著者
武井 貢彦
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.261-268, 1997-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
18

慢性関節リウマチにおいて上位頚椎病変を合併することは少なくなく, 上位頚椎の亜脱臼による延髄及び脊髄の圧迫で急速な死の転帰をとることがある.突然死の原因として近年睡眠時無呼吸症候群 (Sleep apnea syndrome; 以下SAS) が注目されているが, RAにおけるSASの合併に関する報告は少ない.本研究では上位頚椎病変を有するRA患者に睡眠ポリグラフィー, 頚椎単純X線撮影及びMRIを施行し画像診断上の特徴よりSAS出現の危険因子を明らかにした.対象はRA患者7例で男性1例女性6例, 年齢は42歳から60歳, stage III: 5例, stageIV: 2例, class2: 1例, class3: 6例であった.1時間あたりの無呼吸回数 (apnea index) が5以上のものをSASとした.画像診断としてはatlanto-dental interva1 (ADI) , 残余脊柱管前後径 (space available for the cord; 以下SAC) , Perpendicular distance; 以下PD) , Redlund-Johnell値及rama1-height値を計測, MRIでは特に延髄腹側の状態を観察した.SASと診断された症例は3例で前方亜脱臼, 及び前方亜脱臼と垂直脱臼の合併が各1例ずつでいずれもMRIで延髄下部腹側の圧迫が認められた.また1例は顎関節破壊による2次性の小顎症を呈していた.延髄下部腹側の圧迫の認められない症例ではslee papneaは出現していなかった.前方亜脱臼を呈する患者ではSACが13mm以下, 垂直亜脱臼を呈する患者ではPDが7mm以下となり, MRI画像で肉芽などによる延髄下部, 上位頚髄の特に腹側の圧迫像が見られる場合にはSASを起こしている可能性が高かった.延髄下部腹側には呼吸リズム産生機構があることが示唆され, 亜脱臼の方向にかかわらずMRIでの延髄下部腹側の圧迫像の存在はSAS発症の危険因子と考えられた.
著者
小沢 慶彰 村上 雅彦 渡辺 誠 冨岡 幸大 吉澤 宗大 五藤 哲 山崎 公靖 藤森 聡 大塚 耕司 青木 武士
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.696-700, 2015 (Released:2016-09-10)
参考文献数
8

直腸腫瘍に対し砕石位にて手術施行後に下肢コンパートメント症候群を合併した2例を経験したので,その予防対策とともに報告する.症例1は61歳男性.直腸癌に対し腹腔鏡下低位前方切除術施行した.体位は砕石位,下肢の固定にはブーツタイプの固定具を用い,術中は頭低位,右低位とした.手術時間は6時間25分であった.第1病日より左下腿の自発痛と腫脹を認めた.後脛骨神経・伏在神経領域の痺れ,足関節・足趾底屈筋群の筋力低下を認めた.下肢造影CTで左内側筋肉の腫脹と低吸収域を認めた.血清CKは10,888IU/Lと高値,コンパートメント圧は22mmHgと高値であった.左下腿浅後方に限局したコンパートメント症候群と診断し,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.症例2は60歳男性.直腸GISTに対し腹会陰式直腸切断術を施行した.体位,下肢の固定は症例1と同様であり,手術時間4時間50分であった.術直後より左大腿~下腿の自発痛と腫脹を認めた.術後5時間には下腿腫脹増悪,血清CKは30,462IU/Lで,コンパートメント圧は60mmHgと高値であった.左下腿コンパートメント症候群と診断,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.直腸に対する手術は砕石位で行うことが多いため,下腿圧迫から生じる下肢コンパートメント症候群の発症を十分念頭におく必要がある.一度発症すれば重篤な機能障害を残す可能性のある合併症であり,砕石位を取る際には十分な配慮をもって固定する必要がある.また,発症した際には早期に適切な対処が必要である.当手術室ではこれらの臨床経験から,砕石位手術の際に新たな基準を設定,導入しており,導入後は同様の合併症は認めていない.それら詳細も含めて報告する.
著者
KUSAMA Kazushige NOZU Fumihiko AWAI Toshinari TANAKA Shigeki HONMA Ikuo MITAMURA Keiji
出版者
昭和大学学士会
雑誌
The Showa University Journal of Medical Sciences (ISSN:09156380)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.109-117, 2003

