著者
北村 晃寿
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
pp.61.2114, (Released:2022-02-19)
参考文献数
32
被引用文献数
1

2021年7月3日に静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川沿いで土石流が発生し,大量の土砂が相模湾まで流下した.その後の調査で,逢初川の源頭部にあった盛土のうちの約55,500 m3が崩落し,流下したことが分かった.この源頭部の崩壊していない盛土の黒色土砂から4個体の海生二枚貝の貝殻を採取し,さらに集落の直ぐ上流の土石流堆積物から5個体の海生二枚貝の貝殻を採取した.これらは,マガキ属,アサリ,サルボウガイなどの宮城県以南,四国,九州の潮間帯下部~水深10 mに生息する種である.14C年代測定の結果,5,851~5,568 cal yr BC, 477~154 cal yr BC, 西暦1,700年以降の3つに分けられることが判明した.これらのことから,盛土の黒色土砂の供給源の一部は沿岸堆積物であり,現世堆積物と中部完新統の2つの供給源がある可能性があることが分かった.
著者
成瀬 敏郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.75-93, 2014-04-01 (Released:2014-10-24)
参考文献数
86
被引用文献数
1

これまで著者は,乾燥地域や氷河末端から風で運ばれる風成塵とその堆積物であるレスについて,日本列島をはじめ,中国,韓国,ヨーロッパ,イスラエル,アメリカ合衆国,ニュージーランドなどのレス地帯を調査し,レスの分布,研究史,堆積時期,気候変動とのかかわりを研究してきた.本論では,レスの研究史,レスの分布と堆積時期,風成塵の同定に ESR 酸素空孔量(以下,酸素空孔量とする)分析が有効であること,風成塵・レスの堆積量や粒径などが過去の風の強さを復元するのに有効であること,完新世土壌の母材に占める風成塵の役割の重要性について述べた.さらに中国と韓国の旧石器編年・対比にレス-古土壌による編年法が有用であること,日本列島において MIS 6 のレス層に前期旧石器が包含されていることを述べた.
著者
佐藤 善輝 小野 映介 藤原 治
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
pp.60.2011, (Released:2021-02-15)
参考文献数
37

九十九里浜平野の中央部に位置する千葉県九十九里町(旧片貝村)を対象に,1703年元禄関東地震津波の痕跡について,史料調査と低地の掘削調査によって検証を試みた.元禄関東地震の前後に作成された絵図を現地調査で比定した結果から,津波は少なくとも九十九里町役場付近まで遡上したことが分かった.九十九里町役場に隣接する水田で掘削したコア試料の層相と珪藻化石の分析からは,海浜堆積物とそれを覆う堤間湿地堆積物が認められた.淡水性の湿地堆積物を明瞭な地層境界を介して覆う砂層が一枚認められ,堆積物の特徴などから津波堆積物の可能性が高いと考えられる.この津波堆積物の堆積年代は少なくとも1,664calAD以降と考えられ,史料などの情報も考慮すると1703年元禄関東地震による津波堆積物と考えるのが最も妥当である.
著者
町田 洋 新井 房夫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.143-163, 1978
被引用文献数
56 118

A Holocene volcanic ash layer comprising abundant glass shards occurs as near-surface, soil-forming parent materials in south to north Kyushu and in Shikoku. This layer has been given several local names such as &ldquo;Akahoya&rdquo;, &ldquo;Imogo&rdquo;, &ldquo;Onji&rdquo;, etc. by farmers and pedologists. Its remarkable characteristics as a parent material of soil stimulated the interest of many pedologists to study its source, pedological features, distribution, etc. However, opinions on its source and proper identification varied considerably from one author to another.<br>Detailed petrographic observation and accurate determinations of the refractive indices of the glass and several phenocryst phases in the tephra, together with extensive field work, have led to the conclusion that the Akahoya ash is the product of a single major eruption of the Kikai caldera.<br>The ash is dacitic in composition and contains abundant bubble-walled glass shards and plagioclase, hypersthene, augite and opaque minerals as phenocrysts. The refractive index of the glass ranges from 1.505 to 1.514, and that of the hypersthene, from 1.705 to 1.714. The thickness contour of the ash layer and its grain-size distribution clearly indicate that this ash represents ejecta from the Kikai caldera, which is one of the largest calderas in Japan with an approximate diameter of 20km and largely submerged beneath the sea.<br>The formation associated with this widespread tephra consists of three members; (1) a pumice-fall deposit as the earliest stage, (2) pyroclastic-flow deposits as the middle to the latest stages, and (3) an ash-fall deposit approximately contemporaneous with the pyroclastic flow. The 3rd member is assigned to the Akahoya ash and has the most extensive lobe with an axis length of over 1, 000km, covering most of southwest to central Japan and northwest Pacific Ocean. The volumes of the Akahoya ash-fall deposits must be greater than those of the pyroclastic flows.<br>More than twenty-seven radiocarbon dates of the ash have been obtained so far, ranging rather widely from ca. 3, 000y.B.P. to ca. 9, 000y.B.P. However, the average value of the carbonated woods and peaty materials containing in the layer and the stratigraphical relationships with human remains give a probable age of the ash between 6, 000y.B.P. and 6, 500y.B.P. This marker-tephra is thus extremely significant for studies of Holocene climatic changes and sea levels, as well as for the correlation of archaeological sites.
著者
成尾 英仁 小林 哲夫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.287-299, 2002-08-01
参考文献数
37
被引用文献数
5 11

