著者
田中 光一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

成人の脳では、γ-アミノ酪酸(GABA)はGABA_A受容体に結合し、神経細胞を過分極する抑制性神経伝達物質として知られている。しかし、幼弱な脳、あるいは成人の脳でも視交叉上核、外傷後の神経細胞に対しては、脱分極作用を示し、興奮性神経伝達物質として働くことが知られている。このGABAの持つ脱分極作用は、神経系の発達、概日リズムの形成、外傷後の脳損傷および回復過程になんらかの役割を果たしていると考えられているが、その機能的役割は不明である。最近、GABAにより脱分極する神経細胞には、Cl^-を細胞外へ汲み出すK^+-Cl^-共輸送体(KCC2)が発現していないため、細胞内Cl^-濃度が高く保たれ、Cl^-の平衡電位が静止膜電位より脱分極側にシフトしていることが示された。本研究では、K^+-Cl^-共輸送体を過剰発現させることにより、細胞内Cl^-濃度を制御し、GABAの脱分極作用のみを抑制するマウスを作成し、いままで全く実験的証拠のなかったGABAの神経興奮性作用の機能的役割を個体レベルで解明する。本年度は、平成13年度に作成した生後直後からK^+-Cl^-共輸送体(KCC2)を過剰発現しているマウスの表現型を解析した。KCC2過剰発現マウスは,野生型に比べ、自発運動量の低下が観察された。また、概日リズムの光による同調能にも異常が観察された。現在これらの表現型が、KCC2を過剰発現させたことによる抑制性ニューロンの抑制能の増強によるものかどうか、形態学的、電気生理学的により詳細な解析を進めているところである。
著者
吉田 明日香
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年、歯周炎は、循環器疾患のリスクとなる可能性があることが報告されてきた。我々は以前、基礎実験から、特定の歯周病原細菌感染が圧負荷心肥大、心臓の間質の線維化、血管周囲組織の線維化を促進し、心機能を低下させ、炎症性マーカーの発現を亢進させることを明らかにした。本研究の目的は、実験的モデルマウスを用い、歯周病原細菌感染が心肥大に与える影響とその機序を検討することとした。結果として、他の特定の歯周病原細菌感染によって心臓肥大を悪化させてしまうことと、特定の細胞表面に存在するタンパク質受容体を介して、心臓の間質の線維化の抑制と、炎症性マーカーの発現の抑制が起こることを明らかにした。
著者
竹内 康雄 坂本 光央 小柳 達郎
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

インプラント周囲炎は歯周炎と類似した臨床症状を呈するが、本研究の結果、その原因となる細菌叢の構成は2つの疾患で異なることが明らかになった。歯周病に関連が深いとされる歯周病原細菌の検出率は、インプラント周囲炎部位では必ずしも高くなく、一方でDialister spp.、Eubacterium spp.、Peptostreptococcusspp.は高い割合で検出された。インプラント周囲炎を治療する上での細菌学的な治療のターゲットは歯周病のそれとは違う可能性がある。
著者
平田 結喜緒 七里 眞義
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

糖質ステロイド(GC)や非ステロイド性消炎剤(NSAID)は炎症や免疫を抑制する薬剤として広く臨床的に用いられている。しかしGCやNSAIDの作用機序については不明な点が多く、血管での誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現に対する効果も未知である。そこで培養ラット血管平滑筋細胞(VSMC)を用いて炎症性サイトカイン(IL-1,TNF-α)によるiNOS発現とNO生成に及ぼすGCとNSAIDの作用を分子レベルで解析した。デキタメタゾン(DEX)とNSAID(アスピリン、サルチル酸)はいずれもIL-1やTNF-αによるNO生成を著明に抑制した。DEXはサイトカインによるiNOS遺伝子の発現を抑制し、この作用はIkBのリン酸化と分解を抑制する結果、NF-kBの活性化を阻止することによることが明らかとなった。一方アスピリンやサルチル酸はNF-kBの活性化やiNOS遺伝子の発現には影響を与えなかったが、iNOS蛋白の発現を抑制した。またアスピリンは直接iNOSの酵素活性を抑制したが、DEXやサルチル酸は無効であった。したがって血管平滑筋では炎症性サイトカインによるNO生成に対してGCとNSAIDの抑制機序の作用点が異なっており、GCはiNOSの転写レベルで、NSAIDは翻訳あるいは翻訳後レベルで阻害していることが明らかとなった。これらの成績は敗血症性ショックや動脈硬化性血管病変における炎症性メディエーターとしてのiNOS由来NOの治療戦略を考える上で重要である。
著者
水野 朋子 今井 耕輔
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

