著者
工藤 敏文 井上 芳徳 地引 政利 豊福 崇浩 横尾 聡 宮崎 英隆
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

末梢動脈疾患(PAD)がある患者の下肢の局所循環を評価することは重要である。PADは下肢切断も免れない重症虚血を招きやすく、このため血行再建を必要とするのか否かをある一定の基準から決定することが肝要である。本研究において、PAD、特に下腿・足部潰瘍が多く認められる重症虚血肢の局所(末梢)循環に対して、新たな局所(末梢)循環の計測法の開発およびより詳細なアンギオサムの解明を行った。
著者
仁科 博史
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012

Hippoシグナル伝達系は、近年、発生・分化・器官サイズ・癌の発症進展を制御することが明らかにされ、国内外から急速に注目されている。本研究では、hydrodynamictailveininjection(HTVi)法という簡便に肝臓特異的に遺伝子を導入する方法を用いて、Hippo系主要標的転写共役因子YAPの活性のgainoffunctionによる肝癌誘発状態を作り出し、マイクロアレイ解析によって、マウス肝臓での転写情報を解析することを目的とした。その結果、1)効率の良い肝癌誘発系の確立に成功した。また、2)cDNAマイクロアレイによる発現解析を行い、YAPによって発現が亢進する遺伝子を約20種類同定することに成功した。ヒト肝癌発症のメカニズム解明に貢献する研究成果であると考えられる。
著者
岡澤 均 田川 一彦 田村 拓也 戚 美玲 伊藤 日加瑠 塩飽 裕紀 榎戸 靖 曽根 雅紀
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

私たちはフェノタイプおよび病態解析に有用で薬剤開発にも利用出来る複合的モデルシステムを戦略的に開発した。細胞モデル、ショウジョウバエモデル、マウスモデルで構成される複合的システムは、オミックス解析と組み合わせることで多くの結果を生み出すことが出来た。私たちは、新規病態としてDNA損傷修復障害を明らかにし、さらにHMGB, Ku70, Hsp70, Omi, Maxerなどの主要分子を発見した。さらに、この解析システムを用いた薬剤スクリーニングで候補薬剤を同定した。
著者
黒須 哲也
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

BCL6遺伝子の異常発現をもたらす染色体転座や発現調節領域の点突然変異は、悪性リンパ腫の遺伝子異常の中でも最も高頻度に認められ、悪性リンパ腫の発症や進展に重要な意義を有すると考えられている。悪性リンパ腫におけるBCL6遺伝子発現異常の意義を明らかにするため、リンパ腫細胞株にBCL6を誘導的に過剰発現する系を構築し検討を行った。BCL6の過剰発現は、血清除去や抗癌剤処理等の各種ストレスによる活性酸素種(ROS)産生の抑制と、ミトコンドリア膜電位(ΔΨ_m)低下の抑制とを介してアポトーシスを抑制する事を見いだした。この研究をさらに進める過程において、p38がVP16等の抗癌剤刺激により活性化され,G2/M期の進行に重要な役割を果たすCdc2の機能を抑制することで、G2期での細胞周期停止を誘導しアポトーシスを抑制する役割を悪性リンパ腫細胞において果たしていることを新たに見いだし発表した。p38は種々の腫瘍細胞において抗癌剤処理時に活性化され、細胞周期停止やアポトーシスの誘導制御に関与することが報告されており、予後や化学療法における反応性を予測できる可能性がある。またp38阻害剤およびウイルスベクター等を用いたp38を分子標的とした治療応用の可能性が示唆され今後さらに検討を行いたい。BCL6遺伝子に関しては、胚中心由来B細胞リンパ腫においてアセチル化されることにより不活化されることが認められ、悪性リンパ腫において脱アセチル化酵素阻害剤の使用が抗癌剤の感受性を高め治療効果の向上に応用可能であることが推察されている。
著者
橋本 裕
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本プロジェクトでは、胃がんにおいて異常DNAメチル化により発現が低下している複数のmiRNAが、がん関連遺伝子発現制御を協力的に行っているかどうかを調べる事を目的とした研究を行った。解析の結果、dihydropyrimidinase-like 2(DPYSL2/CRMP2)遺伝子が胃がんで発現増加し、miR-224クラスター(miR-224/452)がDPYSL2を含めた複数の標的遺伝子の発現制御に関与している事がわかった。またmiR-224クラスターはDNAメチル化により発現低下することを明らかにした。さらに原発性胃がん組織においてmiR-224のメチル化はDPYSL2の発現増加に寄与し、DPYSL2は胃がんにおいて細胞増殖に関連するがん関連遺伝子である事を示した。一方、miR-340/181cも同様にDNAメチル化により発現低下し、協力的に複数の癌関連遺伝子の発現調節を行っていることを示した。また胃がん細胞の増殖抑制に関与する可能性も示した。以上より、エピジェネティックな発現制御を受けているmiRNAは協力的に標的遺伝子を発現調節している可能性が高く、胃がんにおいて、複数のmiRNA発現低下は癌関連遺伝子の発現増加に大きく影響する事が推測される。さらに、このようなmiRNAの発現調節機構の研究は胃がんの発症機構解明並びに、新規治療薬の開発にも役立つと考えられる。以上の内容は原著論文として2013年5月、国際学術誌PLoS Oneに掲載された。また、昨年度はスペイン・ベルビッチェバイオメディカル研究所にてDr.Manel Estellerのグループと共同研究を行った。大腸がんにおいて異常脱メチル化により発現低下する長鎖非コードRNA(1ncRNA)を探索したところ、ヒトがんで発現異常が報告されているmiRNA(仮称:miR-Y)の発現と相関する1ncRNA(仮称:lnc-X)を見つけた。さらにlnc-Xは原発性ヒト大腸がん組織だけでなく、肝がん組織においても高頻度のがん特異的メチル化が検出された。これまでのところmiR-Yの発現は様々ながんで発現低下が報告されているものの、その発現調節機構については不明な点が多く、今後はmiR-Yの調節制御にlnc-Xが関与している事を明らかにするつもりである.
著者
古川 哲史
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

