著者
島袋 隆
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.435-438, 1994-10-20

瞑眩は「慢性症のとき,漢方薬を飲んで予期しない反応が起き,その後急速に症状が改善すること」であるといわれ,日常の漢方診療中に時に遭遇することがある。一番の問題はそれが,誤治なのか瞑眩なのかの判断をどうするかである。今回,両手足の進行性指掌角皮症の患者の治療中に瞑眩と考えられる症状を経験した。その経過を観察してみると,瞑眩と考えられた顔面のニキビ様発疹の出現と共に,主症状である角質化に幾分かの改善傾向がみられた。そして,温経湯の証であることを再確認して同湯を継続したところ,約1ヵ月後には主症状の角質化も瞑眩と考えた顔面の発疹も消失し,ついで長年の顔面の肝斑も消失した。以上の経過から,漠方薬内服中に予期せぬ反応が起こったとき,それが瞑眩であるかどうかの判断として,証が正しいかどうかの判断は勿論のことであるが,さらに主症状の改善があるかどうかも瞑眩が起こっている時に瞑眩であるかどうかの判断材料になることがあるのではないかと考えられた。
著者
橋本 喜夫
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.819-826, 1997-03-20
被引用文献数
2

尋常性乾癬は, 慢性増殖性炎症性皮膚疾患で, きわめて難治であり, 漢方による治療の試みも多いが, この疾患の証の分布, [オ]血を示す頻度などは不明である。田中の虚実判定用実証スコアと, 寺沢の[オ]血診断基準を参考にした前田の[オ]血チェックリストを用いて, 乾癬患者72例を診察した。虚証(0-8点)が31名(43%), 中間証(9-12点)が36名(50%), 実証(13-18点)が5名(7%)と, 実証の頻度が高いという結果は得られず, むしろ健常人の分布に近いと考えられた。[オ]血スコアでは高度の[オ]血(40点以上)が30名(41.7%), 中程度の[オ]血(21-39点)が30名(41.7%)と, スコア上では高率に[オ]血の病態を示した。スペアマンの順位相関では, [オ]血スコアと治療スコア(過去に多種類の乾癬治療を受けた度合)が有意な正の相関を示した。
著者
池田 清彦 嶋田 豊
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.173-184, 2006-03-20

広く信じられていることと異なり,科学は真理を追求する営為ではなく,何らかの同一性により,現象を説明する営為である。この立場から,現在の遺伝子還元主義的な生物学を批判し,システムを重視する対抗理論について論じた。
著者
岩淵 慎助
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.883-890, 2000-03-20
被引用文献数
1 3

成熟期婦人(平均年齢41.3±7.2歳)の機能性子宮出血に, 初診日より子宮内膜組織検査診断までの7日間投与した〓帰膠艾湯エキス群93例と西洋薬止血剤トランサミン+オフタルムK群90例の止血までに要する日数を比較検討した。総体的な止血日数は〓帰膠艾湯では平均4.29±1.54日, トランサミン他では5.54±2.13日で, 〓帰膠艾湯はトランサミン他より有意(P<0.01 t・χ^2検定)に早く止血する。有効率はそれぞれ94.6%と72.2%であった。虚実証の観点から見ると, 虚証, 虚実間証では有意であるが, 実証では有意でなかった。子宮内膜組織像の観点から見ると, 増殖期, 単純型増殖症では有意であるが, 静止期萎縮期と増殖期分泌期混在, 分泌期では有意でなかった。止血の作用機序は不明であるが, 機能性子宮出血の止血には, 〓帰膠艾湯は, 虚実の証や月経周期にこだわることなく使用できる有用な薬方であると思う。なお副作用例や〓帰膠艾湯無効例のその後の対処についても言及した。
著者
服部 紀代子
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.141-146, 1994-07-20
被引用文献数
1 2

