著者
長沼 宏 小河原 忠彦 後藤 振一郎 松本 由朗 須田 耕一 茂垣 雅俊 鈴木 範美
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.509-514, 1990

イレウスの原因となった胆石が,きわめてまれな性状であった症例について,胆石の形成過程を考察し報告する. 症例は78歳女性. 突然の悪心, 嘔吐に続いてイレウス状態となり緊急に開腹したところ,4.5×3×3cmの胆石塊による回腸の閉塞で,胆嚢十二指腸瘻から消化管に逸脱したものであった. この胆石塊は直径1~1.5cm の混合石10個が胆石構成成分と同様の成分物質で接合され,gallstones in a giant gallstoneの状態となったものであった,成分分析の結果,小結石は多量のコレステロールと少量のビリルビンカルシウムから構成されている混合石であり,接合物質は,混合石よりは色素成分が多いがほぼ同じ構成成分からなるものであった.この胆石の形成機序は患者の生活史と密接に関係しているものと考えられ,興味ある症例と思われた.
著者
正田 純一
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.672-679, 2013-10-31 (Released:2013-12-05)
参考文献数
27

胆石は胆嚢あるいは胆管の胆道内に生じた固形物である.胆石はその存在部位と構成成分により,背景病態や生成の機序が異なる.胆石はその主要成分により,コレステロール胆石,色素胆石(ビリルビンカルシウム石と黒色石),稀な胆石に分類される(日本消化器病学会胆石症検討委員会1986年).日本人の胆石症の頻度・種類は欧米並となり,胆嚢結石ではコレステロール胆石が約70%程度を占めるようになり,また,黒色石が増加している.胆石の成因は胆石の種類により異なるが,それらの形成機序は,胆石主要構成成分の胆汁における過剰排泄,それに伴う結晶化による析出,さらに,胆道系における結晶の迅速な成長からなる.成因の理解のためには胆汁の生成,分泌,濃縮の生理学の知識も必要となる.本稿では,胆石症診療ガイドライン(2009年)における「胆石症の病態と疫学」の内容に触れながら解説をおこないたい.
著者
山崎 一麿 新井 英樹 川口 誠 塚田 一博
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.184-188, 2007-05-31 (Released:2012-11-13)
参考文献数
13

症例は76歳, 男性. 平成17年夏, 炎天下での山仕事からの帰宅後より, 四肢の脱力感及び歩行困難が出現.翌日,屋内で倒れているところを発見され救急車にて搬送された,熱中症による横紋筋融解症に合併した急性腎不全と診断され透析治療が開始されたが,その後右上腹部痛を認めるようになり入院第5病日に外科へ紹介された.腹部CT,MRI検査により,胆嚢内腔にガスと液体からなる鏡面像,胆嚢壁内と胆嚢周囲に拡がるガス像そして胆嚢周囲から右側傍結腸溝に及ぶ膿瘍が指摘された.以上より気腫性胆嚢炎の穿孔と診断し,同日胆嚢摘出術とドレナージ術を施行した.横紋筋融解症に合併した気腫性胆嚢炎の報告は過去になく,希な症例と考えられたので若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
島田 光生 神澤 輝実 安藤 久實 須山 正文 森根 裕二 森 大樹
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.678-690, 2012 (Released:2013-08-05)
参考文献数
25
被引用文献数
2

要旨:膵・胆管合流異常は解剖学的に膵管と胆管が十二指腸壁外で合流し,膵液と胆汁の相互逆流により,さまざまな病態を惹起するとともに胆道癌の発生母地ともなる.本疾患は不明な点が多く,また未だに治療方針も統一されていないのが現状である.今回,日本膵・胆管合流異常研究会と日本胆道学会が合同で,本疾患に対して病態から診断,治療に至るまでの膵・胆管合流異常診療ガイドラインを世界で初めて作成したのでダイジェスト版として紹介する.
著者
高屋敷 吏 清水 宏明 大塚 将之 加藤 厚 吉富 秀幸 宮崎 勝
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.172-179, 2014-05-31 (Released:2014-06-10)
参考文献数
30

