著者
永野 真理子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

全身疾患を有する患者に対して,緩和精神安定材を用いる静脈内鎮静法は有効であるが,薬剤静脈内投与の場合,過量投与や覚醒遅延などの問題が生ずることがある.最近では,緩和精神安定剤の拮抗薬フルマゼニルが市販されるようになった.これを有効に利用することは,静脈内鎮静法のリスクを低くするばかりではなく,患者の帰宅可能時間の短縮,帰宅時のさまざまな問題の解決にもつながる.フルマゼニルについては多くの研究があるが,実際の応用方法は,歯科麻酔領域での基準確立には未だ至っていない.また,フルマゼニルの副作用として,頭痛,興奮などの精神神経症状や血圧上昇,頻脈などの循環器系症状が知られている.本研究では,静脈内鎮静法をより安全に行なうためのフルマゼニル投与法の確立を目的とし,今回は虚血性心疾患を有する患者に対するフルマゼニルの投与を行なって投与後の循環器系副作用について検索した.虚血性心疾患を有する患者のうちミダゾラム(ドルミカム^<(8)>)による静脈内鎮静法を行う患者のうち,本研究に対しての充分な理解と承諾を得られた症例を対象とした.ドルミカム^<(8)>による静脈内鎮静法下治療終了後フルマゼニル(アニキセート^<(8)>)0.5mgを静脈内投与した.術中および術後2時間は,BP,ECGなどをモニタリングし,バイタルサインを記録,帰宅許可時にホルターECGを装着し,術後24時間のECG変化を記録した.なお,帰宅許可にあたっては,平衡機能計(1G06SP)を用いた重心動揺を測定、平衡機能回復をもって帰宅許可した.以上より,虚血性心疾患患者に対するフルマゼニル(アネキセート^<(8)>)0.5mg静脈内投与は,術後24時間心電図上では影響を及ぼさなかった.虚血性心疾患患者に対するフルマゼニル使用は,術後平衡機能回復時間を短縮させ帰宅時間を早くするのみならず,安全に使用できると考えられた.今後は,症例数を増やし,安全な投与方法についてさらに多方向から研究する予定である.
著者
大山 喬史 森本 俊文 河野 正司 片山 芳文 野首 孝祠 古谷野 潔
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

床義歯の形態,設計様式が口腔感覚に及ぼす影響を分析し,機能との関係を検討する目的で舌感,味覚,痛覚,咬合感覚等の生理学的データを収集し,さらにその神経筋機構について動物実験より分析した.まず口蓋部の床の形態が舌感に及ぼす影響について質問紙法で分析した結果,床辺縁の断面形態は粘膜より移行的に立ち上るナイフエッジ状,走行は左右対称な形態が感覚的に優れ,移行的な断面形態,斜めのラインを避けた左右対称な走行形態が口腔感覚に調和することが推察された.次に臼歯部咀嚼とうまみ溶出の関係を調べるために,利尻昆布のグルタミン酸量を測定し,咀嚼後の溶出量を算出した結果,臼歯部補綴によりグルタミン酸溶出量は増加する傾向が認められた.また金属床の味覚に対する影響を実験用口蓋床を用いて検査した結果,厚さが1.5mmのレジン床と金属床では味覚閾値に差は認められなかったが,0.5mmの金属床では,味覚閾値は有意に低い値を示し,義歯床の厚さや材質の違いが味覚に影響を与えることが示唆された.さらに義歯装着者の咀嚼効率の判定法として,食塊形成能の観点から嚥下に至るまでの咀嚼ストローク数をパラメータとすると有用なことが認められた.また無歯顎者の義歯装着が床下粘膜の圧痛閾値に与える影響を調べた結果,無歯顎者は健常有歯顎者より40%低く,無歯顎者の口蓋中央部の閾値は頬側歯槽粘膜より2〜300%高かったため,義歯装着により圧痛閾値は低下し,粘膜への機械的ストレスの関与が示唆された.さらにモルモット前歯部に咬合挙上板を装着して臼歯を挺出させると,歯ぎしり様の運動を繰り返し元の咬合高径に戻るが,三叉神経中脳路核を破壊し閉口筋の筋感覚を除外すると高径低下が有意に減少し,咬合高径決定に閉口筋の筋感覚受容器の関与が示唆された.以上より,口腔感覚と機能とは密接な関係にあり,床義歯の設計に際しては維持や機能力の分配だけでなく,感覚への配慮が機能向上に繋がることが示唆された.
著者
岡崎 睦 栗田 昌和
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

