著者
森 大輔
出版者
熊本大学法学会
雑誌
熊本法学 = Kumamoto law review (ISSN:04528204)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.344-416, 2020-03-26

本稿では,松村・竹内(1990),秋葉(1993),Merriman(1988)という,日本の死刑の抑止効果に関する3つの先行研究の計量分析について,公的統計のデータを再収集して,各研究の計量分析を再現するという方法で再検討を行った。その結果,松村・竹内(1990)の研究では死刑に関する変数は殺人発生率に統計的に有意な効果を持たないという結果となり,秋葉(1993)やMerriman(1988)の研究では統計的に有意な効果を持つという結果となったのは,前者が死刑言渡し率,後者が死刑執行率と,両者が用いていた死刑に関する変数が異なるからである可能性が高いことがわかった。また,これらの研究には,系列相関,多重共線性,説明変数の内生性,単位根の存在といった共通する分析手法上の問題点が存在する。さらに,時系列データの接続性の問題や変数の選択の問題も存在する。再現という作業は,時に重要な点や既存の研究の問題点の発見などにつながるものにもなりうる。
著者
田坂 樹 日髙 玲奈 岩佐 康行 古屋 純一 大野 友久 貴島 真佐子 金森 大輔 寺中 智 松尾 浩一郎
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.312-319, 2023-03-31 (Released:2023-04-28)
参考文献数
19

目的:回復期リハビリテーション(リハ)において,口腔問題解消と摂食機能向上のためには,適切な口腔機能管理が不可欠である。今回われわれは,回復期リハ病棟における歯科の関わりを明らかにするため全国調査を実施した。 方法:回復期リハ病棟協会会員の1,235施設を対象に,歯科との連携に関する自記式質問調査を実施した。質問内容は,歯科との関わり方,連携による効果などから構成された。回答を記述統計でまとめ,歯科連携体制によって回答に相違があるか検討した。 結果:319施設(25.8%)から得られた回答のうち,94%の施設で入院患者への歯科治療が実施されていたが,そのうち院内歯科が26%,訪問歯科が74%であった。常勤の歯科医師と歯科衛生士の人数の中央値は0であった。院内歯科がある施設のほうが,訪問歯科対応の施設よりも歯科治療延べ人数が有意に多く,歯科との連携による効果として,患者や病棟スタッフの口腔への意識の向上との回答が有意に多かった。 結論:本調査より,限定的ではあるが,院内歯科がある施設では,常勤の歯科専門職は少ないが歯科との連携の効果を実感している施設が多くあった。一方,本調査の回答率から,回復期リハ病棟を有する病院では,歯科との連携がなされていない施設が多くあることも考えられた。今後,回復期リハにおける医科歯科連携強化に向けて,エビデンスの創出や診療報酬の付与が必要であると考えた。
著者
藤森 大輔 本村 友一 山本 晃之 原 義明 西本 哲也 高橋 希 柄澤 智史 高橋 功
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
pp.36.3_06, (Released:2022-03-30)
参考文献数
8

74歳男性. シートベルトを着用し軽乗用車運転中に意識を失い前方の車両に追突し, フロントエアバッグが作動した. ドクターヘリで当院へ搬送され, CT検査で胸骨骨折・内胸動脈損傷・多発腰椎圧迫骨折の診断となり, 経カテーテル的内胸動脈塞栓術を施行した. 入院後より経時的に血中CPK値が上昇し, 代謝性アシドーシスと高乳酸血症も進行した後, 心停止・自己心拍再開を経て腸管虚血に至り, 第4病日に死亡した. 経過中のCT検査より胸部大動脈原性の両下肢の筋梗塞を含む多発塞栓症が疑われた. 安全装置であるエアバッグとシートベルトによる鈍的胸部外傷に起因した二次的な大動脈原性塞栓症で広範な筋梗塞を認めた例は稀有であり報告する.
著者
長谷部 理佐 坂本 壮 中村 聡志 藤森 大輔 吉田 隆平 糟谷 美有紀 伊藤 史生 高橋 功
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.246-249, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
10