脊髄性筋萎縮症(Spinal muscular atrophy:以下SMA)は脊髄前角細胞の変性によって、進行性に筋萎縮、筋力低下を呈する疾患である。I型が最も重症で頻度が高く、生後半年までに発症しほぼ寝たきりとなる。SMAの責任遺伝子はSMN1遺伝子であり、SMN1の両アレルの欠失あるいは変異により発症する。SMAは従来根本的な治療法のない疾患であったが、2017年より本邦において核酸医薬品が発売され、有効性が確認されている。予後改善のためには早期診断・治療が重要なため、濾紙血を用いSMN1コピー数を測定するSMA診断法を確立し、新生児マススクリーニングを行うことを目的とする。
著者
小野 卓史 細道 純 渡 一平 誉田 栄一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

口呼吸患者は、口腔内乾燥とともに味覚の異常をしばしば訴える。口呼吸による睡眠呼吸障害が神経系の発育障害および機能障害を惹起することが知られているが、これまで口呼吸に伴う味覚障害の機序について検討された報告はなく、口呼吸が味覚情報処理機構に及ぼす影響やその経路については未知である。本研究では、口呼吸の味覚障害への関与を明らかにすることを目的に、口呼吸患者を対象とした臨床調査および動物モデルを用いた基礎研究を実施する。臨床調査により、慢性口呼吸者における味覚閾値の上昇が生じ、片側鼻閉ラットでは、舌味覚受容体の退行性変化が認められた。したがって、呼吸障害が味覚機能に影響を与える可能性が示唆された。
著者
角田 忠信
出版者
東京医科歯科大学
巻号頁・発行日
1957

