著者
首藤 伸夫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.509-516, 2007-12-01
参考文献数
16
被引用文献数
3 8

津波によって過去に生じた地形変化例を,原因となる津波の大きさや流速の判明するものを重視して取りまとめた.観察された現象の裏づけをしようとする流体力学的な説明の試みを紹介し,その課題を明らかにする.<BR>砂州・トンボロ・砂嘴の切断は,津波によるだけでなく,開口後の潮汐の影響をも考慮する必要がある.水路での水深変化の最大値は約10mにも及んでいるが,これを再現する数値計算では,約5mとほぼ半分に止まっている.最大の問題は流速の再現性にある.堤防破壊条件を取りまとめると,流体力学的に見てもほぼ首肯しうる結果となっている.<BR>陸上での堆積厚のほぼ上限値を実例により示した.陸上での堆積作用に関しては,流体力学的解析に必要な諸関係式が整っていない.その手始めとして,堆積物運搬距離と津波諸元との間に満たされるべき関係を示した.
著者
松浦 秀治
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.293-298, 2010-10-01 (Released:2012-03-27)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

第四紀の定義が改訂され,ジェラシアン期を含むように引き下げられることになった背景には,「ホモ属の出現」が暗黙の了解事項として存在していたが,本報告では,「初期ホモ属」という用語に関する今後の定義再検討,あるいは新しい標本の発見如何によって,必ずしも「ホモ属の出現時期はジェラシアンの基底に近い」とは言えなくなる可能性を指摘した.また,人類最初の出アフリカ(Out of Africa)による分布拡大の時期と様相に関しては,インドネシア・ジャワ島の初期人類,また,中国の元謀出土人切歯や泥河湾馬圏溝出土石器が,それぞれオルドヴァイ正亜磁極期近くに遡るという主張と相まって,「150万年前以前のカラブリアン初期における東方アジアへの人類拡散」は,近年の人類進化史観におけるひとつの「general model」になっていた.しかし,その基盤は脆弱であり,再考を要するものであることを示唆した.
著者
成瀬 敏郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.75-93, 2014
被引用文献数
1

これまで著者は,乾燥地域や氷河末端から風で運ばれる風成塵とその堆積物であるレスについて,日本列島をはじめ,中国,韓国,ヨーロッパ,イスラエル,アメリカ合衆国,ニュージーランドなどのレス地帯を調査し,レスの分布,研究史,堆積時期,気候変動とのかかわりを研究してきた.本論では,レスの研究史,レスの分布と堆積時期,風成塵の同定に ESR 酸素空孔量(以下,酸素空孔量とする)分析が有効であること,風成塵・レスの堆積量や粒径などが過去の風の強さを復元するのに有効であること,完新世土壌の母材に占める風成塵の役割の重要性について述べた.さらに中国と韓国の旧石器編年・対比にレス-古土壌による編年法が有用であること,日本列島において MIS 6 のレス層に前期旧石器が包含されていることを述べた.
著者
米倉 伸之 辻 誠一郎 岡村 道雄
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.283-286, 1997-12-01
参考文献数
4
被引用文献数
1

The aims of the symposium &ldquo;Termination of Last Glaciation and the Formation and Development of Jomon culture in Japan&rdquo; are to clarify (1) what changes have occurred in natural environments in and around the Japanese Islands from the Last Glacial Maximum to the Postglacial periods, (2) what changes have occurred from Late Paleolithic culture to Jomon culture in terms of the relationship between natural and cultural environments, in paticular changes in coastal and land ecosystems and ways of human life, and (3) how and when the Jomon culture was established in terms of natural environmental changes.<br>The symposium consisted of three different parts: (1) Last Glacial Maximum (the age of upper Paleolithic culture, 20-15ka), (2) a transition period from Late Glacial to Postglacial (the age of formation of Jomon culture, 15-10ka), and (3) Postglacial period (the age of the development of Jomon culture, after 10ka). The topics were presented by three speakers for each part from the viewpoints of geology, paleoecology, pedology, and archeology.<br>The topics of presentations in the symposium are the following: Upper Paleolithic culture in Japan and East Asia (Masao Ambiru); Spatial distribution of the vegetation around the Last Glacial Maximum in Japan (Mutsuhiko Minaki); Paleoenvironmental changes of the Japan Sea since the Last Glacial period (Ryuji Tada); A land ecosystem in the transition to the Jomon age (Sei-ichiro Tsuji); The formation of Jomon culture in the Southern and Northern parts of Japanese Islands (Michio Okamura); Soil formation and the environmental change (Kan-ichi Sakagami); Development of Jomon villages (Yasuhiro Okada); Forest vegetation and utilization of wood during the Jomon period in Japan (Mitsuo Suzuki and Shuichi Noshiro), and Jomon agriculture: retrieval of evidence (Masakazu Yoshizaki). The discussions in the symposium have focused on the relationship between the changes in natural environments and ways of human life, in particular the change of land ecosystems and the utilization of natural resources.<br>The state of the art in studies of the natural environmental changes from the termination of the Last Glacial to the Postglacial and their relations to the regional development from the upper paleolithic culture to the Jomon culture in Japan are reviewed from various viewpoints, and future tasks of research are presented.
著者
岡村 道雄
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.319-328, 1997-12-01
参考文献数
37
被引用文献数
1 7