膵・胆管合流異常は膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天性の形成異常であり,2012年には診療ガイドラインも上梓された.膵・胆管合流異常は胆道癌の明確なリスクファクターであり,胆道専門医には時期を逸さない適切な診断・治療が求められる.膵・胆管合流異常の診断にはMDCT, MRCP, EUSなどの画像診断も有用とされてきているが,依然としてERCPによる直接造影がゴールドスタンダードである.外科切除術式は胆管拡張型(先天性胆道拡張症)に対しては胆嚢,肝外胆管切除+胆道再建術,いわゆる分流手術がコンセンサスを得られているが,非拡張型に対する肝外胆管切除再建の必要性についてはいまだ結論がでていない.更には非拡張胆管とは何か,すなわち正常胆管径の定義などいまだ多くの論点がある.これらの解明には全国集計による症例集積の解析や胆道癌発癌メカニズム解明に向けた基礎研究などの報告も待たれる.
著者
滝川 一
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.23-28, 2013 (Released:2013-08-05)
参考文献数
18

要旨:胆汁酸は,胆汁中に最も多く含まれる有機成分であり,肝でコレステロールより生合成される.胆汁生成に重要な物質であるとともに,ミセル形成能により胆汁中でのコレステロールの溶存や小腸内での脂質の消化,吸収にも重要な役割を果たす.最近の研究により,胆汁酸の代謝や輸送とその制御機構が徐々に明らかとなってきた.UDCAの作用機序の1つとして近年,重炭酸の分泌を増やすbiliary bicarbonate umbrellaの考えが提唱された.胆汁うっ滞のかゆみは胆汁酸やオピオイドでなく,リゾレシチンから生成されるlysophosphatidic acidにより起こると考えられるようになってきた.FXRは胆汁酸をリガンドとする核内受容体であり,TGR5は胆汁酸をリガンドとするG蛋白共調の細胞膜受容体である.近年,これらを介して,胆汁酸が脂質,糖質およびエネルギー代謝に重要な役割を持つことが報告されており,これらの胆汁酸受容体をターゲットとした各種疾患の治療薬の開発が行われている.
著者
大井 龍司
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.203-206, 1995-06-28 (Released:2012-11-13)
参考文献数
7
著者
若林 大雅 高野 公徳 千葉 斉一 芹澤 博美 島津 元秀 河地 茂行
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.99-105, 2016-03-31 (Released:2016-04-05)
参考文献数
20

症例は27歳,男性.眼球結膜黄染を主訴に受診し,閉塞性黄疸と診断され緊急入院した.十二指腸乳頭部癌と診断し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後Gemcitabineによる補助化学療法を継続したが術後10カ月のCTで上腸間膜動脈および脾動脈幹近位リンパ節転移を認めた.化学療法をS-1に変更し,放射線治療を施行したところ再発巣の縮小とCA19-9の低下を認めた.しかし照射終了後に再発巣が増大しCA19-9も再上昇したため,術後26カ月よりS-1+Oxaliplatin併用療法(以下,SOX療法と略記)を開始したところ,一時CA19-9が低下し腫瘍縮小効果も示したが,徐々に無効となり術後40カ月で死亡された.本症例は,原発性硬化性胆管炎,膵・胆管合流異常,家族歴や印刷業の職業歴など胆道癌発症におけるリスク因子を認めない若年性十二指腸乳頭部癌である点に加え,術後のリンパ節転移再発に対して放射線治療やSOX療法といった集学的治療が予後延長効果を示した点において比較的まれな症例であった.
著者
山下 万平 黒木 保 佐伯 哲 北里 周 三原 裕美 三浦 史郎
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.758-763, 2020

<p>症例は64歳男性,検診の上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚に隆起性病変を指摘された.精査にて粘膜下に限局する10mm大の副乳頭部腫瘍を疑うもEUS下穿刺吸引細胞診で確定診断には至らなかったため,内視鏡的副乳頭部切除術による切除生検を行った.病理組織診にてInsulinoma-associated 1(INSM1)陽性,核分裂像0/10HPF,Ki-67<1%で副乳頭部神経内分泌腫瘍(NET)G1の診断,筋層への浸潤と腫瘍細胞の断端露出を認めたため,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本は断端陰性,No.6,14,17bリンパ節への転移を認めた.副乳頭部NETは腫瘍径が小さくてもリンパ節転移を高率に認めるため,腫瘍径にかかわらず膵頭十二指腸切除術と標準的リンパ節郭清を基本とした術式が妥当である.</p>
著者
田中 穣 小松原 春菜 野口 大介 市川 健 河埜 道夫 近藤 昭信 長沼 達史
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.667-672, 2016-10-31 (Released:2016-11-10)
参考文献数
16
被引用文献数
2