博士論文
著者
松尾 崇 山本 圭治郎
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は、フラクタル性を基盤にして、新葉、桜、紅葉などのパターンがどのようにヒトの感性に影響をおよぼすかを明らかにすることである。よって、四季の自然のパターンの写真撮影およびビデオ撮影を行った。写真撮影した2次元パターンに対しては、フラクタル性(自己相似性)を調べた結果、サクラの花、新葉、紅葉は、2桁の観測スケールでフラクタル性を持つ場合のあることが明らかになった。特に、それぞれ8点の写真から最も「美しい」と判断されたサクラの花、新葉、紅葉の写真は、広いスケールでフラクタル性をもつことが明らかになった。しかしながら、「美しさ」の判断には色彩の効果が強く、パターンの入り組み具合の効果(フラクタル性)は付加的に影響すると考えられた。上記の心理学的な方法に加えて、脳波による生理学的な感性評価を行うために、感性解析システムによる検査を試みた。脳波を、あらかじめ測定した感性スペクトルデータベース(怒り、悲しみ、喜び、リラックス)と比較することにより分析し、被験者の心理状態を定量的に評価した。いろいろな状況で測定した結果、円筒物体の握り安さの評価は、各個人の感性スペクトルデータベースを作成することにより評価可能であることが分かった。これを基に、自然界のパターンを被験者に見せ、脳波の特性を分析した。しかしながら、現在までのところ、フラクタルパターン特有の感性は見いだされていない。この理由の1つは、映像を見たり、音を聞いたりする時点で脳波に大きな変化があり、これがノイズとなってしまうことである。今後、測定環境、方法、脳波測定位置など条件をいろいろに変えて検討する予定である。
著者
伊角 彩
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2年目である今年度は、幼少期の被虐待経験によって生じる高齢者の医療コストの推計について、JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study; 日本老年学的評価研究)の2013年度調査データと調査協力自治体であるK市の前期高齢者における国民健康保険のレセプトデータを連結したデータを用いて、より正確な統計モデルを用いて再度分析を行った。その結果、高齢者の属性(年齢・性別)を考慮しても、いずれかの被虐待経験を持つ高齢者(N=176)は被虐待経験を持たない高齢者(N=802)に比べて、より多くの医療費がかかっていることが確認された。同様に各虐待の影響を検討したところ、心理的ネグレクトを幼少期に経験した高齢者の医療費は、属性(年齢・性別)を考慮しても、そうでない高齢者の医療費と比較して高くなる傾向にあった。身体的虐待と医療費については、高齢者の属性(年齢・性別)を考慮すると統計的に有意な関連が見られなくなった。家庭内暴力の目撃と心理的虐待については、被虐待群とそうでない群で医療費に有意な差が見られなかった。さらに、どのような疾患が医療費の増加に寄与しているかについても、虐待種類別に検討した。最後に、これらの結果をもとに、幼少期の被虐待経験によって生じる高齢期の年間医療コストが日本全体でいくらになるかについて推計を行い、幼少期の虐待が個人の健康に及ぼす長期的影響だけでなく、その影響が日本社会に及ぼす影響まで可視化することができた。
著者
櫛 泰典 六川 千秋
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成6、7年度分人ABO血液型を司るのはO型糖鎖を前駆体としてA型の人ではA型糖鎖を作るα1-3ガラクトサミン転移酵素、B型の人ではB型糖鎖を作るα1-3ガラクトース転移酵素の存在が知られ、その存在の有無が大きく関連している。この研究は人の赤血球のAB型の人の型活性糖脂質を詳細に調べたことによって得られた結論を基にして細胞表面のA型糖鎖、B型糖鎖発現をAB型の人ではどのように調節されているのか解明するためのアプローチで、以下の点を平成7年度に解明することを目的として研究を行った。1。AB型の人ではA型合成酵素とB型合成酵素の両方が存在し、O型糖鎖を基質として糖鎖の伸長を行うが分岐したO型糖鎖にA型糖鎖とB型糖鎖が結合したハイブリッド型の糖鎖が存在しないのか?2。しないとすればA型合成酵素とB型合成酵素は基質に対して親和性が異なるのか?あるいはA型合成酵素の局在とB型合成酵素の局在がGolgiで異なるのか?3。また、基質となる分岐型のO型糖鎖がGolgiでどのように存在するのか?を中心に研究を行い、以下の結果を得た。1、AB型の人の赤血球を個別に集め、これより糖脂質を抽出し、型活性を調べ、既に200例を増やしても糖脂質としては各々分子上に型活性糖鎖が結合していることが確認された。より簡便にするためにα1-3ガラクトサミン特異的レクチン(HP)を用いて酵素分解との組み合せも上記の結果を支持した。また、ハイブリッド型の糖鎖が存在しないか確認するためにいくつかの特異的糖鎖分解酵素とその後の薄層クロマトグラフィーでの免疫染色を行った結果、その様なハイブリッド構造を持つ分子は存在しないことが明かにされた。血液型物質が多量に含まれる小腸や大腸についても同様の結果を示した。4、A型赤血球膜より抗A抗体に反応するガングリオシド構造を明かにするために大量のA型赤血球膜を集め、これを出発材料としてガングリオシドを抽出、精製を行った。イオン交換クロマトグラフィーによってモノシアロ、ジシアロ画分に分離を行い、更に、モノシアロ画分を分離し、抗A抗体により、免疫染色を行うS-Iの下に数本の陽性バンドが検出され、その完全構造を解析した結果、新規のA型エビトープを一方に持ち、もう一方にはシアル酸が有する構造と思われる。現在その完全構造を検討している。
著者
武部 貴則
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

われわれは、マウス細胞とヒト細胞とを特定条件下で培養を行うことにより、マウスmRNAがヒト細胞に受け渡されていることを見出した。本研究では、われわれが世界で初めて発見した異なる細胞種間の直接接触を介したmRNAの伝搬機構の解明を通じて、細胞の運命を転換するための全く新たな細胞操作技術を構築する。今後、遺伝子編集を伴わない安全かつ安定な細胞を創出できるばかりか、未解明な細胞間相互作用に関わるさまざまな生命現象、例えば、正常幹細胞とニッチ間相互作用、ガンと間質間の相互作用など 、近年着目されている多細胞間相互作用に関する研究を全く新たな視点から切り込むための基盤原理へと昇華する可能性がある。
著者
鍔田 武志 RAJEWSKY Kla LEDERMAN Set CLARK Edward 近藤 滋 上阪 等 仲野 徹
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

