著者
高野 吉郎 大島 勇人 前田 健康 馬場 麻人 坂本 裕次郎 寺島 達夫 花泉 好訓
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

口腔領域における抗原提示細胞ネットワークの全容を解明するための一連の研究の一環として、ラット切歯、臼歯、ヒト永久歯および乳歯を用いて、以下に示す項目について検討を行った。1.抗原提示細胞ネットワーク:マクロファージを含む抗原提示細胞ネットワークをMHC class II抗原に対する免疫組織化学と、ACPaseの酵素組織化学の二重染色法、ならびに免疫電顕法により精査した。歯根膜と歯髄で、樹状細胞郡とマクロファージ郡の2郡に大別し、両者の分布パターンの異同を大筋で明らかにした。幼若な個体では歯髄、歯根膜ともに樹状細胞は少数で、成長に伴って増加した。ラット臼歯歯根膜では樹状細胞と破骨細胞の棲み分けが確認され、歯髄では樹状細胞が頻繁に象牙細管に細胞突起を刺入していることが確認された。2.窩洞形成刺激が歯髄樹状細胞に与える影響:従来看過されていた窩洞形成後の樹状細胞の早期反応の詳細を明らかにした。窩洞形成直後から多数の樹状細胞が象牙細胞の傷害野へ集積し、修復象牙質の形成開始期まで溜まってダイナミックな動態を示すことが確認され、樹状細胞が外来抗原刺激の感受に加えて、歯髄修復に何らかの関与をしている可能性が示唆された。3.抗原提示細胞と破骨細胞の前駆細胞判別の試み:歯槽骨の骨形成野と骨吸収野が歯根の近遠心で明瞭に区別されるラット臼歯歯根膜では、同じ骨髄単球系細胞である樹状細胞と破骨細胞がやはり明瞭な棲み分けをしていることが確認された。そこで矯正的に骨の吸収と添加の方向を変化させ、樹状細胞と破骨細胞の局在性を変化させることで、in situでの両細胞の分化を誘導し前駆細胞の異同を検討した。4.ヒト乳歯歯髄の樹状細胞:健常、歯根吸収期、歯冠吸収期の乳歯歯髄に多数の樹状細胞の存在を確認した。樹状細胞はヒト永久歯歯髄やラット臼歯と同じく象牙細管に突起を刺入するものが多く、特に乳歯では歯髄側の象牙質吸収野に見られるセメント質様組織の形成との関係が伺われた。当初計画した歯髄樹状細胞の所属リンパ節への移動に関する細胞化学的検討と樹状細胞の抗原物質処理経路の免疫細胞化学的検討については、今後の検討課題とした。
著者
佐藤 尚弘
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