薩摩・大隅半島南半部と南方海域に位置する種子島・屋久島において,6.5ka BPに鬼界カルデラで発生したアカホヤ噴火に伴った地震の痕跡が多数見つかった.地震の痕跡は,薩摩・大隅半島南半部では砂や軽石・シルトが噴き出す噴砂脈であるが,種子島・屋久島では礫が噴き出した噴礫脈である.噴砂脈は薩摩半島中南部と大隅半島中部のシラス台地上に集中しており,シラス(入戸火砕流堆積物:A-Ito)の二次堆積物から発生するものが主体である.一方,噴礫脈は種子島・屋久島の海岸段丘面上に存在しており,礫に富む段丘堆積物から派生したものと,基盤をつくる熊毛層群の風化・破砕された礫から発生したものとがある.<br>これら噴砂・噴礫脈の発生時期であるが,種子島・屋久島地域での噴礫の発生は火砕流噴火の直前~同時期の1度だけであったが,薩摩・大隅半島南半部での噴砂は噴礫の発生と同時期だけでなく,鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)の降下中にも発生した.<br>すなわち,最初の巨大地震は,種子島・屋久島地域から薩摩・大隅半島南半部にわたる広い範囲で噴礫・噴砂を発生させたが,2度目の地震は数時間ほど後に発生し,震源はより北部に移動した可能性が大きい.
著者
杉山 真二
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.311-316, 2002-08-01
参考文献数
11
被引用文献数
3 12

約7,300年前の鬼界アカホヤ噴火が南九州の植生に与えた影響について,植物珪酸体分析の結果から検討を行った.その結果,幸屋火砕流(K-Ky)が及んだ大隅半島南部や薩摩半島南部では,それまで分布していた照葉樹林やタケ亜科Bambusoideaeなどが絶えて,ススキ属<i>Miscanthus</i>などが繁茂する草原植生に移行したと推定される.約6,400年前の池田湖テフラ(Ik)との関係などから,これらの地域の大部分では約600~900年間は照葉樹林が回復しなかったと考えられるが,K-Kyの到達限界付近など一部の地域ではIk直下で照葉樹や落葉広葉樹が出現しており,森林植生が回復過程にあったと推定される.K-Kyが及ばなかった鹿児島県中部以北では,照葉樹林が絶えるほどの影響を受けなかったと考えられ,鬼界アカホヤ噴火以降に照葉樹林が拡大したところも見られたと推定される.
著者
吉田 英嗣 須貝 俊彦 大森 博雄
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.55-67, 2010-04-01
被引用文献数
1 8