薬物の心毒性は、創薬の開発中止・市販薬のリコールの重要な原因となっており、そのアッセイ系、特に開発早期段階のin vitroアッセイ系の確立は製薬業界から大きな期待が寄せられている。今回、多電極アレイ(MEA)システムとソニー株式会社が開発した動くベクトル(MVP)法を用いて、心筋細胞の電気活動と収縮能を同時にアッセイするシステムを構築した。ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて、陽性・陰性変力作用をもつ既存薬の作用を高精度にアッセイできることを確認した。最近抗がん剤の心毒性が問題となっているが、同心毒性をin vitroでアッセイすることができた。
著者
中嶋 省志
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

商品名サホライドには優れた根面う蝕予防効果が認められている。しかし根面や歯肉が黒くなるという審美的問題があり。本研究では黒くならない根面う蝕の予防剤(象牙質ミネラルの脱灰抑制とコラーゲン分解の抑制)の開発に繋がる探索研究を行った。その結果、フッ化亜鉛に最少量の塩酸を加えた溶液に、サホライドの濃度の約1/5という低濃度フッ素にもかかわらず、これと同等レベルの脱灰抑制効果を認めた。また処置面で着色は認められなかった。一方、コラーゲンの分解抑制効果に関しては、サホライドに匹敵するような十分な効果は得られなかったが、今後、より高い濃度での評価や塗布方法を改良することでこの目標を達成したい。
著者
星合 泰治
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

我々はモード解析を用いて、金属床上顎顎義歯にはチタン床が最適であると報告した。しかし、まだ異なる支台装置が設置された金属床上顎顎義歯を装着した上顎欠損患者における上顎歯列の振動特性の比較検討は十分に行われていない。本研究は、間接支台装置の設計に着目し、金属床上顎顎義歯の最適設計を明らかにすることを目的とした。研究の結果、モード解析の観点から上顎前歯に設置した間接支台装置は歯列に加わった振動を止めやすくして変位量の大きさも小さく抑えることから、間接支台装置は金属床上顎顎義歯において重要な設計である可能性が高いことが示唆された。今後は症例数を増やし、さらなる検討を行う必要がある。
著者
西條 美佐 菅波 孝祥
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