1.光硬化型ペースト陶材の開発本研究のスタートは,光硬化性のリキッド(マージンポーセレンPLC、(株)ジーシー)をペースト陶材に混和して用いる方法であったが,これではペーストの稠度が変化し、賦形性が悪くなった。また,この液を大量に用いた場合には焼成後の灰分残留が大きな問題となった。ペースト陶材は元々焼成時に有機成分の抜けが悪く、その分灰分残留に一層の拍車をかける結果となった。以上の理由から、新たに光硬化型ペースト陶材そのものを開発する方向に転換し,現在試作ペーストを作製して実験を行っているが、操作性の優れたペーストの完成にはいま少し時間が必要である。2.ペースト陶材とオールセラミックスを用いた審美修復法の開発金属焼付ポーセレン用に開発したペースト陶材を,オールセラミックスに応用できれば審美性に優れた修復物の簡便な作製が可能となる.そこで,2種類のオールセラミック試片(In-Ceram Alumina.In-Ceram Spinell)にペースト陶材をレヤリングし,その強度を粉末陶材でレヤリングしたものと比較検討した.ISO 6872:1995 Dental Ceramicsに準じて3点曲げ試験を行った結果,ペースト陶材は従来型の粉末陶材よりもわずかに高い値を示した.このことからペースト陶材がオールセラミックスのレヤリングに有効である事が示唆され,2003年6月にスウェーデン・イエテボリのIADRにおいて,Flexural Strength of All Ceramics Layered with Paste Porcelainの題名で発表した。現実的な審美修復法としてメタルフリーのオールセラミックスにペースト陶材をレヤリングするのが適切であると結論されたが、光硬化性ペースト陶材も開発の可能性が十分確認されたことから、引き続き本研究を継続する予定である。
著者
榎本 昭二 PODYMA KATARZYNA A. 柳下 正樹
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本年度においては、昨年発表されたヘパラネース遺伝子のシークエンスをもとに、培養口腔癌細胞株および、患者から得られた口腔癌組織内におけるヘパラネースの発現について検索を行い、その転移能との相関についても調べた。さらに、研究計画どおり、培養扁平上皮癌細胞株におけるヘパラナーゼの活性とMMP2、9、MT-MMPの発現との相関も調べた。用いた培養細胞それぞれのヘパラネースmRNAの発現量は、活性レベルとほぼ相関していることがわかった。ヘパラナーゼの酵素活性を、定量PCR法を用いて、簡便に測定できることが示唆された。術前からリンパ節転移が存在した症例、原発が制御されても術後9ヶ月以内にリンパ節転移を確認した症例のなかでヘパラナーゼ陽性例数を見ると、前者には57.1%で陽性、また、後者では、100%陽性であった。また、発現レベルとともに転移率の上昇が見られた。以上より、ヘパラネースが、口腔癌において、リンパ節転移能と関連する重要なマーカーの1つになる可能性が期待できる。さらに、培養扁平上皮癌細胞株における、MMP2,MMP9,MT1-MMP,TIMP2の発現を定量し、そのヘパラネース活性とマトリジェルにおける浸潤能の相関についてしらべたところ、それぞれの細胞の浸潤能に対し、独立したMMPの発現レベルとヘパラネース活性を有しており、とくに大きな相関は見出されなかった。現在、昨年クローニングしたラットヘパラネースの抗体の精製を完了させ、また、in situハイブリダイゼーション法による、組織内のヘパラネース発現パターンを検索しており、マウス実験転移モデルと組み合わせて、がん転移機構における、ヘパラネースの機能の分析を続けていく予定である。
著者
島内 節 清水 洋子 福島 道子 佐々木 明子 中谷 久恵 河野 あゆみ 田中 平三 亀井 智子 林 正幸 丸茂 文昭
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

平成10年度〜12年度にかけて「在宅ケアにおける基本的な日常生活行動の自立支援のためのケアプランと評価方法」について研究を行った。平成10年度に日常生活行動の自立を可能にする条件を分析した。結果は2ヵ月で改善可能な内容は着替え、服薬行動、痛み、介護者の心身の疲労であった。同年にケアプランの実施の有無とプラン修正によるニーズ解決を分析した。その結果、ニーズ解決率の高い順位は(1)ケアプランを必要に応じて修正し実施、(2)ケアプラン実施、(3)実施しない、の順であること、ケアプランの修正要因は利用者条件、サービス提供条件、ケアマネージャーの順であった。平成11年度には日常生活行動変化のアウトカム項目をアメリカ合衆国のメディケア機関で義務化されていたOASIS(The Outcome Assessment Information Set)を中心に我々が開発していた日本版在宅ケアアセスメント用紙を組み合せて、在宅ケアの評価を行い、それに基づきケアプランを5機関で行った。平成12年度にはアウトカム項目を確定し、自立度変化とケアプロセスの内容、満足度を評価し、プランを立てて実施後に再度アウトカムとプランを評価する方法の開発、サービス提供者の能力開発と組織力向上の評価方法を開発し、マニュアル化した。なお、利用者アウトカムに関しては、フィンランドとの共同研究を行った。
著者
神山 潤
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