除草剤の一種であるパラコートは, 致死率が高い製剤であることから本邦では1999年に生産が中止された。しかしパラコートを5%に希釈した低濃度製剤であるパラコート・ジクワット製剤 (以下, PGL) は現在も販売されており, PGL飲用による死亡例は現在も散見される。2015~2021年に当院で経験したパラコート中毒の5例を検討した。1例は誤飲が原因で, 4例は自殺企図で飲用された。1例はパラコートで, 4例はPGLであった。患者背景としては精神疾患が多いとされているが, 当院の症例も精神疾患やうつ状態の背景疾患があった。また, 農村地域・農家での報告が多く, 当院も農村地域に位置することから, パラコート・PGLが容易に入手できたと考えられる。中毒発生防止のためには行政的対応以外に保管者への啓発が重要と考える。
著者
J マーク ラムザイヤー エリック B ラスムセン 森 大輔 池田 康弘 モリ ダイスケ イケダ ヤスヒロ J.Mark Ramseyer Eric B. Rasmusen Mori Daisuke Ikeda Yasuhiro
出版者
熊本大学
雑誌
熊本法学 (ISSN:04528204)
巻号頁・発行日
vol.143, pp.170-128, 2018-07-30

本稿は原題 J.Mark Ramseyer and Eric B.Rasmusen,"Lowering the Bar toRaise the Bar : Licensing Difficulty and Attorney Quality in Japan" Journal ofJapanese Studies Vol.41(2015),pp.113-142を翻訳したものである。
著者
森 大輔
出版者
合成樹脂工業協会
雑誌
ネットワークポリマー (ISSN:13420577)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.285-289, 2014-11-10 (Released:2015-01-21)
参考文献数
10

天然樹脂セラックは,体長0.6 mm 前後のラックカイガラムシがマメ科,クワ科など特定の樹木(母樹)の枝に分泌する樹枝状物質を精製したものである。セラックという言葉はShell(貝殻)+Lac(多数)が語源となっており,Shellac とはラックカイガラムシの分泌物が貝殻状になることに由来し,Lac はヒンズー語のLakh(10 万)及びサンスクリット語のLaksha(10 万)より由来した言葉で,ラックカイガラムシが木に何万と密集している状況を表したものである(Fig. 1)。ラックカイガラムシの生育条件は亜熱帯地方が 適し,タイ・インドが二大産地となっている。 また,産業革命以降,天然樹脂の中で唯一の熱硬化性樹脂として,木工塗料を始め,工業用材料などに幅広く使用されてきたが,石油化学の発達につれ,合成樹脂万能の風潮になり,セラックは天然物の安全性とセラックでしか得られない物性を利用した用途以外は次 セラックは紀元前2000 年頃迄遡ることができる。 第に需要が減少していった。しかし,近年の環境配慮や資源の有効利用の面,人体への安全面から,セラックが再び見直されるようになってきている。
著者
横森 大輔
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

採用第2年目である平成25年度は、前年度に続いて会話データの整備と拡充および会話分析の手法を用いた文法研究のフレームワークの精緻化を進めつつ、ケーススタディを実施した。まず、既に収録していたデータに加え、合計およそ4時間分の日本語会話を新たに収録し、既存のデータと新規データのいずれについても書き起こしを行った。また、日本認知言語学会第14回大会ワークショップ「会話の中の文法と認知―相互行為言語学のアプローチ―」(9月)、第8回話しことばの言語学ワークショップ企画セッション「インタビュー・データを読み解く : ナラティブ分析、言語人類学、相互行為言語学の観点から」(12月)、公開シンポジウム「ことば・認知・インタラクション2」(2月)といった研究集会での登壇や米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校での11日間の滞在(2月)などの活動を通じて、会話分析の手法を用いた文法研究のフレームワークの精緻化を行った。ケーススタディとしては、大きく分けて4稚類の現象に関わる研究を行った。・事例研究(1) : 「の」でマークされたwh疑問文(例 : 「迎えはどうするの」)・事例研究(2) : 副詞節の後置(例 : 「よっしタガリン今からおもろいこと言え。今からオンやから」)・事例研究(3) : 副詞「やっぱ(り)」(例 : 「気になる? やっぱり」)・事例研究(4) : 英語発話からみる日本語話者の文構築ストラテジーいずれも文の末尾位置において観察される様々な言語現象について、実際の会話(および様々な言語的相互行為)の録音・録画データの観察に基づき、参与者たちがどのように言語的プラクティスを利用しているかあるいは構築しているか検討し、それぞれの研究成果を学会等で報告した。
著者
杉井 将崇 柄澤 智史 大戸 弘人 福田 伸樹 藤森 大輔 伊藤 史生 小山 知秀 高橋 功
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
pp.38.1_04, (Released:2023-12-15)
参考文献数
10