【目的】急性胆嚢炎に対するPTGBD後の腹腔鏡下胆摘術(以下LC)を安全に行うために,PTGBD後LC63例を対象として,その手術難易度の評価を行った.【結果】術前CRP最高値20mg/dl以上やCRP値低下までに長期間を要するもの,USでの胆嚢動脈血流Vmax値(以下Vmax値)30cm/秒以上,CTでの胆嚢壁厚5mm以上,術前PTGBD造影での胆嚢管閉塞,発症からPTGBD挿入までの時間が24時間以上,PTGBD後手術まで14日以上では術中出血量が多かった.【まとめ】急性胆嚢炎において術前の血清CRP値,胆嚢動脈血流Vmax値,PTGBD前のCTにおける胆嚢頚部壁厚,PTGBD造影の胆嚢管閉塞の有無が手術難易度の評価に有用で,発症後24時間以内にPTGBDを行い,14日以上経過してから手術を行うことが,術中出血量の軽減につながると考えられた.
著者
木暮 道夫 今泉 俊秀 増田 浩 松山 秀樹
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.119-124, 2003-07-30 (Released:2012-11-13)
参考文献数
19

60歳男性.以前より,胆嚢にびまん性のコンステローシスを指摘されていた.右上腹部の腫脹・疼痛を主訴に,当院を受診した.腹部エコーにて胆嚢の腫大,壁肥厚に加え,全域にわたる最大径2mm程度の hyperechoic な小隆起性病変を多数認め,胆嚢炎,コレステローシスと診断した.結石やポリープは指摘できなかった.切除標本で胆嚢全域にコレステローシスが見られ,胆嚢は腫大し,壁はやや肥厚していた.胆嚢頸部から胆嚢管にかけての内腔に, 折れ重なるように黄白色のコレステローシスが群生していた. 胆嚢管壁も一部肥厚が見られた.これらのことから,胆嚢管から胆嚢頸部にかけてのコレステローシスにより,胆嚢内の胆汁の流出が妨げられ,胆嚢炎を生じたものと考えられた.胆嚢管,胆嚢頸部のコレステローシスの存在は,コレステロールポリープの脱落・嵌頓例と共に, 胆嚢炎の原因となりうると考えられた.
著者
笹田 雄三 菊山 正隆 仲程 純 大田 悠司 松橋 亨 平井 律子 小出 茂樹
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.534-539, 2007-10-31 (Released:2012-11-13)
参考文献数
15

症例は71歳, 女性. 検診の腹部超音波検査で胆嚢底部に長径2cm の隆起性病変を指摘され,当科を受診した.腹部CT検査では胆嚢の隆起性病変は動脈相で濃染した.超音波内視鏡検査では胆嚢底部の隆起性病変は実質様エコーを呈していた.また,胆嚢壁の構造は保たれていた.以上より,StageIの胆嚢癌と診断し,開腹下に胆嚢摘出術を施行した.病変は亜有茎性の腺癌で,内部に著明なコレステローシスがみられた.本症例は特異な病理所見を呈した胆嚢癌であり,興味深いと考え報告する.
著者
福村 由紀 仲程 純 高瀬 優 齋浦 明夫 石井 重登 伊佐山 浩通
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.89-95, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
23