昨年度の3歳児における検討に引き続き、今年度は3歳以下の児でアクチウオッチによる行動量と起床時刻、就床時刻の関連、ならびに尿中のコルチゾール代謝物(17OHCS)とセロトニン代謝物(5HIAA)とこれら因子の関連を検討した。17OHCS,5HIAAの結果はまだ得られていないが、行動量に関しては貴重な結果を得ることができた。昨年度の3歳児での検討では行動量が多いほどその晩の就床時刻が早くなること、早寝早起きでは遅寝遅起きに比し、朝の尿中17OHCS濃度が高いことの2点を得たが、今年度は、6ヶ月から3歳の75名で検討した。その結果、(1)加齢ともに行動量は増加する、(2)男児が女児よりも行動量が多い、(3)起床時刻が早いほどその日の行動量が多くなる、(4)ある日の行動量はその晩の就床時刻には影響しない、の4点が現時点で確認されている。このうち(4)に関しては昨年度の3歳児における検討と相容れない結果ではある。これは今年度得た行動量が加齢とともに有意に増加する点を考慮すると、行動量が未だ十分に増していない若年層においては、起床・就床時刻よりも加齢が行動量の決定に大きな影響を与えることが想定された。しかし興味あることは、このような若年齢において起床時刻が早まるとその日の行動量が増加することが確認された点である。この所見は「起床時刻が遅れると内的脱同調をきたし、日中の行動量が低下する」という研究者自身の仮説を支持する知見として注目したい。
著者
川島 慶之
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

糖尿病の合併症の一つに難聴が知られている。一部にミトコンドリア遺伝子変異が関与していることが明らかになってきているが、多くは、障害部位、障害原因とも明らかではない。一方、肥満・過食・高インスリン血症など顕著な糖尿病症状を自然発生する突然変異の糖尿病モデルマウス(db/db)がジャクソン研究所で発見され、糖尿病およびその合併症の発症機構の解析究明に汎用されている。我々は、db/dbが難聴を発症し、そのホモ接合体はヘテロ接合体、野生型に比べ早期にABR閾値が上昇することを確認した。さらにDPOAEでもホモ接合体は早期からDPレベルの低下を認めた。このため、難聴の主因は蝸牛血管条障害であると予想したが、光学顕微鏡では有意な血管条障害やラセン神経節細胞の脱落は認めなかった。しかしながらレプチン受容体の内耳発現を確認するためにC3H/HeJのコルチ器を免疫染色したところ、外有毛細胞の不動毛において発現が見られた他、neonateの動毛において強い発現を認めた。これらの結果より、これらのマウスにおける聴覚閾値の上昇は、外有毛細胞の何らかの障害を含めた複数の機序が関与しているものと想定している。
著者
川島 伸之
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

歯髄細胞は象牙芽細胞へ分化し象牙質を形成する。骨芽細胞は骨形成細胞である。これらの細胞は硬組織形成細胞としての共通した特性を有する。臨床において、象牙質、骨といった硬組織の誘導を現実に行うために、まずvitroにおいて効率的に分化および石灰化誘導可能な条件について検討した。通常のディッシュを用いた2次元培養においては、硬組織誘導培地を用いない限り硬組織マーカーの発現増加および石灰化結節の形成は誘導できないが、3次元培養することにより、硬組織マーカーの発現増加が観察され、硬組織誘導培地により効率的な石灰化結節が形成された。3次元培養することで、より生体に近い環境で細胞を培養することが可能となったため、オリジナルの硬組織形成細胞としての特性が顕著に表れたものと推察される。なお、3次元培養によりインテグリンシグナルが活性化され、それが分化誘導に関与していることも明らかになった。これらの結果は、生体における象牙質および骨形成のメカニズムの一端を明らかにしてくれるとともに、臨床における硬組織誘導を実現するための布石となりうると思われる。
著者
本村 一朗 中村 英雄
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

