著者
玉井 隆
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.1-14, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
31

本論は、ナイジェリア政治に対して失望する若者について描くことを目的とする。具体的には警察部隊のひとつである対強盗特殊部隊による、市民に対する暴力への抗議運動(End SARS)と、2023年の大統領選挙における、ピーター・オビ候補支持者(Obidient)による運動に関わる2人の若者の経験を検討する。彼らは、End SARS運動やObidient 運動を通して、多くの若者が国家に対する構造的な変化を求めたり期待したりする最中で、それが適うはずがないと考えていた。既存の研究はこれらの運動について、若者による民族・宗教・地域に必ずしも捉われない市民的価値を共有した政治的活動の現れとして肯定的に評価している。しかし本稿は事例検討を踏まえ、機能不全となった国家の構造は変わることはなく、また腐敗権力が作動する暴力と混乱に満ちた日常を生きざるを得ないために、ナイジェリア政治に失望する若者の存在を明らかにする。
著者
ケイワン アブドリ
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.152-160, 2018 (Released:2019-03-15)

During the Oil Nationalization Movement of the early 1950s, Iran’s oil was boycotted by the British and major oil companies, which brought a lot of financial hardship to the government of Prime Minister Mossadegh. A few medium-scale oil companies tried to buy and transport it to the market, including Japanese Idemitsu Kosan. It was a very risky but highly profitable deal for them, because Iran gave large discounts to the buyers. However, after Mossadegh’s downfall and the establishment of the Zahedi government, the deal faced problems. Iran could not or would not easily accept the discounted rate requested by Idemitsu.In approximately 1954, the Japanese government intervened to support Idemitsu, including by writing letters to the Foreign Ministry. Below is one of those letters, which has been translated from Farsi to Japanese, that was sent to Dr. Ardalan, the Foreign Minister of Iran, in September 1956. In the letter, Japan demanded that the Iranians keep their obligations and promises and offered a long-term oil deal with special conditions. In the article, I describe the background and details of the deal, explain the Japanese government’s position regarding the Idemitsu deal, and shed some light on Japan’s energy diplomacy.
著者
馬 欣欣 岩﨑 一郎
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.2-38, 2019-09-15 (Released:2019-10-08)
参考文献数
93

共産党一党独裁制を維持する中国では,共産党員資格が,その保持者に賃金プレミアムをもたらすと論じられている。しかし,党員資格の賃金効果は,経済理論的に決して明確ではなく,その上,実証研究の成果も,肯定説と否定説が混在している。本稿は,先行研究のエビデンスの統合を介して,党員資格が賃金水準に及ぼす真の効果の特定を試みる。既存研究30点から抽出した332推定結果のメタ統合は,低位の水準ながらも,正の党員資格賃金効果の存在を示した。この結果は,公表バイアス及び真の効果の有無に関する検証結果によっても支持された。さらに文献間異質性のメタ回帰分析は,調査対象企業の所有形態,サーベイデータの種別,賃金変数の補足範囲や定義,推定期間及び推定量や制御変数の選択が,既存研究の実証成果に体系的な差異を生み出している可能性を強く示唆した。
著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.1-19, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
27

ベネズエラでは経済的にも政治的にも、理解しづらい状況が継続している。国家経済の規模(GDP)がわずか5年で4割弱に縮小、憲法違反のドル化の進展が公的経済制度の不備を補完している。2019年以降は、ふたりの大統領が対峙するのに加え、国会もふたつ立ち、制憲議会とあわせて、見かけ上は三つの立法権力が存在する状況が続いた。本稿では、そのような事態に陥った背景を考察する。カギとなるのは、政治経済両面で広がる公的制度の機能不全(無視)であり、それを補完すべく広がるインフォーマルなものごとの仕切り、運用、そしてそれがさらに公的制度の機能不全、形骸化を深めるという悪循環である。そのような厳しい状況下で2020年には、新型コロナ感染症がベネズエラにも広がった。
著者
細井 友裕
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.73-84, 2020-08-27 (Released:2020-08-27)
参考文献数
27