人類活動と自然環境の因果関係を研究するためには,地域的に両者の実像と変遷を捉えなければならない.特に,人類活動に大きな影響を与える因子に,気候と動植物相が考えられるが,それらの日本列島内での時空的な実態はほとんど明らかにされていない.ここでは,両者の関連が考察でき,自然環境と道具の組み合わせに地域性が認められる九州南部,東海東部から関東,中部・信濃川中流域,北海道を中心に分析してみた.晩氷期に南九州・四国南岸から南関東の太平洋沿岸部に,クリ・クルミ・ドングリ類が実る中間温帯林,豊かな縄文的な森が形成されはじめ,植物性食料の採取・加工に磨石・石皿・土器など,森に増殖しはじめたシカ・イノシシなどの狩猟に落とし穴や石鏃が用いられはじめた.一方,列島の北半は,完新世になっても旧石器時代的な寒冷気候が継続し,北アジアと同一歩調で細石刃が発達した.本州では少量の土器が用いられるが,木の葉形の石槍,打製石斧,有舌尖頭器を用いた狩猟を中心とした生業が続き,本州中部を境に北と南の縄文文化が成立した.
著者
中島 礼 伊藤 光弘 兼子 尚知 樽 創 利光 誠一 中澤 努 磯部 一洋
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.225-230, 2004-06-01
参考文献数
12
被引用文献数
1

茨城県つくば市東部を流れる花室川の中流域から,<i>Palaeoloxodon naumanni</i> (Makiyama)の臼歯が発見された.産出層準は,最上部更新統である桜川段丘堆積物に相当する緩斜面堆積物で,約2.7万年前より新しい年代を示す.歯種は左上顎第3大臼歯であり,歯冠長は331mm,咬板数は1/2・22・1/2と,これまでに報告された臼歯の中でも大型であり,特に咬板数は最大であることがわかった.この標本の産出は,<i>P.naumanni</i>の時代的な形態変異を明らかにする上で重要である.
著者
工藤 雄一郎 小林 謙一 山本 直人 吉田 淳 中村 俊夫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.409-423, 2008-12-01 (Released:2012-03-26)
参考文献数
48

石川県御経塚遺跡から出土した縄文時代後・晩期の土器付着物と漆の14C年代,炭素・窒素安定同位体比,C/N比の測定を行い,土器で煮炊きされた内容物と各土器型式の年代学的位置づけについて検討した.その結果,後期の内面付着炭化物は,動物資源を煮炊きしたものが炭化して残ったものと考えられ,このうちのいくつかは海洋リザーバー効果の影響を受けている可能性を指摘した.晩期の土器付着物の14C年代は,周辺地域の研究成果と対比しても整合的であった.そこで,晩期の土器付着物の14C年代をIntCal04で較正し,晩期中葉の中屋式,晩期後葉の下野式および長竹式の較正年代を提示した.晩期最終末の長竹式の年代は,北陸地域における環状木柱列の形成時期とも関係することが明らかとなり,これは縄文時代から弥生時代への移行期の問題を検討する上で,きわめて重要な成果である.
著者
藤井 理行
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.181-188, 1998-07-31
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