著者らはこれまでチタンの審美歯科補綴の応用に不可欠な前装技術の確立と向上のためにチタンと陶材の焼付けについて研究を行ってきた。本研究はチタン板表面に表面改質装置の出力および照射時間を変化させ、ぬれ性の変化からチタン表面への陶材焼付に最適な条件を求めることにある。前年度では表面処理前の使用金属、純チタンの板上試片の作成および表面改質の条件について検討を行った。本年度は表面改質としてプラズマエッチング処理のみ、プラズマエッチングを行いながらの窒化処理を行い、そのチタン板に陶材の築盛、を行った。なお表面改質を行った板上試片の作成は(1)現在歯科で用いられているロストワックス法による鋳造加工(チタン表面は鋳造時生成される反応層に覆われるため、陶材焼成を行うと界面からの破壊が起こりやすくなる)、(2)高エネルギー加工法としてワイヤ放電加工((1)による反応層の生成を排したもの)の2種類とした。表面改質ではエッチングおよび窒化時間条件により陶材焼成時の酸化が最小限に押さえられたが剪断試験測定時に剥離をきたし、焼付強さの向上には結びつかなかった。これは窒化により陶材築盛面への極度なぬれ性の低下によるものと考えられ、放電加工試片を用いぬれ性の向上のみに努めたプラズマエッチング処理が本研究において最適条件と考えられた。現在、金属コーピングの作成は鋳造が主流であるが今後鋳造以外の加工による歯科補綴物作製法を確立する事が急務と考えられる。チタンへの反応層を生成しない加工法とともにチタン用焼付陶材を用いた審美歯科技術の確立に、本研究で得られた結果はチタンの歯科応用の更なる発展に寄与できるものと考えられる。
著者
山本 幸男 亀井 康富
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

脂質代謝の性差は、核内受容体ERα(Estrogen Receptor α)が、脂質代謝のマスターレギュレーターである核内受容体LXR(Liver X Receptor)およびCAR(Constitutive Androstane/Active Receptor)に直接もしくは間接的に働き、遺伝子発現を制御することが一因であることを見いだした。
著者
井上 貴章
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

口腔癌の手術後は顎骨欠損や歯牙欠損を伴い、咀嚼、嚥下、構音などの重要な口腔機能や審美性が著しく損なわれ、患者の社会復帰の障害となる。そのリハビリテーションの手段として、顎補綴治療が行われるが、特に上顎の顎補綴では、個々の症例に差があり、様々な治療経過、術後経過をたどるため、術者や施設により治療方針、治療評価が異なる。このため、顎補綴治療の限界や可能性が不明確な状況で治療が行われているのが現状であり、的確な診断、治療方針、治療評価を確立することが必要である。上顎顎補綴の研究としては、上顎欠損患者と補綴装置に関する実態調査、顎義歯の設計に関する模型実験、顎義歯の機能時の動態と下顎運動との関係などが行われてきた。また、顎義歯本体の動特性を明らかにするため、振動解析が行われてきた。今回、顎義歯本体の振動解析結果との比較と顎義歯装着時の振動解析を行うための予備実験として、三次元有限要素法を用いて、顎義歯荷重時の応力分布について解析、検討した。実験モデルは上顎右側第一第二小臼歯、第一第二大臼歯欠損を伴う上顎右側部分切除症例を想定した。モデルの物性値ならびに栓塞部の設計はこれまでの報告を参考にした。栓塞部の形態を充実型、中空型、天蓋解放型の3種類とし、床の材質はレジン床のみとした。解析は、パーソナルコンピュータにて、汎用有限要素法解析プログラムCOSMOS/M(SRAC社/(株)大塚商会)を使用し、三次元線形静解析で行った。荷重点は顎義歯の左側第一大臼歯人工歯相当部に設定し、総荷重98Nの垂直荷重を付与した。直接維持装置として右側犬歯部、間接維持装置として左側第一第二小臼歯部、左側第一第二大臼歯部を拘束した。結果は、3種とも維持装置の基部に応力の集中がみられ、特に左側第一第二小臼歯基部への応力の集中が大きかった。今回の実験は解析ソフトに制限があり、モデル上にクラスプを設置することが出来なかった。今後は実験モデルをより詳細に作成するとともに、支持組織の性状、荷重条件、拘束条件、材質などによる影響についても検討していきたい。
著者
福田 哲也
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