甲状腺腫瘍の既往がある85歳男性が高所墜落後に救急搬送された. 来院時吸気性喘鳴と頚部腫脹を認め呼吸困難を訴えたため, 気道確保目的に緊急気管挿管を行った. CT所見と病歴から甲状腺腫瘍破裂と診断した. 気道狭窄を伴う血腫拡大のため手術適応と判断し, 血腫除去後に甲状腺左葉摘出術・気管切開術を施行した. 第2病日に人工呼吸管理を離脱, 第28病日に独歩退院した. 鈍的外傷による甲状腺損傷は稀だが, 気道閉塞の場合に致死的となる. 手術は止血だけでなく血腫除去も行えるが, 腫瘍出血に対しては甲状腺摘出を要する場合がある. 手術後も気道狭窄が残存する場合, 気管切開を行うことで早期人工呼吸離脱やリハビリテーションが可能となる.
著者
遠藤 智子 横森 大輔 林 誠
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.100-114, 2017-09-30 (Released:2018-02-07)
参考文献数
26

一般的には疑問代名詞として分類される「なに」には,極性疑問文の中で感動詞的に使われる用法がある.本研究は自然な日常会話におけるそのような「なに」について,認識的スタンスの標識として記述を行い,その相互行為上の働きについて論じる.まず,極性疑問文における「なに」は,会話の相手が明示的には述べていないことに対して話し手が確認を要求する際に用いられる.そのような環境における「なに」は,相手に確認を求める内容が,先行する会話の中で得た手がかり等の不十分な証拠に基づいて推論を行うことで得られたものであり,その正しさについて強い確信を持たないという話し手の認識的スタンスを標識するものである.さらに,「なに」は発話が行われる個々の文脈に応じて,確認内容に対する驚きおよび否定的態度等の情動表出や,からかいまたは話題転換等の行為を行う資源としても働く.
著者
森 大輔
出版者
熊本大学
雑誌
熊本法学 (ISSN:04528204)
巻号頁・発行日
vol.141, pp.348-388, 2017-12-07

前回の森(2017)で取り上げたQCAの分析では、各変数は0か1のみだった。QCAでは各変数は集合を表し、1が集合への帰属、0が非帰属を表す。しかし、0と1の2つのみに分けるのではなく、もっと微妙な差異も表現したい場合があるかもしれない。そのような場合に、通常の集合(クリスプ集合crisp set)を拡張したファジィ集合(fuzzy set)を利用する。今回は、このファジィ集合を用いたQCA(ファジィ集合QCA)の、fs/QCAと、RのQCAパッケージ(およびSetMethodsパッケージ、vennパッケージ)での行い方を主に扱う。
著者
森田 敦郎 小森 大輔 川崎 昭如
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.491-496, 2013