グリーンランド氷床のコアの安定酸素同位体組成の解析により,Dansgaard-Ocschgerサイクルと呼ばれる氷期における24ものinterstadials(亜間氷期)が明らかとなった.interstadialsは,数十年間で5~7℃の急激な温暖化とその後500~2,000年の緩やかな寒冷化で特徴づけられる気温変動である.また,Dansgaard-Oeschgerサイクルを束ねたBondサイクルと呼ばれる気温変動は,ローレンタイド氷床から北大西洋への氷山群の流出(ハインリッヒイベント)後に急激な温暖化で始まることが,海底コアとの対比で明らかとなった.本論では,氷期における北大西洋深層水(NADW)の消長による海洋での熱塩循環の変動が,地球規模での気候を支配してきたことを示すとともに,気候システムには2つの安定なモードがあることを指摘する.さらに,現在進行中の温暖化に伴う降水量の増加により,北大西洋海域の塩分濃度が低下し,熱塩循環が止まり,現在とは別の気候モード(寒冷化)が引き起こされる可能性を紹介する.
著者
中西 利典 木村 治夫 松山 尚典 ホン ワン 堀川 義之 越後 智雄 北田 奈緒子 竹村 恵二
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.163-173, 2019-04-01 (Released:2019-06-04)
参考文献数
29

中央構造線活断層系の西端に位置する別府湾は,およそ5Maから沈降場にある.その南縁の府内断層は同堆積盆を構成する主要な正断層である.その活動性を評価するために,断層を挟んで掘削された7本のボーリングコア試料を用いて,堆積相解析,珪藻化石の群集組成解析,合計17試料の陸源植物片と4試料の海生炭酸塩の放射性炭素年代測定を実施した.それらの解析結果を基にして,デルタフロント相,デルタプレーン相,人工盛土相を認定した.これらの堆積構造と変形構造は地中レーダ探査によって可視化された.これらの結果,デルタプレーン相の最上部の泥層の堆積年代と珪藻化石群集を基にして800~400calBPの最新活動を認定した.デルタフロント相の泥層の上下変位量を基にして2,100calBP頃の活動も認定した.これらからおよそ1,700年の再来間隔が計算できる.
著者
加藤 茂弘 岡田 篤正 寒川 旭
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.233-246, 2008-08-01 (Released:2009-05-14)
参考文献数
81
被引用文献数
3 3

瀬戸内低地帯東部を構成する大阪湾周辺の活断層,とくに六甲山地や淡路島中・北部の活断層や大阪湾断層帯について記述し,それらとの関連において,第四紀における大阪堆積盆地や播磨灘の形成過程を検討した.大阪堆積盆地は約3.3~3.5 Maに形成されはじめ,約1~2 Maには大阪湾断層帯や六甲—淡路島断層帯などの活動開始により,隆起部の淡路島を境にして大阪湾側(狭義の大阪堆積盆地)と播磨灘側(東播磨堆積盆地)に分断された.約1 Ma以降は,大阪湾北西部の活断層帯で右横ずれ断層運動が顕著となり,六甲山地以西の地域の西への傾動運動が始まった.東播磨堆積盆地は,高塚山断層などの活動により約1 Maまで沈降を続けたが,断層運動の衰退と西への傾動運動により,それ以降は隆起域に転じた.一方,約1 Ma以降の傾動運動により西播磨平野や播磨灘の中・西部は沈降域(播磨灘堆積盆地)となった.約0.4 Maの高海面期には,六甲—淡路島断層帯の右横ずれ運動により局地的な低下域となった明石海峡を通じて,播磨灘にはじめて海水が侵入した.その後の播磨灘では,高海面期毎に海域が南西へと拡大していき,最終的に現在の播磨灘が形成されたと考えられる.
著者
河村 善也 樽野 博幸 稲田 孝司
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.399-411, 2007-10-01 (Released:2009-03-26)
参考文献数
28
被引用文献数
1 4

