- 著者
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鈴木 英明
- 出版者
- 日本アフリカ学会
- 雑誌
- アフリカ研究 (ISSN:00654140)
- 巻号頁・発行日
- vol.2011, no.79, pp.13-25, 2011
- 被引用文献数
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近年,奴隷交易廃絶活動に関する研究は一層の盛り上がりを見せ,研究対象が拡張され,また研究視座も多角化している。そのなかで,インド洋西海域に関する研究も増えている。しかし,現在の研究は,少なくともインド洋西海域に関する研究についていえば,奴隷交易を他の交易と切り離して議論を進めるのが一般的である。したがって,奴隷交易廃絶活動にかかわる研究も,その活動が奴隷交易以外に与える影響については,充分に考察してこなかった。本稿は,そうした動向を踏まえて,洋上での活動がいかなるもので,それがこの海域の海運にいかなる影響を与えたのかを考察した。<br>考察の結果明らかになったのは,次の点である。①イギリス海軍が洋上での奴隷交易廃絶活動に参入する1860年代以降,洋上での活動の成果は飛躍した。②この飛躍の背景には,イギリス海軍の「奴隷船」拿捕に関する規定が大きく作用していた。③この規定によって,イギリス海軍の艦船は,奴隷を実際に救助しなくても,報奨金を得られ,それが成果の飛躍に繋がっていたのである。④しかしながら,こうしたイギリス海軍の活動は,インド洋西海域の海上輸送一般に甚大な影響を及ぼしてもいた。⑤なぜならば,彼らが参照した大西洋での経験とは異なり,インド洋西海域では奴隷の輸送と他の輸送とは区別されず,また,奴隷を専門に輸送する船舶とそれ以外とを外見や構造から見分けることもできなかったからである。⑥それゆえに,イギリス海軍は奴隷を輸送していない船舶をも「奴隷船」と認識し,奴隷交易廃絶活動の名のもとにそれらに打撃を与えていた。いわば,彼らの活動は「『奴隷船』狩り」と呼びうる側面を有していたのであった。