We evaluated the role of the Rho effector, ROCK in caeruleininduced acute pancreatitis. To induce acute pancreatitis, caerulein, a CCK (Cholecystokinin) analogue was injected intraperitoneally (IP) every hour for six h, and ROCK-II specific inhibitor, Y-27632, was injected three times by IP 4.5, 6.5, and 8.5 h after the first injection of caerulein. The pancreatic weight ratio did not change significantly in response to either 20μg/kg caerulein alone or a combination of 20μg/kg caerulein and 3 or 30 mg/kg Y-27632. By 12 h after the IP injection of 20μg/kg caerulein and the combination 20μg/kg caerulein and 3 mg/kg Y-27632, the levels of serum amylase increased by 2- to 3-fold over the zero time level. The levels returned to normal by 24 h. Between 9 and 24 h after the combined injection of 20μg/kg caerulein and 30 mg/ kg Y-27632, the levels of serum amylase increased significantly by 5-fold over the zero time and recovered to normal levels by 168 h. Interstitial edema was observed 7 h after the initial IP injection but diminished by 168 h. Mild changes in vacuolization, cell infiltration, and necrosis were observed initially, although these conditions reverted to normal within 168 h. Our data suggest that ROCK-II mediates pancreatic enzyme secretion and prevents acute pancreatitis.
著者
東郷 実昌 中山 徹也 荒木 日出之助 鈴木 和幸
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.215-232, 1988

6歳児 (男子95名, 女子104名) が一部17歳になるまで毎年, 身体・骨盤外計測し, その子の出生時身長, 体重, 両親の身長を信頼できるアンケート方式で求め, 小児・思春期における体格別骨盤発育, 両親の身長とその子の身長・骨盤発育を検討した.1) 6歳時の身長のM±SDを基準にして大, 中, 小 (L, M, S) の3群に分け, その後の発育を検した.身長も骨盤もL, M, Sそれなりに平行して発育する.一方, その子の出生時身長, 体重, 親の身長も一部の例外を除けばすべてL, M, Sの順であった.2) 出生時の身長のM±SDを基準にしてL, S2群に分け, その子の発育を検すると, 男女ともLの出生時体重, 父母の身長はSのそれより有意に大きいが, 6歳以後の身長, 骨盤発育では男子はほとんどLとS間に有意差はないが, 女子では12~14歳ごろまでLの値はSの値より大きい.3) 父母の身長のM±SDを基準にして父母をそれぞれLとS2群に分け, その子の6歳~17歳までの身長, 骨盤発育を比較すると, 父と男子の組合わせではLとS間に有意差はないが, 父と女子, 母と男子, 母と女子の組合わせではLの子の身長, 骨盤はSの子のそれより有意に大きい.その関係は父より母, 男子より女子に著明である.4) 以上のことは両親と子の重回帰分析でも示唆された.すなわち, 9歳ころまでの男子の身長・骨盤発育は両親の身長因子に若干関与するにすぎないが, 女子の身長には17歳まで両親の身長因子が有意に関与し, 同じく女子のTrとExt にも14歳まで母の身長因子が, それ以後は父の身長因子が有意に関与する結果であった.以上のことより, 女子は骨盤発育の面でも男子より遺伝的に定められた体格素因を受け継ぐことが強いようである.
著者
高野 恵 佐藤 啓造 藤城 雅也 新免 奈津子 梅澤 宏亘 李 暁鵬 加藤 芳樹 堤 肇 伊澤 光 小室 歳信 勝又 義直
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.387-394, 2009-10-28 (Released:2011-05-20)
参考文献数
24