姫島から産出した1個のゾウ臼歯化石を系統分類学的に詳しく記載した.この化石は姫島の海岸のすぐそばの浅い海底から採取されたもので,おそらくそこに露出していた前期~中期更新世の堆積物から産出したものと思われる.この化石は,その形態の特徴から,マンモスゾウの祖先種の一つであるトロゴンテリゾウ(Mammuthus trogontherii)の右下顎第3大臼歯に同定できる.この化石の産出の意義を述べるとともに,日本や周辺の大陸から知られる古型マンモス類の化石と比較して,東アジアにおけるトロゴンテリゾウの時間的分布や移動についても議論した.
著者
斎藤 文紀
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.95-111, 2011-04-01 (Released:2012-04-01)
参考文献数
59
被引用文献数
1 5

現在の沿岸域の地形や堆積物,または地層に残された沿岸域の堆積物から海水準変動への応答や古環境変遷を解析するには,これらを堆積システムとして捉えることが重要である.これは堆積相解析やシーケンス層序学的な解析を行う際の基本となる.現在見られる沿岸域の堆積環境や沖積層を堆積システムの視点から解析することは,過去の地層の理解に役立つばかりでなく,将来の環境予測への鍵となる.
著者
公文 富士夫 河合 小百合 井内 美郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.13-26, 2003-02-01
参考文献数
45
被引用文献数
8 24

1988年に野尻湖湖底から採取されたオールコア試料の上部について,30~50年間隔の精度で有機炭素(TOC)・全窒素(TN)の測定と花粉分析を行った.<br>4点の<sup>14</sup>C年代測定,鬼界アカホヤ(K-Ah)および姶良Tn(AT)の指標火山灰年代に基づいて推定した堆積年代と,TOC・TNおよび花粉の分析結果に基づくと,遅くとも<sup>14</sup>C年代で1.4~1.5万年前より前には落葉広葉樹花粉の増加で示されるような温暖化が始まり,以後,「寒の戻り」を伴いながら約1万年前まで温暖化が進行した.約1.3万年(較正年代1.5万年前)前後には,「寒の戻り」を示す亜寒帯針葉樹花粉の明瞭な増加が認められる.約1,2万年前(較正年代1.4万年前)には,広葉樹花粉の急増と針葉樹花粉の激減があり,同時に全有機炭素・窒素量の激増も認められ,短期間のうちに急激に温暖化が進行したと推定される.なお,<sup>14</sup>C年代で約1.45万年前にも微弱な広葉樹花粉の減少が認められる.<br>これらの気候変動のパターンは,北大西洋地域の気候イベント(新旧ドリアス期など)とよく似ているが,本稿における編年に基づけば,北大西洋地域よりもそれぞれ2,000~3,000年ほど古いようにみえる.較正年代で約1.3万年前と9千年前においても,軽微な気候変動が認められ,そのうちの後者はボレアル期に対比できる.
著者
近藤 玲介 塚本 すみ子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.243-254, 2009-08-01 (Released:2012-03-27)
参考文献数
31
被引用文献数
2 5

北海道北部に位置する利尻火山は,山麓部が新期および古期火山麓扇状地に覆われるが,古期火山麓扇状地の堆積要因や形成年代には不明な点が多い.本研究では,古期火山麓扇状地面が最も広く発達する利尻火山西部において,扇状地堆積物を記載するとともに形成年代を推定した.利尻火山西部の扇状地堆積物は上部と下部の2ユニットに大別され,上部ユニットには複数の層準にレスおよびその再堆積物が挟まれる.これらの層準から試料を採取し,石英微粒子法によるOSL年代測定を行った.この結果と層相の特徴を総合すると,古期火山麓扇状地の下部ユニットは,沓形溶岩流の噴出後から約22 kaまでの間に,沓形溶岩流噴出に伴う不安定斜面形成の影響を受けながら急速に堆積した.そして,上部ユニットは約22 kaから完新世初頭まで,すなわち最終氷期極相期以降の寒冷な気候環境の影響を受けて断続的に堆積し,扇状地を形成したことが明らかとなった.これらのことから,古期火山麓扇状地の地形発達は,利尻火山の活動と気候環境が複合的にかかわりあった結果であることを示す.
著者
尾田 太良 嶽本 あゆみ
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.341-357, 1992-12-30 (Released:2009-08-21)
参考文献数
13
被引用文献数
22 26