本稿は,チャオプラヤ・デルタにおける水管理の変遷と社会の関係を描き出す試みである.20世紀前半の開発は,デルタ全体を一つの灌漑システムへと再編するものであった.このシステムは,雨季の灌漑(水の均等な配分),乾季の灌漑(選択された地域への給水),雨季の洪水防御(指定氾濫地域への導水)という三つの目的を持つ.これらの三つの機能は,それぞれ絡み合いながら歴史的に発展してきた.だが,1990年代に進行した農業変化と産業化にともなって,三者の葛藤は顕在化しつつあり,水管理に新たな課題を突き付けている.
著者
森田 敦郎 小森 大輔 川崎 昭如
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.491-496, 2013-07-01 (Released:2013-12-24)
参考文献数
13

本稿は,チャオプラヤ・デルタにおける水管理の変遷と社会の関係を描き出す試みである.20世紀前半の開発は,デルタ全体を一つの灌漑システムへと再編するものであった.このシステムは,雨季の灌漑(水の均等な配分),乾季の灌漑(選択された地域への給水),雨季の洪水防御(指定氾濫地域への導水)という三つの目的を持つ.これらの三つの機能は,それぞれ絡み合いながら歴史的に発展してきた.だが,1990年代に進行した農業変化と産業化にともなって,三者の葛藤は顕在化しつつあり,水管理に新たな課題を突き付けている.
著者
岩本 健嗣 杉森 大輔 松本 三千人
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.739-749, 2014-02-15

今日,ユビキタス技術の研究,開発が進み,様々な認識,推定技術に関する研究が行われている.本論文では,行動的特徴を用いた個人認識技術に着目する.人が行う動作には様々あるが,今回は人が日常的に行っている歩行動作を利用した歩行者推定手法を提案する.また,歩行動作を検知する手段として3軸加速度センサを搭載した携帯電話を用いる.携帯電話を用いた歩行者推定を行うためには,状態推定,携帯電話の所持位置推定,ユーザ推定をそれぞれ行う必要がある.本論文では,携帯電話を用いてユーザの移動データから特徴量を抽出し,歩行者を推定する実験とその評価を行い,提案する歩行者推定手法が有効であることを示した.
著者
遠藤 智子 ヴァタネン アンナ 横森 大輔
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.160-174, 2018-09-30 (Released:2018-12-26)
参考文献数
29

本研究は,フィンランド語・日本語・中国語における先行発話に重なって開始される応答,特に同意的応答について,対面会話の録画をデータとして検討する.会話分析の手法を用いた分析により,まず,完結可能点より早い位置で同意を開始することは,話題に関する認識的独立性を主張し,同意的応答が持つ行為連鎖上の従属的な性質を調整するということに動機づけられていることを示す.重なって開始される同意的応答の構造的特徴として,(1)同意のパーティクル+理解の提示および(2)認識性に関する修正を含む繰り返しという2つのパターンが3言語に共通して見られた.また,重ねられる側の発話には,条件節や因果節による複文構造やトピック–コメント構造が3言語に共通して見られた一方で,フィンランド語と中国語ではSVX語順が,日本語では引用構文が観察された.これらの構造は,その前半または初めの部分が次にどのような内容が産出されるかを強く投射するため,聞き手が完結可能点よりも早く応答を開始することを可能にする.本研究は,発話の開始位置と発話の言語構造を調整することによって会話参与者間の知識状態に関する相対的な位置取りを交渉するということが,人類の文化に(あるいは少なくともここで取り上げた3言語に)共通してみられる普遍的なプラクティスであることを示唆するものである.
著者
猪股 亮介 小森 大輔 風間 聡 峠 嘉哉
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.31, 2018