火山麓に分布する流れ山は,大規模山体崩壊が過去に発生した証拠として,また,岩屑なだれのメカニズムを推察するうえで,重要な研究対象とされてきた.本研究では,流れ山地形がなお崩壊や岩屑なだれに関して地形学的に重要な情報を提供してくれるものと捉え,岩屑なだれの流下方向における流れ山の分布様式を検討し,流れ山地形に新たな地形学的意義を与えることを試みた.研究対象は,日本における4つの岩屑なだれが形成した流れ山であり,これら岩屑なだれは山麓に拡散した典型例とみなされる.空中写真判読により抽出した流れ山の数は,尻別火山の172,有珠火山の262,岩木火山の200,那須火山の643であり,GISを用いて流れ山の形態データを取得した.<BR>いずれの事例も,流れ山地形は山麓の下部斜面から平地にかけて緩やかな斜面として存在する.そして,流れ山のサイズは下流方向に減少する傾向が認められる.この減少傾向は,流れ山のサイズと給源からの距離との回帰分析によれば,指数関数で近似しうる.まず,回帰関数は,距離ゼロ(給源)における流れ山のサイズが崩壊の体積に規定されていることを示している.すなわち,崩壊の規模に応じて,崩壊部に発生する初期段階での割れ目の大きさが決まるらしい.他方,流れ山のサイズの減少割合は,等価摩擦係数の逆数で示されるような岩屑なだれの流動性に規定されていると考えられる.換言すれば,流動性の小さい岩屑なだれでは流れ山が急速に縮小するのに対し,大きい岩屑なだれでは緩やかである.以上の検討により,流れ山のサイズと給源からの距離との関係は,火山体ならびに岩屑なだれの流動特性を反映していることが明らかとなった.
著者
斉藤 勝 佃 栄吉 岡田 篤正 古澤 明
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.277-280, 1997-10-31
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

和歌山県和歌山市から那賀郡打田町にかけての和泉山脈南麓域には,紀ノ川の支流によって形成された扇状地面が開析され,数段に区分される段丘面が広く分布している.これらの段丘面は,低位段丘(1面,2面),中位段丘(1面,2面)に分類・対比されている(寒川,1977;岡田・寒川,1978;水野ほか,1994).今回の野外調査により,低位段丘2面堆積物中に火山灰層が見いだされたが,この火山灰層は岩石記載学的特徴から,姶良Tn火山灰であることが判明した.姶良Tn火山灰層が挾在することから,和泉山脈南麓域に分布する低位段丘2面は最終氷期極大期頃に形成されたことが判った.<br>低位段丘2面は,中央構造線活断層系に属する根来断層により変位を受けている.根来断層の運動様式は右ずれで,おおむね北側の相対的隆起である.低位段丘2面の離水時期を約2万年とすれば,段丘面や段丘崖の変位量から根来断層の平均変位速度が求められる.これによれば,右ずれは1.8~3.5m/1,000年程度,上下方向は0.3~0.5m/1,000年程度であり,岡田・寒川(1978)が推算した値をほぼ支持する.
著者
藤井 昭二 藤 則雄
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.183-193, 1982
被引用文献数
1 6

The sea-level changes since the Postglacial ages in the Hokuriku region are investigated by means of studying emerged topography, shell beds, submerged forests, sand dune and their ages.<br>As the result of investigation, the sea-level was higher than that of the present between 4, 500 and 5, 500y.B.P. along the east side of the Noto Peninsula and the Toyama Bay. While the present sea level is the highest at the Kahoku lowland on the southwestern side of the Noto Peninsula.<br>This controversial result has been solved by following considerations.<br>The coastal areas along the Toyama Bay consist of rock coasts and alluvial plains. The rock coast is uplift zone and the alluvial plain is subsidence zone generally in the order of 10<sup>4-6</sup> years. If uplift is severe in this region, emerged sea shells of older ages must be in a high place and sea level of younger ages must be in a low place. But the emerged sea shells clustered between 2 and 6m and higher than the present sea-level and their ages clustered in between 4, 500 and 5, 500y.B.P.<br>This evidence shows that the rate of eustatic sea-level changes is quicker than that of the uplift in the order of 10<sup>3</sup> years.<br>Elevation of the boring site becomes the highest point of the sea-level so long as discussion was done about the boring cores. The present sea-level is the highest since the Postglacial age, because the altitude of the lowland is the same latitude of the present sea-level.
著者
藤原 治 増田 富士雄 酒井 哲弥 入月 俊明 布施 圭介
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.489-501, 1999-12-01
参考文献数
47
被引用文献数
7 9

