著者
根本 正之 大塚 俊之
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.26-34, 1998-05-06
参考文献数
16
被引用文献数
5

水田畦畔を含む農耕地周辺に自生する小型植物のムラサキサギゴケ, オオジシバリ及びヤブヘビイゴを植栽した試験区はおいて, これらの小型植物が8月上旬から10月上旬にかけて発生した雑草に及ぼす影響について検討した。1) 供試植物ぱいずれも多年生のほふく-偽ロゼット型の生育型を示すが, その葉群構造は異なった。オオジシバリの草高が最も高く, 他2種はほぼ同様の草高で推移した(Fig. 1, Table 1)。いずれも 4月中旬からほふく茎の伸長が旺盛となった。ほふく茎の伸長速度はヤブヘビイチゴが最大であった(Fig. 2)。ムラサキサギゴケは地表面を密に被覆し, その地上部現存量は最大であった(Table 1)。2) 供試植物のない対照区と比べて, 供試植物を植え付けた処理区ではいずれも発生した雑草の地上部乾重が有意に少なく, 供試小型植物はよる発生雑草の生育抑制効果が認められた(Fig. 3)。供試植物のほふく茎が一様に処理区内を覆った7月23日時点の, 処理区全体に占める緑葉部分の割合(%)と, 最終除草(8月9日)後に発生した雑草の地上部乾重との間にぱ負の相関が認められた(Fig. 4)。3) 試験圃場内に発生した雑草は39種でそのうち約80%は一年生雑草であった。すべての区において, 発生雑草中メヒシバの現存量が圧倒的に多かった(Table. 2, Fig. 5)。処理区ごとに求めた発生雑草の多様性指数ぱヤブヘビイチゴ区が最大で, ムラサキサギゴケ区で最小であった(Table 3)。
著者
渡辺 寛明 宮原 益次 芝山 秀次郎
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.153-161, 1991-09-02
被引用文献数
4

水稲稚苗移植栽培におけるイヌホタルイの生育および種子生産量をイヌホタルイの出芽時期と発生密度との関係で検討し、以下の結果を得た。(1)水田裸地区では、6月18日に出芽したイヌホタルイの実生個体は、9,700粒/個体の種子を生産した。これより遅く出芽した個体ほど、個体の生育量の低下とともに種子生産量が減少し、7月16日に出芽した実生個体では個体当たり3,000粒以上の種子がつくられた。 (2)水稲畦問区では、水稲移植直後の6月18日に出芽した実生個体は100粒/個体程度の種子を生産したが、水稲移植後18日目に当たる7月2日に出芽した実生個体では着穂・開花に至らない個体がみられ、開花した個体も大部分の種子が未熟のまま水稲収穫期を迎えた。さらに水稲移植後1ヵ月以上たって出芽したイヌホタルイの実生個体はほとんど種子生産がみられなかった。 (3)越冬株から萌芽した個体は実生個体に比べて初期生育が旺盛なために、水稲畦問区でも1,500粒の種子を生産し、水田裸地区で萌芽した場合は17,000粒もの種子を生産した。 (4)水稲を作付した場合、イヌホタルイの単位面積当たりの種子生産量は発生本数がm^2当たり1,000本で65,000粒程度であったが、発生密度が1,000本/m^2を越えると生育途中の死滅により、残存本数および種子生産量は少なくなった。 (5)種子から出芽した実生個体と越冬株から萌芽した個体、あるいは水田裸地区で生育した個体と水稲畦間区で生育した個体とでは個体の生育量は大きく異なっていたが、いずれも個体当たりの種子生産量は個体の茎葉部生育量と密接な関係にあった。
著者
木俣 美樹男 阪本 寧男
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.p103-111, 1982-08