死後変化が進んだ死体において時に歯が長期にわたりピンク色に着染する現象が知られており,ピンク歯と呼ばれ,溺死や絞死でよく見られる.ピンク歯発現の成因として歯髄腔内での溶血により,ヘモグロビン(Hb)が象牙細管内に浸潤していくことが推測されているが,生成機序も退色機序も十分明らかになっていない.先行研究において実験的に作製したピンク歯では一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)や還元ヘモグロビン(HHb)によるピンク歯は6か月以上,色調が安定であったのに対し,酸素ヘモグロビン(O2Hb)によるピンク歯は2週間で褐色調を呈し,3週間で退色することを既に報告している.ピンク歯の生成・退色機序を解明するうえで,O2Hbによるピンク歯が早期に退色する現象を詳細に検討することは意義のあることと考えられる.う歯がなく,象牙細管がよく保たれた歯の多数入手が不可能であるため,本研究では象牙細管のモデルとして内径1mmのキャピラリーを用い,O2Hbによるピンク歯の退色について詳細に検討した.実際の歯とキャピラリーを用いてO2HbとCOHbの退色を比較したところ,キャピラリーはピンク歯のよいモデルとなることが分かった.キャピラリーを用いた詳細な実験で,O2Hbは酸素が十分存在し,赤血球膜も十分存在するという限られた条件において早期に退色することが明らかになった.このことはO2Hbに含まれる酸素が赤血球膜脂質と反応してHbの変性を来し,Hbの退色をもたらすことを示唆している.この退色は温度の影響をほとんど受けず,防腐剤の有無にも影響を受けなかった.死体では死後に組織で酸素が消費され,新たに供給されないので,極めて嫌気的な環境にあり,死後産生されたCOHbを少量含む主としてHHbによる長期的なピンク歯を生じやすいといえる.溺死体のような湿潤な環境で象牙細管へのHHbやCOHbの侵入と滞留があれば,ピンク歯はむしろ生じやすい現象といえるであろう.
著者
馬場 博康 宗近 宏次 古賀 靖 岩崎 統 高橋 久男
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.339-340, 1978

The typical radiological picture of ascariasis in the small intestine was demonstrated incidentally in a patient who came with abdominal tenderness.<BR>The small bowel follow through study after upper GI series is emphasized to be worth while on occassion.
著者
三橋 学 金丸 みつ子 田中 謙二 吉川 輝 稲垣 克記 久光 正 砂川 正隆 泉﨑 雅彦
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.483-491, 2019 (Released:2019-12-18)
参考文献数
14

延髄大縫線核のセロトニン(5-hydroxytryptamine, 5-HT)神経は,下行性疼痛抑制系として鎮痛作用を発揮する.一方で,痛みを増強させるという報告もあり,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の鎮痛薬としての使用が広まるなか,5-HTの疼痛制御に関する検討が必要である.近年,光遺伝学的手法によって大縫線核の5-HT神経を選択的に刺激することが可能になった.本研究では,5-HT系下行性疼痛抑制系の障害が示唆されている間欠的寒冷ストレス(intermittent cold stress, ICS)モデルのマウスを用い,光遺伝学的手法による大縫線核の5-HT神経の選択的刺激が鎮痛作用を発揮するか検討した.青色光照射で大縫線核の5-HT神経を刺激するため,光感受性チャネルを5-HT神経細胞に発現させた遺伝子改変マウス(Tph2-tTA::tetO-ChR2(C128S))に対し,大縫線核直上に光ファイバーを刺入,留置した.このマウスにICSを与えてICS群とし,青色光照射による大縫線核5-HT神経への刺激が疼痛閾値へ与える効果を行動学的手法で評価した.機械刺激性疼痛試験としてvon Frey test,熱刺激性疼痛試験としてHot plate testを用いた.対照群にはSham ICS処置を行った.ICS群とSham ICS処置によるマウス群を比較検討したところ,ICS処置はvon Frey testによる疼痛閾値を低下させた.しかし,遺伝子改変マウスに青色光照射で刺激をしても,von Frey testによる疼痛閾値の変化は認めなかった.一方, Hot plate testで疼痛閾値を評価すると,Sham ICS処置による疼痛閾値の変化とICS処置による疼痛閾値の変化に有意な差はなかった.しかし,曝露処置(ICS処置か,Sham ICS処置か)と時期(処置前か,処置後か)に関わらず,青色光照射で疼痛閾値が上昇した.つまり,ICS処置は,von Frey testによる疼痛閾値を低下させたが,Hot plate testによる疼痛閾値を変化させなかった.一方,青色光照射による大縫線核5-HT神経への刺激は,Hot plate testによる疼痛閾値を上昇させたが,von Frey testによる疼痛閾値を変化させなかった.以上より,大縫線核の5-HT神経への刺激は,熱刺激性疼痛に対する鎮痛作用を発揮した.一方,ICS処置で機械刺激性疼痛に対する疼痛閾値は低下したが,その機序に大縫線核の5-HT神経の積極的な関与は示唆されなかった.
著者
西見 愛里 磯﨑 健男 笠間 毅
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.126-134, 2018 (Released:2018-09-11)
参考文献数
25