2017年のジンバブエ政変で下野したロバート・ムガベに比べ、エマーソン・ムナンガグワ大統領に対する関心は低い。2000年代以降、ジンバブエでは「軍人化(Militarisation)」と呼ばれる軍の影響力増加が指摘されている。本稿は、軍を支持基盤とするムナンガグワ派が政権を獲得する過程を整理し、ムガベ政権とムナンガグワ政権の連続性と断裂を検討する。軍を基盤とするパトロン・クライアント関係を通じた政権運営や暴力的性向を勘案すると、両者の間に連続性がみられる。しかし、党内抗争の過程で、ムナンガグワ派の対立派閥が体制から疎外されたため、政権の基盤は縮小している。政権基盤の縮小に加え、政権獲得に伴う軍内部の競合激化は、中長期的なジンバブエの不安定化要因となり得る。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.1-18, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
35
被引用文献数
2

2019年に大規模な社会騒乱を経験したラテンアメリカ諸国は、そのさなかにCOVID-19に襲われ、感染者や死者が断続的に増加するなか、多くの国で厳格なロックダウンが施行された。しかし、もちろん各国の政治は政治であるがゆえにその動きを止めることはなく、極端にはハイチの大統領暗殺事件など、多様な政治事象が生じている。本稿では、このように「混乱するラテンアメリカ政治」の今を捉えるべく、複数のラテンアメリカ諸国の事例を対象にさまざまなデータを用いつつ、「国家の脆弱性」「政治体制の変動」「代表制の危機」などいくつか政治学の重要テーマに絞って、問題や論点の明確化と整理を試みる。
著者
児玉 由佳
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.29-40, 2020-03-12 (Released:2020-03-12)
参考文献数
58

エチオピア連邦民主共和国は、2019年12月に政治的に大きな変化を経験することとなった。1991年以降30年近く政権を担ってきた連合政権であるエチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)が、参加政党を一つに統合した繁栄党を結成したのである。ただし、EPRDFのなかで従来権力を握っていたティグライ人民解放戦線(TPLF)は、現在の連邦制を揺るがすものであるとして繁栄党への不参加を表明した。アビイ首相は、多様性を堅持しつつ人々が一つにまとまることで相乗効果がうまれるという「メデメル」哲学を提唱し、さまざまな民族党を一つの党として統合して繁栄党を結成した。しかし、民族対立の歴史を考えると、規模の異なる民族集団を一つの党に統合することだけでは、現在の民族問題を解決することは困難であろう。2020年春に予定されている総選挙の結果によっては政局が大きく変動する可能性がある。
著者
三浦 航太
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.1-15, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
22
被引用文献数
3

本稿は、2019年10月中旬以来チリで発生した社会危機を、2011年の学生運動や新しい左派勢力という視点から検討する。軍政下に導入され民主化後も継続してきた既存の政治経済社会システムは、経済格差や社会と政治の乖離を生み出し、それは市民の不満の蓄積、そして近年の抗議行動の増加へとつながった。2011年に大規模な学生運動が発生したことや、そこから生まれた新しい左派勢力である広域戦線が2017年総選挙で台頭したことは、2019年の社会危機の以前から既存のシステムに対する問題提起がなされていたことを示している。これまで学生運動や新しい左派勢力が示してきた変革への意思は、2019年の社会危機を通じてチリの多くの人々からも示され、新憲法制定に向けた合意へとつながった。2020年4月には新憲法をめぐる国民投票が実施される。既存のシステムを修正して維持するのか、新しいシステムへ変革していくのか、チリは大きな岐路に立たされている。
著者
アブディン・モハメド
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.41-53, 2020-05-14 (Released:2020-05-14)
参考文献数
17

本稿では、2019年4月11日にスーダンのバシール大統領が失脚してから8月17日に暫定政府の設立合意が成立するまでに、国内の主要な政治主体間にいかなる権力闘争があったのかを分析する。そのために、暫定軍事評議会を支援したサウジアラビア・UAE・エジプトの三国陣営、そしてエジプトがスーダンに対する影響力を拡大することを危惧したエチオピアといった地域大国の役割にも注目した。主な結論は以下の3点である。(1)6月3日にスーダン軍部がデモ隊を強制排除する以前には、サウジアラビア陣営はスーダン国内政治に影響を及ぼすことができたが、(2)6月3日の事件以後には、エチオピアが、対立する国内主体間の交渉を仲介することに成功したため、サウジアラビア陣営の影響が限定的になり、(3)その結果、デモ隊の強制排除を通して軍政の復活を目指した暫定軍事評議会と、エチオピアの介入によって息を吹き返した民主化勢力との権力関係が拮抗するようになり、8月には暫定政府の設立に関する合意が可能となった。