目本産力モジグサ属植物のうちで,雑草性の高いカモジグサ(Agropyron tsukushiense var. transiens)の普通型と早生生態型およびミズタガモジグサ(A humidorum)について,繁殖様式と生育場所との相互関係について検討した。これら2種が同所的に生育する静岡県三島市の休閑困における野外調査によると,カモジグサの早生生態型は種子でのみ実生を生じさせていたが,ミズタガモジグサは種子および桿の断片から実生を生じさせていた(第1表)。早生生態型の桿の断片は越夏後に腐敗して萌芽せず,ミズタガモジグサではほぼ半数の桿の断片が萌芽していた(第2表)。ミズタガモジグサの桿はほぼ7節よりなっているが,水岡耕起の際に1〜3節をもつ断片にされることが多かった。桿の断片は3節をもつものがもっともよく萌芽していた(第3表)。ヵモジグサの普通型と早生生態型およびミズタガモジグサの種子を温度および水条件による14の処理区に貯蔵し,経時的に発芽試験を行なった(第1図)。この結果によると,カモジグサの普通型は畑条件下でよく発芽し,早生生態型は州および湛水条件下でよく発芽した。ミズタガモジグサは種子の休眠が深く,湛水条件下でも比較的よく発芽力を維持した。カモジグサの普通型と早生生態型およびミズタガモジグサの桿の1節をもつ断片を温度および水条件による8処理区に貯蔵し,経時的に萌芽試験を行なった(第2図)。この結果によると,カモジグサの普通型および早生生態型の桿の断片の腋芽は休眠性が弱く,7月にはほとんどが萌芽した。しかしながら,ミズタガモジゲサの桿の断片の腋芽は休眠性が強く,9月まで著しい萌芽カミみられなかった。これらの結果は,休閑田における野外調査の結果とよく一致した。すなわち,カモジグサの早生生態型の株は休眠性が弱く湛水下で腐敗し,多年生であるにもかかわらず,自然状態では一年生植物のように種子によってのみ繁殖する。普通型は,種子が湛水・高温条件下で腐敗するので畦より水田中には侵入できない。ミズタガモジグサは種子のほか,株および多年生化した桿によっても繁殖し,水田への適応性が認められた。
著者
牛木 純 赤坂 舞子 手塚 光明 石井 俊雄
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.128-133, 2008-09-29
被引用文献数
1

国内に発生する雑草イネの生態的特性を明らかにすることを目的として,2003年に長野県から採取した74集団,岡山県から採取した40集団の発芽様式と休眠性の特徴について,出穂後100日目の発芽試験によって調査した。その結果,雑草イネ集団の約25%は休眠性を持ち,最高で播種後約200日目に発芽する種子を持つ集団も存在した。発芽様式は集団によって多様であったが,播種後30日目の発芽率と発芽率が95%に達するのに要した日数との関係から,大別して3タイプの発芽様式があると考えられた。最も多かったのは,栽培品種と同様に播種後30日以内に95%以上の種子が発芽する集団(以下,GP1,全体の約75%)であった。これに対し,GP1よりも発芽は遅延するが,播種直後から日数に応じて徐々に発芽が進む集団(以下,GP2,全体の約18%),あるいは播種直後はほとんど発芽しないが,一定期間を過ぎると急速に発芽が進む集団(以下,GP3,全体の約7%)も存在した。上記の発芽様式を持つ雑草イネ集団の割合を発生地区ごとに比較すると,GP2あるいはGP3の集団の割合が高い地区は,長野県と岡山県の雑草イネが高い密度で発生している地区であることが共通していた。以上の結果から,国内に発生する雑草イネの休眠性は概して栽培品種と同程度だが,一部地域には休眠性の深い集団も存在し,その集団の休眠性は発生密度と関連する可能性が示唆された。
著者
テラワッサクール M. 村田 吉男 草薙 得一
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.97-103, 1987-08-31
被引用文献数
1