我々は、濾胞性樹状細胞(FDC)やTリンパ球によるBリンパ球のプログラム死や分化の制御、とりわけ細胞間接触による制御の機構について検索を行った。活性化T細胞とB細胞が接触した際には、活性化T細胞上のCD40L分子がB細胞上のCD40分子と反応する。CD40を介するシグナルがB細胞の活性化や増殖、分化の際に重要な役割を果すことが示されていた。また、FDCがB細胞の生存や分化に何らかの役割を果たすことも示唆されていた。そこで、我々は、細胞株を用いて、T細胞やFDCとB細胞との反応を解析できる細胞系の確立を試みた。まず、我々は、T細胞株JarkatのCD40L陽性の変異株D1.1や可溶化CD40L分子、抗CD40抗体はいずれも、CD40を介してシグナルを伝達し、B細胞株の抗原レセプター架橋によるアポトーシス(プログラム死)を阻害することを明らかにした。また、これらCD40を介するシグナルはIL-4やTGF-βの存在下で、B細胞株CH12.LVのIgMからIgAへのクラススイッチを著明に誘導することを示し、さらに我々は、これらの刺激により非常に効率よくクラススイッチをおこすCH12.LVのサブクローンF3を得た。また、株化FDCと種々の株化B細胞を共培養し、FDCによるB細胞のプログラム死や分化の制御を検索したところ、B細胞株WEHI-231の抗原レセプター架橋によるアポトーシス(プログラム死)がFDCとの共培養により阻害されることを明らかにした。次に、以上の細胞系を用いて、FDCやT細胞によるB細胞のアポトーシスやクラススイッチの制御機構を解析した。まず、FDCによるWEHI-231のアポトーシス阻害の際には、FDCはCD40のリガンドを発現せず、また、LFA-1,ICAM-1,VCAM-1などの抗体ではFDCの作用を阻害できないので、CD40やこれらの接着分子を介さない経路によりWEHI-231のアポトーシスを阻害することが明らかとなった。また、WEHI-231ではCD40シグナルによりbcl-2やbcl-xといったアポトーシス阻害分子の発現が誘導されるが、FDCにはこのような作用はなく、CD40とは異なった機構でアポトーシスを阻害することが強く示唆された。FDCによるB細胞アポトーシス阻害に関与する分子を同定する目的で、WEHI-231やFDCに対するモノクローナル抗体を作成したが、B細胞アポトーシスの制御に関与する分子は同定できなかった。また我々は、CD40シグナルによるB細胞アポトーシス阻害の機構をWEHI-231を用いて検索した。まず、WEHI-231細胞においてCD40シグナルによりその発現が変化する遺伝子をdifferential displayにより同定することを試みた。しかしながら、differential displayの方法上の制約などのため、発現が大きく変化する遺伝子を同定することはできなかった。一方、我々は、WEHI-231の細胞周期回転の制御機構の研究から、CD40シグナルが細胞周期阻害分子p27^<Kip1>の発現を著明に阻害することを明らかにしていたが、p27^<Kip1>のアンチセンスオリゴによりp27^<Kip1>の発現を低下させると、WEHI-231の抗原レセプター架橋によるアポトーシスが阻害されることを明らかにし、p27^<Kip1>がCD40シグナルによるB細胞アポトーシスの制御で重要な標的分子であることを示した。また我々は、F3細胞を用いてCD40シグナルによるクラススイッチ誘導機構の解析を行った。まず、組み換えが起こる免疫グロブリンC領域の胚型転写とそのメチル化について検索したところ、脱メチル化の度合いとスイッチ組換えの起きる比率がきわめてよく相関していたが、胚型転写はスイッチとは相関しなかった。したがって、胚型転写は組換えとはあまり関係がなく、メチル化が組み換えの分子機構に何らかの関係があることが示唆された。さらに、CD40シグナルによる免疫グロブリンクラススイッチに関与する分子を同定する目的で、CD40Lなどで処理したF3細胞由来のcDNAと無処理のF3細胞のmRNAの間でサブトラクション法を行い、CD40Lなどの刺激で誘導される遺伝子を2つ単離した。現在、この遺伝子がクラススイッチに本当に関与しているか解析中である。
著者
岸田 晶夫 木村 剛 橋本 良秀 中村 奈緒子 舩本 誠一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

優れた生体適合性・生体機能性を有する脱細胞化生体組織を規範として、新しい生体材料である人工生体組織(Tissueoid:生体組織のようなもの)の概念を提唱し、その創製を通じてバイオマテリアルの設計概念および作製プロセスの獲得を目指した。脱細胞化組織の特性の要因のひとつとして生体組織の微細構造があることを見いだした。その要素をコラーゲンあるいは人工材料で作製した組織体に組み込み「Tissueoid」の開発概念を立証した。
著者
金兼 弘和
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

