著者
後藤 三千代 鈴木 雪絵 永幡 嘉之 梅津 和夫 五十嵐 敬司 桐谷 圭治
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.207-218, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
40
被引用文献数
1 2

山形県庄内地方にはハシボソガラスCorvus corone,ハシブトガラスC. macrorhynchosおよび冬の渡り鳥のミヤマガラスC. frugilegusが生息しているが,これら近縁のカラス3種が同所に生息している背景を食性より調査した.DNA解析により,種判別されたカラス3種のペリットの内容物を無脊椎動物,植物,その他に分け,構成比率をみると,ハシボソガラスは77.1,82.1,10.6,ハシブトガラスは43.9,73.8,47.2,ミヤマガラスは17.1,97.6,0,と食性は種により異なっていた.餌内容物を詳細にみると,ハシボソガラスから,水辺・水田の生物,地表徘徊性節足動物,草の種子および小型のコガネムシ類など地面近くで得られる生物が検出され,とくに水田の生物は1年を通じて検出された.さらに,樹木の果実の種子および大型のコガネムシ類など樹木と関わる昆虫類も検出された.ハシブトガラスから主に樹木と関わる生物や人家周辺の生物および廃棄物が検出され,ミヤマガラスからほぼイネだけが検出された.以上から,カラス3種の食性に一部重なりがみられるものの,ハシブトガラスとハシボソガラスの間では採餌場所の重なりが少なく,またハシボソガラスとミヤマガラスの間では,収穫後のイネ籾が水田に豊富に落ちている時期に採餌場所が重なることが,庄内地方でカラス3種が同所的に生息している背景と考えられる.
著者
新田 和弘 藤巻 裕蔵
出版者
日本鳥学会
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.49-55, 1985

(1)オオジシギの日周活動とその季節変化を1984年4月下旬から8月下旬にかけて北海道東部の十勝川下流沿いで調査した.<br>(2)主な行動はディスプレーで,この他にも杭上,樹上でないている行動などが観察された.<br>(3)4月下旬から6月下旬にかけて,活動個体数は日の出前後と日没後に多くなり,時期によっては日没前にも多くなって,3-4山型の日周活動がみられた.<br>(4)活動個体数は4月下旬から5月にかけて多くなり,その後6月下旬までに徐々に少なくなって,それ以降は急に減少した.<br>(5)オオジシギの生息数調査に適しているのは,5月の6-7時である.
著者
藤巻 裕蔵
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.15-23, 1986
被引用文献数
3

(1)北海道大学苫小牧地方演習林(北海道苫小牧市)の落葉広葉樹林で1982&bull;1983両年に森林構造ど繁殖期の鳥類群集の関係を調べた.<br>(2)調査地では1982-83年の冬に一部の伐採が行われ,胸高直径5cm以上の樹木の密度,基底面積,うっ閉度は1,665/ha,27.65m<sup>2</sup>/ha,85%からそれぞれ1,060/ha,18.75m<sup>2</sup>/ha,64%に減少した.<br>(3)調査期間中に44種の鳥類が観察されたが,そのうち35種がなわばりを持ち,それ以外の種は一時的に飛来したものであった.<br>(4)つがい数の多い種はキビタキ,ヤブサメ,センダイムシクイ,ハシブトガラ,シジュウカラ,ゴジュウカラ,ニュウナイスズメであった.<br>(5)1982年と1983年とを比較すると,ホオジロ,アオジ,シメのように開けた環境を好む種のつがい数が増加したが,他の種のつがい数はほとんど変化しなかった.また,平均多様度指数も1982年に4.27,1983年に4.44であった.<br>(6)北海道の落葉広葉樹林や針広混交林の鳥類群集との比較を行い,今回調査した鳥類群集の特徴を明らかにした.
著者
川路 則友
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.98-102, 2009-05-01 (Released:2009-05-20)
参考文献数
8
被引用文献数
4 2

北海道札幌市において,赤色卵を托卵されたメジロの巣を発見し,追跡したところ,ツツドリのヒナがふ化し,仮親であるメジロからの給餌を受けたのちに巣立った.その巣から近いところにあったセンダイムシクイの巣でも赤色卵が見つかったが,それはのちに捕食された.しかし,赤色卵を産むウグイスの巣が約500 m離れた位置で確認されたが,巣内には托卵はなかった.これまで北海道中北部ではツツドリによるウグイスへの赤色托卵例が報告されている.ツツドリによる赤色卵の托卵は,北海道南西部以南でウグイスを主要な宿主とするホトトギスが生息していない北海道中央部で,卵色の形質置換を行うことにより確実にウグイスへの托卵を成功させるために進化してきたものと考えられている.メジロはツツドリの主要な宿主ではないが,ウグイスの生息密度が低いために,本州以南での主要な托卵相手であるセンダイムシクイや,メジロといった他種まで宿主として利用していると考えられる.
著者
溝田 智俊 佐々木 みなみ 山中 寿朗
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.115-130, 2007-11-01 (Released:2007-11-17)
参考文献数
25
被引用文献数
1 7

