著者
厚海 徹 力丸 米雄 鈴木 順造
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.73-76, 2008-01-20
参考文献数
9
被引用文献数
1 3

掌蹠膿疱症に対して排膿散及湯を投与したが治癒せず,麻黄附子細辛湯を合方することにより次第に治癒に向かった一例を経験した。症例は64歳女性。2000年5月頃から両側掌蹠に約2mm大の多発性の膿疱が生じ,陳旧化すると皮膚が剥けて一時治るという状態がほぼ2週間周期でみられた。皮膚所見より,掌蹠膿疱症と診断し,排膿散及湯の投与により,新たな膿疱が生じる間隔は延長したが,治癒しなかった。しかし,麻黄附子細辛湯を合方したところ4週間後にはほぼ膿疱は消失した。本疾患に対する附子剤奏効例の報告は稀であり,興味深い症例と思われ報告した。
著者
佐藤 田實
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.211-215, 2002-05-20
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

治療に際し処方の効きが鈍いとき,少量の附子を加えると効果を著しく高めた。これは附子と薬との相乗効果の結果と思った。その解明のため自験例と古典の記載を分析し考察を加えた。第1例は22歳女性の紅斑性狼瘡で小柴胡湯合当帰芍薬散に附子1gを追加し6週間で紅斑が消えた。第2例は25歳女性のニキビで当帰芍薬散+補中益気湯に附子末1gを追加して8週間でニキビが治った。第3例は44歳男性で慢性微熱に補中益気湯に附子末2gを加えて6週間で治癒した。附子はどんな症状に効果的なのか。3症例には冷えは認めずむしろ熱のある例も含まれた。また症状はまちまちで一定の傾向がなかった。そこで症例を増せば大凡の傾向が出るものか,古典の附子加味の例を集め分析した。すると症状は陰陽虚実,気血水で見ても,自験例と同様に,様々であった。この結果を説明するに,多様な症状に応じ附子に各の効能を想定すると,多数の効能が必要となりそれは不自然である。そこで附子は,分量が少なくそれ目体の効果は少ないが,組む相手薬の効能を高めると仮定すると,説明し易いことを示した。以上の議論を集約し,附子の働きには薬への感受性を高める間接効果即ち相乗効果と,四逆湯のような熱薬としての直接効果との,2通りの様式があることを述べた。最後に附子加味の臨床に有用な事柄を古典をもとに纏めた。
著者
藤永 洋 萬谷 直樹 喜多 敏明 柴原 直利 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.267-273, 1999-09-20
被引用文献数
1

激しい腹痛発作を繰り返すガス症状優位型の過敏性腸症候群に対して、『医学統旨』の柴胡疎肝湯が著効した一例を経験した。 患者は31歳男性。1994年11月より2〜3ヶ月ごとに激しい腹痛発作と腹部膨満感を訴え、近医へ救急受診を繰り返していた。これまでに3回入院して精査を受けたが器質的異常は認められなかった。腹痛発作に腹部膨満感などのガス症状を主に伴うことよりガス症状優位型の過敏性腸症候群と診断した。また、腹部単純X線写真で左結腸脾彎曲部に著名なガス像を認めたことから脾彎曲部症候群が疑われた。1996年6月より当科外来で『医学統旨』の柴胡疎肝湯を開始したところ、その後症状は出現しなくなった。さらに感情不安定や立ちくらみ、皮膚症状なども軽快した。 柴胡疎肝湯の目標は四逆散証で気鬱の病態が強いことであり、ガス症状優位型の過敏性腸症候群に対して有効な処方であることが示唆された。
著者
木村 容子 佐藤 弘
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.453-458, 2006-07-20
被引用文献数
2 1

月経痛,月経周期異常に対し,気剤単独で,奏功した5例を報告した。症例1では,激しい心窩部痛及び月経痛が半夏厚朴湯で改善,症例2では,柴朴湯で月経不順及び月経痛が軽快,症例3では,半夏厚朴湯で月経痛が軽減した。〓血の所見を認めたが,気欝の症状に基づいて処方を選択した。症例4では,加味逍遥散から桂枝加竜骨牡蛎湯に変方して月経痛及び月経不順が改善,症例5では,主訴の蕁麻疹を桂枝加竜骨牡蛎湯加味方で治療中,月経周期が40日以上から30日に改善した。後者2例では,明らかな〓血症候を認めなかった。腹部動悸亢進や怖い夢,いやな夢がみられたため,桂枝加竜骨牡蛎湯を選択した。月経異常は,漢方医学的には,特に「血」に関連する病態が多いとされる。しかし,5症例の経験から,ストレス状況で発症した月経障害に対し,〓血の症候を認めても,気鬱や気逆など「気」の関与を考慮し,気剤が有効な症例もあることが示唆された。
著者
山田 光胤
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.201-213, 1999-09-20
参考文献数
21
被引用文献数
1