身体各部位由来の正常皮膚由来線維芽細胞を用いて、瘢痕形成、色素沈着にかかわるサイトカインの発現解析を行い、線維芽細胞の部位特異性を明らかにした。特に急性期創傷治癒過程において、真皮深層の線維芽細胞は、浅層の細胞に比較して創収縮、細胞外器質の産生に有利な性質を有しており、真皮内の線維芽細胞の部位特異性は、非常に合目的的であることを報告した。さらに、解剖学的な部位による真皮線維芽細胞の特異性を明らかにするため、同一個体由来の顔面真皮線維芽細胞および体幹真皮線維芽細胞について、増殖特性および、瘢痕形成、色素沈着に深くかかわると考えられる因子(サイトカイン、マーカー、細胞外器質)の発現解析を行った。結果として、同一個体由来の顔面、体幹線維芽細胞はほぼ一致した増殖特性を示すが、瘢痕形成にかかわる因子の発現は、顔面由来の線維芽細胞で低発現であることが明らかになった。一方、体幹由来の線維芽細胞は、色素沈着に関するメラニン刺激性サイトカインであるStem cell factorを高発現していた。これらの知見は、顔のきずは体のきずに比べて、肥厚しにくく、色素沈着をきたしにくい、という臨床的な印象とよく一致し、臨床的に経験される創傷治癒の部位特異性は、線維芽細胞の部位特異性に起因することが示唆された。
著者
水谷 修紀 高木 正稔
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

小児白血病の発症機序解明に向けて胎児環境と遺伝の視点から解明を試みた。妊娠マウスにDNA損傷刺激としてエトポシドを母体腹腔内に投与し、胎児造血細胞の状態の経時変化を追跡した。比較対象として母体マウスの骨髄を用いた。DNA損傷の程度を胎児肝、母体骨髄で解析した結果、胎児肝がはるかに強いDNA損傷応答を示すことが分かった。以上からDNA損傷刺激に対しては胎児の方が母体より強いことが判明した。染色体異常においてもATM+/+、ATM+/-、ATM-/-の遺伝的背景の中でATM-/-では顕著な増加が認められた。発がん遺伝子の効果をATM遺伝子の遺伝的背景の中で比較した。その結果、ATMのhaploinsufficiencyが発がん効果を発揮することを証明した。
著者
所 敬 山崎 斉 川崎 勉 奥山 文雄 大頭 仁 上川床 総一郎 百野 伊恵
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究の目的は,視標の移動方向が前後方向,水平方向の2方向に移動でき,呈示時間が設定できる動体視力装置を開発することにあった。この3要素を設定できるので3次元動体視力計と名付けた。この装置の特徴を以下に挙げる。(1)視標速度は市販の機器よりも広い範囲で可変であり,静止〜100Km/hまで前後と水平方向の両方向で7段階に設定できる。(2)視標呈示位置は前後方向70〜4m,水平方向±2.0度である。(3)短時間呈示は1/1000〜1secまて7段階に設定できる。(4)これら以外に視標サイズは4種,色は白,赤,緑,青,黄の5種,背景照度は0.1〜200cd/m^2まで8段階まで設定できる。この装置を制作し,調整を行い上記の性能を得ることを確認した。さらにこの装置を用いて測定をしたところ,前後方向の動体視力は視標速度を静止から100Km/hまで変えると低下することがわかった。背景輝度の影響は,背景輝度を0.3から200cd/m^2まで変えることで得られ,動体視力は輝度が0.3cd/m^2から100cd/m^2まで増加するが200cd/m^2では減少することもわかった。今後の課題は,高速道路の交通眼科や航空医学への応用を計るために,視標速度をさらに150Km/hまて向上させる必要がある。また,環境が動体視力に与える影響が大きいため,視標の種類,背景,背景照度などを考慮する必要がある。この装置は今後,眼精疲労や交通眼科の問題解決に役立つ機器である。
著者
渡辺 守
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