A disintegrin and metalloprotease (ADAM) familyは組織障害や炎症反応において重要な役割を担っていると考えられている.ADAM-17はtumor necrosis factor (TNF)-αをsheddingする蛋白分解酵素として最初に発見された.今回,われわれは,自己免疫性炎症性筋疾患におけるADAM-17の発現と間質性肺炎での炎症における役割を検討した.自己免疫性炎症性筋疾患(多発性筋炎26名,皮膚筋炎34名,clinically amyopathic dermatomyositis (CADM) 10名)患者の血清中のADAM-17をenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)法にて測定した.そして,臨床所見や臨床データとの関連を検討した.さらに,免疫染色法を用いて,自己免疫性炎症性筋疾患患者の筋生検の組織上でのADAM-17の発現を確認した.自己免疫性炎症性筋疾患の血清中のADAM-17は,健常者(19名)の血清中のそれと比較し有意に高値であった(mean±SEM;1,048±312pg/ml and 36±18pg/ml,p<0.05).副腎皮質ステロイドand/or免疫抑制剤での加療後の患者血清中のADAM-17は,治療前の血清中のそれと比較し有意に減少していた(1,465±562pg/ml and 1,059±503pg/ml,p<0.01).ADAM-17はfractalkine/CX3CL1,CXCL16それぞれと有意に正の相関を認めた.また,間質性肺炎合併自己免疫性炎症性筋疾患患者(46名)の血清中のADAM-17は,間質性肺炎非合併自己免疫性炎症性筋疾患患者(24名)のそれと比較し有意に上昇していた(1,379±454pg/ml and 413±226pg/ml,p<0.05).さらに,自己免疫性炎症性筋疾患患者の筋生検組織にてADAM-17の発現を確認した.ADAM-17は自己免疫性炎症性筋疾患患者,特に間質性肺炎合併患者に発現しており,肺の線維化において何らかの役割を担っている可能性が示唆された.ADAM-17は間質性肺炎合併自己免疫性炎症性筋疾患において治療標的となり得る可能性がある.
著者
片桐 仁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.269-279, 1997

骨折治癒過程における骨形成因子および仮骨の役割は, 先人により種々の方法で検討され, 近年明らかにされつつある.今回我々は, 骨折治癒過程における仮骨の役割と機械的刺激の影響を知る目的で, まず雑種成犬の腸骨に骨欠損を作製し, その部位に生じた3週目の仮骨を摘出して, 同犬の大腿骨に作製した横骨折内に移植した.さらに横骨折内に腸骨から採取した海綿骨を移植したモデルを作製し, 横骨折のみのものをコントロールとした.それぞれにつき骨折治癒過程を組織学的に検討した.その結果, 骨折後2週ではコントロールが他の2群より骨癒合が進んでおりwoven boneの形成がみられた.海綿骨移植群では, 未吸収の移植骨の壊死骨様骨片が認められた.仮骨移植群では移植部の細胞数の減少と血管腔の形成が認められた.骨折後4週においてはコントロールではgap内はwoven boneでみたされていた.海綿骨移植群ではwoven boneの配列がコントロールより多様である傾向がみられた.仮骨移植群では他の2群に比べwoven bone形成は遅れていた.骨折後7週において, コントロールではwoven boneは規則的に配列していた.海綿骨移植群においてもwoven boneの配列に規則性が見え, 骨折線もほぼ消失していた.仮骨移植群では移植部はwoven boneで埋まっているがまだ規則性に乏しい所見であった.次にこれらの犬の大腿骨の横骨折モデル (コントロール, 仮骨移植群, 海綿骨移植群) に対し創外固定器を用いて適度な固定を3週間行い, 固定器本体部のtelescoping mechanismを利用して軸圧負荷を加え, 骨折後7週目で組織学的に観察した.コントロール, 海綿骨移植群ともに骨折線は消失しており, 骨癒合はほぼ完成しているようにみられた.仮骨移植群でも骨梁の骨長軸方向への配列が見え始めていた.以上の結果より, 1) 骨折治癒過程の進展は2週では, コントロール, 海綿骨移植, 仮骨移植の順に優位であるが, 4週以後ではコントロールと海綿骨移植はほぼ類似の経過であった.2) 骨癒合促進には骨形成因子そのものより血管進入によるものの影響が強いものと示唆された.3) 仮骨は軟骨形成能も骨形成能も有しており, 環境因子により大きく影響を受ける.適度な固定ならびに軸圧刺激により骨形成能が促進され, 間欠的軸圧刺激 (dynamization) は通常の骨折治癒過程, 海綿骨移植の場合と同様に骨成熟を促進させることが観察された.
著者
渡辺 誠 村上 雅彦 小沢 慶彰 五藤 哲 山崎 公靖 藤森 聡 大塚 耕司 青木 武士
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.647-651, 2015 (Released:2016-09-10)
参考文献数
18