相模トラフ周辺で過去1万年間に発生した地震イベントを,房総半島南部と三浦半島に分布する4つの沖積低地の内湾堆積物から検出した.<br>堆積相解析の結果,基底に侵食面をもち,上方へ細粒化する砂層や砂礫層によって,自生の貝化石を含む均質な泥質層の堆積が中断されるイベントが,各沖積低地で10回以上識別された.また,一部の砂層では,海と陸の両方向の古流向が見られる.内湾堆積物に含まれるこれらの粗粒堆積物は,いわゆる"イベント堆積物"である.<br>タフォノミーの視点からの化石群集の分析によって,イベント堆積物の供給源や運搬・堆積プロセスが推定された.イベント堆積物は,内湾泥底と岩礁など,通常は共存しない異なる環境に棲む貝化石群集が混合しており,湾周辺からの堆積物の取り込みと内湾底への再堆積を示す.湾奥の汽水域や湾中央で堆積した泥層に挾まれる2枚のイベント堆積物は,外洋性の貝形虫化石を多量に含み,外洋水が湾奥に侵入したことを示す.これらは津波堆積物の可能性がある.<br>137個の高密度の<sup>14</sup>C年代測定によって,7枚のイベント堆積物が相模湾沿岸で広域に追跡され,乱泥流が南関東沿岸の広域で同時に繰り返し起きたことが推定された.5枚のイベント堆積物は,南関東に分布する完新世海岸段丘の離水と近似した年代を示し,津波起源であることが強く示唆される.<br>化石群集から復元した古水深変動から,イベント堆積物を挾む2つの層準で急激な海面低下が見いだされた.このイベントは海底の地震隆起と地震に伴う津波を示すと考えられる.<br>地層から地震イベントを検出することは,古地震研究に有力な情報を提供し,地震テクトニクスの新たな研究方法として貢献すると考えられる.
著者
上本 進二 大河内 勉 寒川 旭 山崎 晴雄 佃 栄吉 松島 義章
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.41-45, 1993
被引用文献数
1

鎌倉市長谷小路周辺遺跡において, 14世紀前半 (鎌倉時代後期~南北朝時代初期) に由比ヶ浜砂丘地に築かれた半地下式の建物の跡から, 13世紀から14世紀前半頃 (鎌倉時代初期~南北朝時代初期) 形成されたと考えられる噴砂の跡を検出した. 噴砂は砂層に含まれていた土器を巻き込んで約1m上昇して, 当時の地表に噴出している. また, 噴砂の流出と並行して16cmの落差を伴う地割れも形成されている. この噴砂は『吾妻鏡』や『北条九代記』に見られる地震記録から, 1257年 (正嘉元年) あるいは1293年 (永仁元年) の地震によって形成されたと思われる. とくに1257年の地震では, 鎌倉の各地で噴砂が発生した記録が『吾妻鏡』にあるので, 1257年の地震による噴砂と考えるのが適当であろう.
著者
紀藤 典夫 野田 隆史 南 俊隆
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.25-32, 1998-02-28
参考文献数
47
被引用文献数
4 8

函館から発見されたシオフキ・ハマグリ・イボキサゴなどからなる暖流系貝化石群集の<sup>14</sup>C年代値は約2,400~2,300年前で,従来知られていた縄文海進期の年代よりも新しかった.新たに年代測定された群集を含めると,北海道南部における温暖種の産出年代は7,500年前,4,000年前,および2,400~2,300年前の3つの時期がある.この温暖種の産出年代は,対馬海流の強勢期によく一致する.温暖貝化石群集は,対馬海流の脈動に対応して分布を北海道まで拡げたが,このような事件は完新世に3回生じた可能性がある.
著者
吉田 明弘 長橋 良隆 竹内 貞子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.71-80, 2008-04-01 (Released:2009-04-25)
参考文献数
29
被引用文献数
5 4

福島県の駒止湿原水無谷地から得られたボーリングコアの14C年代測定とテフラ分析,花粉分析の結果から,約4万年前以降の湿原の形成過程および古環境の変遷について考察した.この湿原は,スギ属,コナラ亜属,ブナ属を伴う亜寒帯性針葉樹林が分布する寒冷気候のもとで,約4万年前から泥炭の形成を開始した.その後,最終氷期極相期には一部の泥炭を残して削剥され,約1.85万年前には再び泥炭の堆積が開始された.湿原周辺では,約1.85~1.64万年前には冷涼気候のもとでカバノキ属と亜寒帯性針葉樹の混交林となった.約1.64~1.56万年前には温暖化により冷温帯性落葉広葉樹林となったが,約1.56~1.43万年前には再びカバノキ属の森林となった.この寒冷化は,北大西洋地域におけるYounger Dryas期のそれに対応する.約1.24万年前以降には,温暖気候のもとでブナ属やコナラ亜属を主とする冷温帯性落葉広葉樹林となり,約1,300年前以降にはスギ林が拡大した.
著者
多 里英 公文 富士夫 小林 舞子 酒井 潤一
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-13, 2000-02-01
参考文献数
26
被引用文献数
2 4