本研究は申請者らが独自に研究を展開してきた腸管上皮細胞による粘膜免疫の機能調節に注目し、自然炎症の調節異常がもたらす炎症性腸疾患の発症メカニズム解明と新規治療法の開発基盤を目指すものである。その解析には細胞株を用いた解析系よりも腸管上皮細胞の初代培養細胞が理想的である。我々は当該研究期間において、大腸組織から単離した上皮細胞の初代培養系を確立することに世界で初めて成功した(Nat Med 2012)。その培養技術の特徴は、マウス大腸組織から正常上皮を単一細胞として単離し、3次元的にsphereを形成させながら長期に亘って継代培養が可能なものである。本研究期間で我々はこの技術をさらに応用し、腸管上皮細胞によるエンドサイトーシスおよびトランスサイトーシスの解析系を構築することに成功した。この解析系の樹立によって、これまで困難であった腸管上皮細胞に特徴的な膜輸送の生理的アルゴリズム解析が可能になったといえ、今後さまざまな免疫学的解析に応用できると期待する。さらに現在我々は、Lgr5陽性上皮細胞から吸収上皮細胞、神経内分泌細胞、杯細胞など各々の系統に分化した細胞における自然炎症調節機構を詳細に解析している段階である。こうした研究結果は、これまで明確に把握し得なかった腸管上皮細胞における自然免疫応答を、より生理的で正確に解析できる重要な手がかりになると期待できる。またこうして得られる解析結果をもとに、既に我々が確立した腸管上皮の移植実験系に応用し、in vivoにおける評価に直ちに結びつけることが可能であると我々は確信している。
著者
寺本 研一 高瀬 浩造 寺岡 弘文 有井 滋樹 斉藤 佳子 田中 雄二郎
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1)ES細胞より肝細胞の分化誘導に関する研究前年度までの研究で、我々はマウスES細胞より胚様体細胞を経由してアルブミン産生細胞を分化させることに成功した。この細胞は尿素合成能、アンモニア分解能を持ち、肝細胞にきわめて近い細胞と考えられた。この細胞をC57BL/6マウスに肝障害の条件下細胞移植したところ生着し、アルブミンを産生した。しかしながら、同時に20-30%の頻度で奇形腫の発生をみた。今回、奇形腫発生を抑制するために、細胞のセレクションを行った。まず、胚様体細胞より単層細胞培養を行い15日目に分離し、パーコール法により比重で細胞をセレクションした。この細胞群はoct3/4の発現はネガティブであった。この細胞を上述の肝障害モデルマウスに移植したところ奇形腫の発生は認めなくなった。以上より、ES細胞より奇形腫の発生しない細胞群の回収が可能になった。また、さらにこの細胞群をFACS, MACSを使用し他の血球成分を除去することによりアルブミン陽性細胞を多く得ることが可能になった。また、これらの細胞は四塩化炭素による強い肝障害マウスにおいて凝固因子を有意に増加させることが判明した。2)カニクイザルES細胞ES細胞の臨床応用を目指して霊長類カニクイザルES細胞から肝細胞の分化誘導を試みた。霊長類ES細胞の分化誘導はマウスES細胞の分化誘導と異なる方法が必要であるが、我々の方法でアルブミン産生細胞を誘導することができた。3)血からの肝細胞の分化誘導我々は膀帯血からの肝細胞分化誘導に成功したが、アルブミンとCK-18、アルブミンとCK-19を発現する2種類の細胞を確認した。現在、胆管上皮細胞に分化誘導が可能かどうか研究中である。
著者
斉藤 洋三 笹月 健彦
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1984