カワウ,アオサギおよびゴイサギの営巣地下にある2地域の土壌(福島県本宮および福岡県久留米)について,窒素動態を無機態窒素含量と安定同位体比の時系列変動を指標として解析した.顕著に高い無機態窒素含量(8 g/kg乾土)が孵化と雛の成長期に見出された.巣立ちと営巣地から見られなくなった後,無機態窒素含量は急速に低下した.土壌の硝化活性は,やや冷涼な本宮営巣区にくらべて温暖な久留米営巣区で高かった.硝化と連動した脱窒過程が繁殖期後期に顕著であることが特異的に高い硝酸態窒素の同位体比から推察された.カワウは繁殖およびねぐらとして1年を通じて森林を利用するために,土壌に連続的に糞窒素が搬入される.その結果,一時的に利用するサギ類に比較してカワウ営巣区ではアンモニア生成速度が高く維持されると推定された.
著者
福田 道雄
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.91-95, 2020

<p>日本では,現在非常に多数のペンギンが飼育されている.このような状態になった理由を解明するため,ペンギンの渡来史を調べた.『禽譜』によれば,ペンギンの全身と部分の皮が,江戸時代の享保年間(1716–1736)と1821年に渡来し,どちらの種もキングペンギン<i>Aptenodytes patagonicus</i>であった.筆者は,貴志孫太夫が転写したと考えられる『鳥獣図』に描かれたフンボルトペンギン<i>Spheniscus humboldti</i>の図を見つけた.そして,その原図で写生されたフンボルトペンギン標本の渡来時期は,貴志忠美が没した1857年以前と推定できた.</p>
著者
宮澤 楓 島田 将喜
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.153-162, 2017
被引用文献数
1

ヤンバルクイナによる台石を使用したカタツムリの殻の割り方と殻の割れ方の対応関係を,行動の直接観察と殻の割れ方の分類によって明らかにした.沖縄県国頭村にて,センサーカメラをもちいた行動観察と,カタツムリの殻の採取を行った.動画内で識別された4個体すべてから地上に露出した石に,カタツムリの殻口を嘴で咥え保定し繰り返し叩きつけて殻の反対側を破壊し中身を食べるというパタンが観察された.台石使用行動はヤンバルクイナにとって一般的で定型化した採餌行動と考えられる.採取されたカタツムリの殻の割れ方は4つのタイプに分類されたが,うち大多数を占めるType 1と,Type 2はヤンバルクイナによる食痕の可能性が高いことが示唆された.クイナ科の系統でこの台石使用行動が直接的証拠により確認されたのは,ヤンバルクイナが最初である.台石使用行動は,丸飲みは不可能だが常時利用可能性の高い大型のカタツムリを採食可能にするという機能をもつ.
著者
武田 恵世
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.135-142, 2013 (Released:2013-11-21)
参考文献数
37
被引用文献数
1

風力発電機は現在世界的に鳥類への影響が問題になっており,影響が大きいという報告から,小さいという報告まである.日本での詳しい報告はまだない.そこで本研究では,風力発電機の野鳥の繁殖への影響を,51基を有する日本有数の大規模風力発電所のある三重県中部の青山高原(布引山地)において調査した.風力発電機から200 m以内の,建設時に改変を受けていない森林に調査区を設定し,青山高原内で風力発電機から可能な限り離れ,標高,植生がほぼ同じ森林に対照区を設定し,鳥類の繁殖期のテリトリー密度と種数密度をテリトリーマッピング法で調査した.調査は2007年5月下旬~6月下旬の午前中に行った.風力発電所近くの広葉樹林では,テリトリー密度で対照区(5.4±0.95テリトリー/ha)にくらべ約1/4(1.3±0.69テリトリー/ha)に有意に減少し、種数密度で対照区(3.1±0.73種/ha)にくらべ約1/3(1.2±0.45種/ha)に減少していた.また,風力発電所近くのヒノキ植林地ではテリトリー密度,種数密度共に約1/4に有意に減少していた.また風力発電所に隣接する布引の森自然保護区では風力発電機建設前(1994年)に比べ,建設から4年後の(2007年)には種数で21種から9種へと約43%に減少していた.以上により風力発電機の鳥類の繁殖期の生息密度への影響は大きいことが示唆され,その建設,立地には慎重な検討が必要であると考えられる.
著者
江口 和洋 天野 一葉
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.3-10, 2008-05-01 (Released:2008-05-21)
参考文献数
32
被引用文献数
5 4

