著者
長谷川 善和
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.263-267, 1980-02-29 (Released:2009-08-21)
参考文献数
21
被引用文献数
12 21

The mammalian fauna of Okinawa in the period from Late Pleistoceneto Recent is discussed. The Ryukyu Islands are known for abundant occurrence of deer fossils of Miocene type. The Yamashita-cho site of fossil man, 32, 100±1, 000y.B.P. (TK-78) in age, yields deer fossils and no other mammals. On the other hand, at the site of the Minatogawa man, 18, 250±650y.B.P. (TK-99) to 16, 600±300y.B.P. (TK-142) in age, deer fossils become few while boar fossils increase remarkably. This indicates that the Ryukyu boar gained ground taking the place of deer.Wild boars are living in such islands as Amami Oshima, Okinawa, Ishigaki and Iriomote, and many shell-mounds reveal the existence of boar. In all probability, migration of Sus must have taken place since the time of the Minatogawa man, that is, during the Würm maximum. Geologically the Ryukyu Islands are supposed to have been already separated from the continent at that time, but the occurrence of Sus suggests that the islands were partly connected with the continent even in the Würm maximum.
著者
小倉 博之 吉川 周作 此松 昌彦 木谷 幹一 三田村 宗樹 石井 久夫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.179-185, 1992-07-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

大阪平野の上町台地南部の台地構成層中に挾在する火山灰・含有化石の記載・分析ならびに有機物の14C年代測定をおこなった. その結果, 中位段丘層相当層の上町層上部から北花田火山灰, 吾彦火山灰を発見し, それぞれ広域火山灰のK-Tz, Aso-4に対比し, 上町層上部の堆積時期を知る手がかりを得た.さらに, 上町層を不整合に覆う常盤層の存在を指摘し, 平安神宮火山灰が挾在すること, その直下から23,400年BPの14C年代測定値を得たことから, 常盤層を低位段丘層に対比した. 以上より, 従来中位段丘面とされていた本地域の台地面は, 常盤層の堆積面, すなわち低位段丘面であることが明らかになった.
著者
鈴木 毅彦 斎藤 はるか 笠原 天生 栗山 悦宏 今泉 俊文
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-16, 2016-02-01 (Released:2016-03-15)
参考文献数
39
被引用文献数
6

東北日本弧南部,福島県会津坂下町で得た3本のボーリングコアからテフラを検出し,これらの認定を行い会津盆地中西部地下のテフラ層序を確立した.また放射性炭素年代測定も実施し,それらの結果と合わせて盆地堆積物の年代と堆積速度を求めた.地下約100m以浅の堆積物はシルト・泥炭・砂を主体とし,ところにより礫層やテフラを挟む.認定したテフラは上位からNm-NM(5.4ka),AT(30ka),DKP(55~66ka),Nm-KN,Ag-OK(<85.1ka),TG(129ka),Sn-MT(180~260ka)である.最長コアから得た堆積速度は,地表/DKP間で0.46~0.55m/kyrs, DKP/TG間で0.19~0.23m/kyrsである.
著者
藤原 治 増田 富士雄 酒井 哲弥 入月 俊明 布施 圭介
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.41-58, 1999-02-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
49
被引用文献数
12 19

内湾(溺れ谷)の泥底に砂や礫を再堆積させるイベントが,完新世の三浦半島と房総半島南部で繰り返し発生したことが,沖積低地で行ったボーリング調査によって明らかになった.これらの再堆積層は,上方へ細粒化する淘汰の悪い泥質砂層や砂質礫層からなり,他生の貝化石や粘土礫を多く含み,生痕が発達し,自生の貝化石を含む泥層を削り込んで覆う.これらの再堆積層は,3ヵ所の沖積低地で掘削した6本のボーリング・コアで認められ,加速器質量分析計(AMS)による79個の14C年代測定値に基づいて,近似した年代をもつ7つの層(下位からT1~T7)にまとめられる.T3~T7は,水深10~20mの内湾中央部に堆積したものであるが,岩礁などに棲む貝化石を泥底の群集と混合して含む.また,貝化石は下位層と14C年代値が逆転するものがある.T1,T2は上述した異常堆積物と類似した堆積構造や化石を含み,特に貝形虫化石群集は外洋水が内湾奥の汽水域へ流入したことを示唆している.T1~T7の堆積構造,化石の種構成,14C年代値は,海底および海岸の侵食と削剥された堆積物の湾央への運搬が強い流れに起因することを示している.さらに,T3~T7は,相模トラフ周辺で発生した巨大地震に伴う海岸段丘の離水時期と年代が近似する.以上のことから,T1~T7は海底地震に伴う津波で形成されたことが強く示唆される.これらの津波は,過去約10,000年の間に,400年から2,000年の間隔で発生した.
著者
藤原 治 増田 富士雄 酒井 哲弥 布施 圭介 齊藤 晃
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.73-86, 1997-05-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
37
被引用文献数
5 13