我々はこれまでに、スギ花粉症に対する抵抗性、およびスギ花粉抗原(CPAg)に対するIgE低応答性はHLAと連鎖した遺伝子によりCPAg特異的サプレッサーT細胞を介して発現される単純優性遺伝形質であり、HLA-DRは免疫応答遺伝子産物として、またHLA-DQは免疫抑制遺伝子産物として機能していることを明らかにしてきた。今年度は、HLA-DQが関与する免疫抑制のメカニズムをより詳細に解析するために、第3回国際白血球分化抗原ワークショップで得られた約50種の活性化T細胞に関わる単クローン抗体が免疫抑制におよぼす影響について検討した。非応答者の末梢リンパ球をB+M0,【CD4^+】T細胞,【CD8^+】T細胞に分画し、その組みあわせをCPAg,PWMおよび各種単クローン抗体と共培養した。その結果、免疫応答を直接刺激することなく、免疫抑制を阻止することで、非応答者のIgE免疫応答を回復させる単クローン抗体4B4を見い出した。この4B4分子はヘルパーT細胞上に表現されているが、サプレッサーT細胞上には表現されていなかった。また、培養開始時に細胞を抗4B4で処理しても免疫抑制は阻止されないことから、培養期間中のある特定の時期にこの抗体が存在することが、免疫抑制の阻止に必須であるものと考えられた。さらに免疫化学的な解析から、この分子は、125Kdと145Kdのポリペプチドからなるヘテロダイマーであり、HLAやT細胞レセプターとは物理的近距離には存在しないことが明らかとなった。さらに、CPAg特異的ヘルパーT細胞株から免疫沈降してくる4B4分子は、静止期T細胞のそれに比べて、新たに3種のポリペプチドを有していた。これらの結果から、活性化T細胞上の4B4分子が、サプレッサーT細胞やサプレッサー因子の標的分子として機能していることが推測された。特異性を担うHLA分子のみならず4B4のような分子も非特異的に免疫抑制に関与していることが明らかとなった。
著者
渡辺 明子 渋谷 治男 融 道男 渡辺 明子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

要約:治療抵抗性の気分障害者に抗うつ薬に加えて甲状腺末を併用投与すると抑うつ症状が改善する事をしばしば経験する。これは両薬剤の併用が抗うつ作用を増幅した結果と考えられる。このような抗うつ作用の増幅の機序を明らかにするために、ラットにデスメチルイミブラミン(DMI)とレポチロキシンナトリウム(T_3)を併用投与したときの動物行動、脳内アミンおよびβ受容体、セロトニン(5HT)2A受容体について調べ検討した。対照群、DMI群、T3群、DMI+T3併用群の4群間で比較検討した。薬物の投与は単回(DMI 30mg/kg,T3 1mg/lkg)、反復投与(DMI 10mg/kg,T3 100μg/kg)7日間とした。DMI+T3併用群についての結果は、強制水泳テストで7日間の併用薬投与でのみ有意な無動時間の短縮(59%に減少)を認め、抗うつ作用の増幅作用を裏付けるものであった。その時の脳内アミンの変化は前頭前野皮質(PF)でノルアドレナリン(NE)の有意な増加、ドーパミン(DA)代謝回転の亢進、海馬(HIP)で5HT代謝回転の亢進を示した。反復東予によるβ受容体の変化はDMI群で従来報告されているようにPF,HIP,視床下部(HY)で有意な結合量の減少を示したが、T3群はPFで有意な増加を示し、併用薬群はいずれの部位でもその中間値を示し対照群との差を認めなかった。5HT2A受容体をは7日間の併用薬反復投与群でPFで結合量の減少を示した。この時、T3群も減少を示したが、DMI群では変化なくT3がその効果を高めたと考える。従来の抗うつ作用機序とされるβ受容体、5HT2Aの減少が言われているが、今回の結果は必ずしも一致するものではなかった。アミンおよび受容体の変化を主にPFで認めたことから抗うつ作用の責任部位の一部はPFが担っており、そこではDA,NE,5HTニューロンが相互に係わっている可能性を示唆した。