慢性リンパ性白血病(CLL)患者に対し、自己の白血病細胞に、生体外でアデノウイルスベクターを用いてCD154遺伝子を導入し、生体内に注入するという遺伝子免疫療法がカリフォルニア大学サンディエゴ校にて施行された。この患者6人の治療後の血清について検討すると、治療前には明らかでなかったアデノウイルスに対する抗体産生が5人に、白血病細胞表面分子に対する抗体産生が、3人に認められた。詳細な検討により、この抗体の中に、受容体型チロシンキナーゼであるROR1に対する抗体が含まれていることが明らかとなった。ROR1に対する抗体を作製して検討したところ、ROR1は健常人の末梢血細胞中にはその発現は認められず、CLL細胞に特異的に発現することが確認された。ROR1には細胞外領域にWntファミリーメンバーと結合しうるCRD領域が存在するが、293細胞を用いて、各種レポーター遺伝子を導入することにより、ROR1と非典型的WntファミリーのWnt5aを共遺伝子導入するとNF-κBの活性化が起こることが明らかとなった。Recombinant蛋白を用いてROR1とWnt5aの結合はin vitroにおいて確認された。このWnt5aとROR1の結合はCLL細胞のin vitroにおける生存率を増加させる事が明らかとなった。この生存率増加は治療後の患者血清を添加すると抑えられ、患者体内でROR1のブロッキング抗体が産生されたことにより、治療効果が得られたと考えられた。
著者
三浦 宏之 吉田 恵一 栗山 實 真柳 昭紘 岡田 大蔵
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

歯は粘弾性体である歯根膜によって顎骨に植立されており,咀嚼時に機能力を受けると,歯槽骨の中に押し込まれて上顎臼歯部は口蓋側遠心歯根方向へ,下顎臼歯部は舌側方向へ変位して,歯および顎骨が受る咬合力を緩衝している.健常者の下顎第1大臼歯は,咬頭嵌合位での噛みしめ時に舌側方向へ50μm程度の回転成分の強い変位経路を示し,プリッツ咀嚼時にはプリッツが上下顎間に介在することによって下顎第1大臼歯は舌側方向のみならず頬側方向への力を受けるために頬側方向への変位を示すが,この頬側方向への変位は咀嚼の進行と共に減少し舌側方向の変位が増加する.一方,歯槽骨の吸収が認められる被験者の下顎第1大臼歯では噛みしめ時の変位量は50μm程度と正常者とほとんど変わらないものの,正常者とは逆方向の頬側方向に変位した.まだ,プリッツ咀嚼時に正常者に見られた咀嚼初期の頬側への変位が見られず,咀嚼初期より舌側方向に変位し,さらに健常者に比べて幅のある大きな動きを示していた.ブラックシリコーンにて記録した同症例の咬合接触像では,軽度,中等度噛みしめ時に遠心舌側咬頭内斜面に1点,強度噛みしめ時には遠心舌側咬頭内斜面,遠心咬頭外斜面,近心頬側咬頭頂の3点に穿孔が見られ,頬側咬頭内斜面のみに特に強い咬合接触像が見られるわけではなく,咬合接触像に特に異常は認められなかった.それにもかかわらず,正常者と異なる変位経路を示したのは歯槽骨の状態の変化によるものと考えられる.歯が機能時に正常時と異なる変位経路を示すと歯周組織の状態をさらに悪化させることも考えられる.したがって,歯槽骨の吸収を伴うような症例では歯周組織の破壊状態を適切に診査,診断を行うとともに,歯周処置を行い,補綴物製作時には補綴物に正常な変位経路をとるような咬合接触関係を付与する必要があることが明らかとなった.
著者
島内 節 小森 茂 佐々木 明子 友安 直子 森田 久美子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的はFOMAによるテレビ電話を用いて利用効果がでやすい在宅ケアニーズ・利用にあたってのコミュニケーション方法・指導やケア技術内容、を高齢者側とケア提供者の調査により明らかにした。テレケアの有用性評価は37ニーズ項目中27項目にケア効果がみられた。医療処置を多く要する利用者ほど、テレケアの利用によりケアニーズが「改善」あるいは「解決」に向かう傾向がみられた。また本人からは、テレケア機器があることで「訪問看護師とつながっている感じがする」「安心感がある」などの意見が多く聞かれた。また利用者よりもさらに看護師の方がテレケアに対する有用性の評価が高かった。機器を利用することによるケア項目別の有用性の評価で本人が高い上位項目は、「早期発見」「コミュニケーション」「観察」であった。看護師では、「相談」「観察」「早期発見」であった。医療依存度の高い利用者ほど両者ともに「早期発見」「観察」の項目が高かった。FOMAの利用は家族介護者よりも看護師において有効度と満足度がより高い変化を示した。FOMAを用いることを仮定した意識調査では本人の期待値が看護師より高かったが、実際利用するとその逆の傾向が見られた。家族介護者はFOMAの画面が小さすぎて見にくいとの声もあり、高齢者には画面拡大により効果・満足度が高められることが示唆された。
著者
茂木 瑞穂 高木 裕三 泉福 英信 米澤 英雄
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ミュータンス菌は、う蝕(虫歯)の主な原因菌であり、歯の表面にバイオフィルム(細菌の集合体、歯垢)を形成する。このミュータンス菌の数ある遺伝子の中でも、SMU832,833遺伝子については、子が母親などの養育者からミュータンス菌を獲得する際に関与している可能性が示唆された。また、バイオフィルム形成にも関係していることが示唆された。
著者
杉内 友理子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