タイ国におけるトウモロコシ畑での Eiphorbia geniculataの生態を解明するための基礎的知見として、光合成および蒸散作用における特徴をトウモロコシおよび Euphorbia hirtaと比較した。 1) C_3植物であるE. geniculataは光合成の光飽和点がC_4植物であるトウモロコシやE. hirtaよりもはるかに低く、そして強光下での党かげの光合成作用(Ap)はトウモロコシ、 E. hirtaでは気孔抵抗(r_s)によって限定されるのに対して、 E. geniculataでは葉肉抵抗(r_m)によって限定された。 2)遮光条件下で育てると E. genisulataの党かげの光合成作用およびその光飽和点はトウモロコシに比べて著しく低下した。見かけの光合成の減少は E. geniculataではr_mの増加によるが、トウモロコシではr_mおよびr_sの両方の増加に起因することが認められた。 3) E. geniculataの要水量は通常、トウモロコシの2倍以上であるが、遮光処理により約3倍に増大した。 4) E. geniculataの見かけの光合成作用は、目長時問が増加するに従って減少する傾向を示した。また強光下の蒸散量 (Tr)は12時間日長で最大となり、Ap/Tr比は最低となった。たお、暗黒化に伴う気孔閉鎖は8時間日長区が12、16時間日長区よりもはるかに迅速であった。
著者
橘 雅明 渡邊 寛明 伊藤 一幸
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.235-241, 2002-12-27
被引用文献数
2

ヨーロッパ原産の帰化雑草ハルザキヤマガラシ (Barbarea vulgaris R. Br.) の東北地域における発生実態について,農業改良普及センターを対象としたアンケート調査および観察調査を実施した。1993年と1996年のアンケート調査では,東北全県からあわせて29件の発生確認の回答があった。2001年に実施した観察調査においても全ての県で発生が確認されたことから,東北地域において本種が広く分布し,定着していることが明らかとなった。特に発生数の多い地域は,青森平野,秋田県横手盆地,岩手県北上盆地,雫石盆地,遠野盆地であった。ハルザキヤマガラシの発生が多かった秋田県横手盆地の仙北地域では,1994年と比べて2001年には高密度で発生している地点数は減少したが,発生地点数は増加し,分布は拡大していた。ハルザキヤマガラシの種子は2年間の水中貯蔵後も3割程度が生存し,発芽力を有することが明らかとなった。また,河川周辺および用排水路周辺の水田畦畔・道路端に発生が多く,河川の中州や用水整備などで畦畔に上げられた用排水路の底土において発生が確認された。これらのことから,河川や用排水路がハルザキヤマガラシの拡散経路の一つであると考えられた。
著者
浅井 元朗 與語 靖洋
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.73-81, 2005-06-24
被引用文献数
5

関東・東海地域の麦作圃場におけるイネ科雑草カラスムギ, ネズミムギ(イタリアンライグラス)の発生実態を把握するため, 農業改良普及センターを対象にアンケート調査を行った。また, 発生の著しい茨城県西部を中心に現地圃場の定点調査もあわせて行い, 作付体系と発生実態との関係を解明した。アンケート調査の対象とした全県でカラスムギ, ネズミムギの存在は認識されており, 麦作圃場内への侵入は半数の管区で認識されていた。カラスムギでは埼玉県, 茨城県で, ネズミムギでは埼玉県, 静岡県で被害の著しい地域が存在した。カラスムギの被害は畑麦, 転作圃場で高い傾向があり, 水稲作の入る圃場では被害の拡大は認められなかった。カラスムギの多発圃場では蔓延後に麦類の作付を休止する事例が複数確認された。両草種の侵入には飼料作, 堆肥, 緑化資材からの逸出が考えられたが, 飼料用えん麦の拡散は認められなかった。圃場での拡散には畑条件での麦類の連作と効果的な防除手段の欠如が関与すると考えられた。以上のことから, 上述した侵入, 定着要因の存在する立地では今後カラスムギ等の被害の拡大が懸念される。
著者
李 度鎭 臼井 健二 松本 宏 石塚 皓造
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.309-316, 1992-12-24
被引用文献数
4