青木湖周辺には,後期更新世から完新世にかけての,おもに河成や湖成の堆積物が断片的に分布しており,下位より藪沢層,崩沢層,神城砂礫層,佐野坂崩壊堆積物,青木湖成段丘堆積物,青木湖底堆積物に分けられる.指標テフラと岩相対比によって,それらの相互関係を明らかにした.佐野坂崩壊堆積物の上位には,Dpm火山灰層がのるとされていたが,それを再堆積物と判断し,周辺の地史を次のように推定した.<br>藪沢層は,比較的広い谷の中を南がら北へ流れる蛇行河川によって形成された.その時代は5万年前以前の寒冷な時期である.約5万年前,その河川は狭い谷の中を流れる網状河川に変化した.この堆積環境の変化は,DKP火山灰層を挾む崩沢層と神城砂礫層中部が礫を主体とすることにより示されている.約3万年前に,西方の仁科山地で大規模な地すべり崩壊が起こり,佐野坂丘陵が形成された.この崩壊堆積物は川をせき止め,丘陵の南側に深い湖(青木湖)を形成した.佐野坂丘陵の北側の凹地には支谷からの堆積物供給が多く,徐々に埋積されて,現在の神城盆地を形成するようになった.
著者
公文 富士夫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.195-204, 2003-06-01
参考文献数
29
被引用文献数
5 11

湖沼堆積物中の全有機炭素(TOC)・全窒素(TN)含有率に関連する最近の研究を概観した.TOCおよびTNには,湖水中で自生するものと,陸上から運び込まれる外来性のものがあり,通常の調和型湖沼では前者を起源とするものが優占する.木崎湖における最近の研究では,1983年から1999年にかけての湖底堆積物中のTOC含有率は,同じ期間の湖水中の年間クロロフィルa量および冬の平均気温(12月~翌3月の平均)との間によい相関があることが認められた.このことは,気温が湖水中の生物生産性に影響を与えることを通じて,湖沼堆積物中への有機物流入を支配していることを意味する.野尻湖底堆積物のコア試料中のTOCとTNの含有率およびC/Nの変動を過去4.5万年間にわたって解析したところ,グリーンランドの氷床コアにおける酸素同位体変動が示す寒暖変動とよく一致する結果を得た.野尻湖の堆積物コアについての最近の研究では,TOCやTNの増減が気候に支配された花粉組成の変化と対応することも示されている.これらの事実は,湖沼堆積物中のTOCやTNの含有率が,気候変動の指標として有効であることを示している.
著者
北條 芳隆
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.97-110, 2017
被引用文献数
1

<p>地理的情報処理技術の進展と天文考古学の導入によって,太陽の運行を見据えながら夏至の日の出に軸線を合わせた祭儀施設の存在や,火山の頂上に軸線を定める前方後円(方)墳の存在が指摘できる.これら新知見をふまえると,日本の古代社会は太陽信仰と火山信仰に依拠したことがわかる.このような遺跡と周辺景観の関係を重視する考古学の見方は,ジオパークの今後の展開にあたっても充分に活用可能である.</p>
著者
工藤 雄一郎 米田 穣 大森 貴之
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
pp.60.2020, (Released:2021-06-11)
参考文献数
47

本稿では,日本列島で最古段階となる縄文時代草創期の隆起線文土器群の年代的位置づけを検討するため,東京都百人町三丁目西遺跡出土土器内面付着炭化物の分析を行った.土器に付着した炭化物は少量であったが,炭素をセメンタイトに合成する微量分析による放射性炭素年代測定を実施し,12,660±50yrsBP(15,270~14,940calBP)の土器であることが分かった.また,炭素・窒素安定同位体分析により,炭化物の由来が陸上動植物であり,年代測定結果の信頼性が高いことを示した.隆起線文土器の土器付着炭化物の放射性炭素年代測定50点および最古段階の資料である長崎県福井洞窟3c層出土炭化材による隆起線文土器の年代を比較し,隆起線文土器は約16,000年前から2,000年程度続く土器型式であり,百人町三丁目西遺跡の土器はそのなかでも中段階に位置づけられることを示した.