炭水化物含有飲料水 (CD) の胃内容排出時間を超音波検査にて検討する.健康成人被験者4例 (男女各2例,平均年齢52歳) に対して,水,6.2% CD (ポカリスエット®),12.5% CD (100mlあたり6.3gのブドウ糖末を付加したポカリスエット®) を,中7日隔日で各々400ml全量摂取し,腹部超音波検査にて胃幽門部面積 (PA) を経時的に測定した.全例,各飲料水の摂取は可能であった.水では,45分で摂取前のPAと同等になった.6.2% CDでは60分で全例,摂取前のPAと同等になった.12.5% CDでは,4例中2例において摂取後60分で,また90分で残り2例も摂取前のPAと同等になった.健康成人被験者において,400mlの12.5% CDは,摂取後90分以内に胃から排泄された.全身麻酔導入2時間前までの12.5% CD摂取は可能であることが示唆された.
著者
岡本 太郎 武重 千冬
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-9, 1989

視覚は生後発生する感覚であることは視覚領における視覚ニューロン活動の生後の発達が閉眼の影響をうける事から知られている.視覚の発達には視覚領のみならず, これを認識する過程の発達を無視することは出来ない.視覚の誘発電位を指標とすると, 視覚領における第1次の誘発電位と, これを認識する過程に関係する第2次の誘発電位から, 両者の発達の過程を別々に経日的に検索することが可能である.本研究は誘発電位から視覚発達の過程を検討した.視覚誘発電位 (visual evoked potential, VEP) は生後間もない仔ネコを用いて, ヒトの脳波誘導の10/20法の, Pz (頭頂極) およびInion (後頭極) に相当する部位から双極性に誘導し, 無麻酔, 無拘束の状態で、暗箱の上孔から閃光刺激を与えて誘起した.VEPは, 潜時100ms以下のものを第1次誘発電位, 潜時100ms以上のものを第2次誘発電位とした.第1次誘発電位は, 光刺激による特殊投射系を経た視覚領の誘発電位であるので, 視覚そのものの発達の指標となり, 第2次誘発電位は非特殊投射系を経た誘発電位であるので, 視覚の認識の発達に関する過程の指標となると考えられる.視覚の発達に決定的な影響を与える時期は, 視覚ニューロンの検索では生後4週の始めの数日にあると報じられているので, 生後3週の終わりを基準にして3種の閉眼を行った.すなわち, 生後1) 2-4週の問, 2) 4週以降から, 7週から11週までの間, 3) は1) と2) にまたがる2-6週までの間とした.第1次誘発電位は生後2.5週で初めて出現し, その後振幅を増し, 5週にはほぼ一定の振幅で出現して安定に維持された.これに反し, 第2次誘発電位は不安定で出現の有無も振幅も一定せず, この傾向は生後何れの時期においてもみられた.第1次誘発電位は, どの期間の閉眼によっても, 一時的に減少はしたが, 開眼後は徐々に回復し, 最終的には正常と同程度の振幅に復帰した.これに反して, 第2次誘発電位は閉眼と同時に出現しなくなったが, 1) と2) の閉眼では開眼すると徐々に回復し, やがては閉眼しなかった時と同じように出現するようになった.しかし, 3) の2-6週の閉眼では閉眼中はもとより, 開眼後も実験の期間中の開眼18週後まで全く出現しなかった.以上の結果から, 閉眼の効果は第1次誘発電位よりも第2次誘発電位の方に決定的な影響が現われ, かつ3) の閉眼が第2次誘発電位の発現の阻止に必須であることが明らかとなった.したがって仔ネコでは視覚認識の過程が視覚発達上極めて重要であることが示唆された.
著者
吉野 貴順
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.450-459, 1997-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
28