高密度のソウシチョウの巣の存在にともなうウグイスの巣への捕食の増大という間接効果を検証するために,えびの高原(鹿児島県,宮崎県)において,ソウシチョウの巣の除去実験を行った.調査は2002年と2003年の繁殖期に,ソウシチョウの巣を繰り返し除去し,除去を行わない対照区との間で,ウグイスの巣に依存する期間の生存確率を比較した.除去の結果,2002年は巣密度の低くなった除去区では対照区より全期間生存確率は有意に高かった.2003年はウグイスの営巣数が大きく減少したため,ソウシチョウの巣を除去したにもかかわらず両地区の巣密度差が小さく,生存確率に有意差が生じなかった.本研究の結果はソウシチョウの高密度な巣の存在がウグイスの偶発的な捕食の増加を引き起こし,ウグイスの低い繁殖成功をもたらしたことを示唆している.
著者
先崎 理之
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.91-94, 2019-04-23 (Released:2019-05-14)
参考文献数
9
著者
青山 怜史 須藤 翼 柿崎 洸佑 三上 修
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.11-18, 2017 (Released:2017-05-13)
参考文献数
27
被引用文献数
2

ハシボソガラスCorvus coroneがクルミ(オニグルミJuglans mandshuricaの種子)を高い位置から投下して割って食べていることはよく知られている.ハシボソガラスが効率よくクルミを割るためには,どのくらいの重さのクルミをどれくらいの高さから何回落とすかが重要となる.そこで本研究では,ハシボソガラスのクルミ割り行動の基礎情報としてクルミの性質について理解することを目的とし,以下の3つを明らかにする実験を行った.(1)クルミはどの程度の高さから何回落とすことで割れるのか.(2)クルミの重さによって割れやすさに違いはあるのか.(3)クルミの外見の大きさ(殻の直径)およびクルミ(殻+子葉)の重さと,内部の子葉の重さに関係はあるのか.さらに簡易的に(4)ハシボソガラスは,重いクルミを選択するのかについても実験を行った.その結果,(1)落とす高さが高いほどクルミは割れやすい,(2)重さによって割れる確率に違いは見られないが,重いクルミは殻が欠けて割れ,軽いクルミは縫合線で割れる傾向がある,(3)重いあるいは大きなクルミほど可食部も重い,(4)ハシボソガラスは重いあるいは大きなクルミを選択的に持っていく,ことが明らかになった.
著者
岩田 巌
出版者
日本鳥学会
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.3, no.14, pp.240-248, 1923
著者
嶋田 哲郎 溝田 智俊
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.52-62, 2011 (Released:2011-05-28)
参考文献数
60
被引用文献数
3 2

マガン個体数が回復・増加した1975年から2005年の30年間における農産業の変化とそれにともなうマガンの食物資源量の変化および農作物被害の発生とについて,日本最大の越冬地である宮城県北部における経緯について論じた.1975~2005年にかけての減反政策にともない,水田面積は30%減少した.その間,圃場整備率は30%から61%に上昇し,それにともないバインダーからより落ち籾量の多いコンバインへの置換が進んだ.落ち籾現存量は,1975年から1995年にかけて2倍に増加したが,1995年以降は頭打ちとなった.1990年代後半になると,転作作物,中でも大豆の作付面積が増加した.落ち籾現存量をあわせた食物資源量全体をみると,落ち籾現存量は1995年以降頭打ちになったものの,その分を補填する形で転作作物現存量の増加にともなって食物資源量全体は増加した.こうした農地の利用形態の変化とマガンの個体数増加は,マガンが利用する採食地分布にも変化をひきおこした.2000年以降になると麦類や野菜類などへの農作物被害が顕在化した.被害はマガン個体数増加にともない落ち籾や落ち大豆などの収穫残滓を早期に食べ尽くすようになり,選択の余地のない必然的な状態で生じていた.しかしながら,捕食圧の低い場合には農作物の生産性を高める例もあり,適切な個体数管理によって農業に利益をもたらす可能性があることを示唆している.本稿は人間社会が本種に与える影響の強さを明らかにしたものであり,人間社会をモニタリングすることが本種の保全管理の上で必要不可欠であることが示された.