Glycosylation-inhibiting factor (GIF)はCD4T細胞内で活性化・分泌され、CD4細胞がサイトカインIL-4を分泌するTh2細胞への分化を阻止する分子であることを明らかにしてきた。アレルギーにおいて重要な杯中心(germinal center)においてGIFが濾胞性ヘルパーT細胞への分化・産生とIL-4の分泌を制御し、T細胞依存性抗体IgEの産生を抑制することを明らかにした。GIFのレセプターの候補遺伝子を同定した。我々はさらにGIFにagonisticな抗体を作製し、IL-4の分泌とIgE抗体の産生を阻止するアレルギーの創薬に発展する予定である。
著者
山口 朗 勝部 憲一 坂本 啓
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究では種々の魚類、両生類、爬虫類、哺乳類の骨格を解析することにより、"軟骨内骨化部は脊椎動物が上陸して獲得したカルシウム貯蔵庫である"という我々の仮説を検証し、脊椎動物の進化における骨格形成の変遷に関する研究の端緒を開くことを目的とした。本研究の推進により以下の結果を得た。1.カエルの後鰓体(カルシトニンを分泌する器官)を除去すると傍脊椎石灰嚢(脊椎周囲にみられる炭酸カルシゥムからなる石灰化物で骨とは異なるカエル特有の骨組織)の石灰化物が急激に減少することが知られている。もし、カエルの骨組織がカルシウムの貯蔵庫として機能しているのならば、後鰓体除去により骨組織の吸収像が碓認できるという仮説のもとで、トノサマガエルの後鰓体を除去し、その後の骨組織の吸収像を走査電子顕微鏡により解析した。その結果、後鰓体除去を行なったカエルの大腿骨表面における吸収窩は偽手術を行なったカエルと有意な変化が認められなかった。また、後鰓体除去を行なったカエルにカルシトニンを投与して場合の吸収窩も偽手術を行なったカエルと有意な差が認められなかったこれらの結果より、カエルの骨組織はカルシウムの貯蔵庫として機能していないことが示唆された。2.哺乳類の骨組織がカルシウムの貯蔵庫として機能しているのかを確認するために、8週齢ラットを正常食または低カルシム食で飼育し、マイクロCTで骨組織の動態を解析した。その結果、低カルシム食で飼育3日目のラット大腿骨の軟骨内骨化部の骨量は正常食飼育ラットに比べて有意に低下していることが明らかとなった。この結果は、哺乳類で軟骨内骨化部がカルシウムの貯蔵庫として機能していることを示している。以上の結果より、カエルの骨組織はカルシウム貯蔵庫としては重要機能を担っていないが、哺乳類の骨組織、特に軟骨内骨化部はカルシウム貯蔵庫として重要な機能を担っていると考えられた。
著者
鵜澤 成一 水島 洋 大山 厳雄 柚木 泰広
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

「ゲノム不安定性」は、ほとんどのヒト悪性腫瘍において、認められている異常であるが、その状況の評価方法や基準が明確ではなく、同一患者に発生した腫瘍内の部位による「ゲノム不安定性」の相違や、個別の腫瘍間における比較が困難な状況である。そこで、本研究では、口腔癌を対象に、ゲノム不安定性の評価方法および評価基準の設定を試みた。その結果、FISHにより、いくつかの染色体のコピー数を評価することにより、症例ごとのゲノム不安定性の程度を評価することが可能であることを示せた。
著者
朴 今花
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

様々なバックグランドを持つ血液腫瘍細胞株をもちいてPARP阻害剤に対する感受性を検討した。その結果、リンパ系腫瘍細胞株が骨髄系腫瘍細胞株に対して比較的高感受性を示すことが明らかとなった。中でもE2A-PBX1、 E2A-HLFを発現する細胞株はPARP阻害剤に対して高感受性を示した。そのメカニズムとしてE2A-PBX1、 E2A-HLFが発現することによりHRの活性が低下し、PARP阻害剤に対して高感受性を示すと考えられた。E2A-HLF陽性白血病は治療抵抗性を示す代表的な急性リンパ性白血病であり、PARP阻害剤がその新しい治療法選択肢の一つとなりうる可能性が示唆された。
著者
清水 チエ 大山 篤
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

