- 著者
-
江藤 一洋
土田 信夫
- 出版者
- 東京医科歯科大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1986
組織切片上でmRNAの発現を観察できるin situ hybridization(以下ISH)法を確立し, 顎顔面の形態形成におけるoncogeneの発現と細胞の増殖, 文化, 細胞死との関連について解析することを目的とし実験を行ってきた.61年度は, 各種V-onc及びC-oncのDNA断片を分離精製し, このうち, H-ras, fas, masについて32P標識DNA断片をプローブとして, ラット胎仔, 胎盤組織切片に対しISHを行った. その結果すでに報告されている胎盤でのfasの発現が観察されたが, 各プローブに共通して胎仔膜等への非特異的吸着が見られた. この軽減のためmRNA(正鎖)と相補的RNA(逆鎖)を合成しプローブとすることにした. この利点として(1)mRNAとhybridizeしないプローブをRNA分解酵素で除去でき, 非特異的吸着が軽減されること, (2)正鎖をプローブとすればhybridizeしないので, negative controlとして特異的結合を検証できること, 等が挙げられる. そこで各種oncogene DNA断片について標識RNAをin vitroで合成可能なベクター(PGEM3,4)へ組み込み, 保存した.62年度は, このベクターより合成した35S標識RNAのうち細胞増殖期に発現の高いC-mycをプローブとしてマウス胎仔組織切片に対してISHを行ったが, 満足な結果が得られなかった. そこで技法の確立に重点を置き, 系を簡略化するためにmycを導入した腫瘍細胞に対してISHを実施した. 種々の条件を検討した結果, mycの発現をconstantに観察できるようになったが, 検出効率の上昇, 組織切片との相異などの問題が残されている. 今後顎顔面領域の発生過程をこのISH法を用いて観察し, ひいては唇裂, 口蓋裂の原因解明へのアプローチとして役立てる方向で進めていく予定で, 現在マウス胎仔組織, 特に顎顔面領域での各種oncogeneの発現を解析中である.