本研究の目的は, 間欠的に繰り返される短時間超最大運動のパフォーマンスに及ぼす重炭酸塩摂取の影響を検証し, あわせて血液における酸緩衝能力の低下と運動パフォーマンスとの関連性について検討することであった.400mlの水で溶解した0.2g/kgのNaHCO3 (NaHCO3試行) あるいは1gのNaCl (コントロール試行) 液摂取の1時間後, 6名の大学アイスホッケー選手が, 4分30秒間の休息期を挟んで, 30秒間のウィンゲート・テストを7回繰り返す実験運動を遂行した.運動パフォーマンス関連の変数は, 動輪1/2回転毎の電気信号から算出した.また, 肘前静脈より定期的に採取した血液から, pH, HCO3-および乳酸濃度を分析した.なお, 被験者は各試行を, 7日の間隔をおいて, クロス・オーバー法により行った.NaHCO3摂取の1時間後, pHおよびHCO3-濃度は摂取前およびコントロール試行と比較して有意に上昇した.NaHCO3試行における実験運動期中のpHおよびHCO3-濃度は, コントロール試行と比較して, より高い値で維持される傾向にあった.合計7回の運動で発揮された平均パワー (7.10±0.60vs7.70±0.28W/kg) は, コントロール試行と比較して, NaHCO3試行で有意に大きかった.これは, 主にNaHCO3試行における4, 6, 7回目の運動時の平均パワー, および5~7回目の運動時のピーク・パワーが, コントロール試行時の値を有意に上回ったことに由来する結果であった.一方, 各被験者ごとの△HCO3-濃度と△平均パワー, ならびに被験者全体としてみたpHおよびHCO3-濃度の減少量と平均パワーの減少量との間には, それぞれ統計的に有意な相関関係が観察された.また, それらの関係は指数関数的であり, pHおよびHCO3-濃度が, それぞれ0.20および15.0mM程度低下した付近からの, 平均パワーの減少が加速的に大きくなる傾向が観察された.両試行を比較すると, 血液pHおよびHCO3-濃度の, このレベルへの到達はNaHCO3試行において遅延されていた.そして, このことがNaHCO3試行における, 相対的により高いパワーでのATP供給を可能にし, 結果として実験運動期後半のパフォーマンスを有意に高めたものと考察された.以上のことから, 血液pHが7.20以下にまで低下するような状況では, 運動パフォーマンスの加速的な減少が生じることから, 間欠的に繰り返される短時間超最大運動においては, 運動前に重炭酸塩を摂取し, 血液における酸緩衝能力をより高いレベルに維持することによって, 運動パフォーマンスの向上がもたらされると結論された.
著者
福田 賢一郎 森川 健太郎 八木 正晴 土肥 謙二 村上 雅彦 小林 洋一 中島 靖浩 中村 元保 香月 姿乃 鈴木 恵輔 井上 元 柿 佑樹 前田 敦雄 加藤 晶人
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.58-68, 2020

患者に対する医療安全の確保は感染管理とともに病院における危機管理の骨格である.さらに病院評価としても院内の医療安全システムの構築が求められている.近年では予期せぬ院内急変への対応だけではなく,院内急変の予防に向けた取り組み(RRS:Rapid Response System)が注目されている.昭和大学病院および昭和大学付属東病院では緊急性に応じて院内急変プロトコールがいくつか存在する. RRS導入前における予期せぬ院内急変について,特に緊急性の最も高い緊急コード事例(コードブルー事例)について検討を行った.方法:2014年4月から2018年3月までの4年間にコードブルーの要請があった症例129例を対象として解析を行った.院内急変のうち入院患者は41.0%であり,その他が外来患者や患者家族・職員であった.平均年齢は63.6歳であった.心肺停止症例は26.4%であり,平均年齢は71.2歳であった.心肺停止症例の82.4%は入院患者であった.発生頻度は入院1,000人当たり4.36人であった.心肺停止患者のうち44%で蘇生に成功したが,神経機能が急変前まで改善した例は全心肺停止症例の20.6%のみであった.心拍再開までの時間が短い症例で神経機能予後は良好であった.昭和大学病院および昭和大学付属東病院では院内心肺停止の発生頻度は過去の報告よりは少ない傾向にあったが,今後の院内急変対応の課題としては院内心停止患者の救命率をより向上させること,さらには院内心停止発生率をさらに低下させるためRRSの導入を含めたシステムの構築が必要である.院内発生の心肺停止症例でも予後不良例は依然として存在している.したがって,院内急変あるいは院内心肺停止を予防することが将来的な病院の医療安全の確保の方策として極めて重要である.
著者
伊藤 桜子 小口 江美子 市村 菜奈 稲垣 貴惠 村山 舞
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.11-27, 2019