歯科研修医の医療事故防止をはかる目的で、平成17年度と18年度第2年次研修医101名(男性31名、女性70名)に対し、医療事故の実態を把握し、4種の心理テストSDS,CMI,MAS,STAIによる心理的特性を分析した。1)研修医の医療事故等に関する年間集計アクシデント(医療事故)は、平成17年度26.5%、平成18年度は19.2%の研修医が経験ありと報告した。内訳は、切削器具による口腔内の損傷が6件、治療終了後または根管治療中に気分が悪くなった例が4件、その他の順であった。医療事故により後遺症の残った患者はいなかった。ニアミス(ヒヤリ・ハット)の経験は、平成17年度が69.4%、平成18年度は75.0%であった。最も多い順から、バーの着脱が31件、タービン・バーによる損傷が17件、その他の順であった(いずれも複数回答)。2)心理的特性の分析SDSでは63.0%の者が抑うつ傾向のない正常領城で、中等度以上の抑うつ傾向を有する者は4.0%にみられた。CMIでは87.6%の者が神経症傾向のない正常領域であり、IV領域の者は2.0%であった。MASでは72.0%の者には自覚しうる顕在性の不安傾向がなかった。STAIでは、37.9%の者の特性不安が高かった。4種の心理テストにおける医療事故あり群と医療事故なし群との間には、ほとんど有意差があるとはいえなかった。これらの傾向については、医療事故あり群の数が少ないため、今後も事例を集積して慎重に検討していくことが大切である。
著者
澁谷 治男 渡辺 明子 融 道男
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