Japan has created a unique culture, based on the influence and acceptance of Chinese culture since long years ago. This can also be said of medicine. Traditional medicine of Japan, is called "Kampo" medicine, which had been rearanged form Chinese medicine years ago suitable for the topography, climate, and race of the Japanese islands. The rearrangement of Chinese medicine to Japanese medicine started at the latter half of the 16th century. This took place during the Ming era when medical treatment was that of the Chin-Yuan era. In Japan, Li-Chu medicine was accepted among schools in medicine, and resulted in establishing the socalled Gosei-Ho school later. During the 18th century, there arose a movement to search for the origin of its medicine and to follow the original medical treatment. They finally attained the "Chang Han Lun" ("Shokan-Ron" in Japanese), established in the Heu-Han era in China. Many doctors read and studied that textbook and wrote their interpretation in their own books at that time. The medical treatment based on "Shokan-Ron" is called Ko-Ho school. Also the name Kampo, taraditinal Japanese medicine, may be implicated by the original medical treatment of the Han (Kam in Japanese) era. The unique point of Ko-Ho school in medical treatment of Japanese kampo medicine may be the restoration of the old medical textbook "Shokan-Ron" to apply for clinical practice. The following books have left great influence up to the present time, "Ruiju-ho" written by Tohdo Yoshimasu, "Fukusho-Kiran" (1800) and "Fukusho-Kiran yoku" (1809-1853) which contain the method for abdominal examination by palpitation socalled Fukushin, written by Bunrei Inada and Shukuko Wakuda, respectively. On the contrary, Ko-Ho school established a therapeutic method based on the readjustment of disorders mentioned in "Shokan-Ron" (Shokan namely febrile acute illness), followed by the concepts of Hyo-Ri, Kan-Netsu, and Kyo-Jitsu. Also, the school recalled Fukushin (abdominal sho), the sign of the abdominal wall, written in "Shokan-Ron" following the objective restoration. Based on its original Fukusho, other Fukushos were found and extended its original Fukusho, other Fukushos were found and extended its category to apply for other diseases. This has been handed down to the present era. My presentation on this theme, review of Japanese traditional medicine: Kampo, will be given more concretely.
著者
浅岡 俊之
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.407-412, 2007-05-20

今から30年ほど前に漢方薬は保険収載され,徐々に医師により処方される一般的な薬剤のひとつとなった.しかしながら保険収載された当時,あるいは現在も医師の殆どは東洋医学に対する認識が薄く,全くその内容を知らないことも稀ではない.そのような環境は臨床家に漢方治療の価値を考えるための材料を提供してはいない.漢方薬は本来,東洋医学の治療方法のひとつとして成立していたものであり,その使用根拠,適応,禁忌などは東洋医学の論理で理解されるべきものであるが,現状はそれとは異なった状況にあり,西洋医学にその根拠を求めようとしている.この現状がもたらされた理由を歴史的背景から理解することは非常に重要である.なぜかといえば,それは漢方治療を行うことの意味や価値を教えるからである.
著者
大塚 恭男
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.5-11, 1996-07-20

東洋医学が現代医療の中で再び注目を浴びるようになって久しい。 ここでは, 今日の東洋医学, 特に漢方の復興に関わった幾人かの先哲を簡単に紹介した。 時代に即応した東洋医学のあり方と考える一助となれば幸いである。
著者
大野 修嗣
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.427-432, 2007-05-20
被引用文献数
1

中医学の診断と治療は,陰陽五行論とよばれる古代中国の哲学理論を基とした理論によって説明されている。中医学の診断と治療の過程は弁証論治と呼ばれている。弁証とは,中医学の診断であり,回診と呼ばれる診断技術によってその情報が収集される。弁証の結果から診断が生まれ,この診断を基に中医学の治療がなされる。この治療を論治と呼ぶ。ここでは,中医学の診断・治療過程を全体的に概観したい。
著者
酒谷 薫
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.181-191, 2008-03-20