相模湾周辺では,完新世を通じて巨大地震が繰り返し発生したことが,完新世の海成段丘や歴史地震の研究から知られている.しかし,完新世の地震を示す津波堆積物などの地質学的な証拠は,ほとんど知られていない.完新世の3回の地震隆起に対応する津波堆積物を,房総半島南部の館山市周辺に分布する内湾堆積物から初めて見いだした.これらの津波堆積物は,館山市周辺で広域に追跡できる.津波堆積物は,基底が侵食面を示し上方へ細粒化する砂層や砂礫層からなり,貝化石片や木片を多量に含む.貝化石は,内湾泥底と沿岸の砂底や礫底に住む種が混合しており,海底の侵食と再堆積が生じたことを示す.また,陸側と海側への両方の古流向が堆積構造から推定される.3枚の津波堆積物は,それぞれ約6,300~6,000yrs BP,4,800~4,700yrs BP,4,500~4,400yrs BPに堆積したことが貝化石の14C年代値から明らかになった.最下位の津波堆積物は,沼I段丘,野比I段丘の離水と年代が一致する.また,中位と上位の津波堆積物は,それぞれ野比II段丘,沼II段丘の離水と年代が一致する.調査地域では,上述の津波堆積物と類似した堆積相を示す砂層や砂礫層が,約7,400~3,600yrs BPの間に100~200年に1枚の割で堆積している.これらの砂層や砂礫層の一部は,沼段丘上に分布する離水波食棚群(茅根・吉川,1986)に対応する津波堆積物の可能性がある.
著者
片岡 香子 吉川 周作
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.263-276, 1997-10-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
20
被引用文献数
2 4

西日本の四国・近畿・東海地方などの火山灰稀産地域の段丘では,火山灰層の発見は稀で,しかもそれを連続的に追跡することが困難である.そのため,火山灰に注目した層序・編年学的研究は露頭あるいは狭い地域に限定されたものとならざるを得ず,一般的な調査・研究法とはなっていない.このため,火山灰稀産地域における段丘の層序・編年は,火山灰多産地域に比べ精度が悪い.三重県鈴鹿川流域の段丘もまた,このような火山灰稀産地域に属している.そこで,筆者らは従来の地形・地質学的方法に加え,段丘構成層の上位に発達する細粒堆積物に注目して,この堆積物中に極微量に含まれる火山ガラスから火山灰降下の痕跡を見いだした.そして,これらから段丘の層序を検討し,編年を行った.本研究の結果,次のことが明らかとなった.(1)調査地域の段丘面(段丘構成層)は,高位のものから大谷池面(大谷池段丘層)・丸岡池面(丸岡池段丘層)・神戸面(神戸段丘層)・関面(関段丘層)・古廐面(古廐段丘層)に区分され,さらに神戸面および関面は,高位のものから神戸1面・神戸2面・神戸3面,関1面・関2面に細分できる.(2)各段丘構成層の上位にのる細粒堆積物の層相とそれらに含まれる火山ガラスの性質・含有量の特徴,関段丘層に挾まれる姶良Tn火山灰層(25~21ka),神戸段丘層中の海成粘土層などから,大谷池段丘層・丸岡池段丘層は最終間氷期以前に,神戸段丘層は最終間氷期に,関段丘層は最終氷期に,古廐段丘層は最終氷期以降にそれぞれ形成されたと考えられる.今回行った段丘構成層の上位にのる細粒堆積物に極微量に含まれる火山ガラスを用いた層序・編年の試みは,今後,火山灰稀産地域でのより広域な段丘の対比・編年の可能性を示唆する.
著者
吾妻 崇 太田 陽子 石川 元彦 谷口 薫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.169-176, 2005-06-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
25
被引用文献数
3 9 2