現在まで嗅覚脱失症に関する治験報告は極めて稀で殆んど見られない。私は嗅覚脱失を主訴として来院した症例に随証的に香蘇散を使用し有効であった2症例を経験したので以下に述べる。症例1 : 42歳 女性 風邪から発症した鼻炎が治癒した後に嗅覚脱失が生じなかなか治らず耳鼻科医より難治と診断され4カ月治療したが無効のため, 漢方を求めて来院。症例2 : 75歳 男性 2〜3年前から嗅覚の低下しているのを自覚していた。ある日こぼした香水が匂わないことが契機で自分が無嗅覚になっていると分りショックを受けて来院。以上2症例に香蘇散1日7.5g (分3食前)を投与し極めて良好な結果が得られ, 漢方治療の基本である随証治療の大切さを再認識したので考察を加えて報告する。
著者
御影 雅幸 遠藤 寛子
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.25-34, 2008-01-20

日本薬局方では釣藤鉤としてUncaria rhynchophylla (Miq.) Miq.,U. sinensis (Oliv.) Havil.,U. macrophylla Wall.のとげが規定されているが,中国の局方ではこれら3種以外にU. hirsuta Havil.とU. sessilifructus Roxb.を加えた5種の鉤をつけた茎枝が規定されている。本草考証の結果,当初の原植物はUncaria rhynchophyllaであり,薬用部位は明代前半までは藤皮で,その後現在のような鉤つきの茎枝に変化したことを明らかにした。一方,日本では暖地に自生しているカギカズラの主として鉤が薬用に採集されてきた。このことは明代に李時珍が「鉤の薬効が鋭い」と記したことに影響を受けたものと考察した。釣藤散など明代前半以前に考案された処方には藤皮由来の釣藤鉤を使用するのが望ましい。
著者
中川 定明
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.625-631, 1995-01-20
被引用文献数
1

College of American Pathologistが編集した顕微鏡的病変のコード表Systematized nomenclature of medicine (SNOMED)には約4万種の形態学的病変名がコード番号で分類されている。それはウイルヒョウが細胞病理学説に従って「物質代謝障害」「循環障害」「炎症」「再生・修復」「腫瘍」「奇形」の範疇に大分類したもので,すべての疾患が示す病変を分類・鑑別するためのものである。疾患名は同義語をふくめておそらく万単位にのぼる。一方,中国伝統医学には永い伝統があるので多数の疾患名があるが,西洋医学のそれに較べれば比較にならないほど少ない。中医学では疾患を八綱弁証,気血津液弁証,臓腑弁証,六経弁証,衛気営血弁証,病邪弁証,外感熱病気弁証の7つの弁証で判別したせいぜい百余の『証』としての機能異常群にまとめている。『証』は疾患の類別ではなく複数の症候の全人的な類別である。東西医学にはこういう相違があるが,「症状」と「病変」には東西に変わりはない筈であるから,疾患を病理解剖学的に追求する西洋医学と全人的・機能的に追求する東洋医学の両者に共通するものは「症状」であり「病変」である。この視点に立って,全身に分布する「病変」および「機能性疾患」から病気を眺めて比較・対照をすることを企図して,その可能性の根拠を述べた。
著者
塩谷 雄二 嶋田 豊 松田 治巳 高橋 宏三 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.823-831, 1995-04-20
被引用文献数
2 1

駆〓血生薬であるサフランの薬理学的作用を明らかにする目的で,まず投与前に性成熟期の12人の健常女性の月経期,卵胞期,黄体期で11-dehydro TXB_2,血小板凝集能, 血液粘度, 血液生化学の検査を行った。月経期では卵胞期または黄体期に比べ,血液粘度,血小板凝集能, 11-dehydro TXB_2の上昇と平均赤血球容積(MCV)の増加を認めた。このことから血液粘度を上昇させる要因としてMCVの増加による赤血球変形能の低下が考えられた。月経期では子宮内膜のPGE_2が最高値を示すことから,MCVの増加にPGE_2が関与していることが推測された。次いで6例の対照群には白湯を投与し(約4週間),他の6例にはサフラン振り出し液を投与し(約4週間), これらの指標の変化を比較検討した。サフランは月経期においてMCVと血液粘度を明らかに低下させたことから,血液粘度の低下の要因にはMCVの減少による赤血球変形能の改善が関与しているものと考えられた。また血中エストロゲンが低値の卵胞期において11-dehydro TXB_2を低下させた。〓血病態においては全血粘度が上昇していること,血小板のトロンボキサン合成が冗進していることが報告されているが,サフランはこれらの指標に対し明らかな作用を持つことから,駆〓血作用を有することが健常の性成熟女性-C示された。
著者
長谷川 弥人
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, 1995-09-20
著者
三谷 和男
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.273-286, 2003-03-20