発芽直後のイネ幼苗の生育に対するジメピペレートと、作用機作の異なる7剤の除草剤との混合処理による相互作用について検討した。土壌による除草剤の不活性化などの要因を排除するために水耕法を用いて根部処理し、イネの地上部と根部の新鮮重を測定した。薬剤間の相互作用についてはColby法で、ベンスルフロンメチルの場合のみIsobole法を併用して評価した。これらにより、以下のような結果が得られた。1) スルホニルウレア系除草剤ベンスルフロンメチル、クロルスルフロンとジメピペレートとの混合処理では、拮抗的効果が示され、ジメピペレートとの混合による薬害軽減効果が認められた。2) オキシフルオルフェン、ピフェノックス、クロメフロップおよびピリブチガルブとジメピペレートとの混合処理でも各薬剤に基因する生育抑制に対しジメピペレートによる拮抗的効果が認められた。3) クロロアセトアミド系除草剤プレチラクロール単剤処理では、地上部より根部の方に抑制効果が強く認められたが、ジメピペレートとの混合処理では相加的効果が示され、生育抑制軽減効果は認められたかった。
著者
冨永 達 小林 央往 植木 邦和
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.273-279, 1989-12-25
被引用文献数
1

チガヤ(Imperata cylindrica var. koenigii)は防除が困難なイネ科の多年生雑草である。本研究では和歌山県紀伊大島におけるチガヤの集団間および集団内変異を明らかにしようとした。 紀伊大島内の路傍、放棄畑、果樹園、芝地および海岸前線砂丘のチガヤ11集団(Fig.1)について、1982年から1984年にかけて自生地における結実率を調査した。また、11集団から5クローンずつ、1クローンあたり5ラミートを任意に選び、1983年6月10日に直径20cm、深さ19cmの素焼鉢に1ラミートずつ移植した。11月上旬に植物体を掘り取り、草丈、分株数、根茎数、根茎の直径および長さ、器官別乾物重を測定した。また、琶穎の長さ、菊の大きさ、自殖率および100粒重も調査した。移植実験は京都大学農学部附属亜熱帯植物実験所(紀伊大島)で行った。 自生地における結実率は、集団および年次の違いにより大きく異なった(Table 3)。海岸前線砂丘のチガヤは、花粉粒がほとんど認められず、雄性不稔であり、その結実率は、0.46%以下と著しく低かった。他の10集団では、菊の形状や花粉稔性に異常は認められず、1.05%から59.07%におよぶ結実率の幅広い変異は集団の大きさや出穂個体の密度によるものと推察された。また、移植実験におけるクローンの自殖率は0.35%以下であり、100粒重は11.07〜13.15mgであった(Table 4)。草丈、全乾重、分株数、総根茎長、根茎の単位長さ当りの重さ、菊の幅および根茎への乾物分配率について分散分析を行った結果、集団間には有意な差異が認められたが、集団内クローン間には有意な差異は認められなかった(Table 1)。この結果から、集団間にはこれらの形質について差異が存在するが、集団内では変異が少ないことが推定された。 海岸前線砂丘由来のクローンでは、他の生育地由来のクローンと比較して、分株数、根茎数および総根茎長が大であり、集団内のクローン間変異は小さかった(Table 2)。また、琶頼長と各クローンの採集地から海岸までの距離との間には、有意な負の相関が認められ、海岸前線砂丘由来のクローンの菅穎は著しく長かった(Fig.2)。
著者
鶴内 孝之 古屋 忠彦 村山 祥子 島野 至 松本 重男
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.185-190, 1988-10-31