第四紀古海洋復元のための基礎研究として, 日本列島太平洋側海底の表層堆積物中の浮遊性有孔虫遺骸群集を調べ, 表層水塊との関係を検討した. この結果に基づき, 四国沖, 遠州灘沖, 房総沖および鹿島灘沖の4海域より採取したコアの浮遊性有孔虫化石群集の垂直的分布から, 過去2万年間の黒潮の流路の変遷を推論した.20,000~16,000年前には, 西南日本沖の黒潮の流路は現在より南にあり, 四国沖や遠州灘沖では冷水塊が頻発していた. 15,000~14,000年前には, 黒潮は西南日本沖で南に大きく蛇行し, 黒潮前線は房総沖にあった. その時期には四国沖や遠州灘沖で冷水塊が発生していた. その後, 11,000年前までに西南日本沖では黒潮の影響が強くなった. 房総沖と鹿島灘沖では, 11,000年前頃短期的な寒冷化があった後, 急速に温暖化した. 10,000~9,000年前には黒潮の流軸は本州に近づき, 黒潮前線も北に移動しはじめた. 9,000~6,000年前には黒潮はさらに西南日本に接近し, 黒潮前線は6,000年前に最も北上した. 5,000年前以降, 黒潮は西南日本沖で現在の流路に近づいたが, 4,500~1,500年前には, 房総沖や鹿島灘沖で冷水塊が発達していた.
著者
大場 忠道 Banakar Virupaxa K.
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.223-234, 2007-06-01 (Released:2008-08-21)
参考文献数
56
被引用文献数
6 7

深海底堆積物コア中の底生有孔虫殻の酸素同位体比カーブは,これまでに数多く報告されてきた.それらは,過去の気候変化と海水準変動にとって充分に確立された信頼のおける指標である.将来の気候で起こりそうな動向を理解するためには,過去の間氷期の記録において最も温暖であった期間を正確に見極めることが必要である.この総説で,われわれは過去の間氷期の温暖な程度を理解するために,過去42万年間のこれまでに報告された9つの高分解能な酸素同位体記録を比較した.その酸素同位体比の変動から描き出された間氷期の暖かさの順番は,海洋同位体ステージ(MIS)5.5>9.3>11.3>1>7.5である.この間氷期の暖かさの順番は,Lisiecki and Raymo(2005)の標準酸素同位体比カーブと,また南極のEPICAドームCの氷床コアの水素同位体比カーブときわめてよく似ている.とくに,MIS 5.5中の最も温暖な期間における相対的な海水準は,MIS 1の期間よりあるいは現在より,おそらく約7±4m高かったであろう.一方,MIS 11.3は,過去の5つの間氷期の中で最も長い温暖期であることが明らかになった.この観察事実は,温暖化が進行している将来の地球環境を予測するためには,MIS 5.5と11.3の詳細な研究が本質的で重要であることを明瞭に示唆している.
著者
川村 賢二
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.109-129, 2009

第四紀後期の古気候研究において,氷床コアは重要な役割を果たしてきた.特に,南極やグリーンランドで深層掘削された氷床コアからは,温室効果気体の濃度が氷期—間氷期の気候変動を強める方向に変動したことや,氷期の間には急激な気候変動が幾度も起こっていたことを明らかにしてきた.日本が独自に掘削したドームふじ氷床コアからは,気泡の酸素濃度(O<SUB>2</SUB>/N<SUB>2</SUB>)が現地の夏期日射量を物理的メカニズムにより記録していることを用いて,そのオービタルチューニングにより,過去34万年間にわたる年代決定の精度を2,000年程度へと飛躍的に高めることに成功した.この年代は,地球軌道要素からの強制力に対する,グローバルな環境変化のタイミングの把握と,メカニズムの理解に向けた有力な手がかりを与える.ここでは,南極氷床コアから氷期—間氷期変動のメカニズムを考察するために必要となる,気候変動とCO<SUB>2</SUB>変動との関係や,南極の気候変動と他地域の変動との関係,時間スケールの異なる変動間の関連など,筆者がNatureに掲載した論文では省略せざるを得なかった多くの点を含めて解説する.異なる時間・空間スケールの変動を総合的・有機的に捉えることで,南極の気候変動のタイミングが10万年周期の氷期—間氷期サイクルに関するミランコビッチ理論と整合的であることを示す.今後は,第2期ドームふじ氷床コアにより,正確な年代をさらに延ばしていくことと,間氷期前後の詳細な解析が重要になる.