原発性免疫不全症(primary immunodeficiency disease: PID)は、先天的に免疫担当細胞に欠陥がある疾患の総称であり、障害される免疫担当細胞(例えば、好中球、T細胞、B細胞など)の種類や部位により300以上の疾患に分類される。臨床症状は易感染性のみならず、自己免疫疾患や悪性腫瘍も合併も高頻度であり、これらの合併症が前面にでるPIDも存在する。単一遺伝子病でありながら、臨床的多様性が広く、epigeneticな要因などが想定されているが、詳細は明らかではない。最近、腸内細菌叢がさまざまな疾患の病態に関わっていることが報告されているが、PIDの腸内細菌叢に関する研究はまだ多くない。本研究ではPIDでも自己免疫疾患の合併が多く、腸内細菌叢の異常を伴うことが予想される炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)の合併が多い疾患を対象とし、腸内細菌叢がPIDの病態にどのように関わっているかと明らかにする。本研究では家族性腸管ベーチェット病の原因として同定されたA20ハプロ不全症ならびにIBDを高頻度に合併するX連鎖リンパ増殖症候群2型であるXIAP欠損症を対象とした。両疾患はPIDのなかでも比較的稀であるが、当科はレファレンスラボであり、多数例の患者をフォローしており、信頼性のあるデータが得られる可能性が見込まれる。患者ならびに家族から同意を得て、患者本人ならずに同居家族から糞便を採取した。また造血細胞移植を受けたXIAP欠損症患者では移植後の検体も採取した。便からDNAを採取し、次世代シークエンサーを用いた腸内細菌叢の解析を行っているところである。
著者
沼野 藤夫 GRANDOS Juli PARK Y.B HOFFMAN Gray REYESーLOPEZ ペドロエー ROSENTHAL Ta ARNETT Frank MECHRA N.K. SHARMA B.K. PREEYACHIL C SUWANWELA Ni 角田 恒和 能勢 真人 松原 修 木村 彰方 長沢 俊彦 西村 泰治 CHARAOENWONGSE P. REYES-ROPEZ P.A. GRANDOSE J. PEDRO A Reye FRANK C Arne YACOV Itzcha N.K Mehra B.K Sharma NITAYA Suwan Y.B Park
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

高安動脈炎は非特異性血管炎であり、その成因は不明で、我国では難病の1つに指定されている。長年の研究の結果、この血管炎の発生に自己免疫機序の関与が示唆されるが、まだ十分解明されるまでには至っていない。本症は、臨床的にもいくつかの特徴が明らかにされており、(1)若年女性に多発し、(2)アジア諸国に多く、欧米に少ない種属差が知られている。我々は、本症の成因に遺伝要因の関与を想定し、現在までにHLA A24-B52-DR2のhaplotypeが本症患者に有意に高い頻度で出現していることを確認し、この事実がアジア諸国に多発する本症の謎と解きあかす鍵と考えられた。なぜならばB52の高い出現頻度を示しアジア諸国、アメリカインディアン、南米と本症の多発地域とが一致するからである。その後の検索で南米、韓国、インド等に於いても、本症患者にB-5 or B-52が有意に高い頻度を示すことが明らかにされてきている。そこで本症の病態につき国際研究を開始したが、この国際比較に於いていくつかの新しい事態が明らかにされた。その1つは、各国によって男女比が異なることである。我国では、女性が圧倒的に多い事実に対して西方にゆくに従って、その比率が減少し、イスラエル、トルコでほぼ6:4の割合までにゆくことである。もう1つは種属によりその臨床病態が異なり、我国では上行大動脈より大動脈弓部にかけての病変が多いのに対し、インド、タイ、南米(メキシコ、ペル-)ではむしろ腹部大動脈に病変が多いという差が明らかにされた。特にインド等では腹部大動脈に限局した患者もかなり認められた。このことから病態の分類に腹部大動脈の病変のみを含めた新しい体系を国際間で取り決め、この新分類に従った患者の実態を目下明らかにしつつある。このことはHLAの研究に於いても新たな展開を開かしめた。我々の研究に於いてHLA B-39の存在が健康日本人に比し有意に高い統計上の成績が得られたが、実数はわずか10名に満たぬ程であった為に放置しておいたが、そのDNAレベルの研究から、本症患者にのみ認められるB-39-2という新しいタイプの存在が発見された。そしてこのB-39は南米や東南アジア諸国に於いてはB-52より高い出現頻度を示しており、B-39と連鎖不平衡を示す遺伝要因が改めて注目されるようになっている。目下、各国に於いてB-39の出現頻度とその臨床病態との比較が新たなテーマとして取り上げられ、目下検討が成されつつある。このDNAレベルの解析は、各国より送ってもらった血液にて当大学で目下行いつつある。
著者
江藤 一洋 土田 信夫
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