御前崎周辺には,御前崎段丘(高度48~25m,三崎面相当の海成段丘)と4段の完新世海成段丘(高度15m以下)が分布する.御前崎段丘は,全体として西-南西に向かって傾動し,小規模な活断層,撓曲崖および背斜構造を伴う.御前崎段丘を開析する水系の分布形態および駿河湾側の海食崖上にみられる風隙の存在は,旧汀線が北西に位置することと不調和で,段丘形成後の変形を示している.御前崎段丘上にみられる東西方向に延びる低崖は,更新世段丘上に残された地震性隆起の記録である可能性がある.完新世海成段丘は4段に区分され,I面は後氷期海進最盛期直後,II面は約3,500cal BP以前,III面は2,150cal BP以前にそれぞれ離水したと考えられる.I面の内縁高度は14mに達するが,既存のボーリングコア解析から推定される海成層の上限高度は約3mにすぎない.これらの段丘の形成過程を,海溝型の活動間隔の短い地震による隆起と,地震間における沈降および活動間隔の長い地震による大きな隆起との和として解釈した.
著者
Hiroshi Machida
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.194-201, 1999-06-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
43
被引用文献数
19 32 78

Many widespread Quaternary tephras have been identified in and around Japan. Recent developments in tephra characterization and dating methods have provided a regional stratigraphic framework for Quaternary studies as well as for determining the nature and effects of explosive eruptions. This paper stresses on the importance of tephra catalog compilation and shows a simplified example from Japan.
著者
千田 昇 松村 一良 寒川 旭 松田 時彦
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.261-267, 1994-10-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
12
被引用文献数
6 3

福岡県久留米市で行われたこれまでの考古学的発掘により, 地割れ群や液状化の跡が数多く発見され,『日本書紀』に記述された678(天武7)年の筑紫地震による可能性が示された. 山川前田遺跡の発掘に伴うトレンチ掘削により断層露頭が現われ, そこでの多数の地割れ跡を検討した結果, 地割れは新期よりイベント1~イベント4の4回の時期 (イベント) に分けられた. それらの時期について, イベント4はAT堆積前, イベント3はAT堆積後, イベント2は(4)層の土石流堆積物の堆積前, イベント1は(2)層の遺物包含層, 特に6世紀の土師器包含層以後, 13~14世紀の遺物包含層以前の時期であり, イベント1を7世紀後半の678(天武7)年筑紫地震によると考えることに矛盾はない. また, この地点での地割れは地震活動に伴うもので, 水縄断層系・追分断層の活動による可能性が大きいと考えられる. したがって, AT堆積 (約2.5万年前) 以後に水縄断層系の活動による3回の地震があり, それにより地割れが発生したことになる.
著者
平林 頌子 横山 祐典
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.129-157, 2020-12-01 (Released:2020-12-12)
参考文献数
236
被引用文献数
1 2

完新世の気候は,最終氷期に比べて安定で穏やかであるが,完新世にも数百年から千年スケールでの気候変動は起きている.特に,8.2kaと4.2kaに全球スケールで起きた急激な気候変動は完新世の気候変動イベントとして注目され,完新世を区分するためのイベントとして慣例的に使用されてきた.2018年7月13日に国際地質科学連合(IUGS)国際層序委員会(ICS)により,新たに国際年代層序表が発表され,完新統/完新世を,下部完新統/前期完新世,中部完新統/中期完新世,上部完新統/後期完新世に細分することを正式に決定した.本小論では,それらの区分の定義に使用された上記の気候イベントについてレビューを行う.
著者
河村 愛 河村 善也
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.121-132, 2023-08-01 (Released:2023-08-17)
参考文献数
109

タケネズミ類は穴居性の大型の齧歯目のグループで,東アジアでは現生のものと第四紀の化石として知られるものは,このグループのタケネズミ属にほぼ限定される.本論文では,東アジアでの更新世のタケネズミ属化石の分布を,データソースを示したうえで,分布図にまとめた.分布図から,前期更新世の産地のほとんどは中国南部にあり,前期更新世にはこの属が中国南部に広く分布していたこと,中・後期更新世の化石産地はそれよりはるかに多く,やはりほとんどが中国南部に分布し,この属がその時期にトウヨウゾウとともに中国南部の動物群の主要要素であったことがわかる.一方,中国北部には化石産地はほとんどなく,中国東北部や朝鮮半島,本州・四国・九州,琉球列島,台湾には化石産地はない.中期更新世の日本には,トウヨウゾウが中国南部から移入した時期があったが,それに伴って移入した種類は少ない.移入しなかったものの代表がタケネズミ属である.
著者
中川 毅
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-31, 2023-02-01 (Released:2023-02-21)
参考文献数
119