中国伝統医学(以下,中医学)では,陰陽五行学説を基礎として人体機能を考えている。陰陽五行学説は古代中国の自然哲学であり,難解で不可解なものとして日本漢方では重視されてこなかった。しかし陰陽五行学説を現代科学の視点から見直してみると,両者には共通している点が少なくない。本講演では,陰陽五行学説の考え方を現代科学の観点から読み解き,これを基にして中医学の人体機能や病態に対する考え方について解説する。1.陰陽五行学説と複雑系 陰陽五行学説は陰陽学説と五行学説から成り立っている。まず陰陽学説であるが,太極図の中にその意味することが全て示されている。太極図で注目すべき点は,白(陽)と黒(陰)の中に反対要素である権化点が存在することである。これにより人間を含めた世界というものは無限に陰陽に分割され,その全ての部分が太極図と同じ構造を持つことになる。すなわち,部分が全体を示すというフラクタルな世界観を示している。中医学では,舌や耳等の身体の一部分に全身状態が反映されていると考えるが,もし人体がフラクタルな構造を持つと仮定するとこの考え方も理解できる。一方の五行学説は,中医学における臓器機能の基礎となっている。五行学説に従って臓腑(五臓)は木・火・土・金・水の5種類に分類され,各臓腑の間には相生(=positive feedforward)と相克(=negative feedforward)という力学的関係が存在し,その相互作用により全体の機能バランスが維持されていると考える。興味深いことに,この考え方はカオス理論に基づいた生体モデルに酷似している。このように陰陽五行学説の考え方は,現代科学の複雑系理論に通じる点が少なくない。2.中医学における人体機能と病態 中医学における臓器の特徴は,脳が臓腑(五臓六腑)に含まれていない点である。すなわち中医学では,脳のさまざまな機能を五行学説に従い五臓六腑や関連する器官に分散させているのである。このため脳疾患は単一臓器の障害ではなく,上述の臓器間の機能バランスの障害による全身性疾患と考えられている。もう一つの特徴は,陰陽学説のフラクタルな世界観によりヒトと環境を一体として捉えている点である。つまり西洋医学では,ヒトは皮膚などのさまざまな「膜」により外界より分離した環境を保つことにより生命活動を維持していると考えるが,中医学では,ヒトは環境と一体化して存在し,ヒトの機能は環境から強い影響を受けると考えられている。3.まとめ 陰陽五行学説に基づいた中医学の人体機能に対する考え方は,われわれの西洋医学と異なるが,非科学的なものではなく現代科学にも通じるユニークなものである。中医学と現代科学を融合させた新しい医学の構築に向けて,伝統医学研究は,その治療効果に加えて生命観に関する理論的研究も重要と思われる。
著者
山田 和男 神庭 重信 大西 公夫 水島 広子 長尾 博司 梅山 千香代 寺師 睦宗 浅井 昌弘
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.603-607, 1997-01-20
被引用文献数
1 1

発病または急性増悪により入院し, 4〜12週間のハロペリドールを中心とした抗精神病薬の治療により活動期症状が改善し, 精神症状が安定した後に抗精神病薬の投与量が最低2週間以上固定された精神分裂病圏の患者10名に対し, 黄連解毒湯を4週間追加投与した。黄連解毒湯の追加投与直前, 投与終了時, 投与終了4週後にそれぞれBrief Psychiatric Rating Scale (BPRS)を用いて症状評価を行なった結果, BPRS総得点は, 黄連解毒湯の追加投与直前と比較して投与終了時, 投与終了4週後ともに有意に減少した。症状別では, 「罪業感」, 「抑うつ気分」, 「疑惑(被害妄想)」, 「興奮」に有意な改善がみられた。さらに, 血中ハロペリドール濃度には変化がみられなかったことより, 精神症状の改善がハロペリドールの血中濃度の変化によるものではないということが示唆された。また, 副作用はみられなかった。
著者
鈴木 達彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.609-615, 2008-07-20
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

『古今方彙』は甲賀通元により編纂され,江戸時代に最も広く流布した処方集である。著者は,『古今方彙』の各版本を検討し,以下の結果を得た。1.甲賀通元は,『刪補古今方彙』の底本となる『古今方彙』を書肆(書店,出版社)梅村から受け取り,それを編纂した。2.原『古今方彙』は1692年頃に書肆梅村が出版した。本書は縦型の版本で,調査中もっとも処方数が少なく,1263処方を収載している。3.1696年頃に梅村が,原『古今方彙』の増補版を出版した。本書は横型の版本で,本書には原『古今方彙』の処方がほぼ含まれていて,さらに273処方が増補されている。4.梅村の依頼により甲賀通元が,348処方を増補して,1733年に『刪補古今方彙』を出版,さらに,43処方を増補して,1747年に『重訂古今方彙』を出版した。『重訂古今方彙』は,1780,1808,1862年に重版された。
著者
宮崎 瑞明 頼 栄祥
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.813-818, 1997-03-20
被引用文献数
5

発作寛解期での防己黄耆湯証の痛風患者(全例男性, 12人)に対し, 食事療法と運動療法はこれまで通り継続して, 防己黄耆湯エキス5g/日, 木通エキス0.5g/日, 車前子エキス0.5g/日を投与し, その有効性を検討した。本方の12週間の投与により, 有意な体重の減少, 血中尿酸値および中性脂肪値の低減, さらにHDLコレステロールの増加を認めた。体重および血中尿酸値は24週間投与の時点でも再増加せず, 良好な状態であった。全例に副作用はなく, 痛風の発作もみていない。また本方の連用により易疲労感, 多汗, 小便不利, 浮腫などの症状が改善した。