パニック障害におけるコレシトキニン(CCK)の関与が、とりわけCCKB受容体の関与が推察される。その根拠としては、(1)CCKB受容体アゴニストを投与すると健康人、パニック障害患者で通常の発作に非常によく似たパニック発作を誘発し、その誘発率は患者群で高い。(2)CCKB受容体アンタゴニストをラットやサルに投与すると抗不安作用を示す。(3)パニック障害患者では脳脊髄液に含まれるCCK8が減少している。(4)in vitroの研究でパニック障害患者のリンパ球をCCK4で刺激すると細胞内Caの増加は健常人の場合より大きい。(5)第1度親族のパニック障害罹病危険率は健常人が0.9%であるのに対してパニック障害患者では13.2%、女性の発現率は男性の2倍であるなど遺伝要因が大きく関与する疾患である。このような所見はパニック障害がCCKB受容体の機能亢進にもとずく病態であることを推察させる。そこで本研究ではパニック障害患者のCCKB受容体遺伝子をセカンドメッセンジャ系に直接関与する細胞内第3ループを重点的に遺伝子解析を行った。解析に用いたパニック障害患者81人(男性41人、女性40人)である。血液10mlからDNA抽出キットを用いてDNAを得た。CCKB受容体のエクソン2、3、4の各部位のついてそれぞれオリゴヌクレトチドプライマーを設計しPCRを行った。PCR産物は1.5%アガロースゲルを用いた電気泳動によって増幅を確認した。PCR産物はフロムフェノールブルーおよびキシレンシアノールを含む色素バッファーにて2-5倍に希釈し、95Cで5分間の熱変性の後、直ちに氷冷し、アクリルアミドゲルにアプライした。4Cあるいは18Cの2条件で電気泳動を行った後、アクリルアミドゲルに銀染色を行いバンドを検出した。その結果、SSCPによってエクソン2において2例、エクソン3で9例、エクソン4で3例にバンドシフトを認めた。すなわち、これらの部位でのDNA塩基配列の違いがあることを示唆しており、今後ダイレクトシークエンス法によってゲノムDNAの塩基置換を検索する予定である。さらに変異のある遺伝子頻度をパニック障害者と健常対象者と比較検討する予定である。
著者
内堀 真弓 浅野 美知恵 山崎 智子 本田 彰子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、糖尿病足病変ハイリスク患者が自分らしく健康的な生活を維持することを目指した合併症重症化予防のためのセルフモニタリング機能を促進する看護支援プログラム考案を目的としたものである。まず、セルフモニタリングを促進する要素を抽出するため、糖尿病足病変ハイリスク患者を対象に、セルフモニタリングの実際を調査した。さらにフットケア外来に専従する看護師を対象に、フットケア外来での実施状況や支援内容についての全国調査を実施した。これらの結果からセルフモニタリング機能促進の主要要素を抽出し、看護支援プログラムを考案し、フットケア外来に通院中の糖尿病患者に本プログラムに基づく支援を実施した。
著者
竹内 崇
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、現在おもに使用されているドーパミンーセロトニン受容体遮断薬の非定型抗精神病薬によっても十分に改善しない、陰性症状・認知機能低下などに対し、NMDA受容体グリシン結合部位アゴニストとして作用するD-サイクロセリンの臨床応用の可能性を検討することを目的としている。D-サイクロセリンはすでに本邦では抗結核薬として承認されており身体的安全性のデータの蓄積はあるが、脳内の薬物動態の解析についてはほとんど解析されていない。本年度は、陰性症状を主体とする統合失調症患者に対して、6週間のクロスオーバーによるD-サイクロセリンおよびplaceboを経口投与する二重盲検法の臨床試験を開始した。各種臨床評価尺度をもちいて、平成16、17年度に評価者間のばらつきを検討した評価尺度を使って症状改善度を評価すると同時に、最終評価後に統合失調症の難治性症状に対する有用性と有効血中濃度を検討するため、D-サイクロセリン血中濃度測定用の採血を行った。また、投与開始前に拡散テンソル画像を含むMRI検査を施行し、統合失調症患者の脳の形態およびMRIシグナルの特徴について、D-サイクロセリンの臨床効果を予測する指標としての可能性を調べている。現在のところ臨床試験を開始した統合失調症患者の症例数が少数であるため、陰性症状・認知機能低下に対するD-サイクロセリンの有用性に関して結論には至っていない。今後は症例数を重ねて解析を継続していく予定である。一方、動物実験において、内側前頭葉皮質における、内在性NMDA受容体コアゴニストのD-セリンの細胞外液中濃度に対するD-サイクロセリンの影響を調べた。さらに、この相互作用の分子機序を知るため、大脳皮質初代培養系細胞の準備を進めた。
著者
川澄 みゆり
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、Sox17-GFPノックインノックアウトマウス(Sox17-GFPマウス)を用いてSox17の子宮における発現パターンや着床への影響について解析を行った。Sox17-GFPマウスではメス出産時の産仔数が減少する傾向にあった。そこで、まずはその原因が胚側、母側のどちらにあるのかを検討した。その結果、排卵および受精、in vitroでの胚発生は野生型由来と差が見られなかったにも関わらず、交配後6.5dpcで着床状態を確認したところ、Sox17-GFPメスマウスでは野生型に比べて着床数が減少した。また着床前胚の免疫蛍光染色の結果、Sox17は野生型と比較してその発現に差は観察されなかった。これらのことから、Sox17-GFPマウスで産仔数が減少する原因は胚ではなく母側にあり、着床の過程で何らかの異常が生じている可能性が高いことを見いだした。さらに母側の子宮において、Sox17の発現はプロゲステロン産生時期に関わらず子宮内膜に強く発現していることを確認し、続けて胚が子宮に着床する瞬間の解析を進めている。またSox17が子宮での着床時に機能しているのかどうかをより詳細に解析するため、子宮特異的にSox17を欠損するコンディショナルノックアウトマウスの作成も進め、Sox17floxマウスをプロゲステロン受容体Creマウスと交配し、Sox17子宮特異的欠損マウスを作成した。Sox17の機能相補が予想されるSox7についても同様に欠損させるため、Sox7floxES細胞を購入し、ESインジェクションによりキメラマウスの作成を行った。着床、妊娠の過程におけるSox17の役割の解明を目指し、着床および妊娠維持の機構を明らかにすることは、マウスでの体外受精の着床率の向上・安定が望め、また着床率の向上と安定はヒト不妊治療への応用も期待できることから、臨床的にも意義のある研究と言える。
著者
福岡 豊
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は「ニューラルネットを用いることによって生体信号からストレスの客観的評価が可能であることをラットの拘束水浸ストレス負荷実験によって示すこと」であった.ストレス負荷の際は、ラットを3群に分け、それぞれのストレス負荷時間を0(対照群)、2時間、6時間とした。4週間にわたってストレスを負荷した後に,ニューラルネットの入力信号用として心電図,血圧,直腸温を記録した。その後、副腎および胸腺重量を計測し、これらの値から5層砂時計型ニューラルネットによりストレス指標を算出した。3層ニューラルネットにこの指標を与えて学習を行い、学習用とは別のラットから記録した評価用データを入力したときに,どの程度の推定精度が得られるかを検討した.また、心電図、血圧、直腸温をどのように組み合わせて入力した場合に、高い推定精度が得られるかを検討した。その結果・ストレスを負荷したラットと負荷しないラットでは、副腎・胸腺の重量が異なること(ただし、2時間と6時間の群では有意な差が認められなかった。この理由により、対照群と6時間負荷群のみの比較を行うこととした。)・上記の生理指標から算出したストレス評価値が有意(危険率0.1%以下)に異なること・ニューラルネットにより生体信号とストレス評価値の対応付けが可能であること・心電図のRR間隔の変動のみを用いるだけで、高い推定精度が得られること・未学習データに対しても良好な推定結果が得られることを確認し、ニューラルネットを用いることにより生体信号によるストレスの客観的評価が可能であることを示した。