胆嚢腺筋腫症(以下ADM)はRokitansky-Aschoff sinus(RAS)が増殖し,筋層肥大・壁肥厚を伴う後天性病変で,上皮過形成を伴うことが多い.本稿では,病理学的側面を中心にADMの現在の知見と自験例をまとめた.ADMは病変の広がりによりびまん型,分節型,底部型,混成型に分類されるが,組織形態は基本的に同じである.ADMでは筋層肥大を見るが,RASの底辺に至る筋層増殖は見られない.分節型ではADMの部位よりも底部側で筋層肥大がより高度となることも多く,底部型における中央陥凹部はRASではなく胆嚢壁の陥凹である.RASの増殖からADM形成に至る組織学的変化に関し異論は少ないと思われるが,その成因に関しては意見の一致をみていない.ADMを前癌病変とする報告は殆ど見られないが,特に分節型をリスク因子とする報告は散見される.さらなるエビデンスの集積が待たれる.
著者
野田 剛広 新毛 豪 清水 潤三 畠野 尚典 堂野 恵三
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.682-688, 2016-10-31 (Released:2016-11-10)
参考文献数
29

急性胆嚢炎に対する診療ガイドラインにおいては,発症後72時間以内の早期手術が推奨されているが,72時間以上経過した症例に対する手術成績は不明である.今回我々は,72時間以上経過した症例に対する緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術手技と治療成績について検討した.2005-2014年の間に急性胆嚢炎と診断し,緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した233例を対象とした.発症後72時間以内の早期群(n=193)と72時間以降の後期群(n=40)に分類し解析を行った.平均手術時間は,早期群83分,後期群87分と差を認めなかったが,平均出血量は,早期群69mlに対し,後期群140mlと増加を認めた(p=0.0084).術後合併症,開腹移行率,術後在院日数は差を認めなかった.発症後72時間以上経過した急性胆嚢炎に対する緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術は,安全に施行可能であり許容可能と思われた.
著者
白井 良夫
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.723-731, 2008-12-31 (Released:2009-03-27)
参考文献数
21

進行胆嚢癌の手術成績は概して不良であるが, pT2 (ss) 癌では根治手術により治癒が期待できる. 胆嚢癌進展の自然史 (natural history) からみると, pT2 (ss) 癌の主要な進展様式はリンパ節転移であり, その根治手術ではリンパ節郭清を重視すべきである. 一方, pT2 (ss) 胆嚢癌に対する標準術式は未だ定まっていない. 当科では, 1982年以来, pT2 (ss) 胆嚢癌の根治術式として胆摘+胆嚢床切除+肝外胆管切除+D2郭清からなる拡大根治的胆嚢摘出術 (Glenn手術変法) を基本とし. 膵頭周囲リンパ節転移が高度な症例では膵頭十二指腸切除を追加してきた. 本稿では, 主として自験例の成績に基づき, pT2 (ss) 胆嚢癌の根治手術について考察する. さらに, 胆石症などの良性疾患に対する胆摘後に発見されたpT2 (ss) 胆嚢癌に対する根治手術 (再切除) の適応, 術式についても考察したい.
著者
中沼 安二
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.73-81, 2010 (Released:2010-05-07)
参考文献数
30

要旨:胆道病理を従来とは異なった観点から検討した.胆道と膵臓は,ほぼ同じ時期に前腸から派生し,胆道と膵臓の発生と形成に共通の遺伝子の関与することが注目されている.また胆道周囲には生理的に付属腺があり,これに混在して膵外分泌腺が同定されることがある.これらの知見から胆道と膵臓は潜在的に相互に変化しうる可能性があると考えられる.胆道と膵臓には多種類の疾患がみられるが,共通した病態を示す疾患がある.IgG4関連硬化性疾患,管腔内乳頭状腫瘍が代表的である.これらの疾患の病態の理解には,胆道と膵臓の病態生理の共通性と可塑性を考えると理解しやすい.従来とは別の観点から胆道病理を観察することにより,これらの疾患以外にも,胆道と膵臓の相互の可塑性により理解あるいは考察できる胆道疾患が存在すると思われる.
著者
北島 知夫 赤司 有史 山口 泉 北島 正親 大久保 仁 井上 啓爾 小原 則博 前田 潤平
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.223-228, 2009 (Released:2009-06-25)
参考文献数
20
被引用文献数
4