上丘は従来、急速眼球運動(サッケード)の生成に関与することが知られているが、サッケード開始の引き金となるメカニズムは長い間不明であった。一方、上丘の前方には固視機能に関与する部分があることが示唆されてきた。本研究で、上丘からのサッケードの発現機構と固視の発現機構は相互に抑制し合っており、この相互抑制が、サッケード開始の引き金に関与することが明らかとなり、眼球運動研究の歴史での長い間の謎が解明できた。
著者
磯部 光章 鈴木 淳一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

主としてマウス心臓移植および大腿動脈ワイヤー障害のモデルを用いて、動脈硬化病変における細胞性免疫の関与とその制御による治療法の開発を行った。多様な介在治療を行った。MMP-9、ICAM-1、adiponectinに着目して、その役割を検討した。クラリスロマイシンによるMMP-9の抑制、siRNAによるICAMの抑制、adiponectin過剰マウスにおいて、動脈病変の抑制が可能であったことから、それぞれが動脈病変に関与していることが示された。また治療法としての発展が期待される。
著者
本郷 敏雄 日景 盛 安増 茂樹 喜多 和子 春宮 覚
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

「唾液に浸漬した歯科用有機材料硬化体由来の化学物質を同定・定量する簡便な一斉分析法を開発」では唾液浸漬による歯科用有機材料からの溶出物の同定、代謝物の同定をHPLCで高感度に定量できる簡便な一斉分析法を開発した。その結果から、ポリカーボネート製矯正用ブラケットからは口腔内では微量ながらビスフェノールA(BPA)が常に唾液に移行している可能性並びにレジン系仮封材からはフタル酸エステルであるジプチルフタル酸が唾液に移行している可能性が推定され、その摂取量は子供では無視できない量であることが明らかとなった。「ヒト培養細胞を用いたエストロゲン様物質の高感度で簡便な検出法」ではHeLa細胞にメダカのエストロゲンレスポンシブエレメント領域を含むフラグメントを挿入し、1ng/mL 17β-estradiolでも細胞が反応する検出系を確立したが、より低濃度の検出系を開発するにはGFPの代わりに化学発光するluciferase用いる必要性が考えられた。「高感度突然変異検出システムの開発」ではBPAの変異誘導性は、少なくともRSa細胞においてはhERαを介さない作用であるという可能性が示唆され、GRP78発現抑制細胞では、非常に低濃度のBPで変異誘導性が認められたことからGRP78発現抑制細胞を化学物質の変異原性を高感度に検出する細胞として使用できる可能性が示された。「エストロゲン感受性遺伝子導入メダカによる評価系の開発」ではChoriogenin遺伝子5'上流域とGFP遣伝子の融合遺伝子をメダカ受精卵に注射し、遺伝子導入系統を作製したところ、エストロゲンにより肝臓でGFP発現を示し、試験系は簡便なエストロゲン様物質の検出及び評価系として有用であることが明らかとなった。「歯科用有機材料による代謝活性化酵素誘導検出系の開発」では多環芳香族炭化水素(PAH)とBPAへの複合曝露がAHRシグナル伝達経路およびCYP1A1遺伝子の発現へ及ぼす影響を調べた。その結果、BPAはそれ単独ではCYP1A1遺伝子の発現をほとんど誘導しなかったが3-メチルコランスレンとの併用処理により発現を相乗的に誘導したことやBPAは芳香族炭化水素受容体(AHR)/ARNT複合体を介して転写レベルでCYP1A1遺伝子の発現を誘導していることを明らかにし、BPAとPAHとの複合曝露でAHRシグナル伝達経路を介した毒性発現する経路のあることが示唆された。以上の結果から、本研究で開発した各評価系は歯科用有機材料の生物学的基礎試験に応用可能な新規高感受性生物学的評価法であると考えられる。
著者
石川 雅章 小野 博志 王 歓 でん 輝 DENG Hui WANG Huan 石川 雅章 でんぐ 輝
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