超高齢社会のわが国では,高齢者の筋力の維持・増進を図るため,多くの運動教室が開かれており,運動は継続してこそ介護予防効果が高まるとされている.小口が考案した音楽運動療法プログラム(以下GEMTOM(小口メソッド)とする)は,心身の状態を改善し,良好に維持するリハビリトレーニングや介護予防運動として活用され,音楽療法理論に基づく,主に椅子座位での体操を活用した運動療法により,機能改善効果を高めることが示唆されている.そこで今回は,小口メソッドを使用する地域の介護予防教室に参加する高齢者が,介護予防のための運動を継続するには,「楽しい」と思える運動を行うことが,1つの大切な要因であると考え,「運動する際に楽しいと感じる要因は何か」,「楽しみの度合いはどの程度か」「運動や音楽に対する意識はどうであるのか」等について調査し,運動継続との関連性について検討した.O区介護予防教室の音楽運動療法プログラムに,終了時まで継続参加した65歳〜90歳(平均年齢78.2±6.1歳)の男女12人を対象とし,3か月経過時(初心時)と9か月後の終了時点(継続時)にアンケート調査を実施し,その結果を比較検討した.運動の楽しさ得点と継続希望得点の2者間には,初心時(r=0.814,p=0.007),継続時(r=0.640,p=0.034)の両方において有意な相関があり,楽しさが増せば,継続希望も増すことが明らかとなった.また同参加者への別項目のアンケート調査から,初心時には仲間や音楽など精神的な要素を楽しいと感じ,一方,継続時には運動による身体的変化の自覚を楽しいと感じる傾向があり,楽しさの要因が初心時と継続時では異なる傾向を示した.さらにまた,同参加者への別項目のアンケート調査から,参加者は初心時より継続時において運動時の音楽の必要性をより強く感じる傾向を示し,運動に慣れていない初心時には,音楽は運動のリズムを取るのに必要だと感じ,運動に慣れた継続時には,音楽のリズムが運動をしやすくすると感じる傾向があった.これらの結果から,運動の苦手な高齢者に運動を継続させるためには,初心時から継続時まで参加者が「楽しい」と感じる要因が運動プログラムの中に存在することが必要であり,かつ運動指導者は,参加者の経時的に変化する楽しさの要因に合わせた「楽しさ」を提供する工夫が必要であることが示唆された.運動に音楽が加わることにより,参加者の楽しさが増すだけでなく,初心時に,音楽は参加者が運動のリズムを取るのを助け運動に慣れやすくし,継続時に,音楽のリズムは参加者に体を動かしやすいと感じさせる傾向があった.音楽と運動を同時に起用し,仲間と共に無理なく体を動かすGEMTOM(小口メソッド)は,楽しさや覚えやすさが継続性に繋がることから,参加者の心身の機能維持や機能改善に効果的である.加えて,音楽のメロディーやリズムは参加者の脳に働きかけて運動のリズムを取りやすくし運動になじませ,そしてまた,体を動かす刺激は脳にフィードバックされて音楽と呼応し体を動かしやすいと感じさせている可能性があることから,GEMTOM(小口メソッド)は,認知機能の衰えがみられる参加者や高齢者の介護予防には,より適した運動であることが示唆された.本研究の結論は以下である.①運動の楽しさと継続性には初心時,継続時ともに有意な相関が認められ,継続時に参加者の楽しさは増加していた.②運動継続には,参加者が「楽しい」と感じられる要因が必要であり,その要因は運動に慣れていく時間経過と共に変化する傾向があった.③高齢者の運動継続および介護予防効果の向上には,参加者の楽しさの要因となるものをプログラムに段階的に取り入れて提供することが重要であると考えられる.