1 . lvyleaf speedwell plants were grown in four air conditioning rooms at constant temperatures under natural day length, from 1982 to 1983. In the 15℃ room, they formed a pair of opposite leaves on each of the lower 4 to 6 nodes of the stems, and then an alternate leaf and a flower on each of the upper nodes. In the 20℃ room, they formed opposite leaves on the lower 5 to 7 nodes, and then an alternate leaf and a flower, but fruiting was not prominent. In the 25℃ room, they developed only opposite leaves without a transition to alternate leaf arrangement. In addition, vegetative growth continued and no flowers was produced (Fig. 2) . In the 30℃ room, they did not grow and died within 1 or 2 weeks. 2 . Germinating seeds of ivyleaf speedwell were treated in a 4℃ incubator for 8 or 26 days, and young green plants of ivyleaf speedwell and birdseye speedwell were grown in at air conditioning box at 10℃ under diffused sunlight for 16 or 28 days, from 1984 to 1985 (Table 1) . Thereafter the materials were transferred to the 15, 20 and 25℃ rooms. The exposure of the germinating seeds to 4℃ and of the green young plants to 10℃ promoted the transition from opposite to alternate leaf arrangement, flowering and fruiting. The most remarkable results were as follows : the ivyleaf speedwell plants did not flower in the 25℃ room (Fig. 2), but the exposure to the low temperatures of 4℃ and 10℃ for 26 (VL) or 28 (GL) days, promoted the transition from an opposite to an alternate leaf arrangement, as well as flowering and in some cases fruiting (Table 2) .
著者
澁谷 知子 森田 弘彦
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.30-41, 2005-03-18
参考文献数
113
著者
松本 宏 石塚 皓造
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.91-97, 1982-08-26

シメトリンの作用点と考えられる光合成系における選択作用性について検討することを目的とし,シメトリンに対して低抗性であるイネ(日本晴)と感受性であるタイヌビエから葉緑体を単離調整し,それらの電子伝達反応および光リン酸化反応における作用部位の検索,植物間における阻害度の比較を行なった。まず,電子伝達反応に対するシメトリンの作用について検討した。光化学系Iの末端から電子を受容するメチルビオローゲンを用い還元されたメチノレビオローゲンが酸素と結合して反床液中の酸素を消費する反応を利用して,酸素電極で種々の濃度のシメトリン存在下における酸素の消費速度を測定することにより,電子伝達系全体に対する作用を調べた。その結果,シメトリンは処理後ただちにかつ低濃度でこの反応を阻害することが判明し,用いたクロロフィル量(100〜120μg)でI_<50>値はイネで8×10^8M,タイヌビエで9×10^8Mであった(第1図)。つぎに,この電子伝達反床を光化学系IIの反応と光化学系Iの反応に分けて,それぞれに対するシメトリンの作用について検討した。光化学系IIに対する作用は,プラストキノン部位から電子を受容する酸化型のフェニレンジアミンを用いて,水の分解に伴う酸素の発生を酸素電極で測定することにより調べた。その結果,両植物のこの反応はシメトリンにより強い阻害をうけ,I_<50>値はともに5×10^8Mであった(第2図)。光化学系Iに対する作用は,光化学系IIからの電子の流れをDCMUで阻害した上で,アスコルビン酸で還元したDCIPを電子供与体,メチノレピオローゲンを受容体として,酸素電極で酸素消費速度を測定することにより調べた。その結果,この反応は10^4Mのシメトリンでもほとんど阻害をうけなかった(第1表)。また,NADPの光還元も同様にシメトリンの阻害をうけなかった(第2表)。光リン酸化反応に対するシメトリンの作用は,ADPからATPが生成される際にエステノレ化されて減少する反応液中の無機リンを比色法で定量することにより測定した。その結果,非環状光リン酸化反応がほぼ電子伝達反応と同程度の濃度で阻害された。環状光リン酸化反応も阻害されたが,非環状光リン酸化の阻害に比べるとやや弱いものであった(第3表)。これらの結果から,シメトリンの作用は光合成系における光化学系IIの反応と,光リン酸化反応の阻害であると考えられた。しかし,調べたすべての反応系において,イネとタイヌビエ間で葉緑体のジメトンに対する感応性に差ば認められなかった。したがって,両植物におけるシメトリンの作用力は,細胞内に形成される生理活性物質の濃度によって決定されるものと考えられ,選択作用性の要因としてはこれまで指摘してきたこれらの植物間の機能の差,すなわち,茎葉処理時においては茎葉からの吸収速度および茎葉内分解代謝能の差が,根部処理時においては根部内および茎葉内分解・代謝能の差と茎葉への移行速度の差があげられる。