアミン濃度を経時的に測定することは,これらのカテコールアミン分泌状態を知るために役立ちうると考える.これらのホルモン濃度の経時的変化は,文献的諸事実を考慮して,アドレナリン分泌が精神的ストレスの,ノルアドレナリン分泌が肉体的ストレスの,そしてコーチゾル分泌がストレスの主た反応であるとして,十分理解されうる.
著者
柳沼 〔ツトム〕 泉 陸一
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.p289-294, 1980-03
被引用文献数
1

分娩時期は,比較的平穏な妊娠状態から,新しい生命を生み出して産褥期こ至る,母体にとっては一大変換期である.この時期においては,既に知られた生理的.生化学的変動もあるが,なお多くの未知のものがあると考えられる.このうち既知のものに関しても,これらが実際にどのようた臨床的意義を有するか不明のものが多い.もしもこれらが臨床上の事象と結びつくならば,それらは臨床上の指標として極めて価値あるものとなる.かかる意図における研究の一環として,本研究において,分娩前後の母体血清Cortisolの変動を観察した.(1)陣痛発来前の25.86±1.10(S.E.)μg/dlに比較して,陣痛開始による入院時には41.98±4.62μg/dlに上昇し(Pp<0,005),分娩直前にはさらに67.91±5.97μg/dl上昇する(Pp<0.001).分娩直後にはこれよりもやや上昇するが有意差はない(70.42±7.39μg/dl) 産褥第1,日の早朝には,陣痛前のものとほぼ同じになり,第2日,5日と次第に減少する.(2)胎児娩出時の血清Cortisolと分娩時間との間には統計学的に有意な高い相関が認められる(r=0.70, p<0.005).(3)陣痛中の血清Cortisolと分娩時間との間にも統計学的に有意な相関が存在する(r=0.79, p<0.005).(4)初産婦の分娩時間は経産婦のそれよりも有意に長い(夫々9.40±1.57,および5.58±1.76時間,p<0.5).これを反映して,初産婦の胎児分娩直前のけ血清Cortisolは経産婦のそれより有意に高い(夫々81.65±8.50,および58.63±4.78μg/dl,p<0.025).これらの結果は,陣痛が母体に対してストレスとして作用することを示すものであり陣痛に関する諸要素のうちの持続時間すなわち分娩時間が母体のの血清Cortisolの増加すなわちストレスに対する反応の大きさを決定する重要な因子であることを示唆する.従って分娩が還延した場合には,その管理のために副腎機能がまだ充分考慮されねばならない.
著者
山崎 峰夫 森川 肇 望月 眞人 佐藤 和雄 矢内原 巧 齋藤 良治 平川 舜 蒲田 忠明
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.925-934, 2002-07-01
参考文献数
14

日本人について妊娠末期のBishop scoreと妊娠・分娩経過との関係を初産・経産別に明らかにする共同調査を行った.妊娠期間,分娩所要時間,分娩様式,羊水混濁の有無,新生児アプガースコアに関し,第1報(日産婦誌2000;52:613-622)では実際の統計量成績を,また第2報(日産婦誌2001;53:1809-1818)では,それらと妊娠末期のBishops coreとの間の強い相関性を報告した.そこで,今回はこれらの事象が妊娠末期のBishop scoreにより予測しうるかを検討した.妊娠37~39週におけるBishop scoreの点数別の該当妊婦ののべ人数と受診後1週以内の分娩例数を集計した.また,妊娠37,38あるいは39週のBishop scoreの点数別に41週0日以降の分娩,分娩所要時間延長(初産婦24時間以上,経産婦12時間以上),手術分娩(吸引分娩,鉗子分娩あるいは緊急帝王切開),羊水混濁および低アプガースコア(出生後1分のアプガースコアが7点以下)の症例数を調べた.次いで,各事象を予測するための基準となるBishop scoreを1点から8点の8通りそれぞれにつき感度と特異度を算出し,ROC曲線により予測に最適なBishop score値(main Bishop score値)を求めた.なお,main Bishop score値の予測への有用性はこれを境とした二群間で各事象の頻度に有意差がある場合とした.初産婦・経産婦とも1週間以内に分娩となる頻度は50%を超えるのは妊娠37~39週のBishop scoreが6点以上のときであったが,感度を考慮すると初産婦では4点以上,経産婦では5点以上のとき予測上の有用性があった.他の各事象を予測するのに有用なBishop scoreは,i)41週以降の分娩:初産婦,経産婦とも妊娠37週3点以下,38週3点以下,39週5点以下,髄)分娩所要時間延長:初産婦では妊娠37週2点以下,38週2点以下,39週4点以下,経産婦では妊娠37週2点以下,妊娠38週1点以下,iii)羊水混濁:初産婦では妊娠37週2点以下,38週1点以下,39週2点以下,経産婦ではいずれの週数でも3点以下であった.なお,手術分娩と低アプガースコアについては,初産婦,経産婦ともBishop scoreによる予測は困難と思われた.以上の成績より,一週間以内の分娩,妊娠期間延長,分娩所要時間延長,羊水混濁を予測するうえで妊娠37~39週のBishop scoreが有用であることが窺われた.