組織切片上でmRNAの発現を観察できるin situ hybridization(以下ISH)法を確立し, 顎顔面の形態形成におけるoncogeneの発現と細胞の増殖, 文化, 細胞死との関連について解析することを目的とし実験を行ってきた.61年度は, 各種V-onc及びC-oncのDNA断片を分離精製し, このうち, H-ras, fas, masについて32P標識DNA断片をプローブとして, ラット胎仔, 胎盤組織切片に対しISHを行った. その結果すでに報告されている胎盤でのfasの発現が観察されたが, 各プローブに共通して胎仔膜等への非特異的吸着が見られた. この軽減のためmRNA(正鎖)と相補的RNA(逆鎖)を合成しプローブとすることにした. この利点として(1)mRNAとhybridizeしないプローブをRNA分解酵素で除去でき, 非特異的吸着が軽減されること, (2)正鎖をプローブとすればhybridizeしないので, negative controlとして特異的結合を検証できること, 等が挙げられる. そこで各種oncogene DNA断片について標識RNAをin vitroで合成可能なベクター(PGEM3,4)へ組み込み, 保存した.62年度は, このベクターより合成した35S標識RNAのうち細胞増殖期に発現の高いC-mycをプローブとしてマウス胎仔組織切片に対してISHを行ったが, 満足な結果が得られなかった. そこで技法の確立に重点を置き, 系を簡略化するためにmycを導入した腫瘍細胞に対してISHを実施した. 種々の条件を検討した結果, mycの発現をconstantに観察できるようになったが, 検出効率の上昇, 組織切片との相異などの問題が残されている. 今後顎顔面領域の発生過程をこのISH法を用いて観察し, ひいては唇裂, 口蓋裂の原因解明へのアプローチとして役立てる方向で進めていく予定で, 現在マウス胎仔組織, 特に顎顔面領域での各種oncogeneの発現を解析中である.
著者
江藤 一洋
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1986

哺乳類神経堤細胞の研究は、従来、in vivoの材料を用いた形態学的手法や、primary cultureなどによりなされてきたが、全胚培養法を導入することにより、より実験発生学的な研究が可能になりつつある。全胚培養法は、母体の因子を取り除いた状態で胚操作を行うことができ、また、発生段階を揃えて短時間の処理を行うことも可能であるため、発生学的研究にたいへん適した方法である。とくに、マウスを材料として用いることは、顔面形成に異常のあるミュータントを用いることもできるため、より有利であるといえる。62年度までは、主としてラットを用いて全胚培養法の基礎的な条件を検討してきたが、63年度においては、胎齢10日目からのマウス全胚培養法を用いて、以下のような化学的あるいは物理的処理を胎仔に加える実験を行った。1.サイトカラシンD(CD)による顔面形成の阻害妊娠10日目のマウス胎仔を、全胚培養下で150ng/mlのCDに2時間暴露したのち、通常の培養液に戻して24時間の培養を行い、顔の形成を観察したところ、CD処理の胎仔においては、17例中12例(70.4%)に顔の形成異常が認められた。処理群の胎仔鼻板上皮をローダミン-ファロイジン染色により観察すると、鼻板上皮のapical siteのアクチン線維束の部分的な断片化、すなわち分布の乱れが認められた。2.早期卵黄嚢膜開放による一次口蓋形成異常(口唇裂)の誘導卵黄嚢膜開放(OYS)は、全胚培養を行う上で必須の操作であるが、C/57BL/6マウスの場合、尾体節数8以下で行うと、口唇裂のみ100%誘導されることが分かった。OYSを早期に行って数時間経過した培養胎仔の癒合予定部位を走査電子顕微鏡により観察すると、正常発生でみられる微絨毛の消失が起きず、上皮細胞の表面は球形となり、また、球状物質も多く認められた。