昭和51年(1976年),漢方製剤に全面的に保険が適用され,多くの先生方の使用が可能になって既に四半世紀の歳月が流れています。この間,「漢方薬は副作用がない」といったある意味での神話と「西洋医学では対応できないさまざまな病態にも有効」といった宣伝を背景に,飛躍的にその使用量が増えた時期もありました。確かに,漢方が多くの患者さんの福音となったことは事実でしょう。しかし,西洋医学でしっかり仕事をしておられる先生方に,本当に漢方が受け入れられたのかどうかを考えてみると,疑問符をつけざるを得ません。その原因の一つとして,臨床医にとって漢方方剤を簡便に扱えることがまず必要という発想の下,複合体である漢方薬があたかも単一成分の薬方のように扱われ,漢方薬を処方する医師にとってその中身(構成生薬)への関心が薄れてしまっていることがあげられると思います。確かに西洋医学的な発想で漢方薬を使うとすると,番号のついたエキス剤は便利ですね。麻子仁丸(126番)を例にとってみます。残念ながら単に便通をつけるお薬としてしか扱われていないようですが,麻子仁丸を小承気湯(枳実,厚朴,大黄)の加減法であることを意識し,潤腸湯(51番)や大承気湯(133番)さらには通導散(105番)との使い分けを追求してこそ,かつては難治とされた陽明病治療の場で活躍した承気湯類の真骨頂がつかめるのではないかと思います。その中で,傷寒論を大切にすることがその法則性を学ぶことにあることがよく理解されると思います。また,かつての東洋医学会では,薬方の有効性とともに,もっと生薬の産地にこだわった論議があったと思います。「先生の使われた大黄は,どこの産地ですか?」「その柴胡は北柴胡ですか,三島柴胡ですか?」こういった論議ばかりではいけないかもしれませんが,例えエキス剤であっても自分の使う漢方薬の中身に全く関心が払われない姿勢には問題があると思います。EBMが問われる時代です。単一の化学構造式では表せない漢方薬で治療をすすめる臨床家としては,できる限り品質の良い生薬にこだわってこそ,その臨床の成果を語れるのではないでしょうか。本学会のメインテーマは「大自然の恵みを両手に」です。今回,漢方臨床の現場,代表的な生薬の栽培・収穫に関わる農家の方々のご努力の実際をお話させていただく中で,生薬一味一味を意識した漢方治療を今後臨床の場に活かしていただきたいと願っております。
著者
加藤 麦 福田 文彦 石崎 直人 矢野 忠 山村 義治
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.439-449, 1999-11-20
被引用文献数
3

OLETFラットに対してグルコースクランプ中に刺激を与え,鍼通電刺激がインスリン感受性に及ぼす効果を検討した。OLETFラットを,耳介迷走神経鍼刺激群(AVA),耳介非迷走神経鍼刺激群(ANVA),背部鍼刺激群(AB),背部ピンチ刺激群(PB),無刺激群(NS)に分け,正常対照としてLETOラットも同様に5群に分けた。更に,インスリン抵抗性に対する予防効果を検討するため,OLETFラットに長期間の鍼通電刺激を行った。鍼通電刺激はパルス幅300ms,1.5V,1Hzで10分間又は15分間行った。結果はOLETFラットでは,PB群で基礎値に対して刺激後に有意に減少した。LETOラットではPB群の刺激後に基礎値,刺激中の値に対して有意な増加がみられた。長期間刺激したAVA群及びAB群のGIRは,NS群に比べ有意に増加していた。以上の結果より,耳介部及び背部の鍼通電刺激はインスリン抵抗性の予防に有効であることが示唆された。