都市が気象に及ぼす影響の1つとして降水の変化が挙げられており,都市部において,周辺地域と降水現象が異なる事が指摘されてきた.藤部らを初めとした既往研究において,統計的なアプローチから都市部における降水現象の解析が行われてきたが,それらは日本国内において約1/17km(個/km2)に整備されたアメダス定点観測所において観測されたデータを使用したため,空間的な代表性に課題が残る.そこで本研究では,大阪市を対象に,雨量レーダによる面的観測とアメダス定点観測を合成した,23年間(1993~2015年)という長期間のレーダアメダス解析降水量を用い,都市部と周辺地域における降水の空間偏差とその経年変化を統計的なアプローチから明らかにする事を研究目的とした.本研究における対象地域を日本三大都市圏の1つである大阪府大阪市の都市部とその周辺地域とした.また本研究における降水解析に用いる降水指標として,降水量(1時間降水量(mm)),降水頻度(1時間降水量≧1mmの時間数),本降りの雨の頻度(1時間降水量≧5mmの時間数)の3つを定義した.その結果次の様な知見が得られた.1)都市部の西部において,降水量・降水頻度・本降りの雨の頻度が,特に正午~午後の時間帯において周辺地域より大きかった.2)都市部の北西部において降水量・降水頻度が周辺地域と比較して大きくなる傾向が経年的に強化された.3) 都市部の南西部において降水量・降水頻度が周辺地域と比較して大きかった傾向が,経年的に弱められた.都市の西側に湾が存在する地域において,偏西風の風上側である西側の降水量・降水頻度・本降りの雨の頻度が大きくなる傾向は本研究において得られた新たな知見である.また,都市の北西部において午後の時間帯に降水頻度の空間偏差が大きくなる傾向が存在することは,本研究で空間代表性の高いレーダアメダス解析降水量データを用いる事で明らかになった新しい知見である.また,都市部の異なる部分において周辺地域よりも降水量が大きい傾向,小さい傾向が経年的に拡大される事は本研究において都市部を5kmの解像度で解析した事により得られた新たな知見である.この様に,本研究における解析で都市が気象に及ぼす影響が都市内部において異なる事が明らかになった.
著者
森 大輔
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.110-130, 2020-06-11

本稿では,(1)一般人は民事裁判にどれくらいの時間がかかると予想しているのか,(2)民事裁判では実際にはどれくらいの時間がかかるのか,(3)民事裁判の時間の長さに影響を与える要因としてどのようなものがあるかについて,一般人に対するインターネット調査と訴訟記録調査のデータを用いて考える.次のことがわかった.(1)人々は,裁判に平均して1年2ヶ月前後はかかると思っている.(2)平均値で見た場合,一審の長さは2004年で約7.7ヶ月(控訴審や上告審も含めると約8.3ヶ月),2014年で約8.1ヶ月である.(3)民事裁判の時間が長くなる要因として,原告人数が多いこと,原被の双方に弁護士がついていること,口頭弁論の併合があること,訴額が多いこと,裁判の結果が請求一部認容や和解であること,事件の種類が請負,債務不存在確認,契約損害賠償や交通事故損害賠償以外のその他の損害賠償であることなどが挙げられる.民事裁判にかかる時間自体を短くすることは重要だが,一般人の裁判のイメージを変えることも重要であると思われる.特集 民事訴訟の実証分析 ―全国訴訟記録調査から―
著者
森 大輔
出版者
熊本大学法学会
雑誌
熊本法学 = Kumamoto law review (ISSN:04528204)
巻号頁・発行日
no.148, pp.344-416, 2020-03-26

本稿では,松村・竹内(1990),秋葉(1993),Merriman(1988)という,日本の死刑の抑止効果に関する3つの先行研究の計量分析について,公的統計のデータを再収集して,各研究の計量分析を再現するという方法で再検討を行った。その結果,松村・竹内(1990)の研究では死刑に関する変数は殺人発生率に統計的に有意な効果を持たないという結果となり,秋葉(1993)やMerriman(1988)の研究では統計的に有意な効果を持つという結果となったのは,前者が死刑言渡し率,後者が死刑執行率と,両者が用いていた死刑に関する変数が異なるからである可能性が高いことがわかった。また,これらの研究には,系列相関,多重共線性,説明変数の内生性,単位根の存在といった共通する分析手法上の問題点が存在する。さらに,時系列データの接続性の問題や変数の選択の問題も存在する。再現という作業は,時に重要な点や既存の研究の問題点の発見などにつながるものにもなりうる。