日本人と中国人は、文化を背景とする民族は異なるものの人種的にはモンゴロイドに属し、極めて近縁とされる。顎・顔面頭蓋の成長発育には、遺伝的要因に加え環境的要因が少なからず関与し、部位によってその程度が異なる。本研究は北京医科大学口腔医学院小児歯科と協同して、中国人双生児の歯列咬合や顎・顔面頭蓋の遺伝的成長発育様式を調査し、日本人小児と比較することにより、モンゴロイドの顎・顔面頭蓋の形態変異について考察を深めようとするものである。平成6年度は北京市内で双生児を収集し予備調査を行ったところ、女児が男児よりも多く応募し、費用の観点から、調査対象を中国人女児双生児に限定することとした。また平成6年度と8年度では、顎・顔面頭蓋の成長発育にとっての環境的要因につながる中国人小児の生活習慣や食習慣を各地で調査した。都市化の進んだ地域とそうでない地域の間で、さらに、都市化した地域でも両親の職域によってこれらの習慣に比較的差異がみられた。あらかじめ、DNAフィンガープリント法により中国人女児双生児の卵性診断を済ませておき、平成7年から9月と12月に、計約90組の双生児資料採得を2年間にわたり行った。その内容は問診表記入、身長体重測定、口腔内診査、側貌および正貌頭部X線規格写真撮影、パノラマX線写真撮影、印象採得などである。平成9年2月現在、歯列模型と側貌頭部X線規格写真の分析を中心に研究が進行中である。歯列模型では口蓋の三次元形状分析を、顕著な不正咬合がなく側方歯群が安定し、かつ歯の欠損のない17組について行った。口蓋の計測には、格子パターン投影法による非接触高速三次元曲面形状計測システム(テクノアーツ、GRASP)を使用した。1卵性双生児群と2卵性双生児群での分散比から(双生児法)、歯頚部最下点間距離では左右第1大臼歯間においてのみ遺伝的に安定する傾向がみられ(p<0.05)、乳犬歯間、第1乳臼歯間、第2乳臼歯間では両群間に有意差は認められなかった。また、それぞれの口蓋の深さについても両群間で有意差は認められなかった。一方、口蓋の容積については、全体および左右乳犬歯より後方の容積が遺伝的に安定する傾向にあったが(p<0.01)、左右乳犬歯より前方の容積は、両群間に有意差が認められなかった。すなわち、混合歯列期の口蓋は遺伝的に制限された一定の容積のもとに、その構成成分である幅や深さは変異しやすいことが示唆された。側貌頭部X線規格写真上には、日本小児歯科学会による「日本人小児の頭部X線規格写真基準値に関する研究」と同様の計測点計測項目を設定し、当教室の頭部X線規格写真自動解析システムにて入力分析した。各双生児組の一人を用いた半縦断的な角度的および量的計測結果を、上記基準値と年齢幅が近似するよう三つのステージに分類し、日本人小児の成長発育様式と比較検討した。さらに双生児法により、各計測項目とその年間変化量などについて遺伝力を算出した。角度的分析から、混合歯列期中国人双生児の顎顔面頭蓋概形は日本人小児とおおむね近似していたが、前脳頭蓋底に対する上下顎歯槽骨前方限界は中国人小児が僅かに近心位にあり、上下顎中切歯歯軸傾斜はやや小さかった。また混合歯列前期のみであったが、前脳頭蓋底に対する下顎枝後縁角は中国人小児が有意に大きく、下顎角は有意に小さかった。一方、量的計測項目は全体的に中国人双生児の方が小さめであったが、日本人小児との身長差を反映していることも考えられる。量的計測項目の遺伝力は混合歯列中、後期と増加する傾向にあり、前脳頭蓋底で70%弱、鼻上顎複号体と下顎骨は70〜80%台であった。これら遺伝力は、男児や男女児双方を扱った他の双生児研究よりもやや大きく、本研究が、男児よりもネオテニ-的である女児のみを対象としたことと関連しているかもしれない。下顎骨のなかでは、下顎骨長が下顎骨の前後の高さよりも、遺伝的要因の占める割合が高くなると推定された。下顎骨構成成分間での遺伝力の差は、下顎骨が遺伝的に制限された一定の長さのもとに形態形成しやすいことを示唆していると考えられた。今後は、当教室に保管されている日本人双生児や北米白人双生児資料との比較研究を鋭意進めていく予定である。
著者
秋田 恵一 山口 久美子 望月 智之 小泉 政啓
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