胆嚢捻転症の1例を経験した.胆嚢捻転症は,特異的な症状に乏しく比較的希な疾患であるが,画像診断の進歩により術前診断例も増えてきている.一方で,捻転により血行障害を来し,壊死性変化が急速に進むこともあり治療は緊急を要する.症例は高齢の女性で,急性胆嚢炎症状で発症し,手術時の所見で胆嚢捻転症と診断した.360°の捻転を呈する完全型の胆嚢捻転症で壊疽性胆嚢炎に陥っていた.胆嚢捻転症においては,高齢の痩せた女性に多いなどの特徴的な疾患背景や画像所見上,著明な胆嚢腫大に胆嚢管の先細り様の途絶や渦巻き像の描出などがないかを念頭におき診療にあたることが重要であると考えられた.また,胆嚢捻転症の根本は遊走胆嚢であることから,治療に際しては胆嚢穿刺は控え,緊急での手術,特に腹腔鏡下胆嚢摘出術の良い適応になると考えられた.
著者
山崎 元
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.178-183, 2007-05-31 (Released:2012-11-13)
参考文献数
9

近年,総胆管結石に対する治療法においてESTやEPBD等の内視鏡治療が標準的治療と認識されてはいるが,実際には患者各人によって最適と考えられる治療法は異なっており,しかも内科と外科,さらには各施設内でも治療方針が異なることもあり,標準化されたとは言い難いのが現状である.我々は胆嚢結石の落石による胆嚢胆管結石症ではその成因と考えられる胆嚢結石に対しては胆摘術が必要であるとの立場より,胆摘,胆管切石を一期的に行なえ,乳頭機能が温存でき,しかも低侵襲手術と考えられる腹腔鏡下胆管切石術を第一選択とし1992年7月より施行してきた.腹腔鏡下胆管切石術としては胆嚢管法(腹腔鏡下経胆嚢管的切石術)と胆管切開法(腹腔鏡下胆管切開術)があり,前者は胆嚢胆管結石に対する理想の手術と考えられるが胆嚢管が拡張し三管合流部より乳頭側に数個の小結石が存在する場合が適応とされる.後者は如何なる場所,如何なる大きさ,如何なる数の結石でも対処可能な術式と考えられ,我々は当初より胆管切開法を総胆管結石に対する基本術式と位置付けて施行してきた.しかし,腹腔鏡下胆管切開術は胆管切開,除石,縫合,胆道減圧と多くの手技が要求され難度の高い術式であるため,胆管結石症に対する標準術式とはなかなか成り得ず,多くの施設で施行されていないのが現状である.本稿では患者にとって利点の多い本法が普及することを願って我々の行なっている腹腔鏡下胆管切開,一期的縫合,Cチューブドレナージの手技の工夫を提示する.
著者
岡島 正純 佐伯 修二
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.745-750, 2011 (Released:2012-01-30)
参考文献数
14
被引用文献数
2

要旨:見えない傷の手術とも呼ばれる単孔式内視鏡手術は,その名の通り,術創が臍の中に隠れてしまうため,整容性に優れた手術である.一方で従来の腹腔鏡手術の基本的なトロッカー配置を崩しており,手技が困難であることは否めないが,胆嚢摘出術を単孔式で行ってみると,技術的に不可能ではなく,むしろ実地臨床で行うことができることがわかった.このような経緯から,その症例数は着実に増加している.今後は単孔式内視鏡手術研究会などの活動を通じて,より安全,確実な手技と機器,器具の開発が望まれる.また,整容面だけではない本術式の利点についての研究も今後の大きな課題であろう.
著者
田妻 進
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.153-160, 2007-05-31 (Released:2012-11-13)
参考文献数
38

胆石症は消化器疾患の中でも最も頻度の高い疾患の一つであり,日本人の胆石保有率は人ロの高齢化とともに上昇している.胆石保有者数の増加は食生活習慣の変化,特に脂肪摂取量増加と繊維食摂取の減少による胆汁中コレステロール濃度の上昇に起因すると推定されている.また,胆石は女性に比較的多く,その成因として女性ホルモンの関与が推測されている.胆石は胆道に局在する結石であり,その構成成分と存在部位により,背景因子や生成機序が,臨床症状や重症度・治療の緊急性など臨床病態も多彩となる.胆石はその主要構成成分によりコレステロール結石と色素結石に大別され,両者の成因や形成過程も異なる.本稿では,その胆汁成分の肝・胆道における代謝異常とそれに基づく物性化学的変化や,胆道における運動生理機能異常を中心に胆石生成機序を解説する.