気候変動の地域による先行,遅延,あるいは同時性は,気候変動の因果関係を理解する上で,しばしばカギとなる情報を提供する.とくに,16〜10 cal. kyr BP頃に起こった晩氷期から完新世初期にかけての移行は,いくつかの急激な気候変動を含む上に情報も多いことから,気候変動の時空間構造を調べるためのターゲットとして理想的である.だが現実には,異なる地域の間で年代軸を精密に同期 (synchronise) させることは容易ではなく,気候変動のタイミング比較はほとんどの場合,仮説的な議論にとどまってきた.このことを踏まえ,本研究では福井県水月湖から新たに得られた花粉データ (n=510) および気候復元の結果について報告する.水月湖の放射性炭素データはIntCal20の主要構成要素であり,絶対年代はU/Th年代と互換性がある.水月湖のきわめて精密な年代軸,およびグリーンランドのアイスコアに含まれる宇宙線生成核種の研究の進歩により,水月湖とグリーンランド,またその他の多くの地域の精密な対比が可能になった.それによると,完新世および晩氷期亜氷期 (ヤンガー・ドリアス期に相当) の開始は,いずれも水月湖とグリーンランドの間で同時だった.ただし晩氷期亜間氷期 (ベーリング・アレレード期に相当) の開始については,水月湖がグリーンランドに200年ほど先行した.偏西風の双峰的 (bimodal) な移動は,東および南アジア (ひょっとすると西アジアも) において急激な変動を産み出す,「しきい値」 を含んだメカニズムとして重要だったかもしれない.大西洋においては,緯度方向の鉛直循環 (Antarctic Meridional Overturning Circulation: AMOC) のオン・オフの切り替わりが,より強力な 「しきい値」 メカニズムとして存在していた.アジアと大西洋のしきい値の高さが異なることで,両者の気候応答に数十年〜数百年規模の遅延が生じた.また,どちらか一方だけが応答した場合には東西で気候モードの不均衡が発生し,気候は不安定化した.気候が安定な時代は,人類が農耕と定住を開始した時期に対して良い一致を示した.これらの新しい生活技術は気候が安定した時代,すなわち短期的な予測が可能な時代でないと,必ずしも生存にとって有利に働かなかったのかもしれない.
著者
石村 大輔
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.255-270, 2010-10-01 (Released:2012-03-27)
参考文献数
39
被引用文献数
5 5

関ヶ原周辺地域の段丘面の編年を行い,活断層の変位速度を求め,近畿三角帯北東縁の断層活動について検討した.空中写真判読および現地調査により,7段(H面群,M1~2面,L1~4面)の段丘面を認定した.段丘構成層および被覆層中に鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah),姶良Tn火山灰(AT),鬼界原火山灰(K-Tz)の層準が認められた.火山灰分析と段丘面の地形学的特徴から,形成年代をM1面(90~130 ka),M2面(50~70 ka),L1面(20~30 ka),L2面(15~20 ka),L3面(10~15 ka),L4面(10 ka以降)と推定した.さらに,活断層の上下変位速度を,段丘面の変位量と形成年代から求め,水平変位速度は河谷の屈曲量と上流の長さから推定した.その結果,本地域の活断層の多くは活動度B級であり,一部はA級になることが明らかとなった.近畿三角帯北東縁の活断層の変位速度分布から,本地域の濃尾平野側での上下変位速度の和と水平変位速度の和の比は1 : 0.4~1.2で,近江盆地側では1 : 2.1~8.7となり,南部の逆断層帯から本地域を通じて北部の横ずれ断層帯へ移行している可能性が高い.また,近畿三角帯北東縁の断層活動は,沈み込むフィリピン海プレートの形状や深度が影響を及ぼしている可能性がある.
著者
奥村 晃史
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.191-194, 1995-08-31
参考文献数
11
被引用文献数
5 2

正確で高精度な<sup>14</sup>C年代を求めるために,年代値の補正は不可欠な手続きである.基本的な補正項目である海水および大気のリザーバ効果,同位体選別,大気<sup>14</sup>C濃度の経年変化についての補正は<sup>14</sup>C年代測定の一部として普遍的に実施される.同位体選別の補正は,質量分析計を用いて年代測定と同時にδ<sup>13</sup>C測定を行う必要がある.これ以外の補正は既存のデータをもとにパーソナルコンピュータ用に開発されたプログラムで行うことが可能である.目的に応じた精度をもつ正確な年代を得るためには,これらの補正の内容を理解して高精度年代測定の戦略をたてることが必要である.
著者
公文 富士夫 河合 小百合 井内 美郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.13-26, 2003-02-01
参考文献数
45
被引用文献数
8 24