肩関節周囲の構造については、臨床の技術の向上にともない、ますます詳細な理解を必要とするようになった。そこで、本研究では肩関節周囲筋の解剖を見直し、総合的に新たに評価を行い、手術、診断といった臨床応用への基盤を形成する。また、肩関節の成り立ちを比較解剖学的に検討し、ヒトの解剖学的な理解に役立たせる。本研究の結果、非常に多くの解剖学的な新知見が得られ、臨床への応用が期待されることになった。また、比較解剖学的な知見から、ヒト肩関節の構造について、より理解が深まったと考えられる。
著者
野田 政樹 江面 陽一 早田 匡芳
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

癌の進展においては細胞の接着、及びインテグリンからのシグナルによる細胞の生存、増殖さらには活性化した細胞からのサイトカインの発現により骨の場合には局所のマクロファージや前駆細胞の活性化からはじまる破骨細胞の分化とその活動性の亢進がおこる。このような一連の骨に転移させる活性の高い細胞における転移のメカニズムの解明を目的とし、悪性黒色腫のマウスB16細胞についての検討を行なった。マウスB16細胞の細胞接着とその形態を観察する目的で、まず、細胞における接着反分子の解析について検討した。その結果、細胞接着反のAdhesion Complexの分子群を構成するCIZの発現がB16細胞において確認された。この発現は細胞質にあるとともにまた細胞接着反においても認められた。この分子の接着とのかかわりが推察された。悪性黒色腫の中でも特に転移活性の高いB16F10の細胞とその親株であるB16における細胞の転移活性と接着との相関を検討するとCIZのレベルがB16F10細胞において親株のB16との大きな相違が認められ、この相関が細胞転移活性に関与することが示唆された。更に、癌細胞の骨への転移によって生じる、骨の破壊に関わる破骨細胞の制御について検討を行った。この結果、破骨細胞においてはDicerの特異的なカテプシンKcreに基づくノックアウトより骨量が増加すること、海綿骨の厚さの増加がみられることが明らかになった。この転移のおける破骨破壊をもたらず破骨細胞の分化のレベルの低下は細胞において内因性であり、コンディショナルノックアウトマウスの骨髄細胞の破骨細胞への分化も抑制が観察された。以上の研究成果は悪性黒色腫の骨への転移とその骨における腫瘍に基づく骨破壊の主たる細胞である破骨細胞のメカニズムを明らかにしたものであり、今後これらの分子を抑止する薬剤の探索など癌の転移に対する対策の基盤となる起点が確立された。