1988年に野尻湖湖底から採取されたオールコア試料の上部について,30~50年間隔の精度で有機炭素(TOC)・全窒素(TN)の測定と花粉分析を行った.<br>4点の<sup>14</sup>C年代測定,鬼界アカホヤ(K-Ah)および姶良Tn(AT)の指標火山灰年代に基づいて推定した堆積年代と,TOC・TNおよび花粉の分析結果に基づくと,遅くとも<sup>14</sup>C年代で1.4~1.5万年前より前には落葉広葉樹花粉の増加で示されるような温暖化が始まり,以後,「寒の戻り」を伴いながら約1万年前まで温暖化が進行した.約1.3万年(較正年代1.5万年前)前後には,「寒の戻り」を示す亜寒帯針葉樹花粉の明瞭な増加が認められる.約1,2万年前(較正年代1.4万年前)には,広葉樹花粉の急増と針葉樹花粉の激減があり,同時に全有機炭素・窒素量の激増も認められ,短期間のうちに急激に温暖化が進行したと推定される.なお,<sup>14</sup>C年代で約1.45万年前にも微弱な広葉樹花粉の減少が認められる.<br>これらの気候変動のパターンは,北大西洋地域の気候イベント(新旧ドリアス期など)とよく似ているが,本稿における編年に基づけば,北大西洋地域よりもそれぞれ2,000~3,000年ほど古いようにみえる.較正年代で約1.3万年前と9千年前においても,軽微な気候変動が認められ,そのうちの後者はボレアル期に対比できる.
著者
副田 宜男 宮内 崇裕
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.83-102, 2007-04-01 (Released:2008-06-19)
参考文献数
47
被引用文献数
2 2

第四紀後期河成面の変位様式の解析に基づき,東北日本内弧の上部地殻の短縮による活構造の進行と,出羽丘陵の隆起過程を考察した.雄物川および岩見川流域の河成段丘面群のうち,M1面とされた地形面は洞爺火山灰(Toya)との層位関係などから,最終間氷期最盛期(125ka)に対比される.M1面の高度分布から推定される出羽丘陵の第四紀後期における平均隆起速度は最大0.5mm/yr, 横手盆地西縁で0.1mm/yrである.実際の地表変形をもとに地下の断層形状と変位量を検討した結果,北由利断層群から地震発生層下限まで延びる2つのランプを有する東傾斜の逆断層が導かれ,断層折れ曲がり褶曲の成長に伴う出羽丘陵の隆起が示された.求められた水平歪速度(6.6×10-8/年)は,出羽丘陵が第四紀後期も強短縮の場にあることを示す.また,浅部において断層面上のすべりが大きく減衰するという計算結果は,断層の深部と浅部で地殻短縮のプロセスに違いがあることを示唆する.
著者
長橋 良隆 片岡 香子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.103-109, 2014-04-01 (Released:2014-10-24)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1
著者
傳田 惠隆
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.173-183, 2015-08-01 (Released:2015-09-25)
参考文献数
31

山形県寒河江市高瀬山遺跡を対象に,出土した石器集中の攪乱要因について検討を行った.遺跡から出土した石器は最上川の氾濫による洪水ローム層中に挟まれていることから,出土した石器集中は少なくとも流水の作用を受けて形成されている可能性がある.石器が遺棄・廃棄されたのちの流水の影響の有無を検討するために,同一層から出土した石器と礫について分析を行った.分析方法は,礫と石器のファブリック解析,遺物サイズの空間分布,石器の表面状態である.その結果,遺跡から出土した礫と石器では,異なる傾向が現れた.礫は,流水などの複合的様相を受けて堆積していることがみられた.一方石器は,少なくとも14mm以上の分析対象に関しては流水の作用は受けているものの,遺棄・廃棄された位置を大きく変えるような再移動は認められなかった.
著者
中村 祐貴 井内 美郎 井上 卓彦 近藤 洋一 公文 富士夫 長橋 良隆
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.203-212, 2013-10-01 (Released:2014-08-10)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

長野県野尻湖底には,過去10万年以上にわたり堆積物が累積しており,後期更新世以降の湖水位変動を明らかにし,さらにはその原因である水収支の変動を検討できる可能性がある.本論文では,野尻湖の音波探査記録に見られる湖水位指標と火山灰年代との組み合わせから,湖水位変動を復元した.その結果,湖水位は過去約4.5万年間に8回の上昇・下降を繰り返していることが明らかになった.復元された湖水位変動と,野尻湖における花粉組成や全有機炭素濃度プロファイル,グリーンランドのNGRIPや中国のSanbao/Hulu洞窟の酸素同位体比プロファイル,および地球規模の寒冷化イベントの時期とを比較すると,寒冷期とりわけHeinrich eventなどの急激な寒冷期と湖水位上昇期とが対応している.寒冷期に湖水位が上昇する要因としては,地球規模の急激な寒冷化の影響を受け,冬季モンスーンが強化されたことに伴う日本海からの水蒸気供給量の増加によって,この地方の降雪量